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No.417「有事」考察・解説
No.417「有事」を原作画像付きで解説。三王子へのTSK感染、緊急事態法、流浪の民の継承条件、そして母の命か弟の命かを問うベンジャミンの決意を整理します。
No.417「有事」は、ベンジャミンの強行策が単なる王子の殺し合いではなく、死後まで見据えた王統の乗っ取りであると分かる回だ。本人はTSKに感染し、自由に動ける時間が限られている。それでも王子たちへの攻撃を止めない理由が、緊急事態法と守護霊獣「流浪の民」によってつながった。
ただし、彼の計画は盤石ではない。ツェリードニヒを殺したという確信も、母ウンマとビヨンドが自分を利用しているという見立ても、そのまま読者にとっての確定事実にはならない。ベンジャミンが何を知り、何を信じて動いているのかを分けると、武力で船を押さえた後にも残る弱点が見えてくる。
この記事はNo.417までの展開を扱う。直前の対面はNo.416「発言」、次の展開はNo.418を参照。
No.417で明かされたこと
| 中心人物 | ベンジャミン、ツェリードニヒ、サルコフ |
|---|---|
| TSK感染 | カミーラ、ツベッパ、タイソンへの感染をベンジャミンが語る。実際の死亡は未描写。 |
| 守護霊獣 | 流浪の民。本人の死後、血縁者の守護霊獣となる。 |
| 緊急事態法 | 継承権者全員の死が不可避となる場合、国王が次の継承順位を公示する。 |
| 結末 | 母の命か弟の命かを、母に選ばせる決意。 |
ツェリードニヒを撃ったベンジャミンの確信

ベンジャミンの弾丸が、ツェリードニヒの腹部を撃ち抜く。倒れた弟の顔を踏みつけ、さらに発砲する兄には、相手を取り逃がしたという疑いがない。絶によって守護霊獣が消えていたことも、自分から防御を捨てた失策として受け取っている。
前話でツェリードニヒは、死ぬことになるがそれは偽装だとサルコフへ予告していた。この予告を知る読者と、殺害の成功を信じるベンジャミンでは、同じ流血場面の意味が違う。本話の視点は主にベンジャミンとサルコフに置かれており、ツェリードニヒ本人がどこへ動いたのかを逐一見せる構成ではない。
また、ベンジャミンは弟の死を、国のための立派な犠牲とは扱わない。個人的な処罰であり、犯してきた罪は後の裁判で明かすという態度だ。国を背負う長兄の顔と、弟への憎悪が同居している。銃撃の凄惨さだけでなく、王位争いを離れても二人の関係が修復不能になっていることが伝わる場面である。
サルコフは能力の全貌を知らない

サルコフは、目の前の光景がどこからどこまで能力によるものなのかを考える。周囲の人間も同じ光景を見ているのか。いつ始まり、いつ終わるのか。こうした疑問を抱いている以上、すでに未来視の仕組みを完全に教わっていたわけではない。
ツェリードニヒの能力について読者が知る説明と、サルコフが与えられた指示を混ぜないことが重要だ。サルコフが受けたのは、偽装死の予告、見たままを報告すること、遺体を速やかに収容することなどの命令だった。今回見せられた光景を、既知の能力の手順どおりに確認しているのではない。
奇妙なのは、ベンジャミンもサルコフへ、見たことをそのまま証言するよう求める点だ。同じ趣旨の命令が、殺されたはずの弟と殺したつもりの兄から届く。双方の意図は正反対なのに、サルコフはどちらに従っても当面は目撃者として振る舞うことになる。能力を暴くための情報が足りないまま、証言だけが先に求められている。
| 立場 | 知っていること・認識 |
|---|---|
| ベンジャミン | 銃撃によるツェリードニヒの殺害が成功したと確信する。 |
| サルコフ | 偽装死を予告されているが、能力の全容や終了時点は分からない。 |
| 読者 | 前話の偽装死の予告と未来を見る能力を知る。本話で本人の回避経路がすべて実演されるわけではない。 |
セータの傷を確かめられるか

偽装の予告があっても、流血と追撃を目の当たりにし続ければ、本当に死んだのではないかという疑いが生じる。サルコフが考える確認手段は、セータに残った念による傷だ。ツェリードニヒが死んで能力が失われたなら、傷にも変化があるのではないかと考える。
ここで行われたのは確認方法の着想までで、セータに会って傷の消失を確かめたわけではない。傷が残れば必ず生存、消えれば必ず死亡といった判定規則も、本話で実証されてはいない。目の前の遺体をいくら見ても決着しないため、別の場所にある手掛かりへ目を向けたのである。
ところが、サルコフとダンジンには中央司法省への出頭と勾留が命じられる。自由に調べられる時間は失われつつある。ベンジャミンは第7階の法廷に統合司令部を置くよう指示し、証人の確保と司法機関の制圧を同時に進める。偽装を疑う人間がいても、その人間を動けなくすれば当面の作戦は進んでしまう。
逃げた王子と、戻ってきた二人の兵士
報告によれば、チョウライとルズールスは、特殊戒厳令の布告前に居住区から逃れていた。第7王子の逃走には、ハンター協会員によるカンジドルへの暴行と逃走の手助けがあったと伝えられる。ベンジャミンはこれを、ハンター協会との取引にも使える材料として受け取る。
一方、チョウライを逃がしたコベントバは、自分への拘束と監視を求めている。本人の意識が残ったまま行動の一部を強制される能力だったためだ。コインは所持10日で秘密を話させるほど強く働き、数字も10を示している。次の桁に進めば効果が増すおそれもあるが、ベンジャミンはそのまま持たせ、変化を観察する方針を選ぶ。
バルサミルコも1009号室で発見され、目を覚ましている。用意された問診では本人との回答が得られたが、それだけで受けた能力の全容が解明したわけではない。彼はハルケンブルグの人格転換能力を疑い、手の甲にある羽の印を探す手掛かりに挙げる。
二人とも自分が敵の能力を受けたことを理由に、同行を危険視する。それに対してベンジャミンは、敵の攻撃を引き受けた兵士を責めず、能力の分析に集中するよう促した。自分も呪いとTSK感染を抱えていると明かし、部隊を奮い立たせる。王子への冷酷さとは別に、兵士たちが命を預ける指揮官としての求心力が描かれている。
ツベッパとタイソンに示した表向きの説明

1001号室で待つツベッパとタイソンに対し、ベンジャミンは軍の反逆者が科学兵器の一部を持ち出したと説明する。疑いを向ける先は、第2王子側の私設兵と結託した第1王子私設兵だ。部品だけでは使えないが、念のため回収しているという説明で、他の王子へ危機感を与えすぎずに軍の行動を正当化する。
ツベッパは、新大陸の生物への備えという兵器持ち込みの理由にも疑問を挟む。ベンジャミンはさらに、複数の王子が生きて目的地へ着いた場合、王族の特権を失う代わりに全員が生存できるというクラピカの仮説を話題に出す。これは継承戦の終了条件が確定したとの告知ではなく、王族全体で相談するために持ち出した話だ。
表面上は兄弟の生存を検討する会話になっている。しかし、ベンジャミンは退出時も、移動の制限や各居住区の確認を求める。ツベッパは同行を申し出つつ、王制が崩れても軍を持つ第1王子が最も有利だと考えていた。継承戦を止める案が語られても、権力の偏りへの不信までは消えていない。
会談の裏で進むTSK感染

この会談では、ベンジャミンの靴底から何かが放出される描写がある。後の独白で、カミーラに加え、ツベッパとタイソンもTSKに感染したと明かされる。会話によって時間を稼ぎながら、相手に気づかれにくい形で殺害の準備を済ませていたのである。
ベンジャミンの見積もりでは、カミーラは約13〜19時間後に死亡し、ツベッパとタイソンもその前後に死ぬ。これは前話で語られた自分の残り時間とは区別したい。自分はすでに発症後の時間に追われている一方、三人へは遅れて感染を仕込んでいる。同じ兵器でも、全員に同じ死亡時刻が来るという意味ではない。
カミーラに対しては、先に発砲したという状況証拠まで、テロを裏付ける材料として利用するつもりだ。彼女は医療や研究の人員を集め、兵器の正体を特定しようとしている。しかし本話では、治療の成功も、病死に対して猫の蘇生能力がどう働くかも決着していない。ベンジャミンが勝利を確信していることと、三人が実際に死亡したことは別である。
なお、ツベッパとタイソンについて、ベンジャミンは私怨があるわけではなく、人として敬う点もあると考える。それでも王の器ではないとして排除する。嫌いな弟だけを殺す復讐ではなく、他者の生死を自分の国家構想に従属させる計画へ進んでいる。
フウゲツへの毒と、本物のワブルを捜す理由

フウゲツについては、姉の死後に衰弱した姿や悪霊の様子を踏まえ、すでに死んでいるとベンジャミンは見立てる。そのうえで、TSK感染を悲観した服毒自殺という筋書きを用意する。精神状態への評価、実際の生死、軍が記録に残そうとする死因は、それぞれ分けて読む必要がある。
オイトとワブルの替え玉については、さらに条件付きの処遇を考えている。本物の第14王子が船外にいると証明できれば、死んだことにして一族を国外へ追放する。だが本物が船内にいるなら、王位を狙って欺いたとみなし、四人の母娘と一族まで含めて殺すつもりだ。
替え玉の母親にも、子を手放すまでの事情があったのだろうと理解は示す。しかし、その同情が本物のワブルの所在確認より優先されることはない。ここで軍が赤ん坊を捜しているのは、儀式の参加資格を学術的に確かめたいからではない。ベンジャミンの計画にとって、継承権者が生き残る余地をなくす必要があるからだ。
王子全滅を前提にする緊急事態法
科学兵器、伝染病、動乱、天災などにより、王位継承権者全員の死が避けられず、現国王だけが残る。カキンには、そのような有事に備え、国王が次の継承権者の名前と順位を公示する制度がある。単に全員の死亡を待ってから始まる手続きではなく、死亡が不可避となる状況も視野に入っている。
ベンジャミンは自分が死ぬ前に、残る王子を殺すかTSK感染者にし、緊急事態法が適用される未来を確定させようとする。そのうえで、ナスビに自分の子を次の継承順位の筆頭へ指名させるのが狙いだ。本人が今の継承戦を生きて勝ち抜くことだけを考えているのではない。
ただし、国王による指名がすでに済んだわけではなく、逃亡中の王子も残る。第3王子の逃走を助けたとみてシュウ=ウ一家の組長を拘束し、王子の行方を取引条件にするのも、この時間制限に結びついている。軍事行動、感染、捜索、司法の制圧が、次の継承順位を決めるための一つの作戦になった。
流浪の民は、死後も国に関わるための能力

ベンジャミンの守護霊獣の能力は「流浪の民(ボヘミアン・ラプソディ)」。本人の死後、その念と一体化し、血縁者の一人を選んで新たな守護霊獣となる。ベンジャミンは、自分の子へ王位をつなぐだけでなく、死後も国を守り、後継者を導こうとしていた。
宿主の選び方にも決まりがある。最初の血縁者をベンジャミン自身が選ぶか、守護霊獣が選ぶかを決め、その後は宿主が死ぬたびに交互に選択する。本人だけが望む相手へ、無制限に乗り移り続ける能力ではない。意図と異なる相手が選ばれる余地も残る。
また、念獣と融合し、現世の人間の肉体に宿る手段を失った時点で、本人の継承権は失われる。この点は第10王子と同じだと説明される。死後も念として存在できることと、生きた王子として王になることは同義ではない。だからこそ、実子を次の王に据える法的な手続きと、守護霊獣として関わる能力を組み合わせる必要がある。
ベンジャミンは能力の情報をヒュリコフから聞いたと述べる。少なくとも彼は、死後にすべてが途絶えるとは考えていない。迫る死を恐れない軍人の覚悟の背後に、死後の役目まで含めた勝算がある。
最後の二択は「母の命か、弟の命か」

残る脅威がビヨンドの呪いだ。自分を狙う呪いが先に発動すれば、その性質によっては守護霊獣の働きまで妨げられるかもしれない。ベンジャミンは、そうなる前に自分が死ぬことで呪い返しを成立させる必要があると考える。これは彼の策の説明であって、本話で呪い返しの成功まで示されたわけではない。
さらに彼は、母ウンマとヒュリコフが自分を追い詰め、この大量殺害へ誘導したのではないかと疑っている。呪いの標的が自分かもしれないという不安をヒュリコフへ抱かせ、TSKを渡す。自分なら国家のために死を選び、他の王子まで巻き込む。その性格を母が利用した、という見立てだ。
母の狙いを、自分の子の誰かが王になることと捉え、ビヨンドの狙いを操りやすい弟を残すことと結びつける。しかし、この推測だけで母とビヨンドの共謀全体が確定したわけではない。ヒュリコフへの怒りも含め、終盤はベンジャミン側から見た計画の読み直しになっている。
その答えとして、ベンジャミンは母へ「母自身の命か、弟の命か」を選ばせる決意を固める。自分の命と弟の命を比べているのではなく、母に二者択一を突きつける場面だ。しかも、本話ではまだ実際に問いを伝えていない。軍の主導権を握った王子が、最後には自分を動かしたかもしれない家族へ矛先を向ける。タイトルの「有事」は、国家の緊急事態であると同時に、王族の内部で隠してきた利害が露出する局面にもなっている。
No.417の時点で残る焦点
ツェリードニヒの偽装死がどこまで通用するのか。カミーラたちの感染に対抗手段はあるのか。本物のワブルはどこにいるのか。そして、母はベンジャミンが突きつける選択にどう答えるのか。いずれも計画の成否を変える問いだが、本話は答えを出す前に終わる。
ベンジャミンは命令を下す立場にいるが、相手の能力や家族の真意をすべて把握しているわけではない。No.417の怖さは、その不確かさが慎重さにつながらず、むしろ時間切れを恐れた強行策へ向かうところにある。継承戦は、最強の王子を決める争いから、死後の王統まで含めて誰が結末を決めるのかという争いへ広がった。