エヴァンゲリオン百科事典

漫画

トニーたけざきのエヴァンゲリオン

『トニーたけざきのエヴァンゲリオン』は、トニーたけざきが『新世紀エヴァンゲリオン』の人物、メカ、画面構成を題材に描いた公式出版のパロディ漫画です。カラーとGAINAXを原作として『ヤングエース』2010年11月号から新連載され、角川コミックス・エースの単行本が2011年9月30日に発売されました。映像本編の筋を短く再演する漫画ではありません。次回予告、司令室の表示、使徒戦の構図、人物間の張り詰めた距離を精密に借りながら、野球、飲食店、特訓、番組表など別種の文法へ置き換えます。初号機がラーメンを食べる表紙は、その方法を一枚で示しています。公式に許諾された出版物ですが、各ギャグは本編の正史や未公開設定を補う資料ではなく、原作の見慣れた形式を崩して笑いへ変える独立作品です。

ネタバレ:TVシリーズ全26話と旧劇場版の人物像、使徒戦、司令室、次回予告を題材にしたギャグを扱います。作中の具体的なパロディ例も紹介します。

ラーメンを食べるエヴァンゲリオン初号機を描いたトニーたけざきのエヴァンゲリオン日本語版表紙
KADOKAWA刊の日本語版単行本。ラーメンを食べる初号機という表紙だけで、本編の巨大兵器を日常の身体へ引き寄せるパロディの方向が伝わります。

画面を似せ、意味だけを外すパロディ漫画

『トニーたけざきのエヴァンゲリオン』の絵は、元作品から遠ざかって笑いを作るのではありません。人物の輪郭、暗い司令室、極端な遠近、発光する表示、巨大な初号機といった見慣れた要素を先に揃えます。読者が「これはTVシリーズのあの場面だ」と認識したあと、戦闘が球技へ変わり、使徒が接客を始め、予告の語りが別番組を紹介します。絵の近さが期待を固めるほど、意味のずれが大きくなります。

そのため、本書は元作品を知らなくても絵の勢いで読めますが、場面の由来を知るほど仕掛けが増えます。初号機の暴走を単なる乱暴な怪物の動きとして描くのか、食欲という日常的な欲求へ置き換えるのか。司令室の無機質な会議を権力の象徴として残すのか、くだらない企画を大げさに決める場所へ変えるのか。本書は人物名を借りるだけでなく、アニメが視聴者へ情報を渡した方法まで材料にしています。

作品を識別する四つの特徴
  • トニーたけざきの単著で、複数作家によるアンソロジーではありません。
  • TVシリーズの人物と映像表現を主なパロディ対象にしています。
  • 次回予告や番組編成を模した一頁漫画が作品の骨格を作ります。
  • 公式出版物ですが、本編の出来事を追加する正史作品ではありません。

2010年の新連載から2011年の単行本へ

コミックナタリーは、2010年10月4日発売の『ヤングエース』11月号で本作の新連載が始まったと報じています。記事の原作表記はカラーとGAINAXで、シンジやレイなど既存人物を使いながら、原作のエピソードを足場に独自のギャグ世界を築く作品と説明されました。同号には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の真希波・マリ・イラストリアスのフィギュアが付属しており、雑誌側もエヴァンゲリオンを号の強い導線として扱っていました。

単行本は連載開始から約一年後の2011年9月30日に発売されました。KADOKAWAとWEBエースは、著者をトニーたけざき、原作をカラーとGAINAXとして記録しています。公式の宣伝文はシンジと初号機を前面へ出し、既刊のガンダムパロディで知られた作者がエヴァンゲリオンを描く点を売りにしました。掲載誌名だけで探すと貞本義行の漫画版と混ざりやすいため、著者名、単行本ISBN、2011年という三点を合わせると識別できます。

日本語版と英語版の書誌

日本語版は角川コミックス・エースのB6変形判で、総頁数は198頁、ISBNは9784047157897です。KADOKAWA公式ストアは寸法を横127ミリ、縦180ミリ、束幅13ミリと記録し、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズのコミックスへ分類しています。紙版の発売日は2011年9月30日、KADOKAWAの商品ページが示す電子版の配信開始日は2014年4月26日です。BOOK☆WALKERでは一冊完結の電子書籍として正規配信されています。

英語版はDark Horse Mangaから『Tony Takezaki's Neon Evangelion』として刊行されました。Penguin Random Houseの商品情報では、電子版の発売日は2015年6月9日、頁数は174頁、ISBNは9781630085254、翻訳者はMichael Gombosです。日本語版の198頁と英語版の174頁は、同じ作品名に属する別版の書誌です。どちらかを誤りとして統一せず、版元、言語、ISBNと組み合わせて扱う必要があります。

版ごとに照合する番号
  • 日本語紙版:2011年9月30日、198頁、ISBN 9784047157897。
  • 日本語電子版:2014年4月26日配信開始。
  • 英語電子版:2015年6月9日、174頁、ISBN 9781630085254。
  • 英語版翻訳:Michael Gombos、版元表記はDark Horse Manga。

ラーメンを食べる初号機の表紙

日本語版の表紙では、初号機が丼を抱え、箸でラーメンを食べています。紫と緑の装甲、角、顎という識別要素は保たれていますが、巨大兵器らしい尺度は消えました。街や格納庫ではなく食卓の動作だけを与えることで、人型であることが戦闘能力ではなく生活の不器用さへ結びつきます。表紙を見た時点で、原作の形を壊さず用途を変える本だと分かります。

英語版も同じ図案を使い、英題とDark Horse Mangaの表示を加えています。異なる市場向けの表紙で主役の絵を替えなかったことからも、この初号機が本書を最短で説明する図像だったと読み取れます。ただし、ラーメンを食べる行為をTV版の設定へ組み込むことはできません。これは生物性の公式設定を説明する場面ではなく、機械と生物の境界を食事という即物的な冗談へ変えた表紙です。

次回予告を一頁漫画へ変える方法

TVシリーズの次回予告は、短い時間に断片的な映像と葛城ミサトの語りを重ね、次の危機を勢いよく知らせます。本書の試し読みでは、この形式が一頁の連作へ変換されています。小さなコマを大量に並べ、もっともらしい説明と題名を最後に置けば、内容が突飛でも「次に放送される話」の形だけは成立します。読者は筋の整合性を確かめる前に、予告らしい速度で頁を読み切ります。

公式英語版試し読みの一頁では、使徒が高速の球を投げ、初号機が打席に立ちます。元の使徒戦が持つ遠距離攻撃、迎撃、命中の瞬間を残したまま、競技を野球へ変更した構図です。碇シンジの役割も、搭乗者から打者へ自然にずれます。似ているのは絵の表面だけではありません。攻撃を見切り、迎え撃つという動作の順序まで共有しているため、ジャンル変更が一目で伝わります。

別の頁では、使徒が飲食店で働き、ミサトが厨房に立つような番組案が現れます。使徒を倒すべき敵から接客する労働者へ変えると、異形の身体は恐怖よりも仕事上の不便さを生みます。予告という枠は、次の回なら何が起きてもよいという一時的な許可を与えます。本書はその許可を毎頁使い直し、一つの連続世界を作らずに発想だけを次々と試します。

司令室と表示文字が笑いへ変わる瞬間

『新世紀エヴァンゲリオン』では、画面いっぱいの警告文字、英数字、SOUND ONLYの表示が、組織の規模と情報の秘匿を感じさせます。本書はその硬い視覚言語を維持したまま、表示される案件だけを低俗な企画や個人的な悩みへ変えます。秘密会議の形式が立派であるほど、中身との釣り合いは悪くなります。文字は説明の補助ではなく、冗談を大げさに承認する装置として働きます。

英語版試し読みの育成企画を思わせる頁では、SOUND ONLYの画面とシンジの変身案が同居します。原作の会議では発言者の顔が見えず、誰が判断しているか分からない圧力が生まれました。ここでは同じ匿名性が、誰も止めないまま企画が暴走する可笑しさへ変わります。碇ゲンドウ冬月コウゾウが持つ権威も、画面の厳粛さと案件の軽さに挟まれて崩れます。

線の再現だけであれば、似顔絵の巧さで終わります。本書が模倣する範囲は、コマの比率、視線の高さ、説明の省略、題名が出る位置まで広がっています。見慣れた画面が正しく再現されているのに、その画面が保証していた深刻さだけが戻ってこない。この不一致が、登場人物を別人にせず笑わせる余地を作ります。

人物の一面を強くして役割を交換する

シンジは本編で父との距離、搭乗への拒否、他者から必要とされたい気持ちの間を揺れます。本書の試し読みでは、片眉を剃って特訓へ向かい、父に認めさせるため決闘する少年へ過剰変換されます。迷いを長い内面描写で追わず、「父に認められたい」という一方向だけを古典的な修業物語へ接続した形です。感情の出発点が残っているため、別ジャンルへ移ってもシンジだと認識できます。

綾波レイ惣流・アスカ・ラングレー、ミサトも固定した役から外されます。無表情、攻撃的な物言い、快活な予告口調は、それぞれ別番組の主演や司会へ転用できる強い特徴です。英語版試し読みの終端は、人物を放送枠ごとの出演者のように並べます。原作の人間関係を消したのではなく、関係より先に視聴者が覚えた外見と口調を抽出しています。

英語版の商品説明は、渚カヲルとシンジの漫才、赤木リツコがゲンドウの学生インターンだったという架空の過去、1960年代のテレビ番組としてのエヴァンゲリオンなどを収録例に挙げています。これらは人物の空白を正式な経歴で埋める話ではありません。既存の距離感を別の職業や芸能形式へ置き換え、二人が並んだときの雰囲気を試す短編です。

巨大兵器を身体として扱うギャグ

エヴァンゲリオンは装甲をまとった巨大な人型兵器として運用されますが、TV版は血液、呼吸、痛覚、捕食を思わせる描写によって、単純な機械ではないと示します。本書はこの曖昧さを神秘的な設定へ向けず、食事や排泄など身体の直接的な機能へ押し広げます。Penguin Random Houseの英語版紹介も、エヴァ各機の露悪的な身体ギャグを収録例として明記しています。

表紙のラーメンは、その中で比較的穏当な例です。箸を持てる手、丼へ届く口、麺をすする姿勢が揃うと、兵器の形が食事のために妙に適して見えます。しかし、人間らしく見えることは人間と同じ生活が可能だという意味ではありません。巨大な身体へ日用品の尺度を当てた瞬間に生じる無理が、初号機の威圧感を壊します。

英語版で確認できる収録内容

Dark Horseの公式試し読みは、英語に組み直された本文を六頁公開しています。日本語版の単行本を撮影した画像ではなく、英語版の翻訳と組版を施した出版社資料です。したがって、吹き出しの文面を日本語版の原文として引用することはできません。一方、コマの配置、人物、使徒、予告形式、視覚的な落ちは同じ作品内容を確認する資料として使えます。

英語版の公式紹介は、収録内容を具体的に示す点でも有用です。1960年代風テレビ番組、カヲルとシンジの漫才、リツコの架空の研修時代という例から、本書が一つの長編筋を進めないことが分かります。時代、職業、番組ジャンルを短編ごとに交換するため、ある話で成立した設定が次の話へ持ち越されるとは限りません。英語版の頁数が少ないことも含め、版の差と作品内の非連続性は別々に判断する必要があります。

公式出版と本編正史の境界

KADOKAWAから原作クレジット付きで刊行され、正規の電子書店と海外版元から流通しているため、本書は無許諾の二次創作ではありません。しかし、「公式に出版された」と「本編と同じ連続性に属する」は別の判定です。野球選手としての初号機、飲食店で働く使徒、リツコの架空のインターン歴を本編年表へ追加することはできません。各話はパロディの条件に合わせて世界を作り直します。

TV版、漫画版、新劇場版の違いを調べるとき、本書を第四の長編系列として並べるのも適切ではありません。貞本義行漫画版や新劇場版には、作品全体を通じた出来事の連続と人物の変化があります。本書には短編を横断する一つの歴史がなく、同じ人物が次の頁で別の役へ移れます。連続性の単位は単行本全体ではなく、個々のギャグや短編の内部です。

競作アンソロジーとの違い

同じく公式出版のパロディでも、『エヴァンゲリオン四コマ全集』は23名の漫画家が短い持ち場を受け持つ競作集です。頁をめくるたびに絵柄と笑いの規則が変わり、原作人物への解釈を並べて読む構成でした。『トニーたけざきのエヴァンゲリオン』は一人の作者が一冊を通して描くため、画面の似せ方、人体の誇張、次回予告の速度が作品全体で連続します。

一方、『エヴァX-学園不可思議伝-』のような派生連載は、独自の学園と事件を継続させます。そこで一度起きた出来事は次の話の条件になり、人物は独自世界の履歴を持ちます。本書はその方法を採りません。原作に似た一枚から最短距離で逸脱し、落ちが付けば世界を閉じます。パロディという同じ上位分類の中でも、競作、継続する派生物語、非連続の単著ギャグは読み方が異なります。

原作の記憶が試される読み物

本書を読むと、視聴者が何を見ただけでエヴァンゲリオンだと判断するのかが分かります。紫と緑の初号機、ミサトの予告口調、SOUND ONLY、無表情のレイ、強く言い切るアスカ。これらは設定集の長い説明を必要とせず、一つ置くだけで作品を呼び出します。パロディは共有されていない記号では成立しないため、繰り返し使われる要素は当時までに定着した作品の顔でもあります。

ただし、頻繁に笑いへ使われる特徴だけで人物全体を理解したことにはなりません。シンジのためらい、レイの沈黙、アスカの強い言葉は、TVシリーズの前後関係では変化し、別の意味を持ちます。本書はその一面を一頁で伝わる強さまで濃くします。原作記事と往復すると、パロディが何を残し、何を省いたかを比べられます。

表紙の初号機は、最後まで兵器らしい姿を失っていません。それでも、丼を抱えて麺を運ぶだけで、見慣れた巨大さは生活の不便へ変わります。『トニーたけざきのエヴァンゲリオン』が笑いにしたのは人物名だけではありません。視聴者が深刻さを感じるよう組み立てられた画面を精密に再現し、その画面へ似合わない用途を与えたのです。