百科事典記事
新世紀エヴァンゲリオン(貞本義行漫画版)第12巻
「父と子」全7話のあらすじ・戦自侵攻とゲンドウの告白・アスカの再起・ミサトの最期を解説
貞本義行による漫画版『新世紀エヴァンゲリオン』第12巻「父と子」は、戦略自衛隊の襲撃で動けなくなった碇シンジを、碇ゲンドウ自身が救う巻です。第11巻の終わりに始まったNERV本部への強襲は使徒戦の延長ではなく人間同士の殺し合いであり、その最中に父子が対面する構成は漫画版独自のものです。追い詰められたシンジを救う相手を父に替え、葛城ミサトの最期、惣流・アスカ・ラングレーの再起、STAGE.77〜83の流れ、旧劇場版との違い、次巻への接続を巻単位で整理します。
ネタバレ:貞本義行漫画版第12巻の全7話、戦略自衛隊によるNERV本部襲撃、ゲンドウがシンジを救う父子対面、アスカの再起、ミサトの最期を含みます。未読の場合はご注意ください。





第12巻は、動けないシンジを父が救うことで戦場の意味を変える
第11巻の終わりで、ゼーレは戦略自衛隊をNERV本部へ投入しました。第12巻はその強襲が建物の中へ踏み込んだところから始まり、武装した兵士が職員を次々に撃つ中で、渚カヲルを殺した直後のシンジが銃火のただなかに取り残されます。心に傷を負って立ち上がれないシンジを、公式の紹介文が「命を落とそうとした瞬間」に救った相手として名指すのは、父であるゲンドウです。
ここで構図が変わります。シンジを戦場から連れ出す役を父が担うことで、第12巻は侵攻の記述を殺し合いの記録から父子の対話の舞台へ組み替えます。そのうえで、アスカの再起とミサトの死という、漫画版の終盤を支える二つの出来事が同じ巻に置かれます。使徒がいなくなった戦場で何が起きるのかを描くことが第12巻の中心であり、収録された7話はすべてその方向へ並んでいます。
2010年刊・180頁にSTAGE.77〜83を収録する
KADOKAWA通常版第12巻は2010年3月31日発売、B6変形判180頁、ISBN 978-4-04-715420-9です。著者は貞本義行、原作表記はカラー、レーベルは角川コミックス・エース。資料上の発行日は2010年4月3日とされ、実際の発売日が3月31日であることが注記されています。前巻「手のひらの記憶」の2007年6月からは約2年9か月を経ており、刊行の間隔そのものが連載の中断を記録しています。
収録話はSTAGE.77「GENOCIDE」、78「父と子」、79「約束の時」、80「邂逅」、81「空よりの敵」、82「The last instruction」、83「呼応」の7話です。巻頭の一話を除いて『ヤングエース』へ移ってからの連載分で構成されており、第11巻までの月刊ペースで描かれた巻とは経歴が異なります。
| STAGE.77 | GENOCIDE:月刊少年エース2007年12月号。戦略自衛隊によるNERV本部強襲が始まる |
|---|---|
| STAGE.78 | 父と子:ヤングエースVol.1。戦自に囲まれたシンジをゲンドウが救い、父子が対面する |
| STAGE.79 | 約束の時:ヤングエースVol.2。侵攻の裏で計画側の動きが進む |
| STAGE.80 | 邂逅:ヤングエースVol.3〜4。連載時は前後編で、単行本化の際に「邂逅」として一話にまとめられた |
| STAGE.81 | 空よりの敵:ヤングエースVol.5。上空から現れる量産機が戦場を変える |
| STAGE.82 | The last instruction:ヤングエースVol.6。ミサトがシンジへ最後の指示を残す |
| STAGE.83 | 呼応:ヤングエースVol.7。弐号機を囲む量産機の配置が第13巻へ続く |
掲載誌の移転を経験した最初の巻であり、刊行の空白が連載の中断を記録する
この巻は、シリーズが『月刊少年エース』から『ヤングエース』へ移った後でまとめられた最初の単行本です。STAGE.77「GENOCIDE」は移転前の月刊少年エース2007年12月号に掲載され、ヤングエースの創刊号では加筆修正のうえで再掲載されました。STAGE.78以降はヤングエースVol.1からVol.7まで連載されています。単行本一冊の中に移転の前後が混在するのは、全14巻のうちでも第12巻だけです。
この移転の影響は刊行間隔にも現れています。第12巻は前巻から約2年9か月後の2010年3月に発売されました。18年をかけて完結した連載の後半に位置する巻であり、後半の巻ほど一冊に置かれる出来事の密度が高くなります。第12巻も7話を通して侵攻の緊張を一度も緩めず、単行本としてのまとまり方が前半の巻とは違うものになっています。
STAGE.77「GENOCIDE」は、使徒戦の終わった場所で人間が人間を攻撃する話
巻頭を飾る「GENOCIDE」という題が示すとおり、この話で始まる襲撃は使徒の攻撃ではありません。第11巻のSTAGE.76でゼーレが投入を決めた戦略自衛隊がNERV本部へ突入し、武装した兵士が職員を次々に撃ちます。第11巻までの戦いが使徒という外部の敵を想定していたのに対し、ここで銃口を向けるのは人間同士です。
この襲撃は、第11巻で赤木リツコが防いだMAGIへの侵入と直結しています。MAGIの防衛戦はゼーレの侵入を止めましたが、それは作戦の前段にすぎず、本命の物理的強襲がここで動き出します。MAGIを巡る攻防で守り切ったはずの本部が、人間の突入に対しては守り切れないという落差が、この話の緊張の源になっています。
シンジはカヲルを殺した感覚を引きずり、侵攻の中心で動けない
公式の紹介文は、侵攻の中のシンジを「心に傷を負ったシンジは動けずにいた」と表現します。カヲルを自分の手で殺した直後のシンジにとって、襲撃の開始は追い打ちでしかありません。第11巻のSTAGE.75で孤立を深めたシンジは、三人目のレイ、心を閉ざしたアスカ、そしてゲンドウを前にしても心を開けないままであり、侵攻の開始はその停止を断ち切る出来事ではありません。
動けない主人公を置いたまま戦場が進む構成により、第12巻は侵攻を、外から押し寄せる危険と並べてシンジの内側の停止の延長として描きます。人が倒れていく建物の中で、殺した手の感覚に沈む少年が一人取り残されている。この落差が、次に父が登場する意味を決めています。
STAGE.78「父と子」で、シンジを救ったのはミサトではなくゲンドウだった
戦自の兵士に囲まれ、命を落とそうとした瞬間、シンジを助けたのは父であるゲンドウでした。公式の紹介文はこの場面を巻の中心として提示しており、第12巻の表紙もシンジとゲンドウの二人を正面に据えています。第11巻でアダムを取り込んだゲンドウが、侵攻の最中に息子の前へ現れる。この対面こそが巻題「父と子」の実体です。
この場面が重いのは、救う行為がそのまま向き合う行為になっているからです。ゲンドウはシンジを助けたうえで、自分の思いを息子の前で語ります。組織の指揮官として息子を使ってきたゲンドウと、一人の少年として父を前にしたシンジ。この二人が同じ場所で言葉を交わす場面は、旧劇場版では存在しませんでした。漫画版が侵攻の枠を借りながら組み替えた最大の一点です。
ゲンドウの告白は、組織の命令としてではなく父の言葉として置かれる
公式の紹介文は「そこで明かされるゲンドウの思いとは…!?」と、この巻の核心を謎のまま提示しています。作中で明かされるのは、エヴァンゲリオン初号機の中にいるユイへの思いがゲンドウの計画の中心にあったこと、そしてゲンドウ自身がその思いをどう抱えてきたかです。シンジが知らされてこなかった父の動機が、侵攻の最中に本人の口から語られます。
告白は言い訳として置かれていません。ゲンドウは計画とユイへの思いを自分の言葉で語り、シンジは父の実像を初めて等身大で目にします。父の罪を知ることがすぐにシンジの回復へつながるわけではありませんが、第13巻でシンジが自分の意志で初号機へ向かうための前提として、父の実像を知ることは避けて通れない線です。
アスカは再起し、量産機を相手に戦場へ戻る
第11巻まで心を閉ざして横たわっていたアスカが、第12巻で戦場へ戻ります。使徒との戦いで受けた傷と心の停止から立ち上がったアスカは、再びエヴァンゲリオン弐号機のパイロットとして出撃します。侵攻が進むNERV本部の地上で、動けないシンジと対照的な位置に置かれるのが、立ち上がったアスカです。
この再起は、アスカが無傷で持ち直す話ではありません。上空から現れる量産機の群れがアスカの相手となり、弐号機は多勢との戦いへ放り込まれます。ただし、第12巻がアスカの敗北を描く巻であるとは言い切れません。巻が終わる時点でアスカはまだ戦っており、量産機に囲まれた状態から先は第13巻へ持ち越されています。再起した人物をどう守るかの判断は次巻にあり、第12巻の仕事は再起そのものの描写にあります。
STAGE.81「空よりの敵」で、戦場の主役は使徒から量産機へ替わる
「空よりの敵」という題が示すとおり、この話で戦場に現れる敵は上空から降りてきます。エヴァ量産機の群れです。使徒を失った物語が量産機を「敵」として戦場に並べることで、第12巻は使徒戦の形式、つまり単一の敵との対決という形式を保ったまま、その中身を人間が作った兵器へ置き換えます。
量産機は第13巻の公式紹介でも「エヴァ量産機に囲まれたアスカ」として巻頭の状況を飾っており、第12巻の終盤から第13巻の冒頭まで、アスカと量産機の対峙が連続していることが分かります。つまり第12巻における戦闘の決着は次巻へ委ねられており、この巻は量産機という新しい敵の質を示すことに使われています。
STAGE.82「The last instruction」で、ミサトはシンジへ最後の指示を残す
ミサトの最期が第12巻に置かれています。侵攻の混乱の中で、ミサトはシンジへ最後の指示を残して命を落とします。題「The last instruction」は、彼女の死そのものよりも、死に際して残す言葉に巻の見せ場を置いていることを示しています。
漫画版のミサトは、第8巻の加持との関係を経て、シンジにとって保護者であり調査者でもある人物でした。そのミサトが侵攻の中で落命することで、シンジは父の言葉とミサトの言葉の両方を背負って次の場面へ進むことになります。ただし、ミサトが残す指示の内容は、旧劇場版の台詞で代用できません。同じ意匠があっても、漫画版のページ上で起きた出来事として追う必要があります。
STAGE.83「呼応」は、弐号機を囲む量産機の群れをそのまま第13巻へ渡す
巻末のSTAGE.83「呼応」までで、戦場の配置は固まります。アスカの弐号機は量産機に囲まれ、シンジはまだ初号機へ乗っていません。第13巻の公式紹介が「エヴァ量産機に囲まれたアスカを救出するため、ついに初号機に乗り込んだシンジ」と第13巻の出発点を示していることから、第12巻の終点がどこにあるかは明確です。
「呼応」の題は、戦場の複数の要素が同じ呼吸を合わせ始める状況を指しています。第12巻が閉じる時点で、ゼーレの計画、ゲンドウの選択、アスカの戦い、シンジの停止がすべて同じ時刻に重なっており、物語は補完計画の開始へ向けて収束しています。個々の決着を巻の中で付けず、すべてを次巻へ持ち越す終わり方は、後半の加速を示しています。
第12巻が終えることと、第13巻へ渡すことを分ける
- 戦略自衛隊によるNERV本部強襲が建物の中まで進行します。
- 動けないシンジをゲンドウ自身が救い、父子が対面します。
- ユイと初号機をめぐるゲンドウの思いが、本人の口から語られます。
- アスカが弐号機で再起し、量産機の群れと戦い始めます。
- ミサトがシンジへ最後の指示を残して落命します。
- シンジが初号機へ乗る決断は第13巻へ持ち越されます。
第12巻が次巻へ引き渡すのは、決着のついた場面よりも「配置」です。アスカを囲む量産機、初号機の前で止まったままのシンジ、そして補完計画へ向かう組織の思惑。この三つが揃った時点で巻は終わり、第13巻はその配置から動き出します。
旧劇場版と同じ侵攻枠を、誰がシンジを救うかで組み替える
戦略自衛隊のNERV本部強襲、量産機との戦い、補完計画の開始。第12巻が扱う素材は、旧劇場版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』と共通しています。しかし並べ方が異なります。旧劇場版では、侵攻のさなかにシンジを戦場から連れ出して共に移動するのはミサトであり、ゲンドウはシンジと対面しません。
漫画版はここを替えます。シンジを救う相手をゲンドウへ移し、父子の対話を侵攻の最中に挟みます。この一点の変更により、侵攻シークエンスの意味が変わります。旧劇場版の侵攻がシンジの孤立の深まりとして機能するのに対し、漫画版の侵攻は父と子が向き合う機会として機能します。連続性比較の解説でも整理しているとおり、同じ出来事の型でも、誰がどの順番で関わるかが変われば作品の意味は変わります。アスカの再起の位置、ミサトの最期の描き方も、漫画版の連続性として独立に追う必要があります。
巻題「父と子」は、救うことと向き合うことを同じ場面に重ねる
シリーズの巻題は、その巻の中心にある出来事や関係を指してきました。第12巻の「父と子」は、シンジとゲンドウの関係を巻全体の軸として宣言しています。二人は第1巻から血縁として存在し続けましたが、対等に言葉を交わす場面は長く与えられてきませんでした。
侵攻という極限状態が、その対面を実現します。平時には近づけない距離が、命の危険の中でだけ縮まります。救う行為と向き合う行為が同じ場面に重なることで、「父と子」という題は、この一つの場面に直接根を下ろしています。第11巻の「手のひらの記憶」がカヲルを殺した手の感覚を指したのと同じく、第12巻の題も起きた場面から離れません。
書影は、シンジの向き合う相手の交代を第11巻から続けて示す
公式書影を第11巻から第14巻まで並べると、シンジの隣に置かれる相手が巻ごとに入れ替わっていることが分かります。第11巻の表紙には渚カヲルがいます。第12巻の表紙にはゲンドウがいます。第13巻の表紙にはアスカが配されています。
第12巻の書影がシンジとゲンドウの二人であることは、巻題「父と子」と一致しています。カヲルの巻の次に父の巻が来る。シンジが失った友の巻から、シンジが向き合うべき父の巻へ。表紙の並びだけでも、後半の巻々を貫く関係性の変化が目に浮かびます。
初読では、侵攻の中で誰がどこにいるかを人物ごとに追う
第12巻は登場人物の配置が同時多発的に動くため、初読では出来事を時系列だけで追うより、人物ごとの現在位置を追う方が混乱しません。シンジは本部の内部で停止したまま、アスカは弐号機で量産機と対峙し、ゲンドウは計画の実行へ向かい、ミサトは侵攻への対処の中にいます。
各話の題も道標になります。「GENOCIDE」から「父と子」へ移る前半は侵攻と対面、「空よりの敵」と「The last instruction」の後半は戦場と別れが並び、「呼応」で収束します。四つの位置を頭に置いてから各話に入ると、侵攻の中で何が同時に進んでいるのかを掴みやすくなります。
第12巻は、シンジの決断を描かないことで第13巻の決断を生かす
第12巻の終わりまで、シンジは初号機に乗りません。この空白には意図があります。旧劇場版でシンジが初号機へ戻るまでの過程が、ミサトの死と絶望の連鎖として描かれたのに対し、漫画版は父の告白という別の情報を先に与えます。
父の実像を知ったうえで、それでもアスカを救うために初号機へ向かうのが第13巻のシンジです。第12巻がその前提となる情報をすべて揃え、決断そのものを描かずに終わるからこそ、次巻の冒頭に置かれる決断がシンジ自身の選択として読めます。救われた側が、今度は救う側へ向かう。この反転の起点が第12巻です。
第12巻についてよくある質問
漫画版第12巻には何話が収録されていますか?
STAGE.77「GENOCIDE」からSTAGE.83「呼応」までの7話です。巻頭のSTAGE.77は月刊少年エース2007年12月号掲載、STAGE.78以降はヤングエースVol.1〜Vol.7に掲載されています。
第12巻はどの雑誌で連載されていた話を集めていますか?
巻頭の一話を除いて『ヤングエース』です。シリーズは第11巻のあとに掲載誌を月刊少年エースからヤングエースへ移し、STAGE.77は月刊エース2007年12月号に掲載されたうえで、ヤングエース創刊号に加筆修正版が再掲載されました。
漫画版でもゲンドウはシンジを救いますか?
救います。戦自に囲まれて命を落とそうとしたシンジを助けたのは父であるゲンドウであり、この場面が巻題「父と子」の核心です。旧劇場版ではシンジを連れ出すのはミサトであり、この点が漫画版の大きな違いになっています。
第12巻のあとはどの巻から読めばよいですか?
第13巻「Calling」へそのまま続きます。第13巻は量産機に囲まれたアスカを救うためシンジが初号機に乗り込む場面から始まり、人類補完計画が始まります。