アンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが、星条旗の盾を継いだ「新しいキャプテン・アメリカ」として最初の単独映画で対峙するのは、合衆国大統領となったサンダーボルト・ロスと、闇に眠っていた怪物——MCUフェーズ5の終章、レッド・ハルクとアダマンチウムが地上に降りてくる一作。

基本データ 2025年・ジュリアス・オナー監督

マーベル・スタジオ製作、ディズニー配給。長編『裏切りのサーカス』『The Cloverfield Paradox』『Luce/青年は深い夜に』で評価を得たナイジェリア系米国人ジュリアス・オナーが監督を務め、五人の脚本家がクレジットされる118分のポリティカル・アクション。サム・ウィルソンが盾を引き継いでからの単独主演映画第一作であり、第86回ゴールデン・ラズベリー賞の有力候補・最高評価議論まで含む賛否両論を世界中で巻き起こした。

物語上の位置 『エターナルズ』後の世界・新大統領就任直後

物語は『エターナルズ』ラストで地球から立ち上がりかけて死亡した天空巨人ティアマトの遺体(インド洋上に出現した「セレスシャル島」)を巡る国際政治と、その遺骸から採掘される金属アダマンチウムを、新大統領サディアス・E・ロスが多国間条約で扱おうとする現在進行形の合衆国を舞台にする。直接の前作は『マーベルズ』、次へ繋がるのは『サンダーボルツ*』、そしてMCUのX-MEN導入の地ならしを兼ねた一本である。

受賞・評価 賛否両論、しかし興行は健闘

公開時のメタスコアは40点台、ロッテン・トマトの批評家評は約4割と低調で、追加撮影とリシュート歴を抱えた製作経緯への批判も多かった一方で、観客評は7割を超え、最終的に世界興収約4.15億ドルとフェーズ5の主要作の一つの数字を残した。アンソニー・マッキーの誠実な主演ぶり、ハリソン・フォードがMCUへ参入したという事実そのもの、そして長く待たれていた「レッド・ハルク」の実写化が個別の称賛点として挙がる。

この記事の範囲 結末・レッド・ハルク・ミッドクレジットを含む完全解説

オアハカでアダマンチウム強奪を阻止する冒頭、アイザイア・ブラッドリーらのスリーパー暗殺未遂、サミュエル・スターンズが裏で動かしてきた十六年、セレスシャル島を巡る日米衝突、ホワイトハウス南庭でのレッド・ハルク化、サムによる説得と幕引き、そしてラフト刑務所でスターンズがサムに「彼らは来る」と告げるミッドクレジットまで、すべてのネタバレを前提に解説する。

目次 34項目 開く

概要

『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(Captain America: Brave New World)は、ジュリアス・オナーが監督し、ロブ・エドワーズ、マルコム・スペルマン、ダラン・マッソン、ジュリアス・オナー本人、マシュー・オートンの五人が脚本クレジットを共有するアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。シリーズ通算第35作にあたり、アンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが正式に「キャプテン・アメリカ」として単独主演を果たす最初の長編作品である。

米国・日本ともに2025年2月14日に劇場公開された。タイトルはもともと『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』として発表されていたが、2023年9月のディズニーD23段階で『ブレイブ・ニュー・ワールド』に改題された。撮影本編は2023年3月から6月にかけて行われ、その後2024年に大規模な追加撮影とリシュートを経て、118分の最終形へと整えられた。製作費は当初予算から追加撮影分が積み増され、最終的に約1.8億ドル前後と報じられている。

本作はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ5に属するポリティカル・アクションであり、シリーズの「キャプテン・アメリカ」三部作(『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』)の精神的続編として、政治スリラーの手触りで構築されている。物語の中心に据えられるのは、『マーベルズ』後の世界で新たに合衆国大統領に就任したサディアス・E・ロス(ハリソン・フォード)と、その身体の奥に眠っていたガンマ照射の代償としての「レッド・ハルク」、そして十六年前の『インクレディブル・ハルク』で頭部にガンマ汚染を受けたまま画面から消えていたサミュエル・スターンズ(ティム・ブレイク・ネルソン)の復帰である。

本記事は、本編の結末、レッド・ハルク戦の決着、サミュエル・スターンズの「リーダー」としての復活、そしてラフト刑務所でのミッドクレジット・シーンを含むネタバレを完全に前提として書かれている。物語の驚きを保ちたい読者は、本編を一度通して観てから戻ってきてほしい。

原題
Captain America: Brave New World
監督
ジュリアス・オナー
脚本
ロブ・エドワーズ/マルコム・スペルマン/ダラン・マッソン/ジュリアス・オナー/マシュー・オートン
原作
マーベル・コミック(ジョー・サイモン/ジャック・カービー)
音楽
ローラ・カープマン
米国公開
2025年2月14日
上映時間
118分
ジャンル
スーパーヒーロー、ポリティカル・スリラー、アクション

あらすじ

以下は結末とミッドクレジット・シーンを含む全編のあらすじである。本作は、サム・ウィルソンが新キャプテン・アメリカとして初めて単独で対峙する「合衆国そのもの」の物語であり、十六年前の『インクレディブル・ハルク』のラストで取り残されたままだった一本の糸を、世界の地政学のレベルまで引き上げて回収する。

メキシコ・オアハカ——アダマンチウム強奪を阻止する冒頭

オープニングはメキシコ・オアハカの夜である。サム・ウィルソンとその新しい相棒となった空軍中尉ホアキン・トーレス——『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』終盤からサムの旧称「ファルコン」を引き継いだ若手の飛行スーツ装着者——が、サーペント・ソサイエティの首魁サイドワインダー/セス・ヴォエルカー(ジャンカルロ・エスポジート)が深夜の倉庫で進めている強奪取引を阻止するべく潜入する。サイドワインダーが買い手に渡そうとしているのは、政府保管庫から盗み出された奇妙な金属サンプルの入った装甲ケースだった。

倉庫の屋根からダイビングして突入したサムは、ヴィブラニウム合金製のキャプテン・アメリカ・ウィングスを開きながら、まず警備の一団を捌く。トーレスは新型のジェット・パックで上空から制圧射撃に回り、二人は連携して取引現場へ降りる。サムの戦い方は、スティーブ・ロジャースのような正面突破ではなく、ウィングスの反射で銃口の角度を変え、相手の力を逸らして無力化する、もっと身軽で曲線的な戦闘である。

ケースを取り戻したサムは、その中身が「アダマンチウム」と仮称される金属のサンプルだと知らされる。出所は『エターナルズ』のラストで地球の地殻を破って立ち上がりかけ、命を絶たれて永遠に固化したまま海面に屹立する天空巨人ティアマト——通称セレスシャル島の遺骸である。世界はこの巨大な金属塊から、すでに小規模な採掘を始めていた。サイドワインダーは取り押さえられ、サムとトーレスはケースを携えて夜のオアハカから帰国の途につく。

アイザイア・ブラッドリーとの再会、新大統領ロスの招待

ワシントンD.C.の閑静な住宅街、サムは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で交流の始まった先代の「忘れられたキャプテン・アメリカ」アイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)を訪ねる。朝鮮戦争期に米軍が黒人兵に対して秘密裏に行った血清実験の被験者であり、長い投獄を経て解放された老兵である。サムは、新たに合衆国大統領に就任したサディアス・E・ロスからの招待状を、アイザイアの分まで携えてやってきた。ロス政権がアダマンチウム取り扱いを巡る国際条約を発表するため、新キャップとアイザイアを「歴史的な瞬間の証人」として呼びたいというのである。

アイザイアは長年米国を信じない理由を抱えてきた老人だが、サムの説得を受けて、孫娘とともにホワイトハウスへ赴くことを承知する。サムにとってこの場は、自分が掲げる星条旗の盾と、自分以前にその重みを背負わされた一人の黒人兵の存在を、新政権の前に並べて見せるための、極めて個人的な祈りでもある。

ホワイトハウスでサムを出迎えるのは、ロス政権のセキュリティ・アドバイザー、ルース・バット=セラフ(シーラ・ハース)。イスラエルのモサド出身の元工作員で、ロスの最側近の一人である。彼女はサムに、合衆国・日本・フランス・インド・メキシコを含む多国間条約の輪郭を説明する。条約の眼目は、セレスシャル島で採取されるアダマンチウムの採掘・分配の管理を、ロス政権主導の国際枠組みで一括管理することにあった。

暗殺未遂——ホワイトハウスでの「アイザイアの引き金」

条約発表の式典が始まると、ロス大統領は日本国首相小崎拓海(平岳大)と握手しながら、世界の指導者たちにアダマンチウム協定の意義を語る。広間ではジャズ・スタンダード「ミスター・ブルー」(ザ・フリートウッズ、1959年)の柔らかな音色が流れている——ところが歌詞が二度目のリフレインに入った瞬間、観客席の数人が突然立ち上がり、ジャケットの内側から拳銃を抜く。発砲する手は震えながらも止まらない。撃ったのは、サムが招いたアイザイア・ブラッドリーだった。

サムは反射的に飛び出してロスを庇い、暴発する銃弾の軌道をウィングスで弾く。一発はロスの肩に当たるが致命傷ではない。サムは犯人たちを取り押さえる一方、アイザイアを傷つけないよう細心の力加減で制圧する。終わったあと、アイザイアは「俺は何も覚えていない、なぜ俺がこんなことを」と虚ろな目で呟き、自分の手の中の銃をようやく認識して取り落とす。

シークレットサービスはその場でアイザイアを連行し、メリーランド州のスーパーマックス級政府施設へ送致する。ロスは応急処置を受けたあとも執務を続け、「これは外国勢力の介入だ」と非公式に主張する。サムは「アイザイアは長年米国を信じない理由は山ほどあるが、自ら銃を執るような人間ではない」と確信し、ホアキン・トーレスとともに独自捜査に踏み込む。あの場で流れていた「ミスター・ブルー」が、暗示の引き金として用いられた疑いが急速に濃くなっていく。

ルース・バット=セラフと、コードネーム「ミスター・ブルー」

トーレスの調査により、銃を抜いた数名のうち何人かは過去の軍歴に共通点があった——いずれも、ある秘匿された政府医療プログラムを受診した過去がある。サムは、ロスの個人アドバイザーであるはずのルース・バット=セラフに対しても警戒を解かないまま、彼女に協力を求める。ルースは表向きはロスの忠臣だが、実は彼女自身が「ウィドウ」プログラム——本作中では「レッド・ルーム」の派生形ではなく、イスラエル側の独自工作員養成プログラムとして再構成されている——の出身であり、長く合衆国情報機関のあいだで身分を綴り直してきた人物だった。

ルースはサムに、ロスが在任中に水面下で進めてきた「ザ・リーダー」と呼ばれる極秘の助言体制の存在を漏らす。十六年前の『インクレディブル・ハルク』事件の直後から、ある一人の科学者が、ホワイトハウス直属のブラックサイトに収容されたまま、ロスのために世界規模の予測モデルを供給し続けていた。その科学者の本名は、サミュエル・スターンズ。コードネームは「ミスター・ブルー」——フリートウッズの楽曲のタイトルと符合する。

サムは、その場で流れていた音楽そのものがトリガーであった可能性に思い当たる。アイザイアたちは、暗号化された聴覚刺激を埋め込まれたまま長らく日常生活を送り、特定の楽曲のメロディと和声を聞いた瞬間に行動を発動するように条件付けされていた。誰がそれを仕込んだのか——スターンズ以外にいない、と二人は確信する。

ブラックサイトの「リーダー」——サミュエル・スターンズの十六年

サムとトーレスはルースの手引きで、メリーランド州地下深くに設けられたブラックサイトへ潜入する。そこに収容されていたのは、十六年前に『インクレディブル・ハルク』のラストで、ブルース・バナーの血液を浴びた額の傷からガンマ汚染が脳全体へ広がり、頭蓋骨が膨張しかけたまま画面から姿を消したサミュエル・スターンズだった。十六年の幽閉は彼の身体をますます歪ませ、頭蓋は明らかに前部だけが膨らみ、皮膚は緑がかった蒼白に変色している。彼はもはや「博士」と呼ばれる若き研究者ではない——コミック由来の悪名でいう「ザ・リーダー」である。

スターンズは穏やかな口調でサムに語る。自分は、ハルク事件直後の混乱でロスの私的指揮下に置かれ、表向きは存在しないまま、世界政治の予測モデルを十六年間にわたって作り続けてきた。ロスはスターンズの分析を使ってアフリカ大陸の紛争抑止、サハラの水資源協定、そしてセレスシャル島の出現以後のアダマンチウム条約の構想までを進めてきた。条約の本文の半分以上は、独房の中で計算されたものだった。

しかしロスは、釈放と名誉回復の約束を一度も果たさなかった。スターンズは独房のなかで、自分にも世界にも復讐する計画を整える。条約締結を機にロスを失脚させ、可能であれば破壊する——そのために、スターンズはロス自身の身体にも、長年「抗不安薬」と称してガンマ照射を含む特殊化合物を密かに投与し続けてきた。これが、本作の真の毒の一手である。

セレスシャル島事変——日米艦隊が向き合う夜

スターンズの本当の計画は、ホワイトハウスの中だけにはとどまらない。彼は、サイドワインダーが行ったアダマンチウム強奪も、その後のホワイトハウス暗殺未遂も、すべて自分の盤面の一手として動かしていた。次の駒として彼が動かすのは、セレスシャル島周辺で警戒任務に就いている米海軍と海上自衛隊の数名のパイロットたちである。彼らもまた、同じ聴覚トリガーで動くスリーパーとして長く前から条件付けされていた。

条約発表の翌日、セレスシャル島沖の海域で、米海軍と海上自衛隊の哨戒機が、互いに発砲する。海面に屹立する全長数キロのティアマトの遺骸を背景に、両国の戦闘機と艦艇が一時的に交戦状態に入る。ロス政権は事態の沈静化に走るが、世界の主要報道はすでに「アダマンチウム条約は最初から茶番だった」と書き始めている。日本の小崎首相は、条約からの離脱と即時の自国艦隊増派を発表する。

サムは飛行スーツでセレスシャル島まで急行し、操縦不能になった戦闘機のパイロットを助手席で叩き起こす——条件付けの拘束を、激痛と痛烈な呼びかけで切る。トーレスも別の機をぎりぎりで誘導するが、自身は撃墜寸前まで負傷し、サムの腕に抱えられて病院へ運ばれる。トーレスがICUに入った瞬間が、本作の精神的な底だ。サムは病室の前で「俺は俺の小隊員を二度と失わない」と短く誓い、ホワイトハウスへ戻る。

南庭のレッド・ハルク——大統領が変身する

ホワイトハウスに戻ったサムは、ロスを直接問い詰める。ロスはスターンズの存在と十六年の関係を渋々認めるが、自分の身体の異変——朝の汗、目の充血、つかみどころのない怒りの発作——を、ストレスのせいだと信じ込もうとする。サムは「あなたは長年ガンマを盛られていた、心臓も脳も限界だ、ここで休んでくれ」と告げるが、ロスは情報の隠蔽と再選への執着を解けない。

スターンズの最後の駒が動く。条約の正式署名の場に集まった各国代表団の前で、報道用の照明と緊張が極限に達した瞬間、ロスは執務机を握りつぶし、息のリズムが乱れる。コートを引きちぎりながら身体が膨張し、皮膚が赤くなり、目は黄濁する。世界中継のカメラの前で、合衆国大統領は身長三メートルを超える紅蓮の怪物——レッド・ハルクへと変貌する。

ホワイトハウスの正面玄関とローズガーデン、続いて南庭の芝生、そしてワシントン記念塔の前まで、レッド・ハルクの暴走は止まらない。手当たり次第に車両を投げ、ヘリコプターを叩き落とす。サムはウィングスとジェットを駆使して怪物の頭上を旋回し、決して同じ高度に長く留まらないことで、相手の重い拳をかわし続ける。市民の避難を最優先しながら、サムはレッド・ハルクの脳を覚醒させようと声を張り上げる。

「あなたは父親だ」——サムの説得とロスの降伏

レッド・ハルクとの戦闘の終盤、サムは生身でロスの足元に降り立つ。盾を背中に回し、両腕を広げ、無防備な姿勢のまま大統領を仰ぎ見て「サディアス、聞こえているのは知っている、あなたは父親だ、ベティはまだあなたを娘として呼んでいる」と一声で告げる。怒りで満たされた瞳のなかに、人間の躊躇が一瞬戻る。レッド・ハルクは振り下ろしかけた腕を止め、空気を絞り出すように泣き、その場に膝をついて崩れ落ちる。皮膚の赤が引き、骨格が縮み、ロスは老人の身体に戻る——肩に弾痕、両手に血、目には涙。

ロスは自ら手錠をかけられ、海上のスーパーマックス収容施設「ラフト」へ送られる。サムは病院でトーレスの目覚めを見届け、アイザイアの釈放のために改めて司法手続きを進める。アイザイアは無罪となり、サムは公の場で「『キャプテン・アメリカ』の名は、私一人の名前ではない、これは長く戦ってきた人々全員の名前だ」と短い演説をする。ベティ・ロス(リヴ・タイラー)がカメオで病院を訪ね、父親と再会する短い場面が、本作の家族劇としての結末を静かに閉じる。

ホアキン・トーレスは回復後、サムの正式な相棒「ファルコン」として復帰し、ホワイトハウスのバラエティ番組ではない真っ当な記者会見の場でサムの隣に立つ。アイザイア・ブラッドリーは、孫娘とともに静かな日常へ戻る。世界は、新しいキャプテン・アメリカが、超人ではなく一人の人間として、自国の暴走そのものを受け止めた一夜を記憶する。

ミッドクレジット——「彼らは来る」とスターンズの予言

ミッドクレジット・シーンの舞台は、移送された先のラフト刑務所である。サムが面会に訪れたスターンズは、独房のガラス越しに穏やかな笑みを浮かべる。「ロスを取り除いたところで、君が思っているような勝利は来ない。あの天空巨人の遺体は、君たちが想像できる尺度の外で世界の境目を歪めている。やがて他の宇宙の連中が、君たちを訪ねてくる」。スターンズは具体名を口にしないが、その示唆はマルチバース・サーガの本格的な衝突——『シークレット・ウォーズ』へ向けて伸びる赤い糸である。

サムは独房を背にしながら、自分の盾の重さを確かめる。背景に流れるのは、本編冒頭と同じ「ミスター・ブルー」——だがここではトリガーとしてではなく、ただ静かな終止のための引用として響く。本作はポストクレジットを設けず、ミッドクレジット一本でMCUの次の節目を予告して終わる。

登場要素

本作はコズミックな能力者の集団戦ではなく、合衆国の政治機構、ガンマ照射、暗号化された行動トリガー、そしてセレスシャル島という地政学的な変数を中心に組み立てられている。以下は主要な人物・場所・組織・道具の整理である。

主要人物

  • サム・ウィルソン/キャプテン・アメリカ(アンソニー・マッキー)
  • サディアス・E・ロス大統領/レッド・ハルク(ハリソン・フォード)
  • ホアキン・トーレス/ファルコン(ダニー・ラミレス)
  • アイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)
  • ルース・バット=セラフ(シーラ・ハース)

ヴィラン

  • サミュエル・スターンズ/ザ・リーダー(ティム・ブレイク・ネルソン)
  • サイドワインダー/セス・ヴォエルカー(ジャンカルロ・エスポジート)
  • サーペント・ソサイエティの実働部隊
  • スリーパー化されたパイロットおよび退役兵

サポート

  • 小崎拓海・日本国首相(平岳大)
  • レイラ・テイラー大統領補佐官(ショシャ・ロックモア)
  • ベティ・ロス(リヴ・タイラー、カメオ)
  • アイザイアの孫エリヤ・ブラッドリー(ジャイメ・ケスター)

組織

  • 合衆国大統領府/ホワイトハウス
  • 米国陸軍/海軍/空軍
  • シークレットサービス
  • イスラエル情報機関(モサド)由来の特殊工作員系譜
  • サーペント・ソサイエティ
  • ラフト刑務所

場所

  • メキシコ・オアハカの倉庫地区
  • ワシントンD.C.(ホワイトハウス/ワシントン記念塔)
  • メリーランド州地下のブラックサイト
  • セレスシャル島/インド洋上のティアマト遺骸
  • ラフト刑務所

アイテム・技術

  • 新型キャプテン・アメリカ・ウィングス(ヴィブラニウム合金+飛行スーツ)
  • サムの星条旗の盾(ヴィブラニウム製、サムの個人仕様)
  • アダマンチウム原塊サンプル
  • ガンマ照射型「抗不安薬」
  • 聴覚トリガーによる条件付け(楽曲「ミスター・ブルー」)
  • ホアキン・トーレス用の新ファルコン・スーツ

能力・概念

  • ガンマ照射による知能・身体変異
  • 聴覚刺激による睡眠工作員化(スリーパー)
  • アダマンチウムによる地政学的勢力均衡
  • セレスシャル遺骸という新資源
  • 盾と翼の連動戦闘術(サム流の格闘)
  • 大統領という公職の暴走と人間ドラマ

ミッドクレジット要素

  • ラフト刑務所でのスターンズとサムの会話
  • 「他の宇宙から訪問者が来る」というマルチバース予告
  • ティアマト遺骸が宇宙の境目を歪めているという示唆

主要登場人物

本作の人物配置は、シールドを継いだ一人のヒーローと、合衆国の最高権力者と、十六年間影で世界を予測してきた囚人科学者という、三つの「責任の取り方」が交錯する構造で組まれている。サムは責任を引き受けることで強くなり、ロスは責任から逃げ続けたことで化け物になり、スターンズは責任を奪われ続けたことで世界を呪う。三者の関係が本作のドラマの背骨である。

サム・ウィルソン/キャプテン・アメリカ(アンソニー・マッキー)

『アベンジャーズ/エンドゲーム』のラストでスティーブ・ロジャースから直接盾を手渡され、Disney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で改めて自分の意思でキャプテン・アメリカの肩書を引き受けた男が、ついに単独主演映画の主人公となった。本作のサムは、超人血清を持たない、肉体的にはあくまで「鍛え抜かれた人間の上限」にいる戦士である。ウィングスは飛び道具兼防御具として再設計され、盾の投げ方も、力ではなくウィングスの反射と組み合わせる「曲線の使い方」へ振り直されている。

サムは作中で何度も「俺はキャプテン・アメリカに値しないかもしれない」と疑念を口に出す。アイザイアの目の前、トーレスの病床、レッド・ハルクの前——疑念は最後まで完全には消えない。本作の決断は、その疑念を抱えたまま「俺以外にこれを引き受ける者がいないなら、俺がやる」と動き続けることである。マッキーは2014年の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』から11年、シリーズ史上もっとも長くサム・ウィルソンを生きてきた俳優として、過剰なヒロイズムを排し、悩む大人としての主人公像を画面に置いた。

人物:先代キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース 前作:シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ 盾を継いだ瞬間:エンドゲーム

サディアス・E・ロス大統領/レッド・ハルク(ハリソン・フォード)

故ウィリアム・ハートが『インクレディブル・ハルク』(2008)から『ブラック・ウィドウ』(2021)まで演じてきたサンダーボルト・ロス将軍/国務長官を、ハリソン・フォードが大統領として引き継いだ。年表内ではすでに国務長官時代の強硬路線を経て、選挙で勝利した直後のロスである。コミックの「レッド・ハルク」は二十数年に渡って待たれていたキャラクターであり、本作はそれを「合衆国大統領の身体の中に隠されていた怪物」として配置することで、政治スリラーとモンスター映画の境目に主題を置いた。

ロスの最大の悲劇は、彼が自分の力に対する責任を一度も認められなかったことである。娘ベティの離反、長年のハルク追跡、スターンズへの依存——どれも「強さを保つために、もう一度自分を強い人間にしてくれる薬」を必要としてきた。スターンズが盛り続けた特殊化合物は、文字通り「ロスがずっと心の中で求めてきたもの」を、形にして与えただけの皮肉である。

ハリソン・フォードは2024年公開予定だった本作のために2023年から準備に入り、撮影後の追加撮影では政治演説の場面と、レッド・ハルク変身直前の家族描写を強化する場面が新規に撮られたと公表されている。彼の起用は、シリーズ全体から見ても、レジェンド級の俳優のキャスティングとして特筆される事件であった。

ロスの原点:インクレディブル・ハルク 人物:ハルク/ブルース・バナー

ホアキン・トーレス/ファルコン(ダニー・ラミレス)

Disney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で米空軍中尉として登場し、サムの旧称ファルコンを引き継ぐ位置に据えられていた若手パイロットが、本作で正式に「新しいファルコン」となる。トーレスの飛行スーツはサムの新ウィングスとは別の世代の機体で、機動性に振った軽量機としてマーベル・スタジオ内製のデザインに刷新されている。

ダニー・ラミレスのトーレスは、サムの「弟分」のような自然な親密さで撮られる。皮肉と冗談を絶やさない若者だが、セレスシャル島近海で撃墜されかけ、ICUに運ばれる場面では、サムが声を絞り出して呼びかける相手として、シリーズで初めて泣ける位置を任された。本作の家族劇のもう一つの軸は、血ではなく軍歴で繋がったサムとトーレスの「兄弟」関係であり、最後に並んで記者会見の壇に立つ姿で報われる。

アイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)

Disney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で初めて世界に紹介された、朝鮮戦争期の「忘れられたキャプテン・アメリカ」。彼は、アメリカ陸軍が黒人兵に対して秘密裏に行った超人血清の実験で生き残ったうちの一人で、戦後は長年にわたって投獄され、その存在自体が国家機密として埋められていた。

本作のアイザイアは、自分が信じてもいない国の象徴を、自分の手で撃ったことになる立場へ突然立たされる。撃ったあとの記憶が全くないという身体的な孤立感、それでも自分の手の汚れを自分のものとして引き受ける姿勢、そしてそれでも孫娘を抱きしめる小さな夜——カール・ランブリーは長い俳優人生の中でも特に内側を抑えた演技でこれを演じ、本作の感情的な重力の中心の一人になった。

終盤、釈放されたアイザイアがサムに向かって「お前は俺よりずっと良くやっている」とだけ告げる短い場面は、シリーズ内の長い世代のリレーの、もっとも誠実な握手である。

ルース・バット=セラフ(シーラ・ハース)

イスラエル出身、モサドの工作員養成プログラム出身の元エージェントで、米国へ転属しロス大統領のセキュリティ・アドバイザーを務める。コミックでは「サブラ」というコードネームで、青と白のコスチュームを纏うイスラエル国家のシンボル的なヒーローとして長く描かれてきた人物だが、本作はコスチュームヒーロー像を意図的に剥ぎ、地味なスーツの中で動く政治アドバイザー像へ再構成した。これは公開前から国際的に大きな議論となった改変であり、シーラ・ハース自身もインタビューで「彼女は本作では旗ではなく人間として描かれている」と説明している。

ルースは、ロスへの忠誠と、その背後で動くスターンズへの懐疑とのあいだで揺れ、最終的にサムの側に立つ。彼女の戦闘術は近距離格闘と素早い判断に振られており、ホワイトハウスのレッド・ハルク戦では市民の避難誘導の指揮を執る。シリーズに新規参入した重要な「地に足のついた工作員」像であり、続編・スピンオフでの再登場が想定されている人物像である。

サミュエル・スターンズ/ザ・リーダー(ティム・ブレイク・ネルソン)

2008年の『インクレディブル・ハルク』のラスト、額の傷からブルース・バナーの血液を浴び、頭蓋骨が膨張しかけたまま画面から消えた科学者が、十六年の沈黙を経て本作で再登場した。コミックの「ザ・リーダー」は、ハルクの主敵として長く描かれてきた緑の超知能犯罪者であり、MCUへの本格的な参入は本作で初めて成立する。

本作のスターンズは、暴力的な怪物ではなく、十六年の幽閉で精神を鈍く磨き続けた予測の天才として描かれる。彼の武器はガンマ的な力ではなく、人間の弱さと制度の隙間を読む計算であり、ロスを「合衆国大統領」という最も高い位置に座らせたうえで内側から壊すという、もっとも皮肉な復讐の組み立てを完成させた。ティム・ブレイク・ネルソンは『インクレディブル・ハルク』当時の演技を踏まえつつ、十六年の停滞と内なる怒りを、座ったままの数分間の独白で見せる。

ミッドクレジットでサムに告げる「彼らは来る」の一言は、本作を超えてマルチバース・サーガ全体への扉として機能する。スターンズが今後のMCUで再び動くかどうかは、シリーズの将来計画と直結する。

舞台と用語

舞台はメキシコ・オアハカ、ワシントンD.C.、メリーランド州地下のブラックサイト、インド洋上のセレスシャル島、そして海上のラフト刑務所を巡る、地政学的に広い物語である。中心の用語は「アダマンチウム」「セレスシャル島」「スリーパー」の三つに整理できる。

アダマンチウムは、コミックでウルヴァリンの骨格を構成する金属として知られる、ヴィブラニウムと並ぶマーベル世界のもう一つの究極合金である。本作のMCU定義では、ティアマトの遺骸から得られる極めて希少な金属で、世界の軍事バランスを変えうる戦略資源として扱われる。本作の終盤で条約が暫定的に締結に至るのか棚上げになるのかは、続編に持ち越される含みの形で締められている。

セレスシャル島は、『エターナルズ』のラストで地球を破って立ち上がりかけ、エターナルズの介入で半身が大気圏外に出かけたまま固化したティアマトの遺骸である。今や海面に屹立する「大陸サイズの彫像」として地政学的に存在し、その採掘権・調査権が新しい世界秩序の焦点となる。

スリーパーは、米国情報機関の内部で長年論争されてきた概念で、本作では聴覚刺激と化学的条件付けの組み合わせによる「楽曲をトリガーとする睡眠工作員」として具体化された。十六年前から仕込まれていた人々がアイザイアを含めて世界中に潜伏しているという設定は、続編やDisney+シリーズで再び引き戻される伏線になり得る。

用語:MCU 用語:フェーズ 用語:アベンジャーズ 用語:ヴィブラニウム

制作

本作の制作は、MCUのフェーズ5中盤以降に蓄積された企画・撮影上の困難を象徴する一本となった。タイトルの変更、長期のリシュート、追加撮影に伴う公開延期、ハリウッドの俳優・脚本家組合ストライキの影響、最終的な編集の振り直し——いずれも、シリーズ運営が二度と同じ轍を踏まないために徹底検証されている。

企画と脚本

サム・ウィルソンによる単独キャプテン・アメリカ映画の企画は、2021年のDisney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の好評を受けて即座に動き出した。同シリーズの主筆だったマルコム・スペルマンが脚本第一稿を執筆し、ダラン・マッソンが共同で世界観の再整理を行った。当初のタイトルは『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』で、2022年7月のSDCCで正式発表された。

その後、ロブ・エドワーズが大幅な書き直しに参加し、2023年の追加撮影段階ではマシュー・オートンが新規の場面と新キャラクター調整を担当した。最終的に監督ジュリアス・オナーを含む五名が脚本クレジットを共有する形となった。この五人体制は、本作の構造的な振れの大きさを物語る数字でもある。

脚本の最大の決断は、ザ・リーダーをこの単独作の真の頭脳に据え、レッド・ハルクを最終的なクライマックスに位置づけた一方で、その両者を「サム個人にとっての敵」よりも「合衆国そのものの病理」として描いたことである。新キャップの最初の単独作を、政治スリラーの語り口で組み立てる選択は、ロシア兄弟監督期の『ウィンター・ソルジャー』の正統な後継として位置づけられる。

キャスティング

サム・ウィルソン役のアンソニー・マッキーは2014年の『ウィンター・ソルジャー』から続投。ロス役には、長年務めてきた故ウィリアム・ハート(2022年逝去)の後任として、ハリソン・フォードが起用された。フォードのMCU参入は本作が初であり、撮影開始時点で80代に入っていた俳優を、米国大統領兼レッド・ハルクという二重の役柄に据える起用は、当初公表時に世界的なニュースとなった。

ホアキン・トーレス役のダニー・ラミレスは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』から続投。アイザイア・ブラッドリー役のカール・ランブリーも続投。新規参入としては、ルース・バット=セラフ役にイスラエル出身のシーラ・ハース(『シュティセル』『アンオーソドックス』)が抜擢された。サイドワインダー役にはジャンカルロ・エスポジート(『ベター・コール・ソウル』『マンダロリアン』)が短い登場ながらシリーズへの足がかりとして配置された。

サミュエル・スターンズ役のティム・ブレイク・ネルソンは、2008年の『インクレディブル・ハルク』から十六年ぶりの続投である。シリーズの初期作からこれほど長く間を置いた俳優の復帰は、ジョン・ファヴロー(ハッピー・ホーガン)と並ぶ稀少な事例である。ベティ・ロス役のリヴ・タイラーも同じ2008年作から続投し、本作ではカメオ出演となっている。

撮影とリシュート

主要撮影は2023年3月から6月にかけて、米国ジョージア州アトランタのトリリス・スタジオを拠点に行われた。同年の俳優組合(SAG-AFTRA)および脚本家組合(WGA)のストライキの影響で、ポストプロダクションの一部とプロモーション段階の予定は大幅に変更された。

2024年5月から6月にかけて、複数週にわたる大規模な追加撮影が組まれた。報じられているところでは、レッド・ハルクの登場場面の規模拡大、サムとロスの会話シーンの強化、トーレスの病院シーンの追加、エンディング後のミッドクレジット・シーンの本撮影などが、この追加撮影で行われている。サブラ/ルースに関する主要場面のうちいくつかも、この段階で再撮影された。

撮影監督クレイマー・モーゲンソー(『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』『キャプテン・マーベル』『シャン・チー』)は、政治スリラーとしての落ち着いた室内光と、レッド・ハルク戦の戦争映画的な手持ちカメラ感を組み合わせた、抑制と過剰の振れ幅の大きい画作りを担当した。

視覚効果

視覚効果はIndustrial Light & Magic(ILM)、Wētā FX、Framestore、Rise FX、Digital Domain ほか複数のスタジオが分担した。中心はレッド・ハルクの全身キャラクター作りで、ハリソン・フォードのフェイシャル・キャプチャをベースに、身長三メートル超の筋肉構造と紅蓮の皮膚質感をフレームごとに合成している。ホワイトハウス南庭でのレッド・ハルクと市民の体格差は、伝統的なミニチュア手法を一切使わない、純フルCG+実写ライブ・プレートの合成で構築された。

セレスシャル島の遠景は、海面に屹立する全長数キロ規模の固化した天空巨人の構造を、衛星マップ規模の海洋シミュレーションと組み合わせて描いた。本作の視覚効果は約2,300ショットを超え、フェーズ5の単独作としては最大規模の作業量となっている。タスクマスター時代の技術と比べても、フェイシャル・キャプチャの密度は明らかに一段引き上げられた。

音楽と音響

作曲はローラ・カープマン。ダニエル・ペンバートン名義で発表されていた初期準備稿から、追加撮影の段階で完全に書き直しが行われ、最終的にカープマンの単独クレジットとなった。エミー賞受賞のドラマ『The People v. O. J. Simpson』や『フォア・モア・シャッツ・プリーズ』で知られる作曲家で、MCUのシリーズに女性作曲家の単独主任スコアラーが立つのは『ブラック・ウィドウ』のローン・バルフ(男性)に対する『キャプテン・マーベル』のピンマー・ウォーカー以来の重要な事例である。

象徴的な楽曲使用として、ザ・フリートウッズの1959年のヒット曲「Mr. Blue」がスリーパー・トリガーとして全編で用いられる。ジャズ・スタンダードの優しさと、画面上で進行する政治暗殺の冷たさの対比は、本作の倫理的トーンを序盤で決定する。ミッドクレジットの面会場面で同じ楽曲が再び穏やかに流れることで、観客の記憶は本編冒頭へ静かに引き戻される構造になっている。

編集とポストプロダクション

編集はテリリン・A・シュロップシャー(『ロキ』『ザ・ファルコン&ウィンター・ソルジャー』)とマシュー・シュミット(『ブラック・ウィドウ』『ロキ』)が共同で担当した。118分の上映時間に対して、撮影段階のラフカットは大幅に長く、追加撮影分の挿入を含めた再構築が公開ぎりぎりまで続いたと業界誌は報じている。

2024年から2025年の最終ポストプロダクション段階では、レッド・ハルク戦のテンポを上げる目的でいくつかの会話場面が短縮され、最終的な公開版ではミッドクレジットの単一構造へと整えられた。ポストクレジットが本作に置かれていない事実そのものが、本作の慎重な編集姿勢の一端を示している。

公開と興行

公開戦略は、フェーズ5の終盤を締める節目として、2025年2月のプレジデント・デイ三連休週にぶつけられた。米国・日本ともに2025年2月14日(バレンタイン・デイ)に劇場公開された。北米のオープニング週末興収は約8,800万ドルで、プレジデント・デイ三連休の興収を含めると約1億ドルを突破した。

最終的な全世界興行収入は約4.15億ドル前後と集計されている。北米約2億ドル、海外約2.15億ドル。製作費約1.8億ドル(追加撮影込みの最終値)と宣伝費を踏まえると、損益分岐点をやや上回るかどうかという結果であり、商業的にはフェーズ4後半・フェーズ5全体と同様の「中位」の数字に落ち着いた。

批評面では、ロッテン・トマトの批評家評は約4割と低調で、メタスコアも40点台。脚本の構造の継ぎ目、リシュート歴の痕跡、ロスのレッド・ハルク化に至る情緒の積み上げの足りなさ、サブラ/ルースの設定改変への政治的議論、などが減点項目として並んだ。一方で、観客評は7割を超え、アンソニー・マッキーの誠実な主演、ハリソン・フォードのMCU参入そのもののインパクト、ティム・ブレイク・ネルソンの再登場、レッド・ハルクの実写化の達成感が、多くのファンの肯定的な記憶を残した。

批評・評価・文化的影響

本作の文化的影響は、シリーズ運営の文脈で最も大きく現れた。第一に、MCUにとって長年の懸案だった「スティーブ・ロジャース後のキャプテン・アメリカ」の単独映画路線を、サム・ウィルソンを主役に据えて成立させ得るかどうかという根本的な問いに、興収と継続契約の両面で「ぎりぎり可」という答えを出した。マッキー自身は、本作の好調な観客評を背景に、続編とアベンジャーズ系列での再登場に向けて契約交渉を継続している。

第二に、長年待たれてきた「レッド・ハルク」「ザ・リーダー」をMCUの本流に正式に組み込むという、ハルク系列の物語の再起動が果たされた。これにより、世界観としては『インクレディブル・ハルク』(2008)から十六年越しの伏線回収が成立し、ブルース・バナー本人の今後の登場の足場も整えられた形になる。

第三に、本作はMCUの一連の追加撮影とリシュートのあり方そのものを、業界内で改めて議論の俎上に乗せた一本となった。製作費の最終値、追加撮影で再収録された場面の比率、ハリソン・フォードのスケジュール調整、ストライキの影響——いずれもフェーズ6へ向けたシリーズ運営のケーススタディとして繰り返し参照されている。

また、アダマンチウムを正式にMCUの語彙に導入した本作は、X-メン参入への地ならしとしての役割も担っている。続編・新シリーズで本作の遺骸とアダマンチウムが再び主題に浮かび上がる可能性は高い。

舞台裏とトリビア

公開当時、本作はアンソニー・マッキー演じるサムにとって初の単独主演映画であると同時に、ハリソン・フォードにとっても初のMCU出演作だった。フォードのMCU参入は2022年10月のD23発表のサプライズ・キャスティングとして世界中で報じられた。

本作は、ティム・ブレイク・ネルソン演じるサミュエル・スターンズが2008年の『インクレディブル・ハルク』以来、十六年ぶりにMCUに登場した記念すべき一本でもある。彼の登場シーンの一部は、当時の若き日のスターンズの映像を含む形で、十六年前の素材と新規撮影を組み合わせて作られている。

原タイトルは『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』だったが、2023年9月のD23公開段階で『ブレイブ・ニュー・ワールド』に改題された。改題の理由は公式には明言されていないが、オルダス・ハクスリーの古典的小説と同名であることへの連想と、過去の地政学的な悪用への配慮の両方が業界誌では言及されている。

サブラ/ルース・バット=セラフのコミックでの旗的描写が大幅に剥がされ、政治アドバイザーとしての地味な造形になった経緯は、2022年から2023年にかけての国際情勢を踏まえた配慮の結果と業界誌は伝えている。本作の制作陣はインタビューで「コミックそのままの提示はしない」と明言している。

アイザイア・ブラッドリーの原典は、ロバート・モラレス/カイル・ベイカーの『Truth: Red, White & Black』(2003)。本作はDisney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に続いて、この原作の重みを映像版MCUへ正式に持ち込む一本となった。

オープニングおよびミッドクレジットで使われる楽曲「Mr. Blue」は、ザ・フリートウッズが1959年に全米シングルチャート1位を獲得したジャズ/ドゥーワップの古典で、原典のラジオ局でかかっていた歴史的記憶を本作の暗号化トリガーへと転用している。

テーマと解釈

中心の主題は、合衆国の象徴を「血ではなく行為で受け継ぐ」ということである。サム・ウィルソンは、超人血清を持たず、星条旗の盾の重みに値するか自問しつづける男として、その盾を引き受ける。アイザイア・ブラッドリーは、国家に裏切られ続けた老兵として、それでも孫娘の前で姿勢を崩さない。ロスは、生涯にわたって自分の責任を直視できなかったために、文字通り自分自身を化け物に変えてしまう。三者三様の「象徴と肉体」の関係が、本作の倫理的座標軸である。

もう一つの軸は、暴走する国家機構を、一人の人間がどう止めるかである。本作のレッド・ハルクは、外部から来た侵略者でも、コズミックな存在でもない——選挙で選ばれた合衆国大統領が、十六年の薬と十六年の傲慢の代償として、自分の身体ごと変じた怪物である。サムが取る方策は、戦って勝つことではなく、相手の名前を呼び続け、相手を一人の父親として呼び戻すことだった。本作の倫理は、勝利よりも目覚めの倫理である。

三つ目の軸は、十六年前のシリーズ作からの「忘れられた糸」の引き戻しである。スターンズの再登場、ベティ・ロスのカメオ、アイザイア・ブラッドリーの再起用、そして音楽「Mr. Blue」の選曲——どれも、長く待たされた観客への作り手側の応答として機能している。MCUが、サーガをまたいで自身の蓄積を尊重しようとする姿勢の表明である。

視覚的には、ホワイトハウスの白い回廊と、レッド・ハルクの紅蓮の身体、合衆国大統領の暗いスーツとサムの星条旗の盾、そして海面に屹立する青いセレスシャル島の冷たさ——本作の色彩構成は、米国の政治神話と新しい宇宙的尺度を、同じ画面の上に並置する役割を担っている。

見る順番(補助)

本作はサム・ウィルソンの単独主演映画第一作として位置づけられる一方で、ハルク系列・エターナルズ系列・MCU政治系列の全部を含む合流地点でもある。初見のおすすめは、まず2008年の『インクレディブル・ハルク』でサンダーボルト・ロス将軍とサミュエル・スターンズの初対面を踏み、続いて『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でサム・ウィルソンの背景を取り、そのうえで『エターナルズ』のティアマト出現を確認してから、本作に入る順序である。

本作の直前作にあたるのは公開順では『マーベルズ』(2023)、物語内時系列ではDisney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)。直後に控えるのは『サンダーボルツ*』(2025)で、ロスが大統領職を退いたあとの「裏アベンジャーズ」結成へ繋がる流れが、ラフト刑務所周辺の語り口で本作と共通している。

MCUのフェーズ5の中盤以降の作品とあわせて観るのが本作を最大限に楽しむ方法であり、特にラフト刑務所のスターンズの台詞は、続く『サンダーボルツ*』『ファンタスティック・フォー/ファースト・ステップ』、さらにマルチバース・サーガの本格的決着篇への布石として読める。

  1. 前史『インクレディブル・ハルク』(2008)でスターンズが頭部にガンマ汚染を受ける
  2. 前作『マーベルズ』後の世界、ロスが合衆国大統領に就任
  3. 本作アダマンチウム条約/暗殺未遂/レッド・ハルク戦
  4. 直後『サンダーボルツ*』へ、ラフト刑務所の動きが繋がる
  5. 先の節目『ファンタスティック・フォー/ファースト・ステップ』『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』へ
前史:インクレディブル・ハルク サムの起点:ウィンター・ソルジャー サムの戦友期:シビル・ウォー 盾を継いだ瞬間:エンドゲーム セレスシャル島の前史:エターナルズ 直前:マーベルズ 直後:サンダーボルツ* 先の節目:ファンタスティック・フォー/ファースト・ステップ MCU公開順ガイド MCU時系列順ガイド

よくある質問(補助)

「あらすじだけ知りたい」場合は、オアハカでアダマンチウム強奪を阻止→ホワイトハウス招待→アイザイアらによる暗殺未遂→ザ・リーダー=サミュエル・スターンズの十六年の復讐計画が明らかに→セレスシャル島で日米衝突未遂→ロスがレッド・ハルク化、サムが説得→ロスがラフトへ自首、という流れを押さえれば十分である。「結末・ネタバレを知りたい」場合は、レッド・ハルク戦の終盤でサムがロスに「あなたは父親だ」と呼びかけて変身を解除する場面、ベティ・ロスのカメオ、そしてミッドクレジットでスターンズが「彼らは来る」と告げる場面までが核となる。

「評価を知りたい」場合は、批評は4割前後と低調、観客評は7割超、興行は世界4.15億ドルでぎりぎり黒字圏、と整理できる。アンソニー・マッキーの誠実な主演とハリソン・フォードのMCU参入が個別の称賛点であり、五人脚本クレジットの構造の歪みとサブラの設定改変が個別の批判点である。「見る順番」では、まず『インクレディブル・ハルク』『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』『エンドゲーム』『エターナルズ』『マーベルズ』を経て本作、続いて『サンダーボルツ*』へ進むのが最もスムーズな視聴順となる。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Marvel公式 キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド
  2. IMDb: Captain America: Brave New World (2025)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki: Captain America: Brave New World
  4. Box Office Mojo: Captain America: Brave New World (2025)
  5. Rotten Tomatoes: Captain America: Brave New World

関連ページ

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