Anna Movies

マーベル

エターナルズ

セレスティアル「アリシェム」の命によって紀元前5000年から地球に派遣された不死の十人「エターナルズ」が、ディヴィアンツの再来をきっかけに、自らの存在意義と地球そのものの運命を巡って引き裂かれる——MCUに「宇宙神」というスケールと、ヒーロー映画らしからぬ群像詩のテンポを持ち込んだフェーズ4の野心作。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2021年11月5日 日本公開: 2021年11月5日 監督: クロエ・ジャオ
エターナルズ 公式ポスター

作品データ

作品
エターナルズ
原題
Eternals
媒体
映画(実写)
米国公開
2021年11月5日
日本公開
2021年11月5日
監督
クロエ・ジャオ
脚本
クロエ・ジャオ/パトリック・バーリー/ライアン・フィルポ/カズ・フィルポ
原作
マーベル・コミック『エターナルズ』(ジャック・カービー、1976)
製作
ケヴィン・ファイギ/ネイト・ムーア
音楽
ラミン・ジャヴァディ
撮影
ベン・デイヴィス
編集
ディラン・ティチェナー/クレイグ・ウッド
美術
イヴ・スチュワート
視覚効果
Industrial Light & Magic/Weta Digital/DNEG/Rise/Scanline VFX ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
156分
製作費
約2億ドル
興行収入
全世界 約4億0220万ドル
MCU区分
フェーズ4 第5作/マルチバース・サーガの起点
物語内時系列
『アベンジャーズ/エンドゲーム』のブリップ解除から約8か月後、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』直後
公式予告編は
劇場サイトで確認
予告編を観る 🏛マーベル 一覧 🏠トップ 📚参考資料
📖 全40章 / 約18K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

エターナルズは、2021年公開のマーベル・スタジオ製作によるアメリカのスーパーヒーロー映画である。セレスティアル「アリシェム」の命により紀元前5000年から地球に派遣された不死の十人が、怪物ディヴィアンツの再来をきっかけに、自らの存在意義と地球そのものの運命を巡って引き裂かれていく姿を描く。

MCUフェーズ4を構成する一作として、「宇宙神」というスケールの神話的世界観と、ヒーロー映画らしからぬ群像詩のテンポを持ち込んだ野心作と位置づけられる。

00概要

『エターナルズ』(Eternals)は、クロエ・ジャオが監督を務めたアメリカのスーパーヒーロー映画である。脚本はジャオ、パトリック・バーリー、ライアン・フィルポ、カズ・フィルポが共同で手がけた。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが担当している。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の通算26作目、フェーズ4の第5作にあたり、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』と『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のあいだに位置づけられる。劇場公開は米国・日本ともに2021年11月5日。

原作は、ジャック・カービーが1976年にマーベルへ復帰した直後に立ち上げた『The Eternals』である。古代の神々や創世神話の正体を、進化を司る宇宙神セレスティアルと、彼らが生んだ二系統の生物——不死の守護者エターナルズ、そして暴走した捕食者ディヴィアンツ——として読み替える、カービー晩年の宇宙神話的なシリーズだった。映画版はそのカービー的なスケールを保ちながら、グラフィックノベルらしい一人称のナレーションを排した。地表に降り立った神々が「自分は誰のために、誰を守るのか」を問う群像劇へと作り替えられている。

監督のクロエ・ジャオは、本作の直前に『ノマドランド』で第93回アカデミー作品賞・監督賞・主演女優賞を受賞したばかりの作家である。自然光と地平線、移動を伴うロケ撮影、即興に近い長回しの会話劇を持ち味とする。撮影監督ベン・デイヴィスとともに、英国フィン島やカナリア諸島、ロンドン市街、米国サウスダコタのバッドランズなど実景でのロケを多用し、グリーンスクリーン主体だった従来のMCUとは手触りの大きく異なる映像を生み出した。脚本にも共同執筆者として加わったジャオは、エターナルズ十人のあいだの恋愛、家族、信仰、そして離反を、神話の登場人物としてではなく「7000年を生きた人間関係」として描くことに最も力を注いでいる。

本記事は、結末に加え、ミッドクレジットとポストクレジットの計2本の追加場面を含む全編のネタバレを前提に書いている。紀元前5000年のドンモ号上陸から、創発の真相、イカリスの裏切りと太陽への突入、アリシェムの予告、サーサナ/スターフォックスとピップの登場、さらにデイン・ホイットマンとエボニー・ブレードの場面まで、すべての要素に踏み込んでいく。物語の驚きを保ちたい読者は、まず本編を観てから戻ってきてほしい。

概要

主要データ

原題
Eternals
監督
クロエ・ジャオ
脚本
クロエ・ジャオ/パトリック・バーリー/ライアン・フィルポ/カズ・フィルポ
原作
マーベル・コミック『The Eternals』(ジャック・カービー、1976)
音楽
ラミン・ジャヴァディ
撮影
ベン・デイヴィス
米国公開
2021年11月5日
上映時間
156分
ジャンル
スーパーヒーロー、神話SF、ドラマ、宇宙叙事詩

01あらすじ

以下は、結末と二本のクレジット・シーンを含む全編のあらすじである。物語の主役は、不死の十人——エターナルズだ。彼らは紀元前5000年、宇宙神アリシェムから「ディヴィアンツを倒し、人類の自然な発展を見守れ。ただし人類同士の戦いには介入するな」という命を受け、地球へと送り込まれた。やがて時は流れ、ブリップ解除直後の2024年。予期せぬ地殻変動と、すでに葬ったはずの宿敵の再来をきっかけに、彼らはふたたび集結する。だが再会した一同を待っていたのは、自分たちが本当は何のために創られた存在なのか、そして地球をどうするのか——という、答えの出ない問いだった。やがてその対立は、十人を引き裂いていく。冒頭に掲げられる「これは多くの神話の影で起きた、もう一つの歴史だ」という字幕どおり、本作は神話と現代の間を縫うように進んでいく。

あらすじ

プロローグ

映画は、宇宙船ドンモ号が古代メソポタミアの海岸へ舞い降りる黄金色の朝から幕を開ける。船から降り立つのは十人。一行を束ねる癒し手アジャク(サルマ・ハエック)、太陽の力で空を飛び、目から熱線を放つイカリス(リチャード・マッデン)、物質を自在に作り替えるセルシ(ジェンマ・チャン)、戦闘に長けたシーナ(アンジェリーナ・ジョリー)、超光速で駆けるマッカリ(ローレン・リドロフ)、念動力と幻覚を操るドルイグ(バリー・コーガン)、機械を生み出す天才キンゴ(クマール・ナンジアニ)、機械工学者のファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、人々に力を授ける美貌のスプライト(リア・マクヒュー)、そして怪力を誇るギルガメッシュ(マ・ドンソク)。彼らに課された使命は、人類を襲う獰猛な肉食生物ディヴィアンツの駆逐である。

石器時代の人類が、毛むくじゃらの捕食者の群れに浜辺で襲われている。そこへエターナルズが一斉に降り立ち、光と力、速さと知恵で群れを薙ぎ払う。生き延びた人々は地に膝をつき、空から舞い降りた神々に祈りを捧げる。だがアジャクは静かに首を振る——「我々を崇拝するな。あなたたちは自分の足で立つために、私たちが守る」。エターナルズがアリシェムから授かった任務は三つ。人類同士の戦争には決して介入しないこと、人類の自然な発展を見守ること、そしてディヴィアンツを地上から完全に排除することだ。

短いプロローグの終わりに、観客はこの十人がただの戦士集団ではないことを知らされる。彼らは家族として7000年を共に生きてきたのだ。スプライトは永遠に子供の姿のままであることに苦しみ、ファストスは人類に火と道具を教えたいと願う。やがてイカリスとセルシは恋に落ちていく。神話の登場人物として歴史の影に潜んできたこの家族が、その後の数千年で何を見て、何を許してきたのか——それが本編の現代パートへの伏線となる。

プロローグ

現代ロンドン

物語の舞台は2024年、ブリップによって消えた人々が戻ってから8か月後のロンドンである。エターナルズはアリシェムの命に従い、数百年前にそれぞれが姿を消した。以来、目立たぬ職業を選んで人類社会に紛れ、静かに暮らしてきた。セルシは大英自然史博物館で人類学者として教鞭を執り、人間の恋人デイン・ホイットマン(キット・ハリントン)と穏やかな日々を重ねている。一方のスプライトはセルシと同居し、永遠の少女の姿のまま時を生きていた。

深夜、ロンドンのテムズ南岸でデートを終えた帰り道、突然の地震が三人を襲う。直後、屋根の上から飛びかかってきたのは、巨大な角と剥き出しの牙を持つディヴィアンツだった。5500年前に最後の一体を倒し、絶滅したはずの種である。セルシは咄嗟にマター・マニピュレーションでバスをガラスへと変え、身を守る。だが致命的な一撃が迫ったその瞬間、空からイカリスが舞い降り、目から放った熱線でディヴィアンツを地中へと追い払った。100年ぶりに再会した元恋人を前に、セルシは静かに告げる。「彼らが戻ってきた。仲間を集めなければ」と。

ここでデイン・ホイットマンは、セルシが「人間ではない」という事実を初めて知らされる。ロンドンの観覧車の下、「君の本当の名前は?」「セルシ。本当に。それは変わらない」と交わされる短い会話は、本作の感情の起点として機能する。ジャオ監督は群像の再集結を急がない。まずは一人の人間の側からエターナルズを見つめる視線を、ていねいに置いていくのだ。

現代ロンドン

南ダコタ

セルシ、スプライト、イカリスは、リーダーであるアジャクを訪ねるため、まず米国南ダコタ州の人里離れた牧場へ向かう。だが牧場に着いたとき、アジャクはすでに事切れていた。胸には何者かにえぐられた大きな傷。傍らには木製の柵が崩れ落ちている。セルシがその身体に触れた瞬間、アジャクの遺した「球体」——プライム・エターナルの権能を象徴する金色の発光体——が浮かび上がり、セルシの胸へと吸い込まれていく。アジャクは、セルシを後継のプライム・エターナルに指名していたのだ。

球体を介し、アリシェムが直接セルシに語りかける。「お前たちの真の任務を告げる。地球はホスト・プラネット——一柱のセレスティアル『ティアマット』を孕む卵だ。エネルギーが十分量の知的生命によって蓄えられたとき、ティアマットは星を内側から砕いて誕生する。これを我々は『創発(エマージェンス)』と呼ぶ。お前たちはこのために創られた」。ブリップから戻った80億の人類が、最後のエネルギー閾値を満たしてしまった。創発まであと7日。そのとき地球は破裂する。

現場を捜索したセルシたちは、アジャクの致命傷がディヴィアンツの仕業に見せかけられているものの、その実はエターナルズの仲間の手によるものだと示唆する痕跡を見つける。誰かが裏切っている——犯人は観客に伏せられたまま、物語はその疑念を抱えて動き出す。やがて営まれたアジャクの密葬で、セルシは重い事実を背負わされる。自分たちは始めから人類を救うためではなく、創発のために地球を守るべく創られた——その真実を、十人の家族にどう告げるのか。

南ダコタ

ムンバイ

三人は、世界中に散らばったかつての家族を、ひとりずつ訪ねて回る。最初の目的地はムンバイ。キンゴはこの地で長年「ボリウッドの大スター」として生き続けてきた。年代ごとに祖父、父、そして自分自身を演じ分け、老いないという事実を巧みに隠してきたのだ。歌と踊りの撮影セットに突然現れたかつての仲間を前に、キンゴはばつが悪そうにダンスを切り上げる。そして運転手兼ドキュメンタリー作家のカルン(ハリーシュ・パテル)まで引き連れて、合流に応じるのだった。

ここは本作には珍しい明るいパートであり、ジャオが意識的に陽気さと家族の温かさを差し込んだ場面である。狂言回しとなるカルンを通して、エターナルズが7000年もの間いかに人類のなかでごく普通に暮らしてきたかが浮かび上がってくる。映画を撮り、家庭を築き、そして孤独を抱えながら——その積み重ねてきた歳月が、観客の前にそっと立ち上がるのだ。

ムンバイ

オーストラリア奥地

次に訪ねるのは、オーストラリアの僻地でひっそりと暮らすシーナとギルガメッシュだ。屈強で誇り高い戦士であるはずのシーナは、数百年前から『マハド・ヴィレ(記憶の病)』と呼ばれる症状に苦しんでいる。歴史とともに生きてきたエターナルズは、記憶を完全なまま蓄積し続ける。それゆえある時点で、過去にあらゆる場所で殺してきたディヴィアンツの姿、テノチティトランやヒロシマといった人類の災厄の光景が一斉に蘇り、もはや現実と区別がつかなくなる。シーナは時折、目の前の家族にすら剣を向けてしまう。

ギルガメッシュは、数千年前にシーナの暴走の責任を引き受け、自ら彼女のそばに身を隔離する道を選んだ家族の守護者である。世界を見守り続けることに疲れた二人は、地平線の彼方の小屋でひっそりとパンを焼き、家畜の世話をして暮らしている。ギルガメッシュの優しさは本作の家族描写の核心であり、シーナの「記憶の病」はのちの物語で大きく機能していく。

オーストラリア奥地

アマゾン奥地

三番目に訪ねるのは、アマゾンの密林の奥深くに自前の隠れ里を築いて暮らすドルイグだ。念動力で他者の意志を操れる能力を持ち、エターナルズのなかでも異質な存在である。紀元前1521年のテノチティトランで、人類が互いに無意味な殺し合いを繰り広げるさまを目の当たりにして以来、彼はアリシェムが下した『介入禁止』の命に強い疑問を抱き続けてきた。

いまのドルイグは、隠れ里に暮らす数百人の人間を念動力でやさしく支配し、『争わず、憎まず、互いを傷つけない』生き方を彼らに課している。それは平和の理想郷であると同時に、人間の自由意志の死でもある——その両義性をジャオは際立たせる。再会したセルシとイカリスに、ドルイグは「私は彼らを愛している。だから守った」と告げる。彼の介入と、エターナルズが7000年ものあいだ押し付けられてきた『不介入』の掟との矛盾こそ、本作の倫理的な核の一つとなっている。

アマゾン奥地

シカゴ

次に訪ねるのは、シカゴ郊外の白い家に暮らすファストス。人類の夫ベン(ハーズ・ガナ)と一人息子ジャックとの三人家族である。エターナルズのなかで唯一、人類と婚姻を結び、家庭を築いた存在だ。この再会の場面で、MCU初となる同性のキスシーンが、ことさら身構えることなく自然に映し出される。

ファストスは紀元前7000年から、火を、車輪を、機械や道具を人類に授けてきた創造の天才だった。だが自らが手渡した知識は、やがて第二次世界大戦の原爆へと辿り着く。1945年8月、彼はその帰結を広島で目の当たりにしてしまう。崩れ落ちる街の上に膝をつき、人類を信じられなくなった彼は、以後、何百年も人類社会から距離を置く道を選んだ。そんな彼を再び家族のもとへ引き戻すのは、息子ジャックの無垢な一言だった。「パパ、僕らが世界を救うんでしょ」。

シカゴ

ドンモ号

最後に訪ねるのは、はるか北極圏で、氷の下に眠るドンモ号をたった一人で守り続けてきたマッカリだ。MCU初の聴覚障害を持つスーパーヒーローとして造形され、他のキャラクターとのやり取りはすべて手話を主軸に演出される(演じるローレン・リドロフ自身も聴覚障害を持つ)。マッカリは船内で数千年にわたって「調査」を重ねるなかで、ある事実にたどり着いていた。アリシェムは過去にも「創発」を引き起こし、「次のセレスティアルを生むために」と、無数の星と先史文明を破壊してきたのである。

ドンモ号の中央コンソールに球体を差し込んだセルシは、過去のセレスティアルたちが誕生した記録を見せられる。エターナルズは生物ではない。惑星というホストのなかで育まれた知的生命のエネルギーを材料に、セレスティアルを誕生させるための装置だった。アリシェムは周期ごとに彼らの記憶を消去しながら、機械として彼らを作り続けてきたのである。アジャクはこの真実をただ一人で抱えていた。そしてブリップ後、知的生命の量が急増し、創発が間近に迫ったいま、初めて「地球を守るために任務に背く」方向へと動きはじめていた。誰かがその転向を察知し、彼女を殺した——容疑は、ますますエターナルズの内部へと向かっていく。

ドンモ号

イカリスの裏切り

創発を阻止しようとするセルシたちと、アリシェムの計画を完遂すべきだと主張するイカリスのあいだに、決定的な亀裂が走る。アジャクを殺したのは、ほかならぬイカリス本人だった。数百年前、彼はアジャクから創発の真相を打ち明けられる。以来、彼女を「自分の信仰を試す存在」として受け入れてきた。だが、いざ計画を阻止する側へ転じようとした彼女を、密かに南ダコタの牧場でディヴィアンツの群れへ突き落とし、殺害していたのである。

「私はアリシェムを信じてきた。何兆という命を救うために、80億を犠牲にすることは正しい。私たちはそのために創られたんだ」。セルシに向けて、イカリスはそう告白する。光の使者として地表に降り立ったヒーローさながらの男が、その実、7000年ものあいだ信仰に身を捧げてきた「神の僕」であり、愛した恋人を裏切る道を選ぶ——。この反転は、ヒーロー映画の主役然としたイカリス(リチャード・マッデン)を意図的に配置することで仕掛けられた構造だ。スプライトもまた、永遠の子供のまま、セルシではなくイカリスへの愛に殉じる道を選び、イカリスの側に立つ。

戦線は二つに割れる。創発を止める側にセルシ、シーナ、ギルガメッシュ、マッカリ、ファストス、ドルイグ、キンゴ。計画を遂行する側にイカリスとスプライト。キンゴは戦闘を避けてムンバイへ帰る道を選び、家族の崩壊が一気に進んでいく。

イカリスの裏切り

ギルガメッシュの死とディヴィアンツの進化

オーストラリアの隠れ家を、独自の進化を遂げたディヴィアンツの長クロが襲う。クロは仲間のエターナルズを倒すたびにその力を吸収し、もはやかつての肉食獣ではない。シーナの剣技から言葉までも解する知性体へと変貌を遂げていた。激戦のさなか、ギルガメッシュはシーナを庇い、クロに胸を貫かれて命を落とす。

ギルガメッシュの死が、それまで「記憶の病」に揺れていたシーナを覚醒させる。「私の家族の記憶は、もう私のものだ」。そう告げると、彼女は剣を取り、ふたたび戦士として立ち上がる。本作屈指の悲劇が、ヒーロー映画らしからぬ静かな台詞のやり取りで描かれる。そこにジャオ監督の演出が色濃くにじむ。

ギルガメッシュの死とディヴィアンツの進化

創発とユニ・マインド、ティアマットの覚醒

イラクの砂漠でクロを追い詰めたエターナルズは、ファストスが作り出した拘束装置でクロを牢につなぎ、ドルイグの能力でそのエネルギーを吸い上げる準備を進める。だがクロは脱獄し、マッカリと最後の一騎打ちを繰り広げた末、シーナの剣に貫かれて消滅する。それでもなお問題は残る。地球の地殻を内側から押し上げ始めたティアマットそのものだ。

セルシは仲間七人と手を繋ぎ、ドルイグの念動力で全員のエネルギーを束ねる『ユニ・マインド』を形成する。これによってセルシのマター・マニピュレーション(物質を操る力)は惑星規模にまで増幅され、創発しかけたティアマットの巨大な腕と顔を、生まれ出る瞬間に次々と石へ変えていく。一方、創発を成し遂げようとするイカリスとスプライトはエターナルズに襲いかかり、戦いは地球の裂け目の上で激しく交錯する。

決定的だったのは、ドルイグが念動力でイカリスを押さえつけようとしながら、その意志の強さに弾き返される瞬間、そして最後にセルシから「殺したければ殺せ」と告げられたイカリスが、目から熱線を放てぬまま膝をつくくだりだ。彼はセルシを殺せなかった。アリシェムへの信仰よりも、7000年彼女を愛し続けてきたという事実のほうが、彼の内側では強かったのだ。

創発とユニ・マインド、ティアマットの覚醒

イカリスの太陽

創発を食い止めた直後、空を見上げたエターナルズの目に映ったのは、ひとことも発さぬまま光の速さで遠ざかり、太陽の中心へと突き進んでいくイカリスの姿だった。アリシェムを裏切り、家族を裏切り、それでも恋人を手にかけることはできなかった男が選んだ最後の責任の取り方は、自らを太陽の核へ投じて蒸発することだった。本作でもっとも静かで、もっとも哀しい幕切れである。

地上からイカリスを見送るスプライトに、セルシは『あなたを子供のままでいたくなくしてあげる』と語りかける。そして自らの能力を使い、永遠の少女として閉じ込められてきたスプライトの身体を、ひとりの人間の少女として生き直せるよう作り替える。イカリスへの叶わぬ想いと引き換えに、スプライトは不死の家族を離れ、短くとも自分だけの人生を生きる自由を手にして、物語から去っていく。

イラクの砂漠で目を覚ましたティアマット——その巨大な石化した顔は、海面から突き出したまま残される。人類は救われた。だが地球の海岸線は、永遠に姿を変えてしまった。そんなジャック・カービー的なスケールを湛えた一枚の絵で、本編の物語は閉じる。

イカリスの太陽

後日譚

ドルイグ、ファストス、シーナの三人は、人類のなかにひそかに築いた家族のもとへ向かう。ファストスには夫と息子が、シーナには新たな役目が、ドルイグには隠れ里がある。それぞれの旅立ちを目指し、ドンモ号は銀河を抜けていく。だが船内で、セルシ、キンゴ、ファストスが突然動きを止めた。空が裂け、アリシェムが本人として地球の上空に降り立つ。巨大な腕が三人を握りしめ、そのまま宇宙の彼方へと連れ去ってしまう。

「お前たちが我々の任務に背いたかどうか、人類の記憶を直接見て確かめる」——アリシェムの声が告げる。創発を阻止した判断は正しかったのか。地球を救う代わりに、本来生まれるはずだったセレスティアルを葬ったエターナルズに、罰を下すべきなのか。その審判は明確に保留されたまま、本編は突然黒い画面で幕を閉じる。地上に残されたデイン・ホイットマンが、無線で何度もセルシの名を呼びかける。その声のなかで、画面は暗転する。

結末は、明快なカタルシスを意図的に手放している。家族は引き裂かれた。二人を失い、一人は太陽へ消え、一人は人類の少女となり、残る三人は宇宙神の手に握られて連れ去られた。地上に残された人類は、自分たちの星が宇宙神の卵だったという事実すら知らない。海岸線の上に巨大な石化した顔を頂きながら、なお日常を続けていく。すべてが宙づりのまま、物語は次作以降へとバトンを渡すのだ。

後日譚

ミッドクレジット

クレジットの途中、ドンモ号の船内に、ローブをまとった長身の男がもう一人、突如テレポートで姿を現す。「困っているようだね、エターナルズの諸君」と陽気に告げるのは、エロス/スターフォックス(ハリー・スタイルズ)。サノスの実の弟であり、自身もエターナルだという。衝撃の自己紹介を、彼は満面の笑みとともに切り出してみせる。

傍らで案内役を務める小柄なトロールが、ピップ・ザ・トロール(パットン・オズワルト)だ。スターフォックスは「君たちの家族を取り戻す手立てを、我々は知っている」と告げ、アリシェムに囚われたシーナ、ドルイグ、ファストスを救い出す次なる旅への伏線を張る。MCU最大の悪役サノスの家系図に「エターナル種族」を新たに組み込むこの場面は、ジャック・カービーの宇宙神話とジム・スターリンのサノス神話が交錯する瞬間でもある。

ミッドクレジット

ポストクレジット

ポストクレジットの舞台は、ロンドンのアパートメント。セルシの恋人として地上に残されたデイン・ホイットマンが、亡き伯父の遺品である細長い黒箱を前に座っている。蓋を開けると現れるのは、原作コミックでデイン・ホイットマン/ブラック・ナイトの象徴とされる呪われた剣『エボニー・ブレード』だ。デインの手が刃に触れようとした刹那、画面の外から低く重い男の声が問いかける——「本当に準備はできているのか?」

声の主は劇中で明かされない。だが原作およびマーベルの公式発表により、これがマハーシュ・パテル演じるブレイド——MCUに導入されるヴァンパイア・ハンター——の声として演出されたものだと、のちに公表された。デイン・ホイットマンがブラック・ナイトへと変貌していく未来、そしてMCUにおけるブレイド作品への接続が、ここで初めて暗示される。

二つのクレジット場面は、家族を失った本編の悲しみのただなかへ、新キャラクターと新作の伏線を一気に注ぎ込む。そうすることで本作『エターナルズ』を、MCUのマルチバース・サーガを支える神話的な土台として位置づけているのだ。

ポストクレジット
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、制作背景、公開と興行、特別篇の差分、舞台裏など、作品を資料として理解するための章が続く。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して整理しよう。十人のエターナルズに加え、宇宙神セレスティアル、ディヴィアンツ、そしてポストクレジットで姿を見せる新キャラクターまで、ジャック・カービーが生み出した世界観をMCUへと接続する道具立てが惜しみなく投入されている。

  • セルシ
  • イカリス
  • アジャク
  • シーナ
  • ギルガメッシュ
  • マッカリ
  • ドルイグ
  • キンゴ
  • ファストス
  • スプライト
  • デイン・ホイットマン
  • カルン
  • ベン・ストス
  • ジャック・ストス

  • イカリス(裏切り)
  • クロ(ディヴィアンツの長)
  • ディヴィアンツの群れ
  • アリシェム(裁定者としての顔)

  • ピップ・ザ・トロール
  • エロス/スターフォックス
  • 声のみのブレイド(示唆)
  • ボリウッド撮影クルー
  • 南ダコタの牧場の住人
  • ドルイグの隠れ里の人々

  • エターナルズ(十人の家族)
  • セレスティアル(宇宙神の階級)
  • ディヴィアンツ(捕食種)
  • S.H.I.E.L.D.(言及)
  • アベンジャーズ(言及・人類側の英雄として)

  • 紀元前5000年メソポタミアの浜辺
  • 古代バビロン
  • テノチティトラン
  • 1945年広島
  • 現代ロンドン
  • 南ダコタの牧場
  • ムンバイの撮影スタジオ
  • オーストラリア奥地
  • アマゾンの隠れ里
  • シカゴ郊外
  • 北極圏のドンモ号
  • イラクの砂漠(ティアマット顕現地)

  • プライム・エターナルの球体
  • ドンモ号(エターナルズの母船)
  • ユニ・マインド
  • エボニー・ブレード
  • イカリスの目の熱線
  • セルシのマター・マニピュレーション
  • ファストスの機械工房
  • ドルイグの念動力
  • シーナの能力で生成される無数の武器

  • 創発(エマージェンス)
  • マハド・ヴィレ(記憶の病)
  • ホスト・プラネット
  • セレスティアルの誕生サイクル
  • 介入禁止の戒律
  • ブリップの余波
  • 不死性
  • エターナルとディヴィアンツの起源

  • ピップ・ザ・トロール
  • エロス/スターフォックス
  • サノスの兄弟という血縁
  • デイン・ホイットマンの『ブラック・ナイト』化
  • エボニー・ブレード
  • ブレイドの声

18主要登場人物

十人の不死の家族を、一本の映画のなかで等しく見せるという困難な作業を、ジャオは『家族写真の一枚目から登場順を意図的に揃える』形で組み立てている。以下、群像のなかでも特に物語の重心を担う数人を中心に解説する。

セルシ

物質を操る力——無機物の分子構造を別の物質へと作り替える能力を持つ、本作の主役だ。戦闘力では仲間に大きく劣るが、その代わりに優しさと共感力にあふれ、人類を誰よりも愛した一人として描かれる。ジャック・カービーの原作では戦士寄りの存在だったが、ジャオ監督はあえて『戦わないリーダー』としてのセルシを前面に押し出した。

アジャクから後継のプライム・エターナルに指名されてからのセルシは、家族の総意をまとめる役と、最後に創発を止める決断を下す役の、その双方を引き受けることになる。終盤、『ユニ・マインド』の中心となって惑星規模で物質を変質させる場面は、彼女の能力と人格がついに物語の壮大さに追いついた瞬間として演出されている。

セルシ

イカリス

太陽からエネルギーを受けて空を飛び、目から熱線を放つ——明らかにスーパーマンを意識した造形のキャラクターだ。表紙やポスターでも、ヒーロー然とした面々の中心に据えられている。観客は彼を『本作の主役であり、恋愛の相手であり、正義の側に立つ人物』と信じて疑わない。物語はそこから幕を開ける。

ところがその彼が、実は7000年ものあいだアリシェムへの信仰に支えられて生きてきた『神の僕』であり、創発を止めようとしたアジャクを手にかけ、最終的には恋人セルシを救うために『神を裏切れない自分』のほうを葬る——。この反転こそ、本作最大のドラマ的仕掛けである。リチャード・マッデンは、明るく穏やかな表情の裏で常に何かを諦めている男の重さを、終始一定のトーンで演じ抜いた。

イカリス

シーナとギルガメッシュ

シーナは7000年ものあいだ戦場に立ち続けた戦士であり、あらゆる武器をエネルギーから生み出す力を持つ。だが戦いの記憶が積み重なるにつれ、それが『マハド・ヴィレ』として彼女の心を蝕み、ときに家族すら傷つけてしまう。アンジェリーナ・ジョリーは、寡黙な戦士の佇まいと、記憶の闇に揺れる脆さとを同時に体現してみせる。

ギルガメッシュは家族のなかでもっとも穏やかに力を操る者であり、長い年月をシーナのそばで過ごすため、自ら世間から身を引くことを選んだ守り手である。マ・ドンソク(ドン・リー)は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で培った迫力ある格闘演出を見せる一方、料理を焼き、シーナにそっと寄り添う優しさをも担い、本作の家族描写の心臓部となった。その死がシーナを覚醒へと導く構図は、本作でもっとも古典的なドラマツルギーといえる。

シーナとギルガメッシュ

ドルイグ、マッカリ、ファストス

ドルイグは念動力で他者の意志を操る存在で、「介入の誘惑」を体現する人物だ。7000年にわたり人類同士の殺し合いを目撃しながら、戒律に縛られてきた。その葛藤を一身に背負う。バリー・コーガンの低く抑えた声が、彼の倦怠と誠実さを同時に伝えている。

マッカリはMCU初の聴覚障害を持つヒーローで、演じるローレン・リドロフ自身、手話を母語とする俳優である。彼女と他の登場人物のやり取りは手話と字幕で描かれ、ハリウッドの大作で聴覚障害者の表現を物語の中心に据えた先進的な演出として高く評価された。

ファストスはMCU初の、公式に同性のパートナーと家庭を築くヒーローだ。ブライアン・タイリー・ヘンリーが穏やかな父親像を演じる。1945年、崩壊した広島の街の上に膝をつく回想と、シカゴ郊外の白い家でジャックと暮らす現代の場面。その落差こそが、本作の倫理的な中心を成している。

ドルイグ、マッカリ、ファストス

キンゴ、スプライト、アジャク

キンゴはエネルギーから光弾を生み出す陽性の戦士で、ボリウッドの大スターとして人類社会に紛れ込んで暮らしてきた。クマール・ナンジアニ独特のコメディの間が、群像劇に欠かせない明るさと、終盤の戦いから身を引いて『家族は撃てない』という選択を貫く重さの、その両方を引き受けている。

スプライトは永遠に十二歳の少女の姿に閉じ込められた幻覚使いである。神話に登場する妖精も小人も天使も、すべては彼女が人類に語り聞かせた物語の名残りなのだという。この設定が、本作の『神話と歴史の隙間』というテーマを象徴する。終盤、イカリスへの叶わぬ愛と『普通の少女として生きる権利』を同時に手にする彼女の物語は、作品全体に流れる優しさの結晶点となっている。

アジャクはエターナルズのリーダーであり治癒者でもある。7000年もの間、家族と人類のあいだを取り持ってきた母性的な存在だ。サルマ・ハエックの登場時間は短い。それでも、彼女が体現する『迷い、転向し、家族の手にかかる母』という像は、本作の悲劇全体の方向を定めている。

キンゴ、スプライト、アジャク

舞台と用語

本作の舞台は、紀元前5000年から2024年に至る七千年の地球史と、宇宙神セレスティアルが住まう宇宙そのものをまたいでいく。古代メソポタミアの浜辺、バビロンの黄金都市、メキシコのテノチティトラン、1945年の広島、現代のロンドン、ムンバイ、シカゴ、南ダコタ、オーストラリア奥地、アマゾン、そして北極圏に眠るドンモ号。二時間半のあいだに、地理は目まぐるしく動く。ジャオは可能な限り実景でロケを敢行し、自然光のもとで対話する人物を捉えた。その手法が、神話的なスケールに『地に足のついた手触り』を与えている。

用語面で押さえておきたいのは、宇宙神セレスティアル、彼らが生み出した二系統の生物(エターナルとディヴィアンツ)、創発(エマージェンス)、ホスト・プラネット、ユニ・マインド、マハド・ヴィレ、そしてプライム・エターナルの球体だ。いずれもMCUのマルチバース・サーガにおける『神々の階層』を再定義するための道具立てであり、後の『マーベルズ』『マイティ・ソー ラブ&サンダー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol. 3』へと参照されていくことになる。

25制作

原作はジャック・カービー。それを『ノマドランド』のクロエ・ジャオに託すという、当時としては大胆な人選から本作の制作は動き出した。以下、企画から特撮にいたるまでの主な経緯を整理しておきたい。

制作

企画と監督起用

ケヴィン・ファイギ率いるマーベル・スタジオが、フェーズ4以降の『マルチバース・サーガ』を支える柱として長らく温めてきたのが、ジャック・カービーが1976年に立ち上げたコミック『The Eternals』の映画化である。プロジェクトが公式に発表されたのは、2018年4月の『インフィニティ・ウォー』公開直後のこと。そして同年9月にクロエ・ジャオが監督候補として浮上し、2019年3月、正式な起用が決まった。

ジャオは『ザ・ライダー』から『ノマドランド』に至るまで、自然光と長回し、即興演技、そして地平線で空と大地を二分する構図にこだわり抜いてきた作家である。そんな彼女に、マーベルが十人のスーパーヒーローと宇宙神という派手な題材を託した理由は明快だ。これまでMCUに欠けていた『神話的・宇宙論的・私小説的』なテクスチャを、一気に手に入れるためだった。オファーを受けた時点で、ジャオは『ターミナル』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『2001年宇宙の旅』を引用する独自のトリートメントを提出している。その先見性こそがスタジオを動かしたのだと、ファイギは後年、複数のインタビューで明かしている。

脚本

脚本は、まずマシュー・K・フィルポとライアン・フィルポの兄弟が初稿を書き上げ、その後パトリック・バーリー、さらに監督のジャオ自身が大幅に手を加えていった。原作コミックが描く広大な宇宙絵巻を、ジャオはあえて『家族の崩壊』という小さな器に詰め直す。そうして十人それぞれを、恋人、親友、親代わり、我が子、そして家族を裏切る者として位置づけ直していった。

イカリスを最大の敵とするアイデアが固まったのは脚本の後半に入ってからで、当初悪役だったクロは『進化するディヴィアンツ』としてサブの座に退いた。ファストスを同性のパートナーと家庭を築く既婚者に、マッカリを聴覚障害者として描き直す決定も、この段階で下されている。スタジオでの試写を経て、『十人もいながら誰一人として印象に残さない』ことは許されないという課題が浮かび上がり、序盤の現代パートで一人ずつ訪ね歩く構成へと固まっていった。

キャスティング

セルシを演じるジェンマ・チャンは、『キャプテン・マーベル』のミン・エルヴァ役を経て、ジャオ監督の強い推薦で主役に抜擢された。イカリス役のリチャード・マッデンは、『ボディガード』や『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スターク役で築いたイメージをあえて反転させる狙いで起用されている。シーナ役にはアンジェリーナ・ジョリー、ギルガメッシュ役には韓国の『新感染 ファイナル・エクスプレス』『犯罪都市』で世界的に知られるマ・ドンソク(ドン・リー)が、いずれもジャオ監督の直接の希望でキャスティングされた。

ファストス役のブライアン・タイリー・ヘンリーは『アトランタ』、ドルイグ役のバリー・コーガンは『聖なる鹿殺し』『ザ・バンシーズ・オブ・イニシェリン』で知られる演技派だ。キンゴ役のクマール・ナンジアニは『ビッグ・シック』で頭角を現したコメディ俳優出身。マッカリ役のローレン・リドロフは、『ザ・ウォーキング・デッド』のコニー役で評価された聴覚障害を持つ俳優本人で、その起用によってMCUに初めて恒久的な聴覚障害のヒーローが導入された。アジャク役のサルマ・ハエック、スプライト役のリア・マクヒュー、デイン・ホイットマン役のキット・ハリントンも、「ヒーロー映画らしくない顔」を選ぶというジャオ監督の哲学のもとに集められている。

ミッドクレジットに登場するエロス/スターフォックスには、当時バンド『ワン・ダイレクション』出身の歌手として爆発的な人気を誇っていたハリー・スタイルズが起用された。ポストクレジットでデイン・ホイットマンに語りかける声には、マハーシュ・パテル演じるブレイドの声が当てられている(声のみの出演)。

撮影とロケ地

撮影は2019年7月から2020年2月にかけて行われた。ジャオは可能なかぎり実景での撮影にこだわり、英国・パインウッド・スタジオを拠点としつつ、ロンドン市街、英国オークニー諸島の海岸、カナリア諸島フエルテベントゥラの火山地形、米国南ダコタ州のバッドランズへとロケ地を求めて世界各地を巡った。いずれも地球の歴史を象徴する「古い大地」である。

撮影監督のベン・デイヴィスは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『シビル・ウォー』『ドクター・ストレンジ』に続く4度目のMCU参加となった。アナモルフィック・レンズを用いて自然光のマジックアワーを多用し、宇宙神スケールの場面でもグリーンスクリーンへの依存を最小限に抑えている。新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、本作の公開は2020年11月から2021年11月へとほぼ1年延期された。結果として、長引いたポストプロダクション期間はジャオの編集の自由度をかえって高めることになった。

視覚効果と美術

視覚効果は、インダストリアル・ライト&マジック、ウェタ・デジタル、DNEG、ライズ、スキャンライン・VFXを中心とする複数社の共同体制で築き上げられた。アリシェムをはじめとするセレスティアルの巨体は、人類のスケールとの対比をくっきりと際立たせるため、現実の建築物——古代ギリシャやエジプトの神殿、英国の岩塔——の質感を素材としてスキャンし、それを巨大なヒューマノイドの『装甲』として再構成する手法がとられた。

ディヴィアンツのクロは、デジタル彫塑による精緻なディテール表現に加え、シーナの剣とぶつかり合う瞬間の動きまでもが、現実のオブジェクトと撮影現場の照明環境に寸分たがわず一致するよう、撮影と並行してCG設計が進められた。創発のシークエンスでは、地表が割れ、宇宙神の腕と顔が立ち上がるカットについて、ジャオの意向によってカット数を抑えつつ持続時間を長くとり、観客がそのスケールを『地球規模で実感する』テンポへと調整している。

美術監督のイヴ・スチュワートは、ドンモ号の内装、エターナルズのスーツ、古代バビロンの宮殿、そして現代の博物館展示にいたるまで、一貫してエターナルズが過去から運んできた『金属でも布でもない、有機的に流れる素材』をデザインの基調に据えた。スーツは従来のスーパーヒーロー・コスチュームとは一線を画し、機能と紋様の中間とも呼べる独自のシルエットへと仕上げられている。

視覚効果と美術

音楽と音響

音楽を手がけたのはラミン・ジャヴァディ。『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウエストワールド』で知られる作曲家だ。ジャヴァディは本作のために、十人のエターナルズひとりひとりへ繊細なライトモティーフ(人物を象徴する旋律)を用意した。それらが家族のアンサンブルとして重なり合う瞬間の和声は、コーラスと弦の織りによって組み上げられている。オーケストラ録音はロンドンのアビーロード・スタジオで行われた。

音響デザインも凝っている。創発時に響く地殻のうなり、宇宙船ドンモ号の柔らかな“生体音”、ティアマット覚醒時の超低音、そしてエターナルズの力がほとばしる“水のような音”。これらが各キャラクターの能力と結びつくよう、緻密に作り込まれた。監督のジャオが嫌う“派手な打撃音の連打”はあえて抑えられ、戦闘場面でも風と砂と布の音を主軸に据えたサウンドミックスが組まれている。

編集と公開準備

編集はディラン・ティチェナーとクレイグ・ウッドが手がけた。156分という長尺は、ジャオが粘り強く守り抜いた時間設計である。十人の家族それぞれに、最低でも一場面は感情の山場を持たせたい——そのためにはどうしてもこの尺が必要だったと、彼女は後年のインタビューで語っている。新型コロナウイルスによる延期期間中には、追加撮影と編集の微調整が幾度も重ねられた。ポストクレジットの『スターフォックス&ピップ』『デイン・ホイットマン&エボニー・ブレード』の2本は、製作の最終段階で加えられたものだという。

イカリスこそがアジャクを殺した張本人である——この真相は撮影現場でも一部のキャストにしか明かされず、リチャード・マッデンは演技プランの大半をジャオから直接受け取って組み立てた。マーケティングでは、イカリスを本作の『ヒーロー側の顔』として前面に押し出す戦略がとられ、それが終盤の反転の衝撃を最大化したのである。

33公開と興行

本作は新型コロナウイルス感染症の世界的流行により公開が大幅に延期され、米国では2021年11月5日、日本でも同日11月5日に劇場公開された。コロナ禍からの興行回復が完全には進んでいない時期にあたり、世界興行収入は約4億0220万ドル、北米興収は約1億6450万ドルにとどまった。『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー』に続く2021年のMCU第3作だったが、公開時のMCU作品としては平均を下回る数字となった。

Disney+でのスタジオ独占配信は、劇場公開から70日後の2022年1月12日に始まった。米国の数か国、すなわちサウジアラビア、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンでは、ファストスと夫の同性キス場面の編集を巡って公開が中止または延期された。米国内のCinemaScoreは『B』、ロッテン・トマトの批評家評は47%(当時はMCU史上最低と報じられた)、観客スコアは77%と、批評と一般観客の評価が大きく分かれる結果となった。

受賞面では、第94回アカデミー賞の撮影賞・視覚効果賞の予備候補リストに名を連ねたものの、最終ノミネートには至らなかった。一方でアメリカ映画撮影監督協会(ASC)撮影賞へのノミネートなど、技術部門では一定の評価を獲得した。

34批評・評価・文化的影響

本作はMCU作品のなかでも、最も評価が真っ二つに割れた一本である。批評家からは、156分という上映時間のなかで十人もの主要キャラクターを同時に動かす構造の重さ、ヒーロー映画に期待される「短く力強い起伏」の欠如、そして説明的な台詞の多さが指摘された。その一方で、自然光、地平線、対話の長回し、感情を語らずに残す余白といったクロエ・ジャオならではの演出の文体がMCUに持ち込まれたこと自体は、映画史的な意義として批評家・観客の双方から広く認められた。

代表性という点でも、本作は複数の「初」をひとつの作品で一気に塗り替えた。MCU初の本格的な聴覚障害を持つヒーロー(マッカリ)、MCU初の公式な同性パートナーと家庭を持つヒーロー(ファストス)、MCU初の南アジア系俳優を中心に据えた場面(キンゴのムンバイ・パート)、そしてMCU初の、脇役ではなく主役を担う韓国系俳優のヒーロー(ギルガメッシュ)。こうした代表性は、のちの『シャン・チー』『マーベルズ』『ブラック・パンサー/ワカンダ・フォーエバー』へと連なるフェーズ4以降の多様性方針にとって、重要な布石となった。

物語の面では、地球の歴史の裏側に宇宙神の卵という巨大な設定を打ち込んだことで、MCUにスケールの新たな階層が加わった。石化したティアマットの顔は『マーベルズ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol. 3』『マーベル・ゾンビーズ』などで間接的に引かれ、スターフォックスとピップの立ち位置は、サノスの家系をめぐる今後のシリーズ展開を見据えた伏線として、いまも残されたままだ。

舞台裏とトリビア

ジャック・カービーが1976年に立ち上げた原作コミック『The Eternals』には、エターナルズをアスガード神話やオリンポス神話の正体として位置づける記述がもともとあった。映画版がトール(アスガード神族)と直接つながらない理由は、コミックの側でも長年議論を呼んできた。MCUは本作で、キンゴに「我々はアベンジャーズではない。サノス戦に介入しなかったのは、アリシェムの戒律のためだ」と語らせることで、シリーズ全体の整合性をぎりぎりのところで保っている。

マ・ドンソク(ドン・リー)の起用は、ジャオ自身の強い希望から実現した。『新感染 ファイナル・エクスプレス』を深く愛するジャオは、ハリウッド大作の中心ヒーローの一人に東アジアの大柄な俳優を据えるという象徴的な決断を、自らがクレジット筆頭に立つ作品でやってのけた。優しさにあふれるマのギルガメッシュは、本作のなかでも観客から特に愛される人物像となった。

ファストスがシカゴ郊外の白い家で、同性パートナーのベンとキスを交わす場面。これはMCUの劇場映画で公式に描かれた最初の同性キスである。撮影監督のベン・デイヴィスは、このシーンを含むファストスの家族描写を、意図的に温かい自然光のなかでとらえた。本作のほかの場面以上に、『ホームムービー』のニュアンスを色濃くとどめている。

イカリスが太陽へと突入する結末は、原作コミックでイカロス(ギリシャ神話)の名を持つキャラクターに込められた含意を、映画版が初めて文字どおりに回収したものだ。ジャオはこの場面で、彼の名前こそが予言だったのだと、意図して描き出している。

36テーマと解釈

中心テーマは『家族と信仰』である。エターナルズは血の繋がらない十人の不死者だが、7000年を共に生きてきた、紛れもない家族として描かれる。その家族は、アリシェムという『絶対の父』への信仰を分かち合ってきた。だが創発の真実を知った瞬間、三つの派に裂ける——信仰のために家族を犠牲にする者(イカリス)、家族のために信仰を裏切る者(セルシ、ドルイグ、ファストス、マッカリ、シーナ)、そのあいだに立ち尽くす者(キンゴ、スプライト)である。神を信じることと、隣人を愛することのあいだの矛盾。この普遍的な宗教的主題が、ヒーロー映画の衣装をまとって正面から取り上げられた。

もう一つの軸は『不介入の倫理』である。アリシェムの戒律により、エターナルズは7000年のあいだ人類同士の戦争に介入してこなかった。テノチティトラン征服も、広島の原爆も、彼らは目撃しながら手を出していない。本作はこの不介入の倫理を、二つの極から問い直す。ドルイグの『私は彼らを愛している、だから操った』と、ファストスの『私の与えた道具が原爆になった』——この対極の言葉を通して、神々の不在と神々の沈黙という主題系をMCUに持ち込んだ。

そして『創発』とは、文字どおり星の内側から新しい神が生まれる出来事であり、それを止めることは、宇宙の生命のサイクルの一部を断ち切ることでもある。セルシたちの選択は、未来の生命の可能性を奪ってでも目の前の80億の人類を守るという、功利主義的にきわめて重い判断だ。アリシェムの審判が物語の最後まで保留されることで、判断は観客自身に委ねられる。ジャオが意図的に明快なカタルシスを排したのは、ここに理由がある。『神話とは答えではなく問いの蓄積である』——彼女の映画哲学そのものが、この結末を貫いている。

テーマと解釈

37見る順番

初見なら、MCUのスケール感に慣れてから本作に臨むのが望ましい。最低限『アベンジャーズ/エンドゲーム』までを追い、ブリップ(指のひと振りで消えた人々が5年後に戻る現象)の意味を理解したうえで観れば、80億人がブリップから帰還した直後という設定の重みが正しく伝わる。サノスの家系という設定が登場するため、サノスを描いた『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』を経て本作のミッドクレジットに臨むと効果的だ。

本作のあとに観るなら、ポストクレジットの『スターフォックスとピップ』が直接『マイティ・ソー ラブ&サンダー』のサノスの娘の描写へ繋がるわけではないが、サノス家系というMCUの大きな伏線を踏まえつつ、フェーズ4後半の『シャン・チー』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』へ進むのが分かりやすい。

再見の際は、序盤の紀元前5000年、メソポタミア上陸の場面と、終盤のイカリスが太陽へ突入する場面のあいだに張られた「私は信じる」「私は信じてきた」という反復の台詞に注意したい。そこに目を凝らすと、ジャオ監督が本作で語ろうとした宗教的な主題がより鮮明に浮かび上がる。

見る順番

38よくある質問

「あらすじだけ知りたい」なら、紀元前5000年に地球へ送り込まれた不死の十人が、現代のディヴィアンツ再来をきっかけに、地球がセレスティアル誕生のための卵だったという真実を突きつけられ、家族が二派に割れて創発を止めようとする——この流れさえ押さえれば十分だ。「結末・ネタバレを知りたい」なら、核となるのは次の点である。アジャクを殺したのはイカリスだったこと、ユニ・マインドによって創発を阻止したこと、イカリスが太陽へ突入して自ら命を絶ったこと、アリシェムがセルシ・キンゴ・ファストスを審判のために連れ去ったこと、スターフォックスとピップが姿を現すこと、そしてデイン・ホイットマンがエボニー・ブレードに触れること。

「評価を知りたい」なら、批評家評価と観客評価が大きく割れた作品だという点を理解の鍵にしたい。十人の群像を一本に詰め込んだ挑戦への評価は時とともに変わりつつあり、ジャオの作家性とMCUのフォーマットがぶつかり合うこと自体が、本作の魅力でもある。「見る順番」については、本作だけを先に観るのは避け、『エンドゲーム』までを通してから観るのが安定する。

「ポストクレジットの男の声は誰なのか」については、原作・公式発表をふまえると、マハーシュ・パテル演じるブレイドの声とされている。続編『エターナルズ2』はスタジオから正式に発表されていないが、サーサナ、スターフォックスとピップ、そしてデイン・ホイットマンのブラック・ナイト化は、いずれも今後のMCUの別作品で回収されていくことが示唆されている。

39参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、制作・配信の状況、外部からの評価は変動しうるため、視聴の前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認してほしい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式 作品ページ
  2. IMDb: Eternals (2021)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki(英語版)
  4. Rotten Tomatoes: Eternals
  5. Box Office Mojo: Eternals