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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

王を失ったワカンダが、海底からの脅威ネイモアと衝突する。喪失と王位継承を正面から描き、シュリが新たな黒豹となるMCUフェーズ4の終章。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2022年11月11日 日本公開: 2022年11月11日 監督: ライアン・クーグラー
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー 公式ポスター

作品データ

作品
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
原題
Black Panther: Wakanda Forever
媒体
映画(実写)
米国公開
2022年11月11日
日本公開
2022年11月11日
監督
ライアン・クーグラー
脚本
ライアン・クーグラー/ジョー・ロバート・コール
原作
マーベル・コミック『ブラックパンサー』
製作
ケヴィン・ファイギ/ネイト・ムーア
音楽
ルドウィグ・ゴランソン
撮影
オータム・デュラルド・アーカポー
編集
マイケル・P・シャヴァー/ケリー・ディクソン/ジェニファー・レイム
視覚効果
Wētā FX/ILM/Digital Domain/RISE ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
161分
製作費
約2億5,000万ドル
興行収入
全世界 約8.59億ドル
MCU区分
フェーズ4・第15作/フェーズ4フィナーレ
時系列上の前後
『ブラックパンサー』 → 本作 → 『アントマン&ワスプ/クアントマニア』
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全35章 / 約16K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーは、2022年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画である。王ティ・チャラを失って喪失に沈むワカンダが、海底王国タロカンを率いるネイモアの脅威と衝突し、王位継承をめぐって揺れる姿を描く。妹シュリが新たな黒豹となって立ち上がる、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ4の終章にあたる作品である。

00概要

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(Black Panther: Wakanda Forever)は、ライアン・クーグラーが監督と共同脚本を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。2022年11月11日に米国と日本でほぼ同日公開され、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第30作にあたる。シリーズの章立てではフェーズ4のクライマックスであり、2018年の前作『ブラックパンサー』の直接の続編にあたる。同時に、マルチバース・サーガの第一段階に区切りをつけるフェーズ4の締めくくりとして設計された一作だ。

本作は、前作で主役T'チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月、大腸癌のため43歳で逝去したことを受け、脚本そのものを書き直して生まれた。マーベル・スタジオは早い段階で、T'チャラ役の再キャストもCGによる再現も行わない方針を明言。物語の出発点を「王を失ったワカンダの一年」へと組み替えた。クーグラーとジョー・ロバート・コールは、すでに書き上げていた続編の原稿を一度白紙に戻し、喪失をテーマに据えた現在の構造へと書き改めている。

物語の中心に立つのは、T'チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)と、母であり摂政女王のラモンダ(アンジェラ・バセット)である。地上の大国が次々とヴィブラニウムを求めて動き出すなか、海底に隠れた文明タロカン(Talokan)は、自分たちの存在が脅かされかねないとして、ワカンダへの戦争を宣告する。タロカンを率いる翼ある王ネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)は、本作で初登場するMCU初のメソアメリカ系反英雄だ。彼の登場は、「海の底にもうひとつ隠された王国がある」という新たなスケールをシリーズの世界観にもたらす。

本記事は結末を含む全編の内容に踏み込んでいく。シュリによるブラックパンサーの継承、ラモンダの死、ネイモアとの和平、リリ・ウィリアムズ(のちのアイアンハート)の起源、そしてミッドクレジットで明かされるトゥーサン=T'チャラの存在まで、重要なネタバレを前提に構成している。未見の方は、まず本編を鑑賞してから読み進めることを勧めたい。

概要

主要データ

原題
Black Panther: Wakanda Forever
監督
ライアン・クーグラー
脚本
ライアン・クーグラー/ジョー・ロバート・コール
音楽
ルドウィグ・ゴランソン
撮影
オータム・デュラルド・アーカポー
編集
マイケル・P・シャヴァー/ケリー・ディクソン/ジェニファー・レイム
米国公開
2022年11月11日
日本公開
2022年11月11日
上映時間
161分
ジャンル
スーパーヒーロー、アクション、ファンタジー、政治劇
シリーズ区分
MCUフェーズ4・第15作/フェーズ4フィナーレ

01あらすじ

以下に、結末までを含む全編のあらすじを記す。物語は四つの幕で構成される——T'チャラの死と国葬、その1年後の国連演説と海底からの宣戦、リリ・ウィリアムズをめぐるボストンでの奪取行とラモンダの死、シュリの戴冠と最終決戦、そしてハイチでのエピローグと、ミッドクレジットで明かされる真実。順を追って詳しく辿っていく。

あらすじ

兄の死と国葬

映画は、王宮の研究室で焦るシュリ(レティーシャ・ライト)の姿から幕を開ける。兄T'チャラが原因不明の難病で危篤に陥り、シュリはAIキミョヨをフル稼働させ、合成版ハート型ハーブの再現に走る。だが計算は時間切れを告げる。研究室に入ってきた母ラモンダ(アンジェラ・バセット)が、王はすでに祖先の霊界へと旅立ったと静かに伝える。スクリーンに浮かぶ言葉はただひとつ、「BAST、彼を抱え給え」——ボーズマンの逝去を物語の一部として正面から受け止める、シリーズで最も静かな書き出しである。

場面はワカンダ伝統の白で埋め尽くされた国葬へと移る。白一色の都市の通り、太鼓と歌の行進、川を渡る舟、そして空中へ浮かび昇るT'チャラの棺。通常のMCUに付き物のオープニング・スコアをあえて避け、現地語と打楽器だけで構成された約十分のシークエンスが、ひとりの王を失う痛みを観客に物理的に体験させる。マーベル・スタジオのロゴ・タイトルさえ、黒地に映るチャドウィック・ボーズマンの過去作の姿のみで構成され、音楽は一切流れない。

葬送のなか、王の不在を埋めるべく摂政となったラモンダは、ナキア(ルピタ・ニョンゴ)の不在、オコエ(ダナイ・グリラ)の沈黙、ジャバリ族のム・バク(ウィンストン・デューク)の弔意を、それぞれ別の重さで受け止める。ただひとり、シュリは最後まで葬送の場に赴かない。研究室に戻り、いつかハーブを再現してみせるという、復讐にも似た約束を自分自身に立てる。「私はいかなる神も信じない、私は神ではない、ただし兄を返したい」——本作の感情の地盤は、この一場面で完全に敷かれる。

兄の死と国葬

1年後の国連

T'チャラの死から1年後、ジュネーヴの国連本部に姿を現したラモンダは、ヴィブラニウム獲得を狙う加盟国が次々とワカンダの中立を侵し続けていると糾弾する。同じ会場では、フランス代表が「ワカンダはヴィブラニウムを兵器化し、世界の安全保障を脅かしている」と非難してみせる。だがラモンダはその直後、自らの警備部隊に国連内のフランス工作員チームを取り押さえさせ、観衆の眼前で縛り上げてみせる。彼らはワカンダのアウトリーチ・センターから合成ヴィブラニウムを盗み出そうとしていた、フランス政府の対外総局DGSEの工作員だった。国際社会の建前と実態のはざまに置かれたワカンダの孤独な立場が、冒頭で観客に突きつけられる。

ほぼ同じ頃、米CIAとアメリカ海軍の合同調査チームが、大西洋の海底でヴィブラニウム鉱脈を検出していた。海底に降ろされた掘削プラットフォームは、ヴィブラニウム探知機を操る技師と研究者たちでひしめいている。だが、機器を取り巻く海水が突如として震え、青みがかった肌の魚人の戦士団が浮上してくる。彼らが放つ音響兵器は、調査船の乗員を歌で正気から引き離し、自死へと追いやっていく。やがて空から舞い降りた、羽を持つ青い肌の王ネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)が、生き残った要員をことごとく手にかけ、自ら水中へと沈んでいった。

事件の報せを受けたラモンダは、当初これをアメリカの差し金と見なす。ところが、王宮のスローン・ルームに突如ネイモア本人が現れる。ワカンダの防御に一切感知されぬまま、濡れた足跡を残して王座の前に立つのだ。彼は、ヴィブラニウム探知機を発明した者を48時間以内に始末し、ワカンダから引き渡せ、さもなくば「タロカン」が地上世界全体に戦争を仕掛けると宣告する。「あなた方ワカンダだけが我々と同等の文明である。だからこそ、あなた方が選べ」——そう告げると、ネイモアは姿を消した。

1年後の国連

リリ・ウィリアムズ

ラモンダとシュリは、旧友エヴァレット・ロス(マーティン・フリーマン)がもたらした極秘情報をもとに、探知機の発明者を突き止める。ロスはCIA局長を退き、いまは妻であるロス長官ヴァレンティーナの監視下に置かれていた。発明者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学部生リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)。19歳の天才工学技師で、論文の研究課題として、既存の地質探査技術をさらに高度化させた装置を独力で組み上げていた。ヴィブラニウムが何であるかさえ正確には知らないまま、それを検出する装置を作り上げてしまったのである。

シュリとオコエはボストンへ飛び、MITの寮でリリと接触する。当初は警戒していたリリも、自分の作品に見入るシュリと技術者同士で打ち解け、地下ガレージで開発中のアイアンマン・スーツ風の試作機まで披露する。だが直後、彼女たちを襲ったのはCIAではなかった。ロス長官ヴァレンティーナ(ジュリア・ルイス・ドレイファス)の私的な特殊部隊「CIA共同作戦本部」のチームである。狭いボストンの石畳の通りはたちまちカーチェイスの舞台と化し、トラックの上に飛び乗ったオコエが、ミドナイト・エンジェルにも似ない素のヴィブラニウム槍で武装兵を次々と叩き伏せていく。

脱出寸前、チャールズ川から飛び上がってネイモアの部下アットゥマ(アレックス・リヴィナリ)とナモーラ(マベル・カデナ)が乱入する。バイク状の試作機ごとリリを巻き取り、シュリもまた水中へと引き込まれる。水中戦に対応できないオコエはヴィブラニウムの槍を捨て、ひとり岸辺に取り残される。摂政の代理という務めを果たせなかった彼女は、帰還後、長年の友であるラモンダから「ドラ・ミラージュ長の称号を剥奪する」と宣告される。シリーズで最も静かに、そして最も重くのしかかる処分の場面だ。

リリ・ウィリアムズ

タロカンとネイモアの起源

海底へと拉致されたシュリが目を覚ましたのは、深い青の光に満たされた都市タロカンだった。鯨油の灯りを思わせる発光プランクトン、ピラミッド型の神殿、コーラル色に染まった街路樹。そして人工酸素マスクをつけ、まるで観光客のように泳ぐ自分自身——海底にも、自分たちワカンダに匹敵する規模の文明がひそかに築かれていた。その衝撃を、シュリは観客とともに少しずつ飲み込んでいく。

ネイモアは彼女を浜辺の洞窟へ案内し、自らの起源を語り始める。16世紀、彼の母はユカタン半島に暮らすマヤ系部族の妊婦だった。スペイン軍のコンキスタドールに虐殺され、天然痘で死にゆく村人を救うため、シャーマンは海中に生えた変異植物——ヴィブラニウムの土壌で育った青いハーブ——を煎じて飲ませる。村人は青い肌と海中での呼吸能力を得て海底へ逃れたが、母の胎内にいたネイモアだけは違った。「足首に翼を持ち、空をも飛べる」ミュータントとして生まれ、なお人間の血を残していたのだ。最後の出産で命を落とした母を、彼は地上の祖先の地に埋葬しに戻る。そのとき初めて地上でのスペイン人による集団殺戮を目にし、地上の人間を決して許さないと誓った。

「私の母は、いずれ私のような子がもうひとり地上に生まれる、お前は孤独ではないと教えてくれた。お前を見て、彼女は正しかったと知った」——ネイモアはシュリに、地上をともに焼き払う同盟を持ちかける。兄の死、母を守る重荷、地上の植民地主義への怒り。彼女が抱えるそれらを見抜いたうえで、ワカンダとタロカンが手を組めば、この二つの文明だけが世界の未来を決められると説く。シュリは即答しない。だが、彼の論理が自分の傷の中心をそっと撫でていくのを、止めることはできなかった。

タロカンとネイモアの起源

救出とラモンダの死

オコエの帰還と引き換えに、ラモンダはナキア(ルピタ・ニョンゴ)に協力を求める。前作のラスト以降、彼女はハイチで暮らし、戦いの場から身を引いていた。だが今回、水中潜入のプロとして再び呼び戻される。ナキアは小型潜水機でタロカンの監獄区画へ忍び込み、シュリとリリを連れて脱出する。その途中、追っ手のタロカン兵を二人射殺し、これがネイモアの怒りを決定づける。彼にとって女王にも等しいシャーマンが、復讐を進言するのだ。

ナモーラとアットゥマを先鋒に立て、タロカンはワカンダの首都ビリンの中央湖を経由し、直接攻撃を仕掛けてくる。爆弾代わりの水草弾、超音波兵器、水を蒸気で叩きつける戦法。ワカンダ軍は乾燥兵器で応戦するが、超音波の集中砲火を浴びて大神殿区画が崩壊する。ラモンダは崩れ落ちる宮殿のロビーで、抜き身を手にタロカン兵を二人倒し、水の渦に呑まれかけたリリの体をかろうじて水面へ引き上げる。

押し寄せる水のなか、ラモンダはリリを岸辺に押し上げると、最後の力を使い果たして自らは溺れ死ぬ。シュリは離れた廊下から、母の最期を見届けることしかできない。前作で父を、本作で兄を、そしていま母までも失ったシュリは、その夜、王座の間で母の遺体の傍らに座り、初めて声を上げて泣く。本作の構造上の重心は、戦闘ではなくこの一夜にある。

救出とラモンダの死

ハート型ハーブの再生と新たな黒豹

翌朝、シュリはタロカンから秘かに持ち帰っていた青いハーブの一片を取り出す。これに、一年をかけて記録し続けてきた合成ハート型ハーブの計算式を掛け合わせ、キミョヨとともにワカンダ版の合成ハート型ハーブを完成させる。前作でキルモンガーが焼き払い、永遠に失われたとされていた伝説の植物が、敵から贈られた一片を媒介としてよみがえる——本作を象徴するねじれだ。

シュリは祖先の儀式にならって合成ハーブを服用し、祖先の霊界へと降りていく。だが、そこに現れたのは父T'チャカでも兄T'チャラでもなかった。前作の宿敵、エリック・スティーブンス/キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)である。「お前は、復讐と王のどちらを選ぶ?」と彼は問う。シュリは答えず、現実へと引き返す。霊界が彼女に差し出したのが「兄ではなく憎しみの先輩」だったという事実が、本作のラストの選択を観客に予告している。

ジャバリ族のム・バクとオコエが見守るなか、シュリは紫のエネルギーを身にまとい、新たなブラックパンサーとして立ち上がる。続いて、彼女自身が設計したヴィブラニウム製の新スーツが王宮の研究室で完成する。爪、マスク、運動性能はそのままに、紫と金の発光ラインをまとうこの“シュリ仕様のブラックパンサー”が、最終決戦の主役となる。

ハート型ハーブの再生と新たな黒豹

最終決戦

ワカンダ軍は、ネイモアを乾燥地帯へ誘い出すため、巨大な海上輸送艦「シーリーフ I 号」を出港させる。タロカン軍は狙いどおり艦を急襲し、海上の混戦が始まる。リリは、ワカンダの工房で完成させた本格的なアイアンハート Mk.I を装着。本作で初めて完全装甲のヒーローとして空中戦に身を投じる。一方オコエは、ミドナイト・エンジェルの試作青紫装甲を再び纏い、艦上でアットゥマと相まみえる。

ナキアは水中監視チームを率い、ナモーラの隊による海上突入を食い止める。艦上の白兵戦を任されたム・バクのジャバリ軍は、海中から飛び込む兵を、突進に特化した戦法で迎え撃つ。アットゥマはオコエに「お前は陸の戦士、水の中では何もできない」と挑発する。だが艦上のドックでは陸の戦士の有利がむしろ際立ち、最後はオコエの真槍がアットゥマを討ち取る。

船首では、シュリとネイモアの一騎打ちが成立する。ネイモアは音と水で空を切り裂いて攻め、シュリは祖先の力と科学の双方で応戦する。海上から艦体ごと砂漠へ針路を変えるシュリの作戦は功を奏し、ネイモアは肌と翼が乾きで焼け始める過酷な戦場へと追い込まれていく。それでもネイモアの肉体は強靭で、シュリを刺し、勝利寸前まで迫る。

最終決戦

シュリの選択

倒れたシュリの傍らに、霊界のキルモンガーが再び姿を現す。「殺して終わらせろ。それが我ら一族の歩み方だ」。そう促す彼に対し、シュリは目を閉じ、母ラモンダの声をもう一度聞き直す。「あなたが復讐に飲み込まれることを、私は許さない」。シュリは息を整え、立ち上がる。

倒れたネイモアの首にヴィブラニウム短剣を突き立てる代わりに、シュリは喉元に剣の刃を当てたまま降伏を迫る。「タロカンよ、ヤルコ・タナ(Yibambe/我ら、立つ)」——ワカンダ語ではなくマヤ・ユカテコ語に切り替えてそう宣言し、戦闘の終結と同盟を提案する。ネイモアが膝を折るのは、復讐のためでも王権のためでもない。ただ「タロカンの生存」のためである。「ワカンダ・フォーエバー、と言ってみよ」とシュリが促すと、ネイモアは「インペリオ・マヤ・フォーエバー」と返す代わりに「ワカンダ・フォーエバー」と応じる。

彼は同盟の条件を受け入れつつ、シュリの耳元でこう囁く——「いずれ地上世界はワカンダを再び憎む。その時、お前はわが盟友として、共に地上を焼くために戻ってくる」。シュリは何も答えない。彼女がこの誘いを最終的にどう扱うのか、本作で結論は出ない。続編、あるいはMCUのさらに先の物語へと委ねられた、シリーズ最大級の未解決の伏線である。

シュリの選択

ハイチと正式戴冠

戦いを終えたシュリは、新たなブラックパンサーとしての正式な戴冠を辞退する。彼女が選んだのは、ワカンダの王宮を一人離れ、ナキアの故郷であるハイチへ向かうことだった。海辺の小学校で、ナキアと、彼女が大切に育ててきた幼い男の子と再会する。そして浜辺で自らの喪服を焼き、母と兄への哀悼に区切りをつける。

王座を空席のまま放置できないというワカンダの事情から、シュリの不在のあいだ、儀式の決闘の場でジャバリ族のム・バクが王権を主張する。前作と同じ滝の岸辺に立ち、「私は王の挑戦者である」と名乗りを上げるム・バクのショットで本編は幕を閉じる——シュリ自身が王位を背負わない道を選んだ以上、誰かが摂政とならねばならない。ワカンダの政治制度が抱える現実が、淡々と差し出される。

本編のラストショットは、ハイチの浜辺で焚き火越しに笑顔を取り戻すシュリのワンカットだ。リアーナの主題歌『Lift Me Up』が流れるなか、映画は明確なヒーロー・アッセンブルも次回作の予告も一切置かず、静かに幕を下ろす。

ハイチと正式戴冠

ミッドクレジット

本作のミッドクレジット・シーンは、ハイチの浜辺、夕陽の中で展開する。ナキアがシュリに、自分とT'チャラとの間に生まれた男の子を引き合わせる。子供の名は「トゥーサン」——ハイチ独立の英雄トゥーサン・ルーヴェルチュールにちなんだものだと、シュリは告げられる。

「これは表向きの名前なの」とナキアは続ける。男の子は、ワカンダの伝統にならい、初めて顔を合わせる家族に自らの真名を名乗る。「私の名はT'チャラ。王T'チャラの子です」。父T'チャラがこの子をハイチで秘かに育てようとしたのは、王位継承の重圧から我が子を守るためだった——兄の遺志がそうしてシュリに明かされる。彼女はその場で膝をつき、涙を流す。

本作にポストクレジット・シーン(本編後の最後の付加場面)はない。MCU作品としては異例の選択であり、ボーズマンへの追悼を最後まで貫こうとするスタジオの判断とされる。続編『ブラックパンサー3』が作られるか否かにかかわらず、ワカンダの未来の王の存在は、このミッドクレジットの一場面でMCU全体に正式に刻み込まれた。

ミッドクレジット
ここまでが全編のあらすじである。シュリのブラックパンサー継承、ラモンダの死、ネイモアとの和平、ミッドクレジットの『トゥーサン=T'チャラ』までが核となる。本作はMCUフェーズ4のフィナーレであり、直後のフェーズ5は『アントマン&ワスプ/クアントマニア』から始まる。

登場要素

本作に登場、あるいは言及される主な要素を分類して紹介する。タロカンにまつわる用語の多くは本作で初めて登場するものであり、ワカンダ側にもシュリの新スーツやアイアンハート Mk.I といった新規アイテムが数多く加わっている。

  • シュリ(後の新ブラックパンサー)
  • ラモンダ(摂政女王)
  • ナキア
  • オコエ
  • ム・バク
  • アヨ
  • アネカ
  • リリ・ウィリアムズ(後のアイアンハート)
  • エヴァレット・ロス
  • ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーン(CIA局長)
  • ネイモア/クックルカン
  • ナモーラ
  • アットゥマ
  • タロカンのシャーマン

  • ネイモア/クックルカン(タロカンの王、対立軸)
  • ナモーラ(ネイモアのいとこ)
  • アットゥマ(タロカンの軍司令官)
  • (前作・霊界)エリック・スティーブンス/キルモンガー
  • (背景)フランスDGSE工作員と米CIA共同作戦本部

  • T'チャラ(故人として、葬送と霊界で)
  • T'チャカ(言及)
  • トゥーサン=T'チャラ(ナキアの息子)
  • ナキアの教え子たち(ハイチの小学校)
  • MITの寮母とリリの母(言及)

  • ワカンダ王国(摂政体制)
  • ドラ・ミラージュ(オコエ降格の経緯)
  • ハタウト・ザレズ(王室密偵団)
  • ジャバリ族
  • ミッドナイト・エンジェルズ(オコエとアネカの新編成)
  • タロカン王国
  • 国連
  • 米CIAおよびCIA共同作戦本部
  • フランス対外総局DGSE
  • MIT

  • ワカンダ首都ビリン(中央湖と王宮、研究室)
  • ワカンダ国境地帯
  • ジュネーヴの国連本部
  • 大西洋の海底ヴィブラニウム探査現場
  • MITキャンパス/ボストン市街
  • タロカン首都(深海の青い都市)
  • ユカタン半島の16世紀沿岸
  • ハイチの海辺(ナキアの小学校)
  • ジャバリ族の山岳地帯
  • 海上輸送艦シーリーフ I 号

  • シュリ仕様の新ブラックパンサー・スーツ(紫と金)
  • 合成ハート型ハーブ(タロカン由来のサンプルから再生)
  • オコエのミドナイト・エンジェル装甲(青紫)
  • アイアンハート Mk.I(リリの本格装甲)
  • リリのMIT試作機(バイク兼スーツ)
  • ヴィブラニウム探知機(リリ製)
  • ヴィブラニウム製の音響兵器(タロカン側)
  • キミョヨ・ビーズと王宮の研究室
  • ヴィブラニウムの槍とドラ・ミラージュの装備
  • M'baku のジャバリ製グローブ

  • 祖先の霊界とハート型ハーブ
  • 翼の踝(ネイモアのミュータント能力)
  • タロカンの水中呼吸と寒冷耐性
  • 音響兵器によるサイレン現象
  • ヴィブラニウムの希少性と地政学
  • ミュータント概念のMCU正式導入
  • 新ブラックパンサーの紫のエネルギー
  • 復讐と王権のディレンマ
  • 王家の真名と表向きの名

  • ミッドクレジット:トゥーサン=T'チャラの存在が明かされる
  • ポストクレジット(クレジット完了後):本作には存在しない
  • リリのアイアンハート Mk.I 完成は『アイアンハート』TVシリーズへ直結
  • ヴァレンティーナ局長の影響は『サンダーボルツ』『キャプテン・アメリカ/ブレイブ・ニュー・ワールド』へ直結
  • ネイモアの『いずれ戻ってくる』のセリフは未回収の最大伏線

13主要登場人物

本作は群像劇でありながら、物語の視点はほぼ一貫してシュリとラモンダのふたりに据えられている。ここでは、本作で物語上のアーク(人物の弧)が完結する、あるいは大きく転回する人物を中心に整理していく。なお、以下はすべて結末まで含めて明かす、ネタバレ前提の記述である。

シュリ

前作では明るく好奇心旺盛な天才の妹だったシュリが、本作の冒頭では兄を救えなかった一人の科学者として姿を見せる。「私は神を信じない、ただ兄を返したい」――この一言が彼女の出発点であり、作品全体の感情の重心を成している。母を守れず、リリを守るために母を喪った彼女が、復讐に呑み込まれることなく王として立つまで。その軌跡こそが本作の主筋だ。

霊界で兄T'チャラに会えず、代わりにキルモンガーが現れる場面は、彼女が背負った喪失の深さを映す隠喩として読まれてきた。内に宿る怒りと敵意が、最も近しい家族ではなく、外側の象徴となって立ち現れる構造である。最終決戦でネイモアを討たず同盟へと舵を切る選択は、その怒りを彼女が自らの手で選び取り、胸の内に「収める」決断にほかならない。ラスト、ハイチの浜辺に立つ彼女の表情は、まだ完全な救いには届いていない。それでも、王として歩き出すには十分な静けさをたたえている。

シュリ

ラモンダ

夫ティ・チャカに先立たれ、息子ティ・チャラをも失い、いまはワカンダの摂政の座にあるラモンダ。彼女は本作の道徳的支柱として機能する。国連の場で世界を一喝し、シュリを叱りつけ、オコエの称号を剥奪する——その判断はどれも冷静でありながら、つねに「子供たちを次の世代へ無事に送り届けるまで守り抜く」という一点へと向けられている。

終盤、崩れゆく王宮のなかでリリを岸へと押し上げ、自らは溺れて命を落とす場面は、本作のクライマックスの一つだ。彼女は前作以上に物語の中心人物として描かれており、本作のために加筆された脚本がアンジェラ・バセットの演技を最大限に引き出したといわれる。第95回アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされたのは、MCU作品としては前例の少ない快挙であった。

ラモンダ

ネイモア/クックルカン

コミックにおけるネイモア(アトランティスを統べる海の王)は、本作で大胆に設定を改められている。原典の白系アトランティス出身という設定を離れ、メソアメリカのマヤ系(ユカテコ・マヤ語を話す民)として再構築された。母がスペインの侵略から逃れるために口にしたヴィブラニウム由来のハーブによってミュータントとして生まれ、海と空の双方を支配する王として描かれる。タロカンの民は彼を『海から戻った神クックルカン』として崇める。

本作のネイモアは、単純な悪役ではない。500年にわたって母と村の遺産を守り抜いてきた一族の長であり、地上の植民地主義へ向ける怒りは現実の歴史に根ざしている。彼の主張のどこまでが正当で、どこからが暴走なのか。その判断は観客に委ねられている。シュリが下す「殺さず、同盟者として留める」という最後の選択は、本作が彼を倒すべき敵ではなく、付き合い続けるべき隣人として描いたことを物語る。演じるテノッチ・ウエルタ・メヒアはメキシコの俳優で、撮影前にマヤ語を習得し、ユカタン半島で文化的なリサーチを重ねたことを自ら明かしている。

ネイモア/クックルカン

リリ・ウィリアムズ

MITに通う19歳の学部生リリ・ウィリアムズは、コミックでは『アイアンハート』として知られるアイアンマンの後継者である。本作で初登場し、独力でヴィブラニウム探知機を組み上げたことから、ワカンダとタロカンの戦争へと巻き込まれていく。母を交通事故で亡くした過去、孤独な天才としての立場、そして亡き親友の遺志を継いで何かを完成させたいという思い。そうした背景が、簡潔ながらも繊細に描かれる。

終盤、ワカンダの工房で完成させるアイアンハート Mk.I は、彼女のキャリアの正式な出発点となる。母の名にちなんでペレと名づけられた機体だ。紫と銀のスーツに身を包み、空中戦でネイモア軍の戦士を抑え込む姿は、フェーズ5以降のシリーズへと物語を直接つなぐ役割を果たした。本作の幕切れから、Disney+で配信される『アイアンハート』シリーズへと物語は受け継がれていく。

リリ・ウィリアムズ

オコエ/ナキア/ム・バク

オコエはドラ・ミラージュの長として登場するが、ボストンでの作戦が失敗に終わると、ラモンダによって称号を剥奪される。信じてきた制度から弾き出されるという屈辱は、シリーズを通じてオコエが初めて味わうものだ。最終決戦では青紫のミッドナイト・エンジェル装甲を纏って戦線に復帰し、宿敵アットゥマを討つ。この場面は、彼女が自らの名誉を取り戻す物語として組み立てられている。

前作のラストでワカンダの外交を担っていたナキアは、本作の冒頭時点ではすでに第一線を退き、ハイチで教師として暮らしている。やがてラモンダの直接の依頼を受け、タロカンの監獄区画へ潜入し、シュリとリリを救い出す。最大の驚きは、ミッドクレジットで明かされる真相だ。彼女はT'チャラとのあいだに息子をもうけ、秘密裡に育てていたのである。

ジャバリ族のム・バクは、本作で最も笑いを引き受ける役回りを担いながら、終盤には王権を主張する立場へと移っていく。前作で挑戦者として立った滝の岸辺の場面が本作で再び演じられ、シリーズが描いてきた政治性を象徴する。彼の戴冠は本編の中では完結しない。だが、シュリが王位を辞退したのち、摂政として最も自然な選択肢が彼であることが示される。

オコエ/ナキア/ム・バク

ロスとヴァレンティーナ

前作と『シビル・ウォー』でCIAの要人として登場したエヴァレット・ロスには、本作で意外な関係が明かされる。彼の元妻こそ、CIAの新局長として頭角を現すヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーンだったのだ。ヴァレンティーナは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『ブラック・ウィドウ』のポストクレジットでMCUに初登場した冷酷な政治家である。本作では夫を監視下に置き、リリを巡る非公式の作戦を、ワカンダに対抗する形で動かしていく。

ロスはシュリに極秘情報を流していたことが終盤で露見し、ヴァレンティーナに反逆容疑で逮捕される。彼の今後は明かされないが、ヴァレンティーナの暗躍はやがて『サンダーボルツ』『キャプテン・アメリカ/ブレイブ・ニュー・ワールド』へと直接つながっていく。MCU後半の政治劇を担う中核人物——本作は、その彼女が本格的に動き出す幕開けとなった一作でもある。

ロスとヴァレンティーナ

舞台と用語

舞台は、ワカンダ、タロカン、そして地上世界という三つの軸に大きく分かれる。ワカンダでは前作と同じく王宮と中央湖、ジャバリ族の山岳、国境地帯が使われるが、中央湖の畔に立つ大神殿が崩落し、シリーズが築いてきた空間そのものに傷が刻まれる。新たに登場するタロカンは、ユカタン半島沿岸の海底に広がる青い光の都市だ。ピラミッド型の神殿、サンゴと夜光プランクトン、人工酸素マスクのもたらす観光地めいた感触が、ワカンダの黄金とは対照的な視覚的アイデンティティを与えている。

地上世界では、ジュネーヴの国連、MITとボストン市街、ハイチの海辺の小学校と、シリーズで初めて使われる場所が並ぶ。とりわけハイチは、ナキアの隠遁先として、さらにミッドクレジットで真相が明かされる聖地として、物語の最も重要な精神的な拠点となる。子供に独立運動の英雄トゥーサン・ルーヴェルチュールの名を与えるという設定は、地上世界に残る植民地主義への応答として組み込まれている。

用語の面では、ヴィブラニウム、ハート型ハーブ、キミョヨ、ドラ・ミラージュ、ハタウト・ザレズ、ミッドナイト・エンジェルズ、タロカン、クックルカン、ユカテコ・マヤ語の戦闘掛け声、Bast神、合成ハーブによる祖先界、そしてミュータントの概念——これらが幾重にも交錯する。なかでも「ミュータント」という単語が、ネイモアの正体としてMCU本編で初めて公式に使われたことは、シリーズがいずれX-MENを取り込むための布石として注目を集めた。

舞台と用語

21制作

本作の制作は、2020年8月のチャドウィック・ボーズマンの逝去をきっかけに始まった。それまで進めていた続編企画を根本から書き直す決断が、すべての出発点となった。ここではその経緯を、企画、脚本、撮影、特撮、音楽、編集に分けて整理する。

制作

企画と脚本の再構築

前作『ブラックパンサー』の世界的成功を受け、ライアン・クーグラーとジョー・ロバート・コールは続編の脚本をほぼ完成稿と呼べる段階まで書き上げていたという。T'チャラを主役のひとりに据え、新たな宿敵との対決を軸に据えた構造だった。ところが2020年8月、ボーズマンが世を去る。マーベル・スタジオとクーグラーは即座に方針を固めた。T'チャラ役を再キャストすることも、顔のCGで再現することもしない。脚本は白紙に戻された。

書き直しの軸に据えたのは、喪失をそのまま物語の中心に置くことだった。クーグラーはボーズマンの死を反映し、「一年前に王を失ったワカンダ」という時点を設定。視点をシュリとラモンダの二人へと移した。同時に敵役も大きく変えている。当初想定されていたコミックの『N'ジャダカ』派生ではなく、海底文明タロカンの王ネイモアという、MCU初登場のキャラクターを選んだのだ。こうして本作は、シリーズ内部の続編としての構造を保ちながら、新たな世界観の拡張をも担う一作となった。

脚本上の最大の挑戦は、冒頭に葬儀の場面を置きながら、観客を物語に引き留め続けることだった。クーグラーは長い葬送の場面を音楽なしで通し、続く一年後への跳躍を最小限の説明で運ぶ。そうして観客自身に喪の時間を体験させる構造へと落ち着いた。ナキアとその子をミッドクレジットで登場させるアイデアは、撮影の段階で固まったと公表されている。

キャスティング

前作からはレティーシャ・ライト(シュリ)、アンジェラ・バセット(ラモンダ)、ルピタ・ニョンゴ(ナキア)、ダナイ・グリラ(オコエ)、ウィンストン・デューク(ム・バク)、フローレンス・カスンバ(アヨ)、マーティン・フリーマン(ロス)、そして霊界のシーンに登場するマイケル・B・ジョーダン(キルモンガー)が続投する。新たな主要キャストには、テノッチ・ウエルタ・メヒア(ネイモア)、ドミニク・ソーン(リリ・ウィリアムズ)、マベル・カデナ(ナモーラ)、アレックス・リヴィナリ(アットゥマ)、ミカエラ・コール(アネカ)、ジュリア・ルイス=ドレイファス(ヴァレンティーナ)が加わった。

ネイモアを演じるテノッチ・ウエルタ・メヒアはメキシコ出身の俳優である。撮影に先立ってユカテコ・マヤ語の発音指導を受け、現地ユカタン半島で文化リサーチを行ったことを公表している。マヤ系の起源という設定そのものが、配役の段階から丹念に作り込まれた要素なのだ。一方、リリ・ウィリアムズ役のドミニク・ソーンについては、Disney+の単独シリーズ『アイアンハート』への登板が本作と同時に発表された。

撮影が中盤に差しかかった頃、レティーシャ・ライトがバイク事故で負傷し、再開までに数ヶ月のスケジュール調整を強いられた。これは脚本にも影響を及ぼし、シュリの戴冠と最終決戦の比重がやや後半に集中する、現在の構造へとつながっている。

撮影とロケ地

本撮影は2021年6月から2022年3月にかけて、ジョージア州アトランタのパインウッド・スタジオを主な拠点に進められた。追加撮影はマサチューセッツ州ボストン、プエルトリコ、ジャマイカ、ユカタン半島でも行われている。葬送の場面の一部は、アトランタの大型ステージに組まれたワカンダの中央広場で撮影された。現地のドラマーやダンサー、合唱隊が数多く起用され、画面に厚みを添えている。

タロカンの水中シーンは、ドライ・フォー・ウェット(乾いたセットを水中に見立てるVFX手法)をジョージア州内で用いた撮影と、プエルトリコでの実際の水中撮影を組み合わせて作り上げた。撮影監督オータム・デュラルド・アーカポーは、独自の調光技術によって青い光と粒子が漂う質感を表現。ワカンダの黄金とタロカンの青を鮮やかに対比させる視覚言語を組み上げた点に注目したい。

ボストン市街のカーチェイスは現地でロケ撮影され、MITキャンパスの室内の一部もボストン側で撮られている。ハイチの浜辺の場面はジャマイカで撮影され、現地の音楽や踊りを参照した要素が編集の段階で反映された。

視覚効果と水中の表現

本作のVFXは、Wētā FX、ILM、Digital Domain、RISE、Method Studiosなど複数の大手ベンダーが分担した。中心となったのは、タロカン市街の水中表現、ネイモアの翼ある踝、シュリの新たなブラックパンサー・スーツに走る紫の発光ライン、そしてナモーラとアットゥマの皮膚や歯の質感である。

水中表現では、まず俳優をドライ・ステージで撮影し、そこに髪や服、砂塵、呼吸の気泡、光の散乱をVFXで重ねていく手法が中心となった。これは『アクアマン』などの先行作とは異なるアプローチで、俳優の表情の鮮明さを優先するため、あえて完全な水中撮影を避けたという。タロカンのピラミッド神殿群や、街路樹のように茂る珊瑚は、ユカタン半島の遺跡を3Dスキャンしたデータを参照して設計された。

シュリのブラックパンサー・スーツには、紫と金の発光ラインに加え、肩から胸にかけて新たな結晶質のパターンが施された。これは、ハート型ハーブが合成版として復活したことを象徴するデザイン上の選択である。本作は第95回アカデミー視覚効果賞にノミネートされた(受賞は『アバター/ウェイ・オブ・ウォーター』)。

視覚効果と水中の表現

音楽と音響

音楽は前作に続いてルドウィグ・ゴランソンが手がけた。前作のテーマを断片的に引き継ぎながら、本作のためにメソアメリカの楽器(ティアタル太鼓、土笛、テオシントゥ)、西アフリカの伝統打楽器、ハイチのクレオール詠唱を組み合わせ、新たなスコアを練り上げた。葬送の場面であえて音楽を一切流さない。この選択もゴランソンとクーグラーがともに下した判断である。

主題歌『Lift Me Up』を歌うのはリアーナ。作曲はトムス・ピーターセン、ルドウィグ・ゴランソン、ライアン・クーグラーの共作である。チャドウィック・ボーズマンへの追悼を込めた一曲で、第95回アカデミー歌曲賞にノミネートされた(受賞は『RRR』の『Naatu Naatu』)。挿入曲にはテムズ(Tems)、ストーミー、メソアメリカ系のアーティストら多数が名を連ね、サウンドトラックは音楽の面でも文化的な多様性を貫いている。

編集と尺

編集はマイケル・P・シャヴァー、ケリー・ディクソン、ジェニファー・レイムが担当した。上映時間161分は、MCU単独作品としては『エンドゲーム』に次ぐ長さである。冒頭に葬送の場面をたっぷりと据え、そこから一年後へと時を飛ばす構成は、テンポを損なわないよう編集段階で幾度も試行錯誤を重ねたという。

シュリとネイモアが初めて対峙する場面、リリのMITのガレージでの場面、そしてラモンダの最期の場面は、いずれも複数のテイクと尺を組み合わせるなかで現在の長さに落ち着いた。ミッドクレジットの『私の名はT'チャラ』は、当初のテイクではナキアが息子の真の名を告げる構成だったが、最終的には子供自身が自らの口で名乗る形へと編集で組み直されたという。

28公開と興行

本作は2022年11月11日、米国や日本をはじめ世界各地で同日公開された。北米のオープニング3日間は約1.81億ドル、全世界では約3.30億ドルのスタートを切り、その年11月の世界興行を独占した。最終的な全世界興行収入は約8.59億ドルに達し、2022年の世界年間興行で『アバター/ウェイ・オブ・ウォーター』『トップガン マーヴェリック』に次ぐ上位の規模を記録した。

受賞面では、第95回アカデミー賞で衣裳デザイン賞(ルース・E・カーター)に輝いた。これによりルース・E・カーターは、黒人女性として初めてアカデミー賞を二度受賞したアーティストとなった(前作ですでに受賞している)。同回ではほかに、視覚効果賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、歌曲賞、助演女優賞(アンジェラ・バセット)と、合計5部門にノミネートされた。

批評家・観客のスコアは、前作よりやや評価が分かれた。長く尾を引く喪のトーン、ネイモアの動機の複雑さ、シュリの結末での選択など、観客が一方的に楽しめる娯楽性ではなく、政治劇と弔いの物語としての性格が論点となった。一方、アンジェラ・バセットの演技と、テノッチ・ウエルタ・メヒアが演じる新たなネイモアは、批評・観客の双方からシリーズ最高水準の支持を集めた。

公開と興行

29批評・評価・文化的影響

本作はMCUフェーズ4の締めくくりとして、次なる強敵への前振りをあえて排した、きわめて内省的な一作として記憶された。葬送、王位の継承、そして復讐の放棄——これらの主題は、ハリウッドのスーパーヒーロー映画の定石から大きく逸脱している。多くの批評家は、追悼そのものを一本の映画に書き起こした稀有な例として、本作を高く評価した。

ネイモアの出自をメソアメリカ系へと改めた決断は、コミック原典の白人系アトランティス像を大胆に書き換えるものであり、ヒスパニック系・先住民系の観客から幅広い支持を集めた。マヤ語、ユカタン半島の文化、征服者(コンキスタドール)の時代の歴史を織り込む試みは、ハリウッド大作としては前例の少ない緻密な作業だった。多数の文化コンサルタントを起用した点も含め、業界の標準的なリサーチ手法に影響を与えている。

ミュータントという概念をMCUに正式導入したことも、本作が静かに成し遂げたもう一つの大きな仕事である。ネイモアが「私はミュータントだ」と名乗ることで、フェーズ5以降のX-MEN系キャラクター登場への道が公式に開かれた。リリ・ウィリアムズの登場は、フェーズ5のヤング・アベンジャーズ系の前線への布石であり、フェーズ4を総仕上げする役割を担ったのである。

批評・評価・文化的影響

舞台裏とトリビア

本作のために、マーベル・スタジオのオープニング・ロゴは特別版が制作された。通常のヒーローたちが一堂に会するカットは姿を消し、代わりに登場するのはチャドウィック・ボーズマンの過去作――『ブラックパンサー』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』――の場面だけ。音楽も完全な無音に差し替えられた。MCU作品のなかで、音楽を伴わないロゴ・タイトルは本作だけである。

撮影の中盤、レティーシャ・ライトが怪我を負ったことで、シュリの戦闘シーンは予定よりもスタントの比率が高くなった。復帰後のライトは可能な限り自らアクションに臨んだが、新たなブラックパンサー・スーツでの落下や高所のアクションの一部は、スタントダブルが演じている。

ネイモアを演じたテノッチ・ウエルタ・メヒアは、撮影前にユカタン半島で数週間にわたるワークショップに参加し、ユカテコ・マヤ語の発音と所作を学んだ。劇中でネイモアが部下に語りかける言葉は、そのほとんどがユカテコ・マヤ語であり、英語字幕は意図的に最小限に抑えられている。

ミッドクレジットに置かれた『私の名はT'チャラ』の場面を演じた子役は、ハイチ系移民の家庭に育った俳優である。ナキアの教え子役の候補のなかから、最終的に彼が選ばれた。その名乗りの台詞は、撮影現場でテイクごとに少しずつ呼吸を変えて録音され、編集の段階で最も静かなテイクが採用されている。

本作は、MCUで初めて『ポストクレジット・シーンを置かなかった長編作品』としても語られる。マーベル・スタジオはこれまで、エンドクレジットが終わったあとに付加的な場面を残すのを慣例としてきた。だが本作はミッドクレジットのみにとどめ、観客を席に引き留めることはしなかった。ボーズマンへの追悼を、最後まで貫くという決断だった。

31テーマと解釈

中心にあるのは喪と継承である。登場人物はほぼ全員、誰かを失った状態から物語を始める。そして、その喪失の中で次の役割を引き受けるかどうかを問われていく。シュリは兄を、ラモンダは息子を、ナキアは恋人を、オコエは制度上の名誉を、ネイモアは母を、リリは親友を——それぞれの喪が、それぞれの判断と結末を決めていく。シリーズで最も明示的に『悲しみについての映画』であろうとした一本である。

もう一つの軸は、復讐と王権の対立である。霊界に現れるキルモンガーが象徴するのは、シリーズが過去に提示した『復讐をやり抜いた王』という選択肢だ。それをシュリが引き取って実行するか否か、そこが本作のクライマックスの個人的な核となる。彼女がネイモアを討たないと決断するのは、ワカンダの政治的利益のためではない。自分自身を母ラモンダの教えの側に置くためであり、その判断の重みこそが本作の感情のピークだ。

そして三つ目の主題が、地上の植民地主義と先住民の記憶である。ワカンダ、タロカン、ハイチ——本作の地理は、いずれも西欧列強による植民地化の歴史と緊密に結びついている。ネイモアの怒り、ナキアの隠遁先、トゥーサンという名前の選択、これらが一本の線でつながっていく。スーパーヒーロー映画でありながら、メソアメリカとカリブの歴史を作品の地盤に据えた点で、本作はMCUの中でもっとも明確に政治的なテキストとなった。「ワカンダ・フォーエバー」という掛け声を、マヤ系の戦士であるネイモアに最後に言わせる——このラストの選択は、本作のすべてのテーマを一行に圧縮している。

テーマと解釈

視聴順ガイド

初見であれば、まず前作『ブラックパンサー』を観ておきたい。T'チャラとシュリ、ラモンダ、オコエ、ナキア、ム・バクの関係も、キルモンガーという存在も、ヴィブラニウムとワカンダの政治の構図も、すべて前作で初めて描かれたものだからだ。そして本作冒頭の葬送が最大の重みを帯びるのは、前作のT'チャラの姿が観客の記憶に焼きついている場合に限られる。前作を直前に観ることが何より重要である。

余裕があれば、ロスとヴァレンティーナの背景を押さえる『シビル・ウォー』『ブラック・ウィドウ』『ファルコン・アンド・ウィンター・ソルジャー』も補強として観ておきたい。CIAが絡む政治劇がぐっと立体的になる。リリ・ウィリアムズの単独シリーズ『アイアンハート』、そしてネイモアとミュータントの概念が今後どう展開するかを追うなら、フェーズ5以降の作品を続けて観るのが自然な流れだ。

視聴順ガイド

33よくある質問

「あらすじだけ知りたい」なら、T'チャラの死と国葬、その1年後の国連演説とタロカンからの宣戦、リリを巡るボストン奪取行とラモンダの死、シュリによる新たなブラックパンサーの継承、海上での最終決戦と和平、そしてハイチでのエピローグとミッドクレジット——この骨格を押さえれば十分だ。「結末・ネタバレを知りたい」なら、シュリがネイモアを討たずに選んだ道、トゥーサン=T'チャラの存在、そしてム・バクによる王権の主張までが核心となる。

「ネイモアは悪役か味方か」という問いに、本作は明確な決着をつけない。彼はワカンダと和平を結ぶが、いずれ地上をともに焼くために戻ってくると囁いており、続編での再登場が濃厚だ。「ポストクレジットはあるか」については、本作にあるのはミッドクレジット(中間のシーン)のみで、エンドクレジット後のシーン(ポストクレジット)は存在しない。これはボーズマンへの追悼を最後まで貫くという、マーベル・スタジオの判断によるものである。

「リリ・ウィリアムズはこの先どうなるのか」。その物語は、Disney+のシリーズ『アイアンハート』で彼女自身を主役に受け継がれていく。「シュリは続編でもブラックパンサーとして登場するのか」については、続編『ブラックパンサー3』の企画が2025年以降に存在することは公表されているものの、本記事執筆時点で詳細は未確定だ。

34参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、受賞歴、配信状況、外部からの評価は変動しうるため、鑑賞前に公式情報および各データベースの最新の表示を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies用の独自記事として構成した日本語の文章である。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式 Black Panther: Wakanda Forever
  2. Marvel Cinematic Universe Wiki: Black Panther: Wakanda Forever
  3. IMDb: Black Panther: Wakanda Forever (2022)
  4. Box Office Mojo: Black Panther: Wakanda Forever
  5. Rotten Tomatoes: Black Panther: Wakanda Forever