エヴァンゲリオン百科事典

映画

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

14年後の世界、WILLEとNERV、カヲル、第13号機を徹底解説

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は、2012年11月17日に公開された新劇場版第3作です。『:破』の終幕から14年後、碇シンジは自分の知らない反NERV組織WILLEの艦上で目覚めます。ミサトたちの拒絶、渚カヲルとの出会い、エヴァ第13号機による槍の回収、フォースインパクトをめぐる破局を通し、『やり直せる』という願いそのものが罠へ変わる過程を描きます。前作との空白をすぐ説明しない構成、3.0・3.33・3.333の版の違いまで含めて整理します。

ネタバレ:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の結末と、本作の全展開、渚カヲルの死、フォースインパクト未遂に触れます。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qの公式メインビジュアル
『:Q』公式サイトのメインビジュアル。

『:Q』は何が起きた映画なのか

前作『:破』では、シンジが綾波レイを救うため初号機を覚醒させ、世界を変える規模の現象を起こしました。カヲルのMark.06がカシウスの槍を投じて初号機を止めた場面で映画は終わります。『:Q』はその直後を連続して見せず、14年後の宇宙作戦から始めます。観客はシンジと同じく、時間の空白、変わった仲間、知らない組織を説明なしに受け止めることになります。

物語の中心は、失敗を取り消したいシンジと、その願いを利用するゲンドウです。カヲルはシンジへ希望を与えますが、地下の槍が想定と違うことに気づき、計画を止めようとします。シンジは『何もしない』ことへ戻る恐怖から警告を聞けず、二人で第13号機を動かして破局を招きます。英題YOU CAN (NOT) REDO.の括弧は、やり直せるという肯定と、やり直せないという否定を同時に置きます。

理解の前提
  • TV版・旧劇場版ではなく、新劇場版『:破』に続く第3作。
  • 『:破』終幕と本作の間には14年の空白があり、空白期間の全事件は本編内で説明されない。
  • シンジが起こしたニアサードインパクトと、その後に進行したサードインパクトを無条件に同一視しない。
  • WILLE、AAAヴンダー、DSSチョーカー、式波シリーズなどは新劇場版固有の要素。

US作戦―宇宙から初号機を回収する

冒頭のUS作戦では、アスカの改2号機とマリの8号機βが地球軌道上へ出撃し、封印された初号機を収める十字形の物体を回収します。ネーメジスシリーズの攻撃を受ける中、アスカは初号機に呼びかけ、シンジの反応によって封印から放たれた光線が敵を撃破します。初号機は14年間、動力源として扱われていた一方、内部にはシンジが残っていました。

この作戦は、観客が覚えているNERV対使徒という対立がすでに終わったことを示します。アスカは眼帯を着け、見慣れない改修機を操り、マリと軍事用語を交わします。初号機は主人公が乗って戦う機体ではなく、厳重に封印された危険物であり、回収すべきエネルギー源です。『前と同じ場所へ戻る』可能性は、映画の開始時点で断たれています。

シンジの身体は14年前の姿のままです。アスカは後にこの停止を『エヴァの呪縛』として語りますが、本作だけで生物学的な仕組みの全容は説明されません。少なくとも、エヴァのパイロットであるシンジ、アスカ、マリの外見的な時間と、トウジやミサトたちが過ごした14年は同じ速度では進んでいません。

WILLEとAAAヴンダー

シンジが目覚めた艦は、葛城ミサトを艦長とするAAAヴンダーです。WILLEはNERV壊滅を目的とする組織で、赤木リツコ、伊吹マヤ、青葉シゲル、日向マコトら旧NERV職員に加え、新しい乗組員が参加しています。かつての仲間が父ゲンドウの組織と戦っているため、シンジの知っている『味方』という分類はそのまま使えません。

ミサトたちはシンジへエヴァに乗らないよう命じ、首にDSSチョーカーを装着します。覚醒の兆候を検知すると装着者を殺す装置であり、シンジの意志だけでなくエヴァが引き起こす災厄を止める最終手段です。『:破』で乗ることを促したミサトが、今度は乗らないよう求める反転には、観客に見えていない14年間の犠牲が横たわります。

WILLE側はシンジへ十分な説明を与えません。時間と戦闘の制約、感情的な傷、機密の必要が重なった結果ですが、情報を遮断されたシンジには拒絶だけが届きます。そこへアヤナミレイ(仮称)の乗るMark.09が現れ、綾波の声を聞いたシンジは艦を離れます。WILLEの不信とNERVの誘導が、彼をゲンドウの用意した場所へ押し戻します。

14年間に何があったのか

本作でシンジは、地表が赤く変わり、人々がほとんど見えない世界をカヲルから見せられます。カヲルは、シンジが初号機を覚醒させた行動を惨状の原因として語ります。しかし『:破』の終幕ではMark.06が現象を一度止めており、その後の14年間に、Mark.06の自律化、リリスとの関係、サードインパクト、加持の介入など別の段階がありました。完結編の補足を踏まえると、シンジのニアサードインパクトと、後続する災厄の全責任を同じ一瞬へ圧縮できません。

それでも、シンジの行動が最初の引き金の一つだったこと、世界と人々が取り返しのつかない被害を受けたことは、彼自身が向き合うべき事実です。問題は、責任を知ることと、すべてを一人で直せると思うことが別だという点です。シンジは後者へ飛びつき、再び巨大な力で世界を一括修正しようとします。

『:破』終映後の予告にあった場面と、『:Q』本編で実際に示される14年後には差があります。予告を空白期間の完成済み映像や、すべてが画面外でそのまま起きた記録として扱うことはできません。後発短編『EVANGELION:3.0(-46h)』『(-120min.)』も空白を補いますが、『:Q』本編と区別して参照します。

渚カヲルとピアノ―二人で合わせる時間

崩壊したNERV本部で、シンジは渚カヲルと出会います。ゲンドウも冬月も説明をほとんど与えず、アヤナミレイ(仮称)には『:破』のレイと共有する記憶がありません。その中でカヲルだけがシンジへ話しかけ、ピアノの連弾を通して、相手の音を聞いて返す関係を作ります。

連弾では、一人が相手を支配して正解の音を出させるのではなく、互いの速度と呼吸を合わせます。エヴァ第13号機も複座式で、二人のパイロットが同時に乗る設計です。ピアノで成立した協働が、機体ではゲンドウの仕掛けた計画へ組み込まれることが、本作の悲劇を強めます。

カヲルはシンジのDSSチョーカーを外し、自分の首へ移します。これは信頼の証であると同時に、覚醒の結果を自分が引き受ける契約でもあります。シンジは自分を無条件に受け入れる相手を得たと感じますが、カヲルもすべてを把握しているわけではありません。地下の槍を見た時の動揺は、彼もゲンドウの計画の外側に立てなかったことを示します。

アヤナミレイ(仮称)は綾波レイなのか

Mark.09でシンジを連れ出した少女は、綾波レイと同じ外見と声を持ちます。しかし『:破』でシンジと食事会を計画し、初号機へ取り込まれたレイの記憶や感情を持っていません。命令がなければ何をすべきか分からず、自分の過去や好みを答えられない彼女を、作品は後にアヤナミレイ(仮称)として区別します。

冬月はシンジへ、綾波シリーズとユイ、初号機の関係を示し、救ったはずのレイが目の前の少女と同じではないことを突きつけます。ここで重要なのは、複製された存在だから価値がないという結論ではありません。『:Q』時点のシンジは違いを受け止められず、『:破』のレイを取り戻せなかった事実だけに絶望します。

アヤナミレイ(仮称)は終盤、命令を待ちながらも、アスカがシンジを連れ出す一行へ加わります。次作の第3村で初めて命令以外の暮らしを知るため、『:Q』は彼女の人生の空白ではなく出発点です。『:破』のレイとの違いを保ったまま、一人の人物として追う必要があります。

二本の槍とエヴァ第13号機

カヲルは、セントラルドグマにあるロンギヌスとカシウス、二本の槍を第13号機で回収すれば、世界を修復できるとシンジへ説明します。絶望の原因を取り除き、自分の手でやり直せるという提案は、シンジにとって唯一の希望になります。ゲンドウはその心理を見越し、二人が自発的に機体へ乗る状況を作ります。

地下で二人が見るのは、首を失ったリリス、リリスと融合するMark.06、そして同じ形に見える二本の槍です。カヲルが想定した組み合わせと違うため、彼は回収を中止するよう求めます。しかしシンジは、ここで止まれば何も償えないという焦りから、一人で制御を進めて槍を抜きます。助言を信じて始めた行動が、助言を聞かない執着へ変わっています。

第13号機は二人乗りで、外見は初号機に近く、通常のエヴァとは異なる方式で活動します。第12の使徒を取り込み、疑似シン化して覚醒すると、フォースインパクトの中心になります。『最強の機体』という比較だけでは、アダムスの生き残り、儀式の器、ゲンドウが望む段階へ進む鍵という役割を捉えられません。

フォースインパクトとカヲルの死

槍が抜かれ、第12の使徒が第13号機へ取り込まれると、機体は覚醒してフォースインパクトが始まります。上空ではMark.09がAAAヴンダーの制御を奪おうとし、アスカとマリが阻止に動きます。地下と艦上の二つの戦闘は、NERVがエヴァ、使徒、艦、パイロットを一つの儀式へ組み込んでいたことを明らかにします。

カヲルは自分が第1の使徒から第13の使徒へ落とされたと理解し、DSSチョーカーによって命を失います。彼は死の直前までシンジを責めず、また会えると告げます。しかしシンジにとっては、自分を救おうとした相手が目の前で死ぬ出来事であり、『やり直す』計画は過去の痛みを消すどころか新しい喪失を増やします。

マリはシンジのエントリープラグを強制射出し、アスカはMark.09をヴンダーごと止めるため改2号機を自爆させます。第13号機は停止し、フォースインパクトは完遂を免れますが、NERVの計画全体が終わったわけではありません。ゲンドウと冬月は次の段階を見据え、WILLEも戦力を失い、物語は完結編へ持ち越されます。

ラスト―歩くしかない三人

シンジはカヲルの死後、再び自分で動けない状態になります。アスカはエントリープラグから彼を引き出し、アヤナミレイ(仮称)と共に赤い大地を歩き始めます。エヴァも艦も使えず、英雄的な勝利もない終幕で残されるのは、互いを好きかどうかにかかわらず、生きて移動する三人です。

アスカはシンジを甘やかさず、置き去りにもしません。彼を引っ張る行為には怒り、責任、生存の必要が同居します。アヤナミレイ(仮称)もNERVの命令から切り離されたまま後を追います。この不格好な一行が第3村へ運ばれ、完結編の生活パートにつながります。

『:Q』単独では、シンジは問題を解決せず、むしろ悪化させた地点で終わります。しかし副題の『やり直せない』は、失敗した人間に未来がないという宣告ではありません。過去を消す形ではやり直せないからこそ、結果を抱えて次の一歩を進む必要があるという問いが、次作で具体的な答えを得ます。

テーマソング「桜流し」と劇伴

テーマソングは宇多田ヒカルの『桜流し』です。喪失の直後にも季節と景色が流れていく感覚が、カヲルを失い、荒野へ出る終幕に重なります。歌詞を作中設定の説明へ置き換えることはできませんが、取り戻せない死と、それでも続く時間を感情面から受け止める曲です。

鷺巣詩郎による音楽は、ロンドンのAir Lyndhurst HallとAbbey Road Studiosで録音され、公式アルバムには本編使用曲と未使用音源が収録されました。宇宙戦の合唱、ピアノ連弾、第9交響曲を用いる破局など、音楽は場面の規模だけでなく、シンジとカヲルの親密さが儀式へ反転する流れを作ります。

『桜流し』と劇伴アルバムは別の商品・クレジットです。テーマソング、劇中で引用される既存曲、鷺巣による劇伴を一つのサウンドトラック名へまとめず、音楽索引から曲・商品・使用場面を分けて参照します。

3.0・3.33・3.333の違い

EVANGELION:3.02012年に劇場公開された上映版の番号。
EVANGELION:3.332013年のBlu-ray・DVD向けに映像・音声を再調整した版。
EVANGELION:3.333IMAX上映用の工程などを経て再調整され、2021年に4K UHD Blu-ray/Blu-ray化された96分版。

三つの番号は同じ作品の仕上げと上映・収録仕様の違いを表し、別々の物語ではありません。3.333の商品は、撮影・特技工程を分解したBreakdown、前田真宏のイメージボード、制作途中映像、次回予告素材などを特典として収録します。特典に別案があっても、完成本編の出来事を自動的に置き換えません。

現在、版を比較する場合は、画面の色、細部の作画、音響、エンドクレジット、予告など、何を比べるかを明示します。単に『Qには複数の結末がある』と説明するのは誤りです。カヲルの死、フォースインパクト未遂、三人が歩き出す結末は共通します。

スタッフと映像表現

原作・脚本は庵野秀明、総監督は庵野秀明、監督は摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉、制作はスタジオカラーです。総作画監督は本田雄、主キャラクターデザインは貞本義行、主メカニックデザインは山下いくと、音楽は鷺巣詩郎が担当しました。多数の部門を経た共同制作で、宇宙艦、エヴァ、荒廃した地表、ピアノの静かな室内を異なる映像密度で組み立てています。

前二作の第3新東京市や学校生活をほとんど見せず、巨大艦と無人のNERV本部へ舞台を限定したことで、シンジの疎外が画面全体へ広がります。説明不足に感じる部分は欠陥の一語で終わらず、主人公と観客へ同じ情報制限を課す構成として働きます。一方で、14年の空白が後続作・短編まで完全には埋まらないことも事実として分けます。

公式メインビジュアルでは、星空の下でシンジとカヲルが並びます。大規模な艦隊戦より二人の関係を前面に置く図案は、本作の感情的な中心を示します。公式場面写真、3.333映像商品、音楽商品を併記することで、人物、世界、版、音の四方向から作品を確認できます。

よくある疑問

シンジは一人でサードインパクトを起こしたのですか

『:破』の覚醒はニアサードインパクトの引き金ですが、Mark.06によって一度止められます。その後の14年間に別の段階があるため、地表の惨状までを一つの行動だけで説明しません。

なぜミサトたちは説明しないのですか

戦闘中の時間制限、機密、14年間の犠牲による感情、シンジを再覚醒させない目的が重なります。ただし、説明不足が彼をNERVへ戻す一因になったことも作品内の因果です。

カヲルは槍の罠をいつ知りましたか

セントラルドグマで二本とも同じ形に見える槍を確認した時、想定と違うことに気づき、シンジへ抜かないよう求めます。

『:Q』だけで完結しますか

完結しません。フォースインパクトは止まりますが、ゲンドウの計画とWILLEの戦いは『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』へ続きます。