セレスティアル「アリシェム」の命によって紀元前5000年から地球に派遣された不死の十人「エターナルズ」が、ディヴィアンツの再来をきっかけに、自らの存在意義と地球そのものの運命を巡って引き裂かれる——MCUに「宇宙神」というスケールと、ヒーロー映画らしからぬ群像詩のテンポを持ち込んだフェーズ4の野心作。
マーベル・スタジオ製作、ディズニー配給。『ノマドランド』でアカデミー作品賞・監督賞を受賞した直後のクロエ・ジャオが監督・共同脚本・原案を担当し、自然光と地平線を多用する作家性をMCUに持ち込んだ。上映時間156分はMCU有数の長尺。フェーズ4第5作、シリーズ通算26作目。
本編現在パートは『エンドゲーム』のスナップ解除から約8か月後、2024年の地球が舞台。サノスを倒したばかりの世界に、紀元前5000年から地球史の背後で動いてきた不死の十人を改めて据え直すことで、MCUのスケールを「人間ヒーロー」から「宇宙神(セレスティアル)」へと一段引き上げる。ポストクレジットでサーサナ・ハーリングトンとピップ・ザ・トロールが登場し、『マイティ・ソー ラブ&サンダー』へ橋渡しする。
全世界興行収入は約4億0220万ドル、北米興収は約1億6450万ドルにとどまり、MCU平均を下回った。ロッテン・トマト批評家評は47%と、当時MCU作品史上最低を記録した一方で、観客スコアは77%(劇場初週はA−)と乖離が大きかった。156分の長尺と十人の群像という挑戦が分裂評価を生んだが、ベン・デイヴィスの撮影、イヴ・スチュワートの美術、ジャオの自然光演出は批評家からも高く評価され、第94回オスカーの撮影賞ロングリスト候補に挙げられた。
紀元前5000年メソポタミアからの上陸、シカゴ・ロンドン・ムンバイ・南ダコタの現代パートを横断するディヴィアンツ襲撃の連鎖、アジャクの死とセルシのプライム・エターナル昇格、エイジャックの隠していた『創発(エマージェンス)』の真相、イカリスの裏切りと自死、アリシェムによる審判の予告、そしてミッドクレジットでサーサナ・ハーリングトン/スターフォックスとピップが登場する場面、ポストクレジットでデイン・ホイットマンがエボニー・ブレードに触れる瞬間まで、すべてのネタバレを前提に解説する。
目次 40項目 開く
概要
『エターナルズ』(Eternals)は、クロエ・ジャオが監督し、ジャオ、パトリック・バーリー、ライアン・フィルポ、カズ・フィルポが脚本を執筆したアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給した。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)通算26作目、フェーズ4の第5作にあたり、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』と『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のあいだに位置する。米国・日本ともに2021年11月5日に劇場公開された。
本作の原作は、1976年にジャック・カービーがマーベルへ復帰した直後に立ち上げた『The Eternals』である。古代の神々や創世神話の正体を「進化を司る宇宙神セレスティアル」と「彼らが生んだ二系統の生物——不死の守護者エターナルズと、暴走した捕食者ディヴィアンツ」として読み替える、カービー晩年の宇宙神話的シリーズだった。映画版はそのカービー的なスケールを保ったまま、グラフィックノベルらしい一人称ナレーションを排し、地表に降りた神々が「自分は誰のために誰を守るのか」を問う群像劇へ作り替えている。
監督のクロエ・ジャオは、本作の直前に『ノマドランド』で第93回アカデミー作品賞・監督賞・主演女優賞を受賞したばかりの作家である。自然光と地平線、移動するロケ撮影、即興的に近い長回しの会話劇を持ち味とする彼女は、撮影監督ベン・デイヴィスとともに、英国フィン島やカナリア諸島、ロンドン市街、米国南ダコタのバッドランズなど実景ロケを多用し、グリーンスクリーン主体だった従来のMCUとは大きく手触りの異なる映像をもたらした。脚本ではジャオ自身が共同執筆し、エターナルズ十人のあいだの恋愛、家族、信仰、離反を、神話の登場人物ではなく「7000年生きた人間関係」として描くことを最重要事項に置いた。
本記事は、結末とミッドクレジット・ポストクレジットの計2本の追加場面を含む全編のネタバレを前提に書かれている。紀元前5000年のドンモ号上陸から、創発の真相、イカリスの裏切りと太陽への突入、アリシェムの予告、サーサナ/スターフォックスとピップの登場、デイン・ホイットマンとエボニー・ブレードの場面まで、すべての要素に踏み込む。物語の驚きを保ちたい読者は、まず本編を観てから戻ってきてほしい。
- 原題
- Eternals
- 監督
- クロエ・ジャオ
- 脚本
- クロエ・ジャオ/パトリック・バーリー/ライアン・フィルポ/カズ・フィルポ
- 原作
- マーベル・コミック『The Eternals』(ジャック・カービー、1976)
- 音楽
- ラミン・ジャヴァディ
- 撮影
- ベン・デイヴィス
- 米国公開
- 2021年11月5日
- 上映時間
- 156分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、神話SF、ドラマ、宇宙叙事詩
あらすじ
以下は結末と二本のクレジット・シーンを含む全編のあらすじである。本作は、紀元前5000年に宇宙神アリシェムから「ディヴィアンツを倒し、人類の自然な発展を見守れ。ただし人類同士の戦いには介入するな」という命を受けて地球へ送り込まれた不死の十人エターナルズが、ブリップ解除直後の2024年に予期せぬ地殻変動と古いはずの宿敵の再来をきっかけに再集結し、自分たちが本当に何のために創られた存在だったのか——そして地球をどうするか——を巡って引き裂かれていく物語である。冒頭の「これは多くの神話の影で起きた、もう一つの歴史だ」という字幕どおり、神話と現代の間を縫う構成で進む。
プロローグ——紀元前5000年・ドンモ号の上陸
映画は、宇宙船ドンモ号が古代メソポタミアの海岸に降下する黄金色の朝で始まる。船から降り立つのは、リーダー格の癒し手アジャク(サルマ・ハエック)、太陽の力で空を飛び目から熱線を放つイカリス(リチャード・マッデン)、物質を作り替える「マター・マニピュレーション」を使うセルシ(ジェンマ・チャン)、戦闘特化のシーナ(アンジェリーナ・ジョリー)、超光速で動けるマッカリ(ローレン・リドロフ)、念動力と幻覚を操るドルイグ(バリー・コーガン)、機械を生み出す天才キンゴ(クマール・ナンジアニ)、機械工学者のファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、絶世の美貌で力を授けるスプライト(リア・マクヒュー)、そして力自慢のギルガメッシュ(マ・ドンソク)の十人である。彼らは、人類を襲う獰猛な肉食生物ディヴィアンツを駆逐するために送り込まれた。
石器時代の人類は、毛むくじゃらの捕食者の群れに浜辺で襲われている。エターナルズは一斉に降り立ち、光と力と速さと知恵で群れを薙ぎ払う。生き残った人々は、地に膝をつき、空から来た神々に祈りを捧げる。だがアジャクは静かに首を振る——「我々を崇拝するな。あなたたちは自分の足で立つために、私たちが守る」。エターナルズはアリシェムからの任務として、人類同士の戦争には決して介入しないこと、人類の自然な発展を見守ること、そしてディヴィアンツを地上から完全に排除することを命じられている。
短いプロローグの終わりに、観客はこの十人がただの戦士集団ではなく、家族として7000年を共に生きてきたことを告げられる。スプライトは外見が永遠の子供であることに苦しみ、ファストスは人類に火と道具を教えたいと願い、イカリスとセルシは恋に落ちていく。神話の登場人物として歴史の影に潜むこの家族が、後の数千年で何を見て何を許してきたか——それが本編の現代パートの伏線となる。
現代ロンドン——セルシとデイン、地震とディヴィアンツの再来
舞台は2024年、ブリップから人々が戻って8か月後のロンドン。エターナルズはアリシェムの命に従って数百年前にバラバラに姿を消し、それぞれが目立たぬ職業で人類社会に紛れて暮らしている。セルシは大英自然史博物館で人類学者として教鞭を執り、人類の恋人デイン・ホイットマン(キット・ハリントン)と穏やかな付き合いを続けている。スプライトはセルシと同居し、永遠の少女のまま暮らしている。
ロンドンのテムズ南岸で深夜にデートを終えた帰り道、突然の地震が三人を襲う。直後、屋根の上から襲いかかってきたのは、巨大な角と剥き出しの牙を持つディヴィアンツ——5500年前に最後の一体を倒したはずの絶滅種だった。セルシは咄嗟にマター・マニピュレーションでバスをガラスへ変えて防御するが、致命的な一撃の前に、空からイカリスが降りてきて目から熱線を放ち、ディヴィアンツを地中へ追い払う。100年ぶりに再会した元恋人を前に、セルシは「彼らが戻ってきた。仲間を集めなければ」と告げる。
デイン・ホイットマンには、セルシが「人間ではない」という事実が初めて打ち明けられる。ロンドンの観覧車の下で交わされる「君の本当の名前は?」「セルシ。本当に。それは変わらない」というやり取りは、本作の感情の起点として機能する。ジャオは、群像の再集結を急がず、まず一人の人類の側からエターナルズを見る視線をていねいに置く。
南ダコタ——アジャクの死とセルシへの継承
セルシ、スプライト、イカリスはまずリーダーであるアジャクを訪ねるため、米国南ダコタ州の人里離れた牧場へ向かう。だが到着したとき、アジャクはすでに事切れていた。胸には何者かに開けられた大きな傷、傍らに崩れ落ちた木製の柵。セルシがその身体に触れた瞬間、アジャクの遺した「球体」——プライム・エターナルの権能を象徴する金色の発光体——が浮かび上がり、セルシの胸に吸い込まれる。アジャクはセルシを後継のプライム・エターナルに指名していた。
球体を介してアリシェムが直接セルシに語りかける。「お前たちの真の任務を告げる。地球はホスト・プラネット——一柱のセレスティアル『ティアマット』を孕む卵だ。エネルギーが十分量の知的生命によって蓄えられたとき、ティアマットは星を内側から砕いて誕生する。これを我々は『創発(エマージェンス)』と呼ぶ。お前たちはこのために創られた」。ブリップから戻った80億の人類が、最後のエネルギー閾値を満たした。あと7日で創発が起き、地球は破裂する。
現場の捜索でセルシたちは、アジャクの致命傷が「ディヴィアンツに見せかけているが、実はエターナルズの仲間の手によるもの」だと示唆する痕跡を見つける。誰かが裏切っている——観客には伏せたまま、物語はその容疑を抱えたまま動き出す。アジャクの密葬で、セルシは「私たちは始めから、人類を救うためではなく、創発のために守るために創られた」という事実を、十人の家族にどう告げるかを背負わされる。
ムンバイ——キンゴと『ボリウッド・スター四代目』
三人は、世界中に散ったかつての家族を順に訪ねていく。最初に訪ねるのはムンバイ。キンゴは長年「ボリウッドの大スター」として生き続け、年代ごとに『自分の祖父』『父』『自身』を演じ分けることで不老の事実を隠してきた。歌と踊りの撮影セットに突然現れたかつての仲間を前に、キンゴは恥ずかしげにダンスを切り上げ、運転手兼ドキュメンタリー作家のカルン(ハリーシュ・パテル)まで連れて、合流に応じる。
本作の希少な明朗パートであり、ジャオが意識的に明るさと家族の温かさを差し込む場面である。カルンを介して観客に、エターナルズが7000年いかに人類のなかで普通に暮らしてきたか——映画を撮り、家庭を持ち、孤独を抱えてきたか——が浮かび上がる。
オーストラリア奥地——シーナの『マハド・ヴィレ』とギルガメッシュ
次に訪ねるのは、オーストラリアの僻地にひっそりと暮らすシーナとギルガメッシュ。屈強で誇り高い戦士のはずのシーナは、数百年前から『マハド・ヴィレ(記憶の病)』と呼ばれる症状に苦しんでいる。歴史を共有して生きてきたエターナルズは記憶を完全に蓄積し続けるため、ある時点で過去のあらゆる場所で殺してきたディヴィアンツやテノチティトラン、ヒロシマなど人類の災厄の光景が一斉に蘇り、識別不能になる。シーナは時折、目の前の家族に剣を向けてしまう。
ギルガメッシュは数千年前にシーナの暴走の責任を取り、彼女のそばに自ら隔離されることを選んだ家族の守護者である。世界を見守ることに疲れた二人は、地平線の彼方の小屋でひっそりとパンを焼き、家畜を世話している。ギルガメッシュの優しさは、本作の家族描写の心臓部であり、シーナの「記憶の病」は後の物語で大きく機能する。
アマゾン奥地——ドルイグと『介入の誘惑』
三番目に訪ねるのは、アマゾンの密林奥深くに自前の隠れ里を築いて暮らすドルイグ。彼は念動力で他者の意志を操作できる能力を持ち、エターナルズの中でも特異な立場にいた。彼は紀元前1521年のテノチティトランで、人類同士が無意味に殺し合うのを目撃して以来、アリシェムの『介入禁止』の命に強い疑問を抱いてきた。
現在のドルイグは、自分の隠れ里に住む数百人の人間を念動力でやさしく支配し、彼らに『争わず、憎まず、互いを傷つけない』生き方を強いている。それは平和の理想郷でもあり、人間の自由意志の死でもある——という両義性をジャオは強調する。再会したセルシとイカリスに、ドルイグは「私は彼らを愛している。だから守った」と告げる。彼の介入と、エターナルズが7000年押し付けられてきた『不介入』のルールの矛盾が、本作の倫理的中心の一つとなる。
シカゴ——ファストスの家族と『広島の罪』
次に訪ねるのは、シカゴの郊外で人類の夫ベン(ハーズ・ガナ)と一人息子ジャックとともに郊外の白い家で暮らすファストス。エターナルズで唯一、人類と婚姻を結び家庭を持ったキャラクターである。MCU初の同性のキスシーンが、この再会の場面で自然に映し出される。
ファストスは紀元前7000年から人類に火と車輪、機械と道具を教えてきた創造の天才だったが、自分が手渡した知識がやがて第二次世界大戦の原爆へと辿り着いたことを、1945年8月の広島で目の当たりにしてしまった。崩れ落ちる街の上に膝をつき、人類を信じられなくなった彼は、何百年も人類社会から離れる選択をしていた。彼を再び家族側へ戻すのは、彼自身の息子ジャックの「パパ、僕らが世界を救うんでしょ」という無垢な一言である。
ドンモ号——マッカリと『創発』の全貌
最後に訪ねるのは、はるか北極圏でドンモ号の眠る氷の下を一人で守り続けていたマッカリ。MCU初の聴覚障害者のスーパーヒーローとして造形されており、彼女と他のキャラクターのやり取りはすべて手話を主軸に演出される(演じるローレン・リドロフ自身が聴覚障害を持つ)。マッカリは数千年船内で『調査』を続けるなかで、アリシェムが過去にも『創発』を発生させ、無数の星と先史文明を「次のセレスティアルを生むために」破壊してきた事実を知っていた。
ドンモ号の中央コンソールに球体を差し込んだセルシは、過去のセレスティアルたちの誕生記録を見せられる。エターナルズは生物ではなく、惑星のホストの中で養われた知的生命のエネルギーを材料にセレスティアルを誕生させるための装置——アリシェムが彼らの記憶を毎周期消去しつつ、機械として作り続けてきた存在だったのである。アジャクはこの真実を一人で抱えており、ブリップ後の知的生命量の急増で創発が間近に迫った今、初めて『地球を守るために任務に逆らう』方向へ動いていた。誰かがその転向を察知し、彼女を殺した——その容疑は、ますますエターナルズの内部へ向かっていく。
イカリスの裏切り——『私は信じたかった』
創発を阻止しようとするセルシたちと、アリシェムの計画を完遂すべきだと主張するイカリスのあいだに決定的な亀裂が走る。アジャクを殺したのはイカリス本人だった。彼は数百年前にアジャクから創発の真相を打ち明けられて以来、彼女を「自分の信仰の試練」として受け入れ続けてきたが、いざ計画を阻止する側へ転じようとした彼女を、密かに南ダコタの牧場でディヴィアンツの群れへ突き落として殺害していたのである。
「私はアリシェムを信じてきた。何兆という命を救うために、80億を犠牲にすることは正しい。私たちはそのために創られたんだ」。セルシに向けてイカリスはそう告白する。光の使者として地表に降りたヒーロー然とした男が、実は7000年信仰に身を捧げてきた『神の僕』であり、愛した恋人を裏切る道を選ぶ——という反転は、ヒーロー映画の主役然としたキャストのイカリス(リチャード・マッデン)を意図的に配置して仕掛けた構造である。スプライトもまた、永遠の子供のままセルシではなくイカリスへの愛に殉じることを選び、イカリス側に立つ。
戦線は二つに割れる。創発を止める側にセルシ、シーナ、ギルガメッシュ、マッカリ、ファストス、ドルイグ、キンゴが、計画を遂行する側にイカリスとスプライトが回る。キンゴは戦闘を回避してムンバイへ帰る選択をし、家族の崩壊が一気に進む。
ギルガメッシュの死とディヴィアンツの進化
オーストラリアの隠れ家を、独自に進化を遂げたディヴィアンツの長クロが襲撃する。クロは仲間のエターナルズを倒すごとにその力を吸収し、もはやかつての肉食獣ではなく、シーナの剣技や言語までも理解する知性体へと変貌していた。激戦のなかで、ギルガメッシュはシーナを庇ってクロに胸を貫かれ、命を落とす。
ギルガメッシュの死は、それまで『記憶の病』で揺れていたシーナを覚醒させる。「私の家族の記憶は、もう私のものだ」と告げて、彼女は剣を取り、もう一度戦士として立ち上がる。本作で最もエモーショナルな悲劇のひとつが、ヒーロー映画らしからぬ静かな台詞のやり取りで処理される点に、ジャオの演出が表れている。
創発と『ユニ・マインド』、ティアマットの覚醒
クロをイラクの砂漠で追い詰めたエターナルズは、ファストスが作り出した拘束装置でクロを牢に入れ、ドルイグの能力でエネルギーを吸い上げる準備を進める。だがクロは脱獄してマッカリと最終戦を演じ、最終的にシーナの剣に貫かれて消滅する。残された問題は、地球の地殻を内側から押し上げ始めたティアマットそのものである。
セルシは仲間七人と手を繋ぎ、ドルイグの念動力で全員のエネルギーを集約する『ユニ・マインド』を形成する。これによりセルシのマター・マニピュレーションは惑星規模に増幅され、創発しかけているティアマットの巨大な腕と顔を、生まれた瞬間に石へと変質させていく。一方でイカリスとスプライトは創発を完遂させるためエターナルズを攻撃し、戦闘は地球の裂け目の上で交錯する。
決定的だったのは、ドルイグがイカリスを念動力で押さえようとするが意志の強さで弾き返される瞬間、そして最後にセルシに「やりたければ殺せ」と告げられたイカリスが、目から熱線を放てないまま膝をつくくだりである。彼はセルシを殺せなかった。アリシェムへの信仰よりも、7000年彼女を愛し続けてきた事実のほうが、彼の内側で強かった。
イカリスの太陽——『私は赦されない』
創発を止めることに成功した直後、空を見上げたエターナルズが目にしたのは、無言のまま光速で飛び去り、太陽の中心へと突っ込んでいくイカリスの姿だった。アリシェムを裏切り、家族を裏切り、それでも恋人を殺せなかった彼が選んだ最後の責任の取り方が、自らを太陽の核へ投げ込んで蒸発することだった——という、本作で最も静かで悲しい結末である。
イカリスを地上から見送るスプライトに、セルシは『あなたを子供のままでいたくなくしてあげる』と告げ、自分の能力を使って、永遠の少女として閉じ込められてきたスプライトの身体を『普通の人類の少女』として生き直せるよう作り替える。スプライトはイカリスへの叶わぬ愛と、不死の家族から離れて短い人生を生きる自由を、同時に受け取って物語を退場する。
イラクの砂漠で目を覚ましたティアマットの巨大な石化した顔が海面から突き出したまま残される——人類は救われたが、地球の海岸線は永久に変えられた、というカービー的なスケールの絵で、本編の物語パートは閉じる。
後日譚——アリシェムの審判
ドルイグ、ファストス、シーナの三人は、人類の隠された家族たち(ファストスの夫と息子、シーナの新しい役目、ドルイグの隠れ里)と新たな旅へ出るため、ドンモ号で銀河を抜けていく。船内でセルシ、キンゴ、ファストスは突然動きを止め、空が裂ける——アリシェムが本人として地球の上空に降り立ち、巨大な腕で三人を握りしめ、宇宙の彼方へ連れ去ってしまう。
「お前たちが我々の任務に背いたかどうかは、人類の記憶を直接見て確かめる」とアリシェムの声が告げる。創発の阻止が正しかったのか、地球を救う代わりに将来生まれるはずだったセレスティアルを葬ったエターナルズに罰を下すべきか——その審判は明示的に保留されたまま、本編は突然黒画面で終わる。地上に残されたデイン・ホイットマンが、何度も繰り返しセルシの名を呼ぶ無線通信のなかで、画面が暗転する。
結末は、明確なカタルシスを意図的に放棄している。家族は引き裂かれ、二人を失い、一人は太陽へ消え、一人は人類の少女になり、三人は宇宙神の手に握られて連れ去られた。残った人類は、自分たちの星が宇宙神の卵だった事実すら知らないまま、海岸線の上に巨大な石化した顔を頂きながら日常を続ける——という不安定なまま、物語は次作以降へバトンを渡す。
ミッドクレジット——スターフォックスとピップの到来
クレジット途中、ドンモ号の船内に、もう一人ローブ姿の長身の男が突然テレポートで姿を現す。陽気に「困っているね、エターナルズの仲間よ」と告げるのは、エロス/スターフォックス(ハリー・スタイルズ)である。サノスの実の弟であり、自身もエターナルなのだという衝撃的な自己紹介を、彼は満面の笑みで切り出す。
傍らで案内役を務める小さなトロールがピップ・ザ・トロール(パットン・オズワルト)。スターフォックスは「我々はあなたたちの家族を取り戻す手立てを知っている」と告げて、シーナ、ドルイグ、ファストスをアリシェムから救出する次なる旅の伏線を張る。サノスというMCU最大の悪役の家系図に「エターナル種族」を組み込み直すこの場面は、ジャック・カービーの宇宙神話とジム・スターリンのサノス神話が交錯する瞬間でもある。
ポストクレジット——デイン・ホイットマンとエボニー・ブレード
ポストクレジットの場面は、ロンドンのアパートメント。セルシの恋人として残されたデイン・ホイットマンが、亡き伯父の遺品である長く黒い箱を前に座っている。箱を開けると現れるのは、原作コミックのデイン・ホイットマン/ブラック・ナイトの象徴である呪われた剣『エボニー・ブレード』である。デインの手がそれに触れようとした瞬間、画面外から低く重い男の声が問いかける——「本当に準備はできているのか?」
声の主は明示されないが、原作およびマーベル公式の発表により、これがマハーシュ・パテル演じるブレイド——MCUに導入される予定のヴァンパイア・ハンター——の声として演出されていることが後に発表された。デイン・ホイットマンの『ブラック・ナイト』化、そしてMCUにおけるブレイド作品への接続が、ここで初めて示唆される。
二本のクレジット場面は、本編で家族を失った悲しみのなかへ、新キャラクターと新作の伏線を一気に注ぎ込むことで、エターナルズという作品をMCUのマルチバース・サーガの神話的基盤として位置づける。
登場要素
本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。十人のエターナルズに加え、宇宙神セレスティアル、ディヴィアンツ、ポストクレジットの新キャラクターまで、ジャック・カービー由来の世界観をMCUに接続する道具立てが集中的に投入されている。
主要人物
- セルシ
- イカリス
- アジャク
- シーナ
- ギルガメッシュ
- マッカリ
- ドルイグ
- キンゴ
- ファストス
- スプライト
- デイン・ホイットマン
- カルン
- ベン・ストス
- ジャック・ストス
ヴィラン
- イカリス(裏切り)
- クロ(ディヴィアンツの長)
- ディヴィアンツの群れ
- アリシェム(裁定者としての顔)
サポート
- ピップ・ザ・トロール
- エロス/スターフォックス
- 声のみのブレイド(示唆)
- ボリウッド撮影クルー
- 南ダコタの牧場の住人
- ドルイグの隠れ里の人々
組織
- エターナルズ(十人の家族)
- セレスティアル(宇宙神の階級)
- ディヴィアンツ(捕食種)
- S.H.I.E.L.D.(言及)
- アベンジャーズ(言及・人類側の英雄として)
場所
- 紀元前5000年メソポタミアの浜辺
- 古代バビロン
- テノチティトラン
- 1945年広島
- 現代ロンドン
- 南ダコタの牧場
- ムンバイの撮影スタジオ
- オーストラリア奥地
- アマゾンの隠れ里
- シカゴ郊外
- 北極圏のドンモ号
- イラクの砂漠(ティアマット顕現地)
アイテム・技術
- プライム・エターナルの球体
- ドンモ号(エターナルズの母船)
- ユニ・マインド
- エボニー・ブレード
- イカリスの目の熱線
- セルシのマター・マニピュレーション
- ファストスの機械工房
- ドルイグの念動力
- シーナの能力で生成される無数の武器
能力・概念
- 創発(エマージェンス)
- マハド・ヴィレ(記憶の病)
- ホスト・プラネット
- セレスティアルの誕生サイクル
- 介入禁止の戒律
- ブリップの余波
- 不死性
- エターナルとディヴィアンツの起源
ポストクレジット要素
- ピップ・ザ・トロール
- エロス/スターフォックス
- サノスの兄弟という血縁
- デイン・ホイットマンの『ブラック・ナイト』化
- エボニー・ブレード
- ブレイドの声
主要登場人物
十人の不死の家族を、一本の映画のなかで等しく見せるという困難な作業を、ジャオは『家族写真の一枚目から登場順を意図的に揃える』形で組み立てている。以下、群像のなかでも特に物語の重心を担う数人を中心に解説する。
セルシ(ジェンマ・チャン)
マター・マニピュレーション——無機物の分子構造を別の物質へ作り替える能力を持つ、本作の主役。戦闘力では仲間に大きく劣る代わり、優しさと共感力で人類を最も愛した一人として描かれる。ジャック・カービーの原作では戦士寄りの存在だったが、ジャオは意図的に『戦わないリーダー』としてのセルシを前面に立てた。
アジャクから後継のプライム・エターナルに指名されてからの彼女は、家族の総意を集める役と、最終的に創発を止める意思決定を下す役の双方を引き受ける。終盤で『ユニ・マインド』の中心となり、惑星規模で物質を変質させる場面は、彼女の能力と人格が物語の規模に追いついた瞬間として演出されている。
イカリス(リチャード・マッデン)
太陽からエネルギーを受けて空を飛び、目から熱線を放つ、明らかにスーパーマンを意識した造形のキャラクター。表紙とポスター上のヒーロー然とした顔ぶれの中心に置かれており、観客が『本作の主役・恋愛相手・正義の側』として疑わない位置から物語を始める。
その彼が、実は7000年アリシェムへの信仰に支えられて生きてきた『神の僕』であり、創発を止めようとしたアジャクを殺し、最終的に恋人セルシを救うために『神を裏切れない自分』のほうを殺す——という反転が、本作最大のドラマ的仕掛けである。リチャード・マッデンは、明るく穏やかな表情の裏で常に何かを諦めている男の重さを、終始一定のトーンで演じ抜いた。
シーナとギルガメッシュ(アンジェリーナ・ジョリー/マ・ドンソク)
シーナは7000年戦場に立ち続けた戦士で、ありとあらゆる武器をエネルギーから形成できる能力を持つ。だがその記憶の蓄積が『マハド・ヴィレ』として彼女を蝕み、家族を傷つけてしまうことがある。アンジェリーナ・ジョリーは寡黙な戦士の佇まいと、記憶の闇に揺れる脆さを同時に体現する。
ギルガメッシュは家族でもっとも穏やかな力の使い手で、長年シーナのそばに自ら隔離されることを選んだ守り手である。マ・ドンソク(ドン・リー)は『新感染 ファイナル・エクスプレス』の経験を活かしたパワフルな格闘演出とともに、料理を焼きシーナにそっと寄り添う優しさを担い、本作の家族描写の心臓部となった。彼の死がシーナを覚醒させる構図は、本作で最も古典的なドラマツルギーである。
ドルイグ、マッカリ、ファストス(バリー・コーガン/ローレン・リドロフ/ブライアン・タイリー・ヘンリー)
ドルイグは念動力で他者の意志を操作できる『介入の誘惑』を体現する人物で、7000年人類同士の殺し合いを目撃しながら戒律に縛られてきた葛藤を背負う。バリー・コーガンの低く抑えた発声が、彼の倦怠と誠実さを同時に伝える。
マッカリはMCU初の聴覚障害者ヒーローで、ローレン・リドロフ本人が実際に手話を母語とする俳優である。彼女と他のキャラクターの会話は手話と字幕で構成され、ハリウッドの大作映画で聴覚障害者表現を中心に置く先進的な演出として高く評価された。
ファストスはMCU初の公式に同性パートナーと家庭を持つヒーローで、ブライアン・タイリー・ヘンリーが穏やかな父親像として演じる。1945年広島の崩壊した街の上に膝をつく回想と、シカゴ郊外の白い家でジャックと過ごす現代パートの落差が、本作の倫理的中心を作っている。
キンゴ、スプライト、アジャク(クマール・ナンジアニ/リア・マクヒュー/サルマ・ハエック)
キンゴはエネルギーから光弾を作り出す能力を持つ陽性の戦士で、ボリウッドの大スターとして人類社会に紛れて暮らしてきた。クマール・ナンジアニのコメディの間が、群像劇に必要な明るさと、終盤の戦闘から離脱して『家族を撃てない』選択を貫く重さの両方を引き受ける。
スプライトは永遠の十二歳の少女として閉じ込められた幻覚使い。あらゆる神話の妖精・小人・天使は彼女が人類に語り聞かせた物語の名残りである、という設定が、本作の『神話と歴史の隙間』というテーマを象徴する。終盤でイカリスへの叶わぬ愛と『普通の少女として生きる権利』を同時に受け取る彼女の物語は、作品全体の優しさの結晶点となる。
アジャクはエターナルズのリーダー兼治癒者で、7000年にわたって家族と人類の間を取り持ってきた母性的存在。サルマ・ハエックは登場時間こそ短いが、彼女が体現する『迷い、転向し、家族に殺される母』の像は本作の悲劇全体を方向付ける。
舞台と用語
本作の舞台は、紀元前5000年から2024年までの七千年にわたる地球史と、宇宙神セレスティアルが住む宇宙そのものを横断する。古代メソポタミアの浜辺、バビロンの黄金都市、メキシコのテノチティトラン、1945年の広島、現代のロンドン、ムンバイ、シカゴ、南ダコタ、オーストラリア奥地、アマゾン、そして北極圏に眠るドンモ号と、二時間半のあいだに地理が大きく動く。ジャオは可能な限り実景ロケで撮影し、自然光のなかで対話する人物を捉える手法で、神話的スケールに『地に足のついた手触り』を与えた。
用語面で押さえるべきは、宇宙神セレスティアル、彼らに作られた二系統の生物(エターナルとディヴィアンツ)、創発(エマージェンス)、ホスト・プラネット、ユニ・マインド、マハド・ヴィレ、プライム・エターナルの球体である。これらはすべて、MCUのマルチバース・サーガにおける『神々の階層』を再定義するための道具立てで、後の『マーベルズ』『マイティ・ソー ラブ&サンダー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol. 3』へと参照されていく。
制作
ジャック・カービーの原作を『ノマドランド』のクロエ・ジャオへ託すという、当時としては大胆な人事から、本作の制作は始まった。以下、企画から特撮までの主要な経緯を整理する。
企画と監督起用
ケヴィン・ファイギ率いるマーベル・スタジオは、フェーズ4以降の『マルチバース・サーガ』の柱として、ジャック・カービーが1976年に立ち上げたコミック『The Eternals』の映画化を以前から温めていた。2018年4月の『インフィニティ・ウォー』公開直後にプロジェクトが公式発表され、2018年9月にクロエ・ジャオが監督候補として浮上、2019年3月に正式に起用が決まった。
ジャオは『ザ・ライダー』『ノマドランド』までの作家として、自然光と長回し、即興演技、地平線で空と大地を二分する構図を徹底してきた。マーベルがその彼女に十人のスーパーヒーローと宇宙神という派手な題材を任せた理由は明確で、これまでMCUに足りなかった『神話的・宇宙論的・私小説的』なテクスチャを一気に獲得するためだった。ジャオはオファーを受けた時点で『ターミナル』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『2001年宇宙の旅』を引用する独自のトリートメントを提出し、その先見性がスタジオを動かしたと、ファイギは後年複数のインタビューで語っている。
脚本——『家族の崩壊』のスケールへ
脚本は、当初マシュー・K・フィルポとライアン・フィルポの兄弟が初稿を執筆し、後にパトリック・バーリー、そして監督ジャオ自身が大幅に手を入れた。原作コミックの広大な宇宙絵巻を、ジャオは『家族の崩壊』という小さな入れ物に詰め直す方針を採り、十人を恋人・親友・親代わり・我が子・家族の裏切り者として位置づけ直した。
イカリスを最大の敵に据えるアイデアは脚本後半で固まり、当初の悪役クロは『進化するディヴィアンツ』としてサブの位置に下げられた。ファストスを既婚で同性パートナーと家庭を持つ人物に改変し、マッカリを聴覚障害者として描き直す決定もこの段階でなされた。スタジオの試写を経て『十人もいるのに誰一人忘れさせない』ことが至上命題となり、序盤の現代パートで一人ずつ訪ねていく構造が固まった。
キャスティング
セルシ役のジェンマ・チャンは、『キャプテン・マーベル』のミン・エルヴァ役を経てジャオの強い推薦で主役に抜擢された。イカリス役のリチャード・マッデンは『ボディガード』、『ゲーム・オブ・スローンズ』でのロブ・スターク役のイメージを反転させる狙いで起用された。シーナ役にはアンジェリーナ・ジョリー、ギルガメッシュ役には韓国の『新感染 ファイナル・エクスプレス』『犯罪都市』で世界的に知られたマ・ドンソク(ドン・リー)が、ジャオの直接の希望でキャスティングされた。
ファストス役のブライアン・タイリー・ヘンリーは『アトランタ』、ドルイグ役のバリー・コーガンは『聖なる鹿殺し』『ザ・バンシーズ・オブ・イニシェリン』で知られる演技派。キンゴ役のクマール・ナンジアニは『ビッグ・シック』のコメディ俳優出身。マッカリ役のローレン・リドロフは『ザ・ウォーキング・デッド』のコニー役で評価された聴覚障害を持つ俳優本人で、本作のキャスティングを通じて初めてMCUに恒久的な聴覚障害ヒーローを導入した。アジャク役のサルマ・ハエック、スプライト役のリア・マクヒュー、デイン・ホイットマン役のキット・ハリントンも、ジャオの『ヒーロー映画らしくない顔』選びの哲学のもとに集められた。
ミッドクレジットのエロス/スターフォックスには、当時バンド『ワン・ダイレクション』出身の歌手として爆発的人気を持っていたハリー・スタイルズが起用された。ポストクレジットでデイン・ホイットマンに問いかける声には、マハーシュ・パテル演じるブレイドの声が当てられた(声のみ)。
撮影とロケ地
撮影は2019年7月から2020年2月にかけて行われた。ジャオの方針により、可能なかぎり実景ロケで撮影することが徹底され、英国・パインウッド・スタジオを拠点としつつ、ロンドン市街、英国オークニー諸島の海岸、カナリア諸島フエルテベントゥラの火山地形、米国南ダコタ州のバッドランズなど、地球史を象徴する『古い大地』を求めて世界各地を回った。
撮影監督のベン・デイヴィスは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『シビル・ウォー』『ドクター・ストレンジ』に続いて4度目のMCU参加。アナモルフィック・レンズで自然光のマジックアワーを多用し、宇宙神スケールの場面でもグリーンスクリーンへの依存を最小化した。新型コロナウイルス感染症の世界的流行により本作の公開は2020年11月から2021年11月へほぼ1年延期され、ポストプロダクション期間はジャオの編集の自由度を結果的に高めることになった。
視覚効果と美術
視覚効果はインダストリアル・ライト&マジック、ウェタ・デジタル、DNEG、ライズ、スキャンライン・VFXを中心とする多社体制で構築された。アリシェムなどセレスティアルの巨体は、人類スケールとの対比を明確にするため、現実の建築物(古代ギリシャ・エジプトの神殿、英国の岩塔)の質感を素材としてスキャンし、それを巨大なヒューマノイドの『装甲』として再構成する手法が採用された。
ディヴィアンツのクロは、デジタル彫塑によるディテール表現と、シーナの剣との衝突時の動きが、現実のオブジェクトと撮影現場の照明環境に正確に一致するよう、撮影と並行してCG設計が進められた。創発のシークエンスでは、地表が割れて宇宙神の腕と顔が立ち上がるカットを、ジャオの希望でカット数を抑えつつ持続時間を長くし、観客がスケールを『地球規模で実感する』テンポへ調整した。
美術監督のイヴ・スチュワートは、ドンモ号の内装、エターナルズのスーツ、古代バビロンの宮殿、現代の博物館展示まで一貫して、エターナルズが過去から運んできた『金属でも布でもない、有機的に流れる素材』をデザインの基調に置いた。スーツは伝統的なスーパーヒーロー・コスチュームから距離を取り、機能と紋様の中間のような独自のシルエットへ仕上げられた。
音楽と音響
音楽はラミン・ジャヴァディが担当した。『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウエストワールド』で知られるジャヴァディは、本作のために十人のエターナルズそれぞれに細やかなライトモティーフを設計し、それらが家族のアンサンブルとして重ね合わさる時の和声を、コーラスと弦の織りで構築した。ロンドンのアビーロード・スタジオでオーケストラ録音が行われた。
音響デザインでは、創発時の地殻のうなり、ドンモ号の柔らかな『生体音』、ティアマットの覚醒時の超低音、エターナルズのエネルギーの『水のような音』が、各キャラクターの能力とリンクするように作り込まれた。ジャオが嫌う『派手な打撃音の連打』を意図的に減らし、戦闘場面でも風と砂と布の音を主軸に据えるサウンドミックスが組まれている。
編集と公開準備
編集はディラン・ティチェナーとクレイグ・ウッドが担当した。156分という長尺は、ジャオが粘って守った時間設計で、十人の家族それぞれに最低一場面の感情の山を持たせるためには必要な尺だったと後年のインタビューで彼女は語っている。新型コロナウイルスによる延期期間中、追加撮影と編集の微調整が複数回行われ、ポストクレジットの『スターフォックス&ピップ』と『デイン・ホイットマン&エボニー・ブレード』の2本は、製作の最終段階で追加されたものとされる。
イカリスがアジャクを殺した犯人であるという真相は、撮影現場でも限られたキャストにしか共有されず、リチャード・マッデンは演技プランの大部分をジャオから直接受け取って組み立てた。マーケティングでは、イカリスを本作の『ヒーロー側の顔』として強調する戦略が採られ、それが終盤の反転の効果を最大化した。
公開と興行
本作は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で公開が大幅に延期され、米国では2021年11月5日に、日本でも同日11月5日に劇場公開された。コロナ禍からの興行回復が完全には進んでいなかった時期にあたり、世界興行収入は約4億0220万ドル、北米興収は約1億6450万ドルにとどまった。これは『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー』に続く2021年MCU3作目だったが、公開時のMCUとしては平均を下回る数字となった。
Disney+のスタジオ独占配信は劇場公開から70日後の2022年1月12日に開始された。米国の数か国(サウジアラビア、クウェート、カタール、バーレーン、オマーン)では、ファストスと夫の同性キス場面の編集を巡って公開が中止または延期された。米国内のCinemaScoreは『B』、ロッテン・トマト批評家評は47%(MCU史上最低と当時報じられた)、観客スコアは77%と、批評と一般観客の評価が大きく分かれる結果となった。
受賞面では、第94回アカデミー賞の撮影賞・視覚効果賞の予備候補リストに名前が挙がったが、最終ノミネートには至らなかった。アメリカ映画撮影監督協会(ASC)撮影賞ノミネートなど、技術部門での評価は獲得した。
批評・評価・文化的影響
本作はMCUの中で最も評価が二分された一本である。批評家側では、156分のあいだに十人のキャラクターを並走させる構造の負荷、ヒーロー映画として期待される『短く強い起伏』の不在、そして説明台詞の多さが指摘された。一方で、ジャオの監督としての文体——自然光、地平線、対話の長回し、感情の余白——がMCUに持ち込まれたこと自体は、批評家・観客の双方から映画史的な意義として広く認識された。
代表性の面では、MCU初の本格的な聴覚障害者ヒーロー(マッカリ)、MCU初の公式同性パートナーと家庭を持つヒーロー(ファストス)、MCU初の南アジア系俳優中心の場面(キンゴのムンバイ・パート)、MCU初の韓国系俳優によるサイドキック級ではない主役ヒーロー(ギルガメッシュ)など、複数の『初』を一作で更新した。これらの代表性が、後の『シャン・チー』『マーベルズ』『ブラック・パンサー/ワカンダ・フォーエバー』へ続くフェーズ4以降の多様性方針の重要な布石となった。
物語面では、地球史の背後に宇宙神の卵という巨大な設定を打ち込んだことで、MCUにスケールの新しい階層が加わった。ティアマットの石化した顔は『マーベルズ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol. 3』『マーベル・ゾンビーズ』などで間接的に参照され、スターフォックスとピップの位置づけは、サノス家系を巡る今後のシリーズ展開の伏線として残されたままとなっている。
舞台裏とトリビア
ジャック・カービーが1976年に立ち上げた原作コミック『The Eternals』には、もともとアスガード神話やオリンポス神話の正体としてエターナルズを位置づける記述があり、映画版がトール(アスガード神族)と直接接続しない理由は、コミック側でも長年議論の的だった。MCUは本作のキンゴの会話で「我々はアベンジャーズではない。サノス戦に介入しなかったのは、アリシェムの戒律のためだ」という説明を入れることで、シリーズ内の整合性をぎりぎり保った。
マ・ドンソク(ドン・リー)のキャスティングは、ジャオ自身の強い希望で実現した。ジャオは『新感染 ファイナル・エクスプレス』を深く愛しており、ハリウッド大作の中心ヒーローの一人として東アジアの大柄な俳優を据えるという象徴的な決定を、自分のクレジット先頭作品で行った。マの優しさあふれるギルガメッシュは、本作のなかでも観客から特に愛された人物像となった。
ファストスがシカゴ郊外の白い家で同性パートナーのベンとキスを交わす場面は、MCU劇場映画で公式に描かれた最初の同性キスとなった。撮影監督のベン・デイヴィスは、この場面を含むファストスの家族描写を意図的に温かい自然光のなかで撮影しており、本作の他のシーン以上に『ホームムービー』のニュアンスを残している。
イカリスが太陽へ突入する結末は、原作コミックでイカロス(ギリシャ神話)の名を持つキャラクターとしての含意を、映画版で初めて文字通り回収した結末である。ジャオはこの場面で、彼の名前が予言だった、と意図的に演出している。
テーマと解釈
中心テーマは『家族と信仰』である。エターナルズは血の繋がらない十人の不死者でありながら、7000年共に生きてきた、紛れもない家族として描かれる。その家族が、アリシェムという『絶対の父』に対する信仰を共有してきたが、創発の真実を知った瞬間に、信仰のために家族を犠牲にする者(イカリス)、家族のために信仰を裏切る者(セルシ、ドルイグ、ファストス、マッカリ、シーナ)、間に立ち尽くす者(キンゴ、スプライト)の三派に裂ける。神を信じることと、隣人を愛することのあいだの矛盾——という普遍的な宗教的主題が、ヒーロー映画の衣装をまとって正面から取り上げられた。
もう一つの軸は『不介入の倫理』である。アリシェムの戒律によって、エターナルズは7000年人類同士の戦争に介入してこなかった。テノチティトラン征服も、広島の原爆も、彼らは目撃しながら手を出していない。本作はこの不介入の倫理を、ドルイグの『私は彼らを愛している、だから操った』とファストスの『私の与えた道具が原爆になった』という二つの極から問い直し、神々の不在と神々の沈黙の問題系をMCUに持ち込んだ。
そして『創発』は、文字通り星の内側から新しい神が生まれる出来事であり、それを止めることは、宇宙の生命のサイクルの一部を断ち切ることでもある。セルシたちの選択は、未来の生命の可能性を奪ってでも目の前の80億の人類を守るという、功利主義的にきわめて重い判断であり、アリシェムの審判が物語の最後まで保留されることで、観客自身に判断を委ねる構造になっている。ジャオが意図的に明快なカタルシスを排した理由はここにある——『神話とは答えではなく問いの蓄積である』という、彼女の映画哲学そのものが結末を貫いている。
見る順番(補助)
初見では、MCUのスケールに馴染んでから観るのが望ましい。最低限『アベンジャーズ/エンドゲーム』までを通り、ブリップの意味を理解した状態で本作に入ると、80億人がブリップから戻った直後という設定の重みが正しく伝わる。サノスの家系という設定が出てくるため、サノスを描いた『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』を観てから本作のミッドクレジットに臨むのが効果的である。
本作の後は、ポストクレジットの『スターフォックスとピップ』が直接『マイティ・ソー ラブ&サンダー』のサノスの娘関連描写へ繋がるわけではないが、サノス家系のMCU展開という大きな伏線を踏まえつつ、フェーズ4後半の『シャン・チー』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』へ進むのが分かりやすい。
再視聴の際は、序盤の紀元前5000年のメソポタミア上陸シーンと、終盤のイカリスの太陽突入のあいだに張られた『私は信じる』『私は信じてきた』という反復台詞に注意して観ると、ジャオが本作で語ろうとした宗教的主題がより鮮明に浮かび上がる。
- 前作『エンドゲーム』でブリップが解除され80億人が地球に戻る
- 本作ブリップ後8か月、創発と家族の崩壊、イカリスの自死、アリシェム審判
- 次の参照点ミッドクレジットからスターフォックス/ピップ、ポストクレジットからブラック・ナイト/ブレイドへ
よくある質問(補助)
「あらすじだけ知りたい」場合は、紀元前5000年に地球へ送り込まれた不死の十人が、現代のディヴィアンツ再来をきっかけに、地球がセレスティアル誕生のための卵だったという真実に直面し、家族が二派に割れて創発を止める——という流れを押さえれば十分である。「結末・ネタバレを知りたい」場合は、アジャク殺害犯がイカリスだったこと、創発をユニ・マインドで阻止したこと、イカリスが太陽へ突入して自死したこと、アリシェムがセルシ・キンゴ・ファストスを審判のため連れ去ったこと、スターフォックスとピップが登場すること、デイン・ホイットマンがエボニー・ブレードに触れることが核となる。
「評価を知りたい」場合は、批評家評価と観客評価が大きく割れた作品である点を理解の鍵にするとよい。十人の群像を一本に詰め込んだ挑戦に対する評価は時間とともに変わりつつあり、ジャオの作家性とMCUのフォーマットの摩擦そのものが本作の魅力でもある。「見る順番」は本作だけを先に観ず、必ず『エンドゲーム』までを通してから観るのが安定する。
「ポストクレジットの男の声は誰?」については、原作・公式発表ベースでマハーシュ・パテル演じるブレイドの声とされる。続編『エターナルズ2』は正式にスタジオから発表されていないが、サーサナ・スターフォックスとピップ、デイン・ホイットマンのブラック・ナイト化は、それぞれ今後のMCUの別作品で回収されていくことが示唆されている。
参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。
参照・確認先
公式画像、作品名、キャラクター名、権利は各権利者に帰属する。公開年、配信状況、外部評価は変わる場合があるため、視聴前に公式・配信元・作品データベースで確認したい。