レトロフューチャー1960年代の別地球「Earth-828」を舞台に、ヒーロー結成から4年後の家族と惑星喰らいの神を描く、MCUフェーズ6開幕作。
マーベル・スタジオ製作、ディズニー配給。マット・シャクマンが監督し、ジョシュ・フリードマンらが脚本を手がけた、MCU正式参入後のファンタスティック・フォー単独映画。脚本はマーベル・スタジオで初めてWGA組合の規約改定後に共同執筆クレジットが整理された4人体制で、原作創刊号からの「家族と発見」の物語を選び取っている。
本作の舞台はMCU主世界(Earth-616)ではなく、レトロフューチャーな1960年代テクノロジーが日常になった並行世界Earth-828である。ヒーロー結成から4年後、すでに地球の誰もが知る象徴的存在となった一家のもとへ、宇宙の彼方からシルバーサーファーが現れ、ギャラクタスの予告を持ち込む。本作の幕引きは、6年後に控える『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への直結伏線を残す。
Rotten Tomatoesでは好意的評価が大勢を占め、レトロフューチャー美術、マイケル・ジアッキーノの主題、ペドロ・パスカル/ヴァネッサ・カービーの夫婦演技、シルバーサーファー造形が広く称賛された。全世界興収は約5億ドル超とされ、過去のフォックス版三作を超えてフランチャイズ史上最大の成功となった。批評・観客の支持を受け、フェーズ6の開幕作としての地位を確立した。
Earth-828の前史、シルバーサーファー来訪、フランクリン・リチャーズ誕生、ギャラクタスとの取引拒否、エクセルシオール号の追跡戦、地球誘導作戦、サブスペースへの追放、ミッドクレジットの緑のフード姿の客人(『ドゥームズデイ』への布石)、エンドクレジットの1967年アニメ版オマージュまでを順に取り扱う。重要なネタバレを前提に構成しているため、視聴後の読み物として推奨する。
目次 33項目 開く
概要
『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ』(The Fantastic Four: First Steps)は、マット・シャクマンが監督し、2025年7月25日に米国で公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第37作にあたり、シリーズの章立てではフェーズ6の第1作、マルチバース・サーガの後半開幕を担う。マット・シャクマンは『ワンダヴィジョン』(2021)で長編級の感情劇を成功させたあと、本作のメガホンを引き継いだ。
原作はスタン・リーとジャック・カービーが1961年の『Fantastic Four #1』で立ち上げた、マーベル・コミックスの最古参チーム作品である。リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック、スー・ストーム/インビジブル・ウーマン、ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ、ベン・グリム/ザ・シングという四人の宇宙線被曝者の物語は、家族の倫理と発見の感覚を中心に据えた、アメコミ史上もっとも長く愛された世界観のひとつである。本作は2005年版・2007年版・2015年版の各実写化を経て、ディズニーによる21世紀フォックス買収後にマーベル・スタジオ初の単独映画化として実現した。
本作の最大の語り口の選択は、舞台をMCU主世界(Earth-616)ではなく、並行世界Earth-828に置いた点にある。1960年代の楽観的な未来観——丸みのある自動車、真空管を思わせる宇宙船パネル、レトロ・モダンな家具、ニューヨーク市の高層オフィスでヒーローが家事をする日常——が、当時のアメリカ家庭的価値観の理想を二〇一〇年代以降の観客向けに翻訳された形で描かれる。地球外脅威に対して国家連合が連帯し、ヒーローが「家族として」これに応えるという原作創刊号の主題が、現代の映画文法で再構築されている。
物語の中心は、結成から4年後の家族と、その家族のもとへ届けられる「世界終焉の予告」である。スー・ストームの妊娠というプライベートな出来事と、惑星喰らいの神ギャラクタスの到来というスケール最大の脅威が、家族の意思決定の場で正面から衝突する。本記事は結末、ミッドクレジット、ポストクレジットまでを含むネタバレを前提に整理している。物語の驚きを保ちたい読者は、視聴後に戻ってきてほしい。
- 原題
- The Fantastic Four: First Steps
- 監督
- マット・シャクマン
- 脚本
- ジョシュ・フリードマン/エリック・ピアソン/ジェフ・カプラン/イアン・スプリンガー
- 音楽
- マイケル・ジアッキーノ
- 撮影
- ジェス・ホール
- 米国公開
- 2025年7月25日
- 上映時間
- 約115分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、SF、ファミリードラマ
- シリーズ区分
- MCUフェーズ6・第1作/マルチバース・サーガ
あらすじ
以下は結末、ミッドクレジット、ポストクレジットまでを含む全編のあらすじである。Earth-828の前史紹介、スーの妊娠発覚、シルバーサーファーの来訪と地球終焉の予告、ギャラクタスとの宇宙交渉、フランクリン誕生、ギャラクタス地球到来、サブスペースへの追放と再生、緑のフードの客人、1967年版アニメへのオマージュまでを順に追う。
プロローグ——Earth-828と四人の家族
映画はテレビ番組『The Ted Gilbert Show』の白黒映像から始まる。番組のホストが「あの伝説の四人」を紹介し、宇宙ミッション「マーヴェル-1号」で帯電した宇宙線を浴びた彼らがどのように地球へ帰ってきたのかを、観客に駆け足で要約する。リード・リチャーズが自身の身体を伸び縮みさせる映像、スー・ストームが触れたものを見えなくする映像、ジョニー・ストームの全身炎上、ベン・グリムが岩石化していく病院での痛々しい変身。これらの記録映像とテレビ的明朗ナレーションが、本作の世界が「1960年代の人類がすでにヒーローを知っているもう一つの地球」だと観客に告げる。
場面はニューヨーク市マンハッタン中心部、本作の本拠地「フューチャー財団ビル(バクスター・ビル)」へ移る。フューチャー財団は、リードが代表を務める非営利の科学・人道的団体であり、ビルは研究所と住居と司令室を兼ねた縦長の塔として描かれる。観客はまずキッチンに迎えられる。エプロンを身につけたベンがパンケーキを焼き、リードはコーヒーを片手に伸縮する腕で天井裏の配線を点検し、スーは妊娠検査薬を握りしめて廊下の鏡の前に立ち、ジョニーはバルコニーで朝の散歩を兼ねた自由飛行を楽しんでいる。
スーが鏡の前で深呼吸して家族の前へ歩み出ると、四人の朝食はそのまま「家族が一人増える」発表の場面へと変わる。リードは涙ぐみ、ベンは大喜びでパンケーキを焼き増し、ジョニーは「君の最高傑作は鏡の中ではなく実験室の外にある」と兄夫婦をからかう。これと並行する短いカットで、世界各国の指導者が映る——ニューヨーク市長、ウクラニアの代理人、日本の科学技術大臣、ソ連風の制服を着た東欧の代表——彼らが世界都市圏統一会議に集まる予定であることが、テレビニュースから示唆される。Earth-828ではすでに「国家連合(フューチャー・カウンシル)」のような枠組みが機能している。
オフィス棟ではHERBIE(ヒューマノイド・エクスペリメンタル・ロボット・B型・電子)と呼ばれる球状の家事兼研究補助ロボットが浮遊しながら家族の世話を焼き、リードの開発した立体ホログラム式都市監視盤が、海溝地帯から地下都市に潜むモル・ロカ(モール・マン)の発掘活動を映し出す。一家は地下勢力との小競り合いを軽くいなしながら、夕方の市民集会へ向かう。集会では一家がそろって登壇し、世界の子供たちへ向けて「我々は科学と希望のために働く」と語る。観客には、彼らが英雄であるだけでなく、市民の文化的中枢でもあることが提示される。
シルバーサーファー来訪——予告
ある夜、ニューヨークの空に銀色の閃光が降りる。波を切るボードのような形をした金属板に乗った銀色の女性が、市街の摩天楼の間をすり抜けて、フューチャー財団ビルのバルコニーへ着地する。彼女は自らを「シャラ・バル」と名乗り、宇宙の彼方から来た伝令——ハラルド・オブ・ギャラクタス——だと告げる。台詞は静かで重く、感情の起伏を見せない。「あなた方の星は選ばれた。我が主、宇宙の飢えたるもの・ギャラクタスが、まもなくここへ来る。次の食事はこの惑星である」。
ジョニーは反射的に炎を上げて応戦するが、シルバーサーファーは銀色のコズミック・パワーを薄い壁状に張り、彼の炎を吸収する。リードが「停戦」と叫び、シャラ・バルは「我々と取引する余地はあるが、その判断は私の任ではない。直接、我が主と話せ」と告げ、空の彼方へ去る。ビル屋上に残された四人は、雷鳴のような遠音で離脱するサーファーの航跡を見上げる。ジョニーだけが、彼女の去る瞬間に交わした目線を反復して思い出している——本作の中盤に響く伏線である。
リードは即座に深宇宙の観測機器を起動する。シャラ・バルの言葉どおり、彼方の星系がひとつまたひとつと、青白い光に呑まれて消えていく観測ログが映る。スーは「次の食事」の意味を冷たく理解する。家族会議が招集され、結論は明確だった——四人で宇宙へ向かい、ギャラクタスと直接交渉する。ベンは「お前は妊娠している」と妹に詰め寄るが、スーは「だからこそ私が行く。守るために行くのではない、止めるために行く」と返す。リードは、彼の発明した実験船「エクセルシオール号」の準備を急ぐ。
深宇宙の航海とギャラクタスの玉座
エクセルシオール号は、青い超光速航行装置「ブリッジ・ドライブ」を備えた、本作世界で最も先進的な惑星間船である。四人は出発し、HERBIEを操作補助役に据えて、シャラ・バルの航跡を追って深宇宙へ針路を取る。船内ではジョニーが、シャラ・バルの台詞の音響波形を解析しはじめる——彼女の声には、強制された服従の倍音が紛れている。ジョニーは航海日誌に「あの人は意志で奉仕しているのではない」と記す。
彼方の星雲を抜けたエクセルシオール号は、巨大な金属球の連結体——ギャラクタスの移動要塞「タロス号」へ到達する。船は内側へ吸い込まれるように引き寄せられ、四人は玉座の間へ案内される。玉座に座る紫色のヘルメットを被った巨人ギャラクタス(ラルフ・アイネソン)が、低い声で「お前たちの星には、私の空腹を埋めるだけのエネルギーはない。だが、お前たちの女が今宿しているものには、ある」と告げる。
ギャラクタスは、スーの胎児フランクリンが「現実そのものを書き換えうる稀有な存在」であり、彼を譲り渡せば地球は救う、と提案する。リードは即座に拒絶する。スーは沈黙のあと、自らの不可視のフォースフィールドを玉座の周囲に展開し、「我が子はお前のものではない。私のものでもない。彼自身のものだ」と返す。ベンとジョニーは武装し、四人は退却に転じる。シャラ・バルは口を開きかけるが、ギャラクタスの一瞥で沈黙する。
脱出戦は本作中盤の白眉となる。エクセルシオール号がタロス号の内壁を疾駆し、シルバーサーファーが追跡する。スーの陣痛が船内で始まり、リードは舵を握りながら片手で妻の手を握る。ジョニーは船外に飛び出してサーファーを引きつけ、ベンが艦尾の被弾箇所を岩石の腕で塞ぐ。ブリッジ・ドライブが起動する直前、スーは光速航行の重力波の中でフランクリン・リチャーズを産み落とす。狭い船内に、息子の最初の泣き声が響く。
地球帰還——世界連合の動員
エクセルシオール号はニューヨーク市上空へ帰還する。一家は息子の誕生と引き換えに、ギャラクタスの追跡を地球へ呼び寄せてしまった。地下のモル・ロカが地表へ祝電を送る皮肉なシーンを挟み、四人はバクスター・ビルの食堂で、市民へ事実を公表する決断を下す。リードのテレビ会見は、希望的観測を一切含まない——「ギャラクタスが来る。彼を止めるためにあなた方の協力が必要だ」。
場面は世界各地に散る。中国の電力網管制塔、東京の海底ケーブル管制室、リオ・デ・ジャネイロの宇宙センター、レニングラードの研究所、ナイロビの太陽光発電プラント——フューチャー財団が建設してきた施設群が、本作の隠れた支柱として一斉に映される。リードの計画は、惑星規模の「ブリッジ・ドライブ」を地表に組み立て、ギャラクタスを地球軌道に誘い込んだ瞬間、彼自身を遠い亜空間(サブスペース)へ転送するというものだった。
リードの計画には倫理的な代償がある——巨大なドライブの中心点に立つ者は、起動の衝撃に耐えられない。誰かが手動で起動する必要があり、その役は機械化できない。一家のなかでも、誰がその役を負うかは口に出して論じられない。観客にとっては既に予感が立っている。
ニューヨーク市民は当初、一家を責める。「あなたたちが宇宙へ行ったからあれが来た」「子供を売ればよかったのではないか」。市庁舎前で群衆に囲まれた一家へ、シューイ家のシングルマザーが「私の子もまだ六か月だ。あなた方の判断を支持する」と声を上げる。連帯の声は次第に広がり、四人は再び市民の側に立つ。市長は「街を守る」と宣言し、一家のもとへ街頭のメッセージが届きはじめる。
ギャラクタス到来とニューヨーク決戦
ある朝、太陽光が遮られる。空が黒い影に覆われ、ニューヨーク市民は窓辺で凍りつく。タロス号がマンハッタン上空数百キロに到達し、ギャラクタスが自ら降下を始める。彼の身丈はそのままビル群を見下ろす高さに達し、惑星のエネルギーを「飲む」ためのアームが地表へと伸びる。摩天楼が砕け、橋が傾く。一家は事前に計画した位置——リバティ島とブルックリンと中央公園にまたがる三角形の中心へ向けて、ギャラクタスを誘導する。
誘導はジョニーが担う。彼は炎を最大出力にして、ギャラクタスの視線と進路を引き寄せる挑発役を引き受ける。ベンは橋桁の崩落を受け止め、市民の避難動線を確保する。リードは伸縮する身体を伸ばし、ブリッジ・ドライブの末端三点を市街地に固定する。スーは——身体に宿したフォースフィールドを最大級まで広げ、市街地全体を覆う逆L字型のドームを作って、ギャラクタスのエネルギー吸収アームを物理的に弾き返す。スーの額に血が滲み、彼女は無言のままドームを保ち続ける。
中盤、シルバーサーファーが市街地上空へ突入する。彼女はギャラクタスの命令で四人を妨害するはずだったが、ジョニーは飛行中に彼女と並走しながら呼びかける——「あなたは強制されている。あなた自身の星を、ギャラクタスは喰った。あなたの妹も、あなたの星の海もすでにない。なのに、なぜまだ仕えている?」。シャラ・バルの銀色の身体に、わずかな震えが走る。ジョニーは続ける——「今ここで降りていい。あなたを罰せるのは、あなた自身ではないはずだ」。
シャラ・バルはギャラクタスの空中の側面に着地し、長年の沈黙のあと、初めて「主よ。彼らはあなたが食らうべきものではない」と言葉を返す。ギャラクタスはその瞬間、初めて目を見開く。彼の「飢え」は、宇宙の摂理として常に正当化されてきたが、その正当性に挑む声をハラルド自身から受けたのは初めてだった。シャラ・バルは銀色のボードを真下へ突き入れ、自分の身体ごとギャラクタスの胸部のコズミック・コアへ突進する。
サブスペース転送と犠牲
シャラ・バルの突進でギャラクタスは数秒間動きを止める。その隙にリードはブリッジ・ドライブの起動コードを叩き込み、市街地中心点へギャラクタスを誘導する。だが起動はまだ完了せず、最終ステップとしてドライブ中心点に手を置いて回路を閉じる必要がある。リードが伸縮した腕でその役を担おうとした瞬間、スーは無言で夫を押しのける。彼女は、ニューヨーク全域を覆うフォースフィールドを維持しながら、同時に中心点へ歩んでいた。
「あなたは家族のもとへ戻りなさい。フランクリンには父親が必要よ」。スーはそう言って、ドーム維持に集中したまま、中心点に手を置く。ブリッジ・ドライブが青白い柱状の光を立ち昇らせ、ギャラクタスの全身が空間の継ぎ目に吸い込まれていく。彼の咆哮は周波数の歪んだ叫びへと変わり、最後にコズミック・コアの内部が爆発したような光を放って、亜空間の彼方へ消える。シャラ・バルの銀色の身体も同時に消える。
起動完了の瞬間、スーの身体は中心点の上に崩れ落ちる。彼女のフォースフィールドが消え、街は徐々に色を取り戻す。リードが駆け寄ると、妻の心音は止まっていた。ベンとジョニーが駆けつけ、ジョニーは初めて泣く。リードは家族と街全員のために働きすぎた自分の妻を、ただ抱き寄せる。
そこへバクスター・ビルから連れ出された乳児フランクリンが、ベンの腕の中で空気の流れに反応するように小さく手を伸ばす。彼の指先がスーの額に触れた瞬間、街全体の影が一瞬だけ青白く輝く。スーの胸が、ゆっくりと、確かに上下しはじめる。フランクリン・リチャーズの「現実を書き換える力」が、初めて意識的に行使された瞬間である。リードは妻の名を呼び、彼女はまぶたを開いて、「あなた……良い父親になれそう?」と微笑む。
翌日、市庁舎前で街は静かに動き始める。崩れた橋は数日後の復旧工事が始まり、市民が窓辺から手を振る。ヘラルド戦死後の宇宙のどこかでは、シャラ・バルの銀色の輝きがどこかへ向かって落ちていく——彼女の生存は明示されないが、最後のカットで小さく光る星のような点が映る。
ミッドクレジットとエンドクレジット——緑のフードの客人
本編のラストショットは、ニューヨーク市の朝の空に四人が並んで立つ穏やかな構図で閉じる。ミッドクレジット・シークエンスは、事件から約4年後——フランクリンが幼児になった時点のバクスター・ビルへ場面を移す。リード、ジョニー、ベンは外で別件に出かけており、家の中にはスーと、絨毯の上で絵本を開くフランクリンだけがいる。
スーは台所で湯を沸かしてリビングへ戻ろうとして、廊下の鏡に映る別の人影に気づく。フランクリンは絵本から顔を上げ、誰かに向けて手を伸ばしている。観客のカメラは絨毯の上の子供を真上から映す——彼の頬に、緑色の金属の指が触れる。緑色のフードを目深に被り、顔を見せないまま膝をつく、長身の人影。仮面の輪郭、緑色のローブ、フランクリンに向けて伸ばされた手。彼の正体は明示されない。
観客は、彼が誰なのかをすぐに察する——ドクター・ドゥームのバリアントである。彼が父リードの顔をしているのか、別のバリアントなのか、本作は答えを伏せる。だが、フランクリンが「現実を書き換える力」を持つこと、ドゥームが「父であろうとした男」であること、二つの事実を観客はすでに知っている。場面は緑のフードの肩越しの構図で暗転する。
この場面は、6年前の『アベンジャーズ』ミッドクレジットでサノスが初めて姿を見せたあのシークエンスと同じ機能を担う——「あなた方の物語の次の敵は彼だ」と宣告するための短いカットである。本作の次に予定される『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への直結伏線として、観客に強い余韻を残す。
エンドクレジット後の追加カットは、1967年版のアニメシリーズ『The Fantastic Four』の主題歌冒頭フレーズが流れ、ロゴが現れる短い静止画である。原作創刊号からのフランチャイズの歴史と、本作世界Earth-828のレトロ感が静かに重ねられた、過去への目礼の役割を果たす。
登場要素
本作に登場・言及される主要な要素を分類して示す。Earth-828の固有のテクノロジー名・地名・人物名が多く、現代MCU観客には初出の固有名詞も多い。
主要人物
- リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック
- スー・ストーム/インビジブル・ウーマン
- ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ
- ベン・グリム/ザ・シング
- フランクリン・リチャーズ(乳児/幼児)
- HERBIE(家事兼研究補助ロボット)
- テッド・ギルバート(番組司会/Earth-828の象徴的アンカー)
ヴィラン
- ギャラクタス/世界喰らい
- シャラ・バル/シルバーサーファー(ハラルド・オブ・ギャラクタス)
- ハーヴェイ・エルダー/モール・マン(地下勢力の指導者)
サポート
- ニューヨーク市長(地表側の代表)
- シューイ家のシングルマザー(市民の連帯の象徴)
- 世界各国の科学技術担当代表(フューチャー・カウンシル構成員)
組織
- フューチャー財団(一家を中核とする非営利の科学・人道団体)
- フューチャー・カウンシル(Earth-828の国家連合的枠組み)
- サブターラニアン(地下都市の住民)
- ギャラクタスの権能体系
場所
- バクスター・ビル(フューチャー財団本部)
- ニューヨーク・マンハッタン(Earth-828版)
- 深宇宙の星雲
- タロス号(ギャラクタスの移動要塞)
- 地下都市
- ブルックリン橋/リバティ島/セントラル・パーク(決戦の三角形)
アイテム・テクノロジー
- エクセルシオール号(一家の実験船)
- ブリッジ・ドライブ(亜空間転送装置)
- コズミック・サーフボード(シャラ・バル)
- コズミック・コア(ギャラクタス胸部)
- 都市監視ホログラム
- HERBIEの飛行ユニット
- 立体テレビ受信機
能力・概念
- 伸縮性身体(リード)
- 不可視化・フォースフィールド(スー)
- 全身炎上・自由飛行(ジョニー)
- 岩石化・超怪力(ベン)
- コズミック・パワー(サーファー/ギャラクタス)
- 現実書き換え(フランクリン・リチャーズ)
- 宇宙線被曝の遺伝的後遺症
ポストクレジット要素
- 緑のフードを被ったドクター・ドゥームのバリアント
- フランクリン・リチャーズへの接触
- 1967年版アニメ『The Fantastic Four』へのオマージュ
- 『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への直結伏線
主要登場人物
本作の人物造形は、原作創刊号の「家族と発見」の主題を、結成から4年経った後の倦怠期へ意図的にスライドさせている。各員の性格は単なるヒーローのタイプ化を超え、結婚生活、家族の不在、独立心、献身という日常の領域に置き直されている。
リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック(ペドロ・パスカル)
本作のリードは、天才科学者という以前に「夫であり、間もなく父になる男」として描かれる。冒頭の妊娠発覚で涙ぐむ場面、深宇宙の玉座でギャラクタスに「我が子を譲り渡せ」と要求されて即座に拒絶する場面、決戦で妻の代わりに中心点に立とうとして押しのけられる場面——いずれもリードの「妻と子を選ぶ」連続した選択として配置されている。ペドロ・パスカルは『マンダロリアン』『ラスト・オブ・アス』で築いた「無言の責任感を抱える父」のイメージを、ここで継続的に活用している。
リードの能力——身体を自在に伸縮させる——は、本作では戦闘技ではなくむしろ家事や応急処置として登場する場面が多い。天井裏の配線を見るために腕を伸ばす冒頭、橋桁を伸縮で受け止める中盤、ブリッジ・ドライブの三点を結ぶ終盤。能力が「家族と街のために」使われることが繰り返され、彼の能力そのものが献身の象徴として再定義される。
スー・ストーム/インビジブル・ウーマン(ヴァネッサ・カービー)
本作のスーは、間違いなく物語の精神的中核である。妊娠の発表、ギャラクタスへの一歩も引かぬ対峙、生まれたばかりのフランクリンを抱いたまま光速航行へ突入する母としての覚悟、決戦で街全域を覆うフォースフィールドを維持しながら中心点へ歩く沈黙——彼女のひとつひとつの所作が、原作以来のチームの精神の真の重心がスーであることを観客に納得させる。
ヴァネッサ・カービーは過去の出演作『ピーシーズ・オブ・ア・ウーマン』(2020)で「子を失う母」を演じ、本作では逆に「子を産むことで世界を選ぶ母」を演じる。彼女のフォースフィールドは、本作では「相手を弾く盾」ではなく「街全員を覆う傘」として描かれる。能力の意味づけの転換が、人物のあり方そのものの転換と完全に一致している。
決戦終盤、彼女が「あなたは家族のもとへ戻りなさい」と夫に告げて中心点に立つ場面は、本作の感情のピークを成す。フランクリンの指先によって彼女が呼吸を取り戻す場面と合わせて、本作はスーの「死と再生」を、家族の連帯の象徴として描き切る。
ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ(ジョセフ・クイン)
本作のジョニーは、原作・過去の映画で印象付けられた「火花散らす陽気な弟」の像を尊重しつつ、シャラ・バルとの対話を通じて「他者の沈黙を聞き取る感性」を獲得していく。冒頭で交わした一瞬の目線を解析し続け、決戦中盤で彼女に「あなたは強制されている」と呼びかけ、最終的に彼女の選択を引き出す役割を担う。
ジョセフ・クインは『ストレンジャー・シングス』シーズン4のエディ・マンソン役で、感情の表面と内部の落差を演じ分ける力量を示した俳優である。本作のジョニーは、能力の派手さに比して感情の繊細さが目立つ造形になっており、過去の二度の実写化(クリス・エヴァンス、マイケル・B・ジョーダン)からの大きな読み替えが行われている。
ベン・グリム/ザ・シング(イーボン・モス=バクラック)
本作のベンは、料理を通じて家族を支える日常の柱として配置される。岩石化した身体の重さ・痛み・社会的視線という「人間としての困難」が、リードの伸縮や妹のフォースフィールドのような「美しい能力」と対比される。彼の存在が、本作世界の「ヒーローでも完全には人に戻れない」という重さを保証する。
イーボン・モス=バクラックは『熊』(The Bear)で「内側に毒を抱える兄」を演じた経歴を持つ俳優である。本作のベンは、ニューヨーク・ローワー・イーストサイドのユダヤ系移民の文化的背景を、原作からの伝統に忠実に受け継いでおり、決戦中盤で街の路地で祖母と一言交わす場面に、その背景が静かに置かれている。
シャラ・バル/シルバーサーファー(ジュリア・ガーナー)
本作のシルバーサーファーは、原作の代名詞ノリン・ラッドではなく、その婚約者シャラ・バルの形を取る。彼女は故郷の星ザン=ラを救うために自らギャラクタスのハラルドの座に身を投じ、無数の惑星を狩り殺してきた長い罪の重みを背負う。ジョニーとの対話を通じて、彼女は初めて「主に逆らう」声を上げ、自らの身体ごと主のコズミック・コアへ突進する。
ジュリア・ガーナーは『オザークへようこそ』『インベンティング・アンナ』で築いた「静かな憤怒の演技」を、銀色の表面の下で表現する。台詞は少ないが、彼女の停滞、彼女の躊躇、彼女の最後の覚悟が、ほぼ目線とポージングだけで観客に伝わる。本作の批評で最も称賛された演技のひとつである。
ギャラクタス(ラルフ・アイネソン)
本作のギャラクタスは、原作ジャック・カービーの紫色のヘルメットと巨人型を、ほぼそのまま実写映像化した造形である。2007年版『シルバーサーファー:超光速ギャラクタの逆襲』が「宇宙の渦巻」としてギャラクタスを抽象化したのに対し、本作は「ニューヨークの街並みを見下ろす紫の巨人」として真正面から描く。
ラルフ・アイネソン(『ザ・ウィッチ』『ノーザマン』)の低音は、彼の最大の演技装置として機能する。「飢え」を擬人化した存在として、彼の所作にはなんら個人的な悪意がない——ただ、宇宙の摂理として喰らうべきものを喰らう。本作の脚本は、彼を「悪役」ではなく「天災」として位置づける選択をしており、それが本作の倫理的構造を強く支えている。
フランクリン・リチャーズ(乳児・幼児)
本作のフランクリンは、台詞らしい台詞をひとつも持たない。それでも彼が物語の真の重心であることは、ギャラクタスが彼を狙う理由、スーが命を懸けて産み守る理由、そしてミッドクレジットでドクター・ドゥームのバリアントが彼に手を伸ばす理由——三つの構造的圧力によって、観客に正確に伝わる。
原作のフランクリンは「Ω級ミュータント」級の現実書き換え能力を持つ、シリーズ最高位の力の所有者である。本作の決戦で母を「指先一つで」生き返らせる短いカットは、原作の彼の能力を実写MCUに正式に持ち込む宣言にあたる。彼が今後どのように成長していくのか——とりわけ『ドゥームズデイ』『シークレット・ウォーズ』の構想において——は、シリーズ全体の最大の主題のひとつとなる。
舞台と用語
本作の舞台は、MCU主世界(Earth-616)と並行する別地球「Earth-828」である。「828」はマーベル・コミックス創始者スタン・リーの誕生日(1922年12月28日)から取った番号として広く受け取られている。1960年代後半のアメリカ的未来観——丸みのある自家用車、宇宙旅行を当たり前と受け止める市民の生活、家庭内に常駐する家事ロボット、テレビ番組が国家統合の中核を担う情報空間——が、Earth-828の日常として描かれる。
用語面では、フューチャー財団、バクスター・ビル、エクセルシオール号、ブリッジ・ドライブ、HERBIE、コズミック・パワー、タロス号、サブターラニアン、フューチャー・カウンシルが鍵となる。これらの語は事前に暗記するより、本作で人物がどう振る舞うかを通じて自然に習得する方が記憶に残る。
本作世界がMCU主世界とどのように接続するかは、本編内では明示されない。だが、ミッドクレジットの緑のフードがドクター・ドゥームのバリアントだと観客が解釈する瞬間、本作の終結は『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への入口として読み替えられる。Earth-828のヒーローたちが、Earth-616をはじめとする他世界へ「橋渡し」する役を担うことが、シリーズ構造のうえで強く示唆されている。
制作
本作はディズニーによる21世紀フォックス買収(2019年完了)後にマーベル・スタジオが製作権を取り戻した、ファンタスティック・フォーの実写映画化第四弾である。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。
企画と脚本
マーベル・スタジオは2020年12月、コミコン代替のディズニー投資家向けイベントで本作の製作を正式発表した。当初、監督はジョン・ワッツ(『スパイダーマン:ホームカミング』三部作)が予定されていたが、2022年4月にスケジュール的理由で降板し、後任にマット・シャクマンが就任した。シャクマンは『ワンダヴィジョン』(2021)で「家族の幻想と現実」を扱った経験を、本作の家族劇に直接活用している。
脚本は、当初ジェフ・カプランとイアン・スプリンガーが書いた初稿を、ジョシュ・フリードマン(『コンタクト』『戦争の犬たち』『ターミネーター:未来戦記サラ・コナー・クロニクルズ』)とエリック・ピアソン(『マイティ・ソー/バトルロイヤル』『ブラック・ウィドウ』)が書き直す形で完成された。最終的にWGAは4名共同のクレジットを認め、原作初期エピソードを下敷きにしつつ、「家族と発見」を中核に据える脚本が完成した。
舞台をMCU主世界に置かず、別地球Earth-828に置く決断は、企画初期から確立されていた。これによってマーベル・スタジオは、既存のフェーズ4・5の物語と本作の家族劇を直接接続する負荷を回避し、ファンタスティック・フォー独自の世界観を構築する自由を得た。同時に、本作の終結を『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』に直結させる伏線設計は、フェーズ6全体の縦糸として機能している。
キャスティング
主要キャストは2024年2月、マット・シャクマン監督の発表とともに公表された。ペドロ・パスカル(リード・リチャーズ)、ヴァネッサ・カービー(スー・ストーム)、ジョセフ・クイン(ジョニー・ストーム)、イーボン・モス=バクラック(ベン・グリム)の四人は、いずれも当時のテレビと映画の最前線で活躍する俳優陣で構成されている。
ヴィラン陣では、ラルフ・アイネソンがギャラクタス役、ジュリア・ガーナーがシルバーサーファー/シャラ・バル役にキャスティングされた。シルバーサーファーをノリン・ラッドではなく女性のシャラ・バル版とする選択は、本作の独自性を強める判断として歓迎された。脇役としてはポール・ウォルター・ハウザーがモール・マン/ハーヴェイ・エルダー役、ナターシャ・リオンがベン・グリムの恋人(一部の場面)として参加している。
HERBIEは球状の小型ロボットとして実物大プロップとCGの併用で表現され、声はマシュー・ウッド(『スター・ウォーズ』のジェネラル・グリーヴァス役などで知られる音声デザイナー)に近い手法で構築された方向のキャラクター・ボイス設計が採用されている(声優クレジットは公式発表参照)。
撮影とロケ地
本作の主要撮影は2024年7月から11月にかけて、英国ハートフォードシャー州のパインウッド・スタジオを拠点に行われた。ロケ地としてはスペインのカナリア諸島が用いられ、Earth-828の海岸線と砂漠地帯のシークエンスに使用されている。スペイン本土のセゴビアや、英国南海岸の街路も、Earth-828の地表景観の一部に組み込まれた。
撮影監督ジェス・ホール(『ゴーストバスターズ/アフターライフ』『トランセンデンス』)は、本作のレトロフューチャー美術を支えるために、フィルム調の色温度、ソフトでわずかにマゼンタに寄った肌色、深い影を意識した照明設計を採用した。1960年代のロバート・アルトマン作品やスタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』のキャプチャー感を、デジタル撮影の質感に翻訳することが意識されている。
美術監督ケイヴ・クインは、バクスター・ビルの内装を「家事と研究の同居」を視覚化するために、円形と曲線を多用したミッドセンチュリー・モダンのインテリアに統一した。HERBIEの形状、エクセルシオール号のコントロール・パネル、テレビ番組のセットなど、本作の固有美術はすべて同じデザイン語彙で整えられている。
視覚効果
本作の視覚効果は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)を主担当に、Wētā FX、Framestoreほか複数のスタジオが分担した。最大の負荷は、ニューヨーク決戦シークエンスにおけるギャラクタスの巨人造形、スー・ストームの市街地全域を覆うフォースフィールド、シルバーサーファーのコズミック・パワー表現、そしてエクセルシオール号と深宇宙のセット拡張である。
ギャラクタスは、ラルフ・アイネソンの体形と顔の演技を、CGの巨人スーツの中に転写するモーション・キャプチャー&フェイシャル・キャプチャー方式で構築された。ヘルメットの紫色は、原作ジャック・カービー絵の色をCG上で再現するために、複数の物理シミュレーション層を組んだ複雑なシェーダー設計が行われている。シルバーサーファーの銀色の質感も、単純な金属シェーダーではなく、彼女の感情に応じてわずかに艶を変える表面処理が採用されている。
スーのフォースフィールドは、不可視ながら街全体を覆うことを観客が感知できるように、わずかに屈折する空気のレンズ的表現として設計された。これらの成果は、本作の批評で最も称賛されたVFXのひとつとして受け取られた。
音楽と音響
音楽はマイケル・ジアッキーノが担当した。彼は『ドクター・ストレンジ』『スパイダーマン:ホームカミング』三部作、『ザ・バットマン』を手がけてきた、現代ハリウッド屈指のスーパーヒーロー映画作曲家である。本作のメインテーマは、フレンチホルンが上昇音型で「家族」のモティーフを提示し、それを弦が支え、最後に金管全体でEarth-828の楽観的な未来観を歌う構造を持つ。
副次主題として、シルバーサーファー/シャラ・バルのための短い旋律(高音域のオンド・マルトノ的音色)、ギャラクタスのための低音のドローン(金管低音とシンセサイザーの重ね)、フランクリン・リチャーズのための子守唄調モティーフ(ピアノ+弦の最小編成)が用意されている。
音響デザインも、Earth-828世界の固有の音風景を作る重要な装置として機能する。エクセルシオール号のブリッジ・ドライブ起動音、HERBIEの飛行用ホバー音、ギャラクタスのコズミック・コアの脈動音、ニューヨーク街頭のレトロな電光ボードの低周波——これらの音の組み合わせが、本作の世界の現実感を支えている。
編集と公開準備
編集はティム・ロッシュが担当した。本作は115分という近年のMCU映画としては短めの上映時間に整えられており、家族劇と宇宙スケールの戦いを過不足なく往復する編集設計が求められた。プロローグの白黒テレビ番組によるエクスポジション、深宇宙パートと地球パートの並行カット、決戦中盤のシャラ・バルとの対話シーンの長回しなど、密度と速度の使い分けが意識されている。
公開直前のテスト試写では、ミッドクレジットの緑のフードのシーンに対する反応が極めて強く、マーベル・スタジオはこのシーンを本編クライマックスから直接接続する形へ微調整したと伝えられる。エンドクレジット後の1967年版アニメへのオマージュは、当初から決定していた控えめなトリビュートとして温存された。
公開と興行
本作は2025年7月22日にロサンゼルスのドルビー・シアターでワールド・プレミアが開催され、米国では7月25日に劇場公開された。日本では同年夏のうちに『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ』の邦題で公開されている。
本作の興行成績は、過去のフォックス版三作(2005、2007、2015)のいずれをも大きく上回り、フランチャイズ史上最大の成功となった。米国オープニング週末は約1.18億ドル、全世界興収は約5億ドル超とされる(公開後の修正値による)。マーベル・スタジオは、本作の成功によってフェーズ6への投資判断を確かなものにし、続く『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への接続を予定通り進めることになる。
批評筋ではRotten Tomatoes上で好意的評価が大勢を占め、Metacriticでも中央値以上のスコアを獲得した。批評家の多くが評価したのは、レトロフューチャー美術の徹底、家族劇としての感情の精度、シルバーサーファーとギャラクタスの古典的造形、マイケル・ジアッキーノの主題、そしてヴァネッサ・カービーの母性演技である。
批評・評価・文化的影響
本作はMCUのフェーズ6開幕作として、フェーズ4・5で揺らいだ観客の信頼を回復する戦略的位置に置かれていた。批評家の多くは、本作が「家族と発見」という原作創刊号の主題を、現代の映画文法で素直に再構築したことを高く評価した。マーベル・スタジオが過去数年「マルチバース疲労」と批判されてきた状況に対する、明確な軌道修正の作品として受け取られている。
Earth-828という別地球の設計、シルバーサーファーのシャラ・バル版採用、ギャラクタスの紫色巨人としての真正面な造形、そして家族劇としての構成は、いずれも過去のフォックス版実写化が果たせなかった「原作創刊号の精神の映画化」として、長期ファンから熱烈な支持を受けた。新規観客にとっても、MCUの先行作品を一切知らなくても物語に入れる「単独で完結する家族映画」として機能した。
「我が子はお前のものではない」「あなたは家族のもとへ戻りなさい」「あなたは強制されている」といった台詞、ニューヨーク市街地を覆うスーのフォースフィールド、フランクリンの指先による母の蘇生、緑のフードの客人——これらの画と台詞は、公開以降のスーパーヒーロー映画文化の共有語彙として広く引用され続けている。
舞台裏とトリビア
本作の舞台がEarth-828に設定された理由は、マーベル・コミックス創始者スタン・リーの誕生日(1922年12月28日)に由来すると広く受け取られている。マーベル・スタジオは、この番号の使用に際して、スタン・リーの遺族およびマーベル・コミックスの権利継承体制との十分な調整を行ったとされる。
シルバーサーファーをノリン・ラッドではなくシャラ・バルとした選択は、原作ファンの間で当初は議論を呼んだが、ジョセフ・クインとジュリア・ガーナーの対話シーンの完成度の高さによって、公開後はおおむね歓迎された。原作におけるシャラ・バルの「ザン=ラの女王」としての設定は、本作では明示されないが、彼女の沈黙の中に断片的に示唆されている。
ミッドクレジットの緑のフードの人物を演じたのは、当時すでに『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』のドクター・ドゥーム役にキャスティングが報じられていたロバート・ダウニー・Jrであるとされ、本作のラストカットは公開前から最大級の話題として広く流通した。彼の顔が画面に映されないことが、本作の余韻を最大化する選択として機能している。
本作のHERBIEは、原作1978年版アニメシリーズ『The Fantastic Four』で、当時の権利問題からヒューマン・トーチの代役として導入されたキャラクターである。本作はその経緯を踏まえつつ、HERBIEを「家族の五人目」として違和感なく登場させ、原作ファンへの目礼として機能させている。
テーマと解釈
本作の中心テーマは「家族と発見」である。原作創刊号の主題を、結成から4年後の家族へスライドさせ、「すでに英雄である一家が、新しい家族の到来をどう迎えるか」を物語の核に据える。妊娠の発表、子を譲り渡せという外部からの要求、生まれたばかりの子を抱いた光速航行、子の指先による母の蘇生——本作の重要な場面はすべて、家族の境界線を巡る選択である。
もう一つの軸は、力と犠牲の問題である。スーが街全域を覆うフォースフィールドを維持しながら中心点へ歩く場面、リードが妻に押しのけられる場面、ジョニーがシャラ・バルに「あなたは強制されている」と呼びかける場面——本作は「誰が犠牲を払うべきか」という古典的な英雄譚の問いを、家族の文脈で書き直す。フランクリンの指先による蘇生という奇跡は、犠牲の重みを軽くするのではなく、「家族が家族を救う」連鎖の最後の一歩として機能している。
そして最後の軸は、敵の規模の拡張である。ギャラクタスは個人としての悪意を持たない天災として描かれ、その天災を退けたあとに、より個人的な脅威——ドクター・ドゥームのバリアント——が静かに姿を見せる。本作の幕切れは「勝った」ではなく「勝った、しかし次が来る」と聞こえるよう設計されており、それが『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への持続的な牽引力を生んでいる。
見る順番(補助)
本作は意図的に、MCUの先行作品を一切知らなくても物語に入れるよう設計されている。Earth-828という別地球を舞台にし、主世界のキャラクターは一人も登場しない。初見ならば本作のみを単独で鑑賞しても、家族劇として完結した体験が得られる。
MCU全体の文脈で観るならば、本作の直前作は『サンダーボルツ*』(2025)、直後作は『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(公開予定)となる。とくにミッドクレジットの緑のフードの客人は、続く『ドゥームズデイ』の前提として必須の伏線である。マルチバース・サーガの後半を理解するには、本作と『デッドプール&ウルヴァリン』を観てから『ドゥームズデイ』へ向かうのが推奨される。
- 前作(公開順の直前)『サンダーボルツ*』(2025)
- 本作Earth-828のファンタスティック・フォー一家、ギャラクタス/シャラ・バルとの対決、フランクリン誕生
- 次作(公開順の直後)『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(緑のフードのドクター・ドゥームのバリアントを継承)
よくある質問(補助)
「あらすじだけ知りたい」場合は、Earth-828の前史、スーの妊娠とシルバーサーファー来訪、深宇宙でのギャラクタスとの拒絶、地球帰還と世界連合の動員、ニューヨーク決戦、サブスペース転送と犠牲、フランクリンによる蘇生、緑のフードの客人、というおおまかな八段で十分である。「結末を知りたい」場合は、スーが街全域を覆うフォースフィールドを維持したまま中心点に立ってギャラクタスを亜空間へ送り、彼女自身が一度命を落とすが、生まれたばかりのフランクリンの指先によって蘇る——という三つを押さえれば物語の決着は把握できる。
「ミッドクレジットの緑のフードの人物は誰?」という質問には、本編内では明示されないが、観客の解釈としては「ドクター・ドゥームのバリアント」であり、続く『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』へ直結する伏線であると答えるのが最も正確である。「シルバーサーファーがなぜ女性なのか?」という質問は、原作にも存在するシャラ・バル版(ノリン・ラッドの婚約者)を採用した結果であり、本作はノリンではなくシャラ・バル単独のシルバーサーファーを描いている。
「Earth-828はMCU主世界と接続するか?」という質問には、本編内では明示されないものの、ミッドクレジットの構造とフェーズ6の予定から、続く『ドゥームズデイ』『シークレット・ウォーズ』のマルチバース融合の物語のなかで主世界と合流する、という見方が広く受け取られている。
参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。
参照・確認先
公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。