エヴァンゲリオン百科事典

エピソード

第参話「鳴らない、電話」

学校で孤立するシンジ、トウジとの衝突、シャムシェル戦

第参話「鳴らない、電話」は、碇シンジが第3新東京市の学校へ通い始め、初号機パイロットとして初めて同世代から直接評価されるエピソードです。生徒たちの好奇心に囲まれる一方、前回の戦闘で妹が負傷した鈴原トウジから殴られ、シンジは自分が望んでエヴァに乗ったのではないと言い返します。そこへ第4使徒シャムシェルが襲来。戦場へ出たトウジと相田ケンスケを守るため、シンジは活動限界まで戦い続けます。勝利しても友人からの電話は鳴らず、接触がすぐ相互理解に変わらないことを描いた回です。

ネタバレ:TVシリーズ第参話の全展開、鈴原トウジとの衝突、第4使徒シャムシェル戦、結末の電話を詳しく扱います。

第参話鳴らない電話で転校生の碇シンジを教室の生徒たちが取り囲む場面
初号機パイロットだと知られたシンジを、クラスメートが取り囲む。注目されても対話は成立しない。

第参話は「戦えること」と「つながれること」を分ける

第弐話でシンジはサキエル戦を生き延び、葛城ミサトの家に居場所を得ました。第参話では、その生活が学校、訓練、出撃を繰り返す日課へ変わります。ところが、エヴァを動かす技量が上がることと、同級生の中へ入っていくことは同じ速さでは進みません。冒頭の訓練では命令を正確に反復できても、教室では何を話せばよいか分からないままです。

本話は学校劇と使徒迎撃を別々にせず、同じ対人関係を二つの場所で反復します。学校でトウジは、妹を傷つけた戦闘の責任をシンジへ求めます。戦場では、トウジが初号機の内部へ入り、シンジが受ける痛みを至近距離で見ます。説明を聞いて納得するのではなく、相手の立場からしか見えなかったものを体験することで、関係がわずかに動きます。

本話で起きる四つの変化
  • シンジが第3新東京市の学校へ通い、鈴原トウジ、相田ケンスケ、洞木ヒカリと接触する。
  • 第弐話の市街地被害が住民の負傷として戻り、戦闘の責任が教室へ持ち込まれる。
  • 第4使徒シャムシェルとの戦いで、トウジとケンスケが初号機のエントリープラグへ同乗する。
  • トウジは謝罪のため電話をかけようとするが、最後まで発信せず、題名通り電話は鳴らない。

訓練で繰り返される「目標をセンターに入れてスイッチ」

冒頭のシンジは、模擬戦闘装置の中で照準を合わせ、引き金を引く手順を何度も繰り返します。画面に現れる仮想目標を撃ち、破壊数を増やしていく。操作は前話の初戦より明らかに安定していますが、本人の声と動きから達成感は感じられません。彼は意味を考えるより、正解として与えられた動作を反復しています。

この訓練は後半の実戦と対になっています。シャムシェルを射撃している間、シンジは教えられた操作をこなせます。しかし、敵が接近し、同級生が戦場へ残り、アンビリカルケーブルが切れると、訓練の範囲では答えられない判断が必要になります。命令への服従だけで戦える段階と、自分の感情で行動してしまう段階の境目が、本話の戦闘です。

訓練場面の単調さは、シンジの日常そのものも表します。家ではミサトと最低限の会話をし、学校へ行き、NERVで指示された課題を消化する。彼は逃げてはいませんが、自分から選んだ生活とも言い切れません。第参話は、任務を続けている事実だけで心理的な適応が完了したとは扱いません。

鳴らない電話―連絡手段があっても相手はいない

ミサトはシンジに携帯電話を持たせています。しかし電話は鳴らず、登録された相手も増えません。赤木リツコから友人ができたかと尋ねられたミサトは、電話が一度も鳴っていないことを答えにします。機械としての通信回線は開いていても、シンジに声をかける同世代の相手がいない。その不在が題名になります。

電話は、直接向き合わなくても人とつながれる道具です。それでも本話では、自動的な解決装置になりません。教室の生徒たちはシンジを一斉に取り囲みますが、その関心の中心は本人ではなく「エヴァのパイロット」という肩書です。トウジは拳で接触し、ケンスケは戦闘を見物しようとします。距離は近づいても、相手の事情を知ろうとする会話はまだ始まりません。

終盤、ケンスケはトウジにシンジの番号を渡します。トウジは電話を手に取りながら、発信をやめます。謝ろうとする気持ちは生まれたものの、言葉にする準備が整っていないためです。物語は和解を一話の中で完結させず、鳴らなかった音を次の関係へ持ち越します。

教室でパイロットだと知られたシンジ

シンジの学校では、前回の市街地戦が同級生たちの共通話題になっています。生徒たちは巨大なエヴァと使徒の戦いを遠くから見た事件として語りますが、トウジだけは妹の負傷によって被害を家庭の内部で受け止めています。要塞都市の防衛成功と、住民一人の被害は両立します。誰かを守った戦闘が、別の誰かを傷つけてもいるのです。

シンジが初号機のパイロットだと分かると、クラスメートは席の周囲へ集まり、質問を浴びせます。彼は突然人気者になったように見えますが、求められているのは武勇伝です。本人が恐怖で記憶を失い、初号機の痛みを自分の身体に受けたことは共有されません。シンジもその体験を説明できず、注目の輪の中心で孤立します。

洞木ヒカリは委員長として教室を統制し、ケンスケは軍事や兵器への関心からシンジへ接近します。トウジは被害者家族として怒りを向けます。同じクラスでも、三人がエヴァを見る位置は異なります。本話は彼らを単なる友人候補として並べず、都市防衛へ異なる利害を持つ住民として登場させます。

鈴原トウジの拳と、シンジの「好きで乗っているわけじゃない」

トウジはシンジを校舎裏へ呼び出し、妹が前回の戦闘で負傷したと告げて殴ります。シンジが直接妹を狙ったわけではなく、サキエルを止めなければ被害がさらに広がった可能性もあります。それでもトウジにとって、目の前にいるパイロットは怒りを向けられる唯一の具体的な相手です。NERVや使徒という巨大な原因を、彼は拳の届く個人へ縮めます。

シンジは反撃せず、自分も好きで乗っているわけではないと答えます。この言葉は事実です。第壱話で彼は父に呼び出され、重傷のレイを前にして搭乗を引き受けました。しかし、責任を負いたくないという自己防衛にも聞こえます。妹の傷を抱えるトウジにとって、操縦者が選択の不在を訴えることは、被害そのものを退ける言葉になります。

二人の対立に単純な正解はありません。シンジには命令と恐怖があり、トウジには妹の負傷があります。どちらも相手が見ていない現実を抱え、最初の接触では自分の側しか語れません。本話後半は、この非対称をエントリープラグへの同乗によって反転させます。

第4使徒シャムシェルの襲来と初号機の再出撃

学校での衝突直後、第4使徒シャムシェルが第3新東京市へ接近します。シャムシェルは飛翔し、左右に伸びる鞭状の腕で対象を切断・打撃する使徒です。第3使徒サキエルのような人型とは異なる細長い体躯を持ち、空中から初号機の間合いを崩します。TV版の第4使徒であり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の使徒番号と混同しない注意が必要です。

シンジは学校からNERVへ招集され、初号機で迎撃します。戦闘開始時にはパレットライフルを使用し、訓練通りに射撃を続けますが、シャムシェルを決定的には止められません。敵の鞭が初号機へ巻き付き、距離を詰められると、画面上の標的を撃つ訓練から、生身の痛みを伴う格闘戦へ移ります。

シャムシェルに投げ飛ばされた初号機は、避難せず地上へ出ていたトウジとケンスケの近くへ落下します。その衝撃でアンビリカルケーブルが切れ、内部電源の残り時間は五分になります。敵を倒すだけでなく、足元の二人を巻き込まないことが作戦条件へ加わり、シンジは教室の対立相手を守る立場へ置かれます。

避難壕を抜け出すトウジとケンスケ

使徒警報が発令されると、生徒たちは避難壕へ移動します。しかしケンスケは本物の戦闘を撮影したいという興奮から外へ出て、トウジも同行します。彼らにとってエヴァ戦は、映像や軍事知識の延長で見られる特別な出来事でした。防護設備の外へ出る選択によって、その距離が消えます。

初号機が目前へ落下した瞬間、二人は巨大兵器の戦闘が安全な見世物ではないと知ります。特にトウジは、妹を傷つけた側として見ていたシンジが、今度は自分たちをかばいながら攻撃を受ける姿を見ることになります。責任の見え方は、誰が戦場の内側にいるかで変わります。

ミサトは二人を放置すれば保護できないと判断し、初号機のエントリープラグへ収容させます。正規の搭乗者ではない同級生二人が狭い操縦空間に入り、NERVの戦闘を内側から体験します。軍事に憧れるケンスケにも、妹の被害に怒るトウジにも、外からは見えなかったパイロットの現実が開かれます。

エントリープラグで可視化されるシンジの痛み

トウジが目にするのは、無傷で怪物を操る英雄ではありません。鞭の攻撃に合わせて身体をこわばらせ、恐怖と痛みに耐え、命令を聞きながら初号機を動かす同級生です。神経接続とシンクロによって、機体の損傷は操縦者へ感覚として返ります。シンジが学校で説明できなかったことが、表情と叫びとして伝わります。

ここでトウジが知るのは、シンジに責任がないという結論ではありません。エヴァへ乗った者にも被害があるという、判断に欠けていた一面です。妹の傷は消えず、シンジの苦痛も後から帳消しにはできません。二つを同時に見られるようになったことが、謝罪を考える最初の変化になります。

同乗はシンジにも変化を与えます。それまで同級生は、自分を珍しがる群衆か殴る相手でした。今は自分が守らなければ死ぬ具体的な二人として、同じプラグ内にいます。関係の責任を避けたい少年が、戦闘ではその二人の生命を抱えて動きます。

撤退命令を越え、活動限界まで突き立てるプログレッシブ・ナイフ

アンビリカルケーブルを失った初号機には、内部電源のカウントダウンが表示されます。ミサトは二人を収容した後、退却を命じます。時間切れで動けなくなれば、シャムシェルの目前に三人が残されるため、合理的には戦闘を離脱すべき局面です。

しかしシンジは後退せず、プログレッシブ・ナイフを構えて正面から突進します。これは訓練で覚えた射撃の正確な反復ではなく、学校で殴られた怒り、エヴァへ乗らされる不満、二人を死なせられない焦りが混ざった行動です。勇敢さだけにも、命令違反だけにも整理できません。

初号機はシャムシェルの鞭に貫かれながら接近し、ナイフをコアへ突き立てます。残り時間がゼロへ達するのとほぼ同時に使徒は機能を停止します。前話のサキエル戦では初号機の暴走が勝利をもたらしましたが、本話ではシンジ自身が意識を保って最後まで操縦します。その成長は、命令系統に従う優秀さではなく、自分の判断を危険な形で押し通した結果として現れます。

英題「A TRANSFER」と日本語題「鳴らない、電話」

英題の「A TRANSFER」は、まず転校してきたシンジを指します。学校は新しい生活へ移る場ですが、席を与えられただけでは共同体の一員になれません。同時に本話では、情報と経験が人物の間で移されます。シンジがパイロットだという情報が教室へ広がり、トウジとケンスケは戦場の外からエントリープラグの内側へ移ります。

日本語題は、転校という制度上の移動より、移った後にも接続が成立しないことを強調します。電話番号は存在し、トウジはそれを受け取り、受話器を手にします。それでも発信しない。物語上必要な道具と動機が揃ってから音を鳴らさないことで、関係の変化を性急な友情へ変換しません。

企画段階では電話が友情の成立を示す別の構想もありましたが、完成版は和解の開始を次話へ送ります。結果として第参話の終わりには、トウジがシンジへの見方を変えたことと、二人がまだ話せていないことが同時に残ります。題名は不足を示すだけでなく、その沈黙が持つ時間を守っています。

反復音、蝉、機械音が作る孤立の演出

第参話は、会話の少なさを無音だけで表しません。訓練装置の機械音、照準と発射の反復、教室のざわめき、地上で鳴き続ける蝉、活動限界の警告音がシンジを囲みます。周囲に音は多いのに、自分へ向けられた親しい声だけがない。題名の電話音の不在は、豊富な環境音の中で際立ちます。

戦闘では、シャムシェルの長い腕と初号機の接近戦が画面の距離を激しく変えます。射撃では敵との間に空間がありますが、最後は互いの身体を貫くほど近づく。学校で会話できなかった人物たちも、エントリープラグという狭い空間へ押し込まれます。本話は物理的な近さを増やしながら、それだけでは理解が完成しないことを示します。

脚本は薩川昭夫と庵野秀明、絵コンテは鶴巻和哉と石堂宏之、演出は石堂、作画監督は細井信宏が担当しました。武蔵野美術大学の映像作品データベースでも鶴巻、石堂、細井らの担当が確認できます。前二話の導入を受け、学校の日常とエヴァ戦を初めて一話の中で往復させる構成です。

第参話が次の物語へ残すもの

  • シンジは学校で初号機パイロットだと知られ、匿名の転校生ではいられなくなる。
  • トウジはシンジの受ける痛みを見て、妹の負傷だけでは測れなかった相手の事情を知る。
  • ケンスケはエヴァ戦を間近で体験し、シンジへ電話番号を仲介する位置につく。
  • 初号機は通常操縦下で第4使徒シャムシェルを撃破するが、シンジは撤退命令に従わない。
  • 電話が鳴らないまま終わり、人間関係の成立は次の第四話へ持ち越される。

作戦結果だけを見れば、NERVは二度目の迎撃に成功し、シンジの操縦能力も上がりました。しかしミサトにとっては、命令を無視して活動限界まで戦ったパイロットを、このまま運用できるのかという問題が残ります。学校では英雄でも、作戦部では制御しにくい部下です。

次の第四話では、シンジがNERVとミサト宅を離れ、ひとりで街の外へ出ます。第参話の戦闘は友情の完成でも職務への納得でもなく、孤立をさらに強く自覚させる出来事です。そのため第参話と第四話は、接触しても理解できない段階と、距離を取った後に戻る段階を一組として読み解けます。

第参話「鳴らない、電話」のよくある疑問

なぜトウジはシンジを殴ったのですか

第弐話のサキエル戦でトウジの妹が負傷したためです。トウジは戦闘全体を決めたNERVではなく、同じ学校にいる操縦者シンジへ怒りを向けました。

シャムシェルは何番目の使徒ですか

TVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』では第4使徒です。新劇場版では使徒の番号体系が異なるため、媒体を分けて確認する必要があります。

トウジとケンスケはなぜ初号機へ乗ったのですか

避難壕を抜け出して戦場に残り、初号機の近くで動けなくなったためです。ミサトが二人を戦闘から保護するため、エントリープラグへ収容させました。

最後に電話をかけたのは誰ですか

電話をかけようとしたのはトウジです。ケンスケからシンジの番号を受け取りますが、発信をやめるため、シンジの電話は鳴りません。

シンジは命令に従ってシャムシェルを倒したのですか

ミサトは退却を命じますが、シンジは攻撃を続けます。活動限界とほぼ同時にプログレッシブ・ナイフでコアを破壊し、結果として勝利しました。