エヴァンゲリオン百科事典

映画

シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇

第3村からネオンジェネシスまでの物語・結末・各バージョン

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』は、2021年3月8日に公開された新劇場版の第4作であり、『:序』『:破』『:Q』から続く映画シリーズの完結編です。前作で心を閉ざした碇シンジが第3村の暮らしを通して再び他者と関わり、WILLEの最終作戦、碇ゲンドウとの対話を経て、エヴァンゲリオンを必要としない世界を選ぶまでを描きます。物語の決着だけでなく、3.0+1.0、3.0+1.01、3.0+1.11という版番号の違いを分けて理解する必要がある作品です。

ネタバレ:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』および本作の全展開と結末に触れます。未視聴の場合は『:序』『:破』『:Q』の後に鑑賞してください。

シン・エヴァンゲリオン劇場版の公開中ポスター
総作画監督・錦織敦史による14人集合の公式公開中ポスター。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』とは

本作は、新劇場版4部作の最後に位置します。物語は『:Q』でカヲルを失った直後から始まり、シンジ、式波・アスカ・ラングレー、アヤナミレイ(仮称)が、ニアサードインパクト後の世界で生き延びた人々の集落・第3村へ運ばれます。前半は農作業、配給、出産、食事といった生活を丁寧に描き、後半はWILLEとNERVの最終決戦、さらにシンジとゲンドウの対話へ移ります。

戦闘の規模はシリーズ最大級ですが、結末を動かすのは敵機を破壊する強さではありません。シンジが自分の痛みだけでなく、ミサト、アスカ、レイ、カヲル、ゲンドウが抱えてきた願いを受け止め、自分で別れを告げられるようになることです。第3村の日常と終盤の抽象的な舞台は離れて見えても、人が別々の身体を持ちながら手を貸し合うという同じ問いでつながります。

作品の位置
  • 新劇場版はTV版・旧劇場版と共通する名前や構図を持つが、出来事の因果は別系列。
  • 『:Q』後のシンジの回復、第3村の生活、WILLEの決戦、ゲンドウとの対話を一本で描く。
  • 3.0+1.0、3.0+1.01、3.0+1.11は同じ完結編の調整版であり、別々の続編ではない。
  • 結末のネオンジェネシスは、過去作品の存在を消す操作と断定せず、本作世界におけるシンジの選択として読む。

パリ作戦―赤い大地を元へ戻すWILLE

冒頭では、マリのエヴァ8号機とWILLEの部隊が、コア化したパリでユーロNERV第1号封印柱の復旧作業を行います。敵性エヴァの妨害を受けながら、赤く汚染された一帯をL結界から解放し、街の色と生態を取り戻します。『:Q』が荒廃した世界と対立のただ中から始まったのに対し、本作は、人の技術が破壊だけでなく土地の回復にも使えることを最初に示します。

パリ作戦には、WILLEが最終決戦に必要とする機体部品を回収する目的もあります。限られた資源を現場でつなぎ、過去の施設を別の目的へ使い直す発想は、第3村の暮らしにも共通します。世界を一度に作り替えるゲンドウの計画に対し、WILLEと生存者は壊れた場所を局所的に修復し、次に使えるものを残します。

公式の原画集上巻がパリ戦から第3村までを収録範囲としていることからも、この二つは単なる前座ではありません。巨大な戦闘と小さな生活を同じ制作工程の中で並べ、人間が現実の手触りを取り戻していく前半部を構成しています。

第3村―シンジが生活へ戻るまで

第3村には、かつてシンジの同級生だった鈴原トウジ、洞木ヒカリ、相田ケンスケが大人として暮らしています。トウジは医師として住民を診察し、ヒカリと家庭を築き、ケンスケは設備や外部作業を担います。彼らはニアサードインパクトの責任をシンジ一人へ押しつけず、目の前の食事と寝場所を差し出します。シンジに必要だったのは、世界の命運を選ばせる命令より先に、拒絶しても失われない居場所でした。

シンジは食べることも話すことも拒み、湖畔でうずくまります。アスカは彼を乱暴にでも生かそうとし、ケンスケは無理に答えを求めず、仕事を見せながら待ちます。シンジの回復は一度の励ましで起きません。眠る、食べる、泣く、他人の営みを見るという小さな変化が積み重なり、やがて自分からWILLEへ戻る決断に至ります。

第3村は昔の世界がそのまま残った安全地帯ではありません。封印柱によってL結界を抑え、資源を分け、KREDITの支援を受けながら維持される場所です。危うい環境でも、住民は家族を作り、子どもを育て、明日の作業を続けます。この具体的な生活が、抽象的な『人類全体の救済』を掲げる計画に対する作品の答えになります。

アヤナミレイ(仮称)が知る名前と暮らし

NERVで育ったアヤナミレイ(仮称)は、第3村で初めて継続的な共同生活に入ります。田植えを手伝い、風呂に入り、赤ん坊を抱き、挨拶や感謝の言葉を覚えます。命令に従うためではなく、相手が喜ぶから言葉を使う経験によって、彼女は自分の好みと他者への関心を獲得していきます。

村人が呼び名を尋ねることは、自分が何者かを決める機会を与えます。彼女は綾波レイと同じ顔を持ちますが、『:序』『:破』でシンジと関係を築いたレイ本人と単純に同一ではありません。シンジもその違いに戸惑いながら、目の前の彼女が自分へ差し出す言葉を受け取ります。

しかし彼女の身体はNERVの管理外で長く維持できるよう作られておらず、村で得た生を残したままL.C.L.へ崩れます。この死はシンジを再び傷つけますが、今度の彼は完全な停止へ戻りません。別れの悲しみを抱えたまま、自分がすべきことを考え、アスカと共にWunderへ戻ります。彼女の短い生活は、製造目的を超えて一人の存在になれた時間として残ります。

ヤマト作戦とWILLE対NERV

WILLEは、ゲンドウが進めるフォースインパクトを止めるためヤマト作戦を発動します。アスカとマリが改修されたエヴァで出撃し、AAAヴンダーと同型艦を含むNERV側の戦力へ突入します。作戦は兵器同士の優劣だけでなく、NERVが仕込んだ儀式の条件をWILLEがどこまで崩せるかという攻防です。

アスカは第13号機を止めるため、自ら使徒化する危険な手段を選びます。しかし式波シリーズとしての彼女に埋め込まれた仕組みと、オリジナルに当たる存在が立ちはだかり、機体ごと取り込まれます。旧劇場版の惣流・アスカの過去や結末を、そのまま式波の設定説明に用いることはできません。本作で明かされる式波シリーズの出自と、ケンスケの前で見せた生活者としての姿を合わせて読む必要があります。

ゲンドウはネブカドネザルの鍵によって人の枠を外れ、生命の種を利用した儀式を先へ進めます。目的はユイとの再会であり、そのために他者の現実を自分の望む一つの世界へ従わせようとします。ゼーレの計画とゲンドウの個人的な願いは重なる部分を持ちますが、同じ動機ではありません。

ミサトがシンジへ返す選択

Wunderへ戻ったシンジを見て、乗組員の感情は割れます。ニアサードインパクトで家族を失った北上ミドリ、再びエヴァに乗らせたくない鈴原サクラにとって、シンジは救うべき少年であると同時に、惨事を思い出させる存在です。作品は彼を無条件に歓迎させず、傷を受けた側の怒りもその場に残します。

ミサトは、シンジの行動を最終的に許可した自分が責任を負うと告げ、銃撃から彼を守ります。『:Q』ではDSSチョーカーと冷たい命令によって距離を置いた二人が、ここで初めて当時の判断と現在の選択を言葉にします。ミサトはシンジを道具として送り出すのではなく、彼が自分で決めた対話へ行けるよう、最後の手段を用意します。

Wunderは最後に、ガイウスの槍を作る材料として使われます。ミサトは艦と共に突入し、マリを介して槍をシンジへ届けます。旧劇場版の別れと似た自己犠牲の構図を持ちながら、本作では親となったミサト、KREDITやWILLEの仲間、息子リョウジへ残す未来という新劇場版固有の文脈があります。

マイナス宇宙とアディショナル・インパクト

ゲンドウは第13号機でマイナス宇宙へ入り、シンジは初号機で追います。そこでは記憶と認識が、NERV本部、ミサトの部屋、第3新東京市など見覚えのある舞台として形を取ります。ミニチュアや撮影セットのような背景が露出するのは、戦いが通常の物理空間ではなく、二人の記憶と物語そのものを素材にした領域へ移ったことを示します。

ゲンドウは、現実には存在しないものを認識可能な形で見せるエヴァ・イマジナリーと、槍を利用し、アディショナル・インパクトによって世界を書き換えようとします。作中用語は互いに役割が異なります。フォースインパクト、アディショナル・インパクト、マイナス宇宙、ゴルゴダオブジェクト、エヴァ・イマジナリーを一語の『補完』へまとめると、どの段階で何が起きたかを失います。

初号機と第13号機の戦闘は、同じ動きを返す鏡像のように進み、力では決着しません。息子が父を倒して正義を証明する構図から、なぜ父が他者を拒み、ユイだけを求めたのかを聞く対話へ変わります。シンジが武器を置いて初めて、ゲンドウの計画を内側から止める道が開きます。

碇ゲンドウとの対話―父も孤独な子どもだった

ゲンドウは、人との距離を測れず、音楽と知識の中へ閉じこもっていた自分の過去を語ります。ユイは、他者を必要としないつもりだった彼が初めて受け入れた存在でした。その喪失を受け止められず、世界全体を作り替えてでも再会しようとしたことが、息子を遠ざけ、多くの犠牲を生んだ計画へつながります。

シンジは父の行為を免罪しません。しかし、ゲンドウもまた他者を恐れ、捨てられる前に関係を断ってきた人間だと知ります。シンジがS-DATを手渡す構図は、親から子へ一方的に残された孤独を、子が理解して返す動作です。ゲンドウは、自分がシンジへ向き合わなかった事実と、ユイが息子の中にもいたことに気づきます。

この対話によって、物語は『ゲンドウを倒せば元通りになる』という決着を避けます。世界は元の状態へ完全には戻らず、失われた人も無条件に復活しません。それでも、受け継いだ傷を次の関係へそのまま渡さず、自分の代で終わらせる選択はできます。シンジの成長は、父より強い操縦者になることではなく、父ができなかった別れを行うことにあります。

アスカ、カヲル、レイを送り出す

シンジは、アスカがかつて自分を好きだったことに答え、自分も彼女を好きだったと伝えます。これは二人をその場で恋人にする告白ではなく、言えなかった感情を過去形も含めて認め、アスカが自分の居場所へ帰れるようにする別れです。成長した姿で浜辺にいるアスカは、ケンスケのいる生活へ送り返されます。

カヲルは、シンジを幸せにすることを自分の幸福として反復してきました。しかしそれは、相手のためという形で自分の存在理由を固定することでもあります。加持との対話を通して、カヲル自身がシンジ以外の生と休息を選べる可能性が示されます。棺や反復する構図はループを強く想起させますが、TV版・漫画版・新劇場版の全出来事が一本の時間線で文字通り周回した、と本作だけで細部まで確定することはできません。

レイに対して、シンジはエヴァのいない世界を作ると伝えます。彼女を母の代わりや救われる対象に閉じ込めず、別の場所で生きられる存在として送り出します。三人との別れは、シンジが一人で全員の人生を所有する結末ではありません。それぞれが彼の視界から離れても、それぞれの場所を持てるようにする行為です。

ネオンジェネシスと駅のラストシーン

シンジが選ぶのは、世界を無に戻すことではなく、エヴァンゲリオンを必要としない世界への『新世紀(ネオンジェネシス)』です。父が自分の願いに合わせて現実を上書きしようとしたのに対し、シンジはエヴァの犠牲と役割を終わらせ、他者が別々に生きる余地を残します。ユイとゲンドウは最後に初号機と第13号機を引き受け、シンジを外へ送り出します。

ラストでは成長したシンジが駅のホームに座り、向かい側にレイとカヲル、アスカを思わせる人物が見えます。マリがシンジのDSSチョーカーを外し、二人は駅から現実の街へ走り出します。アニメーションの人物と実写の街が連続する画面は、虚構を否定して現実だけを正解にするというより、長く続いたエヴァの舞台を出て、名前の付いていない生活へ移る感触を作ります。

題名末尾の『𝄇』は、楽譜で反復区間の終端に用いられる記号です。シリーズが繰り返してきた名前、構図、関係を意識させながら、その記号を含む最終作で反復から外へ進みます。ただし、記号だけを根拠にあらゆる媒体が完全な時間ループであると断定するのではなく、反復と終止を同時に示す作品表現として扱うのが安全です。

3.0+1.0、3.0+1.01、3.0+1.11の違い

EVANGELION:3.0+1.02021年3月8日に劇場公開された最初の上映版。
EVANGELION:3.0+1.01一部カットへ調整を加え、2021年6月12日から劇場上映された版。後に配信でも使用。
EVANGELION:3.0+1.11さらに一部調整を施し、Blu-ray・DVDへ収録された現行の映像商品版。

版番号の違いは、3本の別ストーリーや続編を意味しません。公式は、3.0+1.01について一部カットの差し替えを行った上映版、3.0+1.11についてさらに調整した映像商品版として説明しています。物語の骨格と結末は共通しており、記事内で場面を特定する場合だけ参照した版を明示します。

3.0+1.11の映像商品には、本編のほか『EVANGELION:3.0(-46h)』、『EVANGELION:3.0(-120min.)』、制作過程を示すRebuild映像などが収録されます。これらは『:Q』前後や制作資料を補う短編・特典であり、本編155分へ無記名で挿入された場面ではありません。特典の情報を使う場合は、本編描写と収録特典の補足を分けます。

音楽と制作体制

テーマソングは宇多田ヒカルの『One Last Kiss』です。終幕では同曲と『Beautiful World (Da Capo Version)』が、新劇場版を通してきた感情を結びます。Da Capoは音楽用語で冒頭へ戻る指示ですが、戻った後に同じ演奏が永遠に続くとは限りません。題名の反復記号とともに、回帰しながら終わる本作の構造へ音楽面から応答します。

劇伴は鷺巣詩郎が担当し、公式音楽集『Shiro SAGISU Music from SHIN EVANGELION』として整理されています。第3村の静かな生活、WILLEの大規模戦、ゲンドウとの抽象的な対話では、音の密度と引用される様式が大きく変わります。曲名や収録盤の違いは音楽索引へ接続し、画面上の設定説明と歌詞解釈を混同しません。

企画・原作・脚本・総監督は庵野秀明、監督は鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏、制作はスタジオカラーです。多数のアニメーター、CG、撮影、美術、音響の工程を経た共同制作であり、原画集やRebuild映像は完成画面へ至る選択を確かめる資料です。制作途中の案やレイアウトが、すべて完成本編の設定として採用されたとは限らない点に注意します。

よくある疑問

最後にエヴァの歴史そのものが消えたのですか

シンジはエヴァを必要としない世界を選びますが、過去の出来事が無価値だった、他媒体の物語まで消滅した、と断定する台詞ではありません。本作系列の人物をエヴァの役割から解放する結末として扱います。

駅のシンジとマリは恋人ですか

親密で軽やかなやり取りは描かれますが、交際歴や結婚を説明する場面はありません。二人がエヴァの舞台を離れて未来へ走ることは確かでも、その後の関係を画面外まで固定しません。

どのバージョンを見ればよいですか

現在のBlu-ray・DVDでは3.0+1.11を見られます。劇場公開史を比較する場合のみ、3.0+1.0、3.0+1.01との差を公式の版番号説明と照合します。

TV版や旧劇場版の続きですか

新劇場版の第4作です。TV版・旧劇場版を想起させる台詞、構図、主題はありますが、式波アスカ、マリ、WILLE、第3村などは新劇場版固有です。旧劇場版の浜辺から直接続く物語としては扱いません。