エヴァンゲリオン百科事典

映画

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

第4の使徒からヤシマ作戦までの物語・TV版との違い・各バージョン

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』は、2007年9月1日に公開された新劇場版第1作です。第3新東京市へ呼び出された碇シンジがエヴァンゲリオン初号機へ乗り、第4の使徒、第5の使徒を経て、第6の使徒を迎撃するヤシマ作戦へ挑みます。TVシリーズ序盤の人物と出来事を土台にしながら、赤い海、使徒の番号、リリスの早期開示、月面のカヲルなど、新しい系列へ進む差を最初から配置した作品です。1.0・1.01・1.11の版の違いも含めて整理します。

ネタバレ:本作全編と、TVシリーズ第壱話から第六話に対応する展開、新劇場版第2作以降へつながる要素に触れます。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序のストーリービジュアル
『:序』公式ストーリーページの作中ビジュアル。

『:序』はリメイクなのか

本作は、父に呼ばれた14歳のシンジが第3新東京市へ到着し、使徒に襲われ、初号機へ乗るというTVシリーズ第壱話と共通する入口を持ちます。ミサトとの同居、学校でのトウジとの衝突、第5の使徒との戦い、レイとの距離、ヤシマ作戦まで、対応する出来事も多くあります。そのため初見では高精細な再制作に見えますが、世界の前提と終幕にはすでに別系列の差が置かれています。

公開当時の公式紹介は、新劇場版を単なるリニューアル、リメイク、続編のいずれにも閉じず、新しい物語として提示しました。TV版の画面や台詞を参照しても、後の作品で式波アスカ、マリ、WILLEへ進む因果はTV版と同じではありません。百科事典上は、似た出来事を対応関係として比較しつつ、人物の経歴と設定を新劇場版系列へ分けます。

最初に分けるもの
  • TV版第壱〜六話と似た流れを持つが、同じ映像の再上映ではない。
  • 使徒は新劇場版固有の番号で数え、第4・第5・第6の使徒が登場する。
  • リリスとNERVの目的がシンジへ早い段階で示される。
  • 月面のカヲルとMark.06が、TV版序盤にはない先行線として置かれる。

赤い海と第3新東京市

映画は、赤い海と白い輪郭が残る風景から始まります。TV版序盤では海が青く描かれるのに対し、新劇場版の海はセカンドインパクト後の世界がすでに恒常的な変化を受けたことを示します。旧劇場版の赤い海を想起させても、その直後へ続く証拠としてではなく、新劇場版の2015年に属する環境です。

第3新東京市は、使徒襲来時に建造物を地下へ収納し、兵装ビルを上昇させる迎撃都市です。地上の学校と住宅、地下のジオフロントとNERV本部が一体になり、住民の日常そのものが戦闘システムの上にあります。シンジがミサトの家で生活を始めても、警報が鳴れば街全体が戦場へ変わります。

映像はデジタル作画とCGを組み合わせ、都市の格納、兵装の移動、電力網の切り替えを具体的に見せます。人が巨大な機構を連携させる画面は、終盤のヤシマ作戦へ向けた準備でもあります。エヴァ一機の超人的な力だけでなく、都市・鉄道・電力・作戦班を含む共同体が使徒へ対抗します。

シンジが初号機へ乗るまで

シンジは、長く離れていた父・碇ゲンドウから呼び出され、第3新東京市へ来ます。迎えに来た葛城ミサトと共に第4の使徒の攻撃をくぐり抜け、NERV本部で初めてエヴァンゲリオン初号機を見ます。父が求めたのは再会や説明ではなく、未訓練の息子を直ちに機体へ乗せることでした。

シンジが拒むと、重傷の綾波レイが運ばれます。自分が乗らなければ彼女が戦わされる状況を見て、シンジは搭乗を選びます。これは勇気だけから出た決断ではありません。父への反発、見捨てられる恐れ、目の前の負傷者への同情が混ざり、自分の望みを整理できないまま他人の期待へ応じます。

発進後のシンジは第4の使徒に圧倒されますが、初号機は制御を外れて活動し、使徒を撃破します。シンジ自身が戦術で勝ったわけではなく、機体に秘められた意志と能力が彼を生還させます。この最初の勝利が、エヴァに乗れば自分の居場所を得られるという危うい学習を生みます。

ミサトとの同居と学校生活

ミサトはシンジを自宅へ引き取り、二人とペンペンの生活が始まります。食事、入浴、家事分担という日常は、NERVの命令系統とは違う関係を作る機会です。しかしミサトは保護者であると同時に作戦部長であり、家で優しく接する相手へ戦場で命令を下します。二つの役割のずれが、シンジにとって安心と負担の両方になります。

学校では、妹を使徒戦に巻き込まれた鈴原トウジがシンジを殴ります。シンジは自分も恐怖の中で戦ったと反発しますが、被害を受けた側には操縦者の事情が見えません。後の戦闘でトウジと相田ケンスケがエントリープラグへ避難し、シンジの視界と苦痛を体験したことで、単純な加害者と被害者の関係が変わります。

シンジは一度NERVとミサトの家を離れます。どこへ行っても自分が必要とされない感覚は消えませんが、最後には自分から戻ります。この時点では、自分のために乗る理由を確立したのではなく、他に行く場所がないことと、戻れば誰かが受け入れることの間で選んでいます。

第5の使徒とシンジの撤退

第5の使徒は鞭状の腕を使い、初号機の腹部を貫きます。シンジは活動限界まで攻撃を続けて撃破しますが、命令を無視したことをミサトに叱責されます。結果だけを見れば勝利でも、組織の作戦とパイロットの生存を無視すれば次の戦いへつながりません。

トウジとケンスケは戦場へ入り込み、エントリープラグ内で実際の痛みと恐怖を見ます。トウジは後にシンジへ謝り、互いの事情を初めて交換します。本作では、理解は完全な共感から生まれるのではなく、自分の見ていなかった場所を知り、行為の責任を言葉にすることで始まります。

それでもシンジは、命令に従うだけの搭乗と、他人に傷つけられる生活に耐えられず、いったん離れます。ミサトが力ずくで連れ戻さず、最終的に彼が戻る余地を残す点は、後のヤシマ作戦で二人が互いの役割を信じるための段階です。

綾波レイとの距離

零号機パイロットの綾波レイは、感情をほとんど表に出さず、ゲンドウとだけ親しい反応を見せます。シンジは父の眼鏡をレイが大切にしていることに戸惑い、自分が受け取れない父の笑顔を彼女が知っていることへ複雑な感情を抱きます。

シンジがレイの部屋へカードを届ける場面では、互いの生活圏へ踏み込む不器用さが露出します。二人は同じ組織のパイロットでも、育った環境も父との関係も違います。ヤシマ作戦までに深い友情が完成するのではなく、言葉を交わすための最初の通路が作られます。

レイが自分の代わりはいると語るのに対し、シンジは作戦後、彼女が生きていることを確かめて涙を流します。相手を交換可能な部品として扱わない反応が、レイの笑顔を引き出します。新劇場版はこの関係を次作『:破』でさらに発展させるため、『:序』の救出は二人の始点として重要です。

リリスを早期に見せる意味

ヤシマ作戦の前、ミサトはシンジをターミナルドグマへ連れ、磔にされた白い巨人をリリスとして見せます。使徒がここへ到達すれば人類が滅びると説明し、NERVが何を守っているかを共有します。TV版ではこの地下存在の名と正体が長く伏せられたのに対し、本作は第1作の段階で作戦の目的をシンジへ知らせます。

ミサトの説明が新劇場版世界の全真相を明かしたわけではありません。アダムス、月面、ゼーレの計画、ゲンドウの目的などは残ります。それでもシンジは、命令されたからではなく、使徒を止めなければミサトや街の人々が死ぬという理由を知って、再び初号機へ乗ります。

同じ場面名や地下施設がTV版にあっても、誰がいつリリスだと知るかが違えば、人物の選択条件も変わります。設定比較では『リリスがいる』という共通点だけでなく、情報が開示される順番を分ける必要があります。

第6の使徒―変形する正八面体

第6の使徒は、外見上は青い正八面体を基本としながら、攻撃と防御に応じて幾何学的な形へ変化します。長距離から高出力の加粒子砲を放ち、NERV本部へ向けて地下を掘削します。接近した初号機は発進直後に狙撃され、通常の近接戦では対抗できません。

作戦部は敵の射程外から陽電子砲でコアを狙うヤシマ作戦を立案します。日本中から電力を集め、狙撃用の機器を準備し、零号機が盾で初号機を守ります。兵器の出力だけでなく、送電、変電、計測、射撃位置、二人のパイロットを同時に成立させる全国規模の共同作業です。

新劇場版の第6の使徒は、TV版第伍・六話の使徒を基にしつつ、変形、発光、音響、攻撃表現が大きく拡張されています。同じ『ヤシマ作戦』でも画面上の挙動と戦術の細部が同一ではありません。使徒記事では新劇場版の第6の使徒と、TV版の第5使徒ラミエルを別系列として関連付けます。

ヤシマ作戦とレイの笑顔

最初の射撃は外れ、第6の使徒も反撃します。零号機は盾を構えて初号機を守り、高熱にさらされます。シンジは照準を立て直して二射目を命中させ、使徒の掘削が本部へ達する直前に撃破します。勝利は初号機だけのものではなく、レイが攻撃を受け止め、ミサトが指揮し、名もない作業者が電力と装備をつないだ結果です。

シンジは損傷した零号機からレイを救出し、生きていたことに涙を流します。どう反応すればよいか分からないレイへ、シンジは笑えばいいと思うと伝えます。レイの微笑みは父ゲンドウの表情を一瞬重ねますが、シンジとの間で新しく生じた応答でもあります。

英題YOU ARE (NOT) ALONE.は、シンジが孤独ではないという事実と、本人がなお孤独を感じる状態を並べます。ヤシマ作戦で多くの人が支え、レイが盾になることで、彼は初めて自分一人の戦いではないと身体的に知ります。しかし父との距離やエヴァへ乗る理由は解決せず、括弧内の否定も残ります。

月面のカヲルとMark.06

物語の終盤、渚カヲルが月面の棺から目覚めます。周囲には複数の棺が並び、建造中の機体、ゼーレとの会話が映ります。TV版では終盤に登場したカヲルを第1作から示すことで、シンジとの出会いがすでに大きな計画へ含まれていることを予告します。

月面の機体は後にMark.06として行動します。初号機や零号機と同じNERV本部の通常運用機ではなく、建造場所と所属から異なる系統を持ちます。『:破』終幕でカシウスの槍を投じ、『:Q』の14年間の空白にも関わるため、本作の短い場面は4部作全体の入口です。

カヲルの台詞や棺の反復は、過去作品との循環を想起させます。ただし、『:序』だけでTV版、漫画版、旧劇場版の出来事が同じ時間線を周回していると細部まで確定はできません。共通する名前と構図を記録し、各系列の出来事は分けます。

TV版第壱〜六話との主な違い

世界の外観新劇場版では開始時から海が赤く、セカンドインパクト後の環境差が見える。
使徒の番号新劇場版は第4・第5・第6の使徒。TV版のサキエル、シャムシエル、ラミエルとは番号が異なる。
リリスミサトが第6の使徒戦前にシンジへ見せ、NERVが守る対象を説明する。
第6の使徒幾何学的な変形と攻撃・防御表現が拡張され、ヤシマ作戦の映像・戦術も再構築。
カヲル月面で第1作から登場し、シンジを知るような言葉を発する。
制作・画面既存構図を参照しつつ、新規作画、CG、デジタル撮影、音響で全編を再構成。

違いを探す目的は、どちらが正史かを決めることではありません。同じ場面が別の情報順序と画面で置かれることで、人物の判断がどう変わるかを見るためです。『:序』はTV版を知る観客に既視感を与え、その中へ小さな差を積み、次作以降に物語が大きく離れる準備をします。

1.0・1.01・1.11の違い

EVANGELION:1.02007年9月1日に劇場公開された上映版。
EVANGELION:1.012008年のDVD向けに1.0のデジタルマスターへ画・音の再調整を行った版。
EVANGELION:1.112009年のBlu-ray・DVD向けに1.01を再調整し、新作カットを追加した版。

版番号は作品内の別時間線を示すものではなく、上映・映像商品向けの仕上げの違いです。現在の映像商品で一般的に見られる1.11は新作カットを含むため、1.0と上映時間や一部の画面が異なりますが、ヤシマ作戦とレイの救出という結末は共通します。

公式のComplete Blu-ray BOXは1.0、1.01、1.11を分けて収録し、版の成立過程を確認できる構成です。記事で特定のカットや尺を論じる場合は版番号を示し、商品発売日を映画の初公開日として書き換えません。

音楽と制作

主題歌は宇多田ヒカルの『Beautiful World』、音楽は鷺巣詩郎です。TV版で使われた音楽的モチーフを引き継ぐ場面と、新劇場版向けに再編・録音された曲が共存します。公式音楽アルバムは、新録された劇伴をフルサイズで収め、映画の編集で使われる形とは別に曲の全体像を確認できます。

原作・脚本・総監督は庵野秀明、監督は摩砂雪と鶴巻和哉、主キャラクターデザインは貞本義行、主メカニックデザインは山下いくとです。公式の全記録全集は全台詞のフィルムストーリー、設定、脚本、インタビューを、原画集は作画工程を収録します。制作資料の案と完成本編を区別しながら、画面がどのように再構築されたかを追えます。

ヤシマ作戦では、機械の起動音、送電のカウント、沈黙、射撃音を段階的に重ね、国家規模の作戦を音で組み立てます。第6の使徒の幾何学的な変形と独特の声、陽電子砲の一撃、レイ救出後の静けさが対照を作り、戦闘から人物関係へ焦点を戻します。

よくある疑問

TV版を見ずに『:序』から見ても分かりますか

主要人物、NERV、エヴァ、使徒、作戦の目的が本作内で導入されるため鑑賞できます。TV版を先に見ると、共通点と差の意味を比較できます。

第6の使徒はラミエルですか

TV版のラミエルに対応する特徴を持ちますが、新劇場版本編では固有名より『第6の使徒』として扱われ、番号と挙動も新劇場版固有です。

なぜミサトはリリスをシンジへ見せたのですか

使徒を止める理由と、NERVが守る対象を共有し、シンジが命令だけでなく自分の判断でヤシマ作戦へ参加できるようにするためです。

どのバージョンを見ればよいですか

現在の標準的な映像商品では追加カットと再調整を含む1.11を選べます。公開当時の画面や編集を研究する場合は1.0・1.01も版番号を明示して比較します。