キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールドは、2025年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画である。アンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが、星条旗の盾を継いだ「新しいキャプテン・アメリカ」として臨む最初の単独作で、合衆国大統領となったサンダーボルト・ロス、そして闇に眠る怪物レッド・ハルクと対峙する。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)フェーズ5を締めくくる一作であり、アダマンチウムが地上に降りてくる終章となっている。
00概要
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(Captain America: Brave New World)は、ジュリアス・オナーが監督したアメリカのスーパーヒーロー映画である。脚本はロブ・エドワーズ、マルコム・スペルマン、ダラン・マッソン、オナー本人、マシュー・オートンの五人がクレジットを分け合う。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ。シリーズ通算第35作にあたり、アンソニー・マッキー扮するサム・ウィルソンが正式に「キャプテン・アメリカ」として単独主演する最初の長編となった。
劇場公開は米国・日本ともに2025年2月14日。当初は『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』として発表されていたが、2023年9月のディズニーD23で『ブレイブ・ニュー・ワールド』へと改題された。撮影本編は2023年3月から6月にかけて進められ、その後2024年に大規模な追加撮影とリシュートを経て、118分の最終形へと整えられた。製作費は当初の予算に追加撮影分が積み増され、最終的に約1.8億ドル前後と報じられている。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ5に属する本作は、政治スリラーの手触りで構築されたポリティカル・アクションである。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』と続いた「キャプテン・アメリカ」三部作の、いわば精神的続編にあたる。物語の中心に据えられるのは三人だ。『マーベルズ』後の世界で新たに合衆国大統領へ就任したサディアス・E・ロス(ハリソン・フォード)。その身体の奥に眠り、ガンマ照射の代償として目覚める「レッド・ハルク」。そして十六年前の『インクレディブル・ハルク』で頭部にガンマ汚染を受けたまま画面から姿を消していたサミュエル・スターンズ(ティム・ブレイク・ネルソン)の復帰である。
本記事は、本編の結末、レッド・ハルク戦の決着、サミュエル・スターンズの「リーダー」としての復活、そしてラフト刑務所でのミッドクレジット・シーンに至るまで、ネタバレを完全に前提として書いている。物語の驚きを保ちたい読者は、本編を一度通して観てから戻ってきてほしい。
主要データ
- 原題
- Captain America: Brave New World
- 監督
- ジュリアス・オナー
- 脚本
- ロブ・エドワーズ/マルコム・スペルマン/ダラン・マッソン/ジュリアス・オナー/マシュー・オートン
- 原作
- マーベル・コミック(ジョー・サイモン/ジャック・カービー)
- 音楽
- ローラ・カープマン
- 米国公開
- 2025年2月14日
- 上映時間
- 118分
- ジャンル
- スーパーヒーロー、ポリティカル・スリラー、アクション
01あらすじ
以下に、結末とミッドクレジット・シーンまでを含めた全編のあらすじを記す。本作で描かれるのは、新たなキャプテン・アメリカとなったサム・ウィルソンが、単独で初めて「合衆国そのもの」と向き合う物語だ。そして十六年前、『インクレディブル・ハルク』のラストに残されたまま放置されていた一本の伏線を、世界の地政学という大きな舞台にまで引き上げ、見事に回収してみせる。
メキシコ・オアハカ
舞台はメキシコ・オアハカの夜から幕を開ける。サム・ウィルソンと、新たに相棒となった空軍中尉ホアキン・トーレス——『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』終盤でサムの旧称「ファルコン」を受け継いだ、若き飛行スーツの使い手——が、深夜の倉庫に潜入する。狙いは、サーペント・ソサイエティの首魁サイドワインダー/セス・ヴォエルカー(ジャンカルロ・エスポジート)が進める強奪取引の阻止だ。サイドワインダーが買い手に引き渡そうとしていたのは、政府の保管庫から盗み出された奇妙な金属サンプルを収めた装甲ケースだった。
倉庫の屋根から飛び込んで突入したサムは、ヴィブラニウム合金製のキャプテン・アメリカ・ウィングスを広げ、まず警備の一団を捌いていく。トーレスは新型のジェット・パックで上空に陣取り、制圧射撃で援護する。連携しながら二人は取引の現場へと降り立つ。サムの戦い方は、スティーブ・ロジャースのような正面突破ではない。ウィングスの反射で銃口の角度をそらし、相手の力を受け流して無力化していく。身軽で、曲線を描くような戦闘である。
ケースを奪い返したサムは、その中身が「アダマンチウム」と仮称される金属のサンプルだと知らされる。出所は、『エターナルズ』のラストで地球の地殻を破って立ち上がりかけ、命を絶たれたまま永遠に固化し、海面に屹立する天空巨人ティアマト——通称セレスシャル島の遺骸だ。世界はすでに、この巨大な金属塊から小規模な採掘を始めていた。やがてサイドワインダーは取り押さえられ、サムとトーレスはケースを携え、夜のオアハカから帰国の途につく。
アイザイア・ブラッドリーとの再会、新大…
ワシントンD.C.の閑静な住宅街に、サムが先代の「忘れられたキャプテン・アメリカ」アイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)を訪ねる。二人の交流は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で始まったものだ。アイザイアは朝鮮戦争期、米軍が黒人兵に秘密裏に施した血清実験の被験者であり、長い投獄を経てようやく解放された老兵である。サムが携えてきたのは、新たに合衆国大統領に就任したサディアス・E・ロスからの招待状。アイザイアの分も用意されていた。ロス政権がアダマンチウムの取り扱いを巡る国際条約を発表するにあたり、新キャップとアイザイアを「歴史的な瞬間の証人」として招きたいというのだ。
アイザイアは長年、米国を信じない理由を胸に抱えてきた。それでもサムの説得を受け、孫娘とともにホワイトハウスへ赴くことを承知する。サムにとってこの場は、自らが掲げる星条旗の盾と、自分より前にその重みを背負わされた一人の黒人兵の存在を、新政権の前に並べて示すための、極めて個人的な祈りでもあった。
ホワイトハウスでサムを出迎えるのは、ロス政権のセキュリティ・アドバイザー、ルース・バット=セラフ(シーラ・ハース)。イスラエルのモサド出身の元工作員で、ロスがもっとも信を置く側近の一人である。彼女はサムに、合衆国・日本・フランス・インド・メキシコを含む多国間条約の輪郭を語る。条約の眼目は、セレスシャル島で採取されるアダマンチウムの採掘と分配の管理を、ロス政権主導の国際枠組みのもとで一括して握ることにあった。
暗殺未遂
条約発表の式典が始まる。ロス大統領は日本国首相小崎拓海(平岳大)と握手を交わしながら、世界の指導者たちにアダマンチウム協定の意義を語る。広間にはジャズ・スタンダード「ミスター・ブルー」(ザ・フリートウッズ、1959年)の柔らかな音色が流れている——ところが歌詞が二度目のリフレインに差しかかった瞬間、観客席の数人が突然立ち上がり、ジャケットの内側から拳銃を抜いた。発砲する手は震えながらも、止まらない。撃ったのは、サムが招いたアイザイア・ブラッドリーだった。
サムは反射的に飛び出してロスを庇い、暴発する銃弾の軌道をウィングスで弾く。一発はロスの肩をかすめるが、致命傷ではない。犯人たちを取り押さえながらも、アイザイアを傷つけまいと細心の力加減で制圧する。すべてが終わったあと、アイザイアは「俺は何も覚えていない、なぜ俺がこんなことを」と虚ろな目で呟き、自分の手の中の銃をようやく認識して取り落とした。
シークレットサービスはその場でアイザイアを連行し、メリーランド州のスーパーマックス級政府施設へ送致する。ロスは応急処置を受けたあとも執務を続け、「これは外国勢力の介入だ」と非公式に主張する。だがサムの確信は揺るがない。アイザイアには長年米国を信じない理由が山ほどあるが、自ら銃を執るような人間ではない——そう信じ、ホアキン・トーレスとともに独自捜査に踏み込む。あの場で流れていた「ミスター・ブルー」こそ、暗示の引き金として用いられたのではないか。その疑いが急速に濃くなっていく。
ルース・バット=セラフと、コードネーム…
トーレスが調べを進めると、銃を抜いた数名のうち何人かには、過去の軍歴に共通点があった。いずれも、ある秘匿された政府の医療プログラムを受けた経歴を持つ。サムは、ロスの個人アドバイザーであるはずのルース・バット=セラフにも警戒を解かないまま、協力を求める。ルースは表向きロスの忠臣だが、その実、彼女自身が「ウィドウ」プログラム——本作では「レッド・ルーム」の派生形ではなく、イスラエル側独自の工作員養成プログラムとして再構成されている——の出身であり、長らく合衆国情報機関のなかで身分を綴り直してきた人物だった。
ルースはサムに、ロスが在任中ひそかに進めてきた「ザ・リーダー」と呼ばれる極秘の助言体制の存在を漏らす。十六年前の『インクレディブル・ハルク』事件の直後から、一人の科学者がホワイトハウス直属のブラックサイトに収容され、ロスのために世界規模の予測モデルを供給し続けてきたのだという。その科学者の本名は、サミュエル・スターンズ。コードネームは「ミスター・ブルー」——フリートウッズの楽曲のタイトルと符合する。
サムは、その場に流れていた音楽そのものがトリガーだった可能性に思い当たる。アイザイアたちは暗号化された聴覚刺激を埋め込まれたまま長く日常を送り、特定の楽曲のメロディと和声を聞いた瞬間に行動を発動するよう条件付けされていた。仕込んだのは誰か。スターンズ以外にいない——二人はそう確信する。
ブラックサイトのリーダー
サムとトーレスは、ルースの手引きでメリーランド州の地下深くに築かれたブラックサイトへ潜入する。そこに収監されていたのは、サミュエル・スターンズだった。十六年前、『インクレディブル・ハルク』のラストでブルース・バナーの血液を浴び、額の傷口から脳全体へとガンマ汚染が広がっていった男である。頭蓋骨が膨張しかけたまま画面から姿を消した、あのスターンズだ。十六年に及ぶ幽閉は、彼の身体をいっそう歪なものに変えていた。頭蓋は明らかに前部だけが膨らみ、皮膚は緑がかった蒼白へと変色している。もはや「博士」と呼ばれた若き研究者の面影はない。コミック由来の悪名でいう「ザ・リーダー」である。
スターンズは穏やかな口調でサムに語りかける。ハルク事件直後の混乱に乗じてロスの私的な指揮下に置かれ、表向きは存在しない者として、十六年ものあいだ世界政治の予測モデルを作り続けてきた、と。ロスはその分析を使い、アフリカ大陸の紛争抑止、サハラの水資源協定、さらにはセレスシャル島の出現以後のアダマンチウム条約の構想までを進めてきた。条約本文の半分以上は、独房のなかで計算されたものだったのだ。
だが、ロスは釈放と名誉回復の約束を、ついぞ果たさなかった。スターンズは独房のなかで、自分自身にも、そして世界にも復讐する計画を練り上げていく。条約締結を機にロスを失脚させ、できることなら破壊する——その布石として、彼はロスの身体にも長年「抗不安薬」と偽り、ガンマ照射を含む特殊な化合物を密かに投与し続けてきた。これこそが、本作に仕込まれた真の毒の一手である。
セレスシャル島事変
スターンズの真の狙いは、ホワイトハウスの内部にとどまるものではない。サイドワインダーによるアダマンチウム強奪も、続くホワイトハウスでの暗殺未遂も、すべては彼が描いた盤面の一手にすぎなかった。次に動かす駒は、セレスシャル島周辺で警戒任務に就く米海軍と海上自衛隊、数名のパイロットたちである。彼らもまた、同じ聴覚トリガーで起動するスリーパーとして、ずっと以前から条件付けを施されていた。
条約発表の翌日、セレスシャル島沖の海域で、米海軍と海上自衛隊の哨戒機が互いに発砲する。海面にそびえ立つ全長数キロのティアマトの遺骸を背景に、両国の戦闘機と艦艇が一時的な交戦状態へと突入する。ロス政権は事態の沈静化に奔走するが、世界の主要メディアはすでに「アダマンチウム条約は最初から茶番だった」と書き立て始めていた。日本の小崎首相は、条約からの離脱と自国艦隊の即時増派を発表する。
サムは飛行スーツでセレスシャル島へ急行し、操縦不能に陥った戦闘機のパイロットを助手席で叩き起こす——条件付けの呪縛を、激痛と痛烈な呼びかけで断ち切るのだ。トーレスも別の機体をぎりぎりで誘導するが、自身は撃墜寸前まで負傷し、サムの腕に抱えられて病院へと運ばれる。トーレスがICUに入る瞬間こそ、本作の精神的などん底だ。サムは病室の前で「俺は二度と仲間を失わない」と短く誓い、ホワイトハウスへと戻っていく。
南庭のレッド・ハルク
ホワイトハウスに戻ったサムは、ロスに直接問いただす。ロスはスターンズとの十六年に及ぶ関係をしぶしぶ認めるものの、自らの身体に起きている異変——朝の異常な発汗、充血した目、抑えのきかない怒りの発作——を、すべてストレスのせいだと思い込もうとする。「あなたは長年ガンマを盛られてきた。心臓も脳ももう限界だ。ここで休んでくれ」。サムはそう告げるが、ロスは情報の隠蔽と再選への執着を手放せない。
スターンズの仕込んだ最後の一手が動きだす。条約の正式署名の場、各国の代表団がずらりと居並び、報道用の照明と張りつめた空気が極限に達したその瞬間、ロスは執務机を握りつぶし、呼吸のリズムを乱す。コートを引きちぎりながら身体はみるみる膨れあがり、皮膚は赤く染まり、目は黄色く濁っていく。世界中に生中継されるカメラの前で、合衆国大統領は身長三メートルを超える紅蓮の怪物——レッド・ハルクへと変貌を遂げる。
ホワイトハウスの正面玄関からローズガーデンへ、さらに南庭の芝生を抜け、ワシントン記念塔の前まで、レッド・ハルクの暴走は止まらない。手当たり次第に車両を投げつけ、ヘリコプターを叩き落とす。サムはウィングスとジェットを駆使して怪物の頭上を旋回し、決して同じ高度に長くとどまらないことで、振り下ろされる重い拳をかわし続ける。市民の避難を最優先しつつ、サムはレッド・ハルクの内に眠る理性を呼び覚まそうと声を張り上げる。
あなたは父親だ
レッド・ハルクとの戦いの終盤、サムは生身のままロスの足元へ降り立つ。盾を背に回し、両腕を広げ、無防備な姿勢で大統領を見上げると、「サディアス、聞こえているのはわかっている。あなたは父親だ。ベティは今もあなたを父と呼んでいる」と一息に告げる。怒りに燃える瞳の奥に、人間の躊躇が一瞬よみがえる。振り下ろしかけた腕が止まる。レッド・ハルクは空気を絞り出すように嗚咽し、その場に膝をついて崩れ落ちる。やがて皮膚の赤が引き、骨格が縮み、ロスは老いた身体へと戻っていく——肩に弾痕、両手に血、そして目には涙。
ロスは自ら手錠をかけられ、海上のスーパーマックス収容施設「ラフト」へ送られる。サムは病院でトーレスの目覚めを見届け、アイザイア釈放のために改めて司法手続きを進める。アイザイアは無罪となり、サムは公の場で短い演説をする。「『キャプテン・アメリカ』の名は、私一人のものではない。これは長く戦ってきた人々すべての名前だ」。そしてベティ・ロス(リヴ・タイラー)がカメオで病院を訪れ、父と再会する。その短い場面が、本作の家族劇としての結末を静かに閉じる。
回復したホアキン・トーレスは、サムの正式な相棒「ファルコン」として復帰する。ホワイトハウスで開かれる、バラエティ番組ではない真っ当な記者会見の場で、彼はサムの隣に立つ。アイザイア・ブラッドリーは孫娘とともに静かな日常へと戻っていく。新しいキャプテン・アメリカが、超人としてではなく一人の人間として、自国の暴走そのものを受け止めた一夜——世界はその夜を記憶することになる。
ミッドクレジット
ミッドクレジット・シーンの舞台は、移送された先のラフト刑務所だ。サムが面会に訪れると、独房のガラス越しにスターンズが穏やかな笑みを浮かべる。「ロスを取り除いたところで、君が思っているような勝利は来ない。あの天空巨人の遺体は、君たちが想像もできない尺度で世界の境目を歪めている。やがて他の宇宙の連中が、君たちを訪ねてくるだろう」。具体名こそ口にしないが、その言葉はマルチバース・サーガ本格的な激突——『シークレット・ウォーズ』へと伸びる赤い糸である。
独房を背に、サムは自分の盾の重さを確かめる。背景に流れるのは、本編冒頭と同じ「ミスター・ブルー」。だがここではトリガーとしてではなく、静かに幕を引くための一節として響く。本作はポストクレジットを置かず、ミッドクレジット一本でMCUの次なる節目を予告し、幕を閉じる。
登場要素
本作が描くのは、宇宙的な力を持つ者たちの集団バトルではない。物語の軸となるのは、合衆国の政治機構、ガンマ線の照射、暗号化された行動の引き金、そしてセレスシャル島という地政学上の変数である。以下では、鍵を握る人物・場所・組織・道具を整理しておきたい。
- サム・ウィルソン/キャプテン・アメリカ(アンソニー・マッキー)
- サディアス・E・ロス大統領/レッド・ハルク(ハリソン・フォード)
- ホアキン・トーレス/ファルコン(ダニー・ラミレス)
- アイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)
- ルース・バット=セラフ(シーラ・ハース)
- サミュエル・スターンズ/ザ・リーダー(ティム・ブレイク・ネルソン)
- サイドワインダー/セス・ヴォエルカー(ジャンカルロ・エスポジート)
- サーペント・ソサイエティの実働部隊
- スリーパー化されたパイロットおよび退役兵
- 小崎拓海・日本国首相(平岳大)
- レイラ・テイラー大統領補佐官(ショシャ・ロックモア)
- ベティ・ロス(リヴ・タイラー、カメオ)
- アイザイアの孫エリヤ・ブラッドリー(ジャイメ・ケスター)
- 合衆国大統領府/ホワイトハウス
- 米国陸軍/海軍/空軍
- シークレットサービス
- イスラエル情報機関(モサド)由来の特殊工作員系譜
- サーペント・ソサイエティ
- ラフト刑務所
- メキシコ・オアハカの倉庫地区
- ワシントンD.C.(ホワイトハウス/ワシントン記念塔)
- メリーランド州地下のブラックサイト
- セレスシャル島/インド洋上のティアマト遺骸
- ラフト刑務所
- 新型キャプテン・アメリカ・ウィングス(ヴィブラニウム合金+飛行スーツ)
- サムの星条旗の盾(ヴィブラニウム製、サムの個人仕様)
- アダマンチウム原塊サンプル
- ガンマ照射型「抗不安薬」
- 聴覚トリガーによる条件付け(楽曲「ミスター・ブルー」)
- ホアキン・トーレス用の新ファルコン・スーツ
- ガンマ照射による知能・身体変異
- 聴覚刺激による睡眠工作員化(スリーパー)
- アダマンチウムによる地政学的勢力均衡
- セレスシャル遺骸という新資源
- 盾と翼の連動戦闘術(サム流の格闘)
- 大統領という公職の暴走と人間ドラマ
- ラフト刑務所でのスターンズとサムの会話
- 「他の宇宙から訪問者が来る」というマルチバース予告
- ティアマト遺骸が宇宙の境目を歪めているという示唆
12主要登場人物
本作の登場人物は、シールドを受け継いだヒーロー、合衆国の最高権力者、そして十六年もの間、影で世界の動きを読み続けてきた囚人科学者──三者三様の「責任の取り方」が交錯する構図で配置されている。サムは責任を引き受けることで強くなり、ロスは責任から逃げ続けたことで化け物と化し、スターンズは責任を奪われ続けたことで世界を呪う。この三者の関係こそ、本作のドラマを支える背骨である。
サム・ウィルソン/キャプテン・アメリカ
『アベンジャーズ/エンドゲーム』のラストでスティーブ・ロジャースから直接盾を託され、Disney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で改めて自らの意思でキャプテン・アメリカの名を引き受けた男が、ついに単独主演映画の主人公となった。本作のサムは超人血清を持たない。肉体的にはあくまで「鍛え抜かれた人間の上限」に立つ戦士である。ウィングスは飛び道具と防御具を兼ねるかたちに再設計され、盾の投げ方も、力ではなくウィングスの反射と組み合わせる「曲線の使い方」へと振り直されている。
サムは作中で何度も「俺はキャプテン・アメリカに値しないかもしれない」と疑念を口にする。アイザイアの目の前で、トーレスの病床で、レッド・ハルクを前にして——その疑念は最後まで完全には消えない。本作で彼が下す決断は、疑念を抱えたまま「俺以外にこれを引き受ける者がいないなら、俺がやる」と動き続けることだ。マッキーは2014年の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』から11年、シリーズ史上もっとも長くサム・ウィルソンを生きてきた俳優である。過剰なヒロイズムを排し、悩みながら前へ進む大人の主人公像を画面に刻んだ。
サディアス・E・ロス大統領/レッド・ハ…
故ウィリアム・ハートが『インクレディブル・ハルク』(2008)から『ブラック・ウィドウ』(2021)まで演じてきたサンダーボルト・ロス将軍/国務長官。その役を、ハリソン・フォードが大統領として引き継いだ。物語の時間軸では、すでに国務長官時代の強硬路線を経て、選挙に勝利した直後のロスが描かれる。コミックの「レッド・ハルク」は二十数年にわたってファンに待ち望まれてきたキャラクターである。本作はそれを「合衆国大統領の身体の内に隠された怪物」として配し、政治スリラーとモンスター映画の境目に主題を据えた。
ロス最大の悲劇は、自らの力に対する責任を一度として認められなかった点にある。娘ベティの離反、長年に及ぶハルク追跡、そしてスターンズへの依存——いずれも「強さを保つために、もう一度自分を強い人間にしてくれる薬」を必要としてきた。スターンズが盛り続けた特殊化合物は、文字どおり「ロスが心の奥でずっと求めてきたもの」を、ただ形にして与えたにすぎない。この皮肉こそ、本作の核心だ。
ハリソン・フォードは2024年公開予定だった本作のため、2023年から準備に入った。撮影後の追加撮影では、政治演説の場面と、レッド・ハルク変身直前の家族描写を強める場面が新たに撮られたと公表されている。レジェンド級の俳優の起用は、シリーズ全体を見渡しても特筆すべき出来事であった。
ホアキン・トーレス/ファルコン
Disney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に米空軍中尉として登場し、サムがかつて名乗ったファルコンを受け継ぐ立場に置かれていた若手パイロット。彼が本作でついに正式な「新たなファルコン」となる。トーレスの飛行スーツは、サムの新しいウイングとは世代の異なる機体だ。機動性を重視した軽量機で、マーベル・スタジオが自社で手がけたデザインへと一新されている。
ダニー・ラミレス演じるトーレスは、サムの「弟分」と呼ぶにふさわしい、自然な親密さをまとって描かれる。皮肉と冗談を絶やさない快活な若者だ。だが、セレスシャル島の近海で撃墜されかけ、集中治療室へ運び込まれる場面では、サムが声を絞り出して呼びかける相手として、シリーズで初めて観客の涙を誘う役どころを担う。本作の家族劇を支えるもう一つの軸が、血ではなく軍歴で結ばれたサムとトーレスの「兄弟」の絆である。二人が最後に肩を並べ、記者会見の壇上に立つ姿で、その絆は確かに報われる。
アイザイア・ブラッドリー
Disney+のドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で初めて世界に紹介された、朝鮮戦争期の「忘れられたキャプテン・アメリカ」。アメリカ陸軍が黒人兵に秘密裏に行った超人血清の実験を生き延びた数少ない一人である。戦後は長年にわたって投獄され、その存在そのものが国家機密として葬られていた。
本作のアイザイアは、自分が信じてもいない国の象徴を、自らの手で撃ったことにされる立場へ突然立たされる。撃ったあとの記憶がまったくないという身体的な孤立感。それでも自分の手の汚れを引き受けようとする姿勢。そして、それでも孫娘を抱きしめる小さな夜——カール・ランブリーは長い俳優人生のなかでもとりわけ内に抑えた演技でこれを体現し、本作の感情的な重心を担う一人となった。
終盤、釈放されたアイザイアがサムに向かって「お前は俺よりずっと良くやっている」とだけ告げる短い場面。シリーズを貫く長い世代のリレーの、もっとも誠実な握手である。
ルース・バット=セラフ
イスラエルに生まれ、モサドの工作員養成プログラムで訓練を受けた元エージェント。のちにアメリカへ転属し、現在はロス大統領の安全保障顧問を務める。コミックでは長らく「サブラ」のコードネームを持ち、青と白のコスチュームを纏うイスラエル国家の象徴的ヒーローとして描かれてきた。だが本作はその英雄像を意図的に脱がせ、地味なスーツの内側で動く政治顧問へと造形しなおしている。この改変は公開前から国際的な議論を呼んだ。シーラ・ハース自身もインタビューで「彼女は本作では旗ではなく、ひとりの人間として描かれている」と語っている。
ルースは、ロスへの忠誠と、その背後で暗躍するスターンズへの疑念とのあいだで揺れ動き、やがてサムの側に立つ。戦闘術は近距離格闘と素早い判断に振り切られており、ホワイトハウスでのレッド・ハルク戦では市民の避難誘導の指揮を執る。シリーズに新たに加わった「地に足のついた工作員」として重要な存在であり、続編やスピンオフでの再登場も見込まれる人物だ。
サミュエル・スターンズ/ザ・リーダー
2008年の『インクレディブル・ハルク』のラストで、額の傷からブルース・バナーの血を浴び、頭蓋骨が膨らみかけたまま画面から姿を消した科学者がいた。その彼が、十六年の沈黙を経て本作で再び姿を現す。コミックでハルクの宿敵として長く描かれてきた緑の超知能犯罪者「ザ・リーダー」が、MCUへ本格的に足を踏み入れるのは、これが初めてである。
本作のスターンズは、暴力的な怪物ではない。十六年の幽閉のなかで精神を鈍く研ぎ澄ませてきた、予測の天才として描かれる。武器はガンマの力ではなく、人間の弱さと制度の隙間を読む計算だ。ロスを「合衆国大統領」という最も高い座に就かせたうえで内側から崩していく——その皮肉に満ちた復讐の構図を、彼は完成させる。ティム・ブレイク・ネルソンは『インクレディブル・ハルク』当時の演技を踏まえつつ、十六年の停滞と内に秘めた怒りを、椅子に座ったまま数分の独白だけで見せきる。
ミッドクレジットでサムに告げる「彼らは来る」の一言は、本作の枠を超え、マルチバース・サーガ全体への扉として機能する。スターンズが今後のMCUで再び動き出すのかどうか。それはシリーズの将来計画と、そのまま直結している。
舞台と用語
舞台はメキシコ・オアハカ、ワシントンD.C.、メリーランド州地下のブラックサイト、インド洋に浮かぶセレスシャル島、そして海上の刑務所ラフトへと移り変わる。地政学的なスケールの大きな物語である。鍵を握る用語は「アダマンチウム」「セレスシャル島」「スリーパー」の三つに整理できる。
アダマンチウムは、コミックでウルヴァリンの骨格を構成する金属として知られ、ヴィブラニウムと並ぶマーベル世界のもう一つの究極合金だ。本作のMCUにおける定義では、ティアマトの遺骸から採れる極めて希少な金属とされ、世界の軍事バランスを左右しかねない戦略資源として描かれる。終盤、これをめぐる条約が暫定的な締結に至るのか、それとも棚上げとなるのか。続編に持ち越される含みを残したまま幕を閉じる。
セレスシャル島は、『エターナルズ』のラストで地球を割って立ち上がりかけ、エターナルズの介入によって半身を大気圏外に出したまま固化したティアマトの遺骸である。今や海面にそびえ立つ「大陸サイズの彫像」として地政学上の焦点となり、その採掘権と調査権の行方が新たな世界秩序を左右する。
スリーパーは、米国の情報機関内部で長年論じられてきた概念だ。本作では聴覚への刺激と化学的な条件付けを組み合わせ、「特定の楽曲をトリガーとして起動する睡眠工作員」として具体化された。十六年前から仕込まれてきた人々が、アイザイアを含めて世界中に潜伏している——。この設定は、続編やDisney+のシリーズで再び呼び戻される伏線となり得る。
関連リンク
20制作
本作の制作は、MCUのフェーズ5中盤以降に積み重なった企画・撮影上の困難を象徴する一本となった。タイトルの変更、長期にわたるリシュート、追加撮影による公開延期、そしてハリウッドの俳優・脚本家組合によるストライキの影響。さらには最終的な編集のやり直しまで——いずれの問題も、シリーズの運営が二度と同じ轍を踏まないよう、徹底的に検証されている。
企画と脚本
サム・ウィルソンを主役に据えた単独キャプテン・アメリカ映画の企画は、2021年に配信されたDisney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の好評を受け、すぐさま動き出した。同シリーズの中心的な書き手だったマルコム・スペルマンが脚本の第一稿を手がけ、ダラン・マッソンが共同で世界観を整理し直している。当初のタイトルは『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』で、2022年7月のSDCC(サンディエゴ・コミコン)で正式に発表された。
その後、ロブ・エドワーズが大幅な書き直しに加わり、2023年の追加撮影では、マシュー・オートンが新たな場面の追加と新キャラクターの調整を担った。最終的に、監督のジュリアス・オナーを含む五名が脚本クレジットを分け合う形となった。この五人体制は、本作がたどった構造上の揺れの大きさを物語る数字でもある。
脚本における最大の決断は、ザ・リーダーをこの単独作の真の黒幕に据え、レッド・ハルクを終盤のクライマックスに配しながらも、その両者を「サム個人の敵」ではなく「合衆国そのものが抱える病理」として描いた点にある。新たなキャップの最初の単独作を政治スリラーの語り口で組み上げる――この選択は、ルッソ兄弟が手がけた『ウィンター・ソルジャー』の正統な後継として位置づけられる。
キャスティング
サム・ウィルソン役のアンソニー・マッキーは、2014年の『ウィンター・ソルジャー』からの続投だ。ロス役には、長年この役を演じてきた故ウィリアム・ハート(2022年逝去)の後任としてハリソン・フォードが起用された。フォードにとって本作がMCU初参加であり、撮影開始時点ですでに80代に入っていた俳優を米国大統領兼レッド・ハルクという二重の役柄に据える――その起用は、最初に発表された際、世界的なニュースとなった。
ホアキン・トーレス役のダニー・ラミレスは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』から続投。アイザイア・ブラッドリー役のカール・ランブリーも引き続き出演する。新たに加わったのは、ルース・バット=セラフ役のシーラ・ハース。イスラエル出身で、『シュティセル』『アンオーソドックス』で知られる実力派だ。さらにサイドワインダー役には、『ベター・コール・ソウル』『マンダロリアン』のジャンカルロ・エスポジートが配された。登場は短いものの、今後のシリーズへの足がかりとなる布石である。
サミュエル・スターンズ役のティム・ブレイク・ネルソンは、2008年の『インクレディブル・ハルク』から実に十六年ぶりの復帰となる。シリーズ初期作からこれほど長い間を置いて戻ってきた俳優は珍しく、ハッピー・ホーガン役のジョン・ファヴローと並ぶ稀有な例だ。ベティ・ロス役のリヴ・タイラーも同じ2008年作からの続投で、本作ではカメオ出演を果たしている。
撮影とリシュート
主要撮影は2023年3月から6月にかけて、米ジョージア州アトランタのトリリス・スタジオを拠点に行われた。同年の俳優組合(SAG-AFTRA)と脚本家組合(WGA)によるストライキの影響で、ポストプロダクションの一部やプロモーションの予定は大幅な変更を余儀なくされた。
2024年5月から6月にかけては、複数週にわたる大規模な追加撮影が組まれた。報じられているところでは、レッド・ハルクの登場場面の規模拡大、サムとロスの会話シーンの強化、トーレスの病院シーンの追加、そして本編後に流れるミッドクレジット・シーンの本撮影などが、この追加撮影で行われたという。サブラ/ルースをめぐる主要場面のいくつかも、この段階で撮り直された。
撮影監督を務めたのはクレイマー・モーゲンソー(『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』『キャプテン・マーベル』『シャン・チー』)。政治スリラーらしい落ち着いた室内光と、レッド・ハルク戦の戦争映画さながらの手持ちカメラの臨場感を組み合わせ、抑制と過剰のあいだで振れ幅の大きい画作りを手がけた。
視覚効果
視覚効果は、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)、Wētā FX、Framestore、Rise FX、Digital Domain など複数のスタジオが分担した。中心となったのは、レッド・ハルクの全身を一から作り上げる作業である。ハリソン・フォードのフェイシャル・キャプチャを土台に、身長三メートルを超える筋肉構造と、紅蓮に燃える皮膚の質感を、一フレームずつ丹念に合成していった。ホワイトハウス南庭で対峙するレッド・ハルクと市民の体格差は、伝統的なミニチュア手法を一切使わず、フルCGと実写のライブ・プレートを合成して描き出している。
海面にそびえ立つ全長数キロのセレスシャル島──固化した天空巨人の威容を、その遠景は衛星マップ規模の海洋シミュレーションと組み合わせて描いた。本作の視覚効果は約2,300ショットを超え、フェーズ5の単独作としては最大規模の作業量となった。フェイシャル・キャプチャの密度も、タスクマスター時代の技術と比べて明らかに一段引き上げられている。
音楽と音響
音楽を手がけたのはローラ・カープマン。当初はダニエル・ペンバートン名義で準備稿が発表されていたが、追加撮影の段階で全面的に書き直され、最終的にはカープマンの単独クレジットに落ち着いた。エミー賞を受賞したドラマ『The People v. O. J. Simpson』や『フォア・モア・シャッツ・プリーズ』で知られる作曲家である。MCUのシリーズで女性作曲家が単独の主任スコアラーを務めるのは、『ブラック・ウィドウ』のローン・バルフ(男性)を経て、『キャプテン・マーベル』のピンマー・ウォーカー以来の重要な一例となる。
象徴的に使われるのが、ザ・フリートウッズが1959年に放ったヒット曲「Mr. Blue」だ。物語の引き金を呼び覚ます楽曲として全編にわたって流れる。ジャズ・スタンダードならではの優しい響きと、画面で進行する政治暗殺の冷たさ。この対比が、本作の倫理的なトーンを序盤のうちに決定づける。やがてミッドクレジットの面会場面で同じ曲が再び穏やかに流れ、観客の記憶は静かに本編の冒頭へと引き戻されていく。
編集とポストプロダクション
編集はテリリン・A・シュロップシャー(『ロキ』『ザ・ファルコン&ウィンター・ソルジャー』)とマシュー・シュミット(『ブラック・ウィドウ』『ロキ』)が共同で手がけた。上映時間は118分だが、撮影段階のラフカットはこれを大幅に上回っていた。追加撮影分を織り込んだ再構築は公開ぎりぎりまで続いたと、業界誌は報じている。
2024年から2025年にかけての最終的なポストプロダクションでは、レッド・ハルク戦のテンポを上げるためにいくつかの会話場面が短く詰められ、公開版ではミッドクレジットのみという一本の構成へと整えられた。ポストクレジットを置かなかったこと自体が、本作の編集に注がれた慎重な姿勢を物語っている。
27公開と興行
公開戦略では、フェーズ5の終盤を締めくくる節目として、2025年2月のプレジデント・デイ三連休週が狙われた。米国・日本ともに2025年2月14日、バレンタイン・デイに劇場公開。北米のオープニング週末興収は約8,800万ドルで、プレジデント・デイ三連休ぶんを含めると約1億ドルを突破した。
全世界での最終興行収入は、約4億1,500万ドル前後と集計されている。内訳は北米約2億ドル、海外約2億1,500万ドル。約1億8,000万ドル(追加撮影込みの最終値)の製作費に宣伝費を加えて考えると、損益分岐点をわずかに上回るかどうかという結果で、商業的にはフェーズ4後半からフェーズ5全体と同様、「中位」の数字に落ち着いた。
批評面は厳しい。ロッテン・トマトの批評家支持率は約4割と低調で、メタスコアも40点台にとどまった。脚本構造の継ぎ目、再撮影の痕跡、ロスがレッド・ハルクへと変貌するに至る情緒の積み上げ不足、サブラとルースの設定改変をめぐる政治的議論などが、減点項目として並んだ。一方で観客評は7割を超える。アンソニー・マッキーの誠実な主演、ハリソン・フォードのMCU参入そのもののインパクト、ティム・ブレイク・ネルソンの再登場、そしてレッド・ハルクの実写化を成し遂げた達成感が、多くのファンに肯定的な記憶を残した。
28批評・評価・文化的影響
本作の文化的な影響は、シリーズ運営という観点から見たとき最も色濃く表れている。まず大きいのは、MCUが長らく抱えてきた課題——スティーブ・ロジャース亡き後の「キャプテン・アメリカ」単独作をどう成立させるか——に、ひとつの回答を示した点だ。主役をサム・ウィルソンに託したこの試みが興行的に、そして継続契約の面で成り立つのか。本作はその根本的な問いに対し、興収と契約延長の両面から「ぎりぎり成立」という答えを出してみせた。マッキー自身も、好調な観客評を追い風に、続編とアベンジャーズ系列での再登場に向けた契約交渉を続けている。
次に挙げたいのが、長く待ち望まれてきた「レッド・ハルク」と「ザ・リーダー」を、MCUの本流へ正式に組み込んだことである。ハルク系列の物語はこれによって再起動を果たした。世界観の上では『インクレディブル・ハルク』(2008)から実に十六年越しの伏線が回収され、ブルース・バナー本人の今後の登場に向けた足場も整えられた。
そして三つめ。本作はMCUの追加撮影とリシュート(再撮影)のあり方そのものを、業界内で改めて議論の俎上に乗せた一本となった。製作費の最終的な数字、追加撮影で再収録された場面の比率、ハリソン・フォードのスケジュール調整、さらにはストライキの影響——。これらはいずれも、フェーズ6へ向けたシリーズ運営のケーススタディとして、繰り返し参照されている。
加えて本作は、アダマンチウムをMCUの語彙に正式に持ち込んだ作品でもあり、X-メン参入への地ならしという役割も担っている。続編や新シリーズで、本作の遺骸とアダマンチウムが再び物語の主題として浮かび上がる可能性は高い。
舞台裏とトリビア
公開当時、本作はアンソニー・マッキー演じるサムにとって初の単独主演作であり、同時にハリソン・フォードにとっても初のMCU出演作だった。フォードの参入は2022年10月のD23で発表されたサプライズ・キャスティングとして、世界中で大きく報じられた。
本作は、ティム・ブレイク・ネルソン演じるサミュエル・スターンズが2008年の『インクレディブル・ハルク』以来、十六年ぶりにMCUへ帰ってきた記念すべき一本でもある。その登場シーンの一部は、当時の若き日のスターンズを収めた十六年前の映像と新規撮影を組み合わせて作り上げられている。
原題は『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』だったが、2023年9月のD23で公開された段階で『ブレイブ・ニュー・ワールド』へと改題された。理由は公式には明言されていない。ただ業界誌は、オルダス・ハクスリーの古典的名作と同じ題名であることへの連想、そして過去に地政学的な文脈で悪用された経緯への配慮、その両方を指摘している。
サブラ/ルース・バット=セラフは、コミックでの旗を掲げた象徴的な描写が大幅に削ぎ落とされ、政治アドバイザーという地味な造形へと改められた。この経緯について業界誌は、2022年から2023年にかけての国際情勢を踏まえた配慮の結果だと伝えている。制作陣もインタビューで「コミックそのままの提示はしない」と明言していた。
アイザイア・ブラッドリーの原典は、ロバート・モラレス/カイル・ベイカーによる『Truth: Red, White & Black』(2003)である。本作はDisney+のドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に続き、この原作の重みを映像版MCUへ正式に持ち込む一本となった。
オープニングとミッドクレジットで流れる「Mr. Blue」は、ザ・フリートウッズが1959年に全米シングルチャート1位を獲得したジャズ/ドゥーワップの古典だ。原典のラジオ局で流れていたという歴史的な記憶を、本作では暗号化のトリガーへと巧みに転用している。
30テーマと解釈
本作の核心にあるのは、合衆国の象徴を「血ではなく行為によって受け継ぐ」という主題である。サム・ウィルソンは超人血清を持たない。星条旗の盾の重みに自分は値するのかと問い続けながら、それでもその盾を引き受ける男だ。一方、アイザイア・ブラッドリーは国家に裏切られ続けてきた老兵でありながら、孫娘の前では決して姿勢を崩さない。そしてロスは、生涯にわたって自らの責任を直視できなかったがゆえに、文字どおり自分自身を化け物へと変えてしまう。三者三様の「象徴と肉体」の関係こそが、本作の倫理的な座標軸となっている。
もう一つの軸は、暴走する国家機構を一人の人間がいかに止めるか、という問いである。本作のレッド・ハルクは外部から来た侵略者でも、宇宙的な存在でもない。選挙で選ばれた合衆国大統領が、十六年に及ぶ薬と十六年に及ぶ傲慢の代償として、その身体ごと変じてしまった怪物なのだ。サムが選ぶのは、戦って勝つことではない。相手の名前を呼び続け、一人の父親として呼び戻そうとすることだった。本作が描くのは、勝利の倫理ではなく、目覚めの倫理である。
三つ目の軸は、十六年前のシリーズ作から「忘れられた糸」を手繰り寄せることだ。スターンズの再登場、ベティ・ロスのカメオ、アイザイア・ブラッドリーの再起用、そして音楽「Mr. Blue」の選曲——いずれも、長く待たされてきた観客への作り手側の応答として機能している。MCUがサーガをまたいで自らの蓄積を尊重しようとする、その姿勢の表明にほかならない。
視覚面でも、ホワイトハウスの白い回廊とレッド・ハルクの紅蓮の身体、合衆国大統領の暗いスーツとサムの星条旗の盾、そして海面に屹立する青いセレスシャル島の冷たさが対比をなす。本作の色彩構成は、米国の政治神話と新たな宇宙的尺度とを、同じ画面の上に並置する役割を担っているのだ。
31見る順番
本作はサム・ウィルソンの単独主演映画第一作でありながら、ハルク系列、エターナルズ系列、そしてMCUの政治劇系列が一挙に合流する地点でもある。初めて観るなら、まず2008年の『インクレディブル・ハルク』でサンダーボルト・ロス将軍とサミュエル・スターンズの出会いを押さえたい。続いて『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でサム・ウィルソンの歩みをたどり、さらに『エターナルズ』でティアマトの出現を確認する。その流れを経てから本作に入るのが、もっとも作品を理解しやすい順序だ。
本作の一つ前にあたるのは、公開順では『マーベルズ』(2023)、物語内の時系列ではDisney+ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)である。直後に控えるのは『サンダーボルツ*』(2025)。ロスが大統領職を退いたのち、「裏アベンジャーズ」が結成へと向かう流れは、ラフト刑務所をめぐる語り口の点で本作と地続きになっている。
本作を存分に味わうなら、MCUフェーズ5の中盤以降の作品とあわせて観るのがよい。とりわけラフト刑務所で語られるスターンズの台詞は、続く『サンダーボルツ*』『ファンタスティック・フォー/ファースト・ステップ』、さらにはマルチバース・サーガの本格的な決着篇へと向かう布石として読める。その伏線がどこへ繋がっていくのか、注目したい。
32よくある質問
「あらすじだけ知りたい」という人は、次の流れを押さえておけば十分だ。オアハカでのアダマンチウム強奪を阻止したサムは、ホワイトハウスへ招かれる。だがそこでアイザイアらによる暗殺未遂が起こり、やがてザ・リーダー=サミュエル・スターンズが十六年をかけて練り上げた復讐計画が明らかになっていく。さらにセレスシャル島で日米衝突の危機が迫り、ロスはレッド・ハルクへと変貌。これをサムが説得し、ロスはみずからラフトへ収監される。「結末・ネタバレを知りたい」という人にとっては、レッド・ハルク戦の終盤、サムがロスに「あなたは父親だ」と呼びかけて変身を解除する場面、ベティ・ロスのカメオ、そしてミッドクレジットでスターンズが「彼らは来る」と告げる場面までが核となる。
「評価を知りたい」という人向けに整理すると、批評家の支持は4割前後と低調だが、観客評は7割を超え、興行は世界4.15億ドルでぎりぎり黒字圏に届いた。個別の称賛点はアンソニー・マッキーの誠実な主演と、ハリソン・フォードのMCU参入である。一方、五人もの脚本クレジットがもたらした構造の歪みと、サブラの設定改変は批判を集めた。「見る順番」で迷うなら、まず『インクレディブル・ハルク』『ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー』『エンドゲーム』『エターナルズ』『マーベルズ』を経て本作にたどり着き、続けて『サンダーボルツ*』へ進むのが、最もスムーズな視聴順となる。
33参考資料・脚注
作品名、キャラクター名、画像、各種権利はそれぞれの権利者に帰属する。公開年や興行成績、配信状況、外部からの評価は今後変わる可能性があるため、視聴前に公式サイトや各データベースの最新情報を確認してほしい。本記事の本文は、各種の公開情報をもとにAnna Movies独自の日本語記事として構成したものである。