シビル・ウォー/キャプテン・アメリカは、2016年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画である。ソコヴィア協定によるヒーロー管理体制を巡り、賛成派のアイアンマンと反対派のキャプテン・アメリカが対立し、アベンジャーズが二つの陣営に分裂して衝突する。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ3の開幕作であり、シリーズの感情的な転換点となった一本である。
00概要
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(Captain America: Civil War)は、アンソニー・ルッソとジョー・ルッソが監督し、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが脚本を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。シリーズ通算13作目にして、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ3の幕開けを飾る一作であり、形式上は『キャプテン・アメリカ』三部作の完結篇にあたる。
原案はマーク・ミラー作、スティーブ・マクニーヴン画のクロスオーバー大作『シビル・ウォー』(2006-2007)に着想を得ている。ただし本作は登場ヒーローの数と物語の射程をあえて絞り込み、コミックの大規模な戦争劇ではなく「家族の崩壊」という身近なスケールへと再構築した。脚本陣は当初、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の延長線上で、バッキー・バーンズの過去と国家による管理という主題を掘り下げる小ぶりな続編を構想していた。だがケヴィン・ファイギを交えた議論の末、トニー・スタークを反対の陣営に据え、ヒーロー同士の倫理的対立を物語の軸に置く方向へと大きく広がっていった。
米国公開は2016年5月6日、日本公開は2016年4月29日。撮影は2015年4月から8月にかけて、米国ジョージア州アトランタを中心に、ベルリン、プエルトリコ、レイキャビクなどで行われた。製作費は約2億5000万ドル、上映時間は147分。世界興行収入は約11億5300万ドルに達し、シリーズ屈指の興収を記録した。
本記事は、ラゴスでの冒頭から、ジモ大佐の正体と真の目的、シベリアのバンカーで再生されるハワード&マリア・スターク殺害の1991年12月16日の映像、そしてラフト刑務所への収監とワカンダでのバッキー再凍結に至るまで、本作の結末すべてを踏まえて書いている。物語の驚きを大切にしたい読者は、本編を一度通して観てから戻ってきてほしい。
主要データ
- 原題
- Captain America: Civil War
- 監督
- アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
- 脚本
- クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
- 原作
- マーベル・コミック『シビル・ウォー』(マーク・ミラー/スティーブ・マクニーヴン)に着想
- 音楽
- ヘンリー・ジャックマン
- 撮影
- トレント・オパロック
- 米国公開
- 2016年5月6日
- 上映時間
- 147分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、スパイ・スリラー、アクション
01あらすじ
以下は、結末からミッドクレジット、ポストクレジットの両シーンまでを含む全編のあらすじである。本作は『キャプテン・アメリカ』三部作の完結篇であると同時に、12人のヒーローを一本に束ねた事実上の『アベンジャーズ』第3作でもある。アイアンマンとキャプテン・アメリカ──盟友であった二人が、ソコヴィア協定と、一人の冷戦工作員ジモ大佐が周到に仕掛けた罠によって、肉体的にも倫理的にも完全に袂を分かつまでを描いた物語だ。
プロローグ、ハワード・スターク殺害
映画は1991年12月16日のフラッシュバックで幕を開ける。舞台はシベリアの「ハイドラ冬季工作員養成施設」。若返らされたバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーが解凍され、起動の暗唱コードを浴びせられる。下された任務は単純だ。ハワード・スタークの車を奪い、車内に積まれた青いセラム(超人血清の派生サンプル)を手に入れること。雪に覆われた山道、ハワードと妻マリアを乗せたメルセデスがコーナーを抜けようとした瞬間、闇のなかからバイクが現れ、二人の前に立ちふさがる。ウィンター・ソルジャーは無言でハワードを殴り殺し、まだ息のあるマリアの首を絞めて命を奪う。トランクからセラムを抜き取ると、車を樹木に追突させ、事故に見せかける偽装を完成させる。事故現場では監視カメラがかすかに作動している——後の展開を予感させる短い引きを残し、プロローグは幕を閉じる。
この場面こそが、後半の展開すべての原資となる。それから二十数年後、ジモ大佐はこのVHSテープを掘り当て、「ヒーローを内側から壊す唯一の武器」として用いる。本作は全編を通して、最後の瞬間までこの映像の存在を観客に伏せておく構造をとっているのだ。
ナイジェリア・ラゴス
現代のナイジェリア・ラゴス。スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ、ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ、サム・ウィルソン/ファルコン、そしてワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチの四人が、市場での生物兵器強奪を阻止する任務に就いていた。標的は、ハイドラ崩壊後に傭兵として暗躍するブロック・ラムロウ/クロスボーンズとその小隊。狙いは、アフリカ疾病管理センターから運び出される致死性のウイルス・サンプルである。
潜入はおおむね成功するが、追い詰められたラムロウは自爆ベストの起爆スイッチを握り、「お前の親友がよろしくと言っていた」と告げる。スティーブが一瞬動揺した隙に、スイッチが押される。ワンダはとっさにエネルギーの場でラムロウごと爆発を上空へ持ち上げるが、力の制御が間に合わない。すぐ近くに建つオフィスビルの中層階で爆風が抜け、建物の一区画が崩落。ワカンダから派遣されていた人道支援団のメンバー11名を含む、多数の民間人が命を落とす。
ラゴスでの誤爆は、世界中で大きく報じられる。長年「自警団としてのアベンジャーズ」を許容してきた国際社会の忍耐も、この一件でついに限界を超えた。物語はそのままワンダの自責、そしてサンクト・ピーター教会に響く祈りの音を経て、トニー・スタークが壇上に立つ場面へと移っていく。
ソコヴィア協定
MITでの寄付講演を終えたトニー・スタークは、エレベーターホールで一人の女性に呼び止められる。ミリアム・シャープと名乗る彼女は、息子チャーリーが『エイジ・オブ・ウルトロン』のソコヴィア戦で命を落としたと告げ、その写真をトニーの目の前に突きつける。手の中にいつまでも残るその一枚は、観客の倫理観を静かに揺さぶる一撃となる。
アベンジャーズ本部に、サディアス・E・ロス国務長官(ウィリアム・ハート)が突然姿を現す。手にしているのは、国連加盟117カ国が署名した「ソコヴィア協定」だ。以後アベンジャーズは国連の指揮下に置かれ、各国の許可なくしては出動できない——そう定めた拘束条約である。ヴィジョン、ナターシャ、ローディ、そしてトニーは、ラゴスの惨事と過去四作で生んだ犠牲を直視した末に、署名を支持する。一方スティーブ、サム、ワンダは、政治の指揮に身体を委ねることのほうがはるかに危ういと考え、これを拒む。
ここで本作の倫理的な構図が完成する。トニーは「俺たちが自分を縛らないなら、誰かが俺たちを縛りに来る」と説き、スティーブは「サインしてしまえば、ここから先、我々は誰の責任にもされない代わりに、誰の意思も持てなくなる」と返す。同じ部屋で、同じソファに、長く並んで座ってきた仲間たちが、たった一枚の紙を境に割れていく。
ウィーン国連爆破事件
ウィーンで、ソコヴィア協定の正式な署名式典が開かれる。登壇したのはワカンダ王ティチャカ国王。息子ティチャラの隣に立ち、ラゴスでの犠牲者を悼む。「我々は静かな国だが、もはや静かではいられない」——その演説のさなか、外壁が爆発し、会場を呑み込んだ。ティチャカは息子の腕の中で息絶える。爆弾犯として警察が公開したのは、ウィンター・ソルジャー時代のバッキー・バーンズの顔写真だった。
本作はこの瞬間、物語の重心を一気にバッキーへと移す。スティーブにとってバッキーは、ブルックリン時代から続く最古の友であり、国家の機構から救えなかった最後の一人でもある。スティーブは協定への署名を保留し、単身ブカレストへと向かう。一方、協定派は「テロリストの逮捕」を名目に、ティチャラを含む特殊部隊と国際刑事警察を現地へ送り込む。
だが観客はまだ、ウィーンの爆発がバッキーの仕業ではないと知らない。爆弾を仕掛けたのは、群衆に紛れて現場を撮影していた一人の男——ジモ大佐である。
ブカレストの追跡劇
ブカレスト、簡素なアパートの一室で梅干しのような生活を送っていたバッキーのもとへ、スティーブが先に到着する。バッキーは穏やかな声で「お前を覚えている」と告げ、自分はウィーンに行っていないと言い切る。直後にドイツ警察特殊部隊が突入し、同時に、ヴィブラニウム合金製の漆黒のスーツに身を包んだ男——ブラックパンサー/ティチャラがバルコニーから飛び込んでくる。
アパートからバッキーが脱出し、地下水道を駆け抜け、ブカレストの高架トンネルへ抜ける長尺の追跡劇は、本作初期の最大の見せ場である。バッキーがバイクで疾走し、その背を追って屋根を走るブラックパンサー、上空からウィングを開いて滑空するファルコン、そして地上で銃を抜く警察、四つの動線が一本のトンネルの内側で交差する。最終的に四人ともローディ/ウォー・マシンに包囲され、トニー側の協定派の指揮下で連行される。
ベルリンの統合作戦本部に運ばれたバッキーは、防弾アクリル張りの心理評価室に入れられる。同じ建物の別室で、スティーブとサムは協定派と緊張した会話を交わし、ティチャラは外で父の遺体と向き合う。場面は一時間の長い静寂のあと、爆破される。
ジモ大佐の本当の目的
本部の心理評価室にひとりの男がいる。心理学者を名乗っているが、その正体はソコヴィア出身の元軍人、ヘルムート・ジモ大佐だ。十年前のソコヴィア戦でアベンジャーズに妻と子、そして父を奪われた男であり、本作の真の敵である。ジモは本部の電源を意図的に落とす。停電の闇のなか、バッキーに向かって「longing, rusted, seventeen, daybreak, furnace, nine, benign, homecoming, one, freight car」というロシア語のトリガー・ワードを順に唱えていく。
最後のトリガーが響いた瞬間、バッキーは無表情のままウィンター・ソルジャーへと変貌する。研究室の壁を破壊し、職員を次々と制圧し、ヘリパッドへと脱出を図る。スティーブとサムは暴走するバッキーに生身で組みつき、必死に押さえ込む。そしてスティーブが、ようやくその意識を呼び戻す。一方のジモは、この混乱に乗じて何の足跡も残さず建物から姿を消していた。
ジモの狙いはバッキーの解放ではない。バッキーから1991年のシベリア任務の記憶を引き出し、そこに記された「ハイドラ冬季工作員養成施設」の座標を手に入れることだった。施設には、ジモが復活させようとしているハイドラの五人の冬季工作員が冷凍保存されている——彼らが世に放たれれば、世界は再びソコヴィア級の罪を背負うことになる。だが、ジモの計画はそうではない。本物の狙いは、もっと精緻で、もっと皮肉に満ちている。「五人の超人を起こすふりをして、トニーとスティーブを真正面から対峙させる」のだ。
両陣営の編成
スティーブ側のチームは、サム・ウィルソン、ワンダ・マキシモフ、バッキー・バーンズの三人に、サムが推薦するスコット・ラング/アントマンと、引退状態から呼び戻されたクリント・バートン/ホークアイが加わり、六人となる。ホークアイは軟禁状態のワンダを解放する役目を担って合流する。アントマンはサンフランシスコの自宅から、サムの運転するワゴンの後部座席に正座のまま運び込まれる。
トニー側のチームは、ジェームズ・ローズ/ウォー・マシン、ナターシャ・ロマノフ、ヴィジョン、ティチャラ/ブラックパンサーの四人に、新顔のピーター・パーカー/スパイダーマンが加わって五人。トニーはクイーンズのアパートを訪ね、メイ・パーカー(マリサ・トメイ)と短く言葉を交わしたあと、ピーターの私室で彼の自家製スーツを取り出し、「君を雇いたい」と直接持ちかける。ピーター・パーカーがMCUに初めて姿を見せる瞬間であり、のちの『スパイダーマン:ホームカミング』へと直結する重要な発火点となる。
チームが整うと、両陣営はライプツィヒ=ハレ空港の使われていない一区画で、生身をぶつけ合う。シベリアへ向かおうとするスティーブ側を、空港の滑走路で食い止めようとするトニー側、という構図だ。
ライプツィヒ=ハレ空港戦
ドイツ・ライプツィヒ=ハレ空港、午後の遅い斜光が滑走路を照らすなか、12人のヒーローが対峙する。トニーが呼びかけ、スティーブは沈黙したまま動かない。ヴィジョンが空港の管制塔から地上へ一本の線を引くと、その線の上で全員が足を止める。トニーが「最後の警告だ、スティーブ」と告げる。スティーブが盾を背負い直し、「悪いな、トニー、お前は俺の家族を撃てるか」と返す。その一言を合図に、滑走路は乱戦の舞台へと変わる。
戦闘は段階的に組み立てられている。前半はキャップ側の脱出を狙うサムの飛行と、アントマンの小型化が見どころだ。後半に入ると、ティチャラのバッキーへの執着、そして新顔スパイダーマンの登場が場の空気を一変させる。最終局面では、巨人化したアントマン(ジャイアントマン)がウォー・マシンとアイアンマンを地面に押し倒し、クライマックスを迎える。サムは「俺が知ってる戦いの中で、これが一番悪い」と漏らす。誰も殺したくはない。だが、誰も止まれない。
戦闘の途中、スティーブとバッキーがクインジェットへ向けて駆け出す。ナターシャは追っていたティチャラを止めず、ティチャラ自身がバッキーを追って踏み出す道をあえて開ける。ヴィジョンはサムを狙ったレーザーをわずかにそらすが、その一撃はサムの背後で旋回していたローディの胸部リアクターに直撃してしまう。出力を失ったローディは数千フィートから自由落下し、トニーも間に合わず、地面に激突する。脚と脊椎を損傷したローディは、下半身不随となる。本作が描く代償の中心は、この一瞬に生まれる。
戦闘に最終的な勝者はいない。捕縛されたサム、ワンダ、クリント、スコットの四人は、海上のスーパーマックス収容施設「ラフト」へと送られる。スティーブとバッキーはクインジェットでシベリアへ向かい、トニーはローディの病室で、計画になかった真実をようやく直視する。
シベリアのバンカー
シベリアの地下深く、放棄されたハイドラの冬季工作員養成施設に、スティーブとバッキーが到着する。単独で現地入りしたトニーも、サムから事前に情報を受け取って合流する。三人は休戦状態を保ったまま、保管区画の冷凍チューブを順に確認していく。そこに収められているはずだった五人の冬季工作員は、いずれも頭部に弾痕を残して、すでに殺されていた。
中央の制御室にはジモが座っている。トニーが銃を抜こうとした瞬間、ジモは穏やかに「俺はあなたたちを殺しに来たんじゃない、これを見せに来た」と告げる。再生されるのは、ハワード・スタークの自家用車に取り付けられた監視カメラの映像だ。1991年12月16日、雪のシベリア街道、ハワードの顔、マリアの首、そしてバッキーの黒い義手。最古の友人の手で自分の母が殺されていた——その事実を、トニーはこの場で初めて知る。
トニーの怒りが、生身の人間として爆発する。「お前は知っていたのか」とスティーブに問う。スティーブは黙る。『ウィンター・ソルジャー』の終盤から、彼はうすうす気づきながらも、バッキー本人と直接結びつけることを避けてきたのだ。トニーはアイアンマンのスーツを召喚し、バッキーへ襲いかかる。スティーブは盾を構え、最古の友人を母殺しの罪から守るため、最古の仲間と殴り合う。
三者の格闘は、地下バンカーの狭い廊下と階段室の中で延々と続く。トニーは「あの男は俺の母を殺した」と叫び、スティーブは「彼ではなく、ハイドラがやらせたことだ」と返す。やがてトニーがバッキーの左腕を切断し、立ち上がりかけたバッキーを、スティーブが背中で庇う。スティーブはトニーの胸部リアクターに盾を振り下ろし、スーツを機能停止に追い込む。そして黙ったまま盾を地面に置き、バッキーを連れて去っていく。盾の縁が氷の上で短く跳ねて止まる音は、シリーズ全体でもっとも長く尾を引く沈黙の一つである。
ラフト刑務所とワカンダ
海上の超重警備刑務所「ラフト」の独房に、サム、ワンダ、クリント、スコットの四人が収監されている。そこへトニーが訪れ、サムから「ジモはシベリアへ向かった」とだけ告げられる。トニーは単身で現地へ飛んだものの、そこで何を目にしたのかは捕らわれた仲間たちには知らされない。やがてスティーブが、一通の手紙と旧式の携帯電話を施設に届ける——「俺が必要になったら、これを鳴らせ」。短い手紙の中でスティーブは、なぜ協定に署名できなかったのか、そして署名を求める者たちを敵に回したわけではないことを、トニーに書き残している。
ジモはどうなったのか。シベリアの寒空の下、彼は家族の写真を見つめながら拳銃をこめかみに当てる。だが引き金は引かれない。あとを追っていたティ・チャラが彼を取り押さえ、ヴィブラニウムの爪で銃を奪い取るのだ。「復讐は人を喰い尽くす。私はもう喰われはしない」。静かにそう告げると、ティ・チャラはジモを国連当局へ引き渡す。こうしてジモは、生きたまま裁きの場へと送られる。
最後の舞台はワカンダ。父を失ったばかりの新国王ティ・チャラは、バッキーを王宮の地下医療区画に迎え入れる。バッキーは、自分の中に植えつけられたトリガー・ワードと、いまだ制御できない殺人の反射を恐れ、自ら望んで再び冷凍睡眠につくことを選ぶ。「ハイドラの暗示が頭から消える方法が見つかるまで、俺は眠っていたほうがいい」。冷凍チューブの扉が閉じる音とともに、本編は幕を下ろす。
ポストクレジット・シーンでは、クイーンズの自室にいるピーター・パーカーが、トニーから贈られた腕時計型のスパイダー・シグナルを天井に投影し、思わずほくそ笑む様子が短く描かれる。次なる物語『スパイダーマン:ホームカミング』への、正式なバトンタッチである。
登場要素
本作は12人のヒーローを一本に集めた、事実上のアベンジャーズ3作目だ。だが物語の核にあるのは二人の盟友の関係であり、世界各地で同時並行に進む政治劇でもある。ここでは主要な登場人物、舞台となる場所、組織、そして鍵を握る道具を整理しておきたい。
- スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)
- バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)
- サム・ウィルソン/ファルコン(アンソニー・マッキー)
- ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)
- クリント・バートン/ホークアイ(ジェレミー・レナー)
- スコット・ラング/アントマン/ジャイアントマン(ポール・ラッド)
- トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)
- ジェームズ・ローズ/ウォー・マシン(ドン・チードル)
- ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)
- ヴィジョン(ポール・ベタニー)
- ティチャラ/ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)
- ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド)
- ヘルムート・ジモ大佐(ダニエル・ブリュール)——本作の真の敵、ソコヴィア戦の遺族
- ブロック・ラムロウ/クロスボーンズ(フランク・グリロ)——冒頭で爆死
- 1991年のウィンター・ソルジャー(バッキー)——フラッシュバックの殺害者
- サディアス・E・ロス国務長官(ウィリアム・ハート)
- ティチャカ国王(ジョン・カニ)——ウィーンで死亡
- シャロン・カーター/エージェント13(エミリー・ヴァンキャンプ)
- メイ・パーカー(マリサ・トメイ)
- エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)
- ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー、回想的言及)
- アベンジャーズ
- 国連/117カ国によるソコヴィア協定の署名国群
- ジョイント・カウンター・テロリスト・センター(JCTC)
- ハイドラ(解体後・冬季工作員プログラム)
- ワカンダ王国・ドラ・ミラージュ周辺
- ラフト刑務所
- ナイジェリア・ラゴス
- アベンジャーズ本部(ニューヨーク州北部)
- オーストリア・ウィーン国連支部
- ルーマニア・ブカレスト
- ドイツ・ベルリン統合作戦本部
- ライプツィヒ=ハレ空港
- シベリアのハイドラ冬季工作員養成施設
- ラフト刑務所(海上)
- ワカンダ王宮(クライマックス)
- キャプテン・アメリカの星条旗の盾(ヴィブラニウム製)
- バッキーの金属義手(ハイドラ製サイバネティック)
- EXO-7ファルコン・スーツ+レッドウィング
- アイアンマン Mark XLVI
- ウォー・マシン Mark III
- ピーターの自家製ウェブシューターとトニー謹製スパイダースーツ
- アントマン/ジャイアントマンのピム粒子スーツ
- ヘルムート・ジモが用いたバッキーのトリガー・ワード
- 1991年のシベリア街道の監視カメラ映像
- ソコヴィア協定原本
- スーパーソルジャー血清と1991年の派生サンプル
- ヴィブラニウムの吸収・反射特性(盾とパンサースーツ)
- ピム粒子による拡大・縮小
- ハイドラのトリガー・ワードによる暗示制御
- ヴィジョンのマインド・ストーン由来のエネルギー
- ワンダのカオス・マジック未呼称段階の念動・エネルギー操作
- ワカンダでのバッキーの再冷凍シーン
- ピーター・パーカーが受け取ったスパイダー・シグナルの腕時計
13主要登場人物
本作の人物配置は、十人を超えるヒーローの組み合わせを並べた相関図ではない。スティーブ・ロジャースとトニー・スタークという二人の盟友、その関係を中心軸に据え、周囲には「どちらの側に立つのか」を突きつけられる面々を配する形で組み立てられている。新たに加わったティチャラとピーター・パーカーは、後の単独作への布石でありながら、本作の中だけでも一人の人物として完璧に成立する役割を担っている。
スティーブ・ロジャース/キャプテン・ア…
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)から数えて五本目の主要出演となるクリス・エヴァンス演じるスティーブ・ロジャースは、本作で初めて「組織を完全に拒む」段階へと踏み込む。第一作で軍に手を入れ、第二作で国家機構の腐敗を直視し、そして本作で国連協定への署名を拒絶する——三部作の精神的な幕引きは、自由意志に踏みとどまる一人の男の姿で締めくくられる。
彼の選択の核心は政治理論ではない。最古の友バッキー・バーンズへの忠誠である。1940年代のブルックリンでともに育った相手を、二十一世紀の国家機構が「テロリスト」として撃つ——それを許せないという極めて個人的な縦軸が、協定をめぐる議論という横軸の上に重ねられる。終盤、スティーブが盾を地に置いて去る場面は、星条旗の盾という象徴の所有権を、自らの手でいったん返上する所作にほかならない。
クリス・エヴァンスは本作の時点で、契約上残されたMCUへの主要出演枠が少なくなっており、彼の役者人生における長期的な区切りが、本作の沈黙のうちに静かに準備されている。
トニー・スターク/アイアンマン
ロバート・ダウニー・Jr.演じるトニー・スタークにとって、本作は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で犯した罪を背負い、ようやくその罰を引き受けようとする男の物語である。冒頭、MITでの寄付講演を終えたトニーは、ミリアム・シャープから息子チャーリーの写真を手渡される。自らの発明が奪った若者の名を、生身の人間として初めて突きつけられる瞬間だ。協定への即時署名を支持する彼の選択は、政治的な計算ではない。抱え込んだ罪悪感の、裏返しなのである。
クライマックスで、トニーはバッキー・バーンズの黒い義手が母マリアの首を絞める映像を、最古の盟友の前で目にする。彼にとってこの映像は、母が殺された事実が明かされること以上に、もう一段深い裏切りとして響く。最古の友人が、うすうす知りながら自分に告げずにいた——その事実がだ。スティーブの盾を全力で殴り続けるラスト10分は、もはやヒーロー映画の身体表現ではない。家族の修羅場を描く、人間ドラマの身体表現に近い。
ダウニー・Jr.は本作で初めて、トニー・スタークの内に潜む少年——母を奪われた12歳の子供——を、フェイス・タトゥーのように画面に貼り付けて演じてみせた。
バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジ…
『ザ・ファースト・アベンジャー』で死んだはずだったブルックリンの幼馴染が、『ウィンター・ソルジャー』ではハイドラの暗殺工作員となって姿を現し、本作で「自分自身を取り戻そうとする男」へと転じる。セバスチャン・スタンは、無表情と微笑のあいだに微妙な階調を置き、トリガー・ワードを浴びた瞬間に眼球がふっと暗転する一瞬を、観客の側にまで届く繊細さで演じ分けてみせた。
本作の彼は、ハイドラに利用された過去の自分の罪を、自らの意思で引き受けようとする。最後にたどり着くのがその選択だ。ワカンダの冷凍チューブに自ら入るのは、「他人を殺さないために、まず自分を眠らせる」というほとんど宗教的な決断であり、そこから先の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『サンダーボルツ*』へと続く長い回復の旅路の起点となる。
関連リンク
ティチャラ/ブラックパンサー
ワカンダ王ティチャカの息子であり、ウィーンでの爆破テロで父を失った直後に王位を継ぐ青年。本作はチャドウィック・ボーズマンのMCU初登場であり、後の単独作『ブラックパンサー』(2018)へ向けたあらゆる布石が、ここで一気に打たれた。ヴィブラニウム合金製のパンサースーツ、ヴィブラニウムの爪、そして「沈黙のなかに宿る強さ」というキャラクター像は、本作のブカレスト追跡劇でほぼ完成の域に達している。
本作で彼が下す最大の決断は、ジモへの復讐を捨てる場面である。父を失ったばかりの彼が、シベリアの凍てつく屋外で、銃口を自らの頬に当てたジモからその銃を奪い取り、生かしたまま当局に引き渡す——この一連の所作だけで、のちのワカンダ王が貫く倫理が定まる。2020年8月にこの世を去るまで、ボーズマンの活躍期間は決して長くはなかった。だが本作は、彼のMCUにおける出発点として、消えることのない重要な意味を持ち続けている。
ピーター・パーカー/スパイダーマン
ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオの共同製作合意(2015年2月)を受けて、ピーター・パーカーがついにMCUへと足を踏み入れる。トム・ホランドは当時19歳、撮影時は18歳。彼が演じたのは「クイーンズに暮らす15歳の高校生」としてのピーターであり、過去二度の実写化——サム・ライミ版、マーク・ウェブ版——とは一線を画す解釈を打ち出した。
メイ・パーカー(マリサ・トメイ)と暮らすクイーンズのアパートで、ピーターはトニーに見いだされ、ライプツィヒ=ハレ空港での戦いに送り込まれる。奪い取ったキャプテン・アメリカの盾を嬉々として眺める瞬間、『帝国の逆襲』へのオマージュとして語る「巨大な歩く戦車」のくだり、アントマンに弾き飛ばされ、今にも泣き出しそうな声で「先生、もう帰ってもいいですか」とこぼす場面——そのどれもが、クライマックスの重苦しさを和らげる、軽やかな少年像の名場面となっている。
ヘルムート・ジモ大佐
コミック版『シビル・ウォー』には登場しない、本作独自の解釈で再構築されたヴィランである。原典のジモはハイドラの貴族系超人兵で、派手な紫の覆面をまとう。だが本作のジモは、ソコヴィア出身の元軍人であり、ソコヴィア戦で家族を失った一人の人間として描き直された。超人的な戦闘力は持たない。彼の唯一の武器は、ヒーローたちの内側の関係を読み解く計算能力なのだ。
彼の計画は、もっとも皮肉な意味で完璧に成就する。シベリアで五人の冬季工作員を起こすと見せかけ、トニーとスティーブを差し向かいに立たせ、最古の盟友どうしを正面から殴り合わせる。こうしてシリーズの中心にある関係を、内側から崩壊させていく。爆発も超能力も使わず、ただ倫理だけを操るたった一人のテロリスト——本作の脚本上の発明は、この敵役の造形に凝縮されている。
ダニエル・ブリュールは『イングロリアス・バスターズ』『ラッシュ/プライドと友情』で知られるドイツ系の俳優である。本作での演技は控え目だが、終始体温の低い、危うさをまとったものだ。彼は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にも再登場し、ジモの皮肉と、あの踊りの一面を世界に焼き付けてみせた。
舞台と用語
舞台はラゴス、ウィーン、ブカレスト、ベルリン、ライプツィヒ、シベリア、海上の監獄船、そしてワカンダ王宮へと移ろう。前作『ウィンター・ソルジャー』が築いた地政学スリラーの骨格を引き継ぎながら、本作はさらに踏み込み、ヒーローたちの関係性そのものへと視点を下げていく。物語を貫く鍵は四つに整理できる。「ソコヴィア協定」「トリガー・ワード」「ヴィブラニウム」「ハイドラ冬季工作員プログラム」である。
ソコヴィア協定は、国連加盟117カ国が署名した多国間条約で、超人能力者の活動を加盟国の管理下に置くと定めている。本作最大の争点であり、シリーズのなかでも『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『ブラック・ウィドウ』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』へと長く尾を引く論点となる。
トリガー・ワードは、ハイドラがバッキー・バーンズを冬季工作員として操るためにロシア語で植えつけた十語の起動コードである。本作で明かされた語の並びは「longing, rusted, seventeen, daybreak, furnace, nine, benign, homecoming, one, freight car」。これ以降、トリガーを解除する治療がワカンダで進められていく。
ヴィブラニウムは、本作で初めてキャプテン・アメリカの盾以外の二つの巨大な用途として画面に揃う。ひとつはワカンダ製パンサースーツの全身を覆う合金、もうひとつはジモが用いた1991年の映像に映る、アダマンチウム時代以前のサンプルだ。『ブラックパンサー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』へと連なるヴィブラニウム神話の足場が、本作で大きく広がっていく。
21制作
本作の製作は、MCUフェーズ3の幕開けとして、シリーズの三本柱――『キャプテン・アメリカ』三部作の完結、二大ヒーローの対立、そして新世代キャストの導入――を一本に集約するという、極めて重い使命を背負っていた。その重圧を支えたのが、前作『ウィンター・ソルジャー』で確かな手応えを残したルッソ兄弟の演出であり、脚本のマルクス&マクフィーリーが見せた構成の制御力だった。
企画と脚本
マーベル・スタジオは、2014年4月に『ウィンター・ソルジャー』を公開した直後、ルッソ兄弟とマルクス&マクフィーリーに次回作の企画を託した。同年10月にロサンゼルスで開かれたイベントで、ケヴィン・ファイギは『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』というタイトルと、アイアンマンの参戦を正式に発表する。当初は、バッキー・バーンズの過去とハイドラの残党を主題にした小規模な三作目という構想だった。だが、ファイギとロバート・ダウニー・Jr.の交渉を経て、脚本はトニー・スタークを正面に据え、ソコヴィア協定を軸とする「二大ヒーローの衝突」へと一気にスケールアップしていった。
脚本上の構造的な発明は、ジモを「超人ヴィランではなく、シリーズの罪を背負った一人の遺族」として再定義した点にある。原作のクロスオーバー大作は、登場ヒーローが百人を超え、最終的にキャップが死ぬという結末を持つ。だが本作はその拡大ではなく圧縮を選び、12人と一人の遺族、そして1991年のVHSという構成へ削り込んだ。脚本陣はインタビューで「我々はクロスオーバー戦争を描かなかった、家族の崩壊を描いた」と語っている。
ヴィジョンの誤射でローディが半身不随になる――この脚本上の決断は、ライプツィヒ=ハレ空港戦の高揚感に「決定的な代償」を挟むため、第3稿の段階で書き加えられた。観客がライプツィヒ=ハレ空港のお祭り騒ぎに完全に乗り切ったあとで、その対価を生身の身体で支払わせる。そういう構造である。
キャスティング
前作『エイジ・オブ・ウルトロン』までの主要キャスト、エヴァンス、ダウニー・Jr.、ヨハンソン、レナー、ラッド、ベタニー、オルセン、チードル、マッキー、スタン、グリロ、ハート、トメイ、ファヴローはほぼ全員が続投した。新たに加わったのは、ティチャラ役のチャドウィック・ボーズマン、ピーター・パーカー役のトム・ホランド、ジモ大佐役のダニエル・ブリュール、エヴェレット・ロス役のマーティン・フリーマンの四人である。
ピーター・パーカー役は、ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオが共同製作で合意(2015年2月)したのち、2015年6月に発表された。ティチャラ役のチャドウィック・ボーズマン起用が明かされたのは2014年10月のフェーズ3発表会で、本作が彼のMCU初登場となる。ジモ役のダニエル・ブリュールの参加は2015年4月に発表された。コミックの紫の覆面ではなく、ヨーロッパの元軍人という地味な造形へと再構成されている。
本作は、故ウィリアム・ハート(2022年逝去)にとって『インクレディブル・ハルク』(2008)以来となる本格的なMCU再登場でもある。ロス国務長官の長い影が、ここで初めて『アベンジャーズ』本流へ正式に接続されるのだ。
撮影とプロダクション
主要撮影が始まったのは2015年4月27日、ジョージア州アトランタのパインウッド・スタジオ・アトランタである。同年8月19日にクランクアップした。撮影はアトランタを拠点としながら、ベルリン、ライプツィヒ=ハレ空港、ラゴスの代わりとなったプエルトリコ、シベリア街道を代行したレイキャビク、そしてニューヨークの一部にまで及んだ。
クライマックスの戦闘が繰り広げられるライプツィヒ=ハレ空港の場面は、実際の同空港で使われていないターミナル区画を借り切って撮影された。12人のヒーローが一つのフレームに同時に収まるショットは、ルッソ兄弟が長く撮りたいと願ってきた絵だ。各俳優のスケジュール調整は、撮影開始の数ヶ月前から動き出していた。
撮影監督のトレント・オパロックは『ウィンター・ソルジャー』からの続投である。本作でも自然光と硬めの影、肉体の重さを伝える低いカメラ位置を貫いた。シベリアのバンカー戦の閉所感、ライプツィヒに差す白い昼光、ラゴスの埃と日差し——三つの異なる光線条件を一本のなかで使い分けてみせた手腕は、シリーズ全体でも屈指の達成といえる。
視覚効果
視覚効果は、Industrial Light & Magic(ILM)、Method Studios、Trixter、Lola VFX、Cinesite らが分担して手がけた。なかでも見どころとなるのが、ライプツィヒ=ハレ空港での戦いを彩る12人もの合成、アントマンが巨大化したジャイアントマンの全身CG、そしてシベリアのバンカー戦で描かれるアイアンマン Mark XLVIのリアルタイムな着脱合成である。
1991年12月16日のフラッシュバックでは、当時59歳だったロバート・ダウニー・Jr.の顔を、若き日のトニー・スターク(実年齢にして20代前半)へと若返らせる、Lola VFXによる大がかりなフェイシャル・ディエイジングがほどこされた。MCUのディエイジングの歴史でもとりわけ目を引く成果であり、本作以降は『ローガン』『アイリッシュマン』と並ぶ、業界内の参照例となっている。
ジャイアントマンの体格は身長およそ20メートル、空港戦の一画を上から見下ろすほどのスケールで作り上げられた。アントマン側のピム粒子の振る舞いは、前作『アントマン』(2015)の論理を引き継いだもので、本シリーズで本格的な「巨大化」が画面に立ち上がったのは、本作が初めてである。
音楽と音響
音楽を手がけたのはヘンリー・ジャックマン。前作『ウィンター・ソルジャー』からの続投で、本作でも「キャプテン・アメリカ」のテーマと「ウィンター・ソルジャー」の冷ややかな低音モチーフを軸に据えつつ、新たなテーマ群を織り込んでいる。空港での戦闘シーンでは、トランペット系のヒロイックなモチーフをあえて抑え、打楽器を中心とした前へ前へと刻むリズムで構成した点が耳に残る。
シベリアの基地での戦いの終盤、ハワード・スターク殺害の映像が再生される直前から、音楽はほぼ姿を消す。残されるのはスティーブとトニーの対話、トニーの呼吸、そしてバッキーの沈黙の三つだけ。音楽が戻ってくるのは、盾が氷の上に置かれるその瞬間からである。クライマックスの約10分をほぼ無音で押し通す——これこそが、本作のサウンドデザインにおける最大の決断だった。
サウンドミックスはトム・ジョンソンとフランク・モンタニョ、音響編集はリーゼ・ナーディが担当した。
編集とポストプロダクション
編集を手がけたのはジェフリー・フォードとマシュー・シュミット。前作『ウィンター・ソルジャー』、そして『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』に続き、今回もフォードが主担当を務めた。147分という上映時間も、当初のラフカット段階では2時間半を超えていたという。ライプツィヒ=ハレ空港での戦いでは、各キャラクターの「見せ場の最低単位」を確保しつつ、全体のリズムをいかに保つか——これが最終ポスト段階での最大の課題だったと、フォードはインタビューで明かしている。
シベリアのバンカー戦、そのラスト10分は、いくつもの編集案が試された箇所として知られる。最終版で選ばれたのは、1991年のVHS映像が再生され、トニーが「あの男は俺の母を殺した」と漏らし、激しい格闘へとなだれ込み、やがてスティーブが盾を置いて去っていく——この一連の流れを、音楽を一切排して一気に押し切る構成だった。
ポストクレジットの二段構成、すなわちワカンダで再び冷凍されるバッキーと、クイーンズに戻ったピーターの場面は、続く『スパイダーマン:ホームカミング』『ブラックパンサー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』——この三本へ同時に橋を架ける助走線として、撮影最終週まで案が練り続けられた。
28公開と興行
日本公開は2016年4月29日、米国公開は2016年5月6日。サマー・ブロックバスター・シーズンの先陣を切って封切られ、北米初週末の興収は約1億7920万ドル、世界初週末は約3億5750万ドルを記録した。最終的な全世界興行収入は約11億5300万ドルに達し、2016年の年間世界興収1位に輝いた。
北米の最終興収は約4億820万ドル、海外の最終興収は約7億4480万ドル。北米外では中国、英国、ブラジル、メキシコが大きな数字を叩き出した。製作費約2.5億ドルに宣伝費を加えても、シリーズ史上有数の収益作の一本に数えられる。
批評面でも高い評価を得た。ロッテン・トマトの批評家支持率は90%、メタスコアは75点、CinemaScoreはA。脚本の構造、12人のヒーローを一本の物語に束ねる手腕、空港でのバトルの演出、シベリアの密室劇が放つ重み、そしてジモ大佐という脚本上の発明が、批評家から繰り返し称賛された。後年の比較記事でも、MCU三大傑作の一本として『ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と並び挙げられることが多い。
29批評・評価・文化的影響
本作の文化的影響は、シリーズの内外を問わず計り知れない。まず特筆すべきは、ピーター・パーカーとティチャラを同時にMCUへ送り込んだ作品としての価値だろう。トム・ホランド版スパイダーマンも、チャドウィック・ボーズマン版ブラックパンサーも、後の単独作はいずれも文化的にも興行的にも巨大な成功を収めた。だが、その出発点はすべて本作のライプツィヒ=ハレ空港での激突と、凍てつくシベリアの屋外にある。
第二に、本作はヒーロー映画の文法を、肉体のぶつかり合いだけでなく倫理的な選択にまで押し広げた一本として、後年の作品に長く参照されてきた。スーパーマンとバットマンを対峙させた2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』としばしば比べられるが、「家族の崩壊」として描いた本作の射程の方が観客に届きやすかった——業界内ではそうした評価につながっている。
第三に、ソコヴィア協定という政治的な枠組みは、その後の世界観を支える長期的な装置となった。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『ブラック・ウィドウ』(2021)、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)、そして『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025)に至るまで、その効力は長く保たれていく。協定が正式に廃止される瞬間は、シリーズ内ではまだ完全には描かれていない。
第四に、ロバート・ダウニー・Jr.演じるトニー・スタークが、ハワード・スターク殺害の真相を知る——この展開である。これは後の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)の結末、トニーが指を鳴らして命を落とす場面に倫理的な厚みを与える伏線として、直接的に機能した。シリーズの長期的な構造を見渡しても、もっとも重要な布石の一つといえる。
舞台裏とトリビア
本作のタイトル『Captain America: Civil War』は、マーク・ミラーが手がけた『シビル・ウォー』(2006-2007)に着想を得ているが、登場人物の数も結末も、コミック版とは大きく異なる。コミックでは最終的にキャプテン・アメリカが暗殺される。だが本作のキャップは生き延び、ワカンダへと亡命する。
トム・ホランド演じるピーター・パーカー/スパイダーマンがMCUに初登場する、記念すべき一本でもある。オーディションは2015年4月から6月にかけて行われ、最終候補にはチャーリー・プラマーら若手俳優も名を連ねていた。撮影が始まった時点で、ホランドは18歳だった。
チャドウィック・ボーズマン演じるティチャラ/ブラックパンサーがMCUに初めて姿を見せた作品でもある。ボーズマンへのワカンダ語の発音指導は本作の段階から始まり、そのまま後の『ブラックパンサー』(2018)へと受け継がれた。彼は2020年8月、大腸癌のため若くしてこの世を去っている。
ジモ大佐を演じたダニエル・ブリュールは、紫の覆面をまとったコミックのジモとは大きく異なる解釈で本作に登場した。その後『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)で本格的に再登場し、コミックさながらの紫の覆面と「ジモ・ダンス」の遊びを、たっぷりと見せている。
ライプツィヒ=ハレ空港での戦いでは、撮影段階で12人のキャラクターの一部をつなぎ合わせる形で、ビデオ・スタンドインが使われた。一方、トム・ホランドとロバート・ダウニー・Jr.は、実際の現地撮影で同時に同じフレームに収まっている。
1991年12月16日という日付は、ハワードとマリア・スタークの命日として、本作以降のMCUの設定資料で公式に固定された。後の『ブラック・ウィドウ』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』のフラッシュバックの設計とも、きちんと整合している。
本作の制作中、ルッソ兄弟はマーベル・スタジオから次回作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』の監督オファーを受け、本作のクランクアップ直後から両作のプリプロダクションへと移っていった。MCUフェーズ3後半の四本(『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』)を続けて撮り上げた、ほぼ唯一の監督チームである。
31テーマと解釈
中心となる主題は「責任の形は誰が負うのか」という問いである。ソコヴィア協定は、その表向きの議題にすぎない。国際法の枠組みでヒーローの行動を縛れば、「犠牲となった無辜の市民」は報われるのか——本作はこの問いを正面から突きつける。トニーはイエスと答え、スティーブはノーと答える。だがどちらも完全には正しくない。二人の倫理的立場に優劣をつけることはせず、その答えを身体と身体の衝突に委ねている点が本作の核心だ。
もう一つの軸は「家族の崩壊」である。本作の「シビル・ウォー」は、政治的内戦の縮図ではなく、家族の喧嘩を引き伸ばした図として撮られている。スティーブとバッキー、トニーと母、ティチャラと父——血と義理と過去が、すべての登場人物の選択の根底に横たわる。最終局面で殴り合うのは政治家ではなく、二人の盟友だ。互いを傷つける武器も、銃ではなく盾と拳である。
三つ目の軸は、十年来温められてきた「ハワード・スターク」というMCU最古層の伏線の回収である。『アイアンマン2』『アベンジャーズ』『エイジ・オブ・ウルトロン』を通じて、ハワードは「トニーが折り合いをつけきれない父親」として再三立ち現れてきた。本作はそのハワードを、トニーの中で「殺された人間」として固定する。トニーが父の息子から「孤児」へと変わる場面は、シベリアの凍てつくバンカーに置かれている。
視覚面でも本作は周到だ。ラゴスの埃色、ウィーンの白い大理石、ブカレストの夜の青、ライプツィヒの白昼の太陽、シベリアの氷の青、そしてワカンダの紫——その色彩設計は、ヒーロー映画にありがちな派手な原色を意図して抑え、地政学的な現実感をたたえた色温度で全編を統一する。最後にワカンダだけが王宮の温かな紫を残す。その静かな到達が、画面の余韻として刻まれている。
32見る順番
本作はMCUフェーズ3の幕開けであり、事実上のアベンジャーズ3作目にあたる。初めて観るなら、まず『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)でスティーブとバッキーの絆を確かめておきたい。続く『アベンジャーズ』(2012)ではスティーブとトニーが最初にぶつかり合い、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)でバッキーの再登場と国家機構への不信が描かれる。さらに『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)でソコヴィア戦の罪を、『アントマン』(2015)でスコット・ラングの人物像を押さえておくとよい。これらを順に追ってから本作へ入るのが理想的な道筋である。
本作の直後に控えるのは、『ドクター・ストレンジ』(2016)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)、『ソー:ラグナロク』(2017)、『ブラックパンサー』(2018)、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)だ。本作で生まれた亀裂は、その後も尾を引く。形式的に修復されるのは、『インフィニティ・ウォー』冒頭でブルース・バナーがアベンジャーズ本部の電話番号を伝える、あの瞬間まで待たねばならない。
「キャップ三部作」として味わいたいなら、『ザ・ファースト・アベンジャー』『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』の順がよい。スティーブ・ロジャースが自由意志を確立し、やがて星条旗の盾の所有権を一度返上するまでの軌跡を、一気に体験できる構成だ。
33よくある質問
「あらすじだけ知りたい」場合は、ラゴスの誤爆→ソコヴィア協定発効→ウィーン爆破でバッキーがテロリストとされる→ブカレスト追跡劇でブラックパンサー初登場→ベルリンでジモがトリガー・ワードを起動→両陣営の編成(スパイダーマン初登場含む)→ライプツィヒ=ハレ空港戦でローディが半身不随に→シベリアのバンカーで1991年のハワード・スターク殺害の真実→シベリア決闘→ラフト収監とワカンダでのバッキー再冷凍、という流れを押さえれば十分である。
「結末・ネタバレを知りたい」場合は、ジモ大佐の本当の目的が「ヒーローを内側から壊すこと」だったこと、シベリアで再生されるVHSテープが1991年12月16日のハワード&マリア殺害映像であること、最終決闘でスティーブが盾を地面に置いて去り、ティチャラがジモを生かしたまま当局に引き渡し、バッキーが自ら望んでワカンダで再冷凍に入ることが核となる。
「評価を知りたい」場合は、批評90%・観客評A・世界興収11.53億ドルでフェーズ3の最大級成功作、MCU三大傑作の一本と位置づけられている、と整理できる。「見る順番」では、『ザ・ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『ウィンター・ソルジャー』『エイジ・オブ・ウルトロン』『アントマン』を観てから本作、続いて『ホームカミング』『ブラックパンサー』『インフィニティ・ウォー』へ進むのが最もスムーズな視聴順となる。
34参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、配信状況、外部からの評価は時とともに変わりうるため、視聴前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。