人物解説
ワンダ・マキシモフを読み解く
ワンダ・マキシモフは、戦争で家族を失ったソコヴィア出身の人物であり、ヒドラの実験で増幅された力を経てアベンジャーズへ加わる。喪失のたびに現実そのものへ干渉するほど力が拡大し、ヒーローと加害者の両面を持つ。ヴィジョンとの関係、ウェストビュー事件、ダークホールドの影響を分けて追う必要がある。悲嘆への共感と、他者へ生じた被害の評価を同時に保つことが重要である。力の拡大と心の回復は同じではない。両者のずれが物語を動かしている。
ソコヴィアの戦争とアベンジャーズへの敵意
ワンダと双子の兄ピエトロは、幼い頃に爆撃で両親を失い、不発弾に記されたスタークの名を見ながら救助を待った。ヒドラの人体実験へ志願した背景には、外国の兵器とアベンジャーズへ向けた怒りがある。マインド・ストーンを使った実験を生き延び、念動や精神干渉の力を得たワンダは、ウルトロンと協力してチームの恐怖を刺激する。
しかしウルトロンが人類滅亡を目指していると知ると離反し、アベンジャーズとともにソコヴィアを守る。ピエトロの死で再び家族を失うが、クリントから『外へ出ればアベンジャーだ』と選択を促され、戦いに戻る。被害者であることが自動的に正しさを保証するのではなく、自分の力が誰へ向くかを選び直した最初の転換である。

ヴィジョンとの関係とシビル・ウォー
アベンジャーズ施設で暮らすワンダは、同じマインド・ストーンと関わるヴィジョンと親しくなる。ラゴスで爆発を抑えようとして別の建物に被害を出したことで、超能力者への不安とソコヴィア協定の議論が強まる。トニー側は保護の名目でワンダを施設へ留め、スティーブ側は本人の意思を奪う拘束だと考える。
クリントに促されて施設を出たワンダは、空港戦でスティーブ側へ加わる。ヴィジョンとは反対陣営になるが、互いを敵として憎むことはできない。能力の危険性を理由に自由を制限される経験と、自分が起こした被害への責任の間で揺れるため、単純に協定へ反対したのではなく、自分の選択を他者へ預けないことを優先したと理解できる。

ヴィジョンの死とウェストビュー
サノス軍がヴィジョンのストーンを狙うと、ワンダは彼と逃亡し、二人だけの生活を望む。最終的には宇宙の半数を守るため、自分の手でストーンを破壊してヴィジョンを殺す決断をするが、サノスは時間を戻して彼を再び殺す。愛する相手を自分で失い、その犠牲まで無効にされた経験が、復活後も処理できない悲嘆として残る。
ウェストビューで二人の家になるはずだった土地へ行き、感情があふれた瞬間、街全体をシットコム形式の現実へ作り替える。住民は役を演じるよう強制され、ヴィジョンと双子の息子が生まれる。ワンダに最初から明確な支配計画があったわけではないが、真実を知った後も家族を失う恐れから結界を維持したため、悲しみは被害の説明にはなっても免責にはならない。

スカーレット・ウィッチとダークホールド
アガサ・ハークネスとの対決で、ワンダは自分がスカーレット・ウィッチと呼ばれる存在であり、通常の魔術師と異なり呪文なしでカオス・マジックを扱うと知る。最後には結界を消し、ヴィジョンと子どもたちへ別れを告げる。しかし孤独な山小屋でダークホールドを読み、別世界に実在する息子たちの声を聞いたことで、喪失から立ち直る道が再び力による解決へ曲がる。
『マルチバース・オブ・マッドネス』ではアメリカ・チャベスの能力を奪い、息子たちのいる世界へ移ろうとする。カマー・タージや別世界のヒーローを殺害し、自分の別世界の身体まで利用するが、息子たちから怪物として恐れられたことで、望んだ母親像と現実の行動が両立しないと理解する。全世界のダークホールドを消滅させ、ワンダゴア山を崩す選択で被害の連鎖を止める。

能力の性質とワンダを読む際の注意点
ワンダの能力は念動、精神操作、エネルギー投射、結界、物質変換、現実改変へ広がり、後にはルーンやドリームウォークも扱う。初期には本人も範囲と仕組みを把握しておらず、感情の高まりが出力へ直結する。強さの順位だけで見るより、本人の願望が周囲の人間の自由を上書きするとき、誰が代価を払うのかを見ることが重要である。
映画だけではウェストビュー後の変化が急に見えるため、『エンドゲーム』と『マルチバース・オブ・マッドネス』の間に『ワンダヴィジョン』を置く必要がある。ヴィジョンとの愛はワンダを救う関係である一方、失った家族を力で再現する動機にもなる。彼女を被害者だけ、あるいは敵だけに固定せず、自分の苦痛から他者の苦痛を見失う瞬間と、最後にそれを認識する瞬間の両方を追うと人物像が立体的になる。
また、マインド・ストーンが力をゼロから与えたのか、もともとの魔力を増幅したのかは後の説明で見え方が変わる。幼少期の不発弾を止めた記憶とアガサの分析を踏まえると、実験以前から潜在的な魔術があり、ストーンがそれを拡大したと整理するのが自然である。

喪失、ダークホールド、責任の境界
ワンダの力はソコヴィアでの実験だけで突然生まれたのではなく、幼少期から持っていた魔術的資質がマインド・ストーンで増幅されたと後に示される。家族、ピエトロ、ヴィジョンを失った悲しみがウェストビューの現実改変を起こすが、無自覚に始まったことは住民を拘束し続けた責任を消さない。彼女自身も最終的に結界を解き、再び家族を失う選択をする。
その後ダークホールドは、別宇宙に実在する息子たちの声を利用して願望を執着へ変え、ドリームウォークによる殺害と追跡へ導く。腐敗の影響は行動の背景だが、被害を無かったことにはしない。ワンダが全宇宙のダークホールドを破壊する最期は、母として認められたから許されたのではなく、自分の力と選択が生む連鎖を自分で止めた行為である。
ヴィジョンとの関係では、彼を失う悲しみだけでなく、本人の意思をどこまで尊重できたかを見る必要がある。ヴィジョンはヘックスの維持に反対し、別宇宙の子どもたちも母ワンダを守ろうとする。愛する相手のためという理由が、相手の選択を上書きし始める境界がワンダの悲劇を形作る。