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スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

アベンジャーズの『ブリップ』直後、修学旅行でヨーロッパへ向かったピーター・パーカーは、亡きトニー・スタークの影と、初めて自分一人で背負う大人の選択に直面する——MCUフェーズ3の幕引きを担う、青春映画と継承譚の二重奏。

媒体: 映画(実写) 日本公開: 2019年6月28日 米国公開: 2019年7月2日 監督: ジョン・ワッツ
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム 公式ポスター

作品データ

作品
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
原題
Spider-Man: Far From Home
媒体
映画(実写)
日本公開
2019年6月28日
米国公開
2019年7月2日
監督
ジョン・ワッツ
脚本
クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ
原作
マーベル・コミックのスパイダーマン(スタン・リー/スティーヴ・ディッコ)
製作
ケヴィン・ファイギ/エイミー・パスカル
音楽
マイケル・ジアッキーノ
撮影
マシュー・J・ロイド
編集
ダン・レベンタール/リー・フォルサム・ボイド
美術
クロード・パレ
衣裳
アンナ・B・シェパード
視覚効果
Framestore/Industrial Light & Magic/Imageworks/Method Studios/Scanline VFX ほか
製作会社
マーベル・スタジオ/コロンビア・ピクチャーズ/パスカル・ピクチャーズ
配給
ソニー・ピクチャーズ・リリーシング
上映時間
129分
製作費
約1.6億ドル
興行収入
全世界 約11.32億ドル
MCU区分
フェーズ3(インフィニティ・サーガの完結エピローグ)
物語内時系列
『アベンジャーズ/エンドゲーム』直後、『ブリップ』復活から約8か月後の現代
公式予告編は
劇場サイトで確認
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📖 全34章 / 約20K字 🔄 最終更新 2026年5月26日 ✍️ Anna Movies 編集部

スパイダーマン:ファー・フロム・ホームは、2019年公開のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品で、フェーズ3の掉尾を飾る映画である。アベンジャーズの『ブリップ』直後、修学旅行でヨーロッパを訪れたピーター・パーカーは、謎の敵エレメンタルズと、亡きトニー・スタークの遺志を継ぐ重圧に直面する。青春映画と英雄の継承譚を重ね合わせ、MCUの一つの時代を締めくくる一作である。

00概要

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(Spider-Man: Far From Home)は、ジョン・ワッツが監督を務め、クリス・マッケナとエリック・ソマーズが脚本を手がけたアメリカのスーパーヒーロー映画である。製作はマーベル・スタジオ、コロンビア・ピクチャーズ、パスカル・ピクチャーズの共同で、配給はソニー・ピクチャーズが担った。日本では2019年6月28日、アメリカでは7月2日に公開され、MCU通算第23作にして、インフィニティ・サーガ22作の正式な締めくくりとなった。

前作『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)の直接の続編であり、トム・ホランド演じるピーター・パーカーが主役を務める二作目にあたる。『エンドゲーム』でアイアンマン/トニー・スタークが命を落とした直後の世界を舞台に、まだ若いピーターが「次のアイアンマンは誰か」という重荷をひとりで抱え込んでいく。前作の青春映画らしいトーンはそのままに、本作はその上から巨大なミステリーの皮を被せ、ヒーローとしてのアイデンティティと、メディア時代における真実の脆さを同時に描き出している。

監督のジョン・ワッツは、低予算のインディーズ作『コップ・カー』(2015)でジョン・ファヴロー、ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカルの目に留まり、『ホームカミング』に抜擢された。自身もニューヨーク郊外で少年時代を過ごした人物で、ハイスクール三部作の語り口を、80年代のジョン・ヒューズ風青春映画と、現代の超大作の予算という両方の文法で書き直してみせた。本作ではその郊外青春映画の作法を、ヨーロッパへの修学旅行という移動劇に乗せ、ヒーローが『家から遠く離れた場所(Far From Home)』に立つというタイトルそのものに、感情の中核を据えている。

本記事は、本編の結末はもちろん、ミステリオ/クエンティン・ベックの正体、E.D.I.T.H.の継承、ミッドクレジット・シーン(J・ジョナ・ジェイムソンによるピーターの正体暴露)、そしてポストクレジット・シーン(ニック・フューリーがスクラル人タロスの変装だったという事実)まで含めたネタバレを前提に書いている。物語の驚きを大切にしたい読者は、まず本編を一度通して観たうえで戻ってきてほしい。

概要

主要データ

原題
Spider-Man: Far From Home
監督
ジョン・ワッツ
脚本
クリス・マッケナ/エリック・ソマーズ
原作
マーベル・コミックのスパイダーマン(スタン・リー/スティーヴ・ディッコ)
音楽
マイケル・ジアッキーノ
米国公開
2019年7月2日
日本公開
2019年6月28日
上映時間
129分
ジャンル
スーパーヒーロー、青春映画、ミステリー、ロード・ムービー

01あらすじ

ここからは、結末とミッドクレジット/ポストクレジット・シーンまで含めた全編のあらすじを追っていく。物語の幕開けは、世を去ったトニー・スタークの追悼上映だ。修学旅行でヨーロッパへ渡ったピーター・パーカーには、ニック・フューリーから託された「次のアイアンマンを継ぐ者」という重荷がのしかかる。さらに、ガラス越しに親しげな笑みを向けてくるクエンティン・ベック。その嘘を、ピーターはいつまで信じ続けてしまうのか。二つの重みに揺れる姿を、本作はじっくりと描き出していく。

あらすじ

プロローグ

本編は、ミッドタウン高校の生徒会が用意した追悼映像から幕を開ける。クラスメイトのベティ・ブラントとジェイソン・アイオネロが、亡きトニー・スターク、ナターシャ・ロマノフ、スティーブ・ロジャース、ヴィジョンの写真を音楽つきの素人モンタージュにまとめ、ホイットニー・ヒューストン『I Will Always Love You』に乗せて学校じゅうへ流す。しかも音は安っぽいスピーカーごし。観客はこの数分で、世界が『エンドゲーム』を経た直後の温度——悲しみと笑いの距離が異様に近い時期——にいることを思い知る。

教室では、サノスの指パッチン(『ブリップ』)で五年間消えていた生徒たちが、当時の年齢のまま戻ってきた現実が淡々と語られる。ピーターは『ブリップ』で消えた側だ。復活後も16歳のままで、5年ぶんだけ成長した同級生たちと「同じクラス」に並ぶことになる。やがて世界史教師のミスター・デルと、科学教師のミスター・ハリントンが、生徒たちを夏のヨーロッパ修学旅行へ引率する。行先はヴェネツィア、プラハ、ベルリン、パリ、ロンドンの五都市だ。

ピーターには、はっきりした裏の目的がある。ひとつは、トニー・スタークの不在が突きつける「次のアイアンマンは誰か」という世界からの問いから、ほんの一度でいいから逃げ出すこと。もうひとつは、片想いのクラスメイト「MJ」ことミシェル・ジョーンズに、ヴェネツィアのムラーノガラスでできた黒いダリア風のネックレスを贈り、エッフェル塔の上で気持ちを打ち明けることだ。メイ叔母さんに見送られた空港のセキュリティでは、荷物の中の赤と黒のアイアン・スパイダー版スパイダースーツを見られそうになって慌てる。スーツケースに入っていたのはアンソニー・スターク財団から届いた遺品の小箱で、その正体はラストで明かされる。

ヴェネツィア

舞台はヴェネツィアへ移る。観光船で運河をめぐるクラスメイト、橋の上で写真を撮るMJ、そしてガラス工房で土産物を選ぶピーター。彼はムラーノガラスのネックレスを選び、自分のクレジットカードで支払う。だがブラッド・デイヴィスが別の店で同系統の品をMJに先に手渡してしまい、ピーターはささやかな先手を取られる。思い描いていた『遠く離れた場所』での時間は、最初から少しずつ思いどおりにいかない。

夜、運河の水面が突如として渦を巻き、人型の水の巨人——通称『ハイドロマン』こと水のエレメンタルが街を破壊し始める。ピーターはネクタイ姿のまま群衆を逃がそうとするが、あいにくスーツは持ち合わせていない。そこへ緑のマントをまとい、フィッシュボウル型のヘルメットを被った男が現れ、両腕から緑のエネルギーを放って水の巨人を退けていく。男は群衆や観光客の写真に応える間もなく、その場から姿を消す。フェイクニュースのカメラはすかさず彼を『ミステリオ』と名づけた。

翌朝、ホテルに戻ったピーターを待っていたのは、堂々と部屋に忍び込んでいたニック・フューリーだった。「君は折り返しの電話に出なかった」。そう言うと、フューリーはエージェントのマリア・ヒルとともに、ピーターをヨーロッパの極秘現場へと半ば強引に連れ出す。そこにいたのは、あのフィッシュボウルの男——クエンティン・ベックだった。彼は自らを『地球-833』からの避難者と名乗り、自分の世界が水・火・地・風という四体のエレメンタルの悪魔によって滅ぼされたと語る。そして今、この『地球-616』でその四体の追跡を続けているのだという。フューリーはピーターに告げる。「これがアベンジャーズ・コール後の地球の現実だ。君がこの任務に必要なんだ」と。

ヴェネツィア

E.D.I.T.H.の継承

ピーターは空港でメイから託された遺品の小箱を、移動の合間に開ける。中に入っていたのは黒いレイバン風のサングラスで、内側には『FROM TONY』と刻まれていた。掛けると、声が応答する——『E.D.I.T.H.:Even Dead, I'm The Hero(俺が死んでも、俺はヒーローだ)』。スターク社のあらゆるデータベース、衛星、攻撃ドローン群、各種防衛装備への管理者アクセスを、ピーターはたった一人で受け継いだことが明かされる。トニーは遺言で、ピーターを次のアイアンマンの『後継者』ではなく、『管理者』として指名していたのだ。

ピーターが管理者権限を初めて使うのは、彼自身の青春の延長線上でのことだ。同行のブラッド・デイヴィスが別件で自分とMJの自撮りを撮っていたのを誤解し、ピーターはE.D.I.T.H.に向かって『彼を排除しろ』と命じてしまう。直後、スターク・ドローンが上空からブラッドの乗るバスを実弾でロックオンしかける。ピーターは慌ててコマンドを取り消し、寸前でドローンを停止させた。自分の感情ひとつで殺人指令が下せてしまう——その管理者権限の重さが、本作の倫理の中心としてここで突きつけられる。

プラハに移ったピーターは、ホテルの一室でクエンティン・ベックと打ち解ける。酒場の片隅で『あなたこそ次のアイアンマンになるべきだ』と告げ、E.D.I.T.H.のサングラスをベックの前に押し出す。ベックは儀礼的にためらいながらも、深いまなざしでそれを受け取り、サングラスを掛ける。「君は正しい選択をしたよ、ピーター」。観客はこのカットの瞬間に違和感を覚えるが、ピー��ー自身は安堵してホテルへ戻っていく。

E.D.I.T.H.の継承

プラハ

プラハの夜、旧市街広場では『カーニバル・オブ・ライト(光の祭典)』が開かれている。クラスメイトたちは観覧車に乗り込み、MJとピーターはつかの間、二人きりで広場を歩く。だが直後、近くの教会の鐘が突如鳴り響き、観覧車の支柱が炎を上げる。巨大な火の人型——ザ・ファイアー・エレメンタル——が広場で立ち上がった。観覧車のゴンドラには、クラスメイトのネッドとベティが取り残されている。

ピーターは黒いステルス・スーツに着替える。フューリーとマリア・ヒルが用意した暗色のスパイダースーツで、のちに市販される際にはMJから『ナイト・モンキー』と呼ばれることになる一着だ。彼が観覧車を支えるあいだ、地上ではミステリオが緑のエネルギーをまとって火の巨人と対峙する。やがてピーターは観覧車のゴンドラを地面へと降ろし、ミステリオは火の巨人の核を体内へ取り込んで爆散させ、街を救う。観衆と各国の報道カメラが見守るなか、ミステリオはヨーロッパ全域の新たなヒーローとして賛美された。

祭りの後、酒場でピーターはミステリオに胸の内を打ち明ける。「僕はもう英雄じゃなくていい。MJと過ごす夏が欲しいだけだ」。ベックは深くうなずく。そしてE.D.I.T.H.の所有権がすでに自分の手にあることを確かめたうえで、心の底からピーターに微笑むのだった。

プラハ

MJの発見と、嘘の崩壊

プラハの翌朝、MJはピーターを呼び出す。カーニバルの広場で『火の巨人』が一瞬だけ欠けていたこと、そして近くの噴水の壁の一角に小さな金属片が落ちていたのを、彼女は見逃していなかった。拾い上げたそれは、ホログラフィック・プロジェクターのカケラだった。「あなたが地味に何かしているのは知っている」「あなたがスパイダーマンであることも」と、MJはあっさり告げる。ピーターは凍りつく。だが彼女が持参した金属片を起動した瞬間、目の前で火のエレメンタルが小さな立体ホログラムとなって再生された。

それは火ではなかった。実在の悪魔でもない。BARFと呼ばれる装置——トニー・スタークの旧研究施設で開発された立体ホログラフィック・イリュージョン装置『Binarily Augmented Retro-Framing』——の進化系だった。クエンティン・ベックは『別の世界の英雄』などではなく、地球-616のスターク社の元従業員にすぎなかったのだ。

ピーターはMJをホテルに残し、ステルス・スーツでベルリン行きの列車に飛び乗る。E.D.I.T.H.を取り戻すため、単身ベックの拠点へ忍び込む決意を固めたのだ。MJの「あなたがスパイダーマンなのは知っている」という告白は、ロード・ムービーの第一章の終わりを告げる雷の一閃として置かれている。

MJの発見と、嘘の崩壊

クエンティン・ベックの本性

ベルリン郊外にあるスターク社の旧倉庫。忍び込んだピーターがそこで目にしたのは、ベックの率いる『チーム』だった。スターク社で主任ホログラフィック・エンジニアを務めていたウィリアム・ギンター・リヴァ(『アイアンマン』(2008)でトニーにスーツの設計を急かされ、罵倒されたあげく、オバディア・ステインのもとへ移ったが、そこでも再びクビになったあの男だ)、ヴィクトリア・スノウ、ガターズ、ジェイニス・リンカーン。いずれもトニー・スタークに事業の上でも人格の上でも踏みにじられたと感じている技術者・科学者たちの集まりである。

ベックは、トニー・スタークに名誉を奪われたと信じ込んでいる。クリスマス・パーティの席で、自らのホログラム研究『BARF』を『悲しい娘との和解ホロ』と揶揄されたのが発端だ。彼はこのチームを率い、ホログラフィック・プロジェクターと武装ドローン群を組み合わせる。観衆と各国メディアの前で『新しいヒーロー』を演じてみせ、E.D.I.T.H.の管理者権限ごと、トニーが死後に残した『地球の守護者』の空席を奪い取ろうと企てていた。

ベックが過去のフィルムに録画していた、彼自身の独白。本作で最も冷ややかな数分間である。エレメンタルズはすべて、彼のチームが書いたCGの脚本どおりに動いていた。ヴェネツィアの水も、プラハの火も、これから引き起こす『四体目』も、すべて彼一人が書き上げた『脚本』だ。「人々は、見たいものを信じるんだ」と彼は笑う。「だから演出が要る。だから、誰よりも派手な、最後の悪役が要るのさ」。

柱の陰で正体を見破ったピーターは、ベックに気づかれてしまう。E.D.I.T.H.に『部外者を排除しろ』と命じられ、ベルリンの線路上で列車のホログラム群に襲われるのだ。スパイダー・センス(劇中では『ピーター・ティングル』と呼ばれる)を最後まで信じ切れないまま、ピーターはホログラムの嘘の中で本物の列車に撥ね飛ばされ、ベルリン郊外で気を失う。

クエンティン・ベックの本性

ベルリンの夜

意識を取り戻したピーターが目を覚ましたのは、ヨーロッパの地方都市の留置所だった。看守は彼を不法侵入者として処理しかけている。ピーターはその場でメイ叔母さんに国際電話をかけ、メイは「何かあったらこの人に」と書き残しておいた連絡先——ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)へと電話を回す。

数時間後、スターク・ジェットが屋上の鉄塔ぎりぎりに着陸し、扉を開けてハッピー・ホーガンが立つ。「乗りな、キッド」。長距離飛行のあいだ、ピーターはハッピーの胸を借りて泣きじゃくる。ハッピーはただこう告げるだけだ。「俺はトニーじゃない。だがな、あいつが正しかったことは知ってる。お前を選んだのは、お前が考えるからだ」。

ジェットの設計ラボで、ピーターは自前の赤と黒のスパイダースーツを、頭から尻尾までゼロから組み直す。スターク社のナノファブリケーション・ベンチに向かい、腕のウェブ・シューターを強化し、肩の電子ロジック、頭部の眼鏡型インターフェイス、ベルトのE.D.I.T.H.復元ポートを一つに統合していく。本作で初めて、ピーターは他人の遺品(アイアン・スパイダー)でも、外注の量産品(ナイト・モンキー)でもなく、自らの頭と手でスーツを設計する青年として描かれる。LED OSに流れるAC/DC『Back in Black』の歌詞は、この十数分のためだけにライセンス契約された、伝説的な選曲である。

ベルリンの夜

ロンドン橋上

ロンドンに到着したピーターを待ち受けていたのは、ベックが自分のために用意した「四体目の合成エレメンタル」と、E.D.I.T.H.を介して操られる数百機のスターク・ドローン軍団だった。広場では、観光バスを降りた修学旅行のクラスメイトたち——MJ、ネッド、ベティ、フラッシュ、ブラッド、ミスター・ハリントン、ミスター・デル——が、逃げ場を失って取り残されている。ベックはこの場所で「最後のヒーロー像」を完成させるつもりだった。観客の眼前でミステリオが街を救い、悪夢の主役の座を息子の世代へと受け渡す——彼の脚本では、ピーターは最後に流れ弾を浴びて命を落とすはずだったのだ。

橋の中央に立ったピーターは、初めて自分のスパイダー・センスを正面から信じる。目を閉じ、全方向に投影されたホログラムの嘘のなかから、敵の本体の位置だけを身体の感覚で拾い上げる。ドローンの本体、ベックの実体、隠された遠隔投影機——そのすべてを首から下の感覚一本で見抜き、ウェブ・シューターで一機ずつ撃ち落としていく。一方、MJとネッドはタワーブリッジの管制室に立てこもり、ネッドの恋人ベティとともに、E.D.I.T.H.のサングラスをE.D.I.T.H.本体から物理的に引き剥がす作業に加わる。

「俺を撃つな、俺はヒーローだ、君は混乱しているだけだ」——ベックが放った最後のホログラムに、ピーターは「嘘だ」と即座に返す。腕にサングラスを戻し、E.D.I.T.H.に「全機帰投」を命じると、ベック自身の指令で動いていたドローン群が最後の混戦のなかで主に向かって誤射し、彼は自らの罠に撃たれる。倒れたベックは、虚像のような薄い笑みを浮かべたまま息絶える。「彼の最後のホログラムは、まだ動いているぞ、気をつけろ」とハッピーが告げる。ピーターはベックの死体の手から、最後に録画された一本の動画素材を抜き取り、すべての装備をE.D.I.T.H.に回収させる。

戦いを終えた直後、ピーターはMJを連れてロンドンの夜空へとウェブスイングで飛び出す。「ガラスのネックレスは、ヴェネツィアの段階で完全に砕けてしまっていた」と彼が詫びると、MJはコートのポケットから一片のガラス片を取り出し、銀の針金で縫いつけた手作りのチャームを彼の手に握らせる。「私は黒いダリアより、ばらばらの破片の方が好き」。エッフェル塔ではなくロンドンの夜空の下で、観衆はピーターの初めての本物の告白を見届ける。

ロンドン橋上

ミッド/ポストクレジット

ミッドクレジット・シーン。舞台はニューヨークのタイムズ・スクエア。ピーターとMJが空中をウェブスイングするデートのさなか、ビル全面を覆う巨大スクリーンが突如として乗っ取られる。映し出されたのは『TheDailyBugle.net』のJ・ジョナ・ジェイムソン(J・K・シモンズ、2002年版『スパイダーマン』からの再演)だ。彼は『これは私の独自取材だ』と前置きしたうえで、ベックがロンドンで死ぬ直前に録画していた偽造ドキュメンタリーを流す。映像のなかのベックは、自らの血で塗られた手でカメラを見据え、『ロンドンの破壊はスパイダーマンが指揮した』と語る。そして最後の一秒、『彼の正体は——ピーター・パーカーだ』と告げるのだ。

MJの手のなかで、ピーターは数秒のあいだ言葉を失う。タイムズ・スクエアの群衆が、いっせいに彼を見上げる。フェーズ3の幕引きは、ヒーローの勝利としてではなく、ヒーローのプライバシーが世界の真ん中で剥ぎ取られる瞬間として描かれている。次作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)の物語は、まさにこの一カットから動き出すことになる。

ポストクレジット・シーン。ニューヨークを走る黒いSUVの車内で、ニック・フューリーとマリア・ヒルが手を振り合う。やがてフューリーは、部下にむかって正体を解いてみせる。緑色の肌、長い顎、丸い耳——その姿はスクラル人タロス(『キャプテン・マーベル』に登場したスクラル避難民のリーダー、ベン・メンデルソーン)と、その妻ソレン(シャーリー・ヘンダーソン)だ。ふたりはこの一作のあいだ、本物のフューリーとヒルの代役を務めていたのである。場面は宇宙へと切り替わる。膨大な宇宙船の指令橋では、本物のニック・フューリーが複数のスクラル避難民の長とともに、銀河規模の別の任務に従事していたことが明かされる。本作で見ていた『フューリー』のほぼ全カットが代役だったという事実と、その後の『シークレット・インベージョン』(2023)へと連なる伏線。観客はその双方を、最後の十数秒で受け取ることになるのだ。

ミッド/ポストクレジット
ここまでが全編のあらすじである。以降は登場要素、人物、制作背景、公開と興行、批評・評価、舞台裏、テーマを資料として読み解くための章が続く。

登場要素

本作は青春映画と国際スパイ・ミステリーという二つの顔を併せ持つ。舞台はニューヨーク、ヴェネツィア、プラハ、ベルリン、ロンドンの五都市にまたがる。以下、物語の鍵を握る主要な人物・場所・道具・組織を整理しておきたい。

  • ピーター・パーカー/スパイダーマン(トム・ホランド)
  • MJ/ミシェル・ジョーンズ(ゼンデイヤ)
  • ネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン)
  • ベティ・ブラント(アンガリー・ライス)
  • フラッシュ・トンプソン(トニー・レヴォロリ)
  • ブラッド・デイヴィス(レミー・ヒー)
  • ミスター・ハリントン(マーティン・スター)
  • ミスター・デル(J・B・スムーヴ)
  • メイ・パーカー(マリサ・トメイ)
  • ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)

  • クエンティン・ベック/ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)
  • ウィリアム・ギンター・リヴァ(ピーター・ビリングスリー、『アイアンマン』からの再登場)
  • ヴィクトリア・スノウ/ゲーマー
  • ガターズ(イラスティック・カウンセラー)
  • ジェイニス・リンカーン
  • ベックのホログラフィック・チーム
  • スターク・ドローン群(E.D.I.T.H.経由)
  • (虚像)水・火・地・風の四大エレメンタル

  • ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン/実体はスクラル人タロス)
  • マリア・ヒル(コビー・スマルダーズ/実体はスクラル人ソレン)
  • ディミトリ・スマーディアコフ運転手(ヌマーン・アジャール)
  • クラスメイトのエキストラ群
  • ヨーロッパ各国の警察と報道
  • J・ジョナ・ジェイムソン(ミッドクレジット/J・K・シモンズ)
  • 本物のニック・フューリー(ポストクレジット、宇宙)

  • S.H.I.E.L.D.(言及/表向きの依頼元)
  • スターク・インダストリーズ(解体後の遺産、E.D.I.T.H.の管理元)
  • ベックの旧BARFチーム
  • ミッドタウン理工系高校(修学旅行団)
  • TheDailyBugle.net(ミッドクレジット)
  • スクラル人避難民(ポストクレジット)

  • ニューヨーク(ピーターの自宅とミッドタウン高校)
  • メキシコ・イシュタペック(冒頭、エレメンタル襲撃の偽現場)
  • ヴェネツィア(運河と石橋とムラーノ・ガラス)
  • プラハ(旧市街広場の光祭り)
  • ベルリン郊外(ベックの隠れ家とスターク社旧倉庫)
  • ロンドン(タワーブリッジ最終戦)
  • オランダ郊外(給油着陸・畑の中)
  • 宇宙のスクラル指令艦(ポストクレジット)

  • E.D.I.T.H.のサングラス(管理者権限)
  • スターク・ドローン群
  • アイアン・スパイダー・スーツ(赤と金)
  • ナイト・モンキー/ステルス・スーツ(黒)
  • 自作の赤と黒スパイダースーツ(終盤)
  • BARF系ホログラフィック・プロジェクター
  • ホイットニー・ヒューストン『I Will Always Love You』の追悼上映音源
  • MJのガラス片チャーム
  • スターク・ジェット(ハッピー操縦)

  • スパイダー・センス(劇中名『ピーター・ティングル』)
  • ウェブ・スリングとウェブ・シューターの自作改造
  • E.D.I.T.H.の地球規模のターゲティング
  • ベックのホログラム+ドローンによる『嘘の現実』演出
  • BARFの感情情景再現
  • スクラル人の変身能力
  • 『ブリップ』後の人口学的混乱
  • メディア時代のフェイクニュース

  • J・ジョナ・ジェイムソンによる正体バレ
  • ベックの死後録画ビデオ
  • ニック・フューリーがタロスの変装だった事実
  • 本物のフューリーの宇宙任務
  • スクラル人ソレン
  • 次作『ノー・ウェイ・ホーム』への直結

12主要登場人物

本作の人物配置は実に巧みだ。亡き父代わりだったトニーの不在、初めての本気の恋、そして初めての国際任務という三つの重みが、ピーター・パーカーという一人の少年の細い肩に同時にのしかかる。脇を固める人物たちは、いずれも「家から遠く離れた場所」でピーターが下す選択を映し出す鏡として配置されている。

ピーター・パーカー/スパイダーマン

本作の主人公。ニューヨーク市クイーンズ区に暮らす15〜16歳の高校生で、ミッドタウン理工系高校に通う2〜3年生だ。前作『ホームカミング』に続き、超大国の代理戦争さながらの事件に巻き込まれた経験を持つが、彼が心から望んでいるのは「普通の夏休み」にすぎない。修学旅行に持ち込んだのは、戦闘装備のアイアン・スパイダー一着と、メイから託されたトニー・スタークの遺品の小箱だけ。この小箱が、本作の旅の起点となる。

ピーターを特徴づけるのは、まだ自分の判断を最後まで信じ切れないところだ。E.D.I.T.H.の管理者権限を一度は他人の手に委ねてしまうのも、「きみは普通の少年でいてくれていい」というベックの囁きを鵜呑みにしてしまうのも、能力の不足ではなく、若さゆえの誠実さの裏返しである。やがて三幕目で、彼は目で見るより先にスパイダー・センスを信じる感覚を取り戻し、自分のスーツを自らの手でデザインする青年へと変わっていく。

演じるトム・ホランドは、『ホームカミング』から本作までの2〜3年で、ピーターと同じように実際に20歳前後の青年へと成長していった。ジョン・ワッツの演出は、前作までの少年らしさが抜けつつある彼の身体的な青年性を、意識的に画面へすくい上げている。本作のラストで見せる「首をくいっと回す」わずかな仕草一つに、その移行が刻まれているのだ。

ピーター・パーカー/スパイダーマン

クエンティン・ベック/ミステリオ

本作の悪役であり、もう一人の主役でもある。スターク・インダストリーズの元社員で、BARF(Binarily Augmented Retro-Framing)の主任ホログラフィック・エンジニアを務めた人物だ。1990年代末から2010年代にかけてトニー・スタークの私財に貢献した数百名のうちの一人だが、自身がもっとも繊細だと自負する発明を、トニーのクリスマス・パーティで「悲しいセラピー玩具」と呼ばれ、屈辱を味わう。その後ステインの傘下で再起を図るものの、ついにはスターク社から追放されてしまう。

彼の動機は、単なる復讐ではない。「スターク以後の地球には、誰もが信じられる新しい顔が要る」「その顔の脚本を、誰よりもうまく書けるのは自分だ」と本気で信じているのだ。身にまとう金魚鉢のようなヘルメットも、「地球-833からの避難者」という偽りの来歴も、傷ついた自尊心を守るための装置として読み取れる。やがて脚本どおりに最後のヒーロー像を演じ切ろうとした瞬間、彼の指示で飛んでいたドローンの一機が、彼自身の生み出した幻覚を本物と取り違え、皮肉にも彼を撃ってしまう。

演じるのはジェイク・ギレンホール。本作の数年前、『スパイダーマン3』時代の旧プロジェクトでピーター役を演じた経験を持つ。当初はミステリオ役のオファーを断ったものの、脚本の重みと監督との対話を経て、最終的に出演を受け入れた。その演技は、悪役の派手な狂気を見せつけるのではなく、信頼できる助言者の顔から、嫉妬と虚栄に満ちた素顔へと、表情を一段ずつ降ろしていくように設計されている。酒場でピーターを抱き寄せる場面は、本作でもっとも冷静に背筋を凍らせる数分だ。

クエンティン・ベック/ミステリオ

MJ/ミシェル・ジョーンズ

前作『ホームカミング』の終盤、「みんなからはMJと呼ばれてる」と自己紹介していたピーターのクラスメイト。本作で名実ともにヒロイン格へと昇格する。皮肉屋で、どこか冷めた観察者でもあり、絶望や陰謀論めいた話題すら軽口にしてみせる、頭の切れる女子高生だ。ヴェネツィアの橋の上での観察、プラハの広場で金属片を拾い上げる場面、ロンドンのタワーブリッジの管制室での技術的な助力——どの場面でも、彼女は「助けられるヒロイン」ではなく「自ら動く目撃者」として描かれている。

彼女がピーターの正体を見抜く瞬間は、台詞の多さで語られるわけではない。「あなたがスパイダーマンだってこと、ずっと前から知ってた」と一息に告げ、続けて「でも、私はあなたの陰謀論仲間でしかなかったけどね」と、ほとんど自嘲気味に笑う。脚本は、彼女がスパイダーマンの正体を知るこの瞬間を、ヒーローというアイデンティティのもろさを描く物語の入口に据えている。彼女が知ったその時点で、ピーターのプライバシーはすでに半分失われていたのだ。

演じるゼンデイヤは、本作の頃ちょうど『グレイテスト・ショーマン』『マーシュランド』といったディズニー・チャンネル時代を抜け出し、後の『デューン』『ユーフォリア』へと続く女優としての時期に入りつつあった。トム・ホランドとの私生活での親密な交流は本作の宣伝段階から幾度も話題にのぼっており、ラストのウェブスイングの名場面は、その本物の相性のよさの上に成り立っている。

MJ/ミシェル・ジョーンズ

ニック・フューリー/タロス、マリア・ヒ…

本作のフューリー(サミュエル・L・ジャクソン)とヒル(コビー・スマルダーズ)の正体は、ポストクレジットで明かされる。スクラル人タロス(ベン・メンデルソーン)と妻ソレン(シャーリー・ヘンダーソン)が変装した姿だったのだ。物語のうえでは、ふたりは『キャプテン・マーベル』のラスト以降、本物のフューリーから地球の代行任務を託されており、本作のあいだじゅうピーターの監督役を担い続けてきた。

ふたりが代役だったという事実は、本編のフューリーが見せた過度に苛立った口調、ベックの嘘を見抜けなかった理由、そしてピーターを必要以上に追い詰めていく段取りのすべてを、後付けで筋の通った形に整えてみせる。彼らは本物のフューリーが下した「次世代の地球ヒーロー候補を見つけて鍛えろ」という指令を、いささか過剰にこなしすぎていたのである。一方の本物のフューリーは、宇宙のスクラル避難民をめぐる長い再定住計画のため、地球を留守にしていた。

ベン・メンデルソーンの再登場は、『キャプテン・マーベル』を観た観客への伏線回収であると同時に、ニック・フューリーがその後の『シークレット・インベージョン』(Disney+ドラマ、2023)の中心に立つという流れの予告編としても置かれている。本作のポストクレジットは、青春映画の幕切れと見せかけながら、フェーズ4以降のMCUの新たな体制、すなわち地球外勢力との並走を観客に先渡しする役割を担っているのだ。

ニック・フューリー/タロス、マリア・ヒ…

ハッピー・ホーガンとメイ・パーカー

ハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)は、トニー・スタークの長年の運転手であり、親友であり、警備責任者でもある。トニー亡きあとは彼の私的な遺産の運用を引き継いだ大人として、本作ではピーターの“父親代わり”に位置づけられている。プラハでの一件のあと、ベルリン郊外の留置所までピーターを迎えに来る場面は、本作でもっとも穏やかな数分だ。自分はトニー本人ではないと丁寧に念を押しながら、トニーが書き残したピーターへの信頼の核を、ハッピーは自らの言葉で繰り返す。

メイ・パーカー(マリサ・トメイ)は、中盤までピーターとハッピーの距離を後押しする立場で動く。『ホームカミング』の終幕で偶然ピーターの正体を知った彼女だが、本作ではそれを大人として受け止め、地域コミュニティへの寄付活動の窓口にスパイダーマンを使うほどに成熟している。空港での見送り、そしてロンドンでの再会で、彼女とハッピーが交わす視線。それは続く『ノー・ウェイ・ホーム』へとつながる、小さな伏線として残されている。

ふたりは“スパイダーマンにいちばん近い大人たち”として、本作のフェーズ3エピローグが背負う感情の重みを、まっすぐ受け止める役割を担う。トニーの死後、ピーターを丸ごと支える大人は彼ら二人しかいない——その事実こそが、本作のヒーロー継承の物語を、青春映画のサイズにとどめている。

ハッピー・ホーガンとメイ・パーカー

ネッド、ベティ、フラッシュ、ブラッド

親友のネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン)は、本作で「ピーターのスパイダー秘密を知る唯一の理解者」という立場をあっさり手放し、ヨーロッパ旅行の三日目あたりからベティ・ブラント(アンガリー・ライス)と急速に恋に落ちていく。「独身を貫くピーター」への態度が突然そっけなくなるさまは、ピーターの孤独を際立たせる構成上の柱として置かれている。それだけに、終盤のロンドン管制室で見せる協力は、彼が親友としての本領を取り戻す瞬間でもある。

ブラッド・デイヴィス(レミー・ヒー)は、本作で初登場するブリップ復活組のクラスメイトだ。五年先に成長した側としてMJに恋愛感情を抱き、ピーターのヴェネツィア土産大作戦を間接的に潰す役回りを担う。彼は単なる恋敵ではない。ブリップ復活組と消失組のあいだに横たわる「五年の時差」そのものを、その身体で体現する装置でもある。ピーターの自撮りを誤解した彼がE.D.I.T.H.のドローン射撃の標的にされる場面は、本作の倫理の核心を試す小さな実験室として描かれている。

フラッシュ・トンプソン(トニー・レヴォロリ)は本作でもピーターをからかい続けるが、終盤のロンドン橋の上で「スパイダーマンが俺の親友のピーター・パーカーだったらなあ」とつぶやく短い場面が、正体が暴かれる前夜の最後のアクセントとして残されている。ベティ・ブラントもまた、本作のあとコミック原作の『デイリー・バグル』の若き記者へと姿を変えていく伏線を含め、観客の記憶にそっと残る位置に配されている。

ネッド、ベティ、フラッシュ、ブラッド

舞台と用語

舞台はニューヨーク・クイーンズにあるピーターの自宅と高校から始まる。やがて物語は、メキシコのイシュタペック(冒頭で仕組まれた偽の事件現場)、ヴェネツィアの運河、プラハの旧市街広場、給油のために着陸するオランダの畑、ベルリン郊外の倉庫、ロンドンのタワーブリッジへと移り、最後はニューヨークのタイムズ・スクエア(ミッドクレジット)、そして宇宙に浮かぶスクラルの指令艦(ポストクレジット)にまで及ぶ。八つの地理を跨ぐ構成だが、この対比は単なる観光案内ではない。逃避の出発点、初恋の地、欺かれる地、孤独の地、正体を取り戻す地、そして戦いの最終地——ピーターにとっての『家から遠く離れた場所』の段階が、それぞれの空間に割り当てられているのだ。

鍵を握る用語は四つ。まず『E.D.I.T.H.』は、トニー・スタークがピーターに遺したARグラス型の管理者システムである。「Even Dead, I'm The Hero(俺が死んでも、俺はヒーローだ)」の頭字語で、スターク社の全データベース、衛星、攻撃ドローンへの管理者権限を備える。本作の倫理的な緊張はすべて、このグラスを誰が掛けるのかという一点をめぐって組み立てられている。

『BARF(Binarily Augmented Retro-Framing)』は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)冒頭でトニーがMITで披露した、感情を伴う立体ホログラフィック・イリュージョンの技術である。発明者はベックだが、社内で『悲しい娘との和解ホロ』と揶揄され、スターク社を去った過去を持つ。本作で彼はこの技術を兵器へと転用し、ヨーロッパ全域を観客の前で『脚本通りに』演出してみせる。

『スパイダー・センス(ピーター・ティングル)』は、ピーター自身に備わる超感覚で、原作コミックでは『スパイダー・センス』として知られる危機予知能力である。脚本は劇中でメイ叔母さんの愛称『ピーター・ティングル』を採用し、ピーターがこの感覚を一度は信じ切れずに敗北し、最後にもう一度全身で受け止め直す軌跡を、物語の感情曲線の中心に据えている。そして『ブリップ』とは、サノスの指パッチンと、『エンドゲーム』でスマート・ハルクが放った逆の指パッチンによって起きた、五年間に及ぶ人口の半数の消失と復活を指す。本作の世界の温度は、この『ブリップ』を半ば冗談として処理する語り口の上に成り立っている。

20制作

本作は、ソニー・ピクチャーズが持つスパイダーマンの劇場映画化権と、マーベル・スタジオがMCU本編で扱うスパイダーマンのキャラクター使用権をめぐる協業契約(2015年成立)の、第二弾にあたる作品である。前作『ホームカミング』の興行的な成功を受け、ソニーとマーベル・スタジオは続編をフェーズ3の締めくくりに据えることで合意した。ここでは、企画の立ち上がりから音楽に至るまで、主な制作の流れを整理しておきたい。

制作

企画と脚本

脚本は前作『ホームカミング』に続き、クリス・マッケナ(『コミ・カレ!!』『LEGOバットマン ザ・ムービー』)とエリック・ソマーズが共同で手がけた。執筆にあたっての判断は大きく三つ。第一に、本作を『エンドゲーム』直後の世界を舞台にした青春映画として描き、サノス後の『次のアイアンマンは誰か』というMCUの核心的な問いを、十代の主人公の肩に背負わせること。第二に、ミステリオを単なる悪役にとどめず、メディア時代の『信じやすさ』そのものを映す寓話として造形すること。第三に、終盤の正体露見を、シリーズでも屈指のクリフハンガーとして残すことだった。

ベック側の動機をめぐる細部、とりわけ『アイアンマン』(2008)冒頭に登場したウィリアム・ギンター・リヴァを11年越しに呼び戻し、ベックのチームへ加えるという発想は、マッケナとソマーズが脚本会議の中で見いだしたものだ。マーベル・コミックからの再利用ではなく、MCU自体の旧素材を再利用するというアイディアであり、ファイギの承認を経てピーター・ビリングスリーの再演が決まった。『MCUの怨念は、MCUの中でこそ書ける』という本作の制作思想を象徴する決定として、広く語り継がれている。

キャスティング

トム・ホランド、ゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロン、トニー・レヴォロリ、マリサ・トメイ、ジョン・ファヴロー、サミュエル・L・ジャクソン、コビー・スマルダーズら主要陣は、その多くが前作から続投している。新規キャストの中心となるのは、ミステリオを演じるジェイク・ギレンホールだ。ギレンホールはサム・ライミ監督『スパイダーマン3』の当時、トビー・マグワイア降板に備えた主役候補に名前が挙がっていた俳優である。それから十数年を経て、今度は『敵役』として本シリーズに加わることになった。

ピーター・ビリングスリーは、『アイアンマン』(2008)の冒頭でスーツの設計を急かされ、トニーに罵倒される技術者ウィリアム・ギンター・リヴァを11年ぶりに再演する。彼はもともとジョン・ファヴロー(本作にも出演)とは幼馴染であり、『エルフ』(2003)以来、ファヴロー作品の常連でもある。J・K・シモンズの再演は、サム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)からの実質的な復帰にあたり、MCUのマルチバース展開を本作のミッドクレジットで先取りする、最重要のキャスティングの一つとなった。ベン・メンデルソーンとシャーリー・ヘンダーソンが演じるスクラル人タロス/ソレンの存在も、ポストクレジット直前まで秘匿された。

撮影とロケ地

主要撮影は2018年7月、ロンドン郊外のレヴェスデン・スタジオ周辺で始まった。同年10月までに撮影はロンドン市内(タワーブリッジ周辺、トーマス・モア・スクエア、ハックニー)、チェコのプラハ、ドイツのベルリン、北イタリア、そして米国ニューヨーク市の各所に及んだ。なお北イタリアでは実際のヴェネツィアではなく、より撮影管理のしやすい地中海沿いの代替都市が併せて使われている。プラハの「カーニバル・オブ・ライト」の広場戦は、現地の旧市街広場を捉えた参照映像と、レヴェスデン・スタジオに組んだ大型セットを合成して作り上げた。

ロンドンのタワーブリッジ周辺で繰り広げられる最終決戦は、実物の橋とその周囲の歩行者導線を参照しつつ、橋の中央での戦闘の大半をセットとCGで再構築している。本作はMCU作品としては中規模、約1.6億ドルという予算で撮られた。それにもかかわらず、ホログラフィック演出の物量とロケ地の多彩さによって観客に大作の印象を残した。この点は、業界内で繰り返し分析の対象となっている。

視覚効果

視覚効果は複数の名門スタジオが分担した。Framestore(火と水のエレメンタル、ロンドンでの最終決戦の合成)をはじめ、Industrial Light & Magic、Imageworks、Method Studios、Scanline VFX、ルマ・ピクチャーズ、Crafty Apesが手がけている。なかでも本作の視覚効果の主役といえるのが、ベックのホログラム空間でピーターが追い詰められていくベルリン列車のシークエンスだ。Framestoreが主導して組み上げたこの長尺の幻覚シーンは、観客の視点とピーターの視点を非対称に切り替えるカメラワークが特徴で、現代CG映画における「主観空間表現」の参照作の一つとして広く引用されている。

エレメンタルの造形は、コミック原作のシンプルな「水の人型」「火の人型」を踏まえつつ、本作ならではの仕掛けが施された。ベックのホログラフィック・プロジェクターが持つ「見映え第一」という性質を逆手に取り、あえて造形を安っぽく、輪郭が時折ぶれるように仕上げているのだ。観客が二度目の鑑賞で「最初から少し変だった」と気づけるよう、CGの安っぽさは伏線として意図的に残されている。

視覚効果

音楽と音響

劇伴を手がけるのはマイケル・ジアッキーノ。前作『ホームカミング』から続投し、本作では前作のアンセム『The Spider Spectacular』の主旋律を、追悼を思わせる最も静かなアレンジから、ロンドン橋上で最高潮を迎える壮大な合奏まで、いくつもの角度で展開していく。とりわけ第3幕、ピーターが自らのスパイダースーツを手作りするモンタージュで流れるAC/DCの『Back in Black』が印象深い。本作のために結ばれたライセンス契約を象徴する一曲であり、トニー・スターク初登場作『アイアンマン』(2008)の冒頭で同じ曲が使われたことへの、意図的な呼応として置かれている。

音響設計は、本作のホログラフィックな幻覚を成立させる重要な層になっている。ベックの生み出す幻覚空間では、左右のステレオ位相が一瞬だけ乱れる微細な処理が繰り返し挿入され、観客の身体が無意識のうちに違和感を覚えるよう仕組まれている。ミステリオという嘘の存在を、画面の見え方だけでなく、観客の聞こえ方の階層でも示そうとした試みとして、広く論じられているところだ。

編集とポストプロダクション

編集はダン・レベンタールとリー・フォルサム・ボイドの共同体制で進められた。129分という上映時間のなかで、青春映画と国際スパイ・ミステリーという二層の物語を切り替えつつ、観客の感情を途切れさせずに運ぶ。その構成は、編集段階で幾度も試行錯誤を重ねた末にたどり着いたものだ。なかでもベルリン列車の幻覚シークエンスは、撮影段階で複数の代替案が用意され、ポストプロダクションで各カットの長さを数フレーム単位で詰めながら、最終形へと仕上げられていった。

ミッドクレジットに登場するJ・ジョナ・ジェイムソン、ポストクレジットで明かされるスクラルへの変身という二段オチは、公開直前まで内容を伏せるため、最終リールの最終番号に組み込まれた。試写用の編集版にはダミーの仮映像が差し込まれており、本物の素材は劇場公開初日に同期させるという運用がとられている。

27公開と興行

本作は2019年7月2日に北米のIMAXで先行公開され、同月5日の通常興行で全米拡大公開を迎えた。日本では北米に先駆けて2019年6月28日に先行上映されている。『エンドゲーム』直後のMCUに世界中の観客が熱狂していた、その勢いをよく物語る措置だ。劇場興収は北米で約3億9100万ドル、海外で約7億4100万ドル、全世界では約11億3200万ドルにのぼった。ソニー・ピクチャーズ配給作品としては史上初めて10億ドルの大台を突破し、2019年の世界興行ランキングでは『エンドゲーム』『ライオン・キング』『アナと雪の女王2』に続く第4位前後につけている。

批評はおおむね好意的だった。ロッテン・トマトの批評家支持率は90%前後、観客スコアもほぼ同水準で推移している。批評欄では、ジェイク・ギレンホールが演じたミステリオの造形、主役を安定して支えたトム・ホランド、青春映画と大作の二つを巧みに両立させたジョン・ワッツの手腕、そしてホログラフィックな幻覚演出が広く称賛された。本作はMTVムービー&TVアワード、ティーン・チョイス・アワード、サターン賞などで複数の候補に挙がり、なかでもゼンデイヤとトム・ホランドが見せた息の合った関係性は、同年のキスシーン部門でも話題をさらった。

本作はまた、MCUとソニーによるスパイダーマン共同運用契約の更新交渉に火をつけた一本でもある。2019年8月にはいったん両社が決裂したかに見えたが、9月には再び合意に達し、続編『ノー・ウェイ・ホーム』へと道がつながった。本作の興行的な成功がなければ、その続編は実現していなかった可能性が高い。

28批評・評価・文化的影響

本作が残した文化的な影響は、興行成績だけでは測れない。まず大きいのは、ミステリオというキャラクターを書き換えてみせた点だ。原作コミックでは金魚鉢のようなヘルメットをかぶったレトロな悪役にすぎなかったが、本作はこれを、メディア時代における「人はいかにたやすく信じてしまうか」という主題そのものの寓話へと作り変えた。ベックが口にする「人々は見たいものを信じる」という台詞は、2010年代後半に過熱したディープフェイクやフェイクニュースをめぐる議論と直接響き合い、本作はスーパーヒーロー映画の枠を超えて広く参照される作品となった。

次に、終盤で放たれる「ヒーローの正体の暴露」は、MCU全体を見渡しても屈指のクリフハンガーである。この一撃は、続編『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)の物語が動き出す起点としてそっくり受け継がれた。J・K・シモンズがジェイムソンをMCUで再び演じたことは、サム・ライミ監督による三部作以来のキャスティングの再接続として大きな話題を呼び、後年のマルチバース展開を予告する伏線としても盛んに論じられている。

そして三つめに、本作は『エンドゲーム』直後のMCUに対し、ひとつの構造的な選択を示した作品として記憶されている。世界の命運を賭けた巨大な戦いを終えたあと、物語は十代の少年のささやかな初恋と修学旅行から再び動き出すのだ。フェーズ4以降のMCUは、サノス級の脅威に代わって、より個人的で心理に踏み込んだ脅威を物語の中心へ据えていく。その方針転換をいち早く担った旗振り役の一本こそ、本作だった。

批評・評価・文化的影響

舞台裏とトリビア

ジェイク・ギレンホールには、サム・ライミ監督『スパイダーマン3』の時代に、トビー・マグワイア降板に備えた主役候補として名前が挙がった経緯がある。本作はそれから十数年を経て、彼が同シリーズに敵役として加わる形での再合流となった。本人もインタビューで『あのとき主役だった可能性のある世界の自分が、別の側から戻ってきた感覚があった』と語っている。

ピーター・ビリングスリーが演じるウィリアム・ギンター・リヴァは、『アイアンマン』(2008)の冒頭で、オバディア・ステインに『早く小型化しろ』とトニー・スタークの設計図を押しつけられる科学者だ。本作では『あの日からずっとスタークに恨みがあった』と語り、11年越しのMCU内部キャラ再利用を象徴する存在となった。ビリングスリーはジョン・ファヴローの幼なじみで、『エルフ』(2003)以来の常連でもある。

AC/DCの『Back in Black』は、トニー・スタークの初登場作『アイアンマン』(2008)の冒頭で象徴的に使われた曲である。本作の自作スーツ・モンタージュでこの曲を再び流すことは、トニーからピーターへのトーチ・パスをBGMの選曲ひとつで体現する仕掛けであり、ファンと評論家の双方から高く評価された。

ミッドクレジットに登場するジェイムソンの場面は、撮影段階では極秘扱いとされ、J・K・シモンズ本人の出演契約も最終段階まで伏せられていた。シモンズはサム・ライミ三部作と同じ役のままMCUで再演しており、これは同一俳優・同一役名による異世界再演というMCUのマルチバース演出の、最初期を飾る象徴的な一例となった。

ポストクレジットで、フューリーの正体がタロスであったと明かされる場面は、『キャプテン・マーベル』(2019年3月公開)のラストへの伏線回収であると同時に、後年の『シークレット・インベージョン』(2023)の核となる『スクラル人の地球潜入』というテーマの布石でもあった。ベン・メンデルソーンの再演は、そのまま同ドラマの中心へとつながっていく。

30テーマと解釈

本作が中心に据えるのは、人を信じる心をどう扱うかという主題である。ピーター・パーカーは、ベックが語る「地球-833からの避難者」「四つのエレメンタルの脅威」を、ほとんど疑うことなく信じ込んでしまう。だがその若さは弱点ではない。むしろ誠実さの裏返しとして描かれている。本作の悪は、ピーターのまっすぐさにつけ込むかたちで成り立つ。そして彼の勝利は、誠実さを失わぬまま、信じてはならない相手を見抜く眼を手にすることで初めて訪れるのだ。

もう一つの軸は、トニー・スタークの遺産をどう受け止めるかにある。E.D.I.T.H.は表向き「次世代の地球の管理者権限」だが、その本質はピーター個人へのプライベートな遺言にほかならない。誰にこれを託すべきか、君なら自分で決められる——トニーが最後に賭けた信頼を、そのまま物として形にしたものだ。ピーターは一度ベックに渡し、一度奪い返し、最後にもう一度、自らの手で装着する。指がそれに触れた三度の数だけ、彼はトニーから受け継いだ遺産との距離を測り直していく。

三つ目の軸は、メディア時代における真実のもろさである。「人は見たいものを信じる」というベックの台詞は、ラストでJ・ジョナ・ジェイムソンの流す偽造映像によって、見事に裏返される。ミッドクレジットのわずか数十秒で、ヒーローのプライバシーが世界の只中で剝ぎ取られる。この事態は、本作が示す倫理の最終的な答えが「個人ではなく、社会の側にある」ことを暗示している。続編『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、この逆転を受け継ぎ、ピーターの世界そのものを一度白紙へと撤回していく物語へと展開していく。

視覚面でも対比は際立つ。ヴェネツィアの水とプラハの炎、ロンドンの霧と灰、自宅のあるクイーンズの夜景、そして宇宙に浮かぶスクラル指令艦の青白い光——。これらは単なる観光地的な色彩の演出ではない。一人の青年が、自らの感情を一つひとつ、異なる都市の光のなかで受け取り直していく。そう読める、きわめて意図的な構成として立ち上がってくるのだ。

テーマと解釈

視聴順ガイド

MCUの公開順では、本作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)の直後、『ブラック・ウィドウ』(2021)の直前に置かれる。物語の時間軸は『エンドゲーム』のラストからおよそ8か月後、『ブリップ』による復活と社会の再編が一段落した夏休みだ。初めて触れるなら、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『スパイダーマン:ホームカミング』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『キャプテン・マーベル』までを観てから本作へ進みたい。トニーの死とE.D.I.T.H.の継承、そしてフューリーとタロスによるスクラル人の代行、その双方を理解するうえで、この順序がもっとも自然だ。

とりわけ『アイアンマン』(2008)冒頭のウィリアム・ギンター・リヴァの場面と、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』冒頭でMITにおいて披露されるBARF、この二つを押さえておくと、本作におけるベック側の動機が完全に立ち上がってくる。逆に未見であっても本編の表層をたどるのに支障はない。脚本がフラッシュバックで丁寧に補っているからだ。

本作を観たあとに進むべきは、まず直接の続編『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)である。ミッドクレジットで明かされる正体と、ポストクレジットで描かれるフューリーとタロスの宇宙任務は、それぞれ続編と、Disney+のドラマ『シークレット・インベージョン』(2023)の物語上の出発点として受け継がれていく。観終えたら、フェーズ3の22作の流れを通しで振り返ってみるのもいい。

視聴順ガイド

32よくある質問

「あらすじだけ知りたい」なら、次の流れを押さえれば十分だ。『エンドゲーム』直後の世界を生きるピーター・パーカーは、ヨーロッパ修学旅行の途上、ヴェネツィアで『ミステリオ』を名乗るクエンティン・ベックと出会う。やがてトニー・スタークの遺品E.D.I.T.H.を一度はベックに託すが、プラハとベルリンでその真意——スターク社元社員によるホログラフィック詐欺——を見抜く。そしてロンドンのタワーブリッジで彼を倒し、ニューヨークでMJと結ばれる。

「結末・ネタバレを知りたい」なら、核となるのは次の六点だ。ミステリオの正体はスターク社の元従業員クエンティン・ベックであること。彼はBARF系のホログラムとドローンを駆使して『四大エレメンタル』を演出していたこと。ロンドンの戦いでピーターはスパイダー・センスによって彼の幻覚を見抜くこと。ベックは自らのドローンの誤射で命を落とすこと。ミッドクレジットでJ・ジョナ・ジェイムソンがピーターの正体を世界に晒すこと。そしてポストクレジットで、本作のフューリーとヒルがスクラル人タロスとソレンの変装だった事実が明かされること——以上である。

「ミステリオの正体は本物の異世界人か?」という疑問は、本編中盤でMJが拾うホログラム・プロジェクターによって明確に否定される。彼は地球-616のスターク社元主任エンジニアであり、地球-833など存在しない。マルチバースが本格的に語られるのは続編『ノー・ウェイ・ホーム』からであって、本作のマルチバース語りはすべてベックの嘘なのだ。

「評価を知りたい」なら、こう整理できる。批評筋はジェイク・ギレンホールの悪役造形、トム・ホランドの主役としての安定感、ジョン・ワッツが青春映画と大作を両立させた手腕、そしてホログラフィック幻覚の演出を広く称賛した。興行面ではソニー配給作品として初の世界興収10億ドル超えを達成している。「見る順番」としては、まず『ホームカミング』『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』『キャプテン・マーベル』までを観てから本作へ進み、その後に直接の続編『ノー・ウェイ・ホーム』へ向かうのが安定だ。

33参考資料・脚注

作品名、キャラクター名、画像、および各種権利は、それぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、配信状況、外部からの評価は変動しうるため、視聴前に公式サイトおよび各データベースの最新情報を確認されたい。本記事の本文は、各種公開情報をもとにAnna Movies独自の日本語記事として構成したものである。

参考資料・出典 (5件)
  1. Marvel公式 スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
  2. IMDb: Spider-Man: Far From Home (2019)
  3. Marvel Cinematic Universe Wiki: Spider-Man: Far From Home
  4. Box Office Mojo: Spider-Man: Far From Home
  5. Sony Pictures 公式: Spider-Man: Far From Home