『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』は、1997年3月15日に東映系で公開された旧劇場版1作目である。1996年3月に放送終了した TV シリーズの「もう一つの結末」を観たいという観客の声を受け、庵野秀明総監督と GAINAX が新作劇場版で本作の完結編を作ると発表したのが1996年4月。本来は新作劇場版1本で完結させる予定であったが、制作進行の都合で完結編の劇場版を二段階に分けることが決まり、その第一段階として制作・公開されたのが『シト新生』である。本編は、TV第壱話から第弐拾四話までを大胆に再編集した総集編『DEATH』と、後に同年7月19日公開の『THE END OF EVANGELION』へとつながる新作『Air』の前半部分『REBIRTH』の二部構成、計約99分。配給収入11億円・興行収入18.7億円、第2回アニメーション神戸 作品賞・劇場部門と第15回ゴールデングロス賞 優秀銀賞を受賞している。
DEATH & REBIRTH — 二部構成の意味
本作の最大の特徴は、ひとつの劇場用作品の中に性質の異なる二本の映像が並んで収まっている点にある。前半『DEATH』(約72分)は、TV第壱話「使徒、襲来」から第弐拾四話「最後のシ者」までを四人のチルドレン (シンジ、レイ、アスカ、カヲル) の視点で再構成した総集編で、TV 版にはなかった新規カット — とくにシンジ、レイ、アスカ、カヲルが弦楽四重奏を演奏するイメージ映像 — を要所に挟む形でまとめられている。単なる総集編ではなく、TV版を一度別の文脈で観直させる「再構築版」として機能している。
後半『REBIRTH』(約28分)は完全な新作で、本来の最終話に相当する劇場版『Air』の前半部をそのまま映像化したものだ。NERV 本部に対する戦略自衛隊の襲撃と、ジオフロントに侵攻する戦自隊員に追われるシンジの姿、そして再起動した弐号機がアスカと共に第8の使徒〜量産機部隊と対峙し始めるまでが描かれる。映像は途中で「TO BE CONTINUED.」のテロップとともに中断され、観客は同年7月公開の『THE END OF EVANGELION』を待つことになる。
TV版終盤2話との関係
『シト新生』のリリースは、TV版第25話「終わる世界」・第26話「世界の中心でアイを叫んだけもの」が、抽象的・内省的な結末で放送当時から大きな賛否を呼んでいたことが直接の制作動機になっている。1996年4月の段階で GAINAX は「最終2話は当初の脚本に沿った形でリメイクし、劇場版で改めて発表する」と公式に発表しており、これに沿う形でまず『シト新生』(REBIRTHは新作Air前半に相当) が、次いで『THE END OF EVANGELION』(Air後半+まごころを、君に) が制作・公開された。つまり旧劇場版2作は、TV最終2話を完全に「外側の世界」から描き直すための連作であり、『シト新生』はその前半 — 物語が補完計画の発動直前まで進む地点 — を担当している。
制作背景 — 二段公開という選択
本来、庵野秀明と GAINAX は完結編を一本の劇場版で済ませる計画だった。しかしオリジナル TV シリーズ後の精神的・物理的疲労、新作 Air / まごころを、君に の作画ボリューム、そして「TV版の補完としてまず観客に提示するための材料」が必要だという判断から、1996年内の時点で完結編を二本に分割する決定がなされる。1作目『シト新生』では本格的な新作分量を REBIRTH の約28分に絞り、その代わり総集編 DEATH で TV版全体を再提示することで、続編 EoE を観る前にもう一度シリーズ全体を頭に入れてもらう構成が選ばれた。DEATH 編は摩砂雪が、REBIRTH 編は鶴巻和哉がそれぞれ監督を担当し、両者は後に新劇場版4部作でも庵野総監督を支える中核スタッフとなっていく。
また、本作の制作を進める過程で当初構想されていた「TV版完結編の完全新作劇場版」自体は最終的に制作されなかった。庵野秀明は2014年のインタビューでこの幻の企画について触れ、内容が「進撃の巨人とそっくり」だったと述懐している。すなわち『シト新生』とその続編 EoE は、当初の単発完結編の代替として、TV版の物語を「内側」(第25・26話) から描いた既存版と対をなす「外側からの結末」として再設計されたものになる。
新作カット制作秘話 — 16mmで撮影し35mmへブローアップ
『DEATH』に挿入された新作シーンの撮影には、TV版との映像的な違和感を意識した特殊な手順が採られている。劇場用作品では通常、撮影フォーマットに35mmフィルムを用いるが、本作の新作カットはあえて TV版と同じ16mmフィルムで撮影を行い、それを35mmにブローアップ(光学拡大)して劇場プリントに焼き付けるという工程が選ばれた。これにより、新作シーンと TV版から流用された映像とが画質・粒子・色味の点で連続して見えるよう調整されている。この「TV版と同じ手触り」を維持しつつ劇場で観られる作品に仕上げるための判断は、本作が単なる総集編ではなく TV版の連続体として観客に届けることを優先した制作姿勢の象徴である。
新作カットそのものの総量は約27分と公表されており、これは『REBIRTH』の約28分とほぼ同等の規模に達する。つまり本作は「総集編+新作Air前半」と単純化されがちだが、実質的には DEATH 編にも一本分の中編に匹敵する新規アニメーションが含まれており、TV版の単なる再上映ではない再構築版として機能している。
弦楽四重奏イメージシーン — 第2新東京市の中学校体育館
『DEATH』編で最も語られるのが、第2新東京市の中学校体育館にシンジ・レイ・アスカ・カヲルの四人のチルドレンが集まり、弦楽四重奏 (string quartet) の練習を進めていくフレーミング映像である。シンジがチェロ、カヲルがヴィオラ、レイがヴァイオリン、アスカもヴァイオリンを担当し、楽器の準備・チューニング・合奏のいくつかの段階の合間に、TV第壱話から第弐拾四話までの断片が挟まれていく。この弦楽四重奏という設定は、本来「他者と直接交わることのない四人」が一つの音楽を成り立たせるために集まる、というモチーフを通じて、彼らが TV版で辿った関係性そのものを抽象的に再演する装置として機能する。曲目はバッハ「主よ、人の望みの喜びよ」「G線上のアリア」「カノンとジーグ ニ長調」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」など、TV版の劇伴で繰り返し引用されてきたバロック・古典派の小品が中心。
DEATH のバリエーション — 劇場版・DEATH(TRUE)・DEATH(TRUE)² の系譜
『DEATH』編は劇場公開後、TV版・劇場版双方の文脈で再編集を繰り返してきた。それぞれの位置づけは以下のとおりである。
- 『DEATH』(1997-03-15 劇場版) — 『シト新生』本編に収録されたオリジナル版。本ページが主として扱うバージョンで、新作カットと TV版総集編で約72分を構成。
- 『DEATH(TRUE)』 — 1997年中に WOWOW で放送された再編集版。新作カットの追加と編集の手直しが行われ、劇場版『DEATH』との差分が生じた。
- 『DEATH(TRUE)²』(1998-03-07 劇場再公開) — 1998年3月7日に『REVIVAL OF EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)²/Air/まごころを、君に』として劇場再公開された「完全版」。同年公開された旧劇場版2作を一本にまとめた約160分の再構成で、DVD・Blu-ray・各社配信版に収録される『DEATH』編は基本的にこの DEATH(TRUE)² ベースとなる。
- DEATH(TRUE)² 地上波・BS 放送版 — 2014年8月18日深夜に日本テレビ系で地上波初放送(『DEATH(TRUE)2』)、2017年3月24日に NHK BSプレミアム版が放送されるなど、テレビでの全国放送形態でも展開してきた。
つまり現在のストリーミングサービスや円盤で観られる『DEATH』編は、1997年3月15日の劇場公開版そのものではなく、その後の再編集版 (主に DEATH(TRUE)²) であることが多い。1997年劇場公開版『DEATH』をそのまま観られる流通形態は、現時点では実質的に存在しないという点に注意が必要である。
前売券販売の日本記録更新
『シト新生』は公開前から異例の盛り上がりを見せ、1997年公開時点の前売券販売枚数は20万枚を超え、当時の邦画における劇場アニメ前売券販売の日本記録を更新したとされる (出典: ja.wikipedia 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生)。1995年10月のTV放送開始から1996年3月の放送終了直後の社会現象的人気を、そのまま劇場版の前売券販売へと転化させた結果であり、本作が公開初週から強い動員力を持ち得た背景にもこの前売券の存在がある。配給収入11億円・興行収入18.7億円という最終成績も、この時点で半ば事前に予測可能な数字であった。
評価と受賞
1997年公開時、本作は配給収入11億円・興行収入18.7億円を記録し、当時の邦画アニメーションとして十分なヒットを記録した。受賞歴としては、第2回アニメーション神戸の作品賞・劇場部門と、第15回ゴールデングロス賞 優秀銀賞が確認できる。批評面では、総集編 DEATH を取り入れた構成自体が「劇場版にふさわしいか」という議論を呼んだ一方で、新作 REBIRTH の冒頭から続自侵攻シーンに突入する重苦しい筆致は、すでに観客の中で『THE END OF EVANGELION』への期待を最大化する役割を果たした。2025年には、TOHO シネマズ系の一部劇場でリバイバル上映が行われ、28年ぶりに同年週末興行ランキングのトップ10入りを果たすという稀な再評価現象も起こっている (出典: エヴァンゲリオン公式 eva-info.jp)。
テーマ考察 — 『DEATH(死)』と『REBIRTH(再生)』というタイトル
本作のタイトル『DEATH & REBIRTH』は、シリーズ全体のテーマとも直接呼応する二語の対で構成されている。『DEATH』では、TV第壱話から第弐拾四話までで描かれてきた登場人物たちの「これまでの自己」が、四人のチルドレンの弦楽四重奏という静かな再演を通じてもう一度反芻され、TV第弐拾四話「最後のシ者」で渚カヲルが「死=シ」として象徴的に提示された地点までを総括する。これは TV版終盤2話と裏返しの構造であり、内面世界の描写ではなく「これまで実際に画面に映ってきたもの」を観客の側で死に向かう物語として再咀嚼するための時間である。
続く『REBIRTH』は、その「死」のあとに来る「再生(の予感)」を、しかし完結させずに途中で断ち切るかたちで提示する。NERV 本部への戦自侵攻、量産機部隊と弐号機の交戦、リリスと初号機を巡る SEELE の動きという「外側の世界」が初めて映像化され、補完計画の発動直前で「TO BE CONTINUED.」と中断される。タイトルの『REBIRTH』は本来 EoE における人類補完計画の発動そのもの — 生命が一度 LCL に還り、そこから個として再生する/しないという選択 — を予告する語であり、本作自体は「再生に至る前の入口」を提示するに留まる構造になっている。タイトルが二語に分かれていること自体が、本作と EoE の二段公開構造のメタファーである。
主要登場人物
劇場版である本作も、声の出演はテレビシリーズと変わらない布陣。碇シンジ (CV: 緒方恵美) を中心に、綾波レイ (CV: 林原めぐみ)、惣流・アスカ・ラングレー (CV: 宮村優子)、渚カヲル (CV: 石田彰) の四人のチルドレンが DEATH のイメージ映像である弦楽四重奏のシーンで象徴的に配置される。NERV 側は 葛城ミサト (CV: 三石琴乃)、赤木リツコ (CV: 山口由里子)、碇ゲンドウ (CV: 立木文彦)、冬月コウゾウ (CV: 清川元夢)、加持リョウジ (CV: 山寺宏一) と TV版から引き続き登場する。それぞれの人物像は エヴァンゲリオン登場人物 から順次掘り下げていく。
配信状況 (2026年5月時点)
2026年5月時点で確認できる主な配信状況は以下の通り (配信権は随時変動するため、視聴前に公式情報の再確認を推奨)。なお現行配信版で扱われる『DEATH』編は、多くの場合1998年の再編集版『DEATH(true)²』ベースである点に注意。
- Netflix — 旧劇場版 (DEATH(true)² / Air・まごころを、君に) を TVシリーズ全26話と併せて見放題で配信。2019年の世界配信開始以降の継続配信。
- U-NEXT / Hulu / バンダイチャンネル / DMM TV / dアニメストア — 旧劇場版・TVシリーズ・新劇場版を見放題または都度課金で配信。
- Amazon Prime Video — 主に新劇場版4部作を見放題で配信。旧劇場版は単体購入(レンタル/購入)中心。
2025年リバイバル上映 — 28年ぶりの異例の興行ランクイン
『シト新生』は2025年10月10日(金)から10月16日(木)までの期間、全国90館規模でリバイバル上映が実施された (出典: エヴァンゲリオン公式 eva-info.jp/25310)。上映冒頭には REBIRTH 監督の鶴巻和哉による特別コメント映像が付け加えられ、エヴァンゲリオン公式の「30th MOVIE Fest. 2025-2026」企画の一環として位置づけられた。上映初日からの4日間 (10月10〜13日) で約1億1,883万円の興行収入を記録し、同年同週の週末興行ランキングで第10位にランクイン。1997年公開作品が28年の時を経て、その公開週末の興行ランキング・トップ10入りを果たすという、邦画アニメーション史上でもきわめて稀な再評価現象として大きな話題となった。これを受けて一部劇場では上映期間の延長が決定するなど、シリーズ完結後 (シン・エヴァ 2021) もエヴァンゲリオンというコンテンツの劇場集客力が継続していることを示す象徴的な動員結果になっている。
トリビア・小ネタ
- 幻の「完全新作完結編」 — 1996年4月の制作発表時点では完結編は完全新作劇場版1本の予定だった。庵野秀明は2014年のインタビューで、その幻の企画内容を「進撃の巨人とそっくり」と評している。
- 新作カットの総量 — 『DEATH』編の新作シーン部分は約27分。約72分の DEATH 全体のうち実に4割弱が新規制作で、TV版を観終わった観客にとっても新しい映像体験になるよう設計されている。
- 撮影フォーマットの工夫 — DEATH 編の新作カットは TV版との連続性を担保するため、TV版と同じ16mmフィルムで撮影してから35mmにブローアップする工程を選択している。劇場用作品としてはやや異例。
- 弦楽四重奏の楽器配置 — 弦楽四重奏イメージ・シーンでシンジが担当するのはチェロ、レイがヴァイオリン、アスカもヴァイオリン、カヲルがヴィオラ。楽器ごとの音域差が四人の関係性の比喩としても機能している。
- 前売券の日本記録 — 公開前の前売券販売は20万枚を超え、当時の邦画における劇場アニメ前売券販売の日本記録を更新したとされる。
- 『REVIVAL OF EVANGELION』 — 1998年3月7日に再公開された『DEATH(TRUE)²/Air/まごころを、君に』は「REVIVAL OF EVANGELION」というタイトルで一本にまとめられ、上映時間は約160分。現行配信版の旧劇場版2作はこの構成に近い形が一般的。
関連作品 — 前後への接続
『シト新生』の前段はTV シリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-96)であり、TV最終2話で示された結末とは別ルートでの完結を本作と『THE END OF EVANGELION』が担当する。本作 REBIRTH の続きが 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に (THE END OF EVANGELION)』(1997-07-19) であり、Air 後半とまごころを、君に がそこに収められる。旧劇場版2作の流れを観終わったあとで、より新しいルートとして 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 (2007) から始まる新劇場版4部作に進むのが、エヴァンゲリオン・シリーズの代表的な観方となる。観る順番の整理は エヴァンゲリオン観る順番ハブ を参照。
本ページの主な参考資料
本ページに記載した事実は、以下の一次情報および信頼性の高い二次情報を WebSearch / WebFetch で参照して記述している。記述の現状は2026年5月時点。
追加参照: ja.wikipedia「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」/ eiga.com 映画情報「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」/ eiga.com「REVIVAL OF EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に」/ eva-info.jp/25310 公式ニュース「1997年公開『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』リバイバル上映が、28年の時を経て異例の興行収入ランキング第10位!」/ 一般社団法人日本映画製作者連盟 (eirin) 上映データベース。