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アントマン&ワスプ

シビル・ウォーで犯した「違反」の余熱が残るサンフランシスコ。自宅軟禁のスコット・ラングが、ピム博士と娘ホープに引きずり出される——量子世界で消えたジャネット・ヴァン・ダインを救うための、家族の小さな冒険譚。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2018年7月6日 日本公開: 2018年8月31日 監督: ペイトン・リード
アントマン&ワスプ 公式ポスター

作品データ

作品
アントマン&ワスプ
原題
Ant-Man and the Wasp
媒体
映画(実写)
米国公開
2018年7月6日
日本公開
2018年8月31日
監督
ペイトン・リード
脚本
クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ/ポール・ラッド/アンドリュー・バレル/ガブリエル・フェラーリ
原作
マーベル・コミック
製作
ケヴィン・ファイギ/スティーヴン・ブルサード
音楽
クリストフ・ベック
撮影
ダンテ・スピノッティ
編集
クレイグ・ウッド/ダン・レーベンタル
視覚効果
ILM/Method Studios/Luma Pictures ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
118分
製作費
約1.62億ドル
興行収入
全世界 約6.22億ドル
MCU区分
フェーズ3・第20作/インフィニティ・サーガ
時系列上の前後
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 → 本作 → 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のスナップ後(ポストクレジット)
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全33章 / 約14K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

アントマン&ワスプは、2018年に公開されたマーベル・スタジオ製作のアメリカ映画である。『シビル・ウォー』での違反により自宅軟禁中のスコット・ラングが、ピム博士とその娘ホープに引き出され、量子世界に消えたジャネット・ヴァン・ダインの救出に挑む。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第20作にあたり、家族をめぐる小規模な冒険譚として描かれる。

00概要

『アントマン&ワスプ』(Ant-Man and the Wasp)は、ペイトン・リードが監督し、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ、ポール・ラッド、アンドリュー・バレル、ガブリエル・フェラーリが共同で脚本を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。2018年7月6日に米国で公開され、日本では同年8月31日に劇場公開された。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第20作にあたり、シリーズの章立てではフェーズ3、インフィニティ・サーガの後半に位置づけられる。

公開直前の同年4月、シリーズは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で観客に長く残る痛切な結末を突きつけたばかりだった。サノスの指弾きで宇宙の半数が灰になる——その暗い余韻のあとに、本作はあえて視線を低くする。サンフランシスコの一軒家、ピムテックの携帯式研究所、ミニチュアサイズで疾走するカーチェイス。生活実感のあるスケールへと観客を呼び戻していく。MCUの大作のなかでは異色なほど身近で、軽妙で、家族の物語に徹した一作だ。

とはいえ、本作は単なる箸休めではない。シリーズの基幹をなす量子世界(クアンタム・レルム)が、ここで初めて「行って帰ってこられる場所」として描かれ、三十年来途絶えていたジャネット・ヴァン・ダイン(ミシェル・ファイファー)の消息が回収される。新ヒロインとして本格始動するホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ、シリーズ初の単独ヴィラン枠を担う女性敵役「ゴースト」、ソニー・バーチを軸にした地上の犯罪劇、そして悲しみと許しを描く家族のドラマ。幾重もの層を118分のなかに編み込み、誰も殺さずに勝つという、MCUでは珍しい大団円で幕を下ろす。

そして物語が最も穏やかなところまで降りきった瞬間、ミッドクレジットで観客はもう一度サノスの指弾きへと引き戻される。笑顔と廃墟が同じ呼吸のなかに同居する——本作の余韻は、シリーズでも独特の温度を帯びている。本記事は結末、二つのクレジット・シーン、そして続編『クアントマニア』への接続を含むネタバレを前提に構成している。鑑賞前に物語の驚きを保ちたい読者は、観終えてからの読み物として戻ってきてほしい。

概要

主要データ

原題
Ant-Man and the Wasp
監督
ペイトン・リード
脚本
クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ/ポール・ラッド/アンドリュー・バレル/ガブリエル・フェラーリ
音楽
クリストフ・ベック
撮影
ダンテ・スピノッティ
米国公開
2018年7月6日
上映時間
118分
ジャンル
スーパーヒーロー、アクション、コメディ、SF
シリーズ区分
MCUフェーズ3・第20作/インフィニティ・サーガ

01あらすじ

本稿では、二つのクレジット・シーンを含む結末までを通して、全編のあらすじをたどる。物語は三十年前の回想で幕を開ける。やがて場面は現在へ移り、自宅軟禁中のスコットのもとへ、「夢」を通じてジャネットが干渉してくる。そこから、量子世界へ橋を架ける装置をめぐる三つ巴の追跡劇、ゴーストの正体、そしてサンフランシスコの街なかで繰り広げられる縮小カーチェイスへと、順を追って見ていきたい。

あらすじ

三十年前のジャネット

映画は一九八七年の冬、ピムテック創設期の回想から幕を開ける。若き日のハンク・ピム(マイケル・ダグラス)とジャネット・ヴァン・ダイン(ミシェル・ファイファー)のもとに、ソ連が打ち上げた核ミサイルが空中で誤作動を起こし、北米へ向けて落下しているという報せが届く。誰にも止められない核弾頭を内側から無力化するため、二人は同時にピム粒子で身を縮め、ミサイルの金属パネルを潜り抜けて回路へ直接触れに向かう。

先に限界を迎えたのはハンクのスーツだった。ハンクは引き返すが、ジャネットは「これ以上進めば娘ホープのもとへ帰れないかもしれない」と告げ、なおも縮小を続け、無限小の世界へと消えていく。縮小レギュレーターをあえて外したその先で、亜原子レベルの彼方――すなわち量子世界に永遠に閉じ込められてしまう。これが第1作で語られた、ピム家の癒えない傷である。本作の冒頭はこの一部始終を質感ある映像で改めて描き直し、ピムが地下の研究所で量子トンネルをひそかに維持し続けてきた理由を、観客に思い起こさせる。

回想が解け、画面は現代のサンフランシスコへと移る。スコット・ラング(ポール・ラッド)はFBIによる自宅軟禁の身で、足首には電子モニターが装着されている。軟禁解除まで残り三日。その最後の数日を、彼は娘キャシー(アビゲイル・フォーティア)との「家の中だけのテーマパーク」遊びで過ごしている。マスキングテープで段ボールの城を組み立て、家中にビー玉を転がし、「ジャイアント・モンスター」と化したスコットから逃げ回るのだ。観客は冒頭の核ミサイルから一転、玄関ホールに広がるミニチュアのジオラマへと一気に引き降ろされる。

三十年前のジャネット

ジャネットからの夢と再会

ある朝、スコットは奇妙な夢を見る。幼いホープと、その母ジャネット——会ったことのないはずの女性——が、ピム家の旧居でかくれんぼに興じている。声には妙な実在感があった。目を覚ましたスコットは、ハンクとホープに連絡を取ろうとする。だが二人は『シビル・ウォー』後のソコヴィア協定違反で指名手配中の身。接触すれば、自身の軟禁条件にも背くことになる。それでもスコットは、迷いながら留守番電話を残す。

数十秒後、家の前にミニカーほどに縮んだワゴンが急停車し、ホープがスコットを「拉致」する。腕輪型の縮小装置で意識を奪われ、目覚めた先は移動式の研究所だった。ピムの研究所はそれ自体が折り畳めるスーツケースになっており、ハンドルを引けば建物ごと小型化する。三十年来の量子トンネル研究を続けるピムとホープは、トンネルの試運転に欠かせない「鍵」となる人物を、長らく探し求めてきた。

その鍵とは、第1作『アントマン』の最終局面で量子世界に「沈降」し、生還を果たしたスコット自身の経験にあった。潜行と帰還を経た彼の脳に、ジャネット自身がメッセージを刻み込んでいた——それがピムの仮説である。スコットが見た朝の夢は、量子世界で生き延びていたジャネットからの、初めて成功した量子もつれによる接触だった。家族は震える。会えなかった母が、まだ生きているかもしれないのだ。

三つ巴の追跡

三十年ものあいだ眠っていたピムの量子トンネルを再び動かすには、もう一つ部品が欠けている。ピムは旧友ビル・フォスター(ローレンス・フィッシュバーン)から買ったと偽り、闇市場のブローカー、ソニー・バーチ(ウォルトン・ゴギンズ)に部品を発注する。バーチのレストランに偽名で現れたホープ。取引は成立まであと一歩というところまでこぎ着ける。

だがバーチは、量子トンネル、ピム粒子、折り畳み式研究所——ピム家の技術すべての価値を裏で嗅ぎつけ、闇マーケットで売りさばこうと企んでいた。ワスプのスーツに身を包んだホープは、レストランの厨房を舞台にした華麗な格闘で部品を奪い返す。羽根で宙を舞い、縮小と巨大化を自在に切り替えながら、たった一人で十数人をねじ伏せる。この場面でホープは、前作の「いつか登場するヒロイン」という予告から、本作の対等な主役へと一気に躍り出る。

ところがその瞬間、三人目の何者かが現れ、ホープの手から部品を奪い去っていく。半透明に明滅し、壁をすり抜け、家具を蹴り砕いて消える——後にゴースト(エイヴァ・スター/ハンナ・ジョン=カーメン)と呼ばれる女である。ピム家にとっても、バーチにとっても、初めて対峙する脅威だ。彼女は量子世界に由来する何かに苦しんでいる。敵は一人ではない。映画は早い段階でそれを観客に突きつけ、量子トンネルの完成を狙う三つの勢力が同時にうごめく構図へと舵を切る。

三つ巴の追跡

ゴーストの正体と、フォスター博士の告白

ゴーストが頼ったのは、ピム博士のかつての盟友、ビル・フォスター博士だった。フォスターはかつてピムと共同研究を進めながらも袂を分かった人物で、SHIELD時代の極秘プロジェクト「ゴライアス計画」では巨大化の研究に携わっていた。彼が明かしたのは、エイヴァ・スターという少女の過去である。エイヴァは幼い頃、エネルギー実験の事故で両親を失い、その体は亜原子レベルで「位相を欠いた」ものになってしまったのだ。

エイヴァは絶え間ない痛みのなかに生きている。その体は分子レベルで現実とずれ、壁をすり抜けるという能力は、彼女自身の存在が刻一刻と崩壊していく証でもある。SHIELDはかつて彼女を兵器として運用してきた。組織が解体された後は、フォスターが個人的に医療装置を作り、その命をつないできた。だが装置はすでに限界に近づいている。エイヴァが最後の希望を託すのは、「量子世界に直接つながり、安定したエネルギーを浴びる」ことだった。その鍵こそが、ピムの量子トンネルである。

ゴーストはピム家を襲撃し、研究所と、その内部に保管された「メッセンジャー」装置を奪い去る。これは量子世界のジャネットから届いたメッセージを記録した装置だ。一方、ソニー・バーチは手に入れた装置の一部からピム粒子の組成を解析し、これをまるごと闇のバイヤーへ売り渡そうと暗躍する。研究所を取り戻すべく、スコットとホープも追跡を開始した。誰一人として完全な悪人ではない。だが、誰もが量子トンネルを我が物にしようとしている——観客は、ピム家を軸とするこの三つ巴の構図を一気に飲み込むことになる。

ゴーストの正体と、フォスター博士の告白

サンフランシスコの縮小カーチェイス

本作の中盤を彩るのは、サンフランシスコの坂道を舞台にした長尺の追跡劇だ。折り畳まれた研究所は手のひらサイズの旅行カバンに早変わりするが、ピム粒子の調整が崩れると不規則に膨らんでは縮みを繰り返す。スコットは旧友ルイス(マイケル・ペーニャ)が営む運送会社「X-CON」のバンを借り、ホープとともに追跡へ。だが車も研究所も次々と大きさを変え、ケーブルカーや急な坂を縫って疾走していく。

追跡の最中、ホープのワスプは小型ヘリコプターのように羽根で空を切る。一方スコットは靴底のディスクで一瞬の巨大化に挑むが、スーツの調整が追いつかず、首から下は三歳児サイズに縮んだまま頭だけ大人という不格好な姿で、ハンクの旧友宅の浴室に取り残されてしまう。原作とコミカルさを愛するシリーズの作家性が、もっとも幸福な形で噴き出すシークエンスだ。巨大化したペッパーシェイカー、人間サイズの蟻、手のひらの上を疾走する観光バス——「映画でしか撮れない縮尺ギャグ」のショーケースとして組まれている。

それと並行して、ハンクは旧友フォスターの自宅でゴーストと対峙し、エイヴァの来歴を聞かされる。フォスターは「あなたの旧友として頼む。エイヴァを救うために、ジャネット救出のあとで一度量子エネルギーを分けてほしい」と告げる。だがピムは、ジャネットを取り戻すという目的を最後まで譲ろうとせず、対話は決裂する。

サンフランシスコの縮小カーチェイス

ジャネットとの量子コンタクト

研究所を取り戻したピムとホープ、スコットは、量子トンネルの再起動に成功する。ジャネットからのメッセージを再生するメッセンジャー装置は、スコットの脳内でジャネットを一時的に憑依させる装置として働きはじめる。スコットの口を借りたジャネットは家族へ語りかけ、自分の正確な居場所——量子世界の「霧の彼方、ティーンが教える領域」——をホープに伝える。両親と娘の三人が三十年ぶりに同じ会話を交わすこの場面は、本作の感情の頂点となる。

ジャネットは、量子世界で生き延びていること、そして再会のための時間が極めて短いことを警告する。次に量子のもつれが整うまで、わずか二時間。その間にトンネルを抜け、自分を引き上げ、戻ってこなければならない。家族は張り詰めた空気のなかで作業を急ぐ。

ところがその瞬間、ゴーストが割って入る。彼女はトンネルの量子エネルギーを何より自分の体の安定化に使おうとし、装置を奪ってフォスターとともに逃走する。さらにソニー・バーチが武装した手下を率いてピム家の隠れ家を急襲し、ピム博士は連れ去られてしまう。ジャネットを救う猶予はあと二時間。スコットとホープは、研究所そのものを敵に奪われるという最悪の事態に追い込まれる。

ジャネットとの量子コンタクト

FBI、ルイスの自白、奪還作戦

一方、足首の発信機を「マイクロ・ロボティクス」で偽装したスコットの不在に、FBIのジミー・ウー(ランドール・パーク)が勘づき、自宅の強制査察へと向かう。スコットは超高速で家路を急ぐ——縮小と巨大化を駆使した、本作屈指の滑稽かつ華麗な「家までの帰還」が展開する——が、その隙を突いてバーチが旧友ルイス(マイケル・ペーニャ)を捕らえ、研究所の在りかを白状させようとする。

ルイスは第1作と同じ、説明ゼリフを早口でまくし立てるあの調子で、自分の半生からスコットとの友情、愛犬の話にまで脱線した「自白」を披露する。バーチは自白剤を打って真実を引き出そうとするが、できあがったのはシリーズ屈指のコメディ・モノローグ。観客は、バーチが相手を見くびっていたことを笑いに変えていく。やがてX-CON社のホセ・パスクワル=ロドリゲスたちが救出に駆けつけ、スコットとホープは研究所と装置を取り戻すべく、サンフランシスコ港のフェリー、ホテルの厨房、そして海上で、三方向の作戦を同時に繰り広げる。

海上のクライマックスでは、研究所がフェリーの船倉から街なかの坂道へと転がり出し、巨大化と縮小を繰り返しながら市場や観光地、ピア39の前を駆け抜けていく。ホープのワスプは羽根を生かした空中戦を見せ、スコットは桟橋をまたぐサイズに巨大化してフェリーを丸ごと持ち上げる。そこへゴーストが壁をすり抜け、家具を蹴り抜けて両者の行く手を阻む。

FBI、ルイスの自白、奪還作戦

量子世界への往復、ジャネットの救出

最終局面、ピム博士はホープが奪還した研究所からトンネルへ入り、たった一人で量子世界へと降りていく。亜原子の彼方、霧と発光する微粒子が漂う海のただなかに、老いたジャネットが佇んでいた。歩み寄り、抱きしめる。三十年を隔てた夫婦の再会は、台詞をほとんど排し、息づかいと表情だけで成立させる短いシーンとして処理される。

妻を背負って地上へ戻ったピムのもとで、ジャネットは初めてホープと、そして義理の息子のように接してきたスコットと、面と向かう。さらに、三十年にわたって量子世界を生き延びるうちに身につけた「治癒の波動」を、苦痛に喘ぐエイヴァへと分け与える。エイヴァの位相崩壊は一時的に止まり、ゴーストは涙を浮かべて静かに退場していく——本作は、誰一人倒さず、誰一人殺さず、敵だった者までも救うという解決を選んだ。

並行する地上の物語では、ソニー・バーチが警察に身柄を確保される。一方ジミー・ウーは、「足首発信機は一度も外れていない」というスコットの嘘——ありえないほど精巧なダミー芸——にうっかり納得し、軟禁解除の日を迎えたスコットを玄関先で見送る。物語は家族写真のような温もりをまといながら、街へ、海へ、日常へとほどけていく。

量子世界への往復、ジャネットの救出

結末

本編のラストは、ピム家とラング家がそろってサンフランシスコの自宅でくつろぐ場面だ。屋根の上には自家製の電球が連なり、子どもたちに両親、義理の関係者まで加わった疑似拡大家族が、笑顔で食卓を囲む。ホープとスコットの恋愛も、控えめなキスとからかいの応酬で再び確かめ合われる。

やがて場面は屋根裏のピムの研究所へと移る。スコットは、エイヴァ救出のあとに残った「健康問題を解決する量子治癒波動」をジャネットの助言通り採取するため、再び量子トンネルへ潜る。アントマンサイズに縮み、亜原子の霧をマグネタイトのチューブに詰めていく。その作業を、ハンクとホープとジャネットが地上から見守る。「五秒で帰ってくる」という軽口を残し、スコットは霧の中へ消えていく。

そのとき——ハンクの腕時計が止まる。ホープが横顔から灰になり、塵となって崩れ落ちる。ジャネットも、ハンク自身も、同じ瞬間に灰と化す。誰一人、スコットを地上へ呼び戻す装置を操作できない。スコットの呼びかけだけが量子世界に虚しく響く——『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のラストで起きたサノスの指弾き「ザ・スナップ」が、量子世界の入り口に居合わせたピム家の上にも降りかかった瞬間である。本作はこの衝撃で、実質的に幕を閉じる。

通常のポストクレジットは、軽妙な小ネタで締めくくられる。抑制装置を外された巨大蟻が、ラング家のリビングでドラムキットを叩いているのだ。オチはこうだ——ジミー・ウーの軟禁監視装置が、この巨大蟻のドラムを「足音」と認識し、スコットが家にいるかのように記録し続けてしまう。軽さと暗さという両極を、ほぼ同じ呼吸で並べてみせる本作の独特の構造が、この二つのクレジット・シーンに凝縮されている。

結末
ここまでが全編のあらすじである。本作のミッドクレジットは『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』の物語上の蝶番として、シリーズ内でも特別な重要性を持つ。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。量子世界、ゴースト、ゴライアス計画、ピム家のガジェットなど、シリーズに新たに加わった用語は多い。まずは細部にこだわらず物語を追い、鑑賞後に本表で位置関係を整理すれば、作品をより深く味わえるはずだ。

  • スコット・ラング/アントマン
  • ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ
  • ハンク・ピム
  • ジャネット・ヴァン・ダイン
  • キャシー・ラング
  • ルイス
  • ジミー・ウー

  • エイヴァ・スター/ゴースト
  • ビル・フォスター博士(協力者寄り)
  • ソニー・バーチ
  • バーチの武装部下たち
  • (背景)ハイドラ/SHIELDの過去

  • マギー・ラング
  • ジム・パクストン(マギーの夫)
  • デイヴ
  • クルジー
  • X-CONセキュリティ・コンサルタンツのチーム
  • ピムの巨大蟻群(縮小・巨大化の補助)

  • ピムテック/ピム家研究所
  • FBI(ソコヴィア協定執行部)
  • X-CONセキュリティ・コンサルタンツ
  • (背景)ソニー・バーチの密売ネットワーク
  • (背景)解体後のSHIELDとゴライアス計画

  • サンフランシスコ
  • ピムの折り畳み式研究所
  • スコットの自宅(軟禁地)
  • バーチのレストラン
  • ホテルの厨房と港の物流倉庫
  • サンフランシスコ湾とフェリー
  • 量子世界(クアンタム・レルム)
  • ピムの三十年前の自宅(回想)

  • ピム粒子
  • アントマン/ワスプの新型スーツ(プロトタイプから完成形へ)
  • 量子トンネル装置
  • メッセンジャー(量子もつれ通信装置)
  • 縮小・巨大化のマトリックス・ディスク
  • 折り畳み式の研究所スーツケース
  • ゴーストの安定化マシン
  • 量子治癒の波動
  • 巨大蟻と模倣ドラマー

  • 量子もつれと量子治癒
  • ピム粒子による縮小・巨大化
  • 位相崩壊(モレキュラー・フェーズ・シフト)
  • 壁を通り抜けるゴースト能力
  • 羽根による飛行(ワスプ)
  • ソコヴィア協定下の自宅軟禁
  • 量子世界の地理と「ティーン教える霧」

  • 『インフィニティ・ウォー』のザ・スナップ
  • ピム家の灰化
  • スコットの量子世界での孤立
  • 巨大蟻によるリビング演奏
  • FBI軟禁監視装置の誤作動

12主要登場人物

軽口の名手スコット・ラングを軸に据えつつ、これまで「いずれ活躍するヒロイン」として予告されるにとどまっていたホープ・ヴァン・ダインを、ついに対等な主役へと押し上げた一作である。家族を失い、そして再会するまでの道のり。世代を越えて研究に挑む者たち。敵でありながら同情を誘うゴースト。複数の人物がひとつの量子トンネルを巡って衝突する構図のなかで、それぞれの動機が丁寧に積み重ねられていく。

スコット・ラング/アントマン

本作のスコットは、『シビル・ウォー』でキャプテン・アメリカ側についた代償として、自宅軟禁二年の身にある。あと三日でこの拘束が解ける――そんな最後の数日を、彼は娘キャシーとの「家中を使った段ボールジオラマ遊び」に費やし、できるかぎりまっとうな父親であろうとしている。ポール・ラッドの軽妙さは健在だ。だが本作では、「もう失敗できない」という小市民らしい切実さが、その演技の底に静かに流れている。

ハンク家との関係は冷え切っている。ピム粒子を盗み出して『シビル・ウォー』に飛び込んだ一件が尾を引いているのだ。物語の前半、スコットがあらためてハンクとホープに「謝らせてもらってもいい?」と頭を下げる。シリーズが抱える自尊心と気まずさを、これほど正面から扱った場面はそう多くない。

スコット・ラング/アントマン

ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ

前作『アントマン』のラストで「お父さん、これがあなたを待っていた」と母のスーツを受け継いだホープは、本作で完成形のワスプ・スーツをまとい、対等な主役として登場する。その戦いはスコットのアントマンとはまるで別物だ。空中での縮小、羽根がもたらす慣性、ブラスターの一閃に細かな打撃を織り交ぜ、躍動感と精密さを両立させているのが見どころである。

母を失い、父との関係も長く張り詰めてきたホープ。本作では「母を救うこと」を何より大きな動機に据える。感情を表に出すタイプではないが、ジャネットがスコットに憑依して語りかける場面では、台詞を持たないまま聞き手の表情だけで芝居を成立させるエヴァンジェリン・リリーが、作品全体の感情を一段と引き上げている。

ホープ・ヴァン・ダイン/ワスプ

ハンク・ピム博士とジャネット・ヴァン…

本作のハンク・ピム博士は、「指名手配中の老いた天才」として描かれる。ピムテックの後継をめぐる確執、長年の旧友ビル・フォスターとの決裂、かつての誇りとそこに固執する頑なさ——マイケル・ダグラスは抑えた声と、ときおりのぞかせる不機嫌そうな皺の動きだけでそれらを表現してみせる。シリーズ最年長クラスのメンターを、単なる「説明役」に終わらせない演技だ。

ジャネット・ヴァン・ダインの登場は、ミシェル・ファイファーがシリーズに本格的に姿を見せた瞬間でもあった。三十年を量子世界で過ごし、半神的に進化した波動を操る存在として描かれる。台詞は決して多くないが、本作以降『クアントマニア』へと連なる「カーンにまつわる前情報を最も多く握る人物」として位置づけられていく。

ハンク・ピム博士とジャネット・ヴァン…

エイヴァ・スター/ゴースト

本作で最も独特な存在感を放つのが、ハンナ・ジョン=カーメン演じるエイヴァ・スターだ。原作コミックのゴーストは産業スパイの色合いが濃い男性の悪役だが、本作では性別も来歴も大きく書き換えられた。亜原子レベルで肉体が常にずれ、絶え間ない痛みに苦しむ女性として再構築されている。完全な悪役ではなく、かといって単なる被害者でもない。むしろ、生き延びるために他者を犠牲にする決断を迫られた人物として描かれる点が印象深い。

ゴーストの能力は、本作が掲げる量子世界というテーマと響き合う。壁をすり抜け、家具を蹴り抜け、複数の場所に同時に存在する——いずれも「物質の境界がゆらいだ存在」を体現する描写であり、撮影と編集、VFXが緊密に組み合わさっている。動きそのものでキャラクターを語るという、シリーズでも数少ない造形に仕上がった点に注目したい。

エイヴァ・スター/ゴースト

ルイスとX-CON、ジミー・ウー

ルイス(マイケル・ペーニャ)は、第1作で早口のひとり語りという強烈な個性で観客の心をつかんだ脇役だが、本作ではX-CONセキュリティ・コンサルタンツの共同経営者として登場する。スコットが自宅軟禁の身にある間、ビジネスの実務を切り盛りしているのが彼だ。ルイス、デイヴ(T.I.)、クルジー(デヴィッド・ダストマルチアン)の三人組は、シリーズ最大のコメディ・トリオとして本作でも全力で笑いを生み出す。バーチに自白剤を打たれ、人生を振り返る早口のひとり語りを披露する場面は、本作で最も観客が笑う3分間として知られている。

ジミー・ウー(ランドール・パーク)は、FBIのソコヴィア協定執行担当として本作で初登場した。スコットの軟禁を管理する立場にありながら、本人にどこか親しみを抱いている。そのユーモラスな距離感が魅力で、のちの『ワンダヴィジョン』へとつながる人物の入り口が、ここで作られた。

ルイスとX-CON、ジミー・ウー

舞台と用語

舞台はサンフランシスコ。坂道、ケーブルカー、ピア39、霧、レンガ造りのレストラン——都市のさまざまな表情が、縮小と巨大化のアクションを測る「定規」として働く。アスファルトの隙間に転がるビー玉、車のフロントガラスの曲面、レストランの厨房に並ぶ格子鉄板、フェリーの索具。画面に映る物体のすべてが、アントマンとワスプにとっての断崖となり、峡谷となるのだ。

用語の中心にあるのは量子世界(クアンタム・レルム)である。第1作では「縮小の彼方に広がる未知」として描かれた領域が、本作で初めて「往復できる場所」として確立される。ピム粒子、量子トンネル、量子もつれ、量子治癒の波動、位相崩壊——こうした概念が、のちの『エンドゲーム』『クアントマニア』『ロキ』へと続く物語の前提を支えていく。「ティーンが教える霧の領域」と語るジャネットの言葉は、後年描かれる量子世界の「文明と政治」の存在を、観客に初めてそっと示す伏線でもあるのだ。

19制作

本作はマーベル・スタジオが2015年の『アントマン』のヒットを受けて早い段階で発表した続編であり、企画から公開まではおよそ二年あまりで仕上げられた。シリーズ全体ではフェーズ3の終盤にあたる。大作『インフィニティ・ウォー』の余韻を残しつつ、次に控える『キャプテン・マーベル』『エンドゲーム』へと観客を橋渡しする――そんな構造上の「あいだ」を担う一作として、当初から設計されていた。

制作

企画と脚本

脚本にはクリス・マッケナ、エリック・ソマーズ、アンドリュー・バレル、ガブリエル・フェラーリの四名に加え、主演のポール・ラッドも名を連ねている。マッケナは本作の直前に『スパイダーマン:ホームカミング』を手がけ、シリーズ特有の軽妙な語り口を確立した立役者の一人として知られる。ラッドが脚本にクレジットされるのは第1作に続いてのことで、スコットの台詞回しを最終調整する権限を自ら握っていた。この点は、シリーズ全体を見渡しても異色の制作態勢として語られている。

脚本づくりの初期に掲げられた目標は三つ。『インフィニティ・ウォー』の重さをやわらげる軽妙な家族劇であること、ホープ/ワスプの本格的な単独活躍を描くこと、そして量子世界を実在の場所として確立することだ。タイトルに「ワスプ」を冠した最初のMCU作品であるという点も、戦略上のメッセージとして強く打ち出された。

キャスティング

ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、マイケル・ペーニャ、ボビー・カナヴェイル、ジュディ・グリア、アビゲイル・フォーティアといった主要キャストが続投。新たに、ジャネット・ヴァン・ダイン役にミシェル・ファイファー、ビル・フォスター博士役にローレンス・フィッシュバーン、エイヴァ・スター/ゴースト役にハンナ・ジョン=カーメン、ソニー・バーチ役にウォルトン・ゴギンズ、FBIのジミー・ウー役にランドール・パークが加わった。

ジャネット役のミシェル・ファイファーは、長年MCUからオファーを受けながら断り続けてきたが、本作の脚本と監督ペイトン・リードとの直接の面会を経て出演を承諾したと、関係者が語っている。フィッシュバーンは同じ時期にDC作品(『フラッシュ』など)にも関わっており、両陣営をまたいでの出演が話題を呼んだ。ゴースト役のハンナ・ジョン=カーメンは『ピーキー・ブラインダーズ』『ブラック・ミラー』などで知られる英国の俳優で、無音のなか表情だけで演じきる密度の高さが起用の理由として語られている。

撮影とプロダクション

撮影監督はダンテ・スピノッティ。マイケル・マンの『ヒート』『インサイダー』、ブライアン・デ・パルマ作品などで知られる名匠だ。サンフランシスコの坂と霧を、地に足のついたリアリズムを保ちながら量子的な「歪み」へと橋渡しする——そんな撮影感覚を買われての起用である。

撮影は2017年8月から11月にかけて、米国ジョージア州アトランタ(パインウッド・スタジオ系)を中心に行われ、サンフランシスコでの実景ロケも組み込まれた。縮小スケールのカーチェイスのため、研究所ビルをスーツケース大に仕立てたセット、ミニチュアサイズの車両、原寸大のレストラン厨房を巨大化したセットなど、性質の異なる多様なセットが並行して建てられた。

視覚効果

視覚効果はILM、Method Studios、Luma Pictures、Cinesiteほか複数社が分業して手がけた。縮小と巨大化を同一カット内で連続して描く演出は、本作で表現として完成域に達したと評される。ホテルの厨房での格闘や、フェリーが手のひらサイズに縮んで坂を転がり落ちる場面など、スケールの変化を一秒に満たないショットで何度も切り替える編集が話題を呼んだ。

ゴーストの「位相崩壊」表現には、原作コミックの半透明エフェクトを下敷きにしつつ、複数の身体イメージが少しずつずれて重なる独自の処理が採用された。「彼女自身、自分がどこにいるのか確信が持てない」という内面の不安を視覚そのもので表現するためのデザイン上の判断だったと、VFXスーパーバイザーは語っている。

音楽と音響

音楽は前作に続いてクリストフ・ベックが手がけた。第1作で確立した、軽快でジャズ寄り、サックスをフックに据えたアントマンのテーマを土台に、本作ではホープ/ワスプのための躍動感あるテーマ、ジャネットを彩る幻想的な弦のテーマ、ゴーストのざらついた電子音のテーマを新たに加え、サウンドトラックの表現の幅を大きく広げている。

音響面でも、量子世界に漂う無音と粒子のざわめき、縮小時の高い音と巨大化時の低い音の対比、ピム粒子が起動する瞬間の独特な金属の擦過音など、シリーズに一貫する「アントマンの音」が本作で改めて磨き上げられ、さらに押し広げられている。

編集と公開準備

編集はクレイグ・ウッドとダン・レーベンタルが担当した。上映時間は118分。『アントマン』とほぼ同じ尺のなかに、複数の追跡を同時に描くシークエンスを通している。並行するモンタージュと省略をどう切り替えるか、その判断の冴えが際立つ仕上がりだ。

公開直前の『インフィニティ・ウォー』が観客に強烈なクリフハンガーを残していた。それだけに、本作のミッドクレジットを軽口の続きで締めくくるのか、それともサノスの結末を正面から突くのか、最後まで議論があったと関係者は明かしている。最終的に選ばれたのは、家族の幸福が完成したあとに灰化を見せるという形だ。こうしてシリーズでも屈指の、対比の鋭いミッドクレジットが生まれた。

26公開と興行

全米公開は2018年7月6日、日本では同年8月31日に劇場公開された。北米初週末は約7,580万ドルでスタートを切り、最終的に全世界興行収入は約6.22億ドルに達した。前作『アントマン』の約5.19億ドルからおよそ20%の上積みで、シリーズの中堅作としては手堅い数字を残したといえる。

批評・観客スコアはともに好評で、Rotten Tomatoesのトマトメーターは80%前後、観客スコアも70%台後半で着地した。日本でも公開週末に話題を呼び、Disney+の前身にあたる配信プラットフォームが台頭しつつあった時期にあって、「配信で観る前に劇場で押さえておきたい軽量級MCU作品」の代表格として記憶されている。

受賞面では、視覚効果視覚化協会(VES Awards)のいくつかの部門で技術系のノミネートを獲得したものの、アカデミー視覚効果賞へのノミネートは逃した。一方、『インフィニティ・ウォー』直後の重い余韻が漂うなか、「軽さの役割を的確に担った一本」として評価され、評論家の年末ランキングに「MCUのバランサー」として挙げられる例も少なくない。

27批評・評価・文化的影響

批評の軸となったのは、二つの肯定的な評価だ。ひとつは、シリーズに欠かせない軽量級の一作として申し分ないという点。もうひとつは、ホープ/ワスプを主役格へと引き上げた試みが成功しているという点である。ペイトン・リードの演出については、第1作で確立した縮小ギャグのリズムを、第2作でさらに洗練させたという見方が大勢を占めた。

一方、改善の余地を指摘する声もあった。ゴーストの背景説明が中盤に集中しすぎること、ソニー・バーチの脅威がやや小粒に映ること、そして量子世界の描写がティーンとの「霧」をめぐる予告にとどまること。だがこれらは、続編『クアントマニア』への伏線として、後年に振り返ってこそ意味が見えてくる構造でもある。

文化的な影響として長く語り継がれているのが、ミッドクレジットで描かれる「ピム家の灰化」である。『インフィニティ・ウォー』を観たばかりの観客に、指弾きによる破壊は地球の隅々にまで及んでいるという事実を、生活感をともなって突きつけた瞬間だ。シリーズ全体の出来事の重みを「軽い映画」が確定させる──そんなメタな機能を担った、稀有な一作となった。

舞台裏とトリビア

二人のヒーロー名がタイトルに並ぶのは、MCUの単発映画として本作が初めてだ。マーベル・スタジオがホープ/ワスプを対等の主役へと意識的に引き上げた、その方針をそのまま形にしたものだと、公開当時のプロデューサー陣は語っている。

ルイスのまくし立てるようなモノローグは、第1作で人気を博した場面をあえて踏襲したものだ。本作では「自白剤の作用で本人だけが大真面目、聞かされる側は受け流す」という新たな切り口で再び演じられている。マイケル・ペーニャは撮影現場でアドリブを何度も試し、複数のテイクを重ねたという。

ミシェル・ファイファーは出演を承諾したのち、量子世界で三十年を生き延びた身体の動きをつくり上げるため、撮影に先立ってゆったりとした太極拳のリハーサルを重ねていた。監督のペイトン・リードがインタビューで明かしたエピソードだ。彼女がほとんど音もなく姿を現す場面の密度は、この入念な準備に支えられている。

ランドール・パーク演じるジミー・ウーは本作で初登場し、のちにDisney+の『ワンダヴィジョン』へと引き継がれた。シリーズをまたいでキャラクターを受け継ぐ代表例であり、後年のMCUの語り口を方向づけた一人と言える。

ローレンス・フィッシュバーンが演じるビル・フォスター博士は、原作コミックの『ゴライアス/ブラック・ゴライアス』にあたる人物だ。本作では原作のヒーロー設定を大胆につくり変え、ピムの旧友であり指導者格の存在として置き直されている。

29テーマと解釈

本作の核にあるのは、「家族とは何度でも結び直せる関係である」というテーマだ。スコットとマギーとパクストン、ピムとホープとジャネット、エイヴァとフォスター——血縁、再婚、共同体、擬似的な親子と、複数の家族のかたちが同時に描かれていく。そして物語の結末は、そのいずれにも「もう一度始めていい」というささやかな許しを差し出して幕を閉じる。MCU全体を見渡しても、これほど穏やかに「赦し」を結末へ据えた作品は珍しい。

もう一つの軸は、本作ならではのメタファーだ。「縮小は孤独に、巨大化は責任に等しい」。小さくなるほど世界の隅々まで見渡せるが、その分だけ取り残されやすい。巨大化すれば街を救えるが、自らの重みで足場を壊してしまう。量子世界とサンフランシスコの坂道を往復しながら、本作はこの二つを身体の感覚として何度も観客に味わわせる。

三つ目の軸は、ヴィランの描き直しである。ゴーストの動機は「生き延びる」ことに尽きる。他者の命より自分の存在を選ぶ——その一瞬に、彼女の選択は成立する。だが本作は彼女を罰しない。ジャネットの治癒によって、赦すほうを選ぶのだ。悪意ではなく痛みを抱えたヴィランを赦すこの結末は、後年のMCUがたどり着く倫理観の予告編としても読み解ける。

テーマと解釈

視聴順ガイド

MCU公開順では、直前に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、直後に『キャプテン・マーベル』が並ぶ。本作のミッドクレジットは『インフィニティ・ウォー』のラストと同じ時刻に起きる出来事を描いており、必ず『インフィニティ・ウォー』を先に観ておきたい。アントマン三部作だけを追うなら、第1作『アントマン』、本作、『クアントマニア』の順が最短で、家族構成の変化を時系列で追える。

テーマ別の入り口もいくつかある。量子世界をめぐる旅の出発点としては、本作から『エンドゲーム』、そして『クアントマニア』へ。ホープ/ワスプの活躍を辿るなら、本作から『エンドゲーム』へ。ゴーストとフォスター博士の系譜は、本作から『サンダーボルツ』、さらに『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』周辺へと枝分かれしていく。

視聴順ガイド

31よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という人へ。骨格はこうだ。自宅軟禁中のスコットが、ハンク・ピムとホープに引きずり出され、量子世界へ消えたジャネット・ヴァン・ダインの救出に挑む——。一方「結末・ネタバレを知りたい」のであれば、押さえるべきは三点に尽きる。ジャネットが三十年ぶりに地上へ戻ったこと、ゴーストが許されて生き続けること、そしてミッドクレジットでザ・スナップによりピム家とジャネットが灰と化し、量子世界に降りたスコットだけが取り残されること。この三つを押さえておけば足りる。

「ザ・スナップって何?」という疑問には、こう答えるのが最短だ。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のラストでサノスがインフィニティ・ストーンを全て揃え、指弾き一つで宇宙の生命の半数を消し去った出来事のこと、と。「先に何を見ればいい?」と問われたら、まず『アントマン』第1作、続いて『インフィニティ・ウォー』を観てから本作に入るのが、最も体験が深い。そして「ゴーストはこの後どうなる?」については、本作で生存を許され、その後しばらく公式には沈黙が続き、続編世代のMCU作品で再登場の余地が残されている——というのが、現状の答えだ。

32参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年、興行成績、制作・配信状況、外部からの評価は変動しうるため、視聴の前に公式サイトおよび各データベースの最新の表示を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel 公式作品ページ
  2. IMDb: Ant-Man and the Wasp (2018)
  3. Rotten Tomatoes: Ant-Man and the Wasp
  4. Box Office Mojo: Ant-Man and the Wasp
  5. Marvel Database (Fandom): Ant-Man and the Wasp