『魔法少女まどか☆マギカ』の魔女は、人間へ害を与える怪物であると同時に、ソウルジェムを濁らせた魔法少女の終着点である。固有の名前、性質、結界、使い魔を持ち、造形には生前の願いや感情の痕跡が表れる。ただし、すべての魔女について元の魔法少女が作品内で明示されるわけではない。本記事ではTVシリーズと『叛逆の物語』を中心に、確定している対応関係と、意匠から導く考察を分けながら一覧化する。
最初に確認したい魔女化の仕組み
契約した少女の魂はソウルジェムへ移され、肉体は魔力で動く器となる。戦闘で魔力を使い、精神的な絶望を抱えると宝石へ濁りが蓄積する。グリーフシードへ濁りを移せる間は活動を続けられるが、浄化できず限界へ達するとソウルジェムそのものがグリーフシードへ変わる。
そこから生まれるのが魔女である。魔法少女と魔女は別種の存在ではなく、希望を対価に契約した一人の少女の前後の姿に当たる。キュゥべえは、希望が絶望へ反転する時の感情エネルギーを回収するため、この仕組みを利用している。

魔女を倒すとグリーフシードが残る場合があり、別の魔法少女が浄化に使う。過去の魔法少女から生まれた核で現在の魔法少女が延命し、いずれ自分も魔女になる循環が成立する。この全体像を知ると、魔女討伐が単純な怪物退治ではないと分かる。
ゲルトルート:薔薇園の魔女
ゲルトルートは第2話で巴マミが討伐する薔薇園の魔女で、性質は不信。蝶の羽根と薔薇、顔を覆う装飾を持ち、庭園を思わせる結界の奥にいる。侵入者より薔薇を大切にし、使い魔が庭の手入れを続ける。
使い魔には、口ひげのような姿で造園を担うアンソニーと、蝶の羽根を持つアーデルベルトがいる。マミはリボンで動きを制限し、複数のマスケット銃とティロ・フィナーレを使って倒す。戦闘後のグリーフシードを使い、浄化と分配の仕組みも初めて示される。

ゲルトルートの人間時代はTV本編で明かされない。庭園や蝶を生前の職業へ直結させる解釈は可能でも、画面の象徴だけで特定人物だったと断定できない。公式に示された名称と性質、結界、使い魔までを確定情報として扱う。
シャルロッテ:お菓子の魔女
シャルロッテは第3話の病院で孵化するお菓子の魔女で、性質は執着。第一形態は小さく無害そうに見えるが、拘束を解いた後、巨大な口を持つ第二形態を連続して出現させる。マミは最初の姿を制圧したことで戦闘終了と判断し、変形後の奇襲で命を落とす。
結界には菓子、薬品、注射器、病院を連想させる意匠が混在する。欲しいチーズだけは作れないという設定もあり、好物へ届かない執着が空間全体に現れる。使い魔ピョートルは医療従事者を思わせる姿で、結界の仕事を担う。
『叛逆の物語』で、シャルロッテと百江なぎさの関係が明確になる。円環の理に導かれたなぎさはベベの姿でほむらの結界へ入り、マミと行動する。TV第3話だけを根拠になぎさの全経歴まで逆算するのではなく、映画で追加された対応として整理する必要がある。

H.N.エリー、アルベルティーネ、ギーゼラ
第4話のH.N.エリーはハコの魔女で、性質は憧憬。ブラウン管、文字列、洗濯物のような断片が浮かぶ電子的な結界へ人間を誘い込み、集団自殺を引き起こそうとする。契約直後のさやかが剣で討伐し、魔法少女として初めてまどかの前へ現れる。
アルベルティーネは落書きの魔女で、TV本編では使い魔アーニャが登場する。子どもの落書きを思わせる造形が特徴で、魔女本体の全貌より使い魔を通して存在が示される。すべての結界で、その場に魔女本体がいるとは限らないことを理解する例になる。
ギーゼラは銀の魔女で、性質は自由。第7話で杏子が自分の過去を話す回想に現れ、車輪、排気管、金属部品を組み合わせたような姿を持つ。短い登場であり、人間時代や杏子との因縁が詳しく語られるわけではない。

これらの魔女は登場時間が短くても、さやかの初戦、使い魔の生態、杏子の過去という別々の役割を持つ。名前だけを一覧にするより、どの人物の選択を照らす場面だったかを合わせて読むと物語上の位置が分かる。
エルザ・マリア:影の魔女
エルザ・マリアは第7話の影の魔女で、性質は独善。白黒の切り絵のような結界の中央で祈る姿を取り、使い魔セバスティアンズが周囲を守る。聖女のような構図と、侵入者を攻撃する影の群れが同じ空間に置かれる。
さやかは痛覚を遮断し、攻撃を受けても笑いながら剣を振るう。魔女の設定以上に、戦う側の変化を見せる戦闘である。回復力に頼って損傷を無視する姿は、正義を貫ける強さではなく、自分の痛みを感じないようにする自己破壊へ近い。

祈る姿や独善という性質から、生前の信仰や願いを考察する余地はある。しかしTV本編は元の魔法少女を示さない。象徴の読み取りを人物史として確定しないことが、魔女記事全体に必要な線引きである。
オクタヴィア:さやかから生まれた人魚の魔女
オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフは、美樹さやかのソウルジェムから生まれた人魚の魔女で、性質は恋慕。演奏会場のような結界に住み、甲冑と魚の下半身を持つ。車輪を大量に投げる攻撃と、指揮者のような動きが特徴である。
結界では恭介を思わせる演奏が続き、使い魔ホルガーは楽団員として音楽を奏でる。さやかが恭介の腕を治した願い、音楽を通じて抱いた恋心、自分を人間ではないと感じた絶望が、別々の意匠として空間へ残る。

第9話で杏子は、まどかの声ならさやかを戻せる可能性へ賭けるが、オクタヴィアは反応を示さない。杏子は最後に自爆し、ともに消える。『叛逆の物語』では円環の理に導かれたさやかがオクタヴィアの姿を自分の力として使い、魔女化した過去を救援へ転換する。
ワルプルギスの夜:舞台装置の魔女
ワルプルギスの夜は単独の魔法少女では対抗できない規模を持つ舞台装置の魔女で、性質は無力。巨大な歯車と人形を上下逆に組み合わせた姿で空を進み、出現するだけで街を災害へ巻き込む。一般社会には超大型の嵐として認識される。
ほむらは複数の時間軸で討伐に失敗し、現在の時間軸では大量の火器と爆発物を準備して単独で挑む。それでも倒せず、まどかの契約を避けながら勝つという目的が行き詰まる。魔女そのものの強さが、ほむらに時間遡行を続けさせる壁になる。

複数の人影や舞台の意匠から、集合体であるという考察も行われる。ただしTVシリーズ内で元の少女が特定されることはない。名称の「夜」は魔女名そのものではなく、通称として扱われる点にも注意したい。
クリームヒルト・グレートヒェン:まどかの魔女形態
クリームヒルト・グレートヒェンは鹿目まどかから生まれる救済の魔女で、性質は慈悲。すべての生命を自分の結界へ取り込み、争いや苦痛のない状態へしようとする。その救済は個々の意思を残さないため、地上文明を終わらせる結果になる。
ほむらが時間を繰り返すほどまどかへ因果が集まり、魔女としての規模も増す。ある時間軸ではワルプルギスの夜を一撃で倒した直後に魔女化し、キュゥべえは短期間で地球を滅ぼすと見積もる。
最終話のまどかは、すべての魔女を生まれる前に消す願いへ自分自身も含める。巨大な絶望が形になる前に、自らの手で受け止めることで矛盾を越える。救済を求める魔女と、他者の希望を守る円環の理は、同じ人物の慈悲が異なる方法を取った姿でもある。

ホムリリィと『叛逆の物語』の魔女
ホムリリィは暁美ほむらから生まれるくるみ割りの魔女で、性質は自己完結。インキュベーターの遮断空間に置かれたソウルジェム内で結界を作り、見滝原の住民と魔法少女たちを取り込む。ほむらは結界の謎を調べる側でありながら、同時に結界の主でもある。
真相へ到達したほむらは魔女として処刑される行進を始め、偽街の子供達や使い魔が葬列を作る。円環の理をインキュベーターに観測させないため、救済を拒んで結界内で消滅しようとする自己処罰が、魔女の性質と儀式へ表れている。
『叛逆の物語』には、魔女ではなくナイトメアも登場する。ナイトメアは結界内の偽りの日常で少女たちが倒す敵で、人の悪夢から生じ、戦闘後は浄化される。TV世界の魔女と同じ仕組みだと考えると、ほむらの結界が作った役割を見失う。

元の魔法少女が確定している魔女
主要映像作品で明確に対応するのは、美樹さやかとオクタヴィア、鹿目まどかとクリームヒルト・グレートヒェン、暁美ほむらとホムリリィ、百江なぎさとシャルロッテである。人物の姿、記憶、円環の理での役割まで作品内で接続される。
一方、ゲルトルート、H.N.エリー、エルザ・マリア、ギーゼラ、ワルプルギスの夜などは、人間時代の個人名がTV本編で提示されない。関連資料や派生作品に補足がある場合も、どの媒体の情報かを分ける必要がある。
魔女の図鑑は、断定の一覧ではなく確認範囲の一覧として使うとよい。名前と性質は公式設定、元の人物は作品内で接続された場合のみ確定、モチーフや願いの推定は考察として扱う。この三段階を守れば、造形を読む楽しさと事実確認を両立できる。
