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アイアンマン2

「アイアンマンとは私のことだ」と世界の前で名乗ったトニー・スタークは、半年後、自分が誇った胸の灯そのものに殺されようとしていた——父の遺した秘密、ロシアからやってきた復讐の鞭、ライバル兵器商人ジャスティン・ハマーの欲、そしてSHIELDという見えない手。MCUフェーズ1の中盤を担い、アベンジャーズという集合への助走を本格化させた、しんどさと祝祭が同居する続編。

媒体: 映画(実写) 米国公開: 2010年5月7日 日本公開: 2010年6月11日 監督: ジョン・ファヴロー
アイアンマン2 公式ポスター

作品データ

作品
アイアンマン2
原題
Iron Man 2
媒体
映画(実写)
米国公開
2010年5月7日
日本公開
2010年6月11日
監督
ジョン・ファヴロー
脚本
ジャスティン・セロー
原案
ジョン・ファヴロー/ジャスティン・セロー
原作
マーベル・コミック『アイアンマン』(スタン・リー/ラリー・リーバー/ドン・ヘック/ジャック・カービー)
製作
ケヴィン・ファイギ
音楽
ジョン・デブニー
撮影
マシュー・リバティーク
編集
ダン・レーベンタル/リチャード・ピアソン
美術
J・マイケル・リーヴァ
衣装
メアリー・ゾフレス
視覚効果
Industrial Light & Magic/Double Negative/Legacy Effects ほか
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
パラマウント・ピクチャーズ(公開当時)/後にウォルト・ディズニー・スタジオ
上映時間
124分
製作費
約2億ドル
興行収入
全世界 約6億2,390万ドル
MCU区分
フェーズ1・第3作(公開順では4作目)/インフィニティ・サーガ
物語内時系列
前作『アイアンマン』の約半年後。『マイティ・ソー』『インクレディブル・ハルク』のクライマックスと並行する1週間として描かれる
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全37章 / 約19K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

アイアンマン2は、2010年公開のアメリカのスーパーヒーロー映画である。自らアイアンマンだと世界に公表したトニー・スタークは、動力源が自身の体を蝕む危機に直面しながら、父の遺した秘密に端を発するロシア人科学者イワン・ヴァンコの復讐と、ライバル兵器商人ジャスティン・ハマーの野心、そして暗躍するSHIELDに向き合っていく。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ1の中盤を担い、『アベンジャーズ』という集合へ向けた助走となる一作である。

00概要

『アイアンマン2』(Iron Man 2)は、ジョン・ファヴロー監督、ジャスティン・セロー脚本によるアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、公開当時はパラマウント・ピクチャーズが配給した(その後ディズニーがマーベル・スタジオを買収したため、現在のソフト・配信権はウォルト・ディズニー・スタジオが管理している)。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の通算第3作にあたり、シリーズの章立てではフェーズ1の中盤、インフィニティ・サーガの導入部に位置づけられる。

原作は、スタン・リー、ラリー・リーバー、ドン・ヘック、ジャック・カービーが1963年に生み出したヒーロー、アイアンマン(トニー・スターク)。本作は、前作『アイアンマン』(2008)が築いた「武器商人が自らの責任を背負い直す」という骨格を受け継ぎながら、ヒーローとしての自己同一化を果たした人間が、それでもなお「人間として壊れていく」過程へと中心軸を据え直した続編である。トニーが胸の動力源に由来するパラジウム中毒で死に瀕している──この物語上の不可逆な時間制限が、二時間の隙間という隙間に静かな緊張を注ぎ続ける。

米国公開は2010年5月7日、日本では同年6月11日に劇場公開された。上映時間は124分、製作費は約2億ドル、全世界興行収入は約6億2,390万ドルを記録し、商業的にはシリーズを安定軌道へ乗せた一作となった。主要キャストはロバート・ダウニー・Jr.(トニー・スターク/アイアンマン)、グウィネス・パルトロー(ペッパー・ポッツ)、ドン・チードル(ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン、前作のテレンス・ハワードから交代)、スカーレット・ヨハンソン(ナターシャ・ロマノフ/ナタリー・ラッシュマン/ブラック・ウィドウ)、サム・ロックウェル(ジャスティン・ハマー)、ミッキー・ローク(イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ)、サミュエル・L・ジャクソン(ニック・フューリー)、クラーク・グレッグ(フィル・コールソン)、ギャリー・シャンドリング(スターン上院議員)、ジョン・スラッタリー(ハワード・スターク)、ポール・ベタニー(J.A.R.V.I.S.、声)。

本記事は、結末、エンドロール中盤に挿入される実質的な“ミッドクレジット”シーン、そしてポスト・クレジットの「ミョルニル発見」まで、全編のネタバレを前提に構成している。物語の驚きを取っておきたい読者は、鑑賞後に戻ってきてほしい。本作はMCU全体の地図のうえで、ブラック・ウィドウの初登場、ウォーマシンの誕生、SHIELDが「アベンジャーズ計画」を地下水脈のように動かしていることの本格的な開示、そして『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』への直接の橋渡し──計四つの大きな伏線を、一本の作品のなかで同時に運ぶ役割を担っている。

概要

主要データ

原題
Iron Man 2
監督
ジョン・ファヴロー
脚本
ジャスティン・セロー
原作
マーベル・コミック(スタン・リー/ラリー・リーバー/ドン・ヘック/ジャック・カービー、1963)
音楽
ジョン・デブニー
撮影
マシュー・リバティーク
米国公開
2010年5月7日
上映時間
124分
ジャンル
スーパーヒーロー、SFアクション、テクノ・スリラー
シリーズ区分
MCUフェーズ1・第3作/インフィニティ・サーガ

01あらすじ

ここでは結末、ミッドクレジットにあたる締めのカット、そしてポスト・クレジット・シーンまで、本編のあらすじを順に追っていく。物語は1989年のカリフォルニア、アントン・ヴァンコがハワード・スタークの手で追放される場面から幕を開ける。そこから6か月後の上院公聴会、モナコGPを襲うウィップラッシュの凶行、進行するパラジウム中毒、ローディによるマーク2の強奪、ニック・フューリーとの再会、父ハワードが遺した新元素、暴走するハマー・ドローン、そして最終決戦へと展開していく。締めくくりは、ニューメキシコ州の深夜のクレーターに響くコールソンの無線。その一報まで、見どころを余さずたどっていく。

あらすじ

・カリフォルニア

映画は1989年のロサンゼルスの薄暗い集合住宅の一室から始まる。テレビではハワード・スタークがスターク・エキスポの開幕を宣言する古いニュース映像が流れ、その光を浴びながら一人の老人が床に崩れ落ちる。ロシア系移民の物理学者アントン・ヴァンコ。傍らで彼を見下ろすのは、若い息子イワン・ヴァンコ(ミッキー・ローク)である。父が息を引き取った後、イワンは部屋の奥に立てかけられた古い設計図——ハワード・スタークと父が共同で作った「アーク・リアクター」の原型図面——を見つけ、その紙の上に染みのように残る父の指紋を指でなぞる。

この短い冒頭が、本作全体の倫理的な土台を据える。アーク・リアクターは、ハワードとアントンが二人で完成させた発明だった。しかし冷戦下にアントンが軍事転売へ走ろうとした事実をハワードが察知し、米政府はアントンをソ連へ強制送還、ハワードは設計の独占権を握ったまま「スターク家の家業」としてアーク・リアクターを継承した——この経緯が映画後半でフューリーの口から語られることになる。父の没落と恥の上に築かれたスターク家の繁栄、それを息子から息子へとつなぐ復讐の連鎖が、本作のもう一つの背骨である。

場面は半年後のワシントンD.C.へ移り、テレビ・ニュースの渦のなかにアイアンマンの空撮が次々と映る。世界のどこかで紛争が起こりかけるたび、赤と金のスーツが空から舞い降りて事態を片付ける——「私はアイアンマンだ」と名乗ったあの会見から半年が経ち、トニー・スタークは事実上、「民営化された世界平和」を一人で運営している。

・カリフォルニア

上院公聴会と、トニーの大見得

物語が本格的に動き出すのは、上院軍事委員会の小委員会の議場だ。スターン上院議員(ギャリー・シャンドリング)は、アイアンマン・スーツを「兵器」と断じ、合衆国政府への譲渡を迫る。証人席に並ぶのは、ジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)と空軍中佐ジェームズ・“ローディ”・ローズ(ドン・チードル)。ハマーは「スタークが独占するテクノロジーはすでに時代遅れになりつつあり、市場には健全な競争が必要だ」と弁じ立て、ローディは軍人らしい渋面を崩さない。

トニーはノートPCを叩いて議場のモニタを乗っ取り、北朝鮮、イラン、そのほか競合各国のミサイル試射映像を一斉に映し出す。各国の兵器開発が、ことごとく自分の前では歯が立たず失敗していく様を、まるでサーカスのように見せつけるのだ。「私はあなた方の安全を提供している。むしろ皆さんが私に贈り物をすべきでしょう。たとえば大きな帽子と、私の称号を“国家資源”と称えるリボン付きの感謝状でも」——この大見得は、主役の最後の余裕を象徴する一幕だ。観客はこの瞬間に大笑いするが、その背後では、トニーの胸の中央で青く光るアーク・リアクターのコアが、パラジウム中毒の毒をゆっくりと血液に流し続けている。

公聴会の帰り、トニーは廊下でハマーと握手を交わす。表面上は紳士どうしの応酬だが、ハマーが口にする「いつか君の番が来る」という台詞は、字面以上の重みを帯びている。事実、ハマーはこの数日後、刑務所の中にいるある男へと手を伸ばすことになる。

上院公聴会と、トニーの大見得

パラジウム中毒、ペッパーCEO就任、ナ…

マリブの自邸に戻ったトニーは、地下の工房でJ.A.R.V.I.S.(ポール・ベタニー)に血液を分析させる。血中毒性はすでに許容上限の53%を超えていた。その事実を、彼は淡々と確認するだけだ。胸のリアクター中央に組み込んだパラジウム・コアは、稼働すればするほど人体に致死性の重金属を析出させる。とはいえリアクターを止めれば、心臓へ向かう榴弾片を抑える力を失ってしまう。前作で胸に居座ったあの破片が、今度は別の死神を呼び寄せているのだ。トニーはJ.A.R.V.I.S.に「リアクターを置き換える元素を探せ。周期表のあらゆる候補を検証しろ」と命じる。だが既知の元素は、ことごとく毒性が高すぎるか、出力が足りないかのどちらかだった。

残された時間を宣告されながら、彼はその事実を誰にも告げない。代わりに、長年のアシスタントであるペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)をスターク・インダストリーズのCEOに据え、自身は会長職へ退く。その新CEOのアシスタントとして法務部から抜擢されてくるのが、ナタリー・ラッシュマン(スカーレット・ヨハンソン)——のちにナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウと判明する潜入捜査官である。タイトスカート姿で書類の束を抱えて現れた彼女は、ボクシング・リング上のハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)を一瞬の寝技で締め上げてみせる。この短いカットが、「彼女はただの秘書ではない」と観客に告げるのだ。

自邸のトニーは、誕生日を間近に控えていることもあって、加速度的に投げやりになっていく。残り時間への焦りと、自分の発明が自分自身を殺しているという二重の皮肉。それが彼を、「最後にやりたい放題をやってから死ぬ気の男」というテンションへと追い込んでいくのである。

パラジウム中毒、ペッパーCEO就任、ナ…

モナコGPと、ウィップラッシュ襲撃

舞台は南仏モナコへと移る。スターク・インダストリーズのスポンサー枠を借りてグランプリ観戦に訪れたトニーは、ペッパーとハッピーの制止を振り切り、急遽みずからステアリングを握って予選レースに飛び込む。観客席の眺望から一転、コース上の轟音へと滑り込んでいく数分は、本作でもっとも純粋なジョン・ファヴロー演出と言えるだろう。

コース中盤、舗装路を割って巨大な影がレースカーの群れの中へと歩み出る。ウィップラッシュ(ミッキー・ローク)だ。胸には自作の小型アーク・リアクターを埋め込み、両腕には高圧電流を流す二本の鞭を備えたイワン・ヴァンコが、そこに立っている。一振りで前を行くF1カーを縦に真っ二つに断ち、後続のレースカーを次々と炎で薙ぎ払っていく。ピットへ駆け戻ったトニーに、ハッピーとペッパーが「ブリーフケース・スーツ」を投げて寄越す——折り畳まれた赤と銀のマーク5は、コース上で展開して全身を包み込む、本作でもっとも有名な発明のひとつである。

鞭と装甲がぶつかり合う白兵戦は、観客席のすぐ目の前で繰り広げられる。トニーはついに鞭をリアクターから引きちぎり、ヴァンコのスーツの中央装置を破壊して制圧する。後刻、独房の鉄格子越しにトニーがヴァンコのもとを訪ねる場面は、本作の隠れた中盤の白眉だ。「父親同士の話だ」と語るヴァンコに、トニーは「お前の父親は嘘つきの泥棒だった」と切り返す。ヴァンコは静かに答える——「君が血を流して死ぬのが見えるよ」。彼はすでに、トニーの胸に巣食う毒の存在を知っているのだ。

モナコGPと、ウィップラッシュ襲撃

ジャスティン・ハマーの強奪と、ヴァンコ…

モナコでの逮捕から数日後、ジャスティン・ハマーは私財を投じてヴァンコを刑務所から脱獄させる。焼け落ちた独房に身代わりの死体を残し、「ヴァンコは獄中で死亡した」とニュースに流させるのだ。砂漠の只中にあるハマー・インダストリーズの秘密研究所へ移されたヴァンコは、そこでハマーから持ちかけられる。「お前の天才を、私と一緒に世界へ売ろう」と。

ハマーは、自社が長年完成させられずにいた無人飛行戦闘ドローンの試作機群——陸軍仕様、海軍仕様、空軍仕様、海兵隊仕様——をヴァンコの前に披露する。いずれもアイアンマンの劣化コピーで、起動はするものの姿勢制御がまるで破綻している。ハマーはヴァンコに、これらをまともに動かすソフトウェアと、自分の名を冠した披露の場を要求する。ヴァンコは表向き同意するが、研究室では密かにドローンへ復讐のための改造を施し始める。ハマーのドローンを、ハマーの舞台で、ハマー自身を殺すために使う——それが彼の計画だった。

サム・ロックウェル演じるハマーは、二流の野心家として徹底して滑稽に造形されている。トニー・スタークの“なれの果て候補”として、メディアの前で踊り、嘲笑され、それでも自尊心だけは決して折らない。本作はハマーをただ嗤うのではなく、トニーが一歩道を踏み外せばこうなり得たという陰画として描く。その絶妙な距離感ゆえに、ハマーは単なる悪役を超えた存在感を放っている。

ジャスティン・ハマーの強奪と、ヴァンコ…

誕生日パーティの暴走と、ローディの空軍…

マリブの自邸で開かれたトニーの誕生日パーティは、本作のなかでもっとも観客の感情を引き裂くシークエンスだ。“いつ死んでもいい”と捨て鉢になったトニーは、アイアンマン・スーツを着たままシャンパンを振り撒き、客の前で射撃のショーまで披露する。最初は笑っていた客も、やがて顔を引きつらせていく。ペッパーは彼を退出させようとし、ローディは地下のガレージへ駆け下りる。

ガレージに残されていたシルバーのプロトタイプ・スーツ「マーク2」を、ローディは自らの手で装着する。マーク2は前作で初めて滞空に成功したテスト機で、ペイントを剥がしただけの軍用色をしている。階段を上ったローディは、酔って暴れるトニーの前にマーク2の姿で立ちはだかり、二機の装甲による白兵戦が邸宅のリビングで始まる。家具と窓ガラスが砕け散り、最後にはふたりがユニビーム同士をぶつけ合って屋根を吹き飛ばす。ローディはマーク2のまま離脱し、そのまま空軍エドワーズ基地へと運んでいく——上院公聴会で「兵器を譲渡せよ」と要求されたあのスーツが、よりにもよって兵器商人のライバルの手に渡る一歩手前で、軍属の親友の手によって合衆国の倉庫に収まる。そんなねじれた結末を迎えるのだ。

翌朝のマリブに残されたのは、瓦礫と、客の靴跡と、ペッパーの怒りだけだ。ロバート・ダウニー・Jr.はこのパーティの一部始終を、笑いと痛みのちょうど境界線の温度で演じ切っている——この瞬間、観客はトニーが本当に死ぬかもしれないと感じるのだ。

誕生日パーティの暴走と、ローディの空軍…

ドーナツ・ショップ、フューリー、ナタリ…

一夜明け、トニーはロサンゼルスのドーナツ・チェーンの巨大な看板の上に、アイアンマン・スーツのまま腰を下ろしている。ヘルメットを外し、棒付きドーナツを齧る彼の前に、黒いコートの男が現れる——ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)だ。前作のポスト・クレジットでマリブの暗闇から姿を見せたあの男が、本作で初めて昼の光のなかに立つ瞬間である。

フューリーはトニーをチェーン店の店内に座らせ、君の事情はすべて把握していると静かに告げる。胸のリアクターを蝕むパラジウム中毒、新元素の探索、父が遺した未解決の方程式、そして自らが継いだスターク家の歴史——そのすべてが、すでにSHIELDの記録のなかにある。隣に座っていた女が振り返り、注射器を持ち上げる。ナタリー・ラッシュマン、本名ナターシャ・ロマノフ。SHIELDのエージェントとしてスターク・インダストリーズに潜入していた女性である。彼女はトニーの首筋に注射針を打ち込み、リチウム・ダイオキシド製剤を一時的に投与して、中毒の症状を“数日”だけ抑え込む。

フューリーは奥のテーブルへ移ると、トニーの父ハワードがかつて遺した古いトランクと、フィルム缶の山を差し出す。「君の父は、お前のために何かを残した。それを見つけるのはお前の仕事だ」。そう告げ、画面の暗闇から立ち上がるフューリーの背後で、観客は初めてSHIELDという組織のスケールを意識し始める。前作のラストで予告された世界が、ここから本格的に動き出すのだ。

ドーナツ・ショップ、フューリー、ナタリ…

父ハワードの遺言、新元素の合成

自邸へ戻ったトニーは、フューリーから託された箱の中身を一つずつ取り出していく。古い写真、手帳、描きかけのスケッチ、そして1974年スターク・エキスポの公式記録映画のフィルム缶。映写機にフィルムをかけると、若き日のハワード・スターク(ジョン・スラッタリー)が画面に現れ、未来都市の模型を前に「お前のためにこれを残しておく」と語りかける。ハワードは「私の生きた時代の技術では完成させられなかった元素がある。だが私の限界はお前の限界ではない。お前を待つのが、この最後の発明だ」と告げ、フィルムを締めくくる。

トニーは、エキスポの未来都市模型をハワードの古い設計図に重ね、模型そのものが「新元素の原子構造を上空から見下ろした図解」になっていることを突き止める。前作で胸の灯を組み上げたあの即興のひらめきが、本作では“父の遺した地図を読み解く”作業として再び描かれるのだ。トニーはガレージの一階を粒子加速器で貫くため床と壁を取り壊し、J.A.R.V.I.S.の制御下で短時間だけ作動する手作りの線形加速器を組み上げ、ついに新元素のサンプル合成に成功する。

胸のアーク・リアクターのコアを新元素ベースのものに換装した瞬間、トニーの中毒症状は劇的に治まり、出力も大きく跳ね上がる。同時に、彼はその素子の本当の名を知らずに済む——本作では終始“新元素”としか呼ばれない。後年の関連作とコミック原作の歴史を踏まえ、アイアンマンの新コアは事実上「ヴィブラニウム」、あるいはその近縁の架空元素として位置づけられる、という解釈がファンの間で広く共有されている(本作の劇中で固有名を発音する場面はない点に注意したい)。

父ハワードの遺言、新元素の合成

スターク・エキスポと、ハマー・ドローン…

舞台はクイーンズの「スターク・エキスポ2010」会場。ジャスティン・ハマーは合衆国陸海空海兵隊それぞれの仕様で組み上げたハマー・ドローンを観客の前で起動させる。ステージ中央には“最新型ウォーマシン”——空軍が回収し、ヴァンコが密かに兵装を組み足したマーク2の改造機——に乗ったローディが立つ。中央広場を埋めるのは何万人もの観客。その中にはペッパーとハッピー、そしてナタリーの姿も紛れている。

新コアを搭載したマーク6でエキスポへ駆けつけたトニーがステージへ降り立つ。その瞬間、ヴァンコが秘密研究所のコンソールから全ドローンとローディのスーツを一斉にハイジャックした。ハマー・ドローン軍団は来場者の頭上で隊列を組み、ローディはトニー目掛けて撃ち始める。トニーは観客の頭上で迎撃しながら、ドローンと旧友をエキスポ会場の外、隣接するブルックリンの森林公園へと誘い出していく。

同じころ、ハッピー・ホーガンの運転する車にナタリー・ロマノフが乗り込み、ハマー・インダストリーズの秘密研究所へと疾走していた。研究所の通路で、彼女は初めてブラック・ウィドウとしての本領を発揮する。廊下を一往復するあいだに、警備員数名をひとり残らず無力化していく——ロングテイク気味のアクションは、MCUにおけるナターシャ像の最初の刻印となった。やがてナタリーは制御室のサーバーにアクセスし、ヴァンコのハッキング命令を上書きして、ローディのスーツの制御権をトニー側へ取り戻す。正気を取り戻したローディは、トニーと並んでドローン群を迎え撃つ態勢に入る。

スターク・エキスポと、ハマー・ドローン…

森林公園の最終決戦と、新元素の宣告

ウィップラッシュ本人も、全身を覆う最終形態のスーツに乗り、エキスポ会場の森林公園へ降り立つ。新スーツは旧モナコ版の倍以上の出力を誇り、両腕の鞭はあらゆる装甲を瞬時に断ち切る。トニーとローディは背中合わせに構えると、二機分のユニビームを十字に交差させ、ヴァンコの装甲ごと鞭の根元を焼き切る——MCU初期でも屈指の名場面として知られる「クロス・ユニビーム」のキメ絵である。

倒れたヴァンコは、自分のスーツと、まだ稼働する全てのハマー・ドローンの自爆プロトコルを起動させる。会場のあちこちで爆発が連鎖し、その渦中にペッパーがいた。トニーはドローンを一機ずつ撃ち落としながらペッパーのもとへ飛び、彼女を抱き上げて屋上へ離脱する。屋上でトニーが「もう辞める。CEOも君に返す」と切り出すと、ペッパーは抑え込んでいた涙と怒りを一気に吐き出し、ふたりは初めて画面の中で本気のキスを交わす。それを上空から眺めるローディの「やめろ、君ら丸見えだぞ」という呟きで、シリーズらしい温度に着地する。

後日、上院議事堂では、スターン上院議員が「アイアンマンとウォーマシンに対する米軍からの表彰」をしぶしぶ授ける式典が短く挿入される。彼の胸に「あなたは英雄だ」のメダルが付けられる皮肉なカット。本作冒頭で「兵器を寄越せ」と迫った男が、わずか数日後に同じ相手へメダルを掛けに来るという構図で、本作の政治的諷刺を締めくくる。

森林公園の最終決戦と、新元素の宣告

結末、ニック・フューリーの査定と、ポス…

本編を締めくくる最後のシークエンスは、SHIELDの仮設オフィスで交わされるフューリーとトニーの会話だ。フューリーは「アベンジャーズ・イニシアティブ」と記された極秘ファイルを差し出す。だが開いてみると、添付の心理プロファイルにはこうある——「個性は推薦するが、チーム適性は推薦しない。アイアンマン本人は採用するが、トニー・スタークは採用しない」。トニーは肩をすくめて笑い、ファイルの代わりに「コンサルタントとして、報酬は時給1ドル、ただし掛かった経費は全額払え」と要求する。すると直後、フューリーが「ローディ中佐は別件で“ウォーマシン”として軍籍のままアベンジャーズ予備に名を連ねる予定だ」と告げ、面会は幕を閉じる。

ポストクレジット直前のラストカットは、ニューメキシコ州の砂漠を車で駆けるフィル・コールソン捜査官(クラーク・グレッグ)の姿だ。SHIELDからの呼び出しを受けて急行していた彼は、月明かりの下にぽっかりと開いた巨大なクレーターと、その底にめり込んだ一本の柄を見つけ、無線で本部に告げる——「司令、見つけた」。クレーターの底に突き刺さっているのは、雷神ソーのハンマー、ミョルニルである。

わずか30秒で本作は終わる。トニーの胸を蝕んでいた毒が抜け、ペッパーとの関係は新たな段階へと踏み出し、ローディがウォーマシンとして並び立ち、SHIELDが地下水脈のように静かに動き出す。そしてニューメキシコのクレーターでは、次作『マイティ・ソー』の物語がひそやかに幕を開けている——MCUがほんとうの意味で「ひとつの大きな物語」になり始めた瞬間が、この最後の一カットに凝縮されているのだ。

結末、ニック・フューリーの査定と、ポス…
ここまでが全編のあらすじである。本作のポスト・クレジットは、続く『マイティ・ソー』そして翌2012年の『アベンジャーズ』への直接の助走となる。

登場要素

本作に登場し、また言及される主な要素を分類して整理しておく。これらの固有名詞はMCU全体を理解する手がかりとなるが、初見ですべて覚え込む必要はない。新元素、アーク・リアクター、SHIELDのアベンジャーズ計画、ニューメキシコのクレーター——後の作品で大きく実を結ぶ伏線が、この一作だけでもいくつも仕込まれている。

  • トニー・スターク/アイアンマン
  • ペッパー・ポッツ
  • ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン
  • ナターシャ・ロマノフ/ナタリー・ラッシュマン/ブラック・ウィドウ
  • ハッピー・ホーガン
  • ニック・フューリー
  • フィル・コールソン
  • ハワード・スターク(フィルム映像)
  • J.A.R.V.I.S.(音声)

  • イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ
  • ジャスティン・ハマー(ハマー・インダストリーズ)
  • ハマー・ドローン(陸/海/空/海兵隊仕様)
  • ヴァンコ強化版ウィップラッシュ・スーツ
  • (背景)アントン・ヴァンコの怨念とソ連時代の遺産

  • スターン上院議員
  • ハマー・インダストリーズの警備隊
  • スターク・エキスポの来場者・運営
  • モナコGPの観衆
  • スターク・インダストリーズ役員会
  • クリスティーン・エヴァーハート(写真・台詞のみ言及)
  • ローディの空軍同僚
  • 若き日のスターン議員時代の同僚たち

  • スターク・インダストリーズ
  • ハマー・インダストリーズ
  • S.H.I.E.L.D.(戦略国土介入執行兵站局)
  • 米空軍・米海軍・米海兵隊(ドローン提案先)
  • 米上院軍事委員会
  • (背景)ハイドラ/ナチス科学部局の歴史的痕跡(ハワード文書内)

  • 1989年のカリフォルニア/ロサンゼルス
  • ワシントンD.C.・上院公聴会場
  • マリブのスターク邸宅と地下工房
  • モナコ・モンテカルロのサーキット
  • フランス領内のフランス警察拘置所
  • ハマー・インダストリーズ秘密研究所(砂漠地帯)
  • ロサンゼルス郊外のドーナツ・チェーン店
  • クイーンズ・スターク・エキスポ2010会場
  • エキスポ隣接の森林公園(最終決戦地)
  • ニューメキシコ州・ミョルニル落下クレーター

  • パラジウム式アーク・リアクター(初期コア)
  • 新元素ベースのアーク・リアクター(換装後コア)
  • マーク4・マーク5(ブリーフケース・スーツ)・マーク6
  • シルバーのマーク2(後のウォーマシン原型)
  • ウォーマシン・スーツ(ハマー兵装改修版)
  • ウィップラッシュの高圧電撃鞭
  • 強化型ウィップラッシュ・スーツ
  • ハマー・ドローン4機種
  • ハワード・スタークの未来都市模型と1974年フィルム
  • 自作の卓上型粒子加速器
  • リチウム・ダイオキシド注射(中毒抑制)
  • J.A.R.V.I.S.のAIインターフェース

  • パラジウム中毒の進行と血中毒性値
  • 新元素の合成と原子構造の図解化
  • アーク・リアクターの出力とユニビーム
  • ブリーフケース・スーツの折り畳み展開機構
  • SHIELDの潜入捜査と心理プロファイリング
  • アベンジャーズ・イニシアティブの内部審査
  • 民営化された世界平和(トニーの自称)
  • クロス・ユニビーム(二機による合成攻撃)

  • コールソンによるニューメキシコ・クレーター調査
  • ミョルニル発見=『マイティ・ソー』への直接接続
  • アベンジャーズ・イニシアティブのコンサルタント契約成立
  • ウォーマシンの正式運用入り=『アベンジャーズ』『ホームカミング』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』への布石
  • ブラック・ウィドウのMCU本格デビュー

14主要登場人物

本作が同時に編み上げるのは、トニーとペッパーの恋、トニーとローディの友情、トニーと亡き父ハワードの和解、そしてヴァンコとハマーという悪役コンビ、四本の人間関係の糸である。それぞれの軸が最終決戦と新元素の発見へと収束していく。この構造こそが、続編としての本作を支える骨格になっている。

トニー・スターク/アイアンマン

前作で「私がアイアンマンだ」と世界に名乗りを上げた男は、本作では「自分の発明によって死へと追い詰められる男」として描き直される。ロバート・ダウニー・Jr.は、前作で観客を魅了したあの饒舌な皮肉屋を、今度は内側から崩していく芝居で演じてみせた。誕生日パーティでの泥酔シーン、ドーナツ店の看板に座り込むシーン、自邸の地下で父の遺したフィルムに見入るシーン——この三つは、彼の演技の振れ幅をもっとも鮮明に示す名場面として記憶されている。

本作のトニーは「死を覚悟したのちに、もう一度生きる理由を父から受け取る男」である。父ハワードとの確執は、前作では台詞の片隅に置かれた程度だった。それが本作で初めて正面から描かれ、後年の『アイアンマン3』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』までを貫く「父と子」のテーマの起点として機能していく。

トニー・スターク/アイアンマン

ペッパー・ポッツ

前作までトニーの長年のアシスタントを務めてきたペッパーは、本作の前半でスターク・インダストリーズのCEOに就任する。グウィネス・パルトローは「ヒーローに寄り添う有能な女性」というステレオタイプから脱し、社内政治の最前線に立つ姿を見せる。トニーの暴走に毎晩怒りながらも、最後には屋上で本気のキスを交わす。いくつもの顔を一人の女性のなかに矛盾なく溶け込ませ、その芝居を成立させている。

屋上でペッパーが「もう辞めたい」と叫び、トニーが「じゃあ辞めていい、俺もCEOに戻る、ただし俺たちは一緒にいる」と短く返す。この応酬こそ、本作のラブ・ストーリーのクライマックスだ。アクション映画として処理されがちな本作にあって、この30秒だけがほぼ純粋なロマンチック・コメディとして撮られている。

ペッパー・ポッツ

ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォ…

前作のテレンス・ハワードに代わって本作からローディことジェームズ・ローズ大佐を演じるドン・チードルは、軍人としての筋の通った正義感と、トニーとの長年の友情のぬくもりを、ひとりの役の中に同時に背負ってみせる。ガレージで「次にあのスーツを着るのは俺だ」とつぶやいた前作のテレンス・ハワード版を引き継ぎ、本作ではついにスーツへ袖を通す。その瞬間を演じきってみせるところに、ドン・チードルとしてのウォーマシン誕生の第一歩がある。

ローディは本作を通して、「友人としてのトニー」と「合衆国軍人としての義務」のあいだで揺れ続ける。マーク2を空軍へ持ち帰る選択も、最終決戦でトニーと並んで戦う選択も、軍人としての職務と友情を守る決断が重なり合うものとして描かれる。やがて『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』へと続いていくウォーマシン像の輪郭は、ここで一気に定まる。

ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォ…

ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ

MCUにおけるナターシャ・ロマノフの本格的な初登場作である。表向きはペッパーCEOのアシスタント「ナタリー・ラッシュマン」として現れ、複数言語を即座に訳し分け、法務に通じ、護身術を心得た完璧な“秘書”を演じてみせる。潜入捜査官としての技能をすべて備えながら、その素顔は徹底して隠される。だが中盤、ドーナツ・ショップでフューリーと並んで姿を見せる瞬間、観客は彼女が本当はどこに属しているのかを知ることになる。

ハマー研究所の通路をたった一人で制圧していくシークエンスは、彼女のMCUにおけるアクションの原点として、今なお語り継がれている。スカーレット・ヨハンソンはわずか数十秒のあいだに、「ナターシャ・ロマノフという女の戦い方」の型を作り上げた。脚を使った旋回、関節技、言葉少なな視線、そしてふとした微笑——。ここで刻まれた記号は、やがて『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、そして『ブラック・ウィドウ』へと受け継がれていく。

ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ

イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ

本作の主たる敵役。父アントン・ヴァンコとともにアーク・リアクターを発明しながらも、軍事技術への横流しが発覚し、スターク家に切り捨てられた一族の生き残りである。その動機は「世界征服」にはない。スターク家がスターク家のために守り続ける“理想の血筋”という幻想を、世界中継のカメラの前で物理的に切り裂くこと――そこにこそ彼の執念がある。

ミッキー・ロークは役作りのため、実在のロシア人受刑者と長時間語り合い、ヴァンコのオウムや入れ墨といった独自のディテールを役柄に持ち込んだという。哲学的に冷たい笑みを浮かべ、鞭を振るう――本作でもっとも“映画的な”悪役の身体像は、俳優としての彼の厚みなしには成立しなかった。

イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ

ジャスティン・ハマー

ハマー・インダストリーズのCEO。トニー・スタークの“失敗版コピー”として徹底的に造形された人物で、サム・ロックウェルが「自尊心と能力の差が広すぎる男」という難役を見事に成立させている。中盤、ハマー・インダストリーズの秘密研究所で披露するプレゼン場面、終盤のスターク・エキスポでの絶叫めいた開幕宣言など、本作のコメディの大半はロックウェルの身体表現に支えられているといっていい。

ハマーは最終決戦ですべてを失い、後年のマーベル・ワンショット『All Hail the King』では獄中での姿が短く描かれた。MCUにおける再登場の機会こそ少ないものの、サム・ロックウェルが造り上げたこのキャラクターは「MCU初期の小悪党の最高傑作のひとつ」として、批評家と観客の双方から繰り返し語り継がれている。

ジャスティン・ハマー

ニック・フューリーとフィル・コールソン

前作のポスト・クレジットで暗闇に佇んでいた男、ニック・フューリーが本作でついに本格登場する。サミュエル・L・ジャクソン演じるフューリーは、トニーにとって父親代わりでも兄貴分でもなく、「お前の親父を知る老兵」として姿を現す。その口から語られるハワード・スタークとアントン・ヴァンコの過去が、物語の構造を一段深いところで支えている。

クラーク・グレッグ演じるフィル・コールソンは前作から続投する。本作での登場は二場面。スターク邸の客間でトニーをからかいながら寛ぐ場面と、ラストでミョルニルの落ちたクレーターを覗き込む場面だ。地味な背広姿で淡々と任務をこなす彼の存在感は、後年のテレビシリーズ『エージェント・オブ・シールド』を予感させる、本作の隠れた重要な見どころである。

ニック・フューリーとフィル・コールソン

舞台と用語

舞台は西海岸のマリブ、ワシントンD.C.の議事堂、地中海のモナコ、砂漠のハマー研究所、東海岸クイーンズのスターク・エキスポ、そして締めくくりはニューメキシコの夜の砂漠。北米と地中海をまたぐいくつもの土地を、一本の作品のなかで渡り歩いていく。アフガニスタンからカリフォルニアへと一直線に進んだ前作とは対照的に、本作は地理的に大きく散らばる。その広がりが、MCUの描く世界そのもののスケールを観客に体感させるのだ。

用語の柱となるのは、パラジウム・コア、新元素、ハマー・ドローン、SHIELDのアベンジャーズ・イニシアティブの四つである。パラジウムは前作で胸に埋め込まれた機械の燃料、新元素は父が遺した未完成の発明、ハマー・ドローンは“二流”の象徴、そしてアベンジャーズ・イニシアティブは、まだ書類の上にしか存在しないSHIELDの計画——。これらが交差した果てに、クライマックスでアイアンマンとウォーマシンが背中合わせに立つ、あの一カットが生まれる。

舞台と用語

23制作

前作の世界的成功からわずか二年弱という短い準備期間で続編を世に送り出さねばならず、企画・脚本・撮影・編集の全工程がほぼ同時進行で走った。監督のジョン・ファヴローは続投したが、脚本は前作の連名チームからジャスティン・セローひとりへと引き継がれ、撮影監督や音楽もそれぞれ前作とは異なる顔ぶれを迎えて制作が進められた。

制作

企画と脚本

ジャスティン・セローは『トロピック・サンダー』などコメディ畑で脚本家としてのキャリアを積み、本作で初めてMCUに加わった。プロデューサーのケヴィン・ファイギ、監督のジョン・ファヴロー、主演のロバート・ダウニー・Jr.の三者がアイデア出しの段階から関わり、続編の骨子として早い段階で四本の柱が固められた。「主人公がヒーローとして正体を公にしたあと、それでもなお崩れていく姿」「父との和解」「ライバルとなる兵器商人」「SHIELDとアベンジャーズへの本格的な助走」――これらを同時に走らせる方針である。

コミック原作の『デモン・イン・ア・ボトル』(トニーのアルコール依存を描いた伝説的エピソード)を直接の下敷きとはしないものの、誕生日パーティで泥酔するシーンにはその影響がはっきりと見て取れる。あからさまな依存描写を避け、パラジウム中毒という物語上のメタファーへ置き換えた。そうすることで、PG-13の枠に収まる「壊れていく主人公」の像が成立している。

短期間で改稿が重なり、撮影中もシーンの一部が書き換えられ続けた。ダウニー自身がアドリブで台詞を組み替える場面も多く、なかでも上院公聴会でモニタを乗っ取るくだりや、ドーナツ・ショップでのフューリーとのやりとりには、撮影現場で交わされた即興のやりとりが最終版にも色濃く残っている。

キャスティング

本作最大の話題は、ローディ役がテレンス・ハワードからドン・チードルへ交代したことだろう。マーベル・スタジオとハワードの間でギャラなどの条件が折り合わず、契約段階で離脱が決まった。チードルに代役の打診が届いたのはそのわずか数日後で、家族と短く相談したうえで出演を決めたと、後年のインタビューで本人が明かしている。

ナターシャ・ロマノフ役には、エミリー・ブラントやジェシカ・ビールら複数の候補が挙がった。そのなかから最終的に選ばれたのがスカーレット・ヨハンソンである。『マッチ・ポイント』『ロスト・イン・トランスレーション』を経てきたヨハンソンは、本作でアクション・スターとしての第一歩を踏み出した。ジャスティン・ハマー役のサム・ロックウェル、イワン・ヴァンコ役のミッキー・ロークは、いずれもプロデューサー陣がほぼ名指しで起用したかたちだ。

ハワード・スターク役のジョン・スラッタリーは本作で初登場する。のちに『アントマン』『シビル・ウォー』『エンドゲーム』へと受け継がれていく若き日のハワード像を、わずか数分の出番ですべて形づくってみせた。スターン上院議員を演じるギャリー・シャンドリング、ハッピー・ホーガン役で自ら出演するジョン・ファヴロー監督本人——脇を固める顔ぶれの厚さも、本作の見どころのひとつである。

撮影とプロダクション

撮影監督はマシュー・リバティーク。『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』などダーレン・アロノフスキー作品で知られる撮影者だ。本作では前作の都会的なクリアさをいくらか残しつつ、夜のマリブ、ハマー研究所、ニューメキシコの砂漠といった低照度の場面に独自の色彩設計を持ち込んだ。

撮影は2009年4月から7月にかけて、カリフォルニア州各地、ニューメキシコ州、そしてモナコ・モンテカルロのサーキット周辺で行われた。スターク・エキスポの会場は、カリフォルニアのフェアグラウンドを大規模に造り替えて建設。ハマー・ドローン群はLegacy Effectsが原寸大のモックアップを複数体製作し、オン・セット用と差し替え用に使い分けた。モナコGPの実景はモナコ市街地で短期間に撮影し、予選レースの規模はデジタル合成で拡張している。

アクション・シーンの多くでは、ダウニー本人とドン・チードルがスーツの上半身ハーフ・モックを着けたまま芝居をする方針がとられた。フルCG化される頭部や脚部を除き、俳優の生身の演技がリアルタイムで撮影されたのだ。こうして本作の戦闘シーンは「人体の重み」を残したまま、第一世代のMCUのトーンを受け継いでいる。

視覚効果

視覚効果はインダストリアル・ライト&マジック(ILM)が主導し、ダブル・ネガティブ、レガシー・エフェクツほか複数のスタジオが分担した。ILMは前作からアイアンマン・スーツのフルCGモデルを引き継いで改修し、本作では複数のマーク・スーツ(マーク4/5/6および新コア版マーク6)、シルバーのマーク2、ハマー兵装版ウォーマシン、ヴァンコの初代鞭スーツ、その最終強化型スーツ、さらに4機種計約20体を超えるハマー・ドローンまで、すべてを一画面に同時に映し出せる規模へと拡張させた。

レガシー・エフェクツはアイアンマン・スーツの実物大サンプルや、ハマー・ドローンの原寸大モックアップ、ヴァンコのウィップラッシュ鞭の実物試作品を製作し、撮影現場で俳優が実際に触れられるプロップを供給した。こうして本作の戦闘場面には、CGに頼り切らない「手で触れる質感」が残されている。

新元素を合成する粒子加速器、映写機が映し出すハワード・スタークの映像、新元素のホログラフィックな構造図、エキスポ会場の上空を編隊飛行するドローン群——。本作の視覚的な見せ場の多くは、複数のベンダーが手がける多層合成として組み上げられており、当時のMCUの技術水準を一段押し上げた。

視覚効果

音楽と音響

音楽を手がけたのはジョン・デブニー。前作でラミン・ジャヴァディが打ち出した「金属的なギター・テーマ」を受け継ぎながら、本作ではオーケストラの低弦と電子音を組み合わせ、“胸の中の毒”を描く旋律を新たに書き下ろした。トニーが地下工房で父のフィルムを観る場面では、その毒のテーマとは対照的に、抑制されたピアノとストリングスだけで音楽が構築されている。

サウンドトラックには、英国のロックバンド、AC/DCの楽曲がふんだんに使われた。オープニングからクライマックスまで、トニーの精神状態の浮き沈みに合わせて「Shoot to Thrill」「Highway to Hell」などが劇伴のようにはまり込む構成で、サウンドトラック・アルバムは事実上のAC/DCのコンピレーションとしても発売された。

音響面では、アーク・リアクターの新コア起動時の独特な高域音、ハマー・ドローンが一斉に立ち上がるときのメカニカルな音、ウィップラッシュの鞭が走行中の車両を切り裂く瞬間の電撃音など、シリーズに新たな音響の語彙がいくつも持ち込まれた。これらは後年のMCU作品のサウンド設計にも受け継がれている。

編集と公開準備

編集はダン・レーベンタルとリチャード・ピアソンの二人が手がけた。台詞シーンはやや早回し気味に刻む一方、スターク・エキスポや森林公園の場面では空間の位置関係を丁寧に整理する。本作はこの相反する要求を両立させねばならなかった。撮影終了から公開までの期間が短かったこともあり、最終版が確定したのは公開直前まで続いたとされる。

公開直前のキャンペーンでは、ハマー社のドローン群、ウィップラッシュの鞭、ブリーフケース型のスーツという三つを主要な“見せ札”とし、段階的に小出しにする戦略がとられた。一方、新元素の合成や父との和解、ポストクレジットでのミョルニル発見といった物語の核心をなす伏線は、予告編にいっさい登場させていない。観客が劇場ではじめて目にすることを最優先に編集されたのである。

30公開と興行

全米公開は2010年5月7日、日本では同年6月11日に劇場公開された。北米の初週末は約1億2,816万ドルのオープニングを記録し、最終的な全世界興行収入は約6億2,390万ドルに達している。製作費約2億ドルに対し、興行面で明確な黒字を確保。シリーズの商業的な勢いをしっかりと維持してみせた。

批評家の評価は、Rotten Tomatoesのトマトメーターで70%前後、観客スコアも70%台前半に落ち着いた。前作(94%前後)に比べると評価をやや下げたものの、「シリーズ続編として及第点をクリアし、集合篇への助走を成功させた一作」と受け止められている。日本でも公開週末に話題を集め、配信時代以前のMCU鑑賞体験の中継地点として、一定の存在感を残した。

受賞面では、視覚効果視覚化協会(VES Awards)の複数の技術部門でノミネートを果たしたものの、アカデミー視覚効果賞のノミネートには届かなかった。一方、サム・ロックウェルとミッキー・ロークの両俳優は、それぞれ「サタデー・ナイト・ライブ」や深夜トーク番組のパロディの題材となり、ポップ・カルチャーへの食い込みでは前作を上回る場面もあった。

31批評・評価・文化的影響

批評の焦点は、「集合篇への布石が多すぎたのではないか」という一点に集まっている。SHIELDの本格的な登場、ブラック・ウィドウの初お目見え、ウォーマシンの誕生、ニューメキシコの砂漠に眠るミョルニル、そして存在感を増していくフィル・コールソン——これらをまとめて一本の続編に詰め込んだ。その結果、トニー・スターク単独作としての完成度はいくぶん犠牲になったとする声がある一方で、MCUを“ひとつの大きな物語”として動かし始めた最初の作品だと評価する声もある。本作は、その両極の評価を同時に背負っているのだ。

後年の再評価で際立つのは、俳優陣の名演がシーン単位で長く語り継がれている点である。壊れかけたトニーを演じたロバート・ダウニー・Jr.、叫ぶペッパーのグウィネス・パルトロー、滑稽な悪役を体現したサム・ロックウェル、沈黙の鞭使いを演じたミッキー・ローク、廊下を一気に制圧してみせるナターシャのスカーレット・ヨハンソン、そしてフィルムの中に佇むハワードを演じたジョン・スラッタリー。いずれも忘れがたい。

文化的な影響として大きいのは、スターク家とSHIELDの関係が本格的に明かされたことである。ハワード・スタークがSHIELD設立に関わっていたという含み、ペギー・カーターやハワリング・コマンドーズといった前史の存在の示唆、そして書類上の計画にすぎなかったアベンジャーズ・イニシアティブが初めて画面に登場したこと——これらはやがて、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『エージェント・カーター』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、さらには『エンドゲーム』までを貫く長大な伏線として実を結んでいく。

批評・評価・文化的影響

舞台裏とトリビア

上院公聴会でスターン上院議員を演じるのは、コメディアン/脚本家として知られるギャリー・シャンドリングである。本作公開の数年後に他界したため、彼のMCU出演作は本作と『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の二作のみとなった。後者で彼が「ハイドラ万歳」と呟く描写は、本作の上院シーンを観返した観客に新たな解釈を与えた。シリーズ全体にまたがる伏線回収の好例として知られる一幕だ。

誕生日パーティで暴れるトニーのかたわら、ガラス・キャビネットの中に、後の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のクライマックスに登場する“試作型の盾”が一瞬映り込んでいる。この盾は新元素合成のシーンでも再び姿を見せ、作業中のトニーが床に転がし、拾い上げる円盤として登場する。本作は、MCUで初めて「キャプテン・アメリカの盾の原型」を実物として画面に出した一作でもある。

ナターシャがハマー研究所の廊下を制圧するシーンは、当初もっと短い予定だった。ところがスカーレット・ヨハンソンの動きの切れを見たプロデューサー陣が追加のカットを発注し、現在の長さにまで拡張されたという。スタント・ダブルとの分担は最小限に抑えられ、多くのカットでヨハンソン本人の動きが採用されている。

ジョン・ファヴローはハッピー・ホーガン役で出演している。それだけでなく、ナターシャがホーガンの警備員を次々と投げ飛ばすかたわらで、一人だけ殴り合いに手こずるという自虐的なコミック・リリーフを自ら演じている。ハッピーは後年の『スパイダーマン:ホームカミング』以降、独立した重要キャラクターへと昇格していくが、その出発点もまた本作にあった。

ポストクレジットに描かれるニューメキシコの場面は、本編とは別ロットで『マイティ・ソー』のメイン・ユニットが撮影した映像を流用したものとされる。クラーク・グレッグはこの一カットのためだけに単独でロケ地へ赴いており、後年「自分の一日分の出演料は、たった30秒の伏線のためだった」とインタビューで冗談混じりに語っている。

33テーマと解釈

作品の中心にあるのは「父と子」というテーマだ。ハワード・スタークとアントン・ヴァンコ、二人の発明家のあいだに生じた亀裂は、息子世代へと受け継がれ、トニーとイワンの対立として再び姿を現す。父の不在、そして父の遺したもの——フィルムと模型、設計図と怨念——が、二人の主人公の現在を等しく縛りつけている。本作は、父が遺したものをどう引き受けるのか、それぞれの息子に正反対の答えを語らせる。一方は新元素を発明として受け取り、もう一方は鞭を復讐として受け取るのだ。

二つ目の軸は「公開されたヒーローの限界」である。前作で自ら名乗りを上げた瞬間、トニーは一個人として国家と契約を結び、世界中の紛争に対する民間人としての責任を、たった一人で背負い込んだ。その選択が「個人の身体には不可能だ」という現実を、本作はパラジウム中毒というメタファーで描き出す。胸の灯が彼を救うと同時に殺してもいる——この二重性こそ、後年の『シビル・ウォー』『エンドゲーム』へと貫かれていく、トニーの罪と贖罪というテーマの起点となった。

三つ目の軸は「集合篇というジャンルの誕生」である。本作は単独のヒーロー映画でありながら、画面の隅々にSHIELD、コールソン、フューリー、ブラック・ウィドウ、ミョルニル、そしてキャプテン・アメリカの盾——他作品で主役を張る要素を散りばめ続ける。観客はこのとき初めて、「ひとつの映画を観るために、別の映画の知識が報酬として返ってくる」というMCU独特の語り口の楽しさを味わうことになった。

テーマと解釈

34見る順番

MCUの公開順をたどると、本作の直前に『インクレディブル・ハルク』、直後に『マイティ・ソー』が位置する。本作のポスト・クレジットは『マイティ・ソー』へ直接つながる助走になっており、続けて観るのが最も自然だ。物語内の時系列で見ても、本作のクライマックスは『マイティ・ソー』『インクレディブル・ハルク』のそれとほぼ同時期に進行している——これがMCU公式が示すひとつの読み方である。

アイアンマン三部作だけを追うなら、『アイアンマン』→本作→『アイアンマン3』の順に観たい。トニー・スタークの内面が崩壊し、やがて再建されていく三段階を、ひと続きで味わえる。テーマ別の入り口もある。トニー・スタークの“父”という主題なら本作→『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』→『アベンジャーズ/エンドゲーム』、SHIELDの主題なら本作→『マイティ・ソー』→『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、ブラック・ウィドウの主題なら本作→『アベンジャーズ』→『ブラック・ウィドウ』へと進むのが、もっとも素直な系譜だ。

見る順番

35よくある質問

「あらすじだけ知りたい」という向きにはこう答えればいい。アイアンマンとして正体を公表してから半年、トニー・スタークは三つの脅威に同時に追い詰められる。父が遺した発明、ロシアからやってきた復讐者ヴァンコ、そしてライバルの兵器商人ハマー——その渦中で、自らの命を蝕みつつある胸の灯を作り直していく、というのが本作の骨格である。一方「結末・ネタバレを知りたい」場合は、次の五点を押さえれば足りる。ヴァンコがエキスポの最終決戦で自爆して敗れること。トニーが新元素のコアを完成させ、中毒から脱すること。ローディがウォーマシンとして正式に運用入りすること。ポスト・クレジットでコールソンがニューメキシコ州のクレーターでミョルニルを発見すること。そしてトニー本人はアベンジャーズ・イニシアティブの“正式メンバー”には推薦されず、“コンサルタント”枠にとどまること——以上である。

「ブラック・ウィドウは本作で初登場?」——答えはそのとおり。ナターシャ・ロマノフがMCUに正式デビューを果たすのが、この『アイアンマン2』である。「ローディの役者が前作と違うのは?」という疑問には、前作のテレンス・ハワードから本作でドン・チードルへと交代した、と答えるのが事実関係としては最短だ。「新元素の名前は?」については注意がいる。本作では“新元素”としか呼ばれず、固有の名は劇中で明示されない。シリーズ内外では、後の作品との整合性からヴィブラニウム系の架空元素として読まれることが多いが、本作単体では名前が伏せられたままと考えて差し支えない。では「先に何を見ればいい?」と問われたら——まず前作『アイアンマン』(2008)でトニーの公表前後の事情を押さえてから本作に入り、その後『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』へ進むのが、もっとも自然な順番である。

36参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行、制作、配信の状況、外部からの評価は変動しうるため、視聴の前に公式情報および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとに、Anna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel 公式作品ページ
  2. IMDb: Iron Man 2 (2010)
  3. Rotten Tomatoes: Iron Man 2
  4. Box Office Mojo: Iron Man 2
  5. Marvel Database (Fandom): Iron Man 2 (film)