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キャプテン・マーベル

1995年の地球に不時着した記憶のない女性兵士ヴァースが、若き日のニック・フューリーと組んでクリー帝国の嘘を暴き、自分が「キャロル・ダンヴァース」という地球の戦闘機パイロットだったことを取り戻していく——『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』を繋ぐMCUフェーズ3の屈指の前史。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2019年3月8日 日本公開: 2019年3月15日 監督: アンナ・ボーデン/ライアン・フレック
キャプテン・マーベル 公式ポスター

作品データ

作品
キャプテン・マーベル
原題
Captain Marvel
媒体
映画(実写)
米国公開
2019年3月8日
日本公開
2019年3月15日
監督
アンナ・ボーデン/ライアン・フレック
脚本
アンナ・ボーデン/ライアン・フレック/ジェニーヴァ・ロバートソン=ドゥウォレット
原案
ニコール・パールマン/メグ・ルフォーヴ/ロバートソン=ドゥウォレット/ボーデン/フレック
原作
マーベル・コミック『キャプテン・マーベル』(キャロル・ダンヴァース版/ロイ・トーマス、ジーン・コラン、ジョー・シノット、ジェリー・コンウェイ、ジョン・バーンらの諸作)
製作
ケヴィン・ファイギ
音楽
パイナー・トプラク
撮影
ベン・デイヴィス
編集
デブラ・ニール=フィッシャー/エリオット・グレアム
視覚効果
Industrial Light & Magic/Lola VFX/Animal Logic/Trixter/Framestore/Luma Pictures/Scanline VFX ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
上映時間
123分
製作費
約1億5200万〜1億7500万ドル
興行収入
全世界 約11億2820万ドル
MCU区分
フェーズ3 第21作/インフィニティ・サーガ後段。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と『アベンジャーズ/エンドゲーム』の間に公開
物語内時系列
本編は1995年(地球パートはおおむね6月)。冒頭の宇宙パートはクリー帝国側の現在時刻。ポスト・クレジット1は2018年(インフィニティ・ウォー後)に接続
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全35章 / 約23K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

キャプテン・マーベルは、2019年公開のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品である。1995年の地球に不時着した記憶のない女性兵士ヴァースが、若き日のニック・フューリーと組んでクリー帝国の嘘を暴き、自身が地球の戦闘機パイロット「キャロル・ダンヴァース」だった過去を取り戻していく。『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』を繋ぐフェーズ3屈指の前史として位置づけられる。

00概要

『キャプテン・マーベル』(Captain Marvel)は、アンナ・ボーデンとライアン・フレックが共同監督を務め、ボーデン、フレック、ジェニーヴァ・ロバートソン=ドゥウォレットの三人で脚本を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の通算21作目であり、フェーズ3の第6作にあたる。米国では2019年3月8日、日本では同月15日に公開された。

原作となるのは、マーベル・コミックで「キャプテン・マーベル」の名を受け継いできた歴代キャラクターのうち、米国空軍パイロット出身のキャロル・ダンヴァース版だ。本作は、クリーとスクラルの長きにわたる戦争、宇宙の戦士ヴァースとしての記憶、空軍時代に育んだマリア・ランボーとの絆、そしてスプリーム・インテリジェンスとの決別という要素を、コミックの長い歴史からそれぞれ抽出し、90年代の地球と銀河の双方をまたぐ前史として再構成している。製作のケヴィン・ファイギは、本作を「アベンジャーズ集合篇の最終決戦に間に合うよう、その前史をついに語る時が来た」と位置づけ、続く『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年4月公開)への発射台として設計した。

本作はMCU初の女性キャラクター単独主演作であり、その点で歴史的な意義を持つ。主演のブリー・ラーソンは、2013年の『ショート・ターム』、2015年の『ルーム』で高く評価され、後者でアカデミー主演女優賞を受賞した実力派。本作以降も続編『マーベルズ』(2023)まで同役を演じ続けることになる。共演には、フェーズ1からおなじみのニック・フューリーをディエイジング処理で1990年代前半の若き姿として演じたサミュエル・L・ジャクソンをはじめ、ジュード・ロウ(ヨン・ロッグ)、ベン・メンデルソーン(タロス)、アネット・ベニング(マル=ヴェル/ローソン博士/スプリーム・インテリジェンス)、ラシャーナ・リンチ(マリア・ランボー)、ジェマ・チャン(ミン=エルヴァ)、リー・ペイス(ロナン・ジ・アキューザー)、そして若き日のフィル・コールソンを演じたクラーク・グレッグらが名を連ねる。

本記事は物語の全貌をネタバレ前提で整理している。冒頭のハラの悪夢に始まり、トロスでのスクラル捕獲、地球C-53への墜落、若きフューリーとの出会い、ローソン博士=マル=ヴェルの正体、ペガサス計画への潜入、テッセラクトの所在、ルイジアナでのマリア・ランボーとの再会、スプリーム・インテリジェンスの檻を破っての覚醒、軌道上でロナン率いるクリー艦隊を退ける戦い、ヨン・ロッグの追放、そして二つのポスト・クレジット・シーン――2018年の現代パートでアベンジャーズの残党とフューリーのポケベルに応答するキャロルが登場する場面、グースがフューリーの机にテッセラクトを吐き戻す場面――まで、その流れをすべて追っていく。

概要

主要データ

原題
Captain Marvel
監督
アンナ・ボーデン/ライアン・フレック
脚本
アンナ・ボーデン/ライアン・フレック/ジェニーヴァ・ロバートソン=ドゥウォレット
原作
マーベル・コミック(キャロル・ダンヴァース版『キャプテン・マーベル』)
音楽
パイナー・トプラク
撮影
ベン・デイヴィス
米国公開
2019年3月8日
上映時間
123分
ジャンル
スーパーヒーロー、SF、宇宙活劇、90年代レトロ

01あらすじ

以下は、結末と二つのポスト・クレジット・シーンを含む全編のあらすじである。自らの名を「ヴァース」だと信じ込まされていたクリーの戦士が、地球で「キャロル・ダンヴァース」というかつての自分と再会する。そして自分の力の本当の出どころと、クリー帝国に奪われていた記憶の真相を取り戻すまでを描いた物語である。

あらすじ

ハラの悪夢と訓練

映画は、クリー帝国の首都惑星ハラの夜から幕を開ける。長身の女性兵士ヴァースは、眠りのなかで断片だけの夢を見ている。爆発で吹き飛んだ実験機の残骸、見覚えのない年配の女性、空気を裂く閃光、そして誰かから大事な何かを手渡される自分の手——どれも繋がらず、本当に自分のものなのかも判然としない。汗ばんで目を覚ました彼女は街路へ出て、上官にして指導役のヨン・ロッグの家へ向かう。

ヨン・ロッグはクリーの精鋭遊撃部隊スターフォースの隊長で、ヴァースに格闘術と能力の制御を叩き込んできた人物である。屋上で訓練を始めると、彼はこう告げる。「お前の力は感情から来ている。怒り、痛み、自尊心——その全部をコントロールしろ。クリーらしい兵士になるまで、お前は本当のお前じゃない」。感情を抑え、命令に従い、戦術として機能する——クリーが理想とする戦士像を、彼女はひたすら教え込まれ続けてきた。

ヴァースの腕からは、青い光をまとった粒子状のエネルギー「フォトン・ブラスト」が放たれる。だが彼女自身は、この力がどこから来たのか、なぜ自分にだけ宿っているのかを知らない。クリーの記録によれば、約6年前、瀕死で意識不明の彼女が発見され、ヨン・ロッグが自らのクリーの血を輸血して救ったことになっている。記憶は最初の一日からしか繋がっておらず、それ以前の人生は彼女のなかに存在しない。

二人は、銀河の最高権威「スプリーム・インテリジェンス(最高知性体)」のもとへ参拝に向かう。スプリーム・インテリジェンスは個体としての実体を持たず、面会者の前には「その人物が最も尊敬する人間」の姿となって現れるとされる。ヴァースの前に立つのは、記憶にないはずの中年の女性科学者だ。その顔だけは何故か知っているのに、誰なのかは分からない。スプリーム・インテリジェンスは「お前はまだ感情を抑えきれていない。お前を完成させるには、もう少しの忍耐が要る」と告げ、彼女を次の任務へと送り出す。

トロス潜入とスクラル捕獲

スターフォースが次に向かう戦場は、辺境の惑星トロス。クリーが数十年にわたって戦い続けてきた敵が、変身能力を持つ知性体スクラル人である。スクラル人は他者のDNAを読み取り、その姿と声を完璧に複製してしまう。潜入と工作で銀河を脅かす存在だ——というのがクリーの公式見解だ。トロスでは、クリー側に協力していた潜入工作員が消息を絶ち、スクラルがその情報を握ったまま地下へ潜伏したという。スターフォースは、工作員の救出と情報の確保のために送り込まれる。

現場でヴァースは、自分の力を抑え込むよう繰り返し命じられる。撃ち合いの最中、彼女はとっさに「青い光」を放ちかける。だが指輪型の抑制装置によって、フォトン・ブラストの出力は人為的に封じられている。力の本当の出どころも、その真の最大出力も、クリー軍は彼女自身に決して知らせていない。

ヴァースはスクラル軍に捕らえられ、敵艦へ運び込まれる。敵の指揮官タロスは、彼女を椅子に固定し、コミックで「メモリー・プローブ」と呼ばれる装置で記憶を強制的に再生させ、ある場面を探そうとする。映写機のように映し出される記憶の断片——空軍学校での落下訓練、墜落するロケット試験機、爆発へ向かって走る彼女自身、年配の女性科学者の死、何かを発射する銃口——その一つひとつに、観客は彼女とともに立ち会わされる。タロスは何かを探している。それが何なのか、本人にはわからない。

ヴァースは脱出する。フォトン・ブラストで艦内を突き破り、脱出ポッドで近くの居住惑星——クリーの呼び名でC-53、すなわち地球——へと墜落していく。

ブロックバスター・ビデオ店とニック・フ…

1995年6月、ロサンゼルス。一人のスーパー戦士の女性が、ブロックバスター・ビデオの天井を突き破り、店内へと墜落する。VHSテープが床に散らばるなか、彼女は身を起こすと、ピンボール台に貼られた『トゥルー・ライズ』の宣材を一撃で破壊し、自分が何に落ちたのかを確かめる。クリー製の通信機は、地球の電子機器にはつながらない。

通報を受けて現場に駆けつけたのは、SHIELDのデスクワーカー、エージェント・ニコラス・ジョセフ・フューリーである。ここで描かれる彼は、フェーズ1以降で観客が知るフューリーよりずっと若い。両目とも無事で、革のロングコートも、白い顎髭もまだない。サミュエル・L・ジャクソンの実写映像にデジタル処理(ディエイジング)を施し、1990年代半ばの俳優の顔として作り直した姿だ。

フューリーは墜落してきた女性を「謎の宇宙人」として警戒し、新人のフィル・コールソン(クラーク・グレッグ/同じくディエイジング処理)を伴って追跡に乗り出す。だが、ヴァースは追跡中の地下鉄で、別人に変身したスクラル工作員——フェイス・スクラル——を撃退してみせる。「変身する宇宙人が地球にも来ている」という彼女の途方もない話を、フューリーは半信半疑ながら信じ始める。

ヴァースはフューリーに、自分が追っている手がかりを明かす。記憶の片隅に現れる年配の女性科学者の名と、彼女が関わっていた実験機の名——「Pegasus(ペガサス)」。フューリーがSHIELDのデータベースを照合すると、その符号は空軍とNASAが共同で進める極秘プロジェクトのコードネームだった。

ペガサス計画と若きフューリー

ヴァースとフューリーは、アメリカ国内にあるペガサス計画基地に潜入する。そこで明らかになったのは、公式記録に残された一つの事実だった。6年前——1989年——この基地で「ライト・スピード・エンジン」を搭載した試験機が墜落事故を起こし、テストパイロットの女性キャロル・ダンヴァース大尉と、エンジンの設計者ウェンディ・ローソン博士(アネット・ベニング)の両名が死亡したというのだ。ヴァースが記憶のなかで見ていた年配の女性科学者、それがローソン博士本人である。

問題は、書類に添えられたキャロル・ダンヴァース大尉の顔写真が、ヴァース自身の顔と完全に一致していたことだ。自分はキャロル・ダンヴァースという地球の人間であり、6年前に死んだことになっている女性——ヴァースはここでようやく、その事実を突きつけられる。

潜入の途中、二人は基地の格納庫の奥で、奇妙なオレンジ色の縞模様の猫と出会う。猫好きの中年男フューリーは、当時観ていた映画の登場人物にちなんで「グース」と名付け、抱き上げてあやす。一方のヴァースは、なぜか猫を前に不穏な気配を察するのだが、その理由が明かされるのは終盤になってからだ。

基地の管制を担うスターフォースの追跡を察知した二人は、ローソン博士の研究記録を含むデータベースを抜き取り、基地からの脱出を図る。若き日のコールソンが上層部の追手をわざと逸らしてくれた、そのわずかな隙を突いての脱出だった。コールソンは「あの女性は脅威じゃない、と思った」とだけ短く呟き、自分でも理由のつかないまま、彼女を助ける側に回る。のちのシリーズで彼が示し続ける「ヒーローを信じる目」——その起点が、この一場面にある。

ペガサス計画と若きフューリー

ルイジアナとマリア・ランボー

ローソン博士の暗号文を辿った先は、ルイジアナ州の田舎町ノース・ロチェスターだった。そこに暮らしていたのは、空軍時代にキャロルの僚機を務めた、もっとも近しい親友マリア・ランボー(ラシャーナ・リンチ)——コードネーム「フォトン」——と、その娘モニカ・ランボー(11歳のアキラ・アクバル)である。マリアと娘モニカは、キャロルが6年前の事故で命を落としたものと信じてきた。

玄関先で再会したマリアは、ヴァースの顔を見た瞬間に泣き崩れる。死んだはずの親友が、6年の時を経て自宅の前に立っているのだ。彼女は自らをキャロルではなく「ヴァース」と名乗り、過去のほとんどを覚えていないと打ち明ける。マリアは、かつての彼女がどんな人物だったかを丁寧に語って聞かせる。空軍学校でただ一人の女性として下級生いじめに耐え抜き、戦闘機テスト・パイロットの座を勝ち取り、女性は戦闘任務に就けないという当時の規則と戦い続けた——芯が強く、しばしば不器用で、いつも誰より先に走り出す、そんな友だったと。

モニカは、母の親友だったキャロルを「叔母のような存在」として記憶しており、屋根裏から空軍時代のキャロルの私物を運び出してくる。フライト・ジャケット、写真、絵葉書。家族写真に写る自分の姿を目にしたヴァースは、その日初めて「ヴァース」ではなく「キャロル」として、何かを思い出し始める。

そこへ、ヴァースが追っていたタロスが彼女たちの前に姿を現す。タロスはこれまで人間「タレント・コリンス」に化けてSHIELDに潜り込んでいたが、ついにその偽装を解く。観客がこの瞬間に初めて目にするのは、敵としてのスクラルではない。家族と同胞が生き延びる場所を探し求める、一人の指揮官としてのタロスである。

マル=ヴェルの真実とスクラルの真相

タロスは、ヴァースが記録として保存していたローソン博士の音声日誌、その最後の断片を再生する。声も姿も地球人のものだが、語られる中身はクリー帝国の高位科学者のそれだった。ローソン博士の正体は、地球に潜伏していたクリーの科学者マル=ヴェルその人だったのだ。マル=ヴェルは、自らが属する帝国が何十年にもわたってスクラル人に仕掛けてきた殲滅と難民狩りに反旗を翻し、スクラルのための避難所と移住計画を、地球の軌道上に隠した宇宙ステーションで密かに進めていた。「ライト・スピード・エンジン」とは、難民たちを帝国の手の届かない遠い銀河へ送り届けるための装置だったのである。

1989年の墜落事故の真相も、ここで明かされる。キャロル・ダンヴァース大尉はあの日、ローソンとともに試験機で離陸し、空中でクリーの追っ手——若きヨン・ロッグ率いるスターフォース——の襲撃を受けた。墜落したロケットの中、撃たれる寸前のローソンは、ライト・スピード・エンジンの動力源であるエネルギー・コアを敵に渡すまいと、キャロルに最後の命令を下す。地上へ降りて、エンジンを破壊しろ——。キャロルはローソンの銃を握り、エンジン・コアを撃ち抜いて爆発させた。その爆発のエネルギーが、彼女の身体に直接吸収されたのだった。

つまりキャロル・ダンヴァースのフォトン・ブラスト、その本当の源は、クリーの輸血でも遺伝子改造でもなく、地球で起きた一人の人間の自己犠牲的な選択と、その日に吸収した一片のエネルギーだったのである。彼女は6年もの間、自分の力の出どころも、かつての自分が誰だったかも、すべて偽って教え込まれていたのだ。

そして、スクラル人が地球の各機関に潜入していた理由も明かされる。彼らは銀河で迫害される難民の生き残りであり、隠されたマル=ヴェルの宇宙ステーションと、ローソンが遺したエンジン・コア——すなわちキャロル本人——を探し求めていた。タロスの妻ソレンと娘もまた、ロケットの墜落以来、地球の軌道上のステーションに身を寄せていたのである。

スプリーム・インテリジェンスの檻を破る

ヴァース、フューリー、タロス、マリアの一行は、軌道上に隠されていたマル=ヴェルの宇宙ステーションを目指す。だが、先回りしていたヨン・ロッグらスターフォースの待ち伏せに遭い、ヴァースは捕らえられてしまう。そして再び、スプリーム・インテリジェンスのインターフェース空間へと拘束される。

ここで、スプリーム・インテリジェンスがキャロルの前に「ローソン博士」の姿で現れていた理由が明らかになる。彼女がもっとも尊敬し、「立ち上がれ」と教え続けた指導者——その正体はクリー帝国の高位者ではなく、マル=ヴェルだったのである。クリー帝国は彼女を支配下に置くため、彼女が最も慕う人物の姿を借り続けていたのだ。

感情を持つな、立ち上がるな、お前の力はわれわれが与えたものだ——スプリーム・インテリジェンスはキャロルにそう繰り返し命じる。だが、彼女の記憶はすでに戻っている。スクリーンに映し出されるのは、空軍学校でいじめに屈しなかった少女時代、ゴーカートで転んでも父親の手を借りずに立ち上がった子ども時代、そしてロケットに乗り込む直前のキャロル。そのどれもが、「倒れても、必ず立ち上がってきた」という一つの自画像で繋がっていく。

キャロルは、首と手首に巻かれた抑制装置の指輪型コントローラーを、フォトン・ブラストで内側から焼き切る。これまでクリーの限界値で抑え込まれてきた青い輝きは、本来の出力を解き放たれ、オレンジから黄金へと色を変えていく。スプリーム・インテリジェンスのインターフェースは砕け散り、彼女は自らの意思でスーツの色をクリーの緑から赤・青・金へと塗り替える。「お前はわれわれが作ったヒーローだ」と告げる声に、彼女は短く返す——「私は六年もお前に証明し続けてきた。もうそれをやめる」。

スターフォースとロナンのクリー艦隊

解放されたキャロルは、ステーション内で待ち構えていたスターフォースの面々——ミン=エルヴァ、コラス、ブロン=チャー、アット=ラスら全員を、たった一人で叩きのめす。「家族」だと信じ込まされてきた相手の正体は、自分を監視し続けてきた監督者と、その手駒にすぎなかった。その事実を冷静に受け止め、彼女は戦いのなかで過去の関係に決着をつける。

同じころ、地上に残ったフューリーとマリアはタロスとともに、難民をマル=ヴェルのステーション奥の保管区画へと移す。そこでグース——実はクリー帝国でも危険生物とされる「フラーケン」と呼ばれる異星生物で、口のなかに小さな次元ポケットを隠し持っている——が、保管庫の「テッセラクト」を呑み込む形で回収してみせる。ライト・スピード・エンジンの真の動力源であったこのテッセラクトは、のちにMCUで「スペース・ストーン」を収める容器だと判明する、シリーズ全体の鍵を握る装置だ。

一方、宇宙ではロナン・ジ・アキューザー(リー・ペイス)率いるクリーの巡航艦隊が、地球を「核兵器による浄化」の標的として接近していた。難民を守る最後の障害は、この艦隊そのものである。キャロルはフューリーらを乗せたマル=ヴェルの貨物船を地球へと発進させ、自らは単身で大気圏外へ飛び出すと、艦隊が放った核ミサイルの群れを一つ残らず空中で撃ち砕く。最後の一発は片手で受け止め、そのまま握り潰した——「彼女、あの男を倒すのに、撃つ必要すらないぞ」。艦内のロナンはそう呟き、撤退を命じる。

戦いの終局、地上に堕ちたヨン・ロッグとキャロルが対峙する。ヨン・ロッグは「素手で殴り合え、お前が本物のクリーの兵士であることを最後に証明してみせろ」と挑発する。キャロルはしばし彼を見つめ、フォトン・ブラストを一発、無造作にその胸へと撃ち込んで答える——「私は何も、お前に証明する必要はない」。砂塵のなかに倒れるヨン・ロッグ。彼女は彼の脱出ポッドにメッセージを託してハラへ送り返し、スプリーム・インテリジェンスへの宣戦布告とした。

スターフォースとロナンのクリー艦隊

別れ、ポケベル、グース

戦いが終わると、キャロルはマリアとモニカ、そしてフューリーに告げる。タロスたちと共に銀河へ出て、彼らの新たな安住の星を探すのだと。地球は彼女の故郷だが、まだ宇宙には救うべき人々が残っている。ここにとどまってはいられない。モニカは新しい飛行スーツの色を「赤・青・金」に塗り替えてはどうかと提案し、こう言葉を添える。「お母さんも、私も、あなたが戻ってくる場所はここにあるよ」。

別れ際、キャロルはフューリーに一台の改造ポケベルを手渡す。銀河のどこからでも、彼女本人へ直接信号を送れる装置だ。「本当の緊急事態以外で押すな」と、キャロルは念を押す。このポケベルこそ、本作から23年後の地球で、フューリーが『インフィニティ・ウォー』の最後、塵となって消える直前に押すことになる装置である。

別れのあと、SHIELDの本部に戻ったフューリーは、地球外の脅威に立ち向かう集合チームの構想を練りはじめる。キーボードに向かい、空軍時代のキャロル・ダンヴァースのコードネーム——マル=ヴェルの旗号でもあった「アベンジャー」——から取って、新たな計画にこう名づける。「アベンジャーズ・イニシアチブ」。のちの『アイアンマン』(2008)のポスト・クレジット・シーンで語られる「アベンジャーズ計画」、そして『アベンジャーズ』(2012)の集合篇へと連なる、シリーズ全体の出発点となる名が、ここで生まれた。

オフィスの机の上では、フューリーの相棒となったオレンジ色の猫グースが、ひょいと机に飛び乗る。ぶっきらぼうに伸びをしたかと思うと、フューリーの顔めがけて爪を立てた。彼の左目に深い傷が走る。これこそ、フェーズ1以降の観客がよく知る「眼帯のフューリー」、その傷の正体だ。フューリーが後輩たちに繰り返し語っていた「俺の眼は最後に信じた相手から取られたんだ」——その相手はヒドラでもクリーでもなく、フラーケンのグースだった。本作の、意地悪くも美しいオチである。

ここまでが全編のあらすじである。続いて二つのポスト・クレジット・シーンと、登場要素、人物、制作、興行、批評、テーマ、見る順番、FAQの順で章を続ける。

ポスト・クレジット・シーン

本作には、エンドロール後に二つのポストクレジット・シーンが用意されている。最初のミッドクレジット・シーンは、物語内の時間軸から23年後——『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のラスト直後にあたる現代へと、そのまま接続する。

舞台はアベンジャーズ施設の一室。ブルース・バナー、ナターシャ・ロマノフ、スティーブ・ロジャース、ジェームズ・ローズが、机の上に置かれた一台の装置を取り囲んでいる。フューリーが愛用していた古いポケベルだ。銀河のどこからでも信号を送れるこの装置は、本作の終盤でキャロルから手渡されたものである。サノスの指パッチンで宇宙の半分が消え去る寸前、フューリーが姿を消す直前に押したそれは、いまもなお何かを発信し続けている。

「装置の信号源を辿れ」。ロジャースがそう命じた瞬間、画面が一度暗転する。すると背後から「あのポケベルを呼んだのは誰?」という声が聞こえてくる。振り向けば、22年ぶりに地球へと帰還したキャロル・ダンヴァースが立っている。次作『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)へとつなぐ、シリーズ全体を見渡しても最大級の橋渡しとなる一場面だ。

二つ目のポストクレジットは、ぐっと軽妙な味わいのシーンである。舞台はフェーズ1以前のニック・フューリーのオフィス。書類が積み上がった机の上で、グースがゆっくりと伸びをしたかと思うと、大きく口を開け、青いキューブ——テッセラクト——を吐き戻し、机の上にコトンと置く。本作の終盤、フューリーがグースを「ただの猫」と思い込んで机を共有していた間も、テッセラクトはずっとグースの胃の中の小さな次元ポケットに収まっていた、というわけだ。後の『アベンジャーズ』(2012)でロキがテッセラクトを盗み出す、その前史としても辻褄が合う。

登場要素

本作に登場、あるいは言及される主な要素を分類して紹介する。ここに挙げる固有名詞は、本作以降のMCUを理解するうえで手がかりとなるはずだ。

  • キャロル・ダンヴァース/ヴァース/キャプテン・マーベル
  • ニック・フューリー(若き日)
  • フィル・コールソン(新人時代)
  • マリア・ランボー(フォトン)
  • モニカ・ランボー(11歳)
  • ウェンディ・ローソン博士/マル=ヴェル
  • タロス(スクラル指揮官、別名タレント・コリンス)
  • ソレン(タロスの妻)と娘

  • ヨン・ロッグ(スターフォース隊長)
  • スプリーム・インテリジェンス(最高知性体)
  • ロナン・ジ・アキューザー(クリー艦隊指揮官)
  • ミン=エルヴァ(スターフォースの狙撃手)
  • コラス(追跡者)
  • ブロン=チャー
  • アット=ラス(医療技師)

  • ノラ/ノース・キャロル(少女期)
  • ジョセフ・ダンヴァース(キャロルの父/回想)
  • スティーブ・ダンヴァース(兄)
  • 空軍時代の同僚
  • SHIELDのケラー局長
  • SHIELDのトーマス・ケラー副長(実はタロス)

  • クリー帝国/スターフォース
  • スクラル難民集団
  • SHIELD(戦略国土調停軍)
  • 米空軍/NASA
  • ペガサス計画(P.E.G.A.S.U.S.)
  • 後の構想:アベンジャーズ・イニシアチブ

  • ハラ(クリー帝国首都星)
  • 辺境惑星トロス
  • 地球C-53(1995年のロサンゼルス、ルイジアナ、ペガサス基地)
  • ブロックバスター・ビデオ店
  • マル=ヴェルの軌道上宇宙ステーション
  • クリー艦隊の航宙圏

  • テッセラクト(スペース・ストーンの容器)
  • ライト・スピード・エンジン
  • メモリー・プローブ(記憶探査機)
  • フォトン・ブラスト抑制装置(首輪/指輪型)
  • フューリーの改造ポケベル(キャロル直通)
  • クリーの通信機・武器
  • スーパーパワード・スーツ

  • フォトン・ブラスト/ビノミアル・エネルギー
  • 飛行と大気圏外行動
  • クリーの輸血と義態強化
  • スクラルの変身能力
  • スプリーム・インテリジェンス・インターフェース
  • 「立ち上がる」という主題

  • 2018年(インフィニティ・ウォー後)のアベンジャーズ施設
  • フューリーのポケベル発信
  • キャロルの22年ぶりの帰還
  • フューリー机上のグース
  • グースが吐き戻すテッセラクト

13主要登場人物

本作には数多くの人物が登場するが、物語の重心はキャロルを軸とする六人――ヨン・ロッグ、タロス、フューリー、マリア・ランボー、マル=ヴェル/ローソン博士、そしてグース――の周囲に置かれている。ここからは、それぞれの立ち位置と演じる俳優を整理しておきたい。

キャロル・ダンヴァース/ヴァース/キャ…

本作の主人公にして語り手。6年前の事故で死亡したとされる米国空軍のテスト・パイロットである。墜落の瞬間、ライト・スピード・エンジンのコアを撃ち抜いて爆発させ、そのエネルギーを身に吸収した。これにより、フォトン・ブラスト(後にビノミアル・エネルギーとも呼ばれる)を操る存在へと変わる。やがてクリーの陣営に拾われ、自らの過去も能力の出どころも、ともに「クリーから与えられたもの」と教え込まれたまま6年を過ごしてきた。

本作のキャロルが乗り越えるのは、敵そのものというより、「お前の力は誰かから貸し与えられたもので、お前はそれを返さねばならない」という他者の論理だ。クライマックスでスプリーム・インテリジェンスの拘束を破るとき、彼女が手放すのは怒りではなく、これまで証明し続けてきた義務感のほうである。本作はその瞬間に、最大の高揚をクライマックスへと託している。

演じるのは、2015年の『ルーム』でアカデミー主演女優賞を受賞したブリー・ラーソン。本作で実写スーパーヒーロー映画の主役に初めて挑んだ。撮影前には9ヶ月にわたる身体トレーニングを積み、押し車を引く負荷訓練の動画が公開当時に話題を呼んだ。ラーソンは本作以降も、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)のポスト・クレジット、そして『マーベルズ』(2023)まで、同じ役を演じ続けている。

キャロル・ダンヴァース/ヴァース/キャ…

若き日のニック・フューリー

本作のフューリーは、フェーズ1以降の観客がよく知る、革のロングコートに眼帯姿の戦略家ではない。1995年、SHIELDの中堅エージェントとして登場し、現場捜査と地味な記録作業を兼ねるデスクワーク寄りの人物だ。両目はまだ揃っており、ベービー・フェイス・スマッシャーなどと軽口を口にする、肩肘の張らない四十代の働き手として描かれる。キャロルとの掛け合いは、互いへの警戒から始まる。やがて相手の嘘を見抜き合う共同捜査の段階を経て、最後には「キャロル・ダンヴァースという人物に深い信頼を寄せる男」へと変わっていく。フューリーという人物の一連の変化が、丁寧に積み上げられている。

サミュエル・L・ジャクソンは、本作のためにLola VFXによる「フェイシャル・ディエイジング」処理を受けた。現役のジャクソンを撮影した映像を一フレームずつ取り出し、彼自身の1990年代の出演作(『パルプ・フィクション』『ジャッキー・ブラウン』など)の顔写真と照らし合わせながら、皮膚の張りや皺、頬の輪郭をデジタルに若返らせていく手法である。後年のシリーズでも同種の処理は多用されるが、長尺のパートで違和感なく成立させた代表例として、本作のディエイジングは業界の参照点となった。

本作の終盤、フューリーが手帳に書き残す「アベンジャーズ・イニシアチブ」。その命名の由来は、キャロル本人の空軍時代の機体に記された「Avenger」のサインだとされる。『アイアンマン』(2008)のポスト・クレジット、『アベンジャーズ』(2012)の集合篇、そして『インフィニティ・ウォー』(2018)の灰のシーン——ジャクソンが長きにわたり演じ続けたフューリーの起点が、本作で初めて画面に描かれる構造になっている。

タロス/スクラル人

本作の前半で「ヴィラン」として登場するのが、変身能力を持つスクラル人の指揮官タロスである。クリーの公式見解では、銀河を脅かす侵略者とされる種族だ。だが物語が中盤を過ぎると、その立場は完全に反転する。タロスは銀河で迫害される難民の集団を率いるリーダーであり、妻ソレンと娘を含む数十人の家族を安住の星へ送り届けるため、マル=ヴェルの軌道ステーションを探し続けていた。

ベン・メンデルソーンの演技の鍵は、敵としての凄味と、家族の前でのぞかせる柔らかな喜怒哀楽との落差にある。本物のスクラル形態は、緑色の皮膚に長い耳、垂直に走る口元のシワをメイクで造形したもの。一方、地球パートで使う仮の地球人の姿(SHIELDのケラー副長)は、メンデルソーン自身の素顔である。クリーが何十年も語り続けてきた「悪のスクラル」というプロパガンダ。その裏側を、本作は一人の俳優の表情だけで根底からひっくり返してみせる。

メンデルソーンは続編『マーベルズ』ではなく、サミュエル・L・ジャクソンと共演するDisney+ドラマ『シークレット・インベージョン』(2023)で、同じ役を長期版として演じている。本作のタロスは、20年以上にわたるスクラル難民とSHIELDの関係を描く物語の出発点であり、シリーズのなかで長く参照され続ける人物像となっている。

タロス/スクラル人

ヨン・ロッグとマル=ヴェル/ローソン博士

ヨン・ロッグ(ジュード・ロウ)は、スターフォースの隊長であり、キャロルの直接の指導役でもある。本作の序盤こそ「父親のように導く者」の顔をのぞかせるが、その正体は、6年にわたって彼女を「ヴァース」として育て直し、感情と本当の力をクリーの規格に押し込め続けてきた監督者だ。クライマックスでは「素手で殴り合え、お前が本物のクリーであることを証明しろ」とキャロルを挑発する。だがフォトン・ブラスト一発であえなく吹き飛ばされ、脱出ポッドでハラへ送り返されてしまう。本作の悪役は、肉体的に強大な怪物ではない。相手の自己像を歪めて支配する種類の権威であり、ヨン・ロッグはその顔として置かれている。

マル=ヴェル(アネット・ベニング)は、原作コミックでは本来キャプテン・マーベルの先代にあたる男性のクリー戦士「マー=ヴェル」だった人物を、映画版では女性の地球潜伏科学者ローソン博士の姿に再構築したキャラクターである。彼女はクリー帝国がスクラル難民に行ってきた殲滅政策に背き、密かに難民を地球の軌道上で保護する計画を進めていた。1989年の墜落で命を落とすが、その遺志はキャロルが受け継ぐことになる。アネット・ベニングはさらに、スプリーム・インテリジェンスがキャロルの前に現れる際の「最も尊敬する人物」の姿としても出演している。つまりキャロルがクリーで最も慕い続けた相手は、クリーの権力者ではなく、クリーに背いた科学者だった——映画全体の主題と完全に重なるキャスティングになっているのだ。

ジュード・ロウの役どころについては、撮影当時から長らく「ヒーロー側のキャラクター(マル=ヴェル)を演じる」とプロモーションでほのめかす宣伝戦略がとられていた。最終的に悪役側へとねじれていく真相の開示は、公開後の観客にとって楽しみ方の一つとなった。

マリア・ランボーとモニカ

マリア・ランボー(ラシャーナ・リンチ)は、米国空軍時代にキャロルの僚機を務めた、もっとも近しい親友である。コードネームは「フォトン」。シングルマザーで、娘モニカと暮らしている。本作で彼女が担うのは、劇中で最も重い感情の線だ。死んだはずの親友と6年ぶりに再会させられ、涙を流し、怒りをぶつける。それでも最後にはキャロルの旅立ちをすべて受け止め、地球の側から「お前の本当の故郷はここだ」と告げるのである。

ラシャーナ・リンチは本作以降、2021年の『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で新世代のダブルオー・エージェントを演じ、一気に知名度を広げた。本作の物語はその後、Disney+ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021)と続編『マーベルズ』(2023)へ、別の形で引き継がれていく。

娘モニカを本作で演じるのは、当時11歳の子役アキラ・アクバル。23年後の現在を描く『ワンダヴィジョン』『マーベルズ』では、テヨナ・パリスが大人になったモニカ(フォトン)を引き継いだ。屋根裏からキャロルの私物を持ち出してくる場面、母娘とキャロルが食卓を囲む場面、そして空軍ジェットを操縦できる母を「世界一かっこいい母」と誇る場面——本作のモニカが見せるこれらの姿こそ、続編へと連なる血脈の出発点である。

グース

ペガサス基地でフューリーが拾う、オレンジ色の縞模様の猫——。この最初の見せ方は、観客をあえて欺くための意図的なミスリードである。グースは地球の猫ではない。コミックでは「フラーケン」と呼ばれる宇宙生物の地球版で、見た目こそ猫だが、口を裂くように大きく開けるとそこに小さな次元ポケットがのぞき、自分の体の何倍もある物体を呑み込んで内部に収められる。本作の終盤、フューリーの机の上で「軽く吐き戻してテッセラクトを置く」というオチを成立させるため、グースは映画全体で最も計算され尽くした存在として配置されているのだ。

グースの撮影には、Lupita、Reggie、Archie、Risoという四匹の生身の猫に加え、CGモデル、パペット、そしてフランス人パペティアによる遠隔操作を組み合わせる手法がとられた。猫アレルギーがあるとされるサミュエル・L・ジャクソンと至近距離で撮影できるよう、猫との接触は最小限に抑えられている。抱きあげる手はインサートで処理し、フューリーが顔を寄せるカットは別撮りで合成された——と、本作の制作インタビューで明かされている。

なお、コミック版でこの種族の代表的個体は「チューイ」と呼ばれている。本作で「グース」と改名されたのは、フューリーが当時観た映画『トップガン』の登場人物の名から取られた——という設定で、終盤のキャロルとフューリーのやり取りのなかで明かされる。

舞台と用語

物語の舞台は、宇宙パートと地球パートの二層構造で組み立てられている。クリー帝国の首都ハラ、そして辺境の惑星トロスでは、密度の高い都市彫刻と冷たい青灰色のトーンが未来感を際立たせる。対する1995年のロサンゼルスとルイジアナは、当時を生きた観客なら一瞬で時代を思い出すような小道具で埋め尽くされている。ブロックバスター・ビデオの店内、レーザーディスク、『True Lies』の宣材、CD-ROMの読み込みの遅さに苛立つフューリー、ノー・ダウト『Just a Girl』を爆音で響かせて走るバイク、当時の空軍と海軍の格納庫の質感——細部の積み重ねが、たしかな空気を立ち上げる。

本作のもう一つの中心となる舞台が、「マル=ヴェルの軌道宇宙ステーション」である。これは難民となったスクラルを匿うために地球から打ち上げられた人工施設で、物語の最後では「次の安住の星」を目指す出発の拠点として機能する。ステーションの奥深く、何重もの遮蔽の下に隠されていたのが、ライト・スピード・エンジンの核——テッセラクトだ。

用語の面では、フォトン・ブラスト(ビノミアル・エネルギー)、スプリーム・インテリジェンス、スターフォース、フラーケン、メモリー・プローブ、テッセラクト、ペガサス計画、ライト・スピード・エンジンが軸となる。地球側の「アベンジャーズ・イニシアチブ」は、その名付け親となる場面として終盤に映像化される。これらの用語は、ただ暗記するよりも、誰が・どの場面で・何のために口にするのかを追っていくほうが、すんなり頭に入るはずだ。

21制作

本作の制作は、翌2019年4月に控えた『アベンジャーズ/エンドゲーム』へ向かう最後のピースとして、シリーズ全体の前史を一気に整える役割を担った。マーベル・スタジオはケヴィン・ファイギの判断のもと、現代を舞台にする道を避け、1995年の地球と銀河を跨ぐ前史を真正面から描く方針を選ぶ。監督には独立系映画出身のアンナ・ボーデンとライアン・フレックを起用した。

制作

企画と脚本

マーベル・スタジオが女性キャラクターの単独作品を本格的に企画開発し始めたのは、2013年前後のことである。ケヴィン・ファイギは複数の候補のなかからキャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベルを選び、2014年10月のシリーズ・ロードマップ発表会で本作のタイトルと公開予定を初めて明らかにした。当初の公開予定は2018年7月。だが、フェーズ3全体のスケジュール調整を受けて2019年3月へと後ろ倒しされた。

脚本は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)にも参加したニコール・パールマンとメグ・ルフォーヴが、2015年に共同で初稿を書き上げた。その後マーベル・スタジオは『Tomb Raider』のジェニーヴァ・ロバートソン=ドゥウォレットを脚本陣に加え、最終稿の段階ではアンナ・ボーデン、ライアン・フレックの二人もクレジットに名を連ね、総勢五名の体制となる。複数の書き手が関わった本作だが、最終稿の中心軸——「クリーの戦士だと信じていた女性が、自らの本当の出自を取り戻す前史」——は、初稿の段階から大きく揺らいでいない。

脚本上の最大の判断は、物語のほぼ全体を1995年に置き、現代パートを二つのポスト・クレジットに集約したことである。本作を翌『エンドゲーム』への橋渡しとしてだけ機能させるのではなく、「23年前にキャロル・ダンヴァースという人物が地球で何を選んだのか」という独立した前史として完結させる。その方針が選ばれた結果だ。終盤、彼女が地球を発って銀河へ旅立つ展開は、続編『マーベルズ』までの23年という空白期間の必然性を、本作のなかで描き切る構造になっている。

脚本陣はインタビューで、本作の精神的な参照軸をいくつか挙げている。トニー・スコット『トップガン』(1986)の戦闘機パイロット文化、ジョージ・ミラー『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015)の主人公像、そして監督ボーデン/フレックの旧作『Mississippi Grind』(2015)と『Sugar』(2008)に通底する、「自分の物語を自分で書き直すまでの旅」というテーマである。

キャスティング

ブリー・ラーソンの起用が正式発表されたのは、2016年7月のサンディエゴ・コミコンである。ラーソンはアカデミー主演女優賞を受賞した直後の俳優で、当初はスーパーヒーロー映画への出演に慎重だったという。しかしケヴィン・ファイギとの長期にわたる面談を重ね、最終的に出演を受諾したと後に語っている。契約は本作を含む複数本の長期出演契約で、後年の『エンドゲーム』『マーベルズ』までを含むものとなった。

サミュエル・L・ジャクソンとクラーク・グレッグは、それぞれニック・フューリーとフィル・コールソンの若き日の姿を演じる形で、既存契約の延長線上から参加した。ジュード・ロウが演じるヨン・ロッグの起用は2017年4月に発表されたが、当時のプロモーションでは長らく「マル=ヴェル役」とミスリードする扱いがなされていた。以後、ベン・メンデルソーン演じるタロスが2017年6月、アネット・ベニング演じるマル=ヴェル/スプリーム・インテリジェンスが2017年9月、ラシャーナ・リンチ演じるマリア・ランボーが2018年1月と、順次発表された。

脇役陣も顔ぶれが固まった。ジェマ・チャン(ミン=エルヴァ)、リー・ペイス(ロナン・ジ・アキューザー、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』からの再演)、ジャイモン・フンスー(コラス、同じく『ガーディアンズ』からの再演)、アルジェニス・ソト(ブロン=チャー)、ラスティ・シュウィマー(ノラ)、コリン・フォード(兄スティーブ)、そしてマッケナ・グレイス(少女期のキャロル)が決定している。

キャスティング

撮影とロケ地

主要撮影は2018年1月22日、ロサンゼルスで始まり、同年7月にクランクアップした。地球パートのロケ地となったのは、カリフォルニア州ロサンゼルス(ダウンタウンとフラートン)、ルイジアナ州バトン・ルージュ、ロサンゼルス国際空港、エドワーズ空軍基地など。1995年6月のロサンゼルスの街並みを再現するため、当時実在したブロックバスター・ビデオ、レコード店、ファーストフード店の看板や建物の正面を、現地スタッフが細部まで作り込んだ。

ハラとトロスの宇宙パートは、ロサンゼルスのソニー・ピクチャーズ・スタジオに組んだ大型セットと、ブルー/グリーン・スクリーンを組み合わせて撮影された。マル=ヴェルの軌道宇宙ステーションの内部、クリー艦隊のブリッジ、そしてスプリーム・インテリジェンスと対峙する場面の大判クロマキー空間も、すべて同じスタジオ内で築かれている。

撮影監督のベン・デイヴィスは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ドクター・ストレンジ』『エターナルズ』といったMCU作品で腕を振るってきた人物だ。本作では、ハラの青灰色と、1995年の地球を彩る鮮やかなアンバーとネオン色という二系統のカラー・パレットを用意し、フィルムストックの違いを思わせる質感の差で塗り分けた。キャロルが宇宙から地球へ降り立つ瞬間、画面の色温度がふっと落ち着く——この変化こそが、ヴァースがキャロルへと戻っていく物語を、感覚の面から支える根拠となっている。

撮影とロケ地

視覚効果とディエイジング

視覚効果は、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)を筆頭に、Lola VFX、Animal Logic、Trixter、Framestore、Luma Pictures、Scanline VFXなど多数のスタジオが分担した。なかでも要となったのが、Lola VFXによるサミュエル・L・ジャクソンとクラーク・グレッグのフェイシャル・ディエイジング処理である。現役の俳優の演技フレームの上に、それぞれの1990年代の出演作から起こした顔写真や動画を参照し、皮膚の張りと骨格の輪郭を一フレームずつ調整していくデジタル・リタッチだ。長尺のパートでこの処理を違和感なく成立させた代表例として、本作は業界の参照点となった。

キャプテン・マーベルのフォトン・ブラストはILMが中心に手がけ、本作後半でキャロルが本来の出力を解放する瞬間には、青から金、そして燃え立つ赤が入り混じる色へと変化するエフェクトが新たに開発された。終盤、大気圏外でキャロルが単身ミサイルを撃ち落とすシーン、スプリーム・インテリジェンスの檻が砕け散る多層レイヤーのインターフェース、そしてグースが口から無数の触手を伸ばしてクリー兵を呑み込む長回しのカット——本作で最も視覚的な遊びが凝縮されたのも、この最終盤だ。

スクラル人のクリーチャー造形は、Legacy Effectsによる特殊メイクとILMのCG拡張を組み合わせた方式をとった。ベン・メンデルソーン演じるタロスの本来の姿は、緑色のシリコン・プロステーシス(特殊メイク用の皮膚パーツ)に耳のCG拡張を加えたもので、表情筋の動きの大部分はメンデルソーン自身の演技のフレームを残す方針で組まれている。

視覚効果とディエイジング

音楽と音響

音楽はパイナー・トプラク。トルコ出身の女性作曲家で、MCUの単独長編作品でメインスコアを女性作曲家が手がけた最初の例となった。トプラクは本作以前にも『The Lightkeepers』をはじめとする長編や複数のテレビ作品でスコアを担当しており、ハンス・ジマー門下のメンターからの推薦でマーベル・スタジオに起用されたと、自身のインタビューで明かしている。本作におけるキャロルのテーマは、低音域から立ち上がるブラスと金属打楽器による四音動機で、のちの『マーベルズ』のスコアでもその変奏が引用されている。

劇中歌の選曲は、1995年というレトロな時代設定を支える中心的な仕掛けだ。ノー・ダウト「Just a Girl」(バトル・シーンで使用。グウェン・ステファニーが「私はただの女の子よ」と歌う皮肉と本作の主題との結びつきが、とりわけ注目を集めた)、ガービッジ「Only Happy When It Rains」、ホール「Celebrity Skin」、TLC「Waterfalls」、エルヴィス・コステロ「(What's So Funny 'Bout) Peace, Love and Understanding」、サルト=ン・ペパ「Whatta Man」など、1990年代前半から中期のヒット曲が、場面ごとに丁寧に配置されている。

本作の選曲方針は、懐古的な曲を当時の場面に貼り付けるのではなく、歌詞と本作の主題、すなわち女性が自らの物語を取り戻すというテーマとの重なりを基準に選び抜くというものだった。ノー・ダウトの起用がその好例だ。トロスでヴァースが本来の力を解き放つ直前に流れることで、「お前はただの女の子だ」と他者から定義され続けてきた人物が、その定義を内側から打ち砕いて立ち上がる場面と、完全に同期している。

編集とポストプロダクション

編集を手がけたのはデブラ・ニール=フィッシャーとエリオット・グレアム。本作の編集における最大の判断は、断片的なフラッシュバックを物語の前半にあえて散りばめた点にある。主人公が「かつての自分が誰だったのか分からない」状態に置かれるのと同じ感覚を、観客にも共有させ続けるためだ。そして、ペガサス基地での書類発見、ルイジアナでのマリアとの再会、終盤のスプリーム・インテリジェンスの場面という三段階を経て、観客と主人公の認識を同時に塗り替えていく。緻密に練り上げられた構成である。

ハラでの幕開けから、ロサンゼルスのブロックバスター・ビデオへの墜落へとつなぐクロスフェードは、本作で最も大胆な転換点だ。説明の字幕は一切なく、短いカットだけで「これは1995年の地球の物語だ」と観客に悟らせてみせる。Marvel Studiosのロゴそのものも、本作の冒頭では趣を変えた。2018年10月に逝去した原作者スタン・リーへの追悼として、彼の歴代出演シーンを集めたモンタージュへと全面的に差し替えられたのである。公開当時、劇場の観客から大きな反響を呼んだ演出だ。

二つのポスト・クレジット・シーンの配置こそ、本作で最も慎重に編集されたパートと言っていい。第一のミッドクレジット・シーン(2018年の現代パートへとつながる場面)は、翌月公開を控えた『エンドゲーム』への直接の橋渡しだ。観客がエンドロールを見送る間も期待をつなぎとめる「導火線」として置かれている。一方、第二のポスト・クレジット(グースがテッセラクトを吐き戻す場面)は、張りつめた緊張を解きほぐし、観客を笑顔で劇場から送り出す「綴じ」の役割を担う。

28公開と興行

米国公開は2019年3月8日の国際女性デー、日本公開は2019年3月15日。北米初週末興収は約1億5340万ドル、最終的な北米興収は約4億2670万ドル、海外興収は約7億140万ドル、全世界興収は約11億2820万ドルを記録した。製作費は約1億5200万〜1億7500万ドル。この規模に照らせば、シリーズの中でも明確な大ヒットの部類に入る数字である。さらに、女性単独主演の実写映画として初めて全世界興収10億ドルの大台を突破した作品としても記録に残る。

批評面では、ロッテン・トマトの批評家評は約79%、メタスコアは64点、CinemaScoreはA。ブリー・ラーソンの演技、サミュエル・L・ジャクソンとの掛け合い、1995年を再現した細部、ベン・メンデルソーンが演じたタロス、そして遊び心あふれるグースを、批評家は繰り返し称賛した。一方で、前半の編集テンポや、駆け足で説明される一部のクリー世界の描写には賛否が分かれた。

公開直前の数週間には、ロッテン・トマトのユーザー評価欄で「レビュー・ボムビング」と呼ばれる現象が起きた。まだ公開もされていない作品に、組織的に大量の星一つ評価が投じられたのである。これを機にロッテン・トマトはユーザー評価ページの仕様を変更し、公開後でなければ評価できないよう制限した。公開後、一般観客の実際の評価は批評家評と近い水準に落ち着いている。

本作の興行は、翌月公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』への前売り需要を一気に押し上げる役割も果たした。同年4月に公開された『エンドゲーム』は、本作を上回る全世界27億9700万ドルを記録。本作のラストで描かれたキャロル登場の予告が、観客の期待を直接的に煽る装置として機能したのである。

29批評・評価・文化的影響

本作の文化的影響は、二つの層に分けて考えられる。第一は、MCUフェーズ3の集大成『エンドゲーム』へと直接つながる前史として、シリーズ全体の物語を支える重要な仕掛けを一気に映像化した点だ。テッセラクトの所在の説明、若きフューリーによる「アベンジャーズ・イニシアチブ」の命名、ポケベルの存在、マル=ヴェルとマリア・ランボーから受け継がれる血脈の起点、そしてフューリーの片目の傷の真相——フェーズ1から3にかけて積み残されてきた数々の伏線が、本作で見事に回収された。

第二は、女性キャラクターの単独主演作としての歴史的な意義である。MCUはそれまで20本以上を世に送り出してきたが、女性キャラクターを単独タイトルの主人公に据えた例は一度もなかった。本作が興行で成功を収め、批評面でも安定した評価を得たことは、のちの『ブラック・ウィドウ』(2021)、『マ・ベル』(2023)、さらにDisney+のドラマ『ワンダヴィジョン』『シー・ハルク』など、フェーズ4以降に続く女性中心の作品群への扉を開いた。

第三に、本作はマル=ヴェルとマリア・ランボーから連なる三世代の女性パイロット/ヒーローの血脈——マル=ヴェル(マー=ヴェル)、キャロル・ダンヴァース、マリア・ランボー、そしてその娘モニカ・ランボー——という長期的な物語構造の起点を映像に刻んだ作品としても、シリーズのなかで長く参照されていく。続編『マーベルズ』(2023)で、この三代にわたる物語がひとつに結ばれる。

本作の公開時に大きな話題を呼んだのが、冒頭のMarvel Studiosロゴが全面的にスタン・リーの追悼版へと差し替えられたことだ。2018年11月に逝去したスタン・リーへの公式の追悼として、歴代のカメオ出演の映像が短くモンタージュされ、最後に「Thank you, Stan」の一言が添えられた。劇場で起こった観客の拍手は、本作の公開週末を彩る文化的な記憶の一部となっている。

舞台裏とトリビア

ブリー・ラーソンは本作の撮影に先立ち、9ヶ月にわたる肉体改造に取り組んだ。なかでも素手で押し車(プッシュ・スレッド)を引く動画は、公開当時SNSで大きな話題を呼んだ。トレーニング期間中にはヒップスラスト400ポンド、デッドリフト225ポンドを達成したと、本人が公表している。

若き日のニック・フューリーに施されたディエイジング処理は、約124分の本編のうち実に100分近くに及び、MCUにおける長尺ディエイジングの先駆けとなった。続く『アベンジャーズ/エンドゲーム』のヤング・サノス、『シビル・ウォー』のヤング・トニー・スタークと並び、本作のフューリーはいまも業界の参照点としてしばしば引き合いに出される。

猫のグース(その正体はフラーケン)の撮影には、Lupita、Reggie、Archie、Risoという4匹の本物の猫が起用され、主要な顔のクローズアップはLupitaが担った。サミュエル・L・ジャクソンが猫アレルギーを公言していたため、現場での接触は最小限に抑えられている。抱きあげる手の至近カットの多くは、吹替の手との合成だったと制作インタビューで明かされている。

本作冒頭のMarvel Studiosロゴは、スタン・リーへの追悼として2018年12月に新たに制作された特別版に差し替えられた。歴代の彼のカメオ・シーンを集めたモンタージュと、「Thank you, Stan」の一文がロゴの締めに添えられている。本作におけるスタン・リー自身のカメオは、ロサンゼルスの地下鉄でケヴィン・スミス監督作『マルウキー・モール』の脚本を読むサラリーマンの姿として撮影された。

ヴァースのスーパースーツの色——緑・銀に青系を加えた配色は、終盤でキャロルが覚醒したのち、赤・青・金へと画面のなかで切り替わる。この最終的な配色は、当時11歳のモニカ・ランボーのアイデアとして物語の中で提案される仕掛けになっており、観客は色の変化と人物の自我の変化をひと続きのものとして追えるよう設計されている。

ニック・フューリーのコードネーム「フューリー」が指す意味、彼が机に向かって「アベンジャーズ・イニシアチブ」とタイプする場面、そしてフューリーの左目の傷の由来——フェーズ1以降の観客が当然のように知っていた要素のすべてに、本作は「実は」という後付けの物語を加えていく。シリーズの集合篇へと向かう前史として、本作の真の達成は、観客がすでに知っているつもりだった記号に、もう一段深い感情の根拠を後から差し込んでみせた点にある。

本作では、コミックでチューイと呼ばれていたフラーケンの個体に、フューリーが当時愛好していた『トップガン』(1986)の登場人物名から「グース」という名を与えた。コミックの「チューイ」は『スター・ウォーズ』のチューバッカに由来する名前だったため、この改名は『スター・ウォーズ』へのオマージュをあえて外す狙いで行ったものだと、脚本陣がインタビューで語っている。

31テーマと解釈

中心にあるのは「自分の物語を、他者の手から取り戻す」というテーマだ。本作のキャロル・ダンヴァースは、冒頭の二十分のあいだ、自分が何者かを他者の定義に委ねたまま生きている。クリー帝国であり、ヨン・ロッグであり、スプリーム・インテリジェンスである。怒るな、感情を抑えろ、その力はわれわれが貸し与えたものだ——。クライマックスで彼女が解き放つのは、肉体が秘めた出力ではなく、そうした他者依存の自画像そのものだ。ヒーローとして覚醒していくドラマは、能力を手に入れる物語ではなく、自分を定義する権利を取り戻す物語として組まれている。

もう一つの軸は「悪のレッテルと難民」である。スクラル人は、クリーの公式見解では銀河を侵略する変身種族として語られる。だがその正体は、迫害される難民の集団だった。この反転こそ、本作のもっとも政治的な主題でもある。前半のヴァースは、クリーに刷り込まれた「スクラル=悪」という前提のまま動いている。やがて中盤、タロスとの対話を経て、彼女はその前提ごと捨て去り、難民の側へと立ち位置を変える。「敵」とされた者の物語を、もう一度その本人の口から聞き直す——本作はこの作業を、120分のなかで丁寧にやってのける。

三つ目の軸は「立ち上がる」だ。終盤、スプリーム・インテリジェンスの檻のなかで、キャロルは少女時代から空軍時代までの転倒と再起をフラッシュバックで見せられる。ゴーカートで転んだ少女が立ち上がる。空軍学校でいじめに屈せず立ち上がる。墜落したロケットの煙のなかから立ち上がる。そのすべてが、本作のテーマを一つの動作へと凝縮している。劇中で繰り返される言葉「立ち上がれ(Higher, further, faster)」は、コミック版キャロル・ダンヴァースが長く掲げてきたキャッチフレーズであり、本作の主題そのものでもある。

視覚の面でも、ヴァース時代の青灰色のクリーのスーツが、終盤のキャロル覚醒後に赤・青・金の三色へと塗り替わる。その変化が、本作の主題を一目で観客に届ける。色を選ぶ権利そのものが、彼女の自己決定の最後の身ぶりとして示されるのだ。最終ショット、宇宙へと飛び立つ場面では、フォトン・ブラストの色も青から金へ完全に変わる。本作の130分が、ひとつの「色変え」の物語であったことを、画面の側からあらためて確認させる構造になっている。

テーマと解釈

32見る順番

本作はMCUフェーズ3の第6作にあたり、翌月公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』へ直接バトンをつなぐ一作である。初めて観るなら、公開順で『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)を観た直後の状態で本作へ入るのがおすすめだ。フューリーが灰になる寸前に押したあのポケベル——その受信者が誰だったのかに、本作が答えを返す形になる。そのまま『エンドゲーム』(2019)へ進めば、22年ぶりに地球へ帰還した終盤のキャロルが、途切れることなく集合篇へ合流していく流れを追える。

時系列順で楽しみたいなら、本作の本編(1995年)は『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(1942-1945年)の次、『アイアンマン』(2010年)の前に置かれる。物語のうえでは、フューリーが「アベンジャーズ・イニシアチブ」と名づける出発点が本作にあたる。したがって、本作から『アイアンマン』のポスト・クレジット、そしてフェーズ1の各作へと進む順番が、もっとも筋が通る。

キャプテン・マーベル単独の続きとしては、まずDisney+のドラマ『ワンダヴィジョン』(2021)に成人したモニカ・ランボーが姿を見せる。続く『マーベルズ』(2023)で、本作のキャロル、マリアからモニカへと受け継がれた血脈、そしてスクラル難民の物語が一気に結び合わされる。本作の旅立ちの場面から流れた23年という歳月が、この続編でようやく回収されるのだ。

見る順番

33よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という人は、以下の流れを押さえておけば十分だ。1995年、クリー帝国の精鋭部隊スターフォースに属する戦士ヴァースは、惑星トロスでスクラルに捕らえられ、記憶を覗き見られてしまう。やがて地球(C-53)へと墜落した彼女は、若き日のフューリーと出会う。そして調査を進めるうち、自らの正体が、6年前に死んだとされる空軍パイロット、キャロル・ダンヴァースであったことが明らかになる。マル=ヴェルの軌道ステーションに身を寄せるスクラル難民を救うため、彼女はスプリーム・インテリジェンスによる抑制を打ち破り、本来のフォトン・ブラストを解き放つ。さらにロナン率いるクリー艦隊を単独で撃退すると、ヨン・ロッグを地球から追放してハラへ送り返す。最後はタロスたちとともに、新たな安住の星を求めて銀河へと旅立っていく。

「結末・ネタバレを知りたい」という人のために、物語の核となる要素を整理しておく。ヴァースの本名はキャロル・ダンヴァース。6年前のロケット墜落の際、マル=ヴェル=ローソン博士のライト・スピード・エンジン(その正体はテッセラクト)を破壊した爆発のエネルギーこそが、彼女の真の能力源だった。難民であるスクラルに対し、侵略者の側に立っていたのはクリーである。キャロルはスプリーム・インテリジェンスの抑制装置を破って覚醒し、ロナン艦隊を撃退する。テッセラクトは、グース(その正体はフラーケン)が呑み込んで体内に保管。フューリーが片目を失ったのは、このグースの爪によるものだ。そしてフューリーは机に向かい、新たな計画を「アベンジャーズ・イニシアチブ」と名づける。ポスト・クレジット第一弾は2018年の現代パートで、22年ぶりにアベンジャーズ施設へと帰還したキャロルが描かれる。第二弾は、グースがフューリーの机の上にテッセラクトを吐き戻す場面だ。

「評価を知りたい」という人に向けては、次のように整理できる。批評家支持率は約79%、全世界興収は約11億2820万ドルに達し、女性単独主演の実写映画として史上初めて10億ドルを突破した。MCU初の女性単独主演作であると同時に、フェーズ3、そして『エンドゲーム』への最終的な橋渡しを担う一作でもある。さらに、女性作曲家パイナー・トプラクがMCUの長編単独作に初めて起用された点も見逃せない。「見る順番」としては、『インフィニティ・ウォー』を観てから本作に進み、続けて『エンドゲーム』へ向かうのが最もスムーズな視聴順となる。続編『マーベルズ』(2023)を観るなら、本作に加えて『ワンダヴィジョン』『ミズ・マーベル』もセットで履修しておくのが望ましい。

34参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、配信状況、外部からの評価は今後も変動しうるため、視聴の前に公式情報および各データベースの最新の表示を確認されたい。なお本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式 キャプテン・マーベル
  2. IMDb: Captain Marvel (2019)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki: Captain Marvel
  4. Box Office Mojo: Captain Marvel (2019)
  5. Rotten Tomatoes: Captain Marvel