『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は、2012年11月17日に47都道府県223館で公開された新劇場版4部作の第3作である。総監督・原作・脚本に庵野秀明、監督に摩砂雪・鶴巻和哉・前田真宏 (3人目の監督として前田真宏が新たに加わった)、キャラクターデザインに貞本義行、メカニックデザインに山下いくと、音楽に鷺巣詩郎 (ロンドンの Air Lyndhurst Hall および Abbey Road Studios で The London Studio Orchestra と共に録音)、主題歌に宇多田ヒカル「桜流し」(本作のために書き下ろされ2012年11月17日にデジタル配信先行)。配給は前2作のクロックワークスから T・ジョイ (東映系) とカラーの2社共同に切り替わり、興行体制も大きく変化した。物語舞台は『破』終盤のニア・サードインパクトから14年が経過した世界。冒頭、宇宙空間に放出されていた初号機が反ネルフ組織ヴィレ(WILLE)の航空戦艦 AAA ヴンダーによって回収され、コールドスリープから目覚めたシンジは「お前は何もするな」というミサトの言葉に直面する。本作はそのまま渚カヲルとともにエヴァ13号機に乗り込み、結果としてフォースインパクトを発動しかける95分(ver.3.0)/96分(ver.3.33)構成で、興行収入52.6億円・観客動員 382万6,472人を記録した。観客評価がシリーズで最も大きく割れた1作としても知られ、続編『シン・エヴァ』(2021) ですべての疑問が回収されるまでの9年間の議論の起点となった。

あらすじ — 14年後の世界とフォースインパクト

本編冒頭は宇宙空間。マリの8号機とアスカの改2号機 (ベータ仕様) が、月から襲来する第10の使徒を相手に戦いながら、宇宙空間に投げ出されていた初号機の柩 (リリン化された搭乗者ごと封印された装置) を回収する。初号機はヴィレ (WILLE) の航空戦艦 AAA ヴンダーに引き上げられ、コールドスリープから目覚めた碇シンジは、葛城ミサト指揮下のヴィレが反ネルフ組織として行動していること、そしてミサトから「お前は何もするな」「初号機には二度と乗るな」と告げられる。シンジの胸には、彼が再びインパクトを引き起こした場合にエヴァごと爆死させる安全装置「DSS チョーカー」が掛けられる。シンジはやがてヴンダーから連れ出され、ネルフ本部跡 (大半が崩壊した第3新東京市) で渚カヲルと再会、ピアノの連弾を経てエヴァ13号機 (双子の機体・搭乗者2人体制) の同期テストへと向かう。一方ヴィレは、ネルフを撃滅すべくヴンダーで本部攻撃を仕掛けるが、Mark.09 (レイ Q号) によってヴンダー回収を妨害される。物語クライマックスでは、エヴァ13号機がセントラルドグマに突入、リリス遺体に突き刺さるロンギヌスの槍とカシウスの槍を、カヲルとシンジが「ヤマト作戦・サクリファイス」として抜いてしまう。この行為が引き金となってリリスの体が崩れ、Mark.06 の体内に封印されていた第12の使徒が復活、それを取り込んだ13号機が覚醒してフォースインパクトが始動。カヲルは自身が「第1の使徒」だったこと、そして第12に浸食されたことで「第13の使徒」になったことを告げ、DSS チョーカーを作動させて自害する。最終的にマリの8号機が13号機からエントリープラグごとシンジを射出し、ガフの扉が辛うじて閉じてフォースインパクトは中断。地表に降ろされたシンジ・アスカ・レイ(Q) が地平線へ歩き出す場面で本編は閉じる。

14年経過の世界 — ヴィレ・ヴンダー・第3村

本作最大の構造的特徴は、前作『破』の直後 (時間的にはほぼ連続) ではなく「14年経過した別世界」が冒頭から提示される点にある。シンジが原因者として封印されている間に、地表は赤化し海はオレンジに変質、ニア・サードインパクトの被害から人類は細々と生き延びている (この生存域の一部が次作『シン・エヴァ』の第3村として描かれる)。ネルフは事実上ゲンドウ・冬月・カヲルの少人数組織に縮小し、リリスを抱えた本部のみが残る。一方、葛城ミサトを中心とする旧ネルフ職員と民間人は、ネルフを敵とする独立組織ヴィレ (Wille = 独語「意志」) を結成、海中・地中・空中を自在に航行する全長390メートルの航空戦艦 AAA ヴンダー (ドイツ語で「奇跡」)を旗艦とする。ヴンダーは回収された初号機を主機 (動力源/支配源) とした、いわばエヴァを動力炉化した移動要塞であり、本作と『シン・エヴァ』の戦闘シーンの中核を担う。第3新東京市は半壊状態でしか描かれず、第3の使徒以前の世界は完全に過去のものとして処理されている。シンジに対する周囲の冷淡さは、本作公開当時の観客の困惑の主因となったが、14年間にわたって彼が事実上「世界を壊した張本人」として封印されてきたという物語前提を踏まえると整合的な振る舞いになっている。

エヴァ13号機・Mark.09・Mark.06 — 槍を抜く選択

本作の核は、エヴァ13号機 (双子型・搭乗者2名体制) によるロンギヌスの槍とカシウスの槍の引き抜きである。リリスの遺体に突き刺さっていた2本の槍は、本来「サードインパクトを起こさない」ための封印として機能していたが、シンジとカヲルが2人で同時にこれを抜くと、ゲンドウ・冬月の真の目的であった「アディショナルインパクトを発動させるための鍵」になる。槍を抜いた結果、Mark.06 の体内に封印されていた第12の使徒が解放されて13号機内のカヲルに浸食し、カヲルは「第1の使徒」から「第13の使徒」へと変質、契約により殲滅対象となる。これを受けて DSS チョーカーが起動し、カヲルは自身の意思とは別に絶命する。Mark.09 (レイ Q号) は、ヴィレのヴンダー強奪を阻止するためにゲンドウ側から送り出された存在で、外見はレイ型だがコアにはアダムスの器・ナガラの魂が埋め込まれている。Mark.06 はカヲル専用機で、月から襲来した本機がカシウスの槍で『破』終盤の初号機を強制停止させ、ニア・サードインパクトを中断させた経緯がここで再確認される。本作で 3 機 (13号機・Mark.09・Mark.06) はいずれも従来のエヴァ「3+α号機」の系譜ではなく、シリーズ独自概念に深く食い込む特殊機体として提示される。

制作背景 — 9年に渡る完結への助走

『Q』は『破』(2009年6月) から3年5か月を経た2012年11月17日に公開された。制作元は引き続き株式会社カラーで、フルデジタル工程・社外スタッフを含む大規模布陣を維持。本作からは『破』までの摩砂雪・鶴巻和哉に加え、前田真宏が3人目の監督として参加し、特殊空間描写・ヴンダー艦内・セントラルドグマ等のシーンを担当。配給は前2作のクロックワークスから T・ジョイ (東映系) とカラーの2社共同に切り替わり、東映系の劇場流通網に乗ることで上映規模が拡大した (47都道府県223館)。一方、本作の劇場初公開版 (ver.3.0) は完全完成版ではなく、BD・DVD 発売 (2013年4月24日) に合わせて作画・台詞・CG を修正した ver.3.33 が改めて完成版とされた。さらに『シン・エヴァ』公開直前の2021年1月9日〜22日には、IMAX/MX4D/4DX 向けにシーンを2K で再撮影し直した ver.3.333 が短期上映され、現在配信されているのは ver.3.33 が中心になっている。観客評価の二極化により、後の『シン・エヴァ』 (2021) は本作の事後評価をも変えうるものとして長く待たれることになった。

主題歌・音楽 — 宇多田ヒカル「桜流し」

主題歌は宇多田ヒカル「桜流し」。2012年11月17日の公開日と同時にデジタル配信先行リリースされ、2010年11月のコンピレーション・アルバム『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』以来約2年ぶりの新曲となった (宇多田はこの時点でなお「人間活動」中であり、本曲は特例での書き下ろし)。庵野秀明監督からの依頼内容は「映画の展開には沿わず、今宇多田さんが思うこと、感じていることを歌にしてほしい」というもので、宇多田は本作ストーリーをほぼ知らないまま「桜流し」を作詞作曲した。劇中音楽は引き続き鷺巣詩郎が担当し、ロンドンの Air Lyndhurst Hall および Abbey Road Studios で The London Studio Orchestra と共に大編成オーケストラ録音、米国 Hollywood の Patricia Sullivan Fourstar によるマスタリングという、ハリウッド大作映画と同等の音響制作体制で仕上げられている。Mark.09 戦のヴンダー楽曲「The Wrath of God in High Velocity」、エンディングに先立つ「The Anthem」など、本作で生まれた劇伴は『シン・エヴァ』にも引き継がれた。

興行成績と評価 — 興行52.6億・観客動員 382万

本作は2012年11月17日の公開後、最終的に国内興行収入52.6億円 (52億6,737万3,350円)・観客動員 382万6,472人を記録。前作『破』(40億円) を上回り、新劇場版シリーズの観客動員規模が引き続き拡大していることを示した。一方、観客評価の面では本作はシリーズで最も賛否が割れた1作として知られ、「14年経過設定への困惑」「シンジの境遇への厳しさ」「カヲルの扱い」「説明不足と感じられる新概念群」などが議論の的になった。Filmarks・映画.com・X (旧Twitter) 等でも新劇場版4作の中では相対的に低めの平均評価で推移している。ただし続編『シン・エヴァ』(2021) で物語・設定・キャラクターの行末が回収された後は、Q の出来事と省略の意味が遡及的に再評価される傾向にあり、シリーズ完結後に観返すと印象が変わる作品として位置づけられる。

主要登場人物 — ヴィレと縮小ネルフ

本作の登場人物は、ヴィレ陣営と縮小ネルフ陣営の2グループに分かれる。碇シンジ (CV: 緒方恵美) は14年の封印を経て覚醒、本作を通じて最も苛烈な疎外と挫折を経験する主人公として描かれる。渚カヲル (CV: 石田彰) はネルフ側に位置し、エヴァ13号機でシンジと2人組ペアを組むが、終盤に第13の使徒として殲滅対象とされ DSS チョーカーで自害する。真希波・マリ・イラストリアス (CV: 坂本真綾) と 式波・アスカ・ラングレー (CV: 宮村優子、本作で左目に眼帯を着用) はヴィレ側のエヴァパイロット (8号機 / 改2号機 ベータ)。葛城ミサト (CV: 三石琴乃) はヴィレ指揮官、赤木リツコ (CV: 山口由里子) はヴィレ副司令、青葉シゲル日向マコト伊吹マヤ北上ミドリ多田ケンスケらもヴィレ艦橋メンバーとして登場する。一方ネルフ側は 碇ゲンドウ (CV: 立木文彦) と 冬月コウゾウ (CV: 清川元夢) が主に登場し、レイ Q号 (Mark.09 搭乗) は綾波レイの「型」ではあるが従来のレイとは別存在として描かれる (CV: 林原めぐみ)。各キャラクターの詳細は エヴァンゲリオン登場人物 から順次掘り下げていく。

配信状況 (2026年5月時点)

2026年5月時点で確認できる主な配信状況は以下の通り (配信権は随時変動するため、視聴前に公式情報の再確認を推奨)。配信されているのは基本的に ver.3.33 (96分版) であり、劇場公開版 ver.3.0 (95分) や ver.3.333 (IMAX, 2021) は2026年5月時点では一般配信されていない。

  • Amazon Prime Video — 新劇場版4部作 (『序』『破』『Q』『シン・エヴァ』) を見放題で提供。Prime 会員は追加料金なしで4作通し視聴が可能。
  • U-NEXT — 単体作品としての都度課金 (税込509円前後) で配信。31日間無料トライアル中のポイント利用も可能。
  • dアニメストア / Hulu / FOD / DMM TV / バンダイチャンネル / Lemino / TELASA — 見放題または都度課金で配信。
  • Netflix — 新劇場版4部作の見放題提供は確認できず (2026年5月時点)。TVシリーズと旧劇場版のみ配信中。

関連作品 — 序 → 破 → Q → シン・エヴァ

本作は 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009) の直接の続編であり、ニア・サードインパクトから14年経過した世界を描く。本作で発動しかけたフォースインパクトの強制中断と、地表に降ろされたシンジ・アスカ・レイ(Q) が次作の「第3村」へとつながる構造は、完結編 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021) でようやく総括される。新劇場版4部作は 『序』(2007) → 『破』(2009) → 『Q』(2012) → 『シン・エヴァ』(2021) の順に観るのが基本。TVシリーズ (1995-96) および 『シト新生』(1997)『THE END OF EVANGELION』(1997) の旧シリーズは別世界線として並走する。観る順番の整理は エヴァンゲリオン観る順番ハブ を参照。

本ページの主な参考資料

本ページに記載した事実は、以下の一次情報および信頼性の高い二次情報を WebSearch / WebFetch で参照して記述している。記述の現状は2026年5月時点。

追加参照: ja.wikipedia「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」/ ja.wikipedia「桜流し」/ 『Q』公式 evangelion.jp/3_0/ / eiga.com 映画情報「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」/ Filmarks / Amazon Prime Video / U-NEXT / eva-fan.com 物語解説。