「アイアンマンとは私のことだ」と世界の前で名乗ったトニー・スタークは、半年後、自分が誇った胸の灯そのものに殺されようとしていた——父の遺した秘密、ロシアからやってきた復讐の鞭、ライバル兵器商人ジャスティン・ハマーの欲、そしてSHIELDという見えない手。MCUフェーズ1の中盤を担い、アベンジャーズという集合への助走を本格化させた、しんどさと祝祭が同居する続編。

基本データ 2010年・ジョン・ファヴロー監督

マーベル・スタジオ製作、パラマウント・ピクチャーズ配給。脚本はジャスティン・セロー単独。前作と同じくジョン・ファヴローが続投し、撮影マシュー・リバティーク、音楽ジョン・デブニーへ交代。上映時間124分、製作費約2億ドル、全世界興収約6億2,390万ドル。MCU通算第3作にしてフェーズ1の中継地点である。

物語上の位置 前作の半年後と、集合篇への助走

前作『アイアンマン』のラスト「私がアイアンマンだ」会見の約半年後。トニー・スタークが自分の正体ごと“民営化された世界平和”を維持する時期に当たる。本作はジェームズ・“ローディ”・ローズ役のドン・チードル交代、ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウのMCU初登場、ニック・フューリーの本格復帰、ウォーマシン誕生、コールソン捜査官の北上——『マイティ・ソー』のミョルニル発見へ直接接続する一作。

受賞・評価 賛否を呼びつつシリーズを前進させた一本

Rotten Tomatoes批評家評価は70%前後、観客スコアは70%台前半。北米初週末は約1億2,816万ドル、全世界興行は約6億2,390万ドルに到達。前作の独立した完成度と比較すると「集合篇の前振りに割かれた構成」と論じられがちだが、ロバート・ダウニー・Jr.の壊れかけたトニー、サム・ロックウェルのジャスティン・ハマー、ミッキー・ロークのイワン・ヴァンコといった俳優陣の存在感は今も高く評価されている。

この記事の範囲 結末・新元素生成・ポストクレジットまで完全解説

1989年カリフォルニアでのアントン・ヴァンコ追放、6か月後の上院公聴会、モナコGPでのウィップラッシュ襲撃、パラジウム中毒の進行、ローディによるマーク2強奪と空軍移管、フューリーとの再会と父ハワードの遺したフィルム、新元素の合成、スターク・エキスポでのハマー・ドローン暴走、ローディとの最終決戦、そしてポストクレジットでのコールソンによるミョルニル発見まで、ネタバレを前提に全編を解説する。

目次 37項目 開く

概要

『アイアンマン2』(Iron Man 2)は、ジョン・ファヴローが監督し、ジャスティン・セローが脚本を執筆したアメリカのスーパーヒーロー映画である。マーベル・スタジオが製作し、公開当時はパラマウント・ピクチャーズが配給した(後にディズニーがマーベル・スタジオを買収したことで、現在のソフト・配信権はウォルト・ディズニー・スタジオが管理している)。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の通算第3作にあたり、シリーズの章立てではフェーズ1の中盤、インフィニティ・サーガの導入部に位置づけられる。

原作はスタン・リー、ラリー・リーバー、ドン・ヘック、ジャック・カービーが1963年に発表したヒーロー、アイアンマン(トニー・スターク)。本作は前作『アイアンマン』(2008)が築いた「武器商人が自分の責任を背負い直す」骨格を引き継いだうえで、ヒーローとしての自己同一化が成立した後の人間が、それでもなお「人間として壊れていく」過程を中心軸に据え直した続編である。トニーが胸の灯から伝わるパラジウム中毒で死にかけているという物語上の不可逆な時間制限が、二時間の隙間という隙間に静かな緊張を注入し続ける。

米国公開は2010年5月7日、日本では同年6月11日に劇場公開された。上映時間は124分、製作費は約2億ドル、全世界興行収入は約6億2,390万ドルを記録し、商業的にはシリーズを安定軌道へ乗せた一作となった。主要キャストはロバート・ダウニー・Jr.(トニー・スターク/アイアンマン)、グウィネス・パルトロー(ペッパー・ポッツ)、ドン・チードル(ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン、前作のテレンス・ハワードから交代)、スカーレット・ヨハンソン(ナターシャ・ロマノフ/ナタリー・ラッシュマン/ブラック・ウィドウ)、サム・ロックウェル(ジャスティン・ハマー)、ミッキー・ローク(イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ)、サミュエル・L・ジャクソン(ニック・フューリー)、クラーク・グレッグ(フィル・コールソン)、ギャリー・シャンドリング(スターン上院議員)、ジョン・スラッタリー(ハワード・スターク)、ポール・ベタニー(J.A.R.V.I.S.、声)。

本記事は、結末、エンドロール中盤に挿入される実質的な“ミッドクレジット”シーン、そしてポスト・クレジットの「ミョルニル発見」までを含む全編のネタバレを前提に構成している。物語の驚きを残しておきたい読者は視聴後に戻ってきてほしい。本作はMCU全体の地図のうえで、ブラック・ウィドウの初登場、ウォーマシンの誕生、SHIELDが「アベンジャーズ計画」を地下水脈として動かしていることの本格的開示、そして『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』への直接的な橋渡しという、計四つの大きな伏線を一本の作品の中で同時に運ぶ役割を担っている。

原題
Iron Man 2
監督
ジョン・ファヴロー
脚本
ジャスティン・セロー
原作
マーベル・コミック(スタン・リー/ラリー・リーバー/ドン・ヘック/ジャック・カービー、1963)
音楽
ジョン・デブニー
撮影
マシュー・リバティーク
米国公開
2010年5月7日
上映時間
124分
ジャンル
スーパーヒーロー、SFアクション、テクノ・スリラー
シリーズ区分
MCUフェーズ1・第3作/インフィニティ・サーガ

あらすじ

以下は結末、ミッドクレジットに該当する締めのカット、そしてポスト・クレジット・シーンまでを含む全編のあらすじである。1989年のカリフォルニアでアントン・ヴァンコがハワード・スタークの手で追放される場面に始まり、6か月後の上院公聴会、モナコGPでのウィップラッシュ襲撃、パラジウム中毒の加速、ローディによるマーク2強奪、ニック・フューリーとの再会、父ハワードが遺した新元素、ハマー・ドローンの暴走、最終決戦、そしてニューメキシコ州の深夜のクレーターで響くコールソンの無線までを順に追っていく。

1989年・カリフォルニア——ヴァンコ家の追放

映画は1989年のロサンゼルスの薄暗い集合住宅の一室から始まる。テレビではハワード・スタークがスターク・エキスポの開幕を宣言する古いニュース映像が流れ、その光を浴びながら一人の老人が床に崩れ落ちる。ロシア系移民の物理学者アントン・ヴァンコ。傍らで彼を見下ろすのは、若い息子イワン・ヴァンコ(ミッキー・ローク)である。父が息を引き取った後、イワンは部屋の奥に立てかけられた古い設計図——ハワード・スタークと父が共同で作った「アーク・リアクター」の原型図面——を見つけ、その紙の上に染みのように残る父の指紋を指でなぞる。

この短い冒頭が、本作全体の倫理的な土台を据える。アーク・リアクターは、ハワードとアントンが二人で完成させた発明だった。しかし冷戦下にアントンが軍事転売へ走ろうとした事実をハワードが察知し、米政府はアントンをソ連へ強制送還、ハワードは設計の独占権を握ったまま「スターク家の家業」としてアーク・リアクターを継承した——この経緯が映画後半でフューリーの口から語られることになる。父の没落と恥の上に築かれたスターク家の繁栄、それを息子から息子へとつなぐ復讐の連鎖が、本作のもう一つの背骨である。

場面は半年後のワシントンD.C.へ移り、テレビ・ニュースの渦のなかにアイアンマンの空撮が次々と映る。世界のどこかで紛争が起こりかけるたび、赤と金のスーツが空から舞い降りて事態を片付ける——「私はアイアンマンだ」と名乗ったあの会見から半年が経ち、トニー・スタークは事実上、「民営化された世界平和」を一人で運営している。

上院公聴会と、トニーの大見得

映画の本格的な始動は、上院軍事委員会の小委員会の議場である。スターン上院議員(ギャリー・シャンドリング)が、アイアンマン・スーツを「兵器」と定義し、合衆国政府へ譲渡するよう要求する。証人席にはジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)と、空軍中佐ジェームズ・“ローディ”・ローズ(ドン・チードル)が並ぶ。ハマーは「スタークが独占しているテクノロジーは時代遅れになりつつあり、市場の健全な競争が必要だ」と弁じ、ローディは軍人として渋い表情を崩さない。

トニーはノートPCを叩き、議場のモニタを乗っ取って、北朝鮮、イラン、その他の競合各国のミサイル試射映像を一斉に流し、各国の兵器開発が全て自分の前で歯が立たず失敗していることをサーカスのように見せる。「私はあなた方の安全を提供しているのです。皆さんは私にプレゼントを贈るべきだ。たとえば大きな帽子と、私の称号を“国家資源”と呼ぶリボン付きの感謝状を」——この大見得は本作の主役の最後の余裕を象徴している。観客はこの瞬間に大笑いするが、その背後では、トニーの胸の中央で青く光るアーク・リアクターのコアが、ゆっくりとパラジウム中毒の毒を血液に流し続けている。

公聴会の帰り、トニーは廊下でハマーと握手する——表面上は紳士の応酬だが、ハマーの「いつか君の番が来る」という台詞は字面以上に意味を持つ。ハマーはこの数日後、刑務所の中の男に手を伸ばすことになる。

パラジウム中毒、ペッパーCEO就任、ナタリー・ラッシュマンの登場

マリブの自邸に戻ったトニーは、地下工房でJ.A.R.V.I.S.(ポール・ベタニー)に血液を分析させ、自分の血中毒性が許容上限の53%を超えていることを淡々と確認する。胸のリアクターの中央に組み込んだパラジウム・コアは、稼働するほど人体に致死性の重金属を析出させる。にもかかわらず、リアクターを停止すれば心臓に向けて飛ぶ榴弾片を抑える力を失う——前作で胸に居座ったあの破片が、今度は別の死神を呼び込んでいるのである。トニーはJ.A.R.V.I.S.に対して「リアクターを置き換える元素を探せ。元素周期表のあらゆる候補を検証しろ」と指示するが、既知の元素はことごとく毒性が高いか、出力が足りないかのどちらかだ。

残り時間の宣告を受けた彼は、しかしその事実を誰にも告げない。代わりに、長年のアシスタントであるペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)をスターク・インダストリーズのCEOに就任させ、自分は会長職に下がる。新CEOのアシスタントとして法務部から抜擢されてきたのが、ナタリー・ラッシュマン(スカーレット・ヨハンソン)——のちにナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウと判明する潜入捜査官である。タイト・スカートで紙の束を抱えて現れた彼女は、ボクシング・リング上のハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)を一瞬で寝技で締め上げて見せる短いカットで、観客に「この女性はただの秘書ではない」と告知する。

邸宅のトニーは、誕生日を控えていることもあり、加速度的に投げやりになっていく。残り時間の感覚と、自分の発明が自分自身を殺しているという二重の皮肉が、彼を「最後にやりたい放題をやってから死ぬ気の男」のテンションへ追い込んでいく。

モナコGPと、ウィップラッシュ襲撃

舞台は南仏モナコへ。スターク・インダストリーズのスポンサー枠を借りてグランプリを観戦に来たトニーは、ペッパーとハッピーの制止を振り切り、急遽自分でステアリングを握って予選レースに参戦する。観客席の眺めから一気にコース上の轟音へ滑り込む数分は、本作のもっとも純粋なジョン・ファヴロー演出と言える。

コースの中盤、舗装路を割って巨大な影がレース・カーの群へ歩み出る。ウィップラッシュ(ミッキー・ローク)。胸に自作の小型アーク・リアクターを埋め込み、両腕に高圧電流を流す二本の鞭を備えたイワン・ヴァンコが、そこに立っている。一振りで前を走るF1カーを縦に真っ二つにし、後続のレースカーを次々と炎で薙ぎ払う。ピットへ駆け戻ったトニーに、ハッピーとペッパーが「ブリーフケース・スーツ」を投げて寄越す——折り畳まれた赤と銀のマーク5は、コース上で展開して人体を包む、本作のもっとも有名な発明の一つである。

鞭と装甲の白兵戦は、観客席のすぐ目の前で繰り広げられる。トニーはついに鞭をリアクターから引きちぎり、ヴァンコのスーツの中央装置を破壊して制圧する。後刻、独房の鉄格子越しにトニーがヴァンコに会いに行く場面は、本作の隠れた中盤の白眉である。「父親同士の話だ」と語るヴァンコに、トニーは「お前の父親は嘘つきの泥棒だった」と切り返す。ヴァンコは静かに答える——「君が血を流して死ぬのが見えるよ」。彼は既に、トニーの胸の毒の存在を知っている。

ジャスティン・ハマーの強奪と、ヴァンコの“蘇生”

モナコでの逮捕の数日後、ジャスティン・ハマーは私財を投じてヴァンコを刑務所から脱獄させ、身代わりの死体を炎上した独房に残して「ヴァンコは獄中で死亡した」とニュースに流させる。ヴァンコは砂漠の一角にあるハマー・インダストリーズの秘密研究所へ移送され、そこでジャスティン・ハマーから「お前の天才を、私と一緒に世界へ売ろう」と持ちかけられる。

ハマーは、自分の会社が長年完成できなかった「無人飛行戦闘ドローン」のプロトタイプ群——陸軍仕様、海軍仕様、空軍仕様、海兵隊仕様——をヴァンコに開いて見せる。どれもアイアンマンの劣化コピーで、起動はするが姿勢制御が破綻している。ハマーはヴァンコに、それらをマトモに動かせるソフトウェアと、自分の名前を冠した披露目を要求する。ヴァンコは表面上は同意するが、研究室で密かにドローンに自分の復讐のための改造を施し始める——ハマーのドローンを、ハマーの舞台で、ハマーを殺すために使う計画である。

サム・ロックウェルの演じるハマーは、二流の野心家として徹底的に滑稽に造形される。トニー・スタークの“なれの果て候補”として、メディアの前で踊り、嘲笑され、それでも自尊心を絶対に折らない。本作はハマーをただ嘲るのではなく、トニーが一歩道を踏み外せばこうなり得たという陰画として描いており、その距離感のおかげで悪役以上の存在感を獲得している。

誕生日パーティの暴走と、ローディの空軍移管

マリブの自邸で開かれたトニーの誕生日パーティは、本作のなかでもっとも観客の感情を引き裂くシークエンスだ。トニーは“いつ死んでもいい”という捨て鉢のテンションで、アイアンマン・スーツを着たままシャンパンを振り撒き、客の前で射撃のショーをしてみせる。客は最初こそ笑い、やがて引きつる。ペッパーは退出させようとし、ローディが地下のガレージに駆け下りる。

ガレージに残されていたシルバーのプロトタイプ・スーツ「マーク2」を、ローディは自らの手で装着する。マーク2は前作で初めて滞空に成功したテスト機で、ペイントを剥がしただけの軍用色をしている。階段を上ったローディは、酔って暴れるトニーの前へマーク2の姿で立ち、二機の装甲の白兵戦が邸宅のリビングで始まる。家具と窓ガラスが砕け、最後にふたりはユニビーム同士をぶつけ合って屋根を吹き飛ばす。ローディはマーク2のまま離脱し、そのまま空軍エドワーズ基地へ運ぶ——上院公聴会で「兵器を譲渡せよ」と要求されたあのスーツが、奇しくも兵器商人ライバルの手に渡る一歩手前で、軍属の親友の手によって合衆国の倉庫へ収まる、というねじれの結果になる。

翌朝のマリブには、瓦礫と、客の靴跡と、ペッパーの怒りだけが残る。ロバート・ダウニー・Jr.はこのパーティの一連を、笑いと痛みのちょうど境界線の温度で演じ切っている——観客はこの瞬間、トニーが本当に死ぬかもしれないと感じる。

ドーナツ・ショップ、フューリー、ナタリーの正体

一夜明け、トニーはロサンゼルスのドーナツ・チェーンの巨大な看板の上に、アイアンマン・スーツのまま座り込んでいる。ヘルメットを取って棒付きドーナツを齧る彼の前に、黒コートの男が現れる——ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)。前作のポスト・クレジットでマリブの暗闇から登場した男が、本作で初めて昼の光の中に立つ瞬間である。

フューリーはトニーをチェーン店の店内に座らせ、彼の事情をすべて知っていると静かに告げる。胸のリアクターのパラジウム中毒、新元素の探索、父の遺した未解決の方程式、そして自分が継承したスターク家の歴史——すべてが既にSHIELDの記録のなかにある。隣の席に座っていた女が振り返り、注射器を持ち上げる。ナタリー・ラッシュマン、本名ナターシャ・ロマノフ、SHIELDのエージェントとしてスターク・インダストリーズに潜入していた女性である。彼女は注射針をトニーの首筋に打ち、リチウム・ダイオキシド製剤を一時的に投与して中毒の症状を“数日”だけ抑え込む。

フューリーは奥のテーブルへ移り、トニーの父ハワードがかつて残した古いトランクと、フィルム缶の山を差し出す。「君の父は、お前のために何かを残した。それを見つけるのはお前の仕事だ」と告げ、画面の暗闇から立ち上がるフューリーの背後で、観客は初めてSHIELDという組織のスケールを意識し始める——前作のラストで予告された世界が、ここから本格的に動き出す。

父ハワードの遺言、新元素の合成

自邸へ戻ったトニーは、フューリーから渡された箱の中身を一つずつ開いていく。古い写真、手帳、未完成のスケッチ、そして1974年スターク・エキスポの公式記録映画のフィルム缶。映写機にフィルムを通すと、若き日のハワード・スターク(ジョン・スラッタリー)が画面に現れ、未来都市の模型の前で「お前のためにこれを残しておく」と語りかける。ハワードは「私の生きた時代の技術では完成させられなかった元素がある。だが私の限界はお前の限界ではない。お前を待つのが、この最後の発明だ」と告げて、フィルムを締めくくる。

トニーは、エキスポの未来都市模型をハワードが描いた古い設計図と重ね合わせ、模型そのものが「新元素の原子構造を上空から見た図解」になっていることを発見する。前作で胸の灯を組み上げたあの即興のひらめきが、本作では“父の地図を読み解く”作業として再演される。トニーはガレージの一階を粒子加速器で打ち抜くために床と壁を解体し、J.A.R.V.I.S.の制御下で短時間だけ作動する手作りの線形加速器を組み上げ、新元素のサンプル合成に成功する。

胸のアーク・リアクターのコアを、新元素ベースのコアに換装した瞬間、トニーの中毒症状は劇的に治まり、出力も大幅に向上する。同時に、彼はその素子の本当の名を知らずに済む——本作では“新元素”としか呼ばれず、後年の関連作とコミック原作の歴史を踏まえて、ファンの間ではアイアンマンの新コアが事実上「ヴィブラニウム」ないしその近縁の架空元素として位置づけられる、という解釈が広く共有されている(公式に固有名を本作内で発音する場面はない点に注意)。

スターク・エキスポと、ハマー・ドローン暴走

舞台はクイーンズの「スターク・エキスポ2010」会場へ。ジャスティン・ハマーは合衆国陸海空海兵隊それぞれの仕様で組み上げたハマー・ドローンを観客の前で起動させ、ステージ中央には“最新型ウォーマシン”——空軍が回収しヴァンコが密かに兵装を組み足したマーク2の改造機——に乗ったローディを立たせる。会場の中央広場には何万人もの観客と、その中に潜むペッパーとハッピー、ナタリーの姿がある。

新コアを搭載したマーク6でエキスポへ駆けつけたトニーがステージへ降り立った瞬間、ヴァンコが秘密研究所のコンソールから全ドローンとローディのスーツを同時にハイジャックする。ハマー・ドローン軍団は来場者の頭上で隊列を組み、ローディはトニー目掛けて撃ち始める。トニーは観客の頭の上で迎撃しながら、ドローンと旧友をエキスポ会場の外、隣接するブルックリンの森林公園へ誘導する。

同時並行で、ハッピー・ホーガンの運転する車にナタリー・ロマノフが乗り、ハマー・インダストリーズの秘密研究所へ向けて疾走している。研究所の通路では、彼女が初めてブラック・ウィドウとしての本領を発揮する——警備員数名を、廊下を一往復するあいだに全員無力化していくロングテイク気味のアクションは、MCUにおけるナターシャ像の最初の刻印である。ナタリーは制御室のサーバーにアクセスし、ヴァンコのハッキング命令を上書きしてローディのスーツの制御権をトニー側へ取り戻す。ローディは正気を取り戻し、トニーと並んでドローン群を迎え撃つ態勢に入る。

森林公園の最終決戦と、新元素の宣告

ウィップラッシュ本人も、自分自身を覆う最終形態のスーツに乗ってエキスポ会場の森林公園へ降り立つ。新スーツは旧モナコ版の倍以上の出力を持ち、両腕の鞭は装甲を瞬時に裁断する。トニーとローディは背中合わせの態勢から、二機分のユニビームを十字に交差させてヴァンコの装甲ごと鞭の根元を焼き切る——MCU初期のなかでも特に有名な「クロス・ユニビーム」のキメ絵である。

倒れたヴァンコは、自分のスーツと、まだ生きているハマー・ドローン全機の自爆プロトコルを起動させる。会場のあちこちで爆発が連鎖し、その中にペッパーがいる。トニーはドローンを一機ずつ撃ち落としながらペッパーまで飛び、彼女を抱き上げて屋上へ離脱する。屋上のシーンでトニーが「もう辞める。CEOも返す」と切り出すと、ペッパーは抑えていた涙と怒りをまとめて吐き出し、ふたりは初めて画面の中で本気のキスを交わす。それを上空から眺めるローディの「やめろ、君ら見えてるぞ」という呟きで、シリーズらしい温度に着地する。

後日、上院議事堂でスターン上院議員が「アイアンマンとウォーマシンに対する米軍からの表彰」をしぶしぶ授ける式典が短く挿入される。彼の胸に「あなたは英雄だ」のメダルが付けられる皮肉なカットは、本作冒頭で「兵器を寄越せ」と迫った男の同一人物が、わずか数日後に同じ男にメダルを掛けに来る構図として、本作の政治的諷刺を締めくくる。

結末、ニック・フューリーの査定と、ポストクレジット

本編最後のシークエンスは、SHIELDの仮設オフィスでのフューリーとトニーの会話である。フューリーはトニーに「アベンジャーズ・イニシアティブ」と書かれた極秘ファイルを差し出すが、開いてみると添付の心理プロファイルには「個性は推薦するが、チーム適性は推薦しない。アイアンマン本人は採用するが、トニー・スタークは採用しない」と書かれている。トニーは肩をすくめて笑い、その代わりに「コンサルタントとして、報酬は時給1ドル、ただし掛かった経費は全額払え」と要求する。直後、フューリーは「ローディ中佐は別件で“ウォーマシン”として軍籍のままアベンジャーズ予備に名を連ねる予定だ」と告げ、面会は終わる。

ポストクレジット直前のラストカットでは、フィル・コールソン捜査官(クラーク・グレッグ)がニューメキシコ州の砂漠を車で走っている。SHIELDからの呼び出しを受けて急行していた彼は、月明かりの下にぽっかりと開いた巨大なクレーターと、その底にめり込んだ一本の柄を見つけ、無線で本部に告げる——「司令、見つけた」。クレーターの底に突き刺さっているのはミョルニル、雷神ソーのハンマーである。

この30秒で本作は終わる。トニーの胸の毒が抜け、ペッパーとの関係が新しい段階に入り、ローディがウォーマシンとして並び立ち、SHIELDが地下水脈として動き、そしてニューメキシコのクレーターで次作『マイティ・ソー』の物語が静かに始まっている——MCUがほんとうの意味で「ひとつの大きな物語」になり始めた瞬間が、この最後の一カットの中に詰め込まれている。

登場要素

本作に登場・言及される主な要素を分類して示す。固有名詞はMCU全体の理解の手がかりとなるが、初見で暗記する必要はない。新元素、アーク・リアクター、SHIELDのアベンジャーズ計画、ニューメキシコのクレーターなど、後年に大きく実る伏線がこの一作だけでも複数走っている。

主要人物

  • トニー・スターク/アイアンマン
  • ペッパー・ポッツ
  • ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン
  • ナターシャ・ロマノフ/ナタリー・ラッシュマン/ブラック・ウィドウ
  • ハッピー・ホーガン
  • ニック・フューリー
  • フィル・コールソン
  • ハワード・スターク(フィルム映像)
  • J.A.R.V.I.S.(音声)

ヴィラン

  • イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ
  • ジャスティン・ハマー(ハマー・インダストリーズ)
  • ハマー・ドローン(陸/海/空/海兵隊仕様)
  • ヴァンコ強化版ウィップラッシュ・スーツ
  • (背景)アントン・ヴァンコの怨念とソ連時代の遺産

サポート/脇役

  • スターン上院議員
  • ハマー・インダストリーズの警備隊
  • スターク・エキスポの来場者・運営
  • モナコGPの観衆
  • スターク・インダストリーズ役員会
  • クリスティーン・エヴァーハート(写真・台詞のみ言及)
  • ローディの空軍同僚
  • 若き日のスターン議員時代の同僚たち

組織

  • スターク・インダストリーズ
  • ハマー・インダストリーズ
  • S.H.I.E.L.D.(戦略国土介入執行兵站局)
  • 米空軍・米海軍・米海兵隊(ドローン提案先)
  • 米上院軍事委員会
  • (背景)ハイドラ/ナチス科学部局の歴史的痕跡(ハワード文書内)

場所

  • 1989年のカリフォルニア/ロサンゼルス
  • ワシントンD.C.・上院公聴会場
  • マリブのスターク邸宅と地下工房
  • モナコ・モンテカルロのサーキット
  • フランス領内のフランス警察拘置所
  • ハマー・インダストリーズ秘密研究所(砂漠地帯)
  • ロサンゼルス郊外のドーナツ・チェーン店
  • クイーンズ・スターク・エキスポ2010会場
  • エキスポ隣接の森林公園(最終決戦地)
  • ニューメキシコ州・ミョルニル落下クレーター

アイテム・技術

  • パラジウム式アーク・リアクター(初期コア)
  • 新元素ベースのアーク・リアクター(換装後コア)
  • マーク4・マーク5(ブリーフケース・スーツ)・マーク6
  • シルバーのマーク2(後のウォーマシン原型)
  • ウォーマシン・スーツ(ハマー兵装改修版)
  • ウィップラッシュの高圧電撃鞭
  • 強化型ウィップラッシュ・スーツ
  • ハマー・ドローン4機種
  • ハワード・スタークの未来都市模型と1974年フィルム
  • 自作の卓上型粒子加速器
  • リチウム・ダイオキシド注射(中毒抑制)
  • J.A.R.V.I.S.のAIインターフェース

能力・概念

  • パラジウム中毒の進行と血中毒性値
  • 新元素の合成と原子構造の図解化
  • アーク・リアクターの出力とユニビーム
  • ブリーフケース・スーツの折り畳み展開機構
  • SHIELDの潜入捜査と心理プロファイリング
  • アベンジャーズ・イニシアティブの内部審査
  • 民営化された世界平和(トニーの自称)
  • クロス・ユニビーム(二機による合成攻撃)

ポストクレジット要素

  • コールソンによるニューメキシコ・クレーター調査
  • ミョルニル発見=『マイティ・ソー』への直接接続
  • アベンジャーズ・イニシアティブのコンサルタント契約成立
  • ウォーマシンの正式運用入り=『アベンジャーズ』『ホームカミング』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』への布石
  • ブラック・ウィドウのMCU本格デビュー

主要登場人物

本作は、トニーとペッパーの恋愛関係、トニーとローディの友情、トニーと父ハワードの和解、そしてヴァンコとハマーの二人組の悪役という、四本の人間関係の縄を同時に編む。それぞれの軸が最終決戦と新元素発見へ向けて収束していく構造が、続編としての本作の中心の骨格になっている。

トニー・スターク/アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)

前作で「私がアイアンマンだ」と世界に名乗りを上げた男が、本作では「自分の発明によって殺されかけている男」として描き直される。ロバート・ダウニー・Jr.は、観客が前作で愛したあの饒舌な皮肉屋を、今度は内側から崩していく芝居で演じる。誕生日パーティの泥酔シーン、ドーナツの看板に座り込むシーン、自邸の地下で父の遺したフィルムを観るシーンの三つは、彼の演技の振れ幅をもっとも明確に示すシークエンスとして記憶されている。

本作のトニーは「死を覚悟したあとに、もう一度生きる理由を父から受け取る男」である。父ハワードとの確執は前作では台詞の片隅にあった程度だが、本作で初めて正面から処理され、後年の『アイアンマン3』『シビル・ウォー』『エンドゲーム』までを貫く「父と子」のテーマの起点として機能する。

人物:アイアンマン/トニー・スタークの人物ページ 前作:アイアンマン(2008) 続編:アイアンマン3

ペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)

前作までトニーの長年のアシスタントだったペッパーは、本作の前半でスターク・インダストリーズのCEOに就任する。グウィネス・パルトローは「ヒーローの傍らの優秀な女性」というステレオタイプから抜け出し、社内政治の最前線に立ち、トニーの暴走に毎晩怒り、それでも最後には屋上で本気のキスを交わす——複数の顔を同じ女性のなかで矛盾なく着地させる芝居を成立させている。

ペッパーが屋上で「もう辞めたい」と叫ぶシーンと、それを受けてトニーが「じゃあ辞めていい、俺もCEOに戻る、ただし俺たちは一緒にいる」と返す短い応酬は、本作のラブ・ストーリー部分のクライマックスである。アクション映画として消化されがちな本作のなかで、この30秒だけがほぼ純粋なロマンチック・コメディとして撮られている。

ジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン(ドン・チードル)

前作のテレンス・ハワードから本作で交代したドン・チードルは、軍人としての筋の通った正義感と、トニーとの長年の友情の温度の両方を同時に運ぶ。ガレージで「次にあのスーツを着るのは俺だ」と呟いた前作のテレンス・ハワード版を引き継ぎつつ、本作で実際にスーツに袖を通す瞬間を演じきるのが、ドン・チードルとしてのウォーマシン誕生の第一歩である。

ローディは本作を通して「友人としてのトニー」と「合衆国軍人としての義務」のあいだで揺れ続ける。マーク2を空軍に持ち帰る選択も、最終決戦でトニーと並んで戦う選択も、どちらも軍人としての職務と、友情を守る決断の重なりとして描かれている。後年の『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』へ続くウォーマシン像の輪郭は、ここで一気に確定する。

ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)

MCUにおけるナターシャ・ロマノフの本格初登場作。表向きはペッパーCEOのアシスタント「ナタリー・ラッシュマン」として現れ、複数言語の即時翻訳、法務知識、護身術、そして潜入捜査官としての全ての技能を備えた完璧な“秘書”として振る舞う。中盤のドーナツ・ショップでフューリーと並んで現れる瞬間に、観客は彼女の本当の所属を知る。

ハマー研究所の通路を一人で制圧するシークエンスは、彼女のMCU内アクションの起点として今も語られる。スカーレット・ヨハンソンはこの数十秒で、「ナターシャ・ロマノフという女性の戦い方」のフォーマットを確立した——脚を使った旋回、関節技、寡黙な視線、そして時々の微笑。これらの記号がここから『アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『ブラック・ウィドウ』へ受け継がれていく。

人物:ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフの人物ページ 単独作:ブラック・ウィドウ

イワン・ヴァンコ/ウィップラッシュ(ミッキー・ローク)

本作の主たる敵役。父アントン・ヴァンコと共にアーク・リアクターを発明したものの、軍事転売の発覚でスターク家に切り捨てられた家系の生き残りである。彼の動機は「世界征服」ではなく、「スターク家がスターク家のために維持している“理想の血筋”という幻想」を、世界中継のカメラの前で物理的に切り裂くことにある。

ミッキー・ロークは役作りのために実際のロシア人受刑者と長時間の対話を行い、ヴァンコのオウムや入れ墨など独自のディテールを役柄に持ち込んだとされる。哲学的に冷たい笑みを浮かべながら鞭を振るう、本作のもっとも“映画的な”悪役の身体像は、彼の俳優としての厚みなしには成立し得なかった。

ジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)

ハマー・インダストリーズのCEO。トニー・スタークの“失敗版コピー”として徹底的に造形され、サム・ロックウェルが「自尊心と能力の差が広すぎる男」という難役を完全に成立させている。中盤のハマー・インダストリーズ秘密研究所でのプレゼン場面、終盤のスターク・エキスポでの絶叫的な開幕宣言など、本作のコメディの大半はロックウェルの身体性に依存している。

ハマーは最終決戦で全てを失い、後年のマーベル・ワンショット『All Hail the King』にて獄中の様子が短く描かれた。MCU内では再登場の機会こそ少ないが、サム・ロックウェルが残したこのキャラクターは「MCU初期の小悪党の最高傑作のひとつ」として、批評・観客の双方から繰り返し言及されている。

ニック・フューリーとフィル・コールソン(サミュエル・L・ジャクソン/クラーク・グレッグ)

前作のポスト・クレジットで暗闇に立っていた男ニック・フューリーが、本作でようやく本格的に登場する。サミュエル・L・ジャクソンのフューリーは、トニーに対して父親代わりでも兄貴分でもなく、「君の親父を知っていた老兵」として現れる。彼の口から語られるハワード・スタークとアントン・ヴァンコの過去が、本作の物語構造を一段深い場所で支える。

クラーク・グレッグのフィル・コールソンは前作から続投し、本作ではスターク邸宅の客間でトニーをからかいながら寛ぐ場面と、ラストでミョルニルのクレーターを覗き込む場面の二箇所で登場する。地味な背広姿で淡々と任務をこなす彼の存在感は、後年のテレビシリーズ『エージェント・オブ・シールド』を予感させる、本作の隠れた重要要素である。

舞台と用語

舞台は西海岸のマリブ、ワシントンD.C.の議事堂、地中海のモナコ、砂漠のハマー研究所、東海岸クイーンズのスターク・エキスポ、そして最後にニューメキシコの夜の砂漠と、北米と地中海を横断する複数のロケーションを一本の作品の中で渡り歩く。前作のアフガニスタンからカリフォルニアへの“一直線の物語”に対し、本作は地理的に大きく散らばることでMCUが扱う世界そのものの広がりを観客に体感させる。

用語面の中心は、パラジウム・コア、新元素、ハマー・ドローン、SHIELDのアベンジャーズ・イニシアティブの四つである。パラジウムは前作で胸に居座った機械の燃料、新元素は父の遺した未完成の発明、ハマー・ドローンは“二流”の象徴、アベンジャーズ・イニシアティブはまだ書類の上にしか存在しないSHIELDの計画——これらが交差した結果として、本作のクライマックスでアイアンマンとウォーマシンが背中合わせに立つカットが成立する。

用語:S.H.I.E.L.D. 用語:アベンジャーズ・イニシアティブ 用語:フェーズ 用語:インフィニティ・サーガ 用語:MCU

制作

前作の世界的成功から二年弱という短期間で続編を世に送り出す必要があり、企画・脚本・撮影・編集の全工程が同時並行的に走った。ジョン・ファヴローは続投したものの、脚本は前作の連名チームから単独のジャスティン・セローへ交代し、撮影監督・音楽もそれぞれ前作と異なる人材を迎えるかたちで進められた。

企画と脚本

ジャスティン・セローは『トロピック・サンダー』などのコメディ畑で脚本キャリアを築き、本作で初めてMCUに加わった脚本家である。プロデューサーのケヴィン・ファイギ、監督のジョン・ファヴロー、主演のロバート・ダウニー・Jr.の三者がアイデア出しから関わり、続編の骨子として「主人公がヒーローとして公にしたあと、それでも崩れていく姿」「父との和解」「ライバル兵器商人」「SHIELDとアベンジャーズへの本格的な助走」の四本を同時に走らせる方針が早期に固められた。

コミック原作の『デモン・イン・ア・ボトル』(トニーのアルコール依存を扱う伝説的エピソード)を直接の原作とはしないものの、誕生日パーティの泥酔シーンには明確にその影響が見て取れる。直截な依存描写を避けつつ、パラジウム中毒という物語的なメタファーへ置き換えることで、PG-13の枠内に収まる「壊れていく主人公」の像が成立している。

短期間の改稿が続いたため、撮影中もシーンの一部が書き換えられ続けた。ダウニー自身がアドリブで台詞を組み替えるシーンが多数あり、特に上院公聴会のモニタ乗っ取りやドーナツ・ショップでのフューリーとのやりとりは、撮影現場での即興的な往復が最終版に色濃く残されている。

キャスティング

本作最大の話題は、ローディ役のテレンス・ハワードからドン・チードルへの交代であった。マーベル・スタジオとハワードの間でギャラ等を含む条件が折り合わず、契約段階で離脱が確定した経緯がある。チードルは数日のうちに代役として打診を受け、家族との短い相談の後に出演を決断したと後年のインタビューで語っている。

ナターシャ・ロマノフ役にはエミリー・ブラント、ジェシカ・ビールなど複数の候補が挙げられたなかから、最終的にスカーレット・ヨハンソンが選ばれた。ヨハンソンは『マッチ・ポイント』『ロスト・イン・トランスレーション』を経て本作でアクション・スターとしての軸足を初めて踏み出した。ジャスティン・ハマー役のサム・ロックウェル、イワン・ヴァンコ役のミッキー・ロークは、いずれもプロデューサー陣の名指しに近い形で起用された。

ハワード・スターク役のジョン・スラッタリーは、本作で初登場のち、後年『アントマン』『シビル・ウォー』『エンドゲーム』へ受け継がれる若き日のハワード像を、わずか数分のフィルム内ですべて確立した。脇役層の厚さ——スターン上院議員ギャリー・シャンドリング、ハッピー・ホーガンとして自ら出演するジョン・ファヴロー監督本人——も本作の特徴である。

撮影とプロダクション

撮影監督はマシュー・リバティーク。『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー作品で知られる撮影者であり、本作では前作の都市的なクリアさをやや残しつつ、夜のマリブ、ハマー研究所、ニューメキシコの砂漠など低照度のシークエンスに独自の色彩設計を持ち込んだ。

撮影は2009年4月から7月にかけて、カリフォルニア州各地、ニューメキシコ州、モナコ・モンテカルロのサーキット周辺で行われた。スターク・エキスポの会場はカリフォルニアのフェアグラウンドを大規模に造り替えて建設され、ハマー・ドローン群はLegacy Effectsが原寸大のモックアップを複数体製作してオン・セット用と差し替えに用いた。モナコGPの実景撮影は本物のモナコ市街地で短期間に行われ、デジタル合成で予選レースの規模を拡張した。

アクション・シーンの多くで、ダウニー本人とドン・チードルがスーツの上半身ハーフ・モックを着用したまま芝居をする方針がとられ、フルCG化される頭部・脚部以外は俳優の生身の演技がリアルタイムで撮影された。これにより、本作の戦闘シーンは「人体の重み」を残したまま、第一世代のMCUのトーンを継承している。

視覚効果

視覚効果はIndustrial Light & Magicが主導し、Double Negative、Legacy Effectsほか複数のスタジオが分担した。ILMは前作からアイアンマン・スーツのフルCGモデルを継承・改修し、本作では複数バージョンのマーク・スーツ(マーク4/5/6および新コア版マーク6)と、シルバーのマーク2、ハマー兵装版ウォーマシン、ヴァンコの初代鞭スーツ、ヴァンコの最終強化型スーツ、4機種計約20体超のハマー・ドローンの全てを一画面に同時表示できる規模まで拡張した。

Legacy Effectsはアイアンマン・スーツの実物大のオン・セット・サンプル、ハマー・ドローンの原寸大モックアップ、ヴァンコのウィップラッシュ鞭のフィジカル試作品を製作し、撮影現場で俳優が実際に触れられるプロップを供給した。これにより、CGに頼り切らない「触れる質感」が本作の戦闘場面に残されている。

新元素合成シーンの粒子加速器、フィルム映写機の中のハワード・スタークの映像、新元素のホログラフィック構造図、エキスポ会場上空のドローン群の編隊飛行——本作の視覚的見せ場の多くは、複数ベンダーによる多層合成として組まれており、当時のMCUの技術レベルを一段押し上げた。

音楽と音響

音楽はジョン・デブニーが担当した。前作のラミン・ジャヴァディが提示した「金属的なギター・テーマ」を継承しつつ、本作ではオーケストラの低弦と電子音の組み合わせで“胸の中の毒”を表現する旋律が新規に書かれた。トニーが地下工房で父のフィルムを観るシーンの音楽は、その毒のテーマとは対照的に、抑制されたピアノとストリングスのみで構築されている。

サウンドトラックには英国ロックバンド、AC/DCの楽曲が大量に使用された。オープニングからクライマックスまで、トニーの精神状態の上下に合わせて「Shoot to Thrill」「Highway to Hell」などの楽曲が劇伴的にハマる構成になっており、サウンドトラック・アルバムは事実上のAC/DCコンピレーションとしても発売された。

音響面では、アーク・リアクターの新コア起動時の独特な高域音、ハマー・ドローンの集団起動時のメカニカル音、ウィップラッシュの鞭が走行車両を切断する瞬間の電撃音など、シリーズに新しい音響語彙が複数導入された。これらは後年のMCU作品のサウンド設計にも継承されている。

編集と公開準備

編集はダン・レーベンタルとリチャード・ピアソンの二名体制。本作のテンポは、台詞シーンの早回し気味の編集と、スターク・エキスポ/森林公園のシーンの空間情報の整理を両立する必要があり、撮影終了から公開までの期間が短かったため最終版のロックは公開直前まで続いたとされる。

公開直前のキャンペーンでは、ハマー・ドローン群、ウィップラッシュの鞭、ブリーフケース・スーツの三つを主要な“見せ札”として段階的に開示する戦略がとられた。新元素合成や父との和解、ポストクレジットのミョルニル発見など、物語のもっとも重要な伏線は予告編には一切登場せず、観客が劇場で初対面することを最優先に編集された。

公開と興行

2010年5月7日に米国で公開、日本では同年6月11日に劇場公開された。北米初週末は約1億2,816万ドルでオープニングを切り、最終的な全世界興行は約6億2,390万ドルに達した。製作費約2億ドルに対して興行ベースで明確な黒字を確保し、シリーズの商業的勢いを維持した。

批評家評価はRotten Tomatoesのトマトメーターで70%前後、観客スコアは70%台前半に着地し、前作(94%前後)と比較してやや評価は下げたものの、「シリーズ続編としての及第点をクリアし、集合篇への助走を成功させた一作」として受け取られた。日本では公開週末に話題となり、配信時代以前のMCU観賞体験の中継地点として一定の存在感を残した。

受賞面では、視覚効果視覚化協会(VES Awards)の複数の技術部門でノミネートを受けたが、アカデミー視覚効果賞へのノミネートには至らなかった。一方で、サム・ロックウェルとミッキー・ロークの俳優陣はそれぞれ「サタデー・ナイト・ライブ」や深夜トーク番組のパロディの題材となり、ポップ・カルチャーへの食い込み度は前作を超える局面も存在した。

批評・評価・文化的影響

批評の中心軸は「集合篇への前振りが多すぎたかどうか」をめぐる議論にある。SHIELDの本格登場、ブラック・ウィドウの初登場、ウォーマシン誕生、ニューメキシコのミョルニル、フィル・コールソンの存在感の拡大——これらすべてを一本の続編に詰め込んだ結果として、本作はトニー・スターク単独作としての完成度をやや犠牲にしたという批判と、MCUを“ひとつの大きな物語”として機能させ始めた最初の作品だという称賛の双方を受けている。

後年からの再評価としては、ロバート・ダウニー・Jr.の「壊れかけたトニー」、グウィネス・パルトローの「叫ぶペッパー」、サム・ロックウェルの「滑稽な悪役」、ミッキー・ロークの「沈黙の鞭使い」、スカーレット・ヨハンソンの「廊下を一気に制圧するナターシャ」、ジョン・スラッタリーの「フィルムの中のハワード」といった俳優陣の名演が、シーン単位で長く語り継がれている点が際立つ。

文化的影響としては、スターク家とSHIELDの関係の本格的な開示が大きい。ハワード・スタークがSHIELD設立に関与していたという含意、ペギー・カーターやハワリング・コマンドーズ等の前史の存在の暗示、そしてアベンジャーズ・イニシアティブという書類上の計画が初めて画面に登場したこと——これらが後年の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『エージェント・カーター』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『エンドゲーム』までを貫く長大な伏線として実っていく。

舞台裏とトリビア

上院公聴会のスターン上院議員役は、コメディアン/脚本家として知られるギャリー・シャンドリングが演じている。彼は本作公開の数年後に他界し、本作と『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が彼のMCU出演作の全てとなった。後者で「ハイドラ万歳」を呟く描写が、本作の上院シーンを観返した観客に新たな解釈を与えるという、シリーズ全体での伏線回収の一例として知られる。

誕生日パーティで暴れるトニーの傍に置かれているガラス・キャビネットには、後の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』でクライマックスに登場する“試作型の盾”が一瞬映り込んでいる。新元素合成シーンでも、トニーが作業中に床に転がして拾い上げる円盤として再度登場し、本作はMCU内で初めて「キャプテン・アメリカの盾の原型」を実物として画面に出した一作でもある。

ナターシャがハマー研究所の廊下を制圧するシーンは、当初はもっと短い予定だったが、スカーレット・ヨハンソンの動きの良さを見たプロデューサー陣がカットを追加発注し、現状の長さに拡張された経緯がある。彼女のスタント・ダブルとの分担は最小限に抑えられ、ヨハンソン本人の動きが多くのカットで採用されている。

ジョン・ファヴローはハッピー・ホーガン役で出演しているだけでなく、ナターシャがホーガン社の警備員を投げ飛ばす横で、コミック・リリーフ的に一人だけ殴り合いに苦戦する自虐演技を自ら入れている。後年の『スパイダーマン:ホームカミング』以降、ハッピーは独立した重要キャラクターへ昇格していくが、その出発点も本作にある。

ポストクレジットのニューメキシコの場面は、本作の本編とは別ロットで『マイティ・ソー』のメイン・ユニットが撮影したものを流用しているとされる。クラーク・グレッグはこの一カットのために単独ロケへ赴き、後年「自分の一日分の出演料は、たった30秒の伏線のためだった」とインタビューで冗談混じりに語っている。

テーマと解釈

中心にあるのは「父と子」のテーマである。ハワード・スタークとアントン・ヴァンコ、二人の発明家のあいだの亀裂が、息子世代のトニーとイワンの対立として再演される。父の不在と父の遺物(フィルムと模型、設計図と怨念)が、二人の主人公の現在を等しく束縛している。本作はそれぞれの息子に、父の遺したものをどう引き受けるかを正反対の解答で語らせる——一方は新元素を発明として受け取り、もう一方は鞭を復讐として受け取る。

二つ目の軸は「公開されたヒーローの限界」である。前作で名乗りを上げた瞬間、トニーは個人として国家と契約し、世界中の紛争に対する民間人としての責任を一人で背負った。本作はその選択が「個人の身体には不可能だ」という現実を、パラジウム中毒というメタファーで描く。胸の灯が彼を救うと同時に殺している——という二重性は、後年の『シビル・ウォー』『エンドゲーム』までを貫く、トニーの罪と贖罪のテーマの起点になる。

三つ目の軸は、「集合篇というジャンルの誕生」である。本作は単独のヒーロー映画でありながら、画面の隅々にSHIELD、コールソン、フューリー、ブラック・ウィドウ、ミョルニル、キャプテン・アメリカの盾——すなわち他作品で主役を張る要素を散りばめ続ける。観客はこのとき初めて、「ひとつの映画を観るために、別の映画の知識が報酬として返ってくる」というMCUの語り口の楽しさを体験することになった。

見る順番(補助)

MCU公開順では、本作の直前に『インクレディブル・ハルク』、直後に『マイティ・ソー』が並ぶ。本作のポスト・クレジットは『マイティ・ソー』への直接の助走になっているため、続けて観るのが最も自然である。物語内時系列でも、本作のクライマックスは『マイティ・ソー』『インクレディブル・ハルク』のクライマックスとほぼ同時期に進行している、というのがMCU公式のひとつの読み方である。

アイアンマン三部作だけを追う場合は、『アイアンマン』→本作→『アイアンマン3』の順で、トニー・スタークの内面の崩壊と再建の三段階を続けて観ることができる。テーマ別の入り口としては、トニー・スタークの“父”の主題として本作→『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』→『アベンジャーズ/エンドゲーム』、SHIELDの主題として本作→『マイティ・ソー』→『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、ブラック・ウィドウの主題として本作→『アベンジャーズ』→『ブラック・ウィドウ』へ進むのが、もっとも素直な系譜である。

  1. MCU直前『インクレディブル・ハルク』(2008年公開、本作とほぼ同時並行の事件)
  2. 本作アイアンマンの公開後の半年、新元素の発見とブラック・ウィドウの初登場
  3. MCU直後『マイティ・ソー』(ニューメキシコのクレーターでミョルニル発見へ直接接続)
  4. シリーズ続編『アベンジャーズ』(2012)/『アイアンマン3』(2013)/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
前作:アイアンマン(2008) 並行作:インクレディブル・ハルク 直後:マイティ・ソー 次の集合:アベンジャーズ(2012) 三部作完結:アイアンマン3 前史:キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー 父と子の主題:シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ ブラック・ウィドウ単独作 MCU初心者向け見る順番ガイド MCUのフェーズ順を整理するガイド

よくある質問(補助)

「あらすじだけ知りたい」場合は、アイアンマンの正体公表から半年後のトニー・スタークが、父の遺した発明と、ロシアからやってきた復讐者ヴァンコ、ライバル兵器商人ハマーの三つに同時に追い詰められながら、自分を殺しかけている胸の灯を作り直す——というのが骨格である。「結末・ネタバレを知りたい」場合は、ヴァンコがエキスポ最終決戦で自爆して敗北すること、トニーが新元素のコアを完成させて中毒を脱すること、ローディがウォーマシンとして正式に運用入りすること、ポスト・クレジットでコールソンがニューメキシコ州のクレーターでミョルニルを発見すること、トニー本人はアベンジャーズ・イニシアティブの“正式メンバー”には推薦されず“コンサルタント”枠となること——の五点を押さえれば足りる。

「ブラック・ウィドウは本作で初登場?」という疑問には、はいその通りで、ナターシャ・ロマノフのMCU正式デビュー作はこの『アイアンマン2』である、と答えるのが正しい。「ローディの役者が前作と違うのは?」については、前作のテレンス・ハワードから本作でドン・チードルへ交代した経緯がある、と答えるのが事実関係として最短である。「新元素の名前は?」については、本作内では“新元素”としか呼称されず、固有名は劇中で明示されない——シリーズ内外の議論として、後の作品との整合性からヴィブラニウム系の架空元素として読まれることが多いが、本作単体としては名前が伏せられたままで構わない、と答えるのが安全である。「先に何を見ればいい?」と問われたら、まず前作『アイアンマン』(2008)を観てトニーの公表前後の事情を押さえた上で本作に入り、その後に『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』へ進むのが、もっとも自然な順番である。

参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年・興行・制作・配信状況・外部評価は変動しうるため、視聴前に公式および各データベースの最新表示を確認されたい。本記事の本文は各種公開情報をもとに、Anna Movies用の独自の日本語文章として構成している。

  1. Marvel 公式作品ページ
  2. IMDb: Iron Man 2 (2010)
  3. Rotten Tomatoes: Iron Man 2
  4. Box Office Mojo: Iron Man 2
  5. Marvel Database (Fandom): Iron Man 2 (film)

関連ページ

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参照・確認先

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