H.N.エリー(キルステン)は、TVシリーズ第4話に登場する「ハコの魔女」である。性質は憧憬。閉じこもる性格を持ち、憧れたものをガラスの中へ閉じ込め、捕らえた人間の思考や記憶を映像として読み取る。巴マミの死に苦しむ鹿目まどかを結界へ取り込み、美樹さやかが契約後の初戦で倒す相手となる。
ハコの魔女と憧憬の性質
エリーは、欲しいものへ近づくのではなく、箱へ入れて保存しようとする。ガラスの内側へ閉じ込めれば、対象は失われず、自分の外へ逃げない。しかし、閉じ込められた側の自由と時間は止まり、関係は一方的な所有へ変わる。
性質の憧憬は、相手のようになりたい気持ちや、遠くから見つめる感情を含む。魔女化後は、その距離を対話で縮めず、映像と記憶を収集することで埋めようとする。知ることと関わることが分離している。

本名としてキルステン、ハンドルネームとしてH.N.エリーという名称が示される。インターネット上の別名を思わせるが、生前の具体的な活動は本編で語られない。名称から想像できることと確定した設定を区別する必要がある。
テレビ画面を持つ魔女の造形
魔女はテレビやモニターを組み合わせたような姿で、複数の画面へ映像を流す。身体の中心がどこにあるか分かりにくく、本人の顔より、集めた映像が前面に出る。自分自身を見せず、他者の記憶を通して存在する造形である。
画面は情報を外へ伝える道具だが、結界内では相互の会話に使われない。魔女が一方的に捕らえた記憶を選び、侵入者へ見せる。通信の形を持ちながら、相手の返答を必要としない閉じたメディアになっている。
倒された瞬間には、映像機器の背後に隠れていた人形のような本体が落ちる。大きな装置と小さな身体の差は、外へ向けた像と、その奥へ隠れた存在の距離を感じさせる。

スノードームのような結界
結界は、ガラスの中へ風景を保存するスノードームに似た構造を持つ。回転木馬、樹木、光、映像機器が閉じた空間へ並び、楽しい記憶の模型のように見える。一方、外から触れられず、中の時間も自由に進まない。
思い出を箱へしまうことは、忘れないための行為である。しかし、変化を止めて保存すれば、新しい経験と結び付け直すこともできない。エリーの結界では、記憶を守ることと記憶へ閉じこもることが同じ仕組みになる。
華やかな遊具と不規則な画面が同居するため、懐かしさだけでなく不安も生まれる。幸せだった時間を残したい願いが、現在の他者を捕らえる暴力へ変わっている。

使い魔ダニエルとジェニファー
ダニエルとジェニファーは、ハコの魔女に従う使い魔である。役割は運搬で、触れたものを運びやすい状態へ変える。魔女が憧れたものを箱へ収集するため、対象を結界の奥へ運ぶ作業を担う。
彼らの役割は、保存の前に対象を物として扱うことを示す。誰かの記憶や人格を持つ人間でも、魔女の秩序では運搬できる収集物になる。憧れが相手への尊重を失い、所有欲へ変わった状態である。
使い魔の個体名があっても、人間と同じ人格や関係が描かれるわけではない。設定上の仕事と画面上の行動を確認し、生前の知人などへ直接対応させる推測は避けたい。
第4話のまどか
第3話でマミの死を目撃したまどかは、魔法少女になることを恐れ、自分に何ができるか分からなくなる。学校の日常へ戻っても、マミが一人で戦い、誰にも知られず消えた事実を忘れられない。

まどかはマミの部屋を訪れ、生活の痕跡だけが残っていることを確かめる。魔法少女の死は一般の人々へ知られず、事故や失踪として処理される可能性がある。誰かが覚えなければ、その生き方ごと消えてしまう。
エリーの結界が記憶を閉じ込める場所であることは、まどかの状態と重なる。まどかはマミを忘れたくないが、死の場面へ心を固定されれば現在の危険へ対応できない。記憶を持つことと、その記憶に捕らわれることの差が問われる。
マミの死を映すモニター
結界の画面には、まどかが目撃したマミの死を思わせる映像が現れる。魔女は捕らえた人間の思考を読み、最も苦しい記憶を外へさらす。まどかは自分の内側にあった恐怖を、結界の風景として見せられる。

これはマミ本人の記憶を保存しているのではなく、まどかの心に残った像を利用している。画面に映る出来事と、その出来事をどう受け止めたかは同じではない。魔女は後者へ侵入し、逃げ場をなくす。
映像を繰り返し見せる攻撃は、身体を直接傷つけるだけでなく、思考を止める。考える前に攻撃することが攻略として示されるのは、記憶の分析へ引き込まれるほど魔女の支配が強まるためである。
美樹さやかの初戦
まどかが結界へ捕らえられた時、契約を終えたさやかが魔法少女として現れる。複数の剣を使い、使い魔と魔女へ攻撃し、まどかを救う。第3話で守られる側だった人物が、次の話で救う側へ移る。

さやかは恭介の腕を治す願いを叶え、力を得た直後である。この戦いでは判断も攻撃も成功し、魔法少女になった選択が正しかったように見える。エリーは、さやかの出発点にある勝利を作る相手となる。
しかし、制度の真相と魔力の消耗はまだ知らされていない。初戦の成功は、後の破綻を無効にしない一方、さやかの善意が本物だったことを示す。彼女は力を誇示するためではなく、友人を助けるために戦場へ入る。
記憶を閉じ込めることの危険
失った人物を忘れないことは大切だが、記憶を変化しない映像へ固定すると、現在の相手との関係を作れない。エリーは憧れたものをガラスへ保存し、相手の心まで読めるのに、対話はしない。
ほむらもまた、まどかを救えなかった時間軸の記憶を一人で抱える。反復するほど過去の結論が強くなり、現在の仲間へ説明する言葉を失う。エリーと同一ではないが、記憶が他者との距離を広げる危険が響き合う。

『叛逆の物語』の結界も、失われた日常を再現して閉じ込める空間である。幸福な記憶を保存することが、外の世界へ戻る自由と衝突する。ハコの魔女は、この問題を早い段階で小さな形にしている。
インターネットとハンドルネームのモチーフ
H.N.はハンドルネームを思わせ、エリーはネット上で使う別名として読める。画面に囲まれ、自分の身体を隠した姿も、匿名のまま他者を観察する関係を連想させる。ただし、本編は具体的な職業や活動を確定していない。
匿名性は、自分を守りながら外の世界へ触れる方法になり得る。一方、相手を画面上の像としてだけ扱えば、現実の人格や意思を見落とす。魔女化後のエリーは、憧れを収集物へ変える方向だけを残している。

現代的な映像機器と、童話的な回転木馬やスノードームが同じ空間にある点も特徴である。新しい通信手段を持っても、孤独や記憶への執着が消えるわけではない。異なる時代のモチーフが、閉じこもる感情で結ばれている。
第3話から第4話への転換
第3話では、魔法少女になろうとしたまどかがマミの死を見て契約をためらう。第4話では、そのまどかが魔女に捕らえられ、先に契約したさやかが救う。二人の立場が入れ替わり、同じ経験から異なる選択が生まれる。
エリーの記憶を映す能力によって、第3話の衝撃は一話で忘れられず、次の事件へ持ち越される。物語はマミの死を驚きとして消費せず、残された人物の判断を変える記憶として扱う。
同時に、さやかの勝利は新しい希望を生む。暗い記憶だけで物語を止めず、別の人物が行動を始める。ハコの魔女の閉じた結界を破ることが、物語を次の段階へ動かす。

物語上の役割
エリーは、まどかの喪失とさやかの出発を一つの事件でつなぐ。マミの死を映像として再提示しながら、新しい魔法少女がその結界を破る。過去を忘れず、過去だけに閉じこもらないための転換点となる。
また、魔女の攻撃が身体だけでなく記憶と認識へ及ぶことを示す。結界は敵の住処ではなく、侵入者の心を材料に変化する空間である。以後の魔女や『叛逆の物語』の結界を理解する手掛かりになる。
憧れたものを閉じ込める性質は、相手を救いたい人物たちの行動にも警告を与える。大切だから手元に置くことと、大切な相手の選択を尊重することは同じではない。シリーズ後半まで続く問いを先取りする魔女である。
