『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は、1999年に公開されたアメリカのSF映画である。ジェダイのクワイ=ガンとオビ=ワンが、奴隷の少年アナキン・スカイウォーカーと出会い、通商連合による惑星ナブーの封鎖の陰に潜む銀河規模の陰謀に立ち向かう姿を描く。『スター・ウォーズ』本編の物語に先立つ時代を扱うプリクエル三部作の第1作にあたる。
00概要
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(Star Wars: Episode I – The Phantom Menace)は、ジョージ・ルーカスが監督・脚本を手がけ、1999年5月19日に米国で公開されたスペースオペラ映画である。ルーカスが『新たなる希望』以来16年ぶりに自らメガホンを取った、プリクエル(前日譚)三部作の第1作にあたる。
物語の舞台は旧三部作のおよそ32年前。銀河共和国と元老院がなお健在で、ジェダイ・オーダーが平和の守護者として全盛を誇った時代だ。惑星ナブーの通商封鎖をめぐる事件を入口に、やがて銀河全土を覆う陰謀の端緒が描かれていく。そんななか、ジェダイのクワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービは、砂漠の惑星タトゥイーンで奴隷の少年アナキン・スカイウォーカー——後のダース・ベイダー——と出会う。
公開は社会現象と呼べるほどの注目を集めたが、評価は大きく割れた。ポッドレースやダース・モールとのライトセーバー戦は高く支持される一方、ジャー・ジャー・ビンクスの描写、通商や政治劇に割かれた比重、子役を物語の中心に据えた語り口には批判も少なくなかった。賛否は分かれたものの、シリーズの世界を押し広げ、映像技術の転換点となった一作である。
本記事は結末を含む全編の内容に踏み込んでいる。物語の重大な驚きを味わいたい場合は、まず本編を鑑賞してから読むことを勧めたい。
主要データ
- 原題
- Star Wars: Episode I – The Phantom Menace
- 監督・脚本
- ジョージ・ルーカス
- 製作
- リック・マッカラム
- 音楽
- ジョン・ウィリアムズ
- 米国公開
- 1999年5月19日
- 上映時間
- 136分
- ジャンル
- スペースオペラ、SF、冒険、ファンタジー
オープニング・クロール
本作のオープニング・クロールが語り出すのは、銀河規模の戦争ではない。辺境の惑星をめぐる通商紛争という、いかにも地味な火種である。だが、その小さな対立の裏には大きな陰謀が潜んでいる。この構図こそが、副題『見えざる脅威』に呼応しているのだ。
02あらすじ
以下に、結末までを含めた全編のあらすじを記す。物語は、ナブーの封鎖に始まり、タトゥイーンでのアナキンとの出会い、コルサントを舞台にした政治の駆け引き、そしてナブーの戦いへと流れていく。
ナブー封鎖と脱出
ジェダイ・マスターのクワイ=ガン・ジンと、その弟子オビ=ワン・ケノービは、最高議長の密命を受け、通商連合によるナブー封鎖の調停役として連合の戦艦に派遣される。だが交渉の席は、はじめから罠だった。連合総督ヌート・ガンレイは、立体通信にのみ姿を現す謎の人物ダース・シディアスの指示に従い、二人のジェダイの暗殺と、惑星ナブーへの全面侵攻を着々と進めていたのである。毒ガスとデストロイヤー・ドロイドの襲撃をかいくぐった二人は、侵攻部隊を乗せた揚陸艦に紛れ込み、地表へと降り立つ。
ナブーの森で、二人は仲間から追放された不器用な水棲種族グンガンのジャー・ジャー・ビンクスを偶然救い出す。彼の案内で向かうのは、水中に築かれたグンガンの都だ。やがて長から借り受けた潜水艇で湖底のトンネルを抜け、巨大魚に襲われる難所を切り抜けて、侵攻されたナブーの王都シードを目指す。
二人は占領下の王宮から若き女王パドメ・アミダラと侍女・護衛団を救い出し、連合の封鎖網を強行突破して脱出する。だが離脱の際に宇宙船のハイパードライブが損傷してしまう。修理部品を求め、共和国の法も連合の支配も及ばない辺境の砂漠惑星タトゥイーンへ、やむなく不時着するほかなかった。
タトゥイーンと少年アナキン
クワイ=ガンは、侍女に変装したパドメ、そしてジャー・ジャーとR2-D2を連れ、宇宙港町モス・エスパで船の部品を探す。だが共和国の通貨は通用せず、この辺境で一行はたちまち資金繰りに行き詰まる。そんなとき、ジャンク屋ワトーの店で出会ったのが、母シミとともに奴隷として暮らす少年アナキン・スカイウォーカーだった。
アナキンは並外れた操縦と工作の才の持ち主で、ポッドレーサーやプロトコル・ドロイド(C-3PO)を自作してしまうほどだった。クワイ=ガンは少年に異常なほど高いフォースの素質を感じ取る。父を持たぬ出生を知ると、彼こそフォースに均衡をもたらす「選ばれし者」ではないかと考えるようになる。事実、その血中ミディ=クロリアン値はジェダイの記録を超えていた。
資金のない一行は、アナキンの提案に乗ることにする。少年が命がけのポッドレース「ブーンタ・イヴ・クラシック」に出場し、クワイ=ガンがワトーと賭けを交わす。勝てば部品とアナキンの自由が手に入る、という賭けだ。砂漠の難コースと数々の妨害をくぐり抜け、アナキンはみごとレースを制し、自由の身となる。だが賭けの対象から外れた母シミは、奴隷のまま惑星に残ることになった。別れを惜しむアナキンを、クワイ=ガンはジェダイとして育てるべく連れて発つ。その直後、シディアスが放った刺客がタトゥイーンに到達し、出発しようとするクワイ=ガンへと襲いかかる。
ブーンタ・イヴのポッドレース
アナキンの自由と機体の部品を懸けたポッドレースは、本作屈指の見せ場である。前夜、クワイ=ガンはアナキンの血液を分析させ、ミディ=クロリアン値が記録的に高いことを知る。レース当日、詰めかけた大観衆を前に、ジャバ・ザ・ハットが開始の合図を出す。人間の反応速度では到底ついていけないとされる超高速のレースが、こうして幕を開ける。
アナキンは強豪セブルバの妨害でエンジンを止められ、最後尾へと沈む。だが機転を利かせて再始動させると、砂の峡谷、サンドピープルの狙撃、たび重なる機体トラブルを次々にくぐり抜け、猛然と追い上げていく。最終ラップでついにセブルバ機を出し抜き、アナキンは劇的な優勝を飾る。賭けに勝ったクワイ=ガンはハイパードライブの部品を手に入れ、さらにワトーとの第二の賭けによってアナキンの身柄を解放させる。だが喜びも束の間、賭けの対象に含まれなかった母シミは奴隷のまま残され、母と子は涙ながらに別れを告げる。
ダース・モールと元老院
タトゥイーンを発つ間際、クワイ=ガンは両刃のライトセーバーを操る赤黒い肌の戦士に襲われる。これこそがシスの暗黒卿の弟子ダース・モールであり、千年前に絶えたはずのシスがひそかに復活していたことを物語る、重大な事実だった。この報せにジェダイ評議会は動揺する。
舞台は共和国の首都、都市惑星コルサントへと移る。クワイ=ガンはジェダイ評議会にシスの刺客が現れたことを報告するが、千年前に絶えたはずのシスの復活を、評議会はにわかには信じない。一方、パドメは元老院で封鎖の不正を訴える。だが官僚機構と汚職が議論を膠着させ、事態は一向に動かない。そこへナブー選出のパルパティーン議員が、現職議長は無力だとパドメに囁き、不信任動議を促す。パドメがこれを提出すると、同情票を集めたパルパティーン自身が次期最高議長の有力候補へと押し上げられていく。表向きの善意と正当な手続きの裏で、見えざる脅威が着実に権力の階段を上っていく——その劇的アイロニーが鮮明に浮かび上がる。
ジェダイ評議会はアナキンをフォースで試す。だが、修行を始めるには年齢が高すぎること、そして母との別離ゆえに少年が抱える強い恐れを見て取り、その恐れがやがて怒りや憎しみを呼び、暗黒面へと通じることを危ぶんで、訓練を認めない。それでもクワイ=ガンは、自らの責任においてアナキンを弟子にすると評議会の前で宣言する。
ナブーの戦いとクワイ=ガンの最期
コルサントでの膠着に見切りをつけたパドメは、ナブーへ戻り、自力で祖国を解放する決断を下す。女王としての正体を明かした彼女は、グンガンの長ボス・ナスに頭を下げ、両種族のわだかまりを越えた共闘を取りつける。作戦は四つの戦線で同時に進む。まずグンガンの大軍が平原で連合のドロイド軍をおびき出して足止めし、その隙にパドメ率いる部隊が王宮へ突入して連合総督ガンレイを捕らえる。宇宙ではナブーのパイロット隊が軌道上の制御艦を攻める。複数の戦線が連動して一つの勝利へ収束するこの構成は、以後のシリーズの定型となった。
その裏で、クワイ=ガンとオビ=ワンは、宮殿の発電施設でダース・モールと壮絶なライトセーバー戦を繰り広げる。三人が炉のシャフトに沿った狭い通路と、明滅するレーザー隔壁の間を駆け抜ける殺陣は、シリーズのアクション表現を刷新した名場面だ。隔壁に分断され、単身モールと対峙したクワイ=ガンは、隙を突かれて胴を貫かれ、致命傷を負う。隔壁が開くと同時に飛び込んだオビ=ワンは、一度はモールにシャフトへ蹴り落とされかけるが、フォースで跳躍して師のライトセーバーを引き寄せ、無防備になったモールを両断して谷へ落とす。瀕死のクワイ=ガンは、駆け寄ったオビ=ワンに、アナキンを必ず訓練し、選ばれし者として育てるよう遺言を残し、息を引き取る。
戦いののち、ジェダイ評議会はオビ=ワンを正騎士と認め、彼の願いを容れてアナキンを弟子とすることを許す。一方でヨーダは、復活したシスへの拭えない不安を口にする。クワイ=ガンは盛大に火葬され、勝利を祝う祝祭が開かれるが、群衆の中に佇むパルパティーンの不敵な視線が、勝利の影に潜む本当の脅威を観客に告げて、物語は幕を閉じる。
登場要素
本作に登場し、また言及される主な要素を分類して紹介しよう。これらの固有名詞はシリーズを読み解く手がかりとなるが、初めて触れる際に無理に覚え込む必要はない。
- クワイ=ガン・ジン
- オビ=ワン・ケノービ
- アナキン・スカイウォーカー
- パドメ・アミダラ
- パルパティーン議員/シディアス
- ダース・モール
- ヨーダ
- メイス・ウィンドゥ
- ジャー・ジャー・ビンクス
- シミ・スカイウォーカー
- ワトー
- ヌート・ガンレイ
- シオ・ビブル
- パナカ隊長
- キ=アディ=ムンディ
- ボス・ナス
- C-3PO(製作中)
- R2-D2
- 人間
- グンガン
- トゥイレック
- ニモーディアン
- ハット(ジャバ)
- トイダリアン(ワトー)
- ヨーダの種族
- セレアン
- 各種エイリアン
- R2-D2
- C-3PO(自作中)
- バトル・ドロイド
- デストロイヤー・ドロイド(ドロイデカ)
- ピット・ドロイド
- プローブ・ドロイド
- オパッチ(巨大魚)
- サンドー・アクア・モンスター
- イオピー
- エオポー
- タトゥイーンの生物
- ナブー(シード、グンガンの都)
- タトゥイーン(モス・エスパ)
- コルサント(元老院、ジェダイ聖堂)
- 通商連合の戦艦
- ナブーの平原
- 銀河共和国
- 銀河元老院
- ジェダイ・オーダー/評議会
- シス
- 通商連合
- ナブー王室
- グンガン軍
- ナブー・ロイヤル・スターシップ
- ナブー・スターファイター(N-1)
- ポッドレーサー
- シス・インフィルトレイター
- 通商連合の制御艦
- MTT/AAT(連合の戦車)
- バンサ
- ライトセーバー
- 両刃ライトセーバー
- ブラスター
- ディフレクター・シールド
- ハイパードライブ
- ポッドレース機関
- 通信妨害
- フォース
- ライトサイド/ダークサイド
- ジェダイ
- シス(二人の掟)
- 選ばれし者
- ミディ=クロリアン
- フォースのバランス
- ナブーの戦い
09主要登場人物
本作は、後のサーガを動かす人物たちの出発点を描く。アナキン、オビ=ワン、パルパティーン――この三者の関係こそが、やがて長く深い悲劇へと伸びていく。
アナキン・スカイウォーカー
タトゥイーンで母とともに奴隷として生きる少年。並外れた操縦と工作の才、そして異常に高いフォースの素質を備え、クワイ=ガンから「選ばれし者」と目される存在だ。
母との別れへの不安と自由への憧れ。その純真な少年が、やがてダース・ベイダーへと転落していく——観客がその結末を知っているからこそ、本作のアナキンには静かな悲劇性が漂う。彼の出発点を描いたことこそ、サーガ全体における本作最大の意義といえる。
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クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ
クワイ=ガンは、評議会の方針よりも自らの直感とフォースの導きを重んじる異端のジェダイ・マスターである。アナキンの素質をいち早く見抜き、規律を押し切ってまでその道を開こうとするが、ダース・モールとの死闘の末に命を落とす。
弟子のオビ=ワンは、本作で正騎士へと昇格し、師の遺志を継いでアナキンの師となる。後の三部作で重要な役割を担う若き日のオビ=ワン、その出発点がここに描かれる。
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パルパティーンとダース・モール
ナブー選出の温厚な議員パルパティーンは、惑星封鎖の混乱を巧みに利用し、最高議長の座へと駆け上がっていく。だがその正体は、シスの暗黒卿シディアスにほかならない。本作の副題が示す「見えざる脅威」とは、まさに彼のことなのだ。
その弟子ダース・モールは、両刃のライトセーバーを操る寡黙な戦士だ。千年前に絶えたはずのシスの復活を、その姿そのもので体現してみせる。台詞こそ少ないが、鮮烈な造形と切れ味鋭いアクションで、シリーズ屈指の人気を誇る悪役となった。
パドメ・アミダラ
若くしてナブーの女王の座にあった聡明な指導者。封鎖の不当を元老院に訴え、自らグンガンとの和解を取りつけて祖国を解放へと導く。やがてアナキンの伴侶となり、サーガの悲劇の中心に立つことになる人物。その出発点が、本作で描かれる。
舞台と用語
物語の舞台は、緑豊かなナブー、無法者がはびこる砂漠の星タトゥイーン、そして官僚機構が集中する中枢コルサントという三つの世界に分かれる。自然、辺境、政治という対比が、平和な時代の表向きの顔と、その裏で静かに進む陰謀という二層構造を、空間そのもので描き出している。
用語の面では、フォース、シス(師と弟子の二人だけという掟をもつ存在)、選ばれし者、そしてフォースのバランスが鍵となる。本作で語られる「ミディ=クロリアン」は、フォースへの感応の強さを数値で示す概念としてシリーズに導入されたもので、神秘の説明をめぐって賛否を呼んだ。固有名詞は暗記するよりも、物語の流れのなかで自然につかんでいくほうがいいだろう。
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15制作
本作はシリーズ16年ぶりの新作であり、デジタル映像技術を大規模に導入した、映画史上の転換点でもあった。以下、主要な経緯を整理する。
企画と脚本
ジョージ・ルーカスは、ベイダー、すなわちアナキンの転落を描く前日譚を早くから構想していた。だが映像技術の進歩を待ち、長らく着手を控えていた。やがてデジタル特撮の成熟を見て自ら脚本と監督を引き受け、奴隷の少年が「選ばれし者」として見出される、その出発点として本作を作り上げた。
封鎖、元老院、そして議長への昇進といった政治的陰謀と、少年の冒険を並走させる。この構成は、共和国がいかにして内側から崩れていくのかという、三部作全体の主題への布石となっている。
キャスティング
クワイ=ガンをリーアム・ニーソン、若き日のオビ=ワンをユアン・マクレガー、パドメをナタリー・ポートマン、少年時代のアナキンをジェイク・ロイドが演じた。パルパティーン/シディアス役は、『ジェダイの帰還』で皇帝を演じたイアン・マクダーミドが続投。ダース・モールの身体の動きは、武術家のレイ・パークが担った。ヨーダは前作までと同じくフランク・オズが受け持ち、本作ではパペットで表現された(後の改訂版ではデジタルに置き換えられている)。
撮影とロケ地
本編の撮影は、主にイギリスのリーヴズデン・スタジオで行われた。タトゥイーンの砂漠の場面は、前作と同じく再びチュニジアでロケーション撮影されている。ナブーの宮殿は、その壮麗な内装にイタリアのカゼルタ宮殿を用いた。自然と建築が見せる荘厳さが、惑星ナブーの世界観を支えている。
本作では、実景のセットを撮影したうえに、背景や群衆、クリーチャー、乗り物といった膨大な要素をデジタルで重ねる手法を全面的に採り入れた。撮影現場ではブルーバックやグリーンバック、簡素なセットが多用され、完成画面の多くはポストプロダクションで作り込まれていく。当時としては先進的かつ実験的な制作手法だった。
視覚効果
本作はILMによるCGとデジタル合成を大規模に導入した。ジャー・ジャー・ビンクスという完全CGの主要キャラクターをはじめ、群衆、都市、ポッドレースなどを実写と融合させている。砂漠やイタリア、チュニジアといった実景に膨大なデジタル要素を重ねる手法は、以後の大作映画の作り方を大きく変えた。
ポッドレースの疾走感と、ダース・モール戦のスピーディな殺陣。いずれも技術と演出が噛み合った見せ場として高く評価された。一方で、CGへの全面的な依存は、後年「実在感の希薄さ」をめぐる議論も生んでいる。
音楽
ジョン・ウィリアムズはロンドン交響楽団とともに新たな主題を書き上げ、クライマックスの三つ巴のライトセーバー戦には、合唱を伴う楽曲「運命の闘い(Duel of the Fates)」を投入した。サンスクリット由来の歌詞を聖歌のように歌い上げるこの曲は、プリクエルを象徴する一曲となり、シリーズ音楽の表現の幅を大きく広げた。
本作のスコアには、おだやかな少年のテーマとして、後の三部作でアナキンの転落とともに変奏されていく旋律の萌芽が埋め込まれている。音楽が物語の運命を先取りして語る——シリーズ伝統のこの手法は、ここでも貫かれている。
編集とポストプロダクション
膨大なデジタル映像を実写へ統合する作業は、本作の仕上げ工程を長期に及ばせた。編集の段階でも構成は幾度となく練り直されている。複数の戦線が同時に進むクライマックスは、ポッドレースの場面と同じく、観客が状況を見失わない呼吸へと編集で整えられた。
実景、パペット、CGを織り交ぜる制作手法は、その後のハリウッド大作に共通するワークフローへと受け継がれていく。本作はその転換点の一つとして、映画制作の歴史にも刻まれている。
22公開と興行
1999年5月19日に公開された本作は、16年ぶりの新作という社会現象的な期待を背負い、世界的な記録的ヒットとなった。全世界興行収入は再公開分を含めおよそ10億ドル規模に達し、当時の興行記録を塗り替える大成功を収めた。
一方で、批評家と長年のファンの評価は大きく分かれた。ポッドレースやダース・モールとの戦い、ジョン・ウィリアムズの音楽は広く称賛された。だが、ジャー・ジャー・ビンクスの描写、子役を中心に据えた語り口、通商や政治劇に割かれた比重、そしてミディ=クロリアンの導入には強い批判も寄せられた。商業的成功と評価の分裂が同居する、議論の絶えない一作である。
特別篇とバージョン違い
本作は比較的新しい作品だが、後年のソフト化や配信のたびに細部へ手が加えられてきた。代表的なのが、パペットで演じられたヨーダだ。プリクエル3部作など他作との統一をはかるため、フル3DCGのモデルへ置き換えられている。
ほかにも配信版やソフト版では色調や一部のショットが調整されており、初公開版とは細部が異なる。どの版を観るかによってヨーダの見え方なども変わってくるだけに、その違いにも注目したい。
24批評・評価・文化的影響
本作は商業的に記録的な成功を収めながら、シリーズの評価史においては最も賛否を呼んだ一作である。期待の大きさと、作品が実際に向かった方向性とのずれ。これは後年、「過剰な期待が作品の評価をゆがめる」典型例として、しばしば引き合いに出される。
一方で、ダース・モール、ポッドレース、そして「運命の闘い」といった本作発の要素は根強い人気を獲得し、後の派生作品で繰り返し回収され、再評価されていく。デジタル制作を本格的に導入した点でも、映画産業のあり方を変えた里程標といえる。時を経て、かつて本作を批判した世代が懐古とともにその価値を見直す動きも広がりつつある。
舞台裏とトリビア
ルーカスにとって本作は、『ジェダイの帰還』以来16年ぶりとなる監督作である。完全CGで描いた主要キャラクターを実写の俳優と並べ、主役級として据える――そんな試みは当時ほとんど前例がなく、公開当時は賛否両論を巻き起こした。
ダース・モールが操る両刃のライトセーバーは、公開前まで厳重に伏せられた。観客が劇場で受ける驚きを最大化する、巧みな宣伝戦略である。武術家レイ・パークの身体能力を存分に生かした殺陣は、シリーズのアクション表現を一新してみせた。あどけない子役時代のアナキンと、のちの冷酷なベイダー像との落差。それは逆説的に、シリーズ全体に流れる悲劇性をいっそう際立たせる結果となった。
26テーマと解釈
中心にあるのは「見えざる脅威」だ。表向きは通商をめぐる紛争と、一惑星の解放を描く物語である。だがその裏で本当に進行しているのは、民主的な手続きを逆手に取った、一人の人物による権力の掌握にほかならない。その正体を知るのは観客だけ——この劇的アイロニーが、サーガ全体を貫く悲劇への布石となる。
もう一つの軸は、希望と危うさを同時に宿した「選ばれし者」の旅立ちである。純真な少年アナキンとの出会いは救いの物語であると同時に、のちの転落の種でもあった。母との別れ、恐れ、規律と直感の対立。こうしたモチーフが、ここで静かに蒔かれていく。平和と繁栄の絶頂にこそ崩壊の根が芽吹く——そんな主題が、宇宙の描写と政治の駆け引きを通して浮かび上がる。
27見る順番
本作はサーガの時系列上の出発点にあたる。だが初めて観るなら、まず旧三部作(エピソード4〜6)を公開順で味わい、その後にプリクエル(1〜3)へ進むのがいい。そうすればベイダーの正体やパルパティーンの陰謀がもたらす「驚き」を損なわずに楽しめる。
時系列順(1→2→3→4…)で観れば、アナキンの転落を順を追って体験できる。その一方で、旧三部作最大の仕掛けが先に割れてしまうという難点もある。初見か、それとも復習か。どちらで臨むかによって最適な順番は変わってくる。
28よくある質問
「あらすじだけ知りたい」なら、ナブー封鎖に始まり、タトゥイーンでのアナキン発見、そしてナブーの戦いとクワイ=ガンの最期へと至る流れを押さえれば十分だ。「結末・ネタバレを知りたい」なら、パルパティーンこそがシスであったこと、ダース・モールの撃破、そしてオビ=ワンがアナキンの師となるまでが核となる。
「評価を知りたい」なら、商業的な成功と評価の分裂、さらに時を経ての再評価の動きを、それぞれ分けて捉えるとよい。「見る順番」については、初めて触れるなら旧三部作のあとに観るのが無難だ。
29参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、制作・配信の状況、外部の評価は変動しうるため、視聴前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種公開情報をもとにAnna Movies独自の日本語記事として構成したものである。