杏里あいり(あんりあいり)は、漫画『魔法少女かずみ☆マギカ 〜The innocent malice〜』に登場し、「ユウリ」を名乗ってプレイアデス聖団へ復讐する魔法少女である。病気だった自分を救うため親友・飛鳥ユウリが契約し、やがて魔女となって聖団に倒された。あいりは真相を知ると「ユウリになる」と願い、姿と名前を引き受ける。救われた側が、救った友人の死を自分の存在へ背負う物語である。
杏里あいりの基本情報
あすなろ市に暮らした少女で、契約前は銀色の髪と濃い紫色の瞳を持つ。契約後は親友・飛鳥ユウリの外見へ変わり、黄色い髪と瞳になる。
ソウルジェムは胴の前面にある琥珀色の円。拳銃、短機関銃、矢、牡牛の召喚など複数の攻撃手段を使う。固有魔法は変装・変身で、他者の姿を取れる。
作中では敵役「ユウリ」として先に現れ、後から杏里あいりという正体が明かされる。記事では二つの名前を同一人物の異なる段階として扱い、飛鳥ユウリ本人と区別する。

病気と飛鳥ユウリの友情
あいりとユウリは同級生として出会う。料理をしたユウリが食中毒の濡れ衣を着せられ学校へ来られなくなった時、あいりは訪ね、真相を確かめる助けをする。二人はその後親しくなる。
二年後、あいりは重い病気で入院し、余命三か月だと告げられる。生きたい、またユウリと食事を楽しみたいと願うが、自分で病気を変える手段はない。
ユウリは幸運の印として匙を渡し、密かにキュゥべえと契約する。願いはあいりの病気を治すこと。あいりは回復を奇跡と知らず、匙が守ったと思う。
飛鳥ユウリの願いと魔女化
ユウリはあいりを治した後も、魔法で他の病人を助ける。治癒は人を救うが、そのたびに魔力を消費し、ソウルジェムを濁らせる。

料理大会へ出たユウリは途中で姿を消す。捜していたあいりは魔女の結界へ入り、プレイアデス聖団に救われる。倒された魔女の後には、ユウリへ返した匙が残る。
キュゥべえは、ユウリがあいりの治療を願ったこと、他者を治し続けて魔女になったこと、聖団がその魔女を倒したことを説明する。あいりの回復とユウリの死が、同じ契約の結果だと明らかになる。
「ユウリになる」という願い
あいりは、親友を倒したプレイアデス聖団へ怒りを向ける。魔女化の仕組みを作ったキュゥべえより、目の前でユウリを倒した少女たちを殺人者として認識する。
契約の願いは「ユウリの人生を引き継ぎ、私をユウリにして」。自分の病気を治すためではなく、亡くなった友人の外見と名前へ変わることを選ぶ。

願いによって、あいりの姿はユウリへ近づく。しかし、友人の記憶と人格すべてが復活するわけではない。あいりの怒りと喪失が、ユウリの名を使って行動する。
ユウリを名乗る復讐者
「ユウリ」はプレイアデス聖団へ接触し、かずみを狙う。イーブルナッツを人間へ埋め込み、疑似魔女のような存在を作り、戦いを拡大する。
拳銃と短機関銃による攻撃は、病院で弱っていた過去と対照的である。自分を救ってくれた友人の力を再現するのではなく、復讐のための武装へ変える。
彼女は聖団が魔女の正体を知っていたのに救わなかったと考える。しかし当時の聖団にも魔女を人間へ戻す方法はない。あいりの怒りには理由があっても、認識と事実が完全に一致するわけではない。

変装魔法と失われる自己
固有魔法は他者の姿へ変わる能力である。復讐ではユウリの姿を固定し、本人として話し、親友の人生を継いだと主張する。
姿を再現できても、相手が何を考え、どんな未来を望んだかは自動的に分からない。ユウリはあいりを生かすため契約したが、あいりが復讐で自分を失うことを望んだとは示されない。
あいりは友人を忘れまいとして、その姿の中へ自分を消す。記憶を守る行為が、杏里あいりという救われた人物の生を否定する方向へ進む。
かずみとの対決
かずみもまた、自分が誰であるかという問題を抱える。記憶を失い、後にオリジナルの御崎海香たちが知る「みちる」との関係を突き付けられる。

ユウリになろうとしたあいりと、他者の記憶から自分を探すかずみは対照になる。誰かの外見や役割を受け継いでも、同一人物になるとは限らない。
対決は善良な主人公が悪い偽物を倒すだけではない。二人とも失われた人物と現在の自分の境界に苦しみ、どの名前で生きるかを選ばなければならない。
魔女「ニ・ブルーメン・ヘルツェン」
あいりはやがて魔女「ニ・ブルーメン・ヘルツェン」へ変わる。人間の外見を一部保つように見え、あいりとユウリの境界が崩れた状態を造形で表す。
友人を失った悲しみ、復讐、他者の姿になる願いが、単一の敵として結晶する。どちらの心が残っているかを外見だけで判断できない。

プレイアデス聖団との戦いでは、再び「魔女になった友人を倒す」構図が起こる。ユウリの死を責めたあいり自身が魔女になり、同じ仕組みの中へ入る。
プレイアデス聖団はユウリを殺したのか
聖団が倒した時、飛鳥ユウリはすでに魔女であり、人間へ戻す方法は知られていなかった。放置すれば一般人と魔法少女へ被害が広がる。戦闘としては阻止が必要だった。
一方、あいりから見れば、病気を治してくれた唯一の友人が、事情を説明されないまま殺されたように見える。キュゥべえの説明は感情へ配慮せず、少女たちの対立を利用する。
「殺した」か「救えなかった」かは、立場によって意味が変わる。事実を整理しても、あいりの喪失が消えるわけではない。理解と免責を同じにしないことが重要である。

ほむら・上条恭介との対照
あいりは、病院生活を送り、親しい人物の死を契機に契約し、銃器を使う点で暁美ほむらと比較できる。二人とも大切な相手を失った後、自分の姿と行動を大きく変える。
また、他者の願いで病気や傷を治された点では上条恭介と対応する。恭介は願いの事実を知らないが、あいりは後から知り、治癒の代価を自分の責任として背負う。
類似は同一の結論を意味しない。あいりは時間を戻せず、救われた自分の生をユウリへ返すように復讐へ使う。『かずみ☆マギカ』独自の答えとして読む。
匙のモチーフと二人分の人生
あいりの意匠には大きな匙が使われる。病院で薬を飲む道具、誰かへ食事を運ぶ道具、量を取り分ける道具という複数の意味を持ち、病気だった過去とユウリに世話を受けた記憶をつなぐ。

匙は同じ器から何かをすくえても、中身そのものを作り直せない。姿をユウリへ変えた願いも、友人が過ごした時間や選択を完全には取り戻せない。あいりが引き継げるのは、救われた記憶を自分の行動へどう使うかである。
復讐の間、彼女は「ユウリならこうする」という想像で自分を覆う。しかし、本物のユウリが最後に守ったのはあいりの生命だった。自分を消して戦うほど、友人が守った結果も否定する矛盾が大きくなる。
イーブルナッツと疑似魔女
あいりはイーブルナッツを利用し、人間の感情と身体を歪めて疑似魔女のような状態を作る。魔女化したユウリを救えなかった怒りが、別の人間を魔女へ近づける手段へ変わる。
この行動は、敵を倒すためだけの戦闘より重い。無関係な人間を復讐の材料にし、聖団へ同じ喪失を体験させようとするからである。被害者であることと、新たな被害を生んだ責任は分けて扱わなければならない。

それでも記事の結論を「悪人だった」で終えると、ユウリを失った悲嘆と自己消去の過程が消える。誰の人生を生きるのかという問いまで追うことで、かずみとの対決が単なる敵味方の戦いではないと分かる。
杏里あいりを理解する要点
第一に、「ユウリ」と呼ばれる人物を二人に分ける。飛鳥ユウリはあいりを治して魔女になった親友、後にユウリを名乗るのが杏里あいりである。
第二に、あいりの願いは死者を復活させていない。外見と名を受け継いでも、行動するのは喪失したあいり自身である。このずれが復讐を悲劇にする。
第三に、聖団への怒りだけでなく契約制度を見る。治癒の願いがユウリを消耗させ、真相の説明が遅れ、魔女を戻せない状況が少女同士を殺し合わせる。あいりは敵役であり、その仕組みの被害者でもある。
