ロシア兄弟監督が、ヒーロー同士の信頼を真っ二つに割り、空港の滑走路で十二人を殴り合わせ、最後にシベリアの極寒のバンカーでアイアンマンとキャプテンを差し向かいで対峙させる——MCUフェーズ3の幕開けにして、シリーズ十年史の感情的な分水嶺となった一本。

基本データ 2016年・ルッソ兄弟監督

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)に続いてアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が監督を務め、脚本もクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが続投。MCUフェーズ3の幕開けを担い、形式上は『キャプテン・アメリカ』三部作の完結篇であると同時に、事実上のアベンジャーズ3作目として12人のヒーローを一本に集めた147分の超弩級アンサンブルである。

物語上の位置 『エイジ・オブ・ウルトロン』後・ソコヴィア協定の発効

前作『エイジ・オブ・ウルトロン』の終戦で空中都市となったソコヴィアが落下し、その瓦礫の下に多数の死者を残した。本作はその罪の請求書として、国連加盟117カ国によって署名された「ソコヴィア協定」がアベンジャーズの活動を制限しようとするところから始まる。続く『スパイダーマン:ホームカミング』『ブラックパンサー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』への直接的な助走線でもある。

受賞・評価 批評・興行ともに大成功

ロッテン・トマトの批評家評は90%、メタスコアは75点。世界興行収入は約11億5300万ドルで、2016年の年間世界興収1位となった。ヒーロー同士の対立を倫理劇として成立させた脚本構造、空港戦の幕間としての歓喜、そしてシベリアの密室劇としての終盤が高く評価され、シリーズの正典的傑作の一本として今日まで参照され続けている。

この記事の範囲 結末・ジモの本当の目的・シベリア決闘まで完全解説

ラゴスの誤爆、ソコヴィア協定の発効、ジモ大佐の登場と国連爆破事件、ライプツィヒ=ハレ空港での十二人乱戦、ヴィジョンの誤射でローディが半身不随になる経緯、シベリアのバンカーで明かされる1991年の真実、ピーター・パーカー/スパイダーマンとティチャラ/ブラックパンサーのMCU初参戦、そしてラフト刑務所でのキャップ陣営収監とワカンダでのバッキー冷凍まで、すべてのネタバレを前提に解説する。

目次 35項目 開く

概要

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(Captain America: Civil War)は、アンソニー・ルッソとジョー・ルッソが監督し、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが脚本を執筆したアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。シリーズ通算13作目、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ3の第1作にあたり、形式上は『キャプテン・アメリカ』三部作の完結篇である。

原案はマーク・ミラー作・スティーブ・マクニーヴン画のクロスオーバー大作『シビル・ウォー』(2006-2007)に着想を得ているが、本作は登場ヒーロー数と物語の射程を意図的に絞り、コミックの大規模戦争劇ではなく「家族の崩壊」のスケールで再構築されている。脚本陣は当初『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の延長線上で、バッキー・バーンズの過去と国家管理の主題を掘り下げる小さな続編を構想していたが、ケヴィン・ファイギとマルクス&マクフィーリーの議論の中で、トニー・スタークを反対側に置き、ヒーロー同士の倫理的対立を主軸に据える方向へ拡張された。

米国公開は2016年5月6日、日本公開は2016年4月29日。撮影は2015年4月から8月にかけて、米国ジョージア州アトランタを中心にベルリン、プエルトリコ、レイキャビクなどで行われた。製作費は約2億5000万ドル、上映時間147分。世界興行収入は約11億5300万ドルに達し、シリーズ史上有数の興収を記録した。

本記事は、ラゴス冒頭から、ジモ大佐の正体と本当の目的、シベリアのバンカーで再生されるハワード&マリア・スターク殺害の1991年12月16日の映像、そしてラフト刑務所収監とワカンダでのバッキー再凍結に至るまで、本作の結末すべてを前提として書かれている。物語の驚きを保ちたい読者は、本編を一度通して観てから戻ってきてほしい。

原題
Captain America: Civil War
監督
アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
脚本
クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
原作
マーベル・コミック『シビル・ウォー』(マーク・ミラー/スティーブ・マクニーヴン)に着想
音楽
ヘンリー・ジャックマン
撮影
トレント・オパロック
米国公開
2016年5月6日
上映時間
147分
ジャンル
スーパーヒーロー、スパイ・スリラー、アクション

あらすじ

以下は結末とミッドクレジット・ポストクレジット両シーンを含む全編のあらすじである。本作は、『キャプテン・アメリカ』三部作の完結篇であると同時に、12人のヒーローを一本に集めた事実上のアベンジャーズ3作目であり、アイアンマンとキャプテン・アメリカという二人の盟友が、ソコヴィア協定と一人の冷戦工作員ジモ大佐の周到な仕掛けによって、肉体的にも倫理的にも完全に決別するまでの物語である。

1991年12月16日——プロローグ、ハワード・スターク殺害

映画は1991年12月16日のフラッシュバックから始まる。シベリアの「ハイドラ冬季工作員養成施設」、若返らされたバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーが解凍され、暗唱コードによる起動の言葉を浴びる。任務指令は単純で、ハワード・スタークの自動車を奪い、車内の青いセラム(超人血清の派生サンプル)を入手することである。雪に覆われた山道、ハワードと妻マリアを乗せたメルセデスがコーナーを抜けようとした瞬間、闇からバイクが現れ、二人の前で停車する。ウィンター・ソルジャーは無言でハワードを殴り殺し、息のあるマリアの首を絞めて殺害する。トランクからセラムを抜き取ったあと、車を樹に追突させ偽装事故を完成させる。事故現場の監視カメラがかすかに作動している——後の展開を予感させる短い引きで、プロローグは終わる。

この場面そのものが、後半すべての展開の原資である。ジモ大佐は二十数年後、このVHSテープを掘り当て、それを「ヒーローを内側から壊す唯一の武器」として用いる。本作の全編は、観客に最後の瞬間までこの映像の存在を伏せる構造になっている。

ナイジェリア・ラゴス——生物兵器強奪を阻止する潜入

現代、ナイジェリア・ラゴス。スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ、ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ、サム・ウィルソン/ファルコン、そしてワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチの四人が、市場での生物兵器強奪計画を阻止する任務に就いている。ターゲットは、ハイドラ崩壊後に傭兵として暗躍するブロック・ラムロウ/クロスボーンズと彼の小隊。狙いはアフリカ疾病管理センターから運び出される致死性のウイルス・サンプルである。

潜入はおおむね成功するが、追い詰められたラムロウは自爆ベストの起爆スイッチを握り、「お前の親友がよろしくと言っていた」と告げる。スティーブの一瞬の動揺の隙にスイッチが押される。ワンダはとっさにエネルギー場でラムロウごと爆発を上空へ持ち上げるが、力の制御が間に合わず、すぐ近くのオフィスビル中層階で爆風が抜ける。建物の一区画が崩落し、ワカンダから派遣されていた人道支援団のメンバー11名を含む民間人多数が死亡する。

ラゴスの誤爆は世界中で大ニュースとなる。長年「自警団としてのアベンジャーズ」を許容してきた国際社会の忍耐は、この一件で限界を超える。場面はそのままワンダの自責と、サンクト・ピーター教会の祈りの音響を経て、トニー・スタークの登壇する場面へ移ろう。

ソコヴィア協定——アベンジャーズの分裂

MITの寄付講演を済ませたトニー・スタークは、エレベーターホールで一人の女性に呼び止められる。ミリアム・シャープと名乗る彼女は、息子チャーリーが『エイジ・オブ・ウルトロン』のソコヴィア戦で死亡したと告げ、息子の写真をトニーに突きつける。トニーの手の中に長く残る、観客への倫理的な打撃である。

アベンジャーズ本部、サディアス・E・ロス国務長官(ウィリアム・ハート)が突然現れる。手にしているのは、国連加盟117カ国の署名による「ソコヴィア協定」——以後アベンジャーズは国連の指揮下に置かれ、各国の許可なしには出動できないという拘束条約である。ヴィジョン、ナターシャ、ローディ、そしてトニーは、ラゴスの罪と過去四作の被害を直視した結果として、署名を支持する。スティーブ、サム、ワンダは、政治的指揮の不確実性に肉体を委ねるリスクの方が大きいとして拒否する。

ここで本作の倫理的構図が完成する。トニーは「俺たちが自分を縛らないなら、誰かが俺たちを縛りに来る」と論じ、スティーブは「サインしてしまえば、ここから先、我々は誰の責任にもされない代わりに、誰の意思も持てなくなる」と返す。同じ部屋で、同じソファに、長く並んで座ってきた仲間が、紙一枚で割れていく。

ウィーン国連爆破事件——「テロリスト」とされたバッキー

ウィーンで、ソコヴィア協定の正式署名式典が開かれる。ワカンダ王ティチャカ国王が登壇し、息子ティチャラの隣でラゴスの死者を悼む。「我々は静かな国だが、もはや静かではいられない」——そして演説の途中、外壁の爆発が会場を呑み込む。ティチャカは息子の腕の中で絶命する。爆弾犯として警察が公開するのは、ウィンター・ソルジャー時代のバッキー・バーンズの顔写真である。

本作はこの瞬間に物語の重心を一気にバッキーへ移す。スティーブにとってバッキーは、ブルックリン時代から続く最古の友人であり、自分が国家機構から救えなかった最後の一人である。スティーブは協定への署名を保留し、ブカレストへ単独で向かう。協定派は「テロリストの逮捕」のために、ティチャラを含む特殊部隊と国際刑事警察を派遣する。

観客はまだ、ウィーンの爆発はバッキーがやったのではないと知らない。仕掛けたのは、群衆に紛れて現場を撮影していた一人の男——ジモ大佐である。

ブカレストの追跡劇——ブラックパンサー初参戦

ブカレスト、簡素なアパートの一室で梅干しのような生活を送っていたバッキーのもとへ、スティーブが先に到着する。バッキーは穏やかな声で「お前を覚えている」と告げ、自分はウィーンに行っていないと言い切る。直後にドイツ警察特殊部隊が突入し、同時に、ヴィブラニウム合金製の漆黒のスーツに身を包んだ男——ブラックパンサー/ティチャラがバルコニーから飛び込んでくる。

アパートからバッキーが脱出し、地下水道を駆け抜け、ブカレストの高架トンネルへ抜ける長尺の追跡劇は、本作初期の最大の見せ場である。バッキーがバイクで疾走し、その背を追って屋根を走るブラックパンサー、上空からウィングを開いて滑空するファルコン、そして地上で銃を抜く警察、四つの動線が一本のトンネルの内側で交差する。最終的に四人ともローディ/ウォー・マシンに包囲され、トニー側の協定派の指揮下で連行される。

ベルリンの統合作戦本部に運ばれたバッキーは、防弾アクリル張りの心理評価室に入れられる。同じ建物の別室で、スティーブとサムは協定派と緊張した会話を交わし、ティチャラは外で父の遺体と向き合う。場面は一時間の長い静寂のあと、爆破される。

ジモ大佐の本当の目的——トリガー・ワードの起動

本部の心理評価室にいるのは、心理学者を名乗る男——実はソコヴィア出身の元軍人ヘルムート・ジモ大佐である。彼は、十年前のソコヴィア戦でアベンジャーズによって妻と子と父を失った男であり、本作の真の敵である。彼は本部の電源を意図的に落とし、停電の闇の中、バッキーに「longing, rusted, seventeen, daybreak, furnace, nine, benign, homecoming, one, freight car」というロシア語のトリガー・ワードを順に唱える。

トリガーが完了した瞬間、バッキーは無表情のままウィンター・ソルジャーに戻る。研究室の壁を破り、職員を制圧し、ヘリパッドへ脱出する。スティーブとサムは、暴走するバッキーを生身で取り押さえ、ようやくスティーブが意識を取り戻させる。ジモは、その混乱の中、何の足跡も残さずに建物から離脱している。

彼の狙いはバッキーの解放ではない。バッキーから1991年のシベリア任務の記憶を引き出し、そこにある「ハイドラ冬季工作員養成施設」の座標を取得することだった。施設には、ジモが復活させたいハイドラの五人の冬季工作員が冷凍されている——その世界に出れば、世界はもう一度ソコヴィア級の罪を抱える。彼の計画はそうではない。本物の狙いは、もっと精緻で皮肉である。「五人の超人を起こすふりをして、トニーとスティーブを差し向かいに立たせる」。

両陣営の編成——アントマン、スパイダーマン、ホークアイ

スティーブ側の編成は、サム・ウィルソン、ワンダ・マキシモフ、バッキー・バーンズの三人に、サムが推薦するスコット・ラング/アントマンと、引退状態から戻ったクリント・バートン/ホークアイが加わって六人となる。ホークアイはワンダの軟禁を解放する役目で合流する。アントマンはサンフランシスコの自宅から、サムが運転するワゴンの後部座席に正座で運び込まれる。

トニー側の編成は、ジェームズ・ローズ/ウォー・マシン、ナターシャ・ロマノフ、ヴィジョン、ティチャラ/ブラックパンサーの四人に、新顔のピーター・パーカー/スパイダーマンが加わって五人。トニーはクイーンズのアパートを訪ね、メイ・パーカー(マリサ・トメイ)と短い会話を交わしたあと、ピーターの私室で彼の自家製スーツを取り出し、「君を雇いたい」と直接話す。本作はピーター・パーカーが初めてMCUに現れる瞬間であり、後に『スパイダーマン:ホームカミング』へ直結する重要な発火点となる。

編成が整ったところで、両陣営はライプツィヒ=ハレ空港の使われていない一区画で、生身を伴って衝突する。シベリアへ向かおうとするスティーブ側を、空港の滑走路で足止めしようとするトニー側、という構図である。

ライプツィヒ=ハレ空港戦——12人乱戦

ドイツ・ライプツィヒ=ハレ空港、午後の遅い斜光の下、12人のヒーローが向かい合う。トニーの呼びかけ、スティーブの沈黙、ヴィジョンが空港の管制塔から線を引き、地上のライン上で全員が止まる。トニーが「最後の警告だ、スティーブ」と告げる。スティーブが盾を背負い直し、「悪いな、トニー、お前は俺の家族を撃てるか」と返したのを合図に、滑走路が乱戦の舞台になる。

戦闘は段階的に組まれている。前半はキャップ側の脱出を狙うサムの飛行とアントマンの小型化、後半はティチャラのバッキーへの執着とスパイダーマンの新顔としての驚き、最終局面はアントマンが巨人化(ジャイアントマン)してウォー・マシンとアイアンマンを地面に押し倒すクライマックスである。サムは「俺が知ってる戦いの中で、これが一番悪い」と漏らす。誰も殺したくないが、誰も止まれない。

戦闘の途中、スティーブとバッキーがクインジェットへ駆け出す。ナターシャは追っていたティチャラを止めずに、ティチャラ自身がバッキーを追って踏み出す道を開ける。ヴィジョンはサムを狙ったレーザーをわずかにそらした結果、サムの背後で旋回していたローディの胸部リアクターに直撃させる。出力を失ったローディは数千フィートから自由落下し、トニーが間に合わず地面に激突する。脚と脊椎の損傷で、ローディは下半身不随となる。本作の代償の中心は、ここで生まれる。

戦闘の最終的な勝者はいない。捕縛されたサム、ワンダ、クリント、スコットの四人は、海上のスーパーマックス収容施設「ラフト」へ送られる。スティーブとバッキーはクインジェットでシベリアへ向かい、トニーはローディの病室で計画外の真実をようやく直視する。

シベリアのバンカー——1991年の真実

シベリアの地下深く、放棄されたハイドラ冬季工作員養成施設にスティーブとバッキーが到着する。同じく単独で現地入りしたトニーが、サムから事前に情報を受け取って合流する。三人は休戦状態のまま、保管区画の冷凍チューブを順に確認していく——そこに収められているはずだった五人の冬季工作員は、すべて頭部に弾痕を残して既に殺されていた。

中央の制御室にジモが座っている。トニーが銃を抜こうとした瞬間、ジモは穏やかに「俺はあなたたちを殺しに来たんじゃない、これを見せに来た」と告げる。再生されるのは、ハワード・スタークの自家用車に取り付けられていた監視カメラの映像——1991年12月16日、雪のシベリア街道、ハワードの顔、マリアの首、バッキーの黒い義手。トニーは、最古の友人の手で自分の母を殺された、というその事実を、その場で初めて知る。

トニーの怒りは生身の人間として爆発する。「お前は知っていたのか」とスティーブに問う。スティーブは黙る——『ウィンター・ソルジャー』の終盤から、彼はうすうす知りつつ、バッキー本人と直接の関係づけを避けてきた。トニーはアイアンマンのスーツを召喚し、バッキーへ襲いかかる。スティーブは盾を構え、最古の友人を母殺しから守るために、最古の仲間と殴り合う。

三者の格闘は、地下バンカーの狭い廊下と階段室の中で延々と続く。トニーは「あの男は俺の母を殺した」と叫び、スティーブは「彼ではなく、ハイドラがやらせたことだ」と返す。最終的に、トニーがバッキーの左腕を切断し、立ち上がりかけたバッキーをスティーブが背中に庇う。スティーブはトニーの胸部リアクターに盾を振り下ろし、スーツを機能停止に追い込む。スティーブは黙ったまま盾を地面に置き、バッキーを連れて去る。盾の縁が氷の上で短く跳ねて止まる音は、シリーズ全体でもっとも長く尾を引く沈黙の一つである。

ラフト刑務所とワカンダ——分裂したシリーズの結び

海上のスーパーマックス収容施設「ラフト」の独房に、サム、ワンダ、クリント、スコットの四人が収監されている。トニーが訪れ、サムから「ジモはシベリアへ向かった」と一言だけ告げられる。トニーは現地へ単独で飛んだが、何を見たかは捕虜たちには伝わっていない。やがてスティーブが手紙と古いタイプの携帯電話を施設に届ける——「俺が必要なら、これを鳴らせ」。短い手紙の中でスティーブは、署名できなかった理由と、署名を求める者たちを敵に回したわけではないことを、トニーに対して書き残す。

ジモはどうなったのか。彼はシベリアの寒い屋外で、家族の写真を見ながら拳銃を顳顬に当てる。引き金は引かれない——同行していたティチャラが彼を取り押さえ、ヴィブラニウムの爪で銃を奪う。「復讐は人を喰い尽くす、私はもう喰われない」とティチャラは静かに告げ、ジモを国連当局へ引き渡す。ジモは生きたまま裁判の場へ送られる。

最後の場面はワカンダ。ティチャラは父を失ったばかりの新国王として、バッキーをワカンダ王宮の地下医療区画に迎え入れる。バッキーは自分の中のトリガー・ワードと、それでもなお止まらない殺人的反射の存在を恐れ、自ら望んでもう一度冷凍睡眠に入る。「ハイドラの暗示が頭から消える方法が見つかるまで、俺は眠っていた方がいい」。冷凍チューブの扉が閉じる音とともに、本編は閉じる。

ポストクレジット・シーンでは、ピーター・パーカーがクイーンズの自室で、トニーから贈られた腕時計型のスパイダー・シグナルを天井に投影してニヤつく一場面が短く描かれる。次に控える『スパイダーマン:ホームカミング』への正式なバトン・タッチである。

登場要素

本作は12人のヒーローを一本に集めた事実上のアベンジャーズ3作目だが、戦いの中心は二人の盟友の関係であり、世界中で同時並行する政治劇である。以下は主要な人物・場所・組織・道具の整理である。

キャップ陣営

  • スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)
  • バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)
  • サム・ウィルソン/ファルコン(アンソニー・マッキー)
  • ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)
  • クリント・バートン/ホークアイ(ジェレミー・レナー)
  • スコット・ラング/アントマン/ジャイアントマン(ポール・ラッド)

アイアンマン陣営

  • トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)
  • ジェームズ・ローズ/ウォー・マシン(ドン・チードル)
  • ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)
  • ヴィジョン(ポール・ベタニー)
  • ティチャラ/ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)
  • ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド)

ヴィラン

  • ヘルムート・ジモ大佐(ダニエル・ブリュール)——本作の真の敵、ソコヴィア戦の遺族
  • ブロック・ラムロウ/クロスボーンズ(フランク・グリロ)——冒頭で爆死
  • 1991年のウィンター・ソルジャー(バッキー)——フラッシュバックの殺害者

サポート

  • サディアス・E・ロス国務長官(ウィリアム・ハート)
  • ティチャカ国王(ジョン・カニ)——ウィーンで死亡
  • シャロン・カーター/エージェント13(エミリー・ヴァンキャンプ)
  • メイ・パーカー(マリサ・トメイ)
  • エヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)
  • ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー、回想的言及)

組織

  • アベンジャーズ
  • 国連/117カ国によるソコヴィア協定の署名国群
  • ジョイント・カウンター・テロリスト・センター(JCTC)
  • ハイドラ(解体後・冬季工作員プログラム)
  • ワカンダ王国・ドラ・ミラージュ周辺
  • ラフト刑務所

場所

  • ナイジェリア・ラゴス
  • アベンジャーズ本部(ニューヨーク州北部)
  • オーストリア・ウィーン国連支部
  • ルーマニア・ブカレスト
  • ドイツ・ベルリン統合作戦本部
  • ライプツィヒ=ハレ空港
  • シベリアのハイドラ冬季工作員養成施設
  • ラフト刑務所(海上)
  • ワカンダ王宮(クライマックス)

アイテム・技術

  • キャプテン・アメリカの星条旗の盾(ヴィブラニウム製)
  • バッキーの金属義手(ハイドラ製サイバネティック)
  • EXO-7ファルコン・スーツ+レッドウィング
  • アイアンマン Mark XLVI
  • ウォー・マシン Mark III
  • ピーターの自家製ウェブシューターとトニー謹製スパイダースーツ
  • アントマン/ジャイアントマンのピム粒子スーツ
  • ヘルムート・ジモが用いたバッキーのトリガー・ワード
  • 1991年のシベリア街道の監視カメラ映像
  • ソコヴィア協定原本

能力・概念

  • スーパーソルジャー血清と1991年の派生サンプル
  • ヴィブラニウムの吸収・反射特性(盾とパンサースーツ)
  • ピム粒子による拡大・縮小
  • ハイドラのトリガー・ワードによる暗示制御
  • ヴィジョンのマインド・ストーン由来のエネルギー
  • ワンダのカオス・マジック未呼称段階の念動・エネルギー操作

ポストクレジット要素

  • ワカンダでのバッキーの再冷凍シーン
  • ピーター・パーカーが受け取ったスパイダー・シグナルの腕時計

主要登場人物

本作の人物配置は、十人を超えるヒーロー同士の組み合わせ表ではなく、二人の盟友——スティーブ・ロジャースとトニー・スターク——の関係を中心軸に置き、その周囲に「誰の側に立つか」を巡って試される人々を配置する形で組まれている。新顔ティチャラとピーター・パーカーは、後の単独作のための準備でありつつ、本作の中だけでも完璧に独立した役割を担っている。

スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)

『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)から数えて五本目の主要出演にあたるクリス・エヴァンスのスティーブ・ロジャースは、本作で初めて「組織を完全に拒否する」段階に到達する。第一作で軍に手を入れ、第二作で国家機構の腐敗を直視し、本作で国連協定への署名を拒む——三部作の精神的な完結は、自由意志に踏みとどまる男の像で締められる。

彼の選択の核は政治理論ではなく、最古の友人バッキー・バーンズへの忠誠である。1940年代のブルックリンで一緒に育った相手を、二十一世紀の国家機構が「テロリスト」として撃つことを許せない、という極めて個人的な縦軸が、横軸の協定論議の上に重ねられている。最後にスティーブが盾を地面に置いて去る場面は、星条旗の盾という象徴の所有権を、自分の手で一度返上する所作である。

クリス・エヴァンスは本作の段階で、契約上の主要MCU出演枠が残り少なくなっており、彼の役者人生における長期の引き取りどころが、本作の沈黙のうちに準備されている。

人物:キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース 前作:ウィンター・ソルジャー 始まり:ザ・ファースト・アベンジャー

トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)

ロバート・ダウニー・Jr.のトニー・スタークにとって、本作は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の罪を背負ったうえで、ようやく罰を引き受けようとする男の物語である。冒頭、MIT寄付講演のあとミリアム・シャープから息子チャーリーの写真を渡される場面で、トニーは生身の人間として「自分の発明が殺した若者の名前」を初めて受け取る。協定への即時署名を支持する彼の選択は、政治計算ではなく、罪悪感そのものの裏返しである。

本作のクライマックスで、彼はバッキー・バーンズの黒い義手が母マリアの首を絞めた映像を、最古の盟友の前で見る。トニーにとってこの映像は、母を殺された事実の発覚そのものよりも、「最古の友人がうすうす知っていながら自分に告げなかった」という、もう一段深い裏切りで響く。スティーブの盾を全力で殴り続けるラスト10分は、ヒーロー映画の身体表現を超えて、家族劇の身体表現に近い。

ダウニー・Jr.は本作で初めて、トニー・スタークの内側の少年——母を奪われた12歳の子供——を、フェイス・タトゥーのように画面に貼り付けて演じている。

人物:アイアンマン/トニー・スターク 盟友期:アベンジャーズ 終着点:エンドゲーム

バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)

『ザ・ファースト・アベンジャー』で死んだはずだったブルックリンの幼馴染が、『ウィンター・ソルジャー』でハイドラの暗殺工作員として現れ、本作で「自分自身を取り戻そうとする男」へ転位する。セバスチャン・スタンは、無表情と微笑のあいだに微妙なグラデーションを置き、トリガー・ワードを浴びた瞬間の眼球の暗転を、観客の側に届く繊細さで演じ分けた。

本作の彼は、ハイドラに使われた過去の自分の罪を、自分の意思で引き受けようとする選択を最後に取る。ワカンダの冷凍チューブに自ら入ることは、「他人を殺さないために、まず自分を眠らせる」というほとんど宗教的な選択であり、そこから先の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『サンダーボルツ*』へ繋がる長い回復の旅路の起点となる。

前史:ウィンター・ソルジャー 後の節目:サンダーボルツ*

ティチャラ/ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)

ワカンダ王ティチャカの息子で、ウィーン爆破で父を失った直後の新国王。本作はチャドウィック・ボーズマンのMCU初登場であり、後の単独作『ブラックパンサー』(2018)のすべての準備が、ここで一気に行われた。ヴィブラニウム合金製のパンサースーツ、ヴィブラニウムの爪、そして「沈黙する強さ」というキャラクター造形は、本作のブカレスト追跡劇でほぼ完成している。

本作の彼の最大の決断は、ジモへの復讐を捨てる場面である。父を失った直後の彼が、シベリアの寒い屋外で銃を頬に当てたジモから銃を奪い、生かして引き渡す——この一連の所作だけで、後のワカンダ王の倫理が決まる。ボーズマンが2020年8月に逝去するまでの短い活躍期間の中で、本作は彼のMCUにおける出発点として永続的に重要な意味を持つ。

人物:ブラックパンサー/ティチャラ 単独作:ブラックパンサー

ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド)

ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオの共同製作合意(2015年2月)を受けて、ピーター・パーカーがついにMCUへ参入する。本作のトム・ホランドは当時19歳、撮影段階では18歳、ピーターを「クイーンズの15歳の高校生」として演じ直し、過去二度の実写化(サム・ライミ版、マーク・ウェブ版)とは完全に切り離された解釈を提示した。

メイ・パーカー(マリサ・トメイ)と暮らすクイーンズのアパートでトニーに見いだされ、ライプツィヒ=ハレ空港戦に投入される。空港戦の途中、彼が捕まえたキャップの盾を喜々として観察する瞬間、『帝国の逆襲』のオマージュとして口にする「巨大な歩く戦車」の話、そしてアントマンに弾かれて泣きそうな声で「先生、もう帰っていいですか」と漏らす場面——すべて、本作のクライマックスの重さを和らげる、軽やかな少年描写の傑作になっている。

人物:スパイダーマン/ピーター・パーカー 次:スパイダーマン:ホームカミング

ヘルムート・ジモ大佐(ダニエル・ブリュール)

コミックの『シビル・ウォー』には登場しない、本作オリジナルの解釈で再構築されたヴィラン。原典のジモはハイドラの貴族系超人兵で派手な紫の覆面を被るが、本作のジモは、ソコヴィア出身の元軍人で、家族をソコヴィア戦で失った一個人として再構成されている。彼は超人的な戦闘力を持たない——彼の唯一の武器は、ヒーローの内側の関係を読む計算能力である。

彼の計画は、もっとも皮肉な意味で完璧に成功する。シベリアで五人の冬季工作員を起こすふりをして、トニーとスティーブを差し向かいに立たせ、最古の盟友を物理的に殴り合わせ、シリーズの中心関係を内側から崩壊させる。爆発も超能力も使わない、純粋に倫理を操作する一人のテロリスト——本作の脚本上の発明は、この敵造形に集約されている。

ダニエル・ブリュールは『イングロリアス・バスターズ』『ラッシュ/プライドと友情』で知られるドイツ系俳優で、本作の演技は控え目だが、終始低体温で危険である。彼は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にも再登場し、ジモの皮肉と踊りの一面を世界に焼き付けた。

舞台と用語

舞台はラゴス、ウィーン、ブカレスト、ベルリン、ライプツィヒ、シベリア、海上のラフト、そしてワカンダ王宮を巡る。前作『ウィンター・ソルジャー』の地政学的スリラーの構造をそのまま継承しつつ、本作はさらにヒーロー同士の関係性のレベルまで降りていく。中心の用語は「ソコヴィア協定」「トリガー・ワード」「ヴィブラニウム」「ハイドラ冬季工作員プログラム」の四つに整理できる。

ソコヴィア協定は、国連加盟117カ国の署名による多国間条約で、超人能力者の活動を加盟国の管理下に置くことを定める。本作の中心の争点であり、シリーズ内では『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『ブラック・ウィドウ』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』へと長く尾を引く論点となる。

トリガー・ワードは、ハイドラがバッキー・バーンズを冬季工作員として制御するためにロシア語で埋め込んだ十語の起動コードである。本作で公開された語の並びは「longing, rusted, seventeen, daybreak, furnace, nine, benign, homecoming, one, freight car」。本作以降、トリガーを解除する治療がワカンダで進められる。

ヴィブラニウムは、本作で初めてキャップの盾以外の二つの巨大な用途——ワカンダ製パンサースーツの全身合金と、ジモが用いた1991年映像のアダマンチウム時代以前のサンプル——として画面に揃う。シリーズの『ブラックパンサー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』へ繋がるヴィブラニウム神話の足場が、本作で広がる。

用語:MCU 用語:フェーズ 用語:アベンジャーズ 用語:ヴィブラニウム 用語:シールド 用語:ワカンダ

制作

本作の制作は、MCUのフェーズ3の幕開けとして、シリーズの三本柱(『キャプテン・アメリカ』三部作の完結、二大ヒーローの対立、新世代キャストの導入)を一本に集約するという、極めて重い使命を背負って進められた。ルッソ兄弟の前作『ウィンター・ソルジャー』の手応えと、マルクス&マクフィーリーの脚本上の制御力が、その重さに耐えた。

企画と脚本

マーベル・スタジオは2014年4月の『ウィンター・ソルジャー』公開直後、ルッソ兄弟とマルクス&マクフィーリーに次回作の企画を依頼した。2014年10月のロサンゼルス・イベントで、ケヴィン・ファイギは『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』のタイトルとアイアンマン参戦を正式発表する。当初の構想は、バッキー・バーンズの過去とハイドラ残党を主題にした小規模な三作目だったが、ファイギとロバート・ダウニー・Jr.の交渉の結果、トニー・スタークを正面に置き、ソコヴィア協定を中心軸にした「二大ヒーローの衝突」へ脚本がスケールアップされた。

脚本の構造的な発明は、ジモを「超人ヴィランではなく、シリーズの罪を背負った一人の遺族」として再定義したことである。原作のクロスオーバー大作は登場ヒーローが百人を超え、最終的にキャップが死ぬ、という結末を持つが、本作はその拡大ではなく圧縮を選び、12人と一人の遺族と1991年のVHS、という構成へ削り込んだ。脚本陣はインタビューで「我々はクロスオーバー戦争を描かなかった、家族の崩壊を描いた」と語っている。

ヴィジョンの誤射でローディが半身不随になるという脚本上の決断は、ライプツィヒ=ハレ空港戦の幸福感に「決定的な代償」を挟むために、第3稿の段階で書き加えられた。観客がライプツィヒ=ハレ空港のお祭りに完全に乗り切ったあとで、その対価を生身の身体で支払わせる構造である。

キャスティング

前作『エイジ・オブ・ウルトロン』までの主要キャスト(エヴァンス、ダウニー・Jr.、ヨハンソン、レナー、ラッド、ベタニー、オルセン、チードル、マッキー、スタン、グリロ、ハート、トメイ、ファヴロー)はほぼ全員続投。新規参入はティチャラ役のチャドウィック・ボーズマン、ピーター・パーカー役のトム・ホランド、ジモ大佐役のダニエル・ブリュール、エヴェレット・ロス役のマーティン・フリーマンの四人である。

ピーター・パーカー役はソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオの共同製作合意(2015年2月)を経て、2015年6月に発表された。ティチャラ役のチャドウィック・ボーズマン起用は2014年10月のフェーズ3発表会で明かされ、本作が彼のMCU初登場となる。ジモ役のダニエル・ブリュールは2015年4月に発表され、コミックの紫の覆面ではなく、ヨーロッパの元軍人としての地味な造形で再構成された。

本作は故ウィリアム・ハート(2022年逝去)の『インクレディブル・ハルク』(2008)以来の本格的MCU再登場でもあり、ロス国務長官の長い影が、ここで初めて『アベンジャーズ』本流へ正式に接続される。

撮影とプロダクション

主要撮影は2015年4月27日にジョージア州アトランタのパインウッド・スタジオ・アトランタで開始され、2015年8月19日にクランクアップした。撮影地はアトランタを拠点に、ベルリン、ライプツィヒ=ハレ空港、プエルトリコ(ラゴス代行)、レイキャビク(シベリア街道代行)、ニューヨークの一部にまたがる。

ライプツィヒ=ハレ空港のクライマックス戦闘は、実際の同空港の使われていないターミナル区画を借り切って撮影された。12人のヒーローが同時にフレームに収まるショットはルッソ兄弟が長く撮りたがっていた絵であり、各俳優のスケジュール調整は撮影開始の数ヶ月前から始まっていた。

撮影監督トレント・オパロックは『ウィンター・ソルジャー』からの続投で、本作でも自然光と硬めの影、肉体の重さを伝える低めのカメラ位置を継続。シベリアのバンカー戦の閉所感、ライプツィヒの白い昼光、ラゴスの埃と日差し——三つの異なる光線条件を一本の中で使い分けた手腕は、シリーズ全体でも屈指の達成である。

視覚効果

視覚効果はIndustrial Light & Magic(ILM)、Method Studios、Trixter、Lola VFX、Cinesite ほかが分担した。中心はライプツィヒ=ハレ空港戦の12人合成と、アントマンが巨人化したジャイアントマンの全身CG、そしてシベリアのバンカー戦のアイアンマン Mark XLVIのリアルタイム着脱合成である。

1991年12月16日のフラッシュバックでは、当時59歳だったロバート・ダウニー・Jr.の顔を「若い頃のトニー・スターク」(実年齢にして20代前半)へ若返らせる、Lola VFXによる大規模なフェイシャル・ディエイジングが実施された。MCUのディエイジング史におけるもっとも目立つ達成の一つであり、本作以降『ローガン』『アイリッシュマン』に並ぶ業界内の参照ケースとなった。

ジャイアントマンのスケールは身長約20メートル、空港戦の一区画の上から見下ろす視覚として作られた。アントマン側のピム粒子の挙動は、前作『アントマン』(2015)から論理を引き継ぎ、本作で初めて「巨人化」の本格的なシリーズ内表現が画面に上がった。

音楽と音響

音楽はヘンリー・ジャックマン。前作『ウィンター・ソルジャー』からの続投で、本作でも「キャプテン・アメリカ」のテーマと「ウィンター・ソルジャー」の冷ややかな低音モチーフを基調にしつつ、新規のテーマ群を組み込んだ。空港戦の音楽は、トランペット系のヒロイック・モチーフを抑制し、打楽器中心の前進する刻みで構成されている。

シベリアのバンカー戦の終盤、ハワード・スターク殺害の映像が再生される直前から、音楽はほぼ消える。スティーブとトニーの対話、トニーの呼吸、バッキーの黙、その三つだけが残り、音楽が戻るのは盾が氷の上に置かれる瞬間からである。本作のサウンドデザイン上の最大の判断は、この「クライマックス10分のほぼ無音」にある。

サウンドミックスはトム・ジョンソン、フランク・モンタニョ、リーゼ・ナーディ(音響編集)が担当した。

編集とポストプロダクション

編集はジェフリー・フォードとマシュー・シュミット。前作『ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』から引き続きフォードが主担当を務めた。147分という上映時間は、当初のラフカット段階では2時間半を超えており、ライプツィヒ=ハレ空港戦の各キャラクターの「見せ場の最低単位」を守りながら全体のリズムを保つことが、最終ポスト段階の最大の作業だったとフォードはインタビューで語っている。

シベリアのバンカー戦のラスト10分は、複数の編集案が試された箇所として知られている。最終版では、1991年VHS映像の再生→トニーの「あの男は俺の母を殺した」→格闘→盾を置いて去るスティーブ、というシークエンスを、音楽抜きで一気に押し切る構成が選ばれた。

ポストクレジット二段構成(ワカンダのバッキー再冷凍/クイーンズのピーター)は、続く『スパイダーマン:ホームカミング』『ブラックパンサー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』への三本同時の助走線として、撮影最終週まで案が練られた。

公開と興行

日本公開は2016年4月29日、米国公開は2016年5月6日。サマー・ブロックバスター・シーズンの先頭を切る形で、北米初週末興収は約1億7920万ドル、世界初週末は約3億5750万ドルを記録。最終的な全世界興行収入は約11億5300万ドルに達し、2016年の年間世界興収1位となった。

北米最終興収は約4億820万ドル、海外最終興収は約7億4480万ドル。北米外では中国、英国、ブラジル、メキシコが大きな数字を出した。製作費約2.5億ドルと宣伝費を踏まえても、シリーズ史上有数の収益作の一つに数えられる。

批評面では、ロッテン・トマトの批評家評は90%、メタスコアは75点、CinemaScoreはAという高評価。脚本の構造、12人のヒーローを一本に整理する制御力、空港戦の演出、シベリアの密室劇の重み、そしてジモ大佐の脚本上の発明が、批評家筋から繰り返し称賛された。後年の比較記事でも、MCU三大傑作の一本として『ウィンター・ソルジャー』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』とともに挙げられることが多い。

批評・評価・文化的影響

本作の文化的影響は、シリーズ内外にわたって極めて大きい。第一に、ピーター・パーカーとティチャラを同時にMCUへ導入した記録としての価値である。トム・ホランド版スパイダーマンとチャドウィック・ボーズマン版ブラックパンサーの後の単独作はいずれも文化的・興行的に巨大な成功を収めるが、その出発点はすべて本作のライプツィヒ=ハレ空港戦とシベリアの寒い屋外にある。

第二に、本作はヒーロー映画の文法を「肉体的アクションだけでなく倫理的選択にも」拡張した一本として、後年の作品群に長く参照されている。スーパーマンとバットマンを差し向かいに置いた2016年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』との比較は、本作の「家族の崩壊」としての射程の方が観客に届きやすかったという業界内の評価につながった。

第三に、ソコヴィア協定という政治的枠組みは、その後の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『ブラック・ウィドウ』(2021)、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)、そして『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025)に至るまで、長期的に効力を保つ世界観装置となった。協定が正式に廃止される瞬間は、シリーズ内ではまだ完全には描かれていない。

第四に、ロバート・ダウニー・Jr.のトニー・スタークが、ハワード・スターク殺害の真実を知る——という展開は、後の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のラスト、トニーが指を鳴らして死ぬ場面の倫理的厚みを直接準備する伏線として、シリーズの長期構造上もっとも重要な布石の一つになっている。

舞台裏とトリビア

本作のタイトル『Captain America: Civil War』はマーク・ミラー作『シビル・ウォー』(2006-2007)に着想を得ているが、コミック版とは登場人物数・結末ともに大きく異なる。コミックでは最終的にキャプテン・アメリカが暗殺されるが、本作ではキャップは生き延びてワカンダへ亡命する。

本作はトム・ホランド演じるピーター・パーカー/スパイダーマンがMCUに初登場した記念すべき一本である。彼のオーディションは2015年4月から6月にかけて行われ、最終候補にはチャーリー・プラマーら他の若手俳優も含まれていた。本作の撮影開始時点でホランドは18歳だった。

本作はチャドウィック・ボーズマン演じるティチャラ/ブラックパンサーがMCUに初登場した一本でもある。ボーズマンのワカンダ語の発音指導は、本作の段階から後の『ブラックパンサー』(2018)へそのまま継承された。彼は2020年8月、若くして大腸癌で逝去した。

ジモ大佐役のダニエル・ブリュールは、コミックの紫の覆面を被ったジモとは大きく異なる解釈で本作に登場した。彼は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)で本格的に再登場し、コミックの紫の覆面と「ジモ・ダンス」の遊びを長尺で見せた。

ライプツィヒ=ハレ空港戦には、撮影段階で12人のキャラクターのうち一部を縫合する形でビデオ・スタンドインが使われた。トム・ホランドとロバート・ダウニー・Jr.は実際の現地撮影で同時にフレームに収まっている。

1991年12月16日の日付は、ハワードおよびマリア・スタークの死亡日として、本作以降のMCUの設定文書で公式に固定された。後の『ブラック・ウィドウ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』のフラッシュバック設計とも整合する。

本作の制作中、ルッソ兄弟は次回作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』の監督オファーをマーベル・スタジオから受け、本作のクランクアップ直後から両作のプリプロダクションに移った。彼らはMCUのフェーズ3後半の四本(『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』)を連続して撮ったほぼ唯一の監督チームである。

テーマと解釈

中心の主題は「責任の形式は誰のものか」である。ソコヴィア協定はその表向きの議題であり、国際法上の枠組みでヒーローの行動を制限すれば「殺された無辜の市民」が報われるのか、という問いを正面から立てる。トニーはイエスと答え、スティーブはノーと答え、どちらも完全には正しくない。本作は両者の倫理的立場の優劣を裁かず、両者の身体的衝突に答えを委ねている。

もう一つの軸は「家族の崩壊」である。本作の「シビル・ウォー」は、政治的内戦の縮図ではなく、家族の喧嘩の拡大図として撮られている。スティーブとバッキー、トニーと母、ティチャラと父——血と義理と過去が、すべての登場人物の選択の根底にある。最終局面で殴り合うのは政治家ではなく、二人の盟友であり、傷つけ合うのは銃ではなく盾と拳である。

三つ目の軸は、十年来の「ハワード・スターク」というMCUの最古層の伏線の回収である。『アイアンマン2』『アベンジャーズ』『エイジ・オブ・ウルトロン』を通じて、ハワード・スタークは「トニーが折り合いをつけきれていない父親」として再三登場してきた。本作はそのハワードを、トニーの中で「殺された人間」として固定する。トニーが息子から「孤児」になる場面が、シベリアの寒いバンカーである。

視覚的には、ラゴスの埃色、ウィーンの白い大理石、ブカレストの夜の青、ライプツィヒの白昼の太陽、シベリアの氷の青、ワカンダの紫——本作の色彩構成は、ヒーロー映画の派手な原色を意図的に抑え、地政学的な現実感のある色温度の中で、最後にワカンダだけが王宮の温かい紫を残す、という静かな到達を画面に置いている。

見る順番(補助)

本作はMCUフェーズ3の幕開けにして、事実上のアベンジャーズ3作目である。初見のおすすめは、まず『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)でスティーブとバッキーの関係を、続いて『アベンジャーズ』(2012)でスティーブとトニーの最初の衝突を、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)でバッキーの再発見と国家機構への不信を、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)でソコヴィア戦の罪を、『アントマン』(2015)でスコット・ラングを、それぞれ押さえてから本作に入る順序である。

本作の直後に控えるのは『ドクター・ストレンジ』(2016)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)、『ソー:ラグナロク』(2017)、『ブラックパンサー』(2018)、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)。本作で生まれた亀裂は、『インフィニティ・ウォー』の冒頭でブルース・バナーがアベンジャーズ本部の電話番号を伝えるまで、形式的には修復されないまま続く。

「キャップ三部作」として観たい場合は、『ザ・ファースト・アベンジャー』『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』の順で観るのが基本。スティーブ・ロジャースの自由意志の確立と、星条旗の盾の所有権を一度返上する所作までを、一気に体験できる構成である。

  1. 前史『ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)でバッキーが死んだとされる
  2. 前作『エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)でソコヴィアが落下
  3. 本作ソコヴィア協定/ライプツィヒ=ハレ空港戦/シベリアの真実
  4. 直後『スパイダーマン:ホームカミング』『ブラックパンサー』へ、新ヒーロー単独作へ繋がる
  5. 大合流『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)でキャップ陣営とトニー陣営が再合流
前史:キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー 前作:ウィンター・ソルジャー 盟友期:アベンジャーズ 直前:エイジ・オブ・ウルトロン 助走:アントマン 次:スパイダーマン:ホームカミング 次:ブラックパンサー 合流:インフィニティ・ウォー 終着点:エンドゲーム 盾の継承後:ブレイブ・ニュー・ワールド MCU公開順ガイド MCU時系列順ガイド キャプテン・アメリカ視聴順ガイド

よくある質問(補助)

「あらすじだけ知りたい」場合は、ラゴスの誤爆→ソコヴィア協定発効→ウィーン爆破でバッキーがテロリストとされる→ブカレスト追跡劇でブラックパンサー初登場→ベルリンでジモがトリガー・ワードを起動→両陣営の編成(スパイダーマン初登場含む)→ライプツィヒ=ハレ空港戦でローディが半身不随に→シベリアのバンカーで1991年のハワード・スターク殺害の真実→シベリア決闘→ラフト収監とワカンダでのバッキー再冷凍、という流れを押さえれば十分である。

「結末・ネタバレを知りたい」場合は、ジモ大佐の本当の目的が「ヒーローを内側から壊すこと」だったこと、シベリアで再生されるVHSテープが1991年12月16日のハワード&マリア殺害映像であること、最終決闘でスティーブが盾を地面に置いて去り、ティチャラがジモを生かしたまま当局に引き渡し、バッキーが自ら望んでワカンダで再冷凍に入ることが核となる。

「評価を知りたい」場合は、批評90%・観客評A・世界興収11.53億ドルでフェーズ3の最大級成功作、MCU三大傑作の一本と位置づけられている、と整理できる。「見る順番」では、『ザ・ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『ウィンター・ソルジャー』『エイジ・オブ・ウルトロン』『アントマン』を観てから本作、続いて『ホームカミング』『ブラックパンサー』『インフィニティ・ウォー』へ進むのが最もスムーズな視聴順となる。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Marvel公式 シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
  2. IMDb: Captain America: Civil War (2016)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki: Captain America: Civil War
  4. Box Office Mojo: Captain America: Civil War (2016)
  5. Rotten Tomatoes: Captain America: Civil War

関連ページ

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参照・確認先

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