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マーベルズ

キャプテン・マーベル、ミズ・マーベル、モニカ・ランボーの三人のヒーローが瞬間移動で「入れ替わる」現象に巻き込まれ、ハラの復讐に燃えるクリーの新指導者ダー=ベンと対峙する、フェーズ5中盤のチーム結成譚にしてキャロル・ダンヴァース2作目の長編。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2023年11月10日 日本公開: 2023年11月10日 監督: ニア・ダコスタ
マーベルズ 公式ポスター

作品データ

作品
マーベルズ
原題
The Marvels
媒体
映画(実写)
米国公開
2023年11月10日
日本公開
2023年11月10日
監督
ニア・ダコスタ
脚本
ニア・ダコスタ/メーガン・マクドネル/エリッサ・カラセック
原作
マーベル・コミック(キャロル・ダンヴァース/モニカ・ランボー/カマラ・カーン)
製作
ケヴィン・ファイギ
音楽
ローラ・カープマン
撮影
ショーン・ボビット
編集
キャトリン・ヘドストレム/エヴァン・シフ
視覚効果
Industrial Light & Magic/Framestore/Rise/Digital Domain/Trixter/Cantina Creative ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
105分(MCU長編中もっとも短い)
製作費
約2億2000万〜2億7480万ドル
興行収入
全世界 約2億0640万ドル(MCU長編で歴代最低水準)
MCU区分
フェーズ5 第7作/マルチバース・サーガ。『キャプテン・マーベル』(2019)の正統な続編で、ディズニープラスのシリーズ『ワンダヴィジョン』(2021)・『ミズ・マーベル』(2022)・『シークレット・インベージョン』(2023)の続きを直接受ける
物語内時系列
『シークレット・インベージョン』直後の現代パート。冒頭の宇宙シーンはハラの「太陽が冷えた」直後。エンディングのモニカ覚醒は別ユニバース
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全34章 / 約15K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

マーベルズは、2023年に公開されたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の長編映画である。キャプテン・マーベル、ミズ・マーベル、モニカ・ランボーの三人のヒーローが瞬間移動で「入れ替わる」現象に巻き込まれ、ハラの復讐に燃えるクリーの新指導者ダー=ベンと対峙する。フェーズ5中盤に位置づけられるチーム結成譚であり、キャロル・ダンヴァースを主役とする2作目の長編にあたる。

00概要

『マーベルズ』(The Marvels)は、ニア・ダコスタが監督を務め、ダコスタとメーガン・マクドネル、エリッサ・カラセックが脚本を手がけた2023年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画である。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)通算33作目であり、フェーズ5の第7作にあたる。2019年の『キャプテン・マーベル』の直接の続編であると同時に、ディズニープラスで配信されたドラマ『ワンダヴィジョン』(2021)と『ミズ・マーベル』(2022)の主人公が、初めて長編映画に合流する一作でもある。米国・日本ともに2023年11月10日に劇場公開された。

物語の中心に立つのは三人の女性ヒーローだ。軌道上で単独行動を続け、消息を絶っていたキャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベル(ブリー・ラーソン)。SABERステーションで地球外脅威の監視にあたるモニカ・ランボー(テヨナ・パリス)。そしてジャージーシティの高校生で、腕に量子バンドを巻いたミズ・マーベルことカマラ・カーン(イマン・ヴェラーニ)。三人がそれぞれの場所で「光に近い波長のエネルギー」を行使した瞬間、空間がねじれ、互いの居場所が物理的に入れ替わってしまう。この現象(エンタングルメント)こそが物語の入口となる。

敵役は、クリー帝国の新たな指導者ダー=ベン(ザウィ・アシュトン)である。『キャプテン・マーベル』の終盤でキャロルがスプリーム・インテリジェンスを倒した結果、母星ハラは内戦に陥り、本作の現在では太陽そのものが死に向かっていた。ダー=ベンは、「アニヒレーター(殲滅者)」と呼ぶキャロルへの復讐と、ハラ復興を目指す。そのために、もう片方が失われている古代の遺物・量子バンドの片割れを手に入れ、他の星から資源や水、空気、さらには恒星そのものまでを略奪し続けている。

本作は、ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)が率いる地球軌道防衛拠点SABER、歌で意思を伝え合う惑星アラドナの文化圏、フラーケン猫グースの大量繁殖、そして三人それぞれの家族——ジョセフとムニーバ、ユスフ・カーン、マリアの娘モニカ、そしてキャロル自身が背負ってきた孤独——を、105分という短尺に凝縮した密度の高い長編である。本記事は、結末でモニカ・ランボーが別ユニバースへ取り残される展開、ミッドクレジットで姿を見せるビースト/ハンク・マッコイとビナリー化したマリア・ランボー、ポストクレジットでカマラがケイト・ビショップ/ホークアイを勧誘する場面まで、すべてのネタバレを前提に整理して記す。

概要

主要データ

原題
The Marvels
監督
ニア・ダコスタ
脚本
ニア・ダコスタ/メーガン・マクドネル/エリッサ・カラセック
原作
マーベル・コミック(キャロル・ダンヴァース/モニカ・ランボー/カマラ・カーン)
音楽
ローラ・カープマン
撮影
ショーン・ボビット
米国公開
2023年11月10日
上映時間
105分
ジャンル
スーパーヒーロー、SF、宇宙活劇、コメディ

01あらすじ

以下は、結末と二つのポスト・クレジット・シーンを含む全編のあらすじである。三人の女性ヒーローが「入れ替わり現象」をきっかけに初めて出会う。孤独に飛び続けてきたキャロル・ダンヴァースが「家族」を取り戻していく一方、その代償としてモニカ・ランボーは別ユニバースに閉じ込められてしまう。二つの物語が並行して進んでいく構成だ。

あらすじ

ハラの太陽とダー=ベン

映画は、ハラの暗い空から幕を開ける。クリー帝国の首都星ハラは、本作の現在時点で深刻な環境危機に瀕している。空は煤色に濁り、海は枯れかけ、なにより太陽そのものが冷え始めているのだ。発端は、『キャプテン・マーベル』のラストでキャロル・ダンヴァースが最高知性体「スプリーム・インテリジェンス」を打ち倒した一件にある。導きを失ったクリーは三十年以上にわたる内戦へと突き進み、その果てに恒星制御の技術と社会基盤を同時に失った。

ハラの民は、キャロルを「アニヒレーター(殲滅者)」という古い呼び名で語り継ぐ。救済者などではない。太陽と国土を滅ぼした災厄として記憶されているのだ。クリーの司令官ダー=ベンは、この呼び名を受け継ぐ若き指導者である。祖国の崩壊の責めをすべてキャロル個人へと突きつけ、その怒りを決して収めようとしない人物として描かれる。

ダー=ベンが追い求めるのは、古代の遺物「量子バンド(Quantum Band)」と呼ばれる金属の腕輪だ。一対で機能するこの腕輪は、宇宙の二点を強引に結ぶ「ジャンプ・ポイント」を開き、エネルギーや水、空気、さらには恒星そのものまでも別の場所へ移送してしまう。片方のバンドは、辺境惑星に眠る古代神殿に封じられており、ダー=ベンが本作冒頭で武力をもって奪い去る。だが、もう片方の在り処は彼女にも分からない。

ハラの太陽とダー=ベン

カマラのバンドと入れ替わり

舞台は変わり、米国ニュージャージー州ジャージーシティ。ドラマ『ミズ・マーベル』の終盤で、大叔母の遺品から手渡された古い腕輪——量子バンドのもう片方——を腕に巻いたまま、高校生カマラ・カーンは自室でキャプテン・マーベルのファンアートを描き、二次創作の小説に没頭している。ヒーロー名は『ミズ・マーベル』。とはいえ活動はジャージーシティの路地裏の小競り合い止まりで、世界規模の事件にはまだ手が届かない。父ユスフ、母ムニーバ、兄アーミルを囲む賑やかな食卓が描かれ、彼女がどこにでもいる十代であることが強調される。

同じ夜、ハラから遠く離れた辺境惑星マ・ラデル。ダー=ベンが量子バンドの片方を起動して「ジャンプ・ポイント」を作り、惑星の大気と空気を一気に奪い取る。爆発的なエネルギーの揺り返しは、銀河の彼方にいるキャロル、地球軌道上のSABERで観測中のモニカ、そして地球で偶然バンドを起動したカマラ——三人に同時に伝わる。

その瞬間、三人は物理的に位置を入れ替えてしまう。キャロルはカマラの自宅の食卓に転送されて家族と鉢合わせし、カマラはSABERの観測室へ、モニカはマ・ラデルの真空の宇宙空間へと放り出される。三人が「光に近い波長のエネルギー」——フォトン・ブラスト、量子バンドの作るジャンプ、モニカが吸収して放出するエネルギー——を行使するたびに入れ替わりが起きる。これが本作の中心ギミックだ。このもつれ(エンタングル)を解かないかぎり、戦闘も日常もまともに成立しない。

やがて三人は、ニック・フューリーが指揮する軌道防衛拠点SABER(Sentient Anchoring Bio-Electric Resource)に集合する。フューリーは『シークレット・インベージョン』を経て本格的に地球を離れ、惑星規模の脅威監視と多種族難民の保護を、この軌道ステーションから取り仕切っている。彼の差配のもと、三人は短い時間で互いの能力と立場を把握し、入れ替わり現象を逆に利用して連携する訓練を始める。三角形に並んだ三人が瞬発的にポジションを取り替えながら一人の敵を仕留める格闘シーンは、本作で最も印象に残るアクション設計となった。

カマラのバンドと入れ替わり

惑星アラドナと夫プリンス・ヤン

ダー=ベンが次に狙うのは、惑星アラドナである。住民が日常の意思疎通を「歌」で行う、極めて様式化された文化を持つ星で、空も建築も赤と金に彩られている。キャロルはかつてアラドナの平和維持任務を引き受けた経緯から、王族の一人であるプリンス・ヤン(パク・ソジュン)と政略上「結婚」した間柄にある。とはいえ本人は事務的に取り決めを交わしたつもりで、家族としての生活を共にしているわけではない。

三人がアラドナに降り立つと、住民は歌い踊って王女キャロルを迎える。だがダー=ベンに先回りされ、彼女はアラドナの海を量子バンドのジャンプ・ポイントごと根こそぎ奪い、ハラへと転送してしまう。アラドナは一夜にして枯れ果てた星と化す。

ダー=ベンを足止めするためにキャロルが選んだのは、王族としてアラドナの儀礼に従い、ヤンと「正式な」結婚式をその場で挙げて全住民を動員する、という手だった。アラドナでは儀式そのものが歌で進む。三人のヒーローが歌に乗せて住民の戦力をまとめ上げ、量子バンドを起動したダー=ベンとその部下たちを押し返していく。MCU長編ではほとんど例のないミュージカル風の一場面だ。アクションと様式化された歌唱の融合は観客の好みを大きく分けたが、本作の作家性を象徴する場面となった。

惑星アラドナと夫プリンス・ヤン

フラーケンの大量発生とSABER

ダー=ベンが次に狙うのは、SABER本体である。地球の太陽と大気を直接奪うべく、彼女はSABERのジャンプ・ゲートの乗っ取りを企てる。先遣隊の襲撃を受けたSABERはステーションに深刻な損傷を負い、生存者たちは脱出ポッドへの乗り換えを余儀なくされる。だが、ポッドの数は限られ、人員は多すぎた。

そして、本作で最も観客の話題をさらった場面が訪れる。SABERには猫のグースがいる。『キャプテン・マーベル』でフューリーが拾い、口の中の次元ポケットにテッセラクトを呑み込んでみせた、あのフラーケンだ。本作の時点で既に大量の卵を産んでおり、ステーションには無数の「子グース」が住み着いていた。フューリーは彼らを総動員し、避難する人間を一人ずつ口の中の次元ポケットに飲み込ませて運ばせる。

猫が人間を「口で飲んでは吐き戻す」というコミカルな光景は、廊下と通路を流れるように追うロングテイクで処理される。そこへローラ・カープマンの音楽——劇中曲『Memory』をミーム的に組み直したアレンジ——が重なり、緊張とコメディが同居する見せ場が完成する。グースたちが一斉に脱出ポッドへ吐き戻すラストの動きは、本作公開後にSNSで最も拡散された一場面である。

フラーケンの大量発生とSABER

ダー=ベンの最後の一手

ダー=ベンの真の狙いは、量子バンドの片方しか手にしていないという自らの不利を逆手に取ることにあった。もう片方——カマラの腕に巻かれたバンド——を奪い返すのではなく、手元のバンドだけで強引にジャンプ・ポイントをこじ開け、それを「壊れた」状態のまま開きっぱなしにする。片側だけのバンドで無理やり作り出したジャンプ・ポイントは、本来あるべき安定した構造を持たず、空間そのものに穴を空けてしまう。彼女はその穴を、地球の太陽の中心とハラとを直接つなぐ位置に開き、太陽の核ごとハラへ吸い出そうと企てていた。

三人のヒーローは地球軌道上の太陽近傍へと向かい、ダー=ベンの装置と正面から対峙する。ダー=ベンが片方のバンドを起動すると、地球の太陽の中心に「穴」が空きはじめる。空にはハラへと伸びる金色の柱が立ちのぼり、地球側の太陽の輝きは見る間に衰えていく。

戦闘も終盤、キャロルはダー=ベンと一対一で激突し、自らのバンドを使って相手のバンドを破壊しようとする。だがダー=ベンは破壊を拒み、バンドをさらにもう一段階、過負荷で作動させようとする。その瞬間、バンドは暴走し、彼女自身を含む地球の太陽近傍に空間そのものの裂け目を生んだ。ダー=ベンは爆発に呑まれて死亡する——MCUのヴィランとしては、比較的早い幕切れである。

ダー=ベンの最後の一手

モニカの犠牲と向こう側

問題は、ダー=ベンが死んだあとも空間の裂け目が残ったままだったことだ。放置すれば地球側のユニバースへ別ユニバースの物質が流れ込み、いわゆるインカージョン(並行宇宙同士の衝突)の起点になりかねない。インカージョンは『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でも示された通り、両側のユニバースを物質ごと衝突させる、マルチバース・サーガ最悪の事象として描かれてきた。

裂け目を閉じる方法はひとつ。エネルギーを吸収して放出する力を持つモニカ・ランボーが、内側からその波長を逆位相で打ち消すことだ。モニカは三人のうち「自分の側ではなく、もう一方の側に行かなければならない」と告げ、別ユニバースへ自ら飛び込んでいく。

キャロルとカマラの目の前で、モニカは裂け目の向こう側へ消える。残された二人は地球側の安全を取り戻し、太陽の核の流出を食い止める。だが、モニカは戻ってこない。別のユニバースに閉じ込められたまま、本作の現在には帰還しないのだ。マルチバース・サーガの中盤で訪れる、もっとも重く、そしてもっとも淡々と処理された別れの場面である。

モニカの犠牲と向こう側

残された二人と新しい誓い

事件のあと、キャロルはアラドナを失った住民のもとへ戻り、王女としての責任を引き受けて復興に手を貸す。『キャプテン・マーベル』のラストでは、ただ一人宇宙を飛び続ける道を選んだ彼女だが、本作の終盤で、孤独ではなく仲間や家族とともに生きる道へと初めて踏み出していく。マリア・ランボーをすでに亡くし、いままたモニカも去った今、自分のまわりに人を増やすこと、それ自体がキャロルにとって重い決断なのだ。

カマラはジャージーシティの家族のもとへ帰る。だが彼女のなかでは、「一人のヒーロー」という段階はもう終わっている。家を出ていく彼女の表情には、自分と同じ世代のヒーローたちを束ねる立場へ進もうとする決意がにじむ。キャロルから「家族」と呼ばれたあの瞬間以来、カマラにとって『キャプテン・マーベル』の続きは、個人の物語からチームの物語へと変わっていた。

本編を締めくくる最後のカットは、暗い宇宙のなかで太陽光に照らされ、並んで立つキャロルとカマラの姿である。三人で始まった物語が二人で終わるこの構図は、本作が抱えた喪失をはっきりと映し出す。だがそれは同時に、このあとカマラが若い世代のヒーローたちを集めて回る次なる物語の、入口でもあった。

ここまでが本編のあらすじである。続いて二つのポスト・クレジット・シーンと、登場要素、人物、制作、興行、批評、テーマ、見る順番、FAQの順で章を続ける。

ポスト・クレジット・シーン

本作には、エンドロール中に流れる「ミッドクレジット」と、本編後に置かれた短い「ポストクレジット」、二つの追加シーンがある。意味の重さは前者にあり、後者は次の物語への軽い予告だ。

ミッドクレジットでは、モニカ・ランボーが「向こう側」のユニバースにある白い病室で目を覚ます。窓のないクリーン・ルームで、包帯を巻かれたまま身を起こす。すると視界の端から声が聞こえてくる——「あなたが目を覚ましてくれてよかった、モニカ」。声の主は、本作の世界とは別のユニバースを生きるマリア・ランボー本人だ。このマリアは死んでおらず、しかも空軍時代の友人「キャロル」ではなく、宇宙のヒーロー「ビナリー」として活動する側の人物として描かれる。母を亡くしたはずのモニカが、別ユニバースで生き続ける母と再会する——本作でもっとも切れ味の鋭い一カットである。

そして部屋の奥から、青く長い体毛をまとい眼鏡をかけた人物が顔を出す。「あなたは別の現実から来たのね。とても興味深いわ」と語るのは、ハンク・マッコイ博士/ビースト。20世紀フォックスの旧『X-MEN』映画シリーズで同役を演じたケルシー・グラマーが、ほぼ二十年ぶりに当時のままの姿で復帰した。MCUがフォックス時代のミュータント映画と地続きである可能性を、初めて長編本編で示した瞬間だ。続く『デッドプール&ウルヴァリン』(2024)へと向かうマルチバース統合の予告でもあった。

本編後のポストクレジットでは、カマラ・カーンがケイト・ビショップ(ヘイリー・スタインフェルド/ドラマ『ホークアイ』の主人公)の自宅に押しかける。カマラは『アベンジャーズ・イニシアチブ』ではなく、自分と同世代のヤング・ヒーローを集める計画をひとりで勝手に立ち上げており、ケイトに「あなたを最初の一人に勧誘しに来た」と一方的に告げる。ファンが長く待ち望んできた「ヤング・アベンジャーズ」構想の地ならしであり、フェーズ5以降の若い世代の物語への扉だ。

ポスト・クレジット・シーン

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。『キャプテン・マーベル』『ミズ・マーベル』『ワンダヴィジョン』の三作にまたがるため、固有名詞はおのずと多くなる。

  • キャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベル
  • モニカ・ランボー
  • カマラ・カーン/ミズ・マーベル
  • ニック・フューリー
  • プリンス・ヤン(アラドナの王子)
  • ユスフ・カーン(カマラの父)
  • ムニーバ・カーン(カマラの母)
  • アーミル・カーン(カマラの兄)
  • ブライアン・「ブライ」・カーン(アーミルの婚約者)
  • グース(フラーケン)と無数の子グース

  • ダー=ベン(クリーの新指導者・アニヒレーターの継承者)
  • クリーの先遣部隊
  • 崩壊しつつあるクリー帝国
  • 暴走した量子バンドの片割れ

  • 別ユニバースのマリア・ランボー/ビナリー
  • ハンク・マッコイ博士/ビースト(別ユニバース)
  • ケイト・ビショップ/ホークアイ(ポストクレジット)
  • SABERの管制官・乗組員
  • アラドナの住民

  • クリー帝国(崩壊期)
  • SABER(地球軌道防衛拠点)
  • S.W.O.R.D.(旧式・モニカの所属歴)
  • アラドナ王室
  • カーン家
  • カマラの構想する新世代ヒーロー集団(ヤング・アベンジャーズ)

  • ハラ(クリー首都星)
  • 辺境惑星マ・ラデル
  • 惑星アラドナ
  • 地球(ジャージーシティのカーン家)
  • SABERステーション(地球軌道上)
  • 破壊された太陽近傍空間
  • 別ユニバースの病室(ミッドクレジット)

  • 量子バンド(一対の古代遺物)
  • ジャンプ・ポイント(強行起動の不安定型)
  • フォトン・ブラスト
  • モニカの光エネルギー吸収・放出
  • カマラの『ヌア』結晶を起点とする硬光形成
  • SABERのジャンプ・ゲート
  • フラーケンの次元ポケット

  • 三者のエンタングルメント(位置入れ替わり)
  • 光に近い波長のエネルギー
  • ハラ滅亡の連鎖(スプリーム・インテリジェンス喪失の余波)
  • インカージョン(並行宇宙の衝突)
  • マルチバース
  • ヤング・ヒーロー世代の浮上

  • 別ユニバースのマリア・ランボー
  • ビースト(フォックス版『X-MEN』からの直接継承)
  • カマラのケイト・ビショップ勧誘
  • 次世代チームの予告

11主要登場人物

本作は3人の主演を軸に、SABERのフューリー、アラドナのヤン、カーン家、そしてダー=ベンを配した、比較的小さな人物表で物語を動かしていく。105分という短い尺にこの規模の登場人物を割り振り、入れ替わりの趣向、家族劇、ミュージカル、そして宇宙活劇を同時に成立させようとした。その構成上の挑戦こそが、本作の評価を二分する要因となった。

キャロル・ダンヴァース/キャプテン・マ…

前作から二十数年を経た本作のキャロルは、ほとんど誰ともまとまった会話を交わさぬまま、宇宙を飛び続けてきた人物として姿を現す。アラドナの王女という立場すら、もう一つの逃げ場として処理し、家族の生活には加わらない。マリア・ランボーの死という現実に向き合いきれず、その娘モニカと連絡を絶ってきた負い目も、その背景には横たわっている。

本作で彼女はカマラ・カーンと出会う。若いファンの素直な敬意に触れ、家族の食卓の温もりを知って、長く後回しにしてきた「人と暮らす」という選択肢へ、ようやく一歩を踏み出す。終盤、地球の太陽を救うために能力を限界まで使い切る場面は、力の見せ場ではない。誰のためにその力を使うのか──それを確認する場面として演出されている。

ブリー・ラーソンは本作で、前作の固い表情から一段抜けた柔らかさをキャロルに加えた。家族と並ぶ場面でのぞかせる小さな戸惑い、そしてモニカの犠牲を黙って受け止める場面の静けさ。長く飛び続けてきた人物の現在地として、その芝居は確かな説得力を持つ。

キャロル・ダンヴァース/キャプテン・マ…

モニカ・ランボー

ドラマ『ワンダヴィジョン』のヘックス侵入によって能力を得た、元S.W.O.R.D.職員にして現SABER所属の宇宙工学者である。母マリアを病で亡くし、その葬儀にすら戻らなかったキャロルを、彼女は長く許せずにいた。本作の冒頭、SABERの観測室でキャロルの姿を認めた彼女が最初に漏らすのは、技術的な確認の言葉ではない。「叔母さん、ようやく来た」という抑えた一言だ。二人の距離は、会話が始まる前からすでに決まっている。

彼女の能力は、光や電磁波などあらゆる波長のエネルギーを吸収し、再び放出するというものだ。三人のなかで唯一、「キューブ状の物体」(量子バンド)にも「人間の身体」(キャロル本人)にも直接働きかけられる存在として描かれる。終盤、空間そのものに開いた裂け目を内側から閉じる役目を彼女が引き受けるのは、その能力の論理からすればごく自然な選択といえる。

別ユニバースに取り残されるラストは本作で最も重い決断でありながら、そこに説明的なセリフは置かれない。マリアに代わって自分が「向こう側」へ渡る——その選択を、彼女自身が引き受けた場面として淡々と処理していく。短い一場面を成立させたのは、テヨナ・パリスの抑制のきいた芝居である。

モニカ・ランボー

カマラ・カーン/ミズ・マーベル

ニュージャージー州ジャージーシティに暮らす高校生。パキスタンからの移民であるカーン家の末娘で、キャプテン・マーベルを熱愛するファンであり、彼女を主人公にした二次創作小説をひそかに書きためている。ドラマ『ミズ・マーベル』では、大叔母の遺品である腕輪——量子バンドのもう片方——を手首に巻いたことで能力に目覚めた。腕輪を起動すると、結晶のように硬質な光をまとって拳やパンチ、足場となる建造物を生み出せる。

本作のカマラは、家族との会話の温度をそのまま劇場のスケールへ持ち込んだ唯一の存在である。SABERへ転送されても、まずはフューリーをファンとして拝み倒し、キャロルを前にすれば握手の仕方に頭を悩ませ、自作の二次創作を打ち明けては顔を赤らめる。その素直な空気が、重く絡み合った人物関係をやわらげ、三人が入れ替わるギミックを「楽しい」と感じさせる装置として働いている。

ポストクレジットで彼女がケイト・ビショップを訪ねる場面は、ただのファンという立ち位置から、自分の世代のヒーローたちを束ねる存在へと一歩踏み出した瞬間でもある。イマン・ヴェラーニ自身が公言する筋金入りのMCUファンであること——それが、役柄と現実の境界をほとんど消し去る形で生きた。

カマラ・カーン/ミズ・マーベル

ダー=ベン

クリー帝国に新たに台頭した指導者で、本作の主敵。スプリーム・インテリジェンスを失って以来、内戦と環境崩壊にあえぐ母星ハラの再建だけを目的に動いている。その目的のためなら、ほかの星々の資源を奪うことも厭わない。だが彼女自身は、冷酷な悪というよりも、祖国を救うために我が身を含めすべてを差し出す覚悟を固めた指導者として描かれる。

彼女がキャロル個人を「アニヒレーター(滅ぼす者)」として敵視する理由は、神話的・宗教的な怒りに近い。クリーの民にとってキャロルは恵みではなく災厄であり、ダー=ベンはその怒りを一身に背負う役回りを引き受けている。同時に、量子バンドを片方しか持たない自らの劣勢も自覚している。追い詰められた末に選ぶのは、「壊れたままジャンプ・ポイントを開く」という自殺的な戦術だ。その姿は、彼女を単なる悪役ではなく、崩れゆく国家を背負った指導者として強く印象づける。

脚本上の弱点として、彼女の動機を物語の中で十分に描き切る時間がなかった点が批評で指摘された。105分という尺の制約、そして三人の主演の関係構築に比重が置かれたことの裏返しでもある。本作の興行的評価を分けた要因の一つともなった。

ダー=ベン

ニック・フューリーとプリンス・ヤン

フューリーは本作の時点で、地球を離れ、軌道防衛拠点SABERの指揮を執っている。ドラマ『シークレット・インベージョン』を経て地球側からの信頼を失いつつあった彼は、軌道上で再起を図る。フラーケン猫の群れをはじめ、さまざまな種族の難民や家族を抱える指揮官として描き直された点が、本作におけるフューリー像の核だ。その振る舞いは、もはや作戦指揮よりも、三人の主人公に「家族」の機能を与える側へと寄っている。

プリンス・ヤンは惑星アラドナの王族であり、キャロルとは政略上の「夫」にあたる。歌で意思を通わせる文化圏の住人らしく長い台詞は少ないが、最後までキャロルの選択を尊重し続ける、優しい立ち位置に置かれた。演じるパク・ソジュン(韓国の俳優。『梨泰院クラス』などで知られる)は、本作で英語圏ハリウッドへの本格進出を果たした。

ニック・フューリーとプリンス・ヤン

カーン家

父ユスフ、母ムニーバ、兄アーミルからなるパキスタン系移民の一家。ドラマ『ミズ・マーベル』で築いた「家族の食卓を中心に物語が回る」リズムを本作にもそのまま持ち込んでいる。カーン家の三人は、キャロルが初めて転送されてくる先であり、宇宙活劇のなかで唯一「日常の重力」として機能する存在だ。

彼らの存在は、本作の作劇上の発明でもある。MCU長編で、主人公の家族が宇宙艦上にまで同行し、ニック・フューリーと並んで作戦を支える側に回るのは異例だ。母ムニーバが家族との別れ際に何を言うのか、父ユスフがカマラに向けるまなざしがどれほど信頼に満ちているか——こうした細部が、本作の温度を決めている。

カーン家

舞台と用語

本作の舞台は、短い時間のうちに目まぐるしく切り替わる。煤色の空に覆われたハラ、辺境マ・ラデルの真空、地球側のジャージーシティの台所、地球軌道上のSABERステーション、赤と金に彩られたアラドナ、そして太陽近傍で起きる白い破裂——その一つひとつの場所が、それぞれ固有の感情を担うよう設計されている。とりわけアラドナの赤と、終盤の太陽近傍に広がる白によって、本作は冷たい青に偏りがちなMCUの色調から意識的に距離を置いている。

用語の面では、量子バンド、ジャンプ・ポイント、エンタングルメント、インカージョン、フラーケン、SABERの六つが要点となる。インカージョンとは、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で導入された並行宇宙どうしの衝突を指す概念で、本作に現れる裂け目はその予兆として位置づけられている。フラーケンは、前作『キャプテン・マーベル』で猫のグースの正体として登場した、体内に次元ポケットを持つ生物だ。本作ではそれが繁殖していた、というオチが、大きな笑いどころとして使われている。

舞台と用語

19制作

本稿では、企画の出発点からキャスティング、撮影、視覚効果、音楽、編集、そして再撮影を経て公開準備に至るまで、その主要な経緯を順を追って整理していく。

制作

企画と脚本

本作の企画は、2019年の『キャプテン・マーベル』公開直後から動き出していた。ドラマ『ワンダヴィジョン』と『ミズ・マーベル』で登場した二人のキャラクター——モニカ・ランボーとカマラ・カーン——を長編で本格的に交差させる。マーベル・スタジオはそんな構想を掲げていた。

脚本は当初、ドラマ『ワンダヴィジョン』にも参加したメーガン・マクドネルが手がけ、のちにニア・ダコスタ自身とエリッサ・カラセックが書き直しに加わった。三人のヒーローの能力を「光に近い波長のエネルギー」という一つの軸でまとめ、それを発動するたびに位置が入れ替わる——この中心となる仕掛けは、企画段階で先に固まっていたと伝えられる。物語の重みよりも、入れ替わりの仕掛けと三人の関係性が生むコメディを優先する。そうした設計こそが、評価を二分する要因にもなった。

監督ニア・ダコスタ

ニア・ダコスタは『Little Woods』(2018)、続いてジョーダン・ピール製作の『キャンディマン』(2021)で頭角を現した、新世代の作家である。MCU長編の監督に、ブラック女性として史上初めて起用された。その作家性は、人物の内面を静かに見つめるリズムと、土地や家族の歴史に根を張った視線にある。本作でも、カーン家の食卓やアラドナの儀式を捉える筆致に、その持ち味が色濃くにじむ。

だが、105分という極端に短い尺のなかで、複数のドラマから設定を引き継ぎ、量子バンドのギミック、宇宙活劇のスペクタクル、ミュージカルシーンまでを同時にさばく――。新進の監督にとって、それは過酷な仕事量だった。さらにマーベル・スタジオ側の再撮影介入や公開延期も重なり、完成形は監督ひとりの作家性というよりも、マーベル・スタジオ全体の現状を映し出すものとなった。

キャスティング

主演のブリー・ラーソンは『キャプテン・マーベル』から続投。テヨナ・パリスは『ワンダヴィジョン』で演じたモニカ・ランボーを、成人版として本作に正式に引き継いだ。イマン・ヴェラーニはドラマ『ミズ・マーベル』で長編デビュー級の話題を呼んだ新人で、本作が劇場映画デビューとなる。

ヴィランのダー=ベンには、舞台俳優としても評価の高いザウィ・アシュトンを起用。撮影当時、彼女は長年のパートナーであるトム・ヒドルストン(MCUのロキ役)との間に第一子を妊娠しており、衣装や振付の調整が現場で行われたと伝えられる。プリンス・ヤン役にパク・ソジュン、カマラの家族としてザネル・カーン、ニムラ・ブッチャ、サアガル・シェイクが続投した。さらにサミュエル・L・ジャクソン演じるフューリー、ケルシー・グラマーのビースト(ミッドクレジット)、ヘイリー・スタインフェルドのケイト・ビショップ(ポストクレジット)と、既存・新規のキャラクターも合流する。

撮影と再撮影

本撮影は2021年8月から2022年5月にかけて、主に英国のパインウッド・スタジオで行われた。撮影監督を務めたのは、『それでも夜は明ける』『ジュディ/虹の彼方に』のショーン・ボビット。宇宙活劇の派手な見せ場よりも、人物の表情やその場に流れる空気を丁寧にすくい取る撮り方で知られる。本作でもカーン家の食卓やSABERの内部に、MCU長編としては珍しいほどゆったりとした横移動のカメラを残した。

ポストプロダクションは、マーベル・スタジオ史上もっとも手の加えられた作品の一つとなった。三人が入れ替わるテンポの調整、アラドナのミュージカル場面の分量、ダー=ベンの動機の補強、ミッドクレジットの追加——こうした目的で複数回の再撮影が2023年に分散して行われたと伝えられる。完成版の上映時間が105分とMCU長編で歴代最短に落ち着いたのも、編集段階で大量のシーンを切り詰めた結果でもある。

視覚効果

本作の視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)をはじめ、Framestore、Rise、Digital Domain、Trixter、Cantina Creativeなど複数社が分担した。三人がリアルタイムに入れ替わる戦闘の合成、量子バンドのジャンプ・ポイントが切り取る空間断面、太陽近傍に走る裂け目、アラドナの色調設計、フラーケン猫の群れと次元ポケット。短尺ながら高負荷の視覚効果を数多く抱えた一作である。

VFX業界では、本作の制作後半に複数のスタジオが極端に短い納期での作業を強いられたと報じられ、マーベル・スタジオ近年のスケジュール管理問題が公然と議論される一因となった。完成した画面の品質は概ね保たれたものの、その裏で業界が置かれた労働環境は、後の本格的なストライキや組合化をめぐる議論にも影を落とした。

音楽と音響

音楽を手がけたのはローラ・カープマン。2021年の『ワンダヴィジョン』ではモニカ・ランボーが登場するエピソードのスコアを書いており、本作で長編映画デビューを飾った。MCUの単独長編で女性作曲家がただ一人メインスコアを担当するのは、前作『キャプテン・マーベル』のパイナー・トプラクに続いて二度目となる。

本作のスコアは、宇宙活劇のスケール感を前面に押し出すのではなく、場面ごとに音楽の色合いを切り替える機動的な書き方に特徴がある。三人の主演の関係を支えるのは室内楽風のテーマで、アラドナの場面ではミュージカル調のオーケストレーションが響き、フラーケンが暴れ出すシーンでは古典『Memory』をミーム的にアレンジしてみせる。サウンド・デザインでも、量子バンドの起動音とジャンプ・ポイントの開閉音が、本作の入れ替わりギミックを観客の耳に刻みつける役割を担っている。

編集と公開準備

編集はキャトリン・ヘドストレムとエヴァン・シフが共同で手がけた。完成版の105分は、当初の編集段階から大幅に切り詰められたものだと伝えられている。ダー=ベンの動機を描く場面の一部、アラドナの儀式を長尺で収めたカット、SABER内部の追加シーンなどが削られたという。いずれも公開後、脚本側の関係者から断片的に語られた内容である。

公開は当初2022年7月の予定だったが、たび重なる延期を経て、最終的に2023年11月10日に落ち着いた。折しも同じ秋にはハリウッドの全俳優組合によるストライキがあり、本作の主演はプロモーションのほとんどに姿を見せられなかった。これが興行成績にも響いた、というのが大方の見方である。

27公開と興行

本作は2023年11月10日に北米で公開された。製作費は約2億2000万〜2億7480万ドルとされ、マーケティング費を含めた損益分岐点は、本作単体で4億ドル前後と推計されている。

ところが北米の初週末興収は約4640万ドルにとどまった。MCU長編としては歴代最低のスタートである。海外を含めた全世界興収も最終的に約2億0640万ドルと振るわず、MCU長編で歴代最低の興行成績に終わった。製作費すら回収できなかったことから、ディズニープラスのドラマと長編を密接に結びつけるマーベル・スタジオ近年の戦略に対し、業界の内外で懐疑の声が広く語られる契機となった。

興行不振の要因としては、複数の事情が同時に指摘されている。第一に、前提となるドラマ『ワンダヴィジョン』『ミズ・マーベル』『シークレット・インベージョン』を観ていないと、登場人物の関係性に入り込みにくい構造。第二に、同年に立て続けに並んだMCU長編・ドラマの本数過多による観客の疲弊。第三に、SAG-AFTRA(米俳優組合)のストライキにより、主演陣がプロモーションに出られなかったこと。そして第四に、すでに観客の関心が縮小していたフェーズ5そのものへの評価である。受賞の面でも、批評家賞・観客賞ともに評価は限定的にとどまった。

28批評・評価・文化的影響

批評はおおむね二つの方向に割れた。一方には、三人の主演が織りなす化学反応、105分という引き締まったテンポ、アラドナのミュージカル・シーン、グース猫たちの大暴れなどを挙げ、「久々に楽しいMCU長編」と評価する声がある。他方には、ヴィランの動機の薄さ、極端に短い上映時間ゆえの説明不足、前提となるドラマを観ていない観客への配慮の欠如を突く声がある。両者がほぼ同じ重みで並んだ。

観客の反応を見ると、北米のCinemaScoreはB(同シリーズの中ではやや低め)にとどまったが、ロッテン・トマトの観客スコアは約80%台と健闘した。本作を最後に、マーベル・スタジオは「ディズニープラスのドラマと長編を厳密に連結させる戦略」を見直し、以後は『デッドプール&ウルヴァリン』(2024)以降の長編をドラマと半ば独立させて並べる方向へ舵を切った——業界ではそう分析されている。

本作のもう一つの遺産は、フォックス時代の『X-MEN』映画と地続きである可能性を、長編本編で初めて明示した点にある。ミッドクレジットでケルシー・グラマー演じるビーストがそのまま姿を現した瞬間は、続く『デッドプール&ウルヴァリン』へのマルチバース統合の地ならしとなり、MCUの今後の入り口を実質的に書き換えた。

舞台裏とトリビア

本作はMCU長編シリーズ歴代最短、105分の上映時間で公開された。当初、監督ニア・ダコスタの編集案ではより長い構成が想定されていたが、テスト試写の反応とスタジオ側の判断により、大幅に切り詰められている。

ミッドクレジット・シーンに登場するハンク・マッコイ/ビースト。これを演じるケルシー・グラマーは、20世紀フォックス時代の『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(2006)以来、実に17年ぶりに同役を再演した。出演交渉が動き出したのは撮影終盤のことで、現場関係者は固く口を閉ざしていたという。

ポスト・クレジットで、カマラ・カーンがケイト・ビショップ/ホークアイを誘う場面。これはヤング・アベンジャーズ構想の正式な予告と受け止められている。同構想は本作以前からたびたび噂されてきたが、長編本編で「カマラが自ら主導して仲間を集める」という具体的な姿を示したのは、ここが初めてだ。

アラドナのミュージカル・シーンは、当初もっと長く、全編に歌を伴うシークエンスとして企画されていた。だが物語のテンポを優先し、大幅に圧縮されている。劇中で歌われた言語は実在のものではなく、本作のために作られた歌唱用の音律体系である。

本作のヴィラン、ダー=ベンを演じたザウィ・アシュトンと、MCUのロキ役トム・ヒドルストンは実生活でのパートナーであり、撮影当時には第一子を授かっていた。MCUの内側では、「ロキの伴侶」と「ロキを生み出した会社の同期作品のヴィラン」が同じ家庭で同時に進行するという、何とも珍しい状況が生まれていたわけだ。

30テーマと解釈

本作が描く核心は、「ひとりで飛び続けてきた者が、家族を受け入れる」という主題だ。『キャプテン・マーベル』の結末で、キャロルは銀河をただ孤独に飛び続ける道を選んだ。それは強さの証であると同時に、マリア・ランボーの死と向き合えずにいた逃避でもあった。本作はその逃避を正面から見据える。カマラの家族の食卓に腰を下ろし、モニカと言葉を交わし直していく――その過程を、宇宙活劇の合間に丁寧に描き込んでいくのだ。

もう一つの軸は、「自国を救うために他国を犠牲にする指導者」の姿である。ダー=ベンは単なる悪役ではない。太陽が冷えゆく祖国を立て直す責任を、たったひとりで背負った人物として描かれる。その動機は、現実の資源争奪や気候危機の比喩としても読み解ける。アニヒレーターと呼ばれる立場のキャロルが、ダー=ベンの怒りを正面から受け止めようとする場面は、本作でもっとも誠実な瞬間のひとつだ。

そして三つ目の軸が、「世代交代」である。カマラがケイト・ビショップを勧誘するポストクレジット。フェーズ1からの第一世代アベンジャーズが事実上解散したマルチバース・サーガ以降の世界で、次の世代のヒーローを誰が束ねるのか――その答えを、初めて具体的な人物に託した瞬間だ。モニカが別ユニバースへ渡ることで象徴される「家族の喪失」と、カマラの新世代結成が示す「家族の再構築」。結末で、この二つが見事に対をなしている。

テーマと解釈

視聴順ガイド

本作を存分に楽しむには、押さえておきたい前提作品が多い。まず『キャプテン・マーベル』(2019)でキャロルの来歴を、ディズニープラスのドラマ『ワンダヴィジョン』(2021)でモニカ・ランボーが能力を得る経緯を、続く『ミズ・マーベル』(2022)でカマラ・カーンと量子バンドの由来を、それぞれ把握しておきたい。さらにニック・フューリーの現在は『シークレット・インベージョン』(2023)の続きに位置しており、こちらも先に観ておくと物語の理解がぐっと深まる。

本作のその先は、ミッドクレジットに姿を見せるビーストの伏線が、『デッドプール&ウルヴァリン』(2024)でフォックス版『X-MEN』との直接の接続へと広がっていく。ポストクレジットで描かれるケイト・ビショップの勧誘は、次代を担う若きヒーローたちの集結篇へ向けた地ならしだ。マルチバース・サーガ全体における本作の位置づけを知りたいなら、フェーズ4・5の流れを整理したガイド記事も手がかりになるだろう。

視聴順ガイド

32よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という人は、ハラの太陽が次第に冷えていく状況、ダー=ベンが量子バンドを使って他星から資源を強奪している点、カマラがその片割れを腕に巻いている点、そして三人が能力を起動するたびに位置を入れ替えてしまう点を押さえておけば、全体の骨格は掴める。「結末・ネタバレを知りたい」という人にとっての要点はこうだ。ダー=ベンが自滅的に空間を引き裂き、モニカがその裂け目を内側から閉じるために別ユニバースへ取り残される。そしてミッドクレジットでは、別ユニバースのマリア・ランボーとビーストが姿を現す。

「評価を知りたい」という場合は、興行は明確な失敗、批評は割れる、観客評は健闘、という三層に分けて理解するとよい。「見る順番」については、前作と関連ドラマを先に見ておくことを強くおすすめする。「ポストクレジットの意味」は、ヤング・ヒーロー世代の集合と、フォックス『X-MEN』を含むマルチバース統合という、二方向への予告である。

33参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、キャスト、配信状況、外部評価は変動する場合があるため、視聴前に公式サイトおよび各データベースの最新の表示を確認してほしい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式:The Marvels
  2. IMDb: The Marvels (2023)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki: The Marvels
  4. Box Office Mojo: The Marvels
  5. Rotten Tomatoes: The Marvels